闇に咲く火種   作:五時葵

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10話 体育祭①

雄英高校会議室には教師陣が集まり、USJ襲撃事件の報告と対応について議論を重ねていた。重々しい空気が漂う中、塚内警部が淡々と調査結果を報告する。

 

 

「死柄木という名前、触れたモノを粉々にする個性、20〜30代の個性登録を洗いましたが、該当なしです。ワープゲートの黒霧も同様です。無戸籍かつ偽名…個性届を出していない、いわゆる裏の人間です。最後に現れた仮面の人物に関しては、情報が少なく、個性も不明なため白い靄・霧などの個性登録から洗ったものの情報は掴めませんでした。おそらくこちらも個性届を提出していない裏の人間と考えられます。」

 

塚内警部の言葉に、静かに首を振る者もいれば、額に手を当てて考え込む者もいた。その中でスナイプが口を開く。

 

「何もわかってねぇってことだな…早くしないと死柄木とかいう主犯の銃創が治ったら面倒だ。それに仮面の敵…靄が俺の銃弾を消していたことからただの靄じゃねぇってことはわかる。黒霧同様転移系の可能性もある。」

 

「主犯か…」

 

オールマイトが低く呟いた。その声に全員が注目する。

 

「なんだいオールマイト?」

 

「大胆な襲撃、用意はされていたのにも関わらず…突然なそれっぽい暴論や脳無とやらの自慢、思い通りにいかないと露骨に気分が悪くなる。死柄木の人物像は幼児的万能感が抜けきらない“子ども大人”だ」

 

「“力”を持った子どもってわけか」

「“個性”カウンセリングを受けてないのかしら」

 

「先日USJで検挙した敵の数72名、どれも路地裏に潜んでいるような小物ばかりだった。問題はそういう人間が“子ども大人”に賛同しついていったことだ。ヒーローが飽和した現代では抑圧されてきた悪意たちが無邪気な邪悪に惹かれるのかもしれない。」

 

 

「“子ども大人”…いわば生徒と同じ成長する余地がある。恐ろしいのが指導者がいる可能性が高いということだ。あの仮面の敵は「忘れ物ー脳無ーを回収しにきた」と言っていた。このことから死柄木のサポーターもしくは協力者として考えられる。もしあのレベルが複数いるならまずいね。」

 

 

「そうですね…だからこそ一刻も早く奴らを捕まえなければならない…」

 

──────────

 

病院を退院し、私は雄英高校へと登校した。

A組の扉を開けると視線がこちらへ向くのに気づく。

 

「灯里ちゃん!!大丈夫やったん?」「無事だったんだね」

 

教室にいたクラスメイトが一斉に集まってきた。その表情には心配と安堵が混ざっている。

 

「なんとか無事だったよ、幸いにも気絶させられただけだったから運が良かった、それより相澤先生や13号も大怪我したって聞いたし緑谷君、君も怪我したんだよね大丈夫?」

 

緑谷君に近づいて尋ねる。

 

「ぼ、僕は、だ、大丈夫だよ」

 

「皆ーーー!朝のHRが始まる、席につけー!」

 

飯田君のいつもと変わらない呼びかけを聞き、皆んなが自分の席に戻っていく。

 

そして全員が席についたと同時に扉が開かれる。

 

「お早う」

 

「「相澤先生復帰早えええ!!!!」」

 

教室全体が驚きの声に包まれる。包帯だらけの相澤先生が姿を現した。

流石にあのレベルの怪我でもう復帰してくるのはすごいと思った。

 

「俺の安否はどうでもいい、何より戦いは終わってねぇ」

 

その一言で教室が静まり返る。生徒たちは緊張感を取り戻したように、相澤先生の次の言葉を待った。

 

「雄英体育祭が迫ってる!」

 

「「クソ学校っぽいの来たあああ!!」」

 

教室全体が一転して歓声に包まれる。相澤先生の口から「体育祭」という言葉が出た瞬間、場の雰囲気が一気に明るくなった

 

その後相澤先生が説明し始めた。

かつてのオリンピックに代わるもの、スカウト目的などのイベントらしい。

一応知ってはいたがこう聞くとかなり重要なイベントなんだなと実感する。

 

その後は特に何もなく、せっかく雄英だし訓練所借りて炎華の精度でも上げていこうか、など考えながら時間が過ぎていった。

 

 

放課後、いつも通り帰ろうとすると扉の方でザワザワしている。多くの生徒が集まっている。

 

「敵情視察だろザコ、敵の襲撃を耐えた連中を体育祭前に見に来ただけだろ。意味ねぇからどけモブ共」

 

爆豪君の荒々しい声が廊下に響く。

 

「どんなものかと見に来たものだがずいぶん偉そうだなぁ、ヒーロー科に在籍する奴は皆んなこんなのかい?こういうの見ちゃうと幻滅するなぁ普通科ってヒーロー科から落ちた奴結構多いんだぜ。体育祭のリザルトによってはヒーロー科編入も検討してくれるらしい。その逆も然り、少なくとも俺は宣戦布告しに来たつもり。」

 

「隣のB組のモンだけどよ、エラく調子づいちゃってんな、オイ!!!」

 

普通科とB組の子がそう言ってきた。

 

彼らの言葉に爆豪君が更に反応しそうだったので、私は彼の元へと歩み寄った。

 

「爆豪君、それ以上ヘイトを集めるのはやめようか」

 

そっと近づき爆豪の口を押さえつける。爆豪君は怒りの目でこちらを見てきたが、無視して普通科とB組の生徒たちに向き直る。

 

「うちの爆豪君が失礼な態度をとってしまってすみません。決してA組の皆んなが“こんな”やつだけではないのでご理解していただきたいです。」

 

抑える手を振り離そうと、もがく爆豪を押さえつけながら少し頭を下げる。

 

廊下に響く雑踏は少し静かになった。私が頭を下げたことで、普通科の紫髪の生徒も少し気まずそうに視線を逸らす。

 

「爆豪君が“こんな”ので皆さんを幻滅させてしまうのはわかるのですが………私としては在校生は“こんなにも非常識”なのかと、幻滅しました。」

 

低く、冷ややかな声が廊下を包む。周囲の空気がピリついたのを感じる。

 

「「え?」」

 

唐突な暗い声に周りもA組の生徒も困惑な声を上げる。

 

「皆さんご存知の通り、私達A組は襲撃を受け耐え抜きました。しかし怪我人も出ました。私自身も強力な敵にやられ人質として取られていました。担任の相澤先生も重症を負い、それでも今日こうして登校しています。襲撃を受け、より強くなろうと思う人もいれば、不安が払われていない生徒もいます。それくらいはわかるはずなのに、考えも無しに宣戦布告…」

 

廊下全体が緊張で静まり返る…

 

「それにヒーロー科編入を目指すのなら、この時間を少しでも多く訓練に使うべきでは?」

 

紫髪の生徒が苦い表情を浮かべながら口を開いた。

 

「お前、どうせ強個性なんだろ…そんな奴に気持ちがわかるかよ…」

 

「気持ちはまぁわかりますよ。」

 

私は彼をじっと見つめた。おそらく彼の個性は戦闘不向きの精神系や回復、あるいはサポート向きだろう。

 

「あと、あなたは戦闘不向きの個性なんですね…ですがA組にも不向きの人はいますよ。」

 

その言葉に彼が反論しようとした瞬間、私は少しだけ声を低くして続けた。

 

「戦闘不向きの個性なら、体術はできますか?個性なしでも戦えるくらいの……」

 

私の言葉に、紫髪の生徒は何も言えなくなり、黙り込んだ。周りにいた生徒たちも同じように気まずそうな顔をしている。

 

私は少し微笑みを浮かべて首を傾げた。

 

「私は帰るから…そこどいてもらえる?」

 

圧を解き、いつも通りの笑顔に戻ってそう言うと、集まっていた人は私が通れるように道を開けてくれる。

正直言い過ぎたかなと思うかなと思ったりするが、このくらいならまぁいいだろう。実際道を塞ぐようにしてて迷惑だし。

 

「何なんだよ、あの女……」

 

周囲の視線を感じながら私は静かに廊下を進んだ。さっきのやり取りが気まずい空気を残しているのはわかっている。それでも振り返ることなく、校門に向かって歩みを進めた。

 

 

「蝶女!」

 

振り返ると、追いかけてきたのか爆豪君がそこに立っていた。息を荒げ、眉間に皺を寄せている。

 

「何か用?」

 

私は冷静を装いながら問いかける。

 

「なんでてめぇが勝手に俺の口を押さえんだよ!」

 

なんだ、その話か、と心の中で溜息をついたが、表情には出さないようにする。

 

「爆豪君、あの場であなたがもっと余計なことを言ったら、A組全員が悪く見られるってわかってる?」

 

「関係ねぇだろ! あいつらがモブなのは事実じゃねぇか!」

 

その言葉に、私は一瞬足を止めた。そして、静かに振り返る。

 

「爆豪君、あなたのそういうところ、正直好きじゃない。」

 

「はぁ?」

 

彼は眉をひそめる。

 

「“モブ”とか、“ザコ”とか、そういう言葉で簡単に他人を切り捨てるのが。確かに彼らはヒーロー科じゃないかもしれない。実力が足りないかもしれない。でもそれを理由に見下すのは違う。」

 

爆豪君は口を開きかけたが、私がそれを遮る。

 

「ヒーローになるって、誰かを助けることじゃないの? 誰かを見下したり切り捨てたりする人が、本当にヒーローになれると思う?」

 

「俺は――」

 

「“勝つ”とか、“上へ行く”とか、それがあなたの信念なのはわかる。でも、他人を“モブ”なんて呼ぶ人が頂点に立って、何を守れるの?」

 

私は言葉を吐き捨てるように言った後、大きく息を吐いた。

 

「……そんなんでヒーローになりたいって言うなら、君はヒーローにはなれない。」

 

爆豪君の目がわずかに見開かれたが、それ以上何も言わなかった。

 

私は歩き出そうとしたが、背後から低く、しかし鋭い声が響いた。

 

 

「関係ねぇ。」

 

足が止まる。

 

「俺は勝つ。それだけだ。誰に何を言われても、誰がどう思っても。勝って上がればいい。それが全てだ。」

 

彼の声には強い決意がこもっていた。

 

「デクにも、半分野郎にも、お前にも。勝って、俺は上へ行く。それだけだ。」

 

彼の言葉には一切の迷いがなかった。

 

「……そう。」

 

その一言を残して、私は歩き出した。彼がまだ私を見ているのを感じたけれど、振り返ることはしなかった。

 

──────────

 

時間はあっという間に過ぎ、今日は体育祭の日。

雄英高校の生徒たちが、それぞれの目標や決意を胸に挑む舞台が幕を開ける。

 

『………ヒーロー科!!1年!!A組だろぉぉ!!?』

 

プレゼント・マイクの熱い実況がスタジアムに響き渡る。

観客の歓声と興奮の中、1-Aの生徒たちが入場する。

 

「行こうか……」

 

紹介が終わった後、他クラス――B組、普通科C・D・E組、サポート科、経営科と続いて入場してくるが、1-Aだけが目立つ演出に、周囲から敵意が向けられているのがわかる。

 

「選手宣誓!!1-A 橘灯里!!」

 

名前を呼ばれる。ああ、そうだ。入試一位の私が宣誓を担当しなければならないんだった。

呼ばれるまま、舞台の方へ歩いていく。

 

「宣誓!」

 

声を上げると、会場が静まり返る。

 

「私たちは、この雄英体育祭を通じて、自らの可能性を追い求め、学び、挑戦することを誓います。それぞれが異なる目標や役割を持ちながらも、互いに切磋琢磨し、この場を全力で駆け抜けていきます。競い合う中で見つける課題、助け合う中で得る成長、そして、全ての経験が未来へ繋がる力となることを信じて。私たちは、雄英高校の生徒としての誇りを胸に、規律を守り、正々堂々とこの体育祭に挑むことをここに誓います。」

 

静寂の中にどこか確信を宿す声で、宣誓を終えた。場内から拍手が起こる。その拍手を背に、再び元の位置へと戻った。

 

すぐに第一競技の説明がミッドナイトから告げられる。競技は障害物競走。

スタート地点へ移動すると、生徒たちがギュウギュウ詰めに押し寄せていた。

 

『スタート!!』

 

合図と共に私は即座に地面を蹴り、周囲の生徒たちを飛び越えるように進む。

 

パキパキッ……

 

振り返ると、地面が一面凍りついていた。焦凍の仕業だ。足を取られた生徒たちが動けなくなっている。だが、A組の生徒たちは当然それを察知しており、適切に回避している。

 

前方に視線を戻すと、0P仮想敵の群れが目に入る。

 

『まず手始め…第一関門、ロボ・インフェルノ!!』

 

「獄蝶……」

 

0Pの足元を狙い、蝶を放つ。蝶が機械の関節を焼き切り、0Pは重力に逆らえず倒れ込む。その巨体は他の生徒たちの進路を塞ぐ障害となる。

 

『1-A 橘も轟の後に続いて突破!轟同様、攻略と妨害を一度に!』

 

『おっと1-A 爆豪、下がダメなら頭上かよー!!こいつはクレバー』

 

続々と第一関門を突破して行く中、第二関門へと突入する。

 

『第二関門、落ちればアウト!それが嫌なら這いずりな!ザ・フォール!!』

 

崖か、蝶…

両手を広げるようにして蝶を生み出し、崖にかかるロープを燃やす。

完全には燃やさず、最低限の部分を残す。そのルートは遠回りになり、生徒たちにとっては明らかに不利だ

 

『おいおい 橘、縄燃やしちまったぞ、こいつはクレイジーだ!!』

 

正直崖なんぞなんの障害にもならない、縄を走り、崖から崖へ飛び移り、最短ルートで突破する。

 

 

『戦闘が一足抜けて下はダンゴ状態!そして早くも最終関門!!かくしてその実態はー一面地雷原!!怒りのアフガンだ!!』

 

「焦凍、足止まってるじゃん、お先」

 

淡々と呟きながら地面を蹴り、勢いよく前方へと飛び出す。その動きには迷いがなく、地雷の存在を全く気にしない。

 

「っ!」

 

轟が灯里の背を見つめながら眉を潜める。慎重かつ後続を気にしている焦凍を抜き、地雷原を無視して突き進む。

 

軽い振動が足元に伝わる中、わずかに足を動かして地雷を避けるだけで進む。少しの衝撃や爆発音は気にも留めない。その冷静さに他の生徒たちが目を見張る中、さらに爆破音が轟く。

 

「はっはぁ俺は関係ねー!俺より先に行くんじゃねぇ、てめぇ宣戦布告する相手を間違ってんじゃねぇよ」

 

爆豪が叫びながら爆破を利用して加速し、轟を追い抜いていく。そのスピードは速く、勢いに乗って灯里に追いつこうとする。

 

「そっちの話に巻き込まないでもらえる?」

 

冷静な声でそう返し、ちらりと爆豪を横目で見る。表情は変わらず、少しも焦っていない。

 

その時、焦凍が速度を上げ、氷を使って再び灯里に並びかける。氷の冷気が空気を裂き、砂ぼこりを一瞬で凍らせながら進む。

 

『喜べマスメディア!!お前ら好みの展開だああ!!後続もスパートをかけてきた!!だが引っ張り合いながらも先頭3人がリードかあ!!?」

 

実況の声がスタジアム中に響き渡るが、3人はお互いの動きを気にしつつも前方へ集中している。

 

「二人とも邪魔……獄蝶…」

 

「「っ!」」

 

静かな声と共に、手元から生み出された炎の蝶が爆豪と轟の間を舞うように飛ぶ。そしてそのまま二人の腹部にぶつかり、衝撃で足を止めさせる。

 

「「っ!」」

 

爆豪と轟は一瞬バランスを崩し、わずかに遅れる。その間に速度を緩めることなく前方へ進む。

背後でまた大きな爆破音が鳴り響く。

 

BOOOOOM

 

『後方で大爆発!?A組 緑谷 暴風で猛追!!?――抜いたああああー!!』

 

「デク!!俺の前に行くんじゃねえ!!!」

「後続を気にする場合じゃねぇ」

 

「……」

 

爆豪君と焦凍は足の引っ張り合いをやめたか。そして緑谷君が抜かしてきた…でも失速、これなら問題ない…

 

ドッ…ボオオン

 

緑谷がさらに大量の地雷を発動させ、その爆風を利用して一気に前へ跳ぶ。その動きは大胆で、三人と差を広げる。

 

『緑谷間髪入れず後続妨害…いや橘がものともせず、爆発を抜けてくる!!』

 

これは間に合わないな…

 

『さァさァ誰が予想できた!?今一番にスタジアムに還ってきた男…緑谷出久の存在を!!!』

 

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