混沌の使い魔   作:Freccia

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前回に引き続き、テファのお勉強。
人によってはスパルタ過ぎると感じるか、それとも手温いと感じるかはそれぞれ。
これとは別の教育は、同時に更新した短編にて。



第40話 I've seen it all

 

 

 

 

 

 

「──さあ、テファ。そろそろ行こう」

 

 シキさんから差し出された手。私は楽しみにしているのか、それとも怖いのか、それすらも分からない。ただ、その手を取る。

 

 行き先だって、知らない。聞いたのは、私に見せたいものがある場所ということだけ。

 

 私は何も知らない。私はずっと目を閉じて、姉さんの優しさに甘えてきた。だから、私は知らないといけない。そして、シキさんに認められないといけない。

 

 地面に広がる黒い水溜りのようなもの。シキさんに手を引かれ、足を踏み入れる。ズブリズブリと沈み込み、足先から登ってくる冷たい感触。握る手が無ければ、凍えてしまいそう。

 

 秘密の抜け道というものを準備してくれたアルシエルさんは、これまで見た中で一番と言ってよいほど楽しそうに笑っている。

 

「──では、良き旅を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 秘密の抜け道を抜けた先は、どこかひんやりとした石造りの建物の中。

 

 手を伸ばしても届かないぐらいの天井に、隙間なくぴったりと敷き詰められた石畳、私だと抱えきれないぐらいの柱も立派で、まるでお城の中みたいだと思う。ただ、誰もいない。

 

「ここにいたって何もない。さあ、行こう」

 

 歩き始めたシキさんを追いかける。私に合わせて歩いてくれているけれど、やっぱり男の人。のんびりしていると置いて行かれちゃいそうになる。

 

「あの、シキさん。ここってお城の中なのかな?」

 

「トリステインの、な。どこの城でも良かったんだが、ここが一番融通がきくからな。ただ、フードは念の為かぶっておいて欲しい」

 

「あ、はい。でも、お城の中でフードなんて被っていたら怪しくないかな?」

 

「それは心配しなくても良い。あくまで念の為、だからな」

 

「そういうもの、なのかなぁ」

 

 私はシキさんに言われた通り、着込んできた外套のフードを被る。自分でも、はたから見たら怪しいんじゃないかなぁと思いながら。

 

 でも、すごく怪しい二人組がお城の中にって、少しだけ可笑しい。シキさんと一緒で怖くないからそんな風に思えるのかもしれないけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 お城の中を二人で歩く。何人ともすれ違うけれど、誰も私達のことを気に留めない。まるで、誰もいないみたいに。最初こそ怒られないかとびくびくしていたけれど、何だか馬鹿らしくなった。

 

「──テファ。政治については色々とルイズに教えてもらったんだな?」

 

「一通り、なら。ルイズが丁寧に教えてくれたおかげ大分理解できたと思います。貴族の誇りとかは、ちょっと難しいですけれど……」

 

  背中からだから表情は分からないけれど、シキさんは笑ったみたい。

 

「貴族の誇りというのは難しいな。なにせ、俺も分からない。さて、じゃあ、復習と行こうか」

 

「……は、はい」

 

「なに、そう怖がる必要はないさ。ただ、実際に見てみようというだけの話だ。まずは、一番分かりやすい司法というものから。お誂え向きに、ちょうど良いものがあった」

 

 行き当たった扉、それを前にシキさんが振り返り、戯けたように唇に人差し指を当てる。だから私も、両手で自分の口を塞いで見せる。

 

 扉を抜けた先は、随分と広い部屋だった。

 

 入った扉から緩やかに下る不思議な形。沢山の椅子がずらっと横に何列も並んでいて、一番奥に立派な服を着た人と、それに向かい合う形で男の人が立っている。男の人はこちらに背を向けているから、どんな人なのかはよく分からない。

 

 シキさんに促されて、一番後ろの席に座る。ちょうど坂から見下ろすようになっているから、後ろの席からでも全体が見渡せる。

 

 立派な服を着た人はこの部屋に入った時からずっと難しい事を言っていて、背中しか見えない男の人はただ項垂れてそれを聞いているだけ。周りに座っている人が何人かいるけれど、何かをずっと書いているか、聞いているのか聞いていないのかよく分からない人達だけ。

 

 ふと、隣の席に誰かが座った。見れば、この人も立派な服を着ている。むしろ、ずっと難しいことを言っている人よりも立派なぐらい。

 

「──お待たせしてしまいましたかな?」

 

 男の人がシキさんに言う。もともと、ことで会うことになっていた人なのかも。

 

「いや、ちょうど今来たところだ。テファにこの裁判のことを教えてくれるか?」

 

「お安い御用ですとも。可愛らしいお嬢さんに話すにはもっと気の利いた話の方が良いのですが……。しかし、普段むさ苦しい男どもに囲まれている私としては役得というもの」

 

 男の人はかかと笑う。怖そうな雰囲気があったけれど、気さくな人みたいで安心した。お父さん──には年が離れているから、まるでお祖父ちゃんみたい。

 

 男の人が、難しいことを言っている人を指差す。

 

「ほれ、あそこで偉そうに講釈を垂れているのが裁判長。殊勝な態度でそれを聞いているのが被告人──最初から刑罰を受けることが決まっているからには、罪人と呼んでも差し支えはありませんな」

 

「決まっているって、あの、それは、裁判で決めることじゃないんですか?」

 

 有罪無罪を決めるのが裁判のはず、少なくとも私はそういうものだと理解しているし、ルイズもそう言っていた。

 

「ええ、そうですとも。それが裁判ですとも。そうでなければ、わざわざ裁判などという手間をかける意味もなくなるというもの」

 

 男の人は、全くもってその通りと何度も頷く。

 

「だったら……」

 

「困ったことに、何事も建前だけでは回らんのですよ」

 

「それは……。でも……」

 

 言っていることは、そうなのかもしれないけれど。男の人が、諭すような優しい声色で続ける。

 

「もちろん、正しくはない。しかし、こうやって現実にあるのですよ。加えて、それが一番面倒が無いということもある。救いは、今回に限って言えばあそこの彼も納得しているということですかな」

 

 視線は、罪人と呼んだ男の人。

 

「あの人は何をしたんですか?」

 

「何をしたかと言えば、何もしていませんな」

 

「どういうことですか? 何もしていないのに裁かれるなんて、あるんですか」

 

「あくまで例外といえば例外なのですが、まあ、分かりやすく言えば生贄ですな。誰かが責任を取らねばならぬという時には、その誰かを準備することもあるのですよ。今回は、生贄の彼も納得しているので、良心的な方ですな」

 

「あの、どうにかして助けることは、できないんですか?」

 

 無理だと分かっていても、どうしても口にしてしまう。たとえ無実であっても関係ないことだってあるのは、私自身がよく知っていることなのに。

 

「あなたが望むのなら、何とかしましょう」

 

 でも、男の人はあっさりと言った。

 

「出来るんですか?」

 

「こう見えて私、顔がききましてな。無実の彼を助けることぐらい造作もありませんとも。高等法院長という肩書きもなかなか便利なものでしてな」

 

 男の人は自身たっぷりで、頼もしい。

 

「良かった、です。無実の人がっていうのは、良くないですし」

 

「そうですな。なら、すぐにでも手を回しましょう。ただ、路頭に迷う者は、増えるでしょうなぁ。まあ、それもあるべき形といえばそれまでのこと」

 

「どういうこと、ですか?」

 

「いやなに、あの男はとある家に仕える家令でしてな。国に納める税金を使い込んだ主人の身代りになったのですよ。その主人というのが後を継いだばかりの、所謂道楽息子でしてな。補填できないほど使い込んでしまった。だから、彼がやったことにして、主人はあくまで監督責任という形にする。それであれば金も借りやすいですから。しかし、正直に馬鹿な主人がやったとなれば、手っ取り早く家を取り潰して作るとなりますな。褒賞にする土地は常に不足しておりますから。で、そうとなれば、一族はもちろん、家臣も路頭に迷うでしょう。だから、生贄の彼も納得しておるのですよ。むろん、家族の面倒を面倒を見るという条件付きですが。何にせよ、家臣の鑑ですな」

 

「でも、そんなの……」

 

 正しくは、ない。

 

 そして、男の人はうなずく。

 

「正しいかそうでないかで言えば、正しくはないでしょう。しかし、必要ではある。そういうことも、この世の中にはあるのですよ。何が大切で何を切り捨てるか、確固たるものさしがなければ難しいですがな」

 

「……そう、ですね」

 

 国というのは、そういうものなのかもしれない。アルビオンという国はお父さんを切り捨てて、お父さんは私達を捨てなかった。正しいとか正しくないとか、そういうことじゃない。

 

「──テファ」

 

 シキさんが私の肩に手を置いて言った。

 

「今日はもう、帰るか?」

 

 私は首を横に振る。

 

「まだ、見るべきものはあるんですよね? だったら、見せてください」

 

 シキさんは頷き、男の人が笑って言った。

 

「さて、彼はどうしましょう? あなたにお任せしますよ。──ちなみに、このままいけば死罪になるでしょうな」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナイフを当てただけでほどけるような柔らかいお肉。口に入れると、それこそとけてしまった。

 

「──美味しい」

 

 思わず、素直な感想が口をつく。

 

「それは良かった」

 

 城の中を案内してくれたリッシュモンさんが朗らかに笑う。本当に偉い人だったみたいで、こうやってお城での食事も手配してくれた。

 

「本当に、美味しいです。毎日こんな食事を用意するには、お金も沢山必要ですよね」

 

 リッシュモンさんはお城の中で色々なものを見せてくれたし、教えてくれた。議会でのやり取りや、その裏でのお金の流れまで。そして、そもそも、どこからそのお金が出ているのか。私が知らなかっただけで、税金だってとても高かった。ただ食べて行くということがどんなに大変か、私は分かった気になっていただけだった。

 

「──食欲があまりないようですな。まあ、今日は疲れたでしょう。温かい湯につかり、ゆっくり眠ることです」

 

「そうですね、確かに、疲れました」

 

 本当に疲れた。体も心も、ずっしりと重い。

 

 ふと、思う。皆がルイズのように誇りに溢れた人なら暮らしやすい世界になるのか、それとも、やっぱりそれだけじゃダメなのか。そもそも、ルイズのような人が大人になっても、ずっとそうあれるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訪れたのはゲルマニアという国、そこで一番栄えているという街。逆に目立つからと、今度はフードは被っていない。

 

「テファは、この街を見てどう思う?」

 

 シキさんに尋ねられて、私はぐるりと辺りを見渡す。

 

「印象ですけれど、とても賑やかですね。言葉にはしづらいですけれど、歩いている人みんなが活き活きとしているみたい」

 

 ずっと森の中にいた私にとっては、トリステインの城下町だってすごく活気があると思った。でも、ここは何かが違う。

 

 道を歩く人が多い。色々な服を着た人が、誰かが威張っているということもなく行き来している。買い物をする様子だってそう。トリステインだと、どこかに線引きを感じる。

 

 シキさんが笑う。何と無く、褒められたような気がした。

 

「そうかもしれないな。活気があれば、スラムの人間だっておこぼれにはあずかれる。飢えで死ぬ人間だって少ないだろう。それだけでもトリステインとは違う。だから、その理由を見に行こうか」

 

「また、お城に行くんですか?」

 

「いや、しばらく前からここに来ている友人のところだ。少し変わっているが、悪い男じゃない」

 

「シキさんが言うなら、本当に変わった人なんでしょうね。……あうっ」

 

 シキさんに、額を小突かれた。酷いよ、本当のことなのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 連れて来られたのは、豪華な飾りなんかない無骨な所だけれど、とても大きな建物。外からでも聞こえる金属を叩くような音、そして、入ると古い油とか何かが燃える匂いとか、色々な匂いが混じりあって襲って来た。

 

 シキさんの友達だといういう男の人は、すぐにやってきた。シキさんを見て本当に嬉しそうに笑っていたから、紹介されなくても一目で分かった。

 

「──やあ、久々に会えて嬉しいよ。ちょうど相談したいことも色々とあったんだ」

 

 言うなり、シキさんの手を取って再会を喜ぶ。男の人の手は油で黒い。コルベールさんの姿が重なって、だからか、悪い人じゃないと思った。

 

「……随分と雰囲気が変わったな」

 

 シキさんは、男の人にどこか呆れたように言った。

 

「なに、環境が変われば変わらざるを得ないさ。一人でやっている時ならいざ知らず、皆で何かを作るとなれば、無愛想ではやっていけん。それに、ここの職人達は良い男達だ。役に立つと分かれば余所者だって素直に受け入れる。金次第と揶揄もされるが、いっそ分かりやすい。トリステインと違って新しい技術が受け入れられるというのも良く分かる。私は、ここに骨を埋めるつもりだよ」

 

 男の人は本当に満足そうに笑っている。見ていて羨ましいと感じるぐらいに。そして、男の人は私を見ていた。

 

「君がテファだね。シキから話は聞いているよ。確かに、そうそうお目にかかれない美人だ」

 

 まっすぐに言われると、やっぱり恥ずかしい。そして、そう紹介されていたことが──嬉しい。

 

「さて、じゃあ案内するとしようか。本来なら部外者立ち入り禁止だが、話は通してある」

 

「ゼファーがここにいてくれて助かった」

 

 シキさんが、歩き始めたゼファーさんにお礼を言う。

 

「なに、話を通したと言っても、手間はない。辺境伯の知己というのは、この国でも大きな意味があるらしくてね。まあ、さっき言った相談に乗ってくれれば十分だよ。前に言っていたロボットというものについて興味が出てきてね」

 

「そう言えば、そういう話もしたな……。しかし、あの時は特に興味を持たなかったように思ったが」

 

「なに、実際にもの作りに関わるようになれば生産技術の重要性というのも痛感する。一つだけとなるとどうとでもなるが、数を作るとなると考え方が別物でね。いや、ゲルマニアというのはすごい国だ。上に立つ人間も生産技術の重要性を理解している。新参の私の話ですら興味を持ってくれてね。今すぐとは言わんが、案内が終わったら改めて相談させて欲しい。そのまま真似するなんてことは難しいとは思うが、ヒントにはなるはずなんだ」

 

 ゼファーさんの目は、子供たちのように真っ直ぐで綺麗。大人になってもそうあれるというのは羨ましい。

 

 そして、工房で働いている人達も、皆が活き活きとしている。案内してくれたゼファーさんが言うには、成果がきちんと認められるから。場合によっては、生まれがそうでなくても貴族にだって成れる。だから、皆が頑張れると。

 

 この街に来た時に最初に感じた、活気の違い。どうしてトリステインと違うのか、分かったような気がする。そしてきっと、それがシキさんがここで見せたかったもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲルマニアの次は、ロマリア。ブリミル教の総本山。

 

「──シキさんがここで見せたいのは、その、宗教、ですか? それなら、大丈夫ですよ。何かを信じるということは、私も否定しません。でも、それが身勝手なものになれば人を不幸にするだけだということは、身に沁みていますから。それに、誰かにとって都合の良い神様なんて、この世界にはいません」

 

「それもあったが、その様子なら説明はいらないな。そうだ、いっそ宗教の方が腐敗は酷い。善人の皮をかぶる分、下手な悪人よりよほど性質が悪い」

 

 シキさんの視線を追う。

 

 立派な建物に、綺麗な服を着た太った人。そして、見るからに痩せた、物乞いをする人。それが、一人や二人じゃない。そんな状況を恥ずかしいとも思わないから、平気でいられるんだと思う。トリステインからの賄賂だって、ここには沢山あるはずなのに。ううん、他の国からだってきっと。

 

「私、あの人達のこと嫌いです」

 

 お母さんのことだけじゃなく、心からそう思う。

 

「そうだな。あれが普通というのだから、困ったものだ。善良な者もいるんだろうが、権力を得るには金か、さもなくばよほどの運が必要だ」

 

 ただ、とシキさんが続ける。

 

「確かにいないではない。これから会いに行くのがちょうどその例外だ。トリステインを一人で支えて来た、マザリーニという男。俺も直接は会ったことがないが、ウリエルが認める男だ。テファも、会えば得るものがあるだろう」

 

 

 

 

 

 

  石造りの大きな建物。でも、他の豪華な建物とは違う。飾り気のない、ただただ頑丈そうな建物で、何より違うのは見ていて嫌悪感を感じないこと。必要だから大きいだけ、とどこかゲルマニアの工房と同じ印象を受ける。

 

 そして、入り口に男の人が立っている。大きな羽帽子を被っていて、シキさんと私を見て扉を開く。

 

 案内された先で待っていたのは2人の男の人。お爺さんと呼ぶぐらいの歳だけれど、対照的。一人は厳しい表情の痩せた人、もう一人は朗らかな表情のがっしりとした体つきの人。どちらもこの街で偉そうにしている人が着ているようなゆったりとした服を着ているけれど、不思議と嫌な印象は受けない。普段なら、そういう服を着ている人を見るだけで落ち着かないのに。

 

 がっしりとした体つきの人が挨拶だけして席をはずすと、痩せた男の人が口を開く。淡々としているけれど、どうしてか冷たいという印象は受けない。

 

「こうしてお会いするのは初めてですかな、シキ殿。わざわざ私などの元にいらっしゃるとは思いませんでしたよ。それも、このような場所でなど」

 

 男の人──たぶんこの人がマザリーニさんだと思う──が私を見る。観察されているようで、どこか居心地が悪い。

 

「美しいお嬢さん」

 

 マザリーニさんの声に、背筋が伸びる。そうさせる何かがあったから。

 

「私は、何年も政争の中でもがいてきました。ただがむしゃらにやってきて、多くの敵を作り、恨まれてもきました。しかし、この年になってようやく気づけたこともあります。年寄りの退屈な話になるやもしれませんが、求められたとあれば語りましょう」

 

 マザリーニさんは、どこか懐かしみを込めて語る。

 

 仕えるべき王を見つけ、それからのことを。王が亡くなった後もひたすらに国の為に、たとえ有力者にも、国民に恨まれてもただだた真っ直ぐに尽くしてきたことを。そして、それでも変わらなかったということを。

 

 少しだけ表情を緩める。自分は間違っていたと言うけれど、どこか晴れ晴れとした表情。一人では限界がある。本当に信頼できる人を見つけ、その人を信頼して頼むことでできることがある、と。

 

 シキさんがなぜマザリーニにさんに会わせたかったのか、私にも

分かった。そして、思う。こんなマザリーニさんが慕った王様、どんな人だったんだろう、と。王様はどうあるべきか、まだはっきりとは言葉にできないけれど、何かがつかめてきた気がする。

 

 帰り道、シキさんが言った。

 

「──テファ。そうだな、一月。一月経ったら、また話をしよう」

 

「──はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──テファ、お帰りなさい」

 

「──姉さん。……うん、ただいま」

 

「──私は、あなたには幸せになって欲しいの。でも、あなたが本当に望むのなら……」

 

「──ありがとう。兄さんに、頑張って認めてもらうから。ふふ、そんな顔しないで」

 

 大丈夫だよ、姉さん。そのことは、私は諦めるから。私は、これだけで充分。本当に充分。だから、これだけは許して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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