何度も過去回想とか入ると見づいと思うので…
今回は冥がAFOさんに拾われて数ヶ月たった日々についてです。
私はお父様の隠れ家?で暮らしています。
お父様はよく出かけているのか家にはあまりいません。
けれど必ず一日一度は会いに来てくれます。
朝起きると食卓には朝ごはんが用意されています。
誰が作っているのかはわからない。
でも、目覚めてすでにご飯があるなんて、今でも夢のようです。
小さな食卓に並べられた朝ごはん――ご飯、味噌汁、焼き魚、たまにパンケーキなんかもあったりして……普通の家庭の朝ごはんみたいだけど、私にとっては何よりの贅沢です。
「いただきます」
そう呟いて、静かに食べる。
ここには私しかいないから、食事中に会話はありません。
でも、なんだかそれが落ち着きます。
ご飯を食べ終え、歯磨きをして着替えると朝のトレーニングを始めます。
お父様が整えてくれた設備には、トレーニングに必要な器具が揃っている。
お父様や、時々来てくれるお手伝いさんと一緒に作ったメニューに従って、まずは柔軟と体操から始めるのが私の日課です。
「よし、次はプランク……1分、2分、3分……!」
時間を数えるたびに腹筋が痛み出すけれど、体を鍛えるのはなんだか楽しい。
その後は腕立て伏せやダンベルを使ったトレーニングを行う。
「……97、98、99、100……」
これで3セット目、今日の基礎トレーニングは終わり。
「ふう……」
汗が滴り落ちるけれど、それが私に「今日も頑張った」と教えてくれる気がして、少しだけ誇らしい気持ちになります。
体を鍛えるたびに、自分が少しずつ強くなっていく気がして、それが嬉しいんです。
次は個性の訓練。
最近は「幻惑」を使って、小さなものに幻影をまとわせる練習をしている。
例えば、手元に置いたリンゴに個性を使い、それを別の果物――バナナやオレンジ――に見えるようにする。
「んん……こんな感じ?」
目を細めて集中し、リンゴに意識を向ける。リンゴがだんだんオレンジの色に変わっていく。形も変わり、少しだけリアルに近づいてきた。
「……よし!」
出来た、と思った瞬間に幻影が揺らぎ始める。まだ完全に形を維持するのは難しい。
でも、こうして少しずつできることが増えていくたびに楽しくなる。
最近はもっと難しい訓練にも挑戦している。
空間そのものを使って幻惑を作り出すーたとえば何もない皿の上にリンゴがあるように見せる技術。
これを習得できれば、私の幻惑はもっと自由に使えるはずだ。
頭の中で、空っぽの皿の上に赤いリンゴを描く。その輪郭、色、質感ーー1つ1つ細かくイメージする。
「……集中……」
目を閉じて念じると、視界の隅にリンゴの幻影が浮かび上がってきた。
けれど、1分も経たないうちに幻影は揺らぎ、ついには消えてしまった。
「やっぱりまだ1分が限界か……」
幻惑を長時間維持するのは難しい。
でも、できることが増えるたびに楽しくなるのも事実だ。
これを何度かしたり、幻影をまとわせる訓練を繰り返す。
しばらくした後は、汗をかいたのでシャワーを浴びる。
そして昼ごはんの準備をする。お昼はいつも自分で作る。
食事を終えると、黒霧を呼んでワープゲートでドクターの研究所に向かう。
「おお、冥来たか!」
「こんにちはドクター、今日もお手伝いに来たよ。」
「助かるのう。まずは脳無のデータ整理じゃ、記録も一緒にやろうか」
私はドクターの指示に従い、脳無の観察データをまとめたり、資料を整理する。
脳無とはお父様の個性とDNAの混成や薬物などによる改造で無理矢理複数の個性を与え、人工的に作り出した改造人間。
初めは衝撃的で驚いていたが、今では“慣れて“しまった。
「ドクターこれ…フードちゃんの資料どこに置いたらいい?」
「ん?ああそれか、こっちに持って来てくれ」
この資料の脳無はフードちゃん、私がお父様たちと出会う数年前から作られている子らしい。
再調整が終わってないけどもう1年ほどすれば調整が終わる想定だという。
そして色々聞けば聞くほど自分自身が不思議に思える。
馴染み浸透する個性でもない限り、一人の人間が複数の個性を持つことは不可能に近いらしい。
脳無はお父様の個性と人体改造によってそれを無理矢理可能としている。生きた人間では複数個性の負荷に耐えられず人形のようになってしまう為、人間の遺体を使うという方法で解決したと教えてもらった。
けど私は耐えれている。まだ個性が2つだけど人形のようになっているわけでもないし、知能が低下することも今の所感じない。
あとは……私の他に改造なしで個性多数所持をしている人、確かギガントマキアさん?だっけ…
私は現在「幻惑・炎華」の2つ、ギガントマキアさんは7個持ちらしい、私もそのくらい耐えれるようになりたいな…
そう願いながらもここでの日課を行う。
現在私とドクターは私の細胞の一部を脳無に投与する実験を行なっている。
脳無に適応能力を与えることができれば、より早く複数個性を持たせることができ、進化できると考えたからだ。
しかしほぼ毎日変化があるか確認しているけど、結果はあまり芳しくない。
定期的に投与しているが、指一本など大量投与はできないし、少しだけだと効果が薄いためか、なかなか変化が見られない。
なので今日こそは変化を確かめたい…
「!?ドクター、見て見て!私の細胞を投与した脳無の数値に変化ある!!」
私はカプセルに搭載されているモニターを指差す。
「なに!?どれじゃ」
「ほらこれ、波が激しい」
私は脳無の入ったカプセルについているタブレットを指差す。
「おお本当じゃ、これは期待ものじゃな」
ドクターと私は興奮して、数値の変動をじっと見つめた。けれど、その喜びも長くは続かなかった。
期待も束の間、脳無の体の一部が崩壊を始めた。
「あれ……?体の一部が崩れてる…?」
「ふむ、変化に対応しなかったか…?細胞が不適合の場合もあるということか?」
ドクターは顎を撫でながら分析を始める。
私の細胞はまだ未知の部分が多いらしく、脳無への影響を完全に把握するには時間がかかるらしい。
「ドクター、私、あれしとく、試験管に私の細胞入れて、薬品につけるやつ」
「そうじゃな、しばらく脳無も時間を待つだけじゃからそっちを優先するか」
ドクターも楽しそうに研究を行い、冥もその後ろをついていく。
ドクターと一緒に実験を進めていると、あっという間に数時間が過ぎてしまう。
夢中になれるものがあると、時間が経つのが早い。
「あっ!そろそろ時間…」
「もうそんな時間か、続きはまた明日すればよい。」
「そうだね、ドクターまた明日来るよ」
私はドクターからいくつかの資料をもらいワープゲートで家に帰る。
いっぱい勉強して、私もすごいの作るんだ!
お父様とは夜に会うことが多い。
日が沈む頃になると、私は自然とお父様の気配を待つようになっている。
お父様が来てくれるという確信が、私の中に深く根付いているのだ。
お父様は個性伸ばしを見てくれたり、攻撃を避けるための訓練などを手伝ってくれる。どんな時も厳しい言葉をかけたりはしない。
アドバイスはくれるけれど、決して答えを教えてくれるわけではない。自分で考えさせて課題を見つけ、自分の力で解決するように導いてくれる。
「お父様!!」
姿を見つけると、私は思わず声を張り上げる。
「やぁ冥、今日はどうだったかい?」
お父様の柔らかな声が、隠れ家に静かに響いた
「今日はいつも通り幻惑の個性伸ばししたり、トレーニングしたり…そういえば私の細胞を投与した脳無の結果とかも出たの!」
「結果はどうだったんだい?」
その問いかけに、私は少し肩を落として答える。
「うまくいかなかった…変化に耐えれなかったみたい」
お父様は考え込むようにうなずくと、いつものように私を励ますような目で微笑んだ。
「それより、今日も炎華の訓練するんだろう?」
「うん!!」
「ならいつもの訓練所に行こうか」
ワープゲートをくぐる。向かう先は山奥の廃校。そこは、私専用の訓練所となっている場所だ。
ひんやりとした夜の空気が肌を刺す。月明かりが荒れ果てた廃校のグラウンドを照らし、うっすらと白い光の筋を描いている。
雑草が伸び放題の地面には、かつての白線の跡がかすかに残っている。背後にそびえる校舎は、窓枠が風に揺れる音を立て、薄暗い影をグラウンドに落としている。
「さて、どこまで進んだか僕に見せてくれるかな?」
お父様が優しく問いかける。
私の胸は少しだけ高鳴った。訓練は厳しいけれど、成果を見てもらえることが嬉しいからだ。
私は炎の調整を行なっていた。
この“個性”ー炎華ーは自身の周囲に炎を出すものだ。
わかったのは炎は火炎放射のように出すことはできないが、残留性があると言うこと。しかし意識しないと炎は消えてしまう。そのため炎を凝縮させる技術が必要ではないかと考えた。
現在調整できる火力、操作性、現状の分析に時間を費やし、調整している。
今日はその応用を試す。
「蝶…」
私は集中して炎を手のひらに灯す。空間を把握して炎を一箇所に集める。形を頭でイメージし、炎の流れを意識しながら力を均等に加える。
炎は徐々に形を成し、蝶のような姿へと変わる。赤い羽がわずかに揺らめき、周囲の空気を震わせていた。
「いけ……!」
私はその蝶ををお父様に向けて放つ。
ふわり、と宙を舞いながらお父様に向かって飛んでいく。しかし速度はまだ遅く、集中を途切れさせれば形が崩れ、炎が散って消えてしまう。
蝶はなんとかお父様の前に辿り着いたが、触れる寸前で形を崩し、跡形もなく消え去った。
「……まだ火力も速度も全然足りない。」
悔しさが滲む声で呟くと、お父様は優しい微笑みを浮かべて頷いた。
「焦らず、一歩一歩やっていこう。こうして形を作り出したのは大きな成果だよ。」
その言葉に、私の胸が少し軽くなった気がする。
「はい……もう一回お願いします!」
「何度でも来るといい」
夜風が頬を撫でる中、何度も何度も炎の蝶を作り出し、放ち続ける。形を保とうとすれば速度が落ち、火力を上げれば炎が暴発してしまう。失敗の連続だったけれど、そのたびに私は新しい何かを掴もうとしていた。
集中が続く中、ふと汗が首筋を伝う感覚を覚えた。額から滴り落ちる汗がグラウンドに染み込み、わずかな水音を立てる。炎の熱が近くにあるはずなのに、風がそれをかき消していく。
ふと、お父様が口を開く。
「火力や速度を上げるのも大事だが、何か見落としていることはないかい?」
「見落としていること……?」
私は思わず立ち止まり、炎を操る自分の動作を振り返る。
蝶を作る際の炎の流れ、手元での制御、集中の仕方……何かに気づくためにはもっと細かく観察しなければならない。
「はっ!」
一つの可能性に気づいた私は、すぐに試し始めた。
炎の蝶を放つ際、無駄にエネルギーを放出しすぎている部分があった。火力や速度を上げれば蝶を飛ばすこと自体はできると考えていて、より炎を凝縮させようとしている節があった。
火力と速度は意識せず、最低限でできるように調節し、炎の流れを意識的に整え直す。
蝶の形が少し安定し、速度が上がった。
そして今度はお父様に届いた。
「いいね、冥。君は本当に飲み込みが早い。」
お父様は満足そうに頷きながらそう言った。
その言葉に胸が熱くなった。
自然と笑みがこぼれる。それでも火力や速度はまだ不十分、課題は山積みだ。
私は次の蝶を作るため、再び手のひらに炎を灯す。
「はぁ……はぁ……」
息が上がり、額から汗が伝う。それでも歯を食いしばり、再び蝶を生み出す。
「今日はここまでにしようか」
お父様がそっと肩に手を置く。その手は優しく温かい。
「まだ……大丈夫です。」
「無理は良くないよ。体力が尽きた時は判断力も落ちる。続きは明日やればいい。」
「わかりました……」
お父様の言葉に促され、私は渋々頷く。
「さあ、帰ろう。家に戻って休息を取るのも訓練の一環だよ。」
お父様は優しい。私の考えを否定しない、しっかり受け止めてアドバイスしてくれる、けど無理をしようとしたら止めてくる。この人が本当に悪の帝王かと疑うほど優しさを感じる。
「僕はこれから少しやることがあるから、先に家に戻っておいてくれ」
「お父様、予定があったの?ごめんなさい訓練に付き合わせて……」
「謝る必要はないよ、大した予定ではないからね。それに僕が訓練を見たかったんだ。」
「……わかりました。訓練ありがとうございます!家に戻っていますね」
黒霧のワープゲートへと向かう私を見送りながら、お父様は静かに微笑んでいた。
振り返ると、荒れ果てたグラウンドが再び静寂に包まれている。次にここに立つ時、私は今日の訓練を越えた自分になっているはずだ。
こんな感じで過去とかたまに挟んでいきます。
冥録回はサブタイトルに《冥録》とあります。