12月の中旬ごろには戻ってきます。
結局のところ、この少女は誰なのだろうか。
原作では確か一部の人しかこの部屋の存在を知らなかったはずだ。一応かなりの数のモブがこの部屋の存在を知ってて、必要の部屋の中には歴代の在校生があらゆる物を隠した部屋もある。誰がこの部屋のことを知っててもおかしくないが、誰かからこの部屋の存在を聞いたなら、他にもこの部屋の存在を知ってる人がいるということになる。そうなると俺のターディス作りに支障が生じてしまう。
「私はガブリエラ。あんたと同じ一年。よろしく」
そう言うとガブリエラはこちらに手を差し出した。
……なんの手だろう? 握手だろうか? でもそんな訳ないよな。俺死喰い人の息子だもんな。仲良くする理由ないもんな。
「握手だよ」
「……えっ?」
どうやら本気で握手らしい。しかし理由が全く思い浮かばない。
「オデ、死喰イ人ノ息子。ナゼ?」
「急にトロールみたいな喋り方するなよ。私はあんたのターディスに興味がある」
ターディスに? でもそれが何故握手に繋がるんだろうか。
「で、なんの握手?」
結局答えを導き出せなかったので本人に直接訊くことにした。ガブリエラは気まずそうに目を逸らし、しばらく頭を掻いてから答えた。
「あー……。私は、あんたに協力したい」
「なんだって?」
思わず聞き返してしまった。協力? なんのために?
「私はあんたのターディス作りに参加したいのさ! だってこんなに面白いもの、他にないじゃないか!」
「……完成まで何年かかるかわかんないけ――」
「そんなの関係ないさ! 何年かかったっていい! 頼む! 私をこれの製作に関わらせてくれ!」
ガブリエラはなんと頭を下げた。なんということだ、先程まで俺のことを死喰い人の息子だと散々警戒してたくせに、今はもう杖を下げて無防備な状態だ。大丈夫かこいつ? ちょろすぎない?
さて、冷静に考えてみよう。こいつをターディス作りに加えるメリットを。ぶっちゃけメリットしかない。魔法理論や魔法道具の作り方についてはガブリエラのほうが断然詳しい。なんならこいつがいないと完成しない、ってレベルで俺の魔法理論は滅茶苦茶のようだ。デメリットがあるとしてもこいつが完成に必要だ。
「わかった。君の要求を受け入れ――」
「よし! 早速始めよう!」
俺が全て言い終える前に、ガブリエラは杖を取り出して部屋の真ん中の方に向かっていった。
「フラグラーテ!」
そう呪文を唱えると、ガブリエラの杖先から炎の線が噴射し、空中をなぞったところに3Dペンを使ったように燃える線が描かれた。ガブリエラは空中に何やらはこのようなもの――ターディスだ――を描いている。
「あんたの使ってる理論だと外殻のこの辺に飛行用の装置やらなにやらを乗せることになるわけだ。でもハートネルの提唱したこの理論を使えば――」
「なるほど、全体の重量が30kgも減る!」
「その通り。飛行装置も最新のものを使うともっと軽くて早くなるぞ」
「そんなのあるのか?」
ガブリエラの指南で、その後も設計案の改良は続いた。俺は家にあった魔法理論の本を使って設計図を描いたが、どうやらその本は殆どがだいぶ前に発行されたもので、古いデータが多く現代の技術に大きく遅れを取っていたらしい。うちは古くからある家系だから、書庫にある本はどうしても昔のものが多い。今度書店に行って最新のものを買ってこよう。
作業は続き、気がつくと夕飯の直前になっていた。そろそろ大広間に向かわないとマズイ。
「一旦ここら辺で終わろう。続きはまた今度だ」
「いつにする?」
「わからん。毎週水曜、放課後でどう――」
「おーけーわかった。じゃ、また来週」
次回の会合の日取りを決めると、ガブリエラは杖を持ってさっさと部屋を出ていってしまった。俺も夕飯に遅れたくはないので、荷物を持って出るとしよう。
こうして、俺とガブリエラの秘密の工作クラブが結成された。
* * * * * * *
しかしまだ謎は残る。
彼女はどうやって必要の部屋の存在を知ったのか、そして何故彼女は俺の両親が死喰い人であることを知っていたのだろうか。
俺の両親の正体は、魔法省の中でもクラウチ・シニアのような法執行部の人間しか知らないはずだ。一般的に俺の両親は聖28族の当主夫妻として知られていて、純血主義を掲げているが、闇の魔法使いだという認識はない。
つまり彼女には魔法省法執行部の人間との関わりがあるのだ。それも、内部の機密情報を流すくらいの親密な仲だ。もしかしたら親族の誰かが法執行部に在籍しているのかもしれない。ファミリーネームを聞いてなかったから、それが最もあり得る話だ。
だが、何故彼女は必要の部屋に向かったのだろうか。そして、何故扉は開いたのだろうか。必要の部屋の仕組みでは、部屋に先客がいる場合、別の人物が入室するためには先客と全く同じか、用途が重なる条件で部屋への入室を望まないと扉は現れない。つまりガブリエラも俺と同じく広い部屋、または作業部屋を求めていたわけだ。だが何故? 彼女は元々あの部屋で何をするつもりだったのだろうか?
謎は深まるばかりだ。
……いいね、なんだかミステリーっぽくなってきた。
ハートネル
元ネタはドクター・フー初代主人公を演じたウィリアム・ハートネル。特に意味はない。