「全くギーシュったら。……そりゃあ、まあ、亡命してきて不安がっている子に優しくするのは当然だと思うけれど。だからって……」
とてもではないが、普段愛しているなどということを嫌というほど受け取っている私は、はいそうですかなどと言えるはずがない。
亡命者の中には同年代の子達も沢山いる。しかも、アルビオンでは戦争があった。自然、女の子が多くなるというものだ。
だから――だからというのがまたムカつくんだけれど、ギーシュは亡命してきた女の子達の世話をかいがいしく焼いている。「あの子達を安心させることができるのは僕しかいない」なんてことを言って、私よりも優先して。
納得、できないでもない。普段から女の子には優しくというのが絶対の信条になっているギーシュが、不安がっている女の子を放っておけるはずがない。それに、それは貴族としても当然のことだと思う。
当然だとは思う――でも、それとこれとは別でムカつく。理由はどうあれ、私よりも他の女の子を優先しているのだから。それに、状況が状況だからだろう。ギーシュが何時も以上にもてている。それが何より許せない。私のことを一番だといつも言っておきながら、ギーシュ自身まんざらでもない様子なのだから。
いや、今は「あの子達は僕を必要としているんだ」なんて言って、はっきりと私よりも優先している。なまじ貴族の務めという大義名分があるだけに、余計に性質が悪い。
――ああ、もう。考えているだけでもムカついてきた。早く、作らないと。材料は後一つだけなんだから、すぐにでも。あの子達には悪いけれど、放っておいても後で悲しむことになっちゃうしね。
俯いていた顔を上げ、しっかりと前を向く。そして、今までそんなことをしたことはほとんどなかったのに、店へと続く路地でつい小走りになってしまう。のんびりとしていることは誰にとってもいい結果にはならない。
「――あの子は……確か」
「――例のものを」
少しだけ周りを伺って、店主に声を潜めて尋ねる。怪しげなものが立ち並ぶ路地の中、一際怪しいものが集まった店だ。メイジである自分でも分からないものもそこかしこにある。店に負けず劣らず怪しい格好をした店主が、心得たとばかりに店の奥にへと入っていく。
この店は私の行きつけだ。はじめてきたときは薄気味悪いと思わなくもなかったが、今では毎週のように通っている。小遣い稼ぎに作っている香水の材料の一部もここで調達しているし、趣味で作っているポーションの材料もまたそうだ。確かに一つ一つの材料は安くても、私は結構な数を購入している。だから、私も立派なお得意さまだ。
――そういうわけで、多少の無茶も聞いてくれる。たとえば、ご禁制の素材を融通してくれたり。今回作るポーションにも、それが欠かせない。
「……これでギーシュも他の女の子に目が行かないはずよね。まあ、女の子に優しくするのはいいけれど、一番は私なんだから」
つい貴族らしさとは程遠いけれど、握りこぶしを作って力説してしまう。だが、これはあの子達のためでもある。何も優しくしてはいけないというわけではない。それに関しては今まで通りで構わないのだから。ただ、私が一番だということをはっきりさせるためだ。その方があの子達も後で悲しまなくてすむ。
「……うん。確かに好きな人が他の女の子に目移りしていたら、嫌よね」
「……ええ。惚れ薬なんて使うのは気が引けるんだけれど、ギーシュの性格じゃ惚れ薬でも使わないと泣かされる子が増えるばっかりだもの。だから、それを食い止めるためにも仕方がないのよ。ご禁制の薬だけれど、そういうことなら始祖ブリミル様もきっとお許しになるわ」
そう、言わば必要悪。それに、もともと私が一番だというのなら何の問題もないはず。
「なるほどねぇ。……優柔不断な性格だと、そういうものも必要になってくるのかしらね」
「……ええ。女の子に優しくするというのはいいことよ。でも、それに優柔不断が加わったら性質が悪くてしょうがないわ。だから、これは必要なことなの。私が恋人だってことが周りにはっきりと分かるようになれば、泣かされる子も減るんだから」
「……そうね、確かにあなたの言うことにも一理あるわ」
「……例のもの、だけれど……」
奥から戻ってきた店主がこちらを、訝しげに見ている。気にならなくもないけれど、今は店主の手にあるものの方が重要だ。普通の小瓶を更に一回りも小さくしたものの中に、それでも大きすぎるとばかりにほんの少しだけ入った液体。ほんのわずかな量ながら効果は絶大で、値段もそれにふさわしいものだ。
「……代金はここに」
ジャリ、とカウンターの上に金貨がぎっしりと入った袋を置く。途端に普段はあまり愛想の良くない店主も、口元が緩む。これだけあれば、平民ならば家族でしばらくは遊んで暮らせるだろう。これも地道に香水を売ってためてきた成果だ。ちょっと惜しい気がしなくもないけれど、これもまた必要経費。これで皆が幸せになると思えば安いものだ。
「……ああ、じゃあ、これを……」
店主から例のものを受け取る。小さな瓶を壊してしまわないように、両手で包むように。とても貴重で、自分にとってとても重要なものだから。
「……ふふ。これで材料は全部揃ったわ。早く調合してギーシュに飲ませないと」
手の中のそれを見て、つい笑みがこぼれる。今回調合する惚れ薬はそれなりに難度が高い。粗悪品ならば平民でも作れそうなものだが、今回作るものはそれとは格が違う。効果も持続時間も段違い。調合が趣味の私としては、そういう意味でも楽しみである。学院に戻るのが待ち遠しい。店に背を向け早速歩き出す。ああ、本当に待ち遠しい。
「……作ろうとしているのは惚れ薬よね。それで、調合に必要なものは全部揃ったの?」
「ええ、後は調合するだけ」
さっき手に入れたものは別として、他の材料はそれほど珍しいものではない。すでに揃っていたものがほとんどだ。
「……ええと、モンモラシーだったかしら? あなたの気持ちは分かるんだけれど、立場上、止めないわけにはいかないのよねぇ」
「……え?」
ピタリ、と急いでいた足を止める。そういえば、さっきから話しかけてくるこの人は――誰なんだろう? いや、もう声で大体分かっているんだけれど……振り返りたくないなぁ。つい立ち止まっちゃったけれど、もう逃げちゃおうかな……。
「――とりあえず、これは預かっておくわね」
ひょい、と手に持っていた瓶を取り上げられ、逃げる間もなく回り込まれる。見上げればやっぱり、エレオノール先生だ。この人だと、言い訳はできそうにないなぁ。
「……はい」
すごく、高かったのに……。
「私はちょっと用事があるからすぐにというわけにはいかないけれど、後で私の部屋に来なさいね。分かった?」
言葉はともかく、エレオノール先生のこれは命令だ。それを無視するなんていう勇気は――私にはない。
「……うう……はい……」
よりにもよって、この人なんて……。他の先生ならもう少し誤魔化しが効いたかもしれないのに。すたすたと先を歩いていくエレオノール先生を、つい恨めしげに見送る。
……うう、帰りたくない。どんな罰を受けるんだろう。ご禁制の材料を使って惚れ薬を作ろうとしていたのだ。きっと、軽くはない。
「……うう……」
ノックしようとして持ち上げた手を、ゆっくりと下ろす。できる限り引き伸ばそうと思ってゆっくり、ゆっくりと帰ってきたんだけれど、いくらなんでもそう引き伸ばせるものではない。ノックをする勇気こそなかなか出ないのだが、もう部屋の前まで来てしまった。これ以上は引き伸ばすのも難しい。それに、遅くなったことで機嫌を損ねるわけにもいかない。
ゆっくりと、ノックをする。もし留守ならばとも思ったのだが
「――どうぞ」
やはり人生そう甘くはないらしい。すぐに返事があり、入るようにと促される。
「……失礼します」
ゆっくりとドアを押し開く。手入れが行き届いているおかげか、力をいれずとも開くドアが今は恨めしい。
「案外早かったのね。もしかしたら来ないかとも思っていたんだけれど」
キィと椅子を回転させ、エレオノール先生が振り返る。話に聞いていた通り、亡命者の受け入れに関して仕事がたまっているからだろう。部屋のそこかしこに書類が山積みになっている。先生が向かっていた机も、多少は片付いているが似たようなものだ。それだけ忙しいのに町で見つかったのは、本当に運が悪い……。
「――単刀直入に言うわね。あなたの作ろうとしていた薬だけれど、ご禁制なのはもちろん知っているわよね?」
確かめるように、ゆっくりと尋ねる。詰問といった様子はない。だが、ここにきてつい目に涙が浮かんでくる。
「……私……退学ですか?」
ご禁制――しかも惚れ薬だ。そんなものを作る、ましてや使おうとするなんて貴族として恥さらしもいいところだ。悪ければ退学、しかも、そんな理由で退学になんてなったら、家にも影響が及ぶかもしれない。只でさえ厳しい状況のモンモラシ家、どうなるか、分からない……。少なくとも、今より状況が悪くなるのは間違いない。
「――なんで?」
しかし、予想とは違って不思議そうな声が返ってくる。思わず見返してしまう。
「それはまあ、褒められたことじゃないけれど、まだ作っていないんでしょう?」
「それは、そうですけれど……」
もしかして、見逃してくれるんだろうか? そんなこと、絶対に許してくれそうもない人だと思っていたのに。
「まあ、以前にも作ったことがあるのかもしれないけれど、少なくとも今は作ってはいないのよね。だったら、退学になんてならないわよ。――それに、あなたの気持ちも分からなくもないって言ったでしょう? 本当なら叱るべき所なんでしょうけれど、そんな気にもならないしね」
「……じゃあ」
「ええ。今回は厳重注意という所かしら? 別に学院長に報告するつもりもないから心配しなくてもいいわよ」
「良かった。ありがとう、ございます」
さっきとは、違った意味で涙が出てくる。
「――それとね、これをあげるわ」
椅子から立ち上がり、目の前までコツコツと歩みを進める。そうして差し出された小瓶を受け取る。
「……これは?」
ポーションだということは何となく分かるけれど、さすがにどういったものかは分からない。
「町で没収したものはさすがに返すわけにはいかないから、その代わりっていうところかしね。持っていてもしょうがないし、材料にしちゃったの。それでだけれど、惚れ薬がご禁制になっている理由は分かるかしら?」
先ほどと同じく、ゆっくりと尋ねる。
「……ええと、人の心を歪ませるものだから、ですか?」
惚れ薬は、好きでもない人を好きにさせることを可能とするものだ。つまり、人の心を操る。それは、本来許されないことだ。
「――そう。人の心を歪ませるということは本来許されないことよ。だから、惚れ薬はご禁制になっているの」
「……はい」
それは、人として許されないことだ。
「――ふふ。そう硬くならなくてもいいわよ。別にお説教をしようというわけでもないんだから。軽く聞き流してくれてもいいわ。それでね、惚れ薬は心を歪ませるものだから許されないの。だったら、歪ませるものじゃなければ構わないはずよね?」
まるでいたずらを披露するように、楽しげに口にする。
「……確かに、そうなりますね」
「その薬はね、精神に干渉するという意味では惚れ薬に似ているといえば似ているんだけれど、ちょっと特殊なの。それはね、本当に心を許した相手――好きな人に対してしか効果がないの。で、その効果なんだけれど、その人に正直になるって言えばいいのかしら? たとえば、その人に嘘をつけなくなったりね。ほら、そういうことだったら歪めるということにはならないでしょう? 何せ、もともとあったものと方向性を変えたりするものじゃないんだから。それに、その方が惚れ薬よりもあなたの目的にはぴったりなはずよね」
ギーシュが私のことを本当に好きなら、すべて解決する。ギーシュが飲めば本当に私が一番かどうかははっきりするし、変な隠し事もなくなる。
「……えーと、そう、ですね。でも、なんでそんなものを私に?」
理屈上では問題なくても、そう気軽に渡していいものでもないはずだ。ましてや、そもそもが叱るべきことなのだから、応援してくれるというのはどうにもおかしい。さすがに話がうますぎる。
「――あら、言ったはずよね。あなたの気持ちも分からなくもない、って。本当に、はっきりして欲しいって思うわよねぇ」
苦笑交じりにしみじみと、まるで自分のことのように呟く。私と、同じってことなのかな。でも、誰に。思い浮かぶのは
――あの人しかいないか。うん、確かにあの人には態度が違う。
へえ、そうなんだ。あの人のことを考えているんだろう、先生をまじまじと見詰める。分かってしまうと本当に分かりやすい。普段の先生とは違うだけに、ちょっとからかってみたくもある。
もちろんそんなことはしないけれど。私、まだ死にたくないから。
「――何か手伝えることはありますか?」
午後になってミス・ロングビルがたずねてきた。正直な所、一人では手が回らない部分がある。今日などは気晴らしを兼ねた買い物と、その後のちょっとしたプレゼントの為に時間を使ってしまった。決して無駄ではないが、その間は仕事は進まない。ルイズも手伝ってはくれるけれど、やはり勉強が優先ということで普段から期待するわけにもいかない。だから、申し出は願ってもないことだ。
「本業の方に支障が出ないのなら、ぜひお願いしたいです」
「そのことについてはご心配なく。学院長からもあなたを最大限サポートするように言われていますから」
いつものように魅力的な微笑を浮かべると、早速書類の山を一つ抱え揚げる。処理能力に関しては文句のつけようもないし、先日まで行っていたのはこの人だ。安心して任せられる。
「じゃあ、そこの席をお借りしても構いませんか?」
視線で今では物置状態になっている予備の机を示す。当然片付けてからということになるだろう。なんだか悪いが、片付けるほどの余裕はない。
「散らかっていて申し訳ないのですが、お願いできますか? この部屋にあるものは自由に使っていただいて結構ですから」
「ええ。お借りしますね」
それだけ言うと、書類の束を空いた場所に一旦置き、手際よくスペースを確保する。この分だと遅れた分はすぐに取り戻して、お釣りまできそうだ。安心して自分の仕事に集中できる。
「――そろそろ休憩にしませんか?」
ちょうど、先ほどお願いした仕事が終わったんだろう。書類をまとめながら、ミス・ロングビルが口にする。
――私は、切りがいいところまではあと少し。
「じゃあ、紅茶でも準備してきますね。準備が終わるころには一息つけるでしょうし」
私の様子から察したんだろう。本当によく気が利く人だ。
「すいません。お願いします」
やはりここも物置になっていた部屋の中央のティーテーブルを片付け、ポット、カップと手際よく並べていく。さすがに学院長の秘書をやっているだけあって、こういうことに関しても卒がない。……メイドに任せたことしかない私と違って。
「どうかしました?」
手元をじっと見つめていた私のことを不審に思ったんだろう。準備する手は止めずに、不思議そうに私を見ている。
「あ、いえ、何でもできるんだなぁと思って……。私はお茶の準備だとかはあまりやったことがなかったので」
「必要に迫られて、ですよ。必要がなければ私もできなかったでしょうしね」
少しだけ、ほんの少しだけ悲しげに口にする。だが、すぐにいつものように微笑を浮かべる。いつものように、同姓から見ても魅力的な。綺麗で、有能で、何でもできて……胸も大きくて。男性にとって確かに魅力的だろう。同姓だからこそ、なおさらよく分かる。
「――シキさんとは、お付き合いされているんですか?」
この前は結局聞き損なっちゃったけれど、そういうことなんだろうなぁ。シキさんも私のことを、少なくとも嫌いではないはずだとは思うんだけれど、この人を見ていると、単なる思い込みなんだっていう気がしてくる。
「……え?」
驚いたように振りかえる。
「――あ、い、今のは……」
つい口元に手をやるが、一旦言ってしまった言葉は取り消せない。私は、何を言っているんだろう。こんなことをいきなり……。聞きたいことだけれど、決してこんな風に聞くべきものではない。
「……うーん、どうなんでしょうねぇ?」
持っていたカップをコトリと置くと、最初は驚いたようだけれど、少しだけ考え込んで、困ったように口にする。でも、どうしてそこで困ったような顔をするんだろう。
「前にも言ったように、私はシキさんのこと好きですよ。……先日は、体の関係も持ちましたし」
「……そう……なんですか」
やっぱり、そうだったんだ。
――そっか。
「――でも」
「でも?」
シキさんのことが好きで、関係を持って――それで何があるんだろう?
「シキさん、私のことを好きだって言ってくれたわけじゃないですから」
「……でも、……その、シキさんと関係を持ったわけでしょう? だったら、シキさんも……」
当然、そういうことのはずだ。
「だったら、嬉しいですね。――でも、シキさんは優しい人だから、同情かもしれないですし」
「……同情?」
何でそこで同情なんて言葉が出てくるんだろう? いきなりのその言葉に、つい鸚鵡返しに繰り返してしまう。
「――私、本当はすごく悪い女なんです。シキさんには、シキさんだから全部話しました」
独り言のように呟く。視線を落としながら。
「……どういうことですか?」
「悪い」女ということの真意は分からない。いきなりこんなことを口にする理由も。だが、自分で「悪い」というようなことを全部話したのなら、それだけ信頼しているということだし、それでも受け入れてくれると思ったからではないのだろうか。同情というのなら、それだけの理由があったということでもあるはずだ。
「――シキさんはきっと全部分かってくれています。でも、それと好きかどうかは別です。同情……かもしれないですし。それに……」
俯いていた顔を上げ、私の方を真っ直ぐに見つめる。ただ、悲しそうな、それでいて羨むような目で。
「……シキさんには、あなたのように真っ直ぐな人の方が相応しいかもしれませんし」
いつもと、なんだか雰囲気が違う。だが、すぐに表情を緩ませ、口を開く。
「――変なこと言ってすみません。それと、勘違いしないでくださいね? 別にシキさんのことを諦めるというわけじゃないですから。……ええと、変な話になっちゃいましたね。」
「あ、いえ……。私から、口にしたことですし」
「やっぱり、ちょっと気まずいですね。うーん、私は別の部屋で手伝うことにしますね」
そういうと書類を一束抱え、部屋の入り口へと向かう。ふと、思い出したように足を止める。
「――好きなら、告白した方が良いですよ。シキさんも、あなたの気持ちは気づいていますしね。それでいて、何もアクションを起こさないのはあの人の悪いところですけれど」
それだけ言うとドアを開け、振り返らずに出て行く。
「――告白、か」
出て行ったドアを見つめたまま思い浮かべる。今までだって、考えなかったわけではない。女の方からというのははしたないような気もするけれど、シキさんと二人っきりになって……
「――言い忘れましたが」
ガチャリ、といきなり扉が開かれる。
「うぇぇ!?」
だから、驚くのも仕方がないことだと思う。変な声を出してしまったことも。
「シキさんあれで案外手馴れているみたいですし、初めてでも安心していいと思いますよ。最初だけ押し倒しちゃえばあとは任せて大丈夫です」
小悪魔のように悪戯っぽい笑顔で口にすると、それではと部屋を再び後にする。
時間を置いてその言葉の意味を理解して、真っ赤になった私を残して。
「……告白、か」
はっきりと言葉にして、もう一度部屋の中で悶えた。
「――シキさん、今日の夜ちょっと飲みませんか? 珍しいお酒があるんです。お米を使ったもので、ワインに比べて結構強いものだとか。たぶん、シキさんでも楽しめるはずですよ。……もちろん、良かったらですけれど」
いつものように言うつもりだったのだが、つい言葉尻が弱くなってしまう。
「……米の酒か。興味はあるな」
何か良いきっかけがないかと部屋を探して見つけたものなのだが、存外興味を持ってくれたようだ。人生、何が役に立つか分からない。
「良かった。じゃあ、部屋でお待ちしていますね。……待ってますから、来てくださいね」
それだけ念を押すと部屋へと戻る。どうしても仕事に集中できなくて、結局何度も練習した甲斐があった。十分及第点だと思う。まだ、心臓が落ち着かないが、言ってしまった今ではそれも心地よい。
何度目になるか分からないけれど、ゆっくりと部屋を見渡す。書類の一部が部屋からなくなったおかげで、積んである書類も随分減った。本当は残りもどうにかしたいんだけれど、そればかりは仕方がない。それ以外に関しては、掃除もシエスタに念入りにさせたし、右から左に視線をやっても大丈夫だといえる……はず。お酒に合わせた器も自分なりに準備してみた。こればかりはちょっとした意地だ。それぐらいで追いつけるなんて思わないけれど、何もしないというのは負けを認めるようなものだと思う。
本当は掃除も自分でできたなら良かったのだが、さすがにそれでは時間がかかりすぎる。もう一度部屋を見渡して、こんどは視線を自分に移す。
……もう一回お風呂に入ってこようかな。なんだかまた汗をかいたような気がするし。でも、もうシキさんが来ちゃうかもしれないし。でも、もし……
あの人の去り際の言葉がちらりと頭をよぎる。というよりも、準備をしている間も頭から離れなかった。私だって、その、今まで全く意識してこなかったわけじゃないし……
――やっぱり、もう一度入ろうかな。
「――ねえ、シキ。お米のお酒ってどんなのかな? そもそも、お米でお酒なんて作れるの?」
ルイズは米で作った酒というものに興味があるものの、どうやら半信半疑らしい。
「ワインと味は全く違うが、問題なく作れるぞ。まあ、昔飲んだときには味なんてよく分からなかったが、あれはあれで悪くないだろう」
今飲んだら、どう感じるのか興味がある。多少は違うかもしれないが日本酒という、言ってしまえば故郷の味なのだから。
「ふーん……、飲んだことあるんだ。だったら、ちょっと楽しみかも」
どうやらそういう酒があるというのは信じてくれたらしい。もっとも、面白そうというだけで味にはあまり期待していないようだが。
「まあ、好き嫌いはあるだろうが、一回は飲んでみるといい。ただし、飲みすぎるなよ?」
「……分かっているわよ」
ばつが悪そうに目を逸らすルイズを尻目に、立ち止まる。ちょうど部屋の前だ。ゆっくりとノックをする。
「……は、はい。ちょっと待ってください……」
言葉は聞こえてくるが、すぐには開かない。まあ、片付けるものでもあるんだろう。書類が山積みになっているだけに、その辺りは仕方がない。
「……珍しいこともあるのね」
何かを考えながら、ポツリとルイズが呟く。
「仕事が忙しかったんだろう。その辺りは仕方がない」
「……そうね」
何か思うことがあるのか、ルイズの声には含みがあった。
そうしてしばらく待って、ようやく扉が開いた。
「お待たせしてすみません。あの、準備はもう整っていますから、どうぞ入ってください」
申し訳なさそうにしているエレオノールが、右手で部屋へと促す。
「そんなに待ってはいないさ。それに、米の酒というのは楽しみにしていたからな」
「そうですか。――そう言ってもらえると嬉しいです。じゃあ、入ってください。道具もお酒に合わせて色々と揃えてみたんですよ。私が準備したので、もしかしたらおかしな所があるかもしれませんが」
嬉しそうに、少しだけ自慢げに口にする。俺も、日本酒というのはたまたま珍しいものをということなんだろうが、やはり楽しみだ。
「――シキ、楽しみにしていたものね」
「そうだな。ルイズも気に入ってくれればいいんだがな」
「…………なんで、ルイズが?」
ルイズを見て、今気づいたとばかりに呟く。心なしか表情もこわばっているような気がしなくもない。
「まずかったか? てっきり誘うつもりだと思っていたんだが……」
「――あ、いえ……。ただ、明日からも普通に授業がありますし、遅くまでというのはまずいかなぁと思っていて……。でも、そうですよね。せっかく珍しいものなんですし。――ルイズ、あんまり遅くまでは『絶対』に駄目よ?」
「あ、はい……」
「――シキさん、どうぞ」
そう言ってエレオノールが徳利を手に、お猪口に注ぐ。道具までといってもどんなものがと思っていたが、なかなかどうして、徳利、お猪口と一式がきちんと揃っている。まあ、金髪の女性がという部分には違和感があるが、そこはご愛嬌といったところか。持ち方がどこかぎこちないのもまたそうだ。
「ありがとう」
指先でお猪口を傾け、素直に受ける。
「――返杯、というんだったかな?」
お返しということで徳利を受け取り、同じように注ぐ。エレオノールもまた、見よう見まねで、ただしこちらは両手で包むようにしながら。
「ありがとうございます。でも、面白いですね。手に入れたときに器が小さいと思ったんですけれど、こういう意味があるんですね」
ワイングラスに比べればはるかに小さなお猪口を手に、楽しそうに笑う。小さいから、何度もお互いに注ぐことになる。酌み交わすという意味では、ワイングラスに比べてはるかに小さなお猪口は都合がいい。
「ルイズはどうだ?」
すぐ隣で小さなお猪口を両手に持ったルイズに視線を向ける。
「うん? んー、温めて飲んだりだとかは初めてだけれど、これはこれで面白いのかなぁって。ちょっと強いけれど、少しずつ飲む分には気にならないし。……ただ、チーズとかはちょっと合わないかも」
ルイズがちらりと視線を移す。その先には、テーブルの中でチーズなどが盛られて唯一違和感を出している皿がある。
確かに、それはあるかもしれない。道具は揃っているが、つまみにはワインと同じものが準備されている。まあ、この酒自体が珍しいのだから、そうそう手に入るものでもないだろう。それに、いかにも日本酒の友といったものがあったら、それはそれで違和感がある。アンバランスというより――そこまでいくとシュールだ。
「――ルイズ、あなたはそろそろ寝なさい。この前みたいに二日酔いになるわけにはいかないでしょう?」
酌み交わすということを何度かお互いに繰り返して、エレオノールが優しく諭す。本来ならあまり人に言えたことではないのだろうが、まあ、そこは言わぬが花だ。
「……はい。じゃあ、シキ、そろそろ寝ましょうか」
「まあ、授業があるのに二日酔いになるのはまずいしな。この前と同じになるととても授業どころじゃない」
ルイズが腰を上げたのに続いて、テーブルに手をつく。
「――え? あ、あの、シキさんもですか? ……その、一人で飲むのも寂しいですし、えーと、できたら……」
しどろもどろにチラチラとこちらをうかがう。
「……せっかく、だからな」
一旦は浮かせかけた腰を落とす。
「じゃあ、私も……」
「あなたはもう寝なさい」
私もと言いかけたルイズに、間髪いれずにエレオノールの声が重なる。
「……う……でも『いいわね?』……はい」
こういう場面ではどうしてもルイズは勝てない。諦めたように席を立ち、とぼとぼと入り口へと向かう。そうして部屋を後にする前に、名残惜しそうに振り返る。
「……シキ、早めに戻ってきてね。……待ってるから」
それだけ言うと一瞬だけじっと俺の目を見つめ、出て行く。扉を閉める音もなんだか寂しげだ。
「……ちょっと可哀想、だったかな」
まだ残りたそうだったし、飲みすぎなければ問題なかったような気がしないでもないのだが。
「……それは、そうかもしれませんが、やっぱり教える側としては、その……良くないですし」
さっきまでとは打って変わって、気弱げに俯く。
「まあ、確かに飲みすぎはまずいしな。この前は二人とも、な」
少しだけからかってみる。
「……え、あ、その……その節は……ご迷惑を、おかけしました」
真っ赤になったまま目を泳がせる。こういう反応は珍しい。つい、もう少しからかってみたくなる。普段が普段なだけに、少女のようで可愛らしい。そんな風に言ったら、いったいどんな反応を返してくれるだろう?
「あのときのことは忘れてください。今日はそんなことありませんから。」
早口でまくし立て、とにかく飲めとばかりに注ぐ。勢いあまってこぼしてしまうというのも、動揺しているというのがはっきり分かって面白い。
「ありがとうございます。じゃあ、私も」
ルイズが帰ったあとも、お互いさしつさされつ。器が小さいからこそこんなことができると思うと、なるほどよくできたものだ。東方からのものは、変わってはいても、それぞれに意味がきちんとあって良くできているという評価もうなづける。さっきまではこんなことを考える余裕もなかったけれど、そんなことを繰り返しているうちにようやく落ち着いた。
――が、今日の目的はお酒を飲むことじゃない。いや、もちろんこれはこれでいいんだけれど……とにかく目的は別にある。だからこそルイズも早めに帰したのだから。
でも、お酒の勢いがあればというのもあったのだが、なかなか思うようにはいかない。何度か言おうとしたのが、どうしても最期の一歩が踏み出せない。まさか自分にこんな少女のような面が残っているとは思わなかった。
お開きになる前にと心は逸っても、最期の一歩が踏み出せない。今になって、もし駄目だったらという想いが胸をつく。このままの関係というのは嫌だけれど、それさえもなくなるというのはもっと嫌だ。その想いが告白しようとするのを邪魔する。
「――もう空か、そろそろ遅いしな」
徳利をテーブルに置くと、コンと最初に比べて随分と軽い音がする。随分と軽くなってしまっていた最期の徳利も、エレオノールに注いですっかり空だ。それに、徳利もお猪口も一つ一つは小さいとはいえ、これだけ飲めばそれなりの量にはなる。
「そ、そうですね……」
エレオノールが小さなお猪口を両手に俯く。
「あ、あの……」
「ん?」
「……や、やっぱりいいです」
ルイズが部屋へと戻ってから、これで何度目になるか分からない。何かを言いたそうにしては止めるということは。
「……う……、その、ちょっと待っていてください」
そう言うと席を立ち、何かの薬品が並べてある棚へと向かう。結構な量を飲んでいるからと心配したのだが、今回は足取りがしっかりしている。むしろ、いつもより力強いとさえ感じる。
そうして棚の前に立ち、少しだけ動きを止めてから手前にあった瓶の蓋を開けて一気にあおる。
「……ちなみに、今のは何なんだ?」
さっきの棚は薬品棚だったはず。自分で作ったものがほとんどだと言っていたから心配はないだろうが、酒と薬を一緒にというのは良くないと聞いたことがある。
「……今の薬、ですか?」
空になった瓶を置いて、くるりと振り返る。シキさんが良く見えるように。
「今のは、ですね……」
ゆっくりと足を進める。少しだけ、足元が覚束ない。お酒と一緒というのは、まずかったかな? そんな様子を見たからか、シキさんが席を立ってこちらへと歩いてくる。やっぱり、シキさんは優しい。
「生徒に作ってあげた、薬の残りで……」
シキさんが肩を支えてくれたから、素直に寄りかかる。一旦は胸に顔をうずめて、もう一度顔を上げて言葉を続ける。名残惜しいけれど、ちゃんと言わないと。その為に飲んだんだから。
「自分に正直に、なれるんですよ」
覗き込むシキさんの唇と自分の唇を合わせる。前とは違って、お酒の匂い。でも、ちゃんとキスするのは初めてかな。名残惜しいから、離れたくない。でも、言わないと。順番が逆な気がするけれど、まあ、いいや。ゆっくりと唇を離す。
「――シキさん」
シキさんを見上げる。
「……ああ」
「私、シキさんのことが好きです。こうやって薬を使ってでも言いたいし、寝ているシキさんにキスしたりするぐらい、好きです」
「…………」
「シキさんには、私はどんな風に見えていますか? 気ばっかりが強くて、可愛くない女ですか? そんな女は……嫌いですか?」
ずっと聞きたかったことだ。今なら言える。やっぱり恥ずかしいけれど、言える。
「……そんなことはない。いつも真っ直ぐで、気が強いと気にしたりしているのは、十分可愛らしいと思う」
「――可愛い、ですか? ……本当に?」
そんなこと、言われたのはいつ以来だろう。本当に嬉しい。
「ああ、嘘じゃない」
じっとシキさんを見てしまう。でも、シキさんなら嘘はつかない。なら……
「……じゃあ、こっちに来てください」
シキさんの手を取って引っ張る。テーブルの脇を抜けて、足元にまだ残っている荷物を避けて……
「……ベッド……」
それを見てシキさんが呟く。
「……改めて口に出さないでください。恥ずかしいものは、恥ずかしいんですから」
ここまで引っ張ったのは自分とは言え、恥ずかしいものは恥ずかしい。とてもシキさんの顔を見れない。火がついたように顔が熱い。
「……あの人とは、その……したんですよね。私とじゃ、嫌ですか?」
「そんなことはない。……ただ、それでいいのか? その、別の女と関係を持っているのに……」
少しだけ顔を逸らす。
「……嫌ですよ。でも、好きなんだからしょうがないじゃないですか」
もちろん嫌だ。でも、それ以上に好きなんだからどうしようもない。シキさんの手を握ったまま、ベッドに倒れこむ。もちろん、シキさんと一緒に。私が仰向けになって、シキさんが覆いかぶさるように。
「……ここまでさせたんですから、これ以上恥をかかせないでください。私は、シキさんのことが好きです。それじゃ、駄目ですか?」
シキさんの返事は、キスだった。シキさんからは、初めてだ。それが、どうしようもなく嬉しかった。
ゆっくりと唇を離す。離れてといっても、目と鼻の先の距離だ。何せ、組み敷くような格好なのだから、それ以上離れようがない。目の前にはエレオノールの顔がある。少しだけ髪が乱れて、酒のせいか、薬のせいか、いつもより険のない表情で。ただ、すこしだけ緊張を見せながら。
「あ、あの……私、初めてで」
エレオノールが恥ずかしそうに視線を横へと向ける。
「ああ、知っている。できるだけ優しくする」
処女と、というは初めてだ。痛いものだというのは何度も聞かされている。だから、それを忘れるわけにはいかない。
「……変ですよね。この歳で初めてなんて。もうとっくに結婚していてもいい歳ですし……」
ポツリと呟く。正直になるという効果か、よっぽど気にしていたんだろう。今日は隠そうという気が全くないようだ。
「そんなに気にすることでもないさ。俺のいた世界では30でというの珍しくなかったからな」
言ったところで下からギュウと頬をつねられる。
「……まだそこまではいってないです」
「……悪かった」
歳のことを、本当に子供っぽい仕草で口にしているというのが、どこかおかしかった。
「――とにかく、優しくするから心配しないでくれ」
「……はい。……あ、明かりを」
ルイズの部屋の仕組みと同じなんだろう。指を振って消そうとするのを押しとどめる。
「別に消さなくてもいいだろう。消しても、意味がないからな」
「……シキさんがそういうのなら、別にいいです。えーと、その……お願いします」
「任せてくれ」
つい笑みがもれる。普段とは打って変わって、素直で可愛らしい様子に。
「……ん……」
可愛らしくて、ついキスをしたくなる。そのまま、スカートへと右手を伸ばす。一瞬エレオノールが止めようとしたが、すぐに力を抜く。
スカートのサイドのフックをはずし、中へと手を差し入れる。一つ一つの動作の度に身じろぎするが、今度は抵抗しない。太腿の上から指でなぞる。そしてそのまま、下着へ指を当てる。形をなぞるように指を何度も往復させる。そのたびに身を震わせて、もどかしそうだ。今度は周りではなく、中心へと。
「――ん……。あ、へ、変な声を出して済みません」
口元を両手で押さえる。もしかしたら、自分で触ったこともないのかもしれない。
「自分で触ったことは?」
今度は下着の中へと指を滑り込ませ、直接触れる。少しだけ強く、輪郭をなぞるように。
「……んっ。な、ないです、そんな所、触る必要もないですし」
自分の反応にも驚いているのか、戸惑いながら答える。そんな反応が可愛くて、つい少しだけ意地悪をしたくなる。
「――たとえば、こんな風に」
何度も何度もこするように触れる。口を両手で押さえているから声は出さないが、分かりやすいぐらいに体は反応してくれる。触れるたびに体を震わせ、だんだんと湿ってきた。これならばと今度は指を下へ滑らせ、差し入れる。初めてだけあって、これぐらいでは足りないんだろう。人差し指だけなのに拒むように締め付ける。一本だけで一杯になってしまったように錯覚するぐらいに。それでも少しずつなら動かせる。少しずつ、少しずつ指を前後に動かす。少しずつ奥にまで進めることができるようになる。
やがて、湿った音が聞こえてきた。
「……あ、あの……」
「何だ?」
動かす指はそのまま、問いかけに応える。
「えーと、その……変な音が……するんですけれど……」
「……これか?」
クチュリと、わざと一際大きな音がなるように指を動かす。それと同時に今まで以上に体をのけぞらせる。
「そ、そうです。あの、……私どうなっているんでしょう」
荒い吐息で、答える。慣れない感覚と、音が恥ずかしくてしょうがないんだろう。
「――なら、自分で確かめてみるといい」
エレオノールの左手を掴み、先ほどまで触れていた部分に、下着の上から触れさせる。もう下着の上からでもはっきりと分かるぐらいに濡れている。
「う、うえ? な、なにこれ?」
よっぽど驚いたのか、すぐに手を戻そうとするがそれでは面白くない。戻そうとした手を掴み、自分がしていたのと同じように触れさせる。下着の上からだが、こうなると下着の上からだろうがなかろうが関係ない。
「――ドロドロだろう?」
「な、なんでそんな恥ずかしいことを言うんですか!?」
「恥ずかしいも何も、自分の体じゃないか」
「そ、それはそうなんですけれど……、なんと言うか……」
よっぽど恥ずかしいのか、その場所を両手で隠そうとする。目にはうっすらと涙も浮かんでいる。が、この涙は逆にいじめたくなる。普段とのギャップが、なおさらそれをあおる。
「手をどけてくれないと続きができないんだが」
「……意地悪、です」
表情から理解したんだろうが、しぶしぶといった様子で手をどける。
「そろそろ下着も脱がないとな」
「うえええええ!? ぬ、脱ぐんですか? い、嫌です。恥ずかしくて死んじゃいます!」
いやいやと激しく首を左右に振る。
「――それだと続きができないな。……止めるか?」
もちろんここで止める気などない。止められる男がいるのなら見てみたいものだ。いや、止められるのなら男ではない。
「……う……く……そ、それは……。わ、分かりました。脱ぎます……」
恨めしげにこちらを睨みながら、しぶしぶと下着に手をかける。
「……そ、そんなにまじまじと見ないでください」
両手で目隠しをしようと、顔に押し当ててくる。
「分かった。脱いでいる間は見ない。約束する」
「……本当ですね? 本当ですよね?」
「ああ、約束する」
言いながら目を閉じる。これくらいは妥協しよう。
「……約束、ですよ? 絶対見ないでくださいね」
見ないというのを確信できたのか、衣擦れと、脱ごうと身じろぎする音がする。
「……うあ……この下着……もう使えない……」
「もう「駄目です!!」……そうか」
更に衣擦れの音が続く。多分他の衣服も脱いでいるんだろう。
「も、もういいですよ」
声に目を開けると、頭から毛布をかぶったエレオノールがいる。見られるというのが一番恥ずかしいんだろう。
「……シキさんも入ってください」
毛布の片端を持ち上げ、促す。
「……スカートも脱いだんだな」
毛布の中をちらりと見て、口にする。肝心な部分はしっかりと手で隠したままだったが。
「その、邪魔になりそうでしたから……。脱がない方が良かったですか?」
「いや、脱いでいた方がいい」
言葉と同時に、左手で肩を抱き、さっきまで触れていた場所に直接触れる。スカートも下着も脱いだおかげでやりやすい。最初と同じように形をなぞるように触れ、それから一番反応の良かった部分に触れる。ただし、今度は少しだけ強く。そして、その下へと指を滑らせる。一本、二本……
やはりまだきついが、さっきとは違って指二本ぐらいならなんとか入る。前後に動かせば奥の方にまで。動かすたびに息が漏れる。声は出さないようにと必死に押さえているのがよく分かる。
ならばと、つい声を出させてみたくなる。さっきまではどうしても遠慮があってゆっくりとしか動かせなかったが、この様子なら大丈夫だろう。前後に動かしていた指の動きを早める。クチュクチュとはっきりと音が聞こえるぐらいに。
「……ふ……あ……や、やめ……」
ギュウと力いっぱい抱きついてくる。そして指を動かすたびに体を痙攣させる。それでも構わず、むしろ、指の動きを早める。やがて一際体を大きくふるわせ、ギュウと締め付ける。
「……あ……ぐ……」
指の動きを止めてもびくびくと体を振るわせ、力も抜けてしまった様子で、息も長い。抱きついていた腕からも力が抜ける。
「……何か……変です。力が、抜けちゃって……」
荒く呼吸しながら、さっきまで力一杯抱きついていた腕も投げだす。隠そうという気も起きなくなったのか、足も投げ出した状態で。
「――どうだった?」
髪を梳くように撫でながら問いかける。
「……ん……あんなの、初めて、でした。すごく気持ちよくて、どうにか……なっちゃいそう……で……」
すっかり力が抜けてしまったのか、声を絶え絶えだ。そのうちスー、スー、と寝息も聞こえてくる。
「……寝息?」
「……そうか、寝たのか。……そうだな。仕事で疲れていて、あれだけ飲めば、仕方ないか。……仕方ない、な」
寝顔に目をやれば、幸せそうに寝ている。とてもではないが、起こそうという気にはならない。――ならないんだが。
「――俺はどうすればいいんだ?」