闇に咲く火種   作:五時葵

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今までサブタイトルは(前編)(後編)のように書いていましたが、①②のように書いた方がやりやすいので変更します。

あと流れが飛び飛びなところがあるのですが、お許しください。
行事前のこういう話を書くのは場面転換が苦手です…


16話 期末試験

時は流れ、六月最終週

期末テストまで残すところ一週間を切っていた。

 

「全く勉強してねー!!」

 

突然響いたのは、中間テスト最下位の上鳴の声。

近くの席で芦戸がヘラヘラと笑っているが、彼女も同じく勉強不足らしい。

 

「体育祭やら職場体験やらで全く勉強してねー!!」

 

訴えるような声に、周囲の何人かが頷いた。

中間テストの時は範囲が狭かった分、そこまで苦労はしなかったが、行事が立て続けに入ったことで、勉強時間が思うように取れなかったのだ。

 

「やっぱ、全員で林間合宿に行きたいもんね!」

「うむ!」

「普通に授業うけてりゃ赤点はでねえだろ」

「今からでも頑張って勉強やろうか」

 

前向きな声が上がる中、上鳴はうめき声をあげる。

5位の緑谷、4位の飯田、6位の轟、そして2位の灯里。

学年上位のメンバーからの励ましは、追い込まれた上鳴の心にグサグサと突き刺さった。

 

「言葉には気をつけろ!!」

 

灯里は特に問題なくテストをこなせていた。

唯一、現代文で数点落としたものの、他の教科は満点に近い。

 

そんな中、八百万が自主的に勉強会を開くことを提案すると、教室は少し活気づいた。

 

時間はゆっくりと、しかし確実に、期末試験の日へと進んでいく。

 

─────────────

 

 

演習試験当日。

 

「それじゃあ演習試験を始めていく」

 

相澤の静かだが鋭い声が響く。

 

「この試験でももちろん赤点はある。林間合宿に行きたけりゃ、みっともねえヘマはするなよ。」

 

見る限り、教師は9人。

 

以前B組の拳藤さんから聞いていたのは“ロボットの実践演習”だったが、教師陣の並びを見て、灯里はすぐにそれが違うことを察した。

 

周囲では、クラスメイトたちが「ロボ無双!」と浮かれた声を上げていたが、彼らもすぐに気づくだろう。

その甘い期待が根底から覆されることに――。

 

「残念!!諸事情があって、今回から内容を変更しちゃうのさ!」

 

相澤先生の束縛布から飛び出してきたのは、根津校長だった。

彼の口から語られたのは、対人戦闘・活動を見据えた、より実戦的な訓練への変更。

 

これは、明らかに敵活性化を考慮した対策だろう。

 

「諸君には二人一組で、ここにいる教師一人と戦闘を行ってもらう!」

 

根津校長の言葉に、クラスメイトたちが息を呑む。

 

「ペアの組み合わせと対戦する教師はこちらの独断で決めさせてもらった。」

 

相澤先生が淡々と説明を続け、ペアと対戦相手を発表し始める。

 

「まず轟と八百万が俺とだ。」

 

轟と八百万――個性頼りの二人に対し、個性を封じるイレイザーヘッド。

なるほど、個性に依存せず戦う力を試すということか。

 

そして――

 

「そして緑谷と爆豪がチーム。相手は……」

 

一瞬の間を置き、誰かが前に出る気配がした。

 

「私がする!」

 

オールマイトが、堂々と二人の前に立つ。

 

ペアとしては最悪の組み合わせ。

だが、協力しなければ決して勝てない相手。

 

いざという時、協力するかどうか――

そういう点を見極めようとしているのだろう。

 

続々とペアと対戦相手が発表されていく。

そして、灯里の名前も呼ばれた。

 

「切島と橘、相手はセメントスだ。」

 

隣にいた切島が拳を軽く鳴らしながら笑う。

 

「橘、よろしく頼むぜ!」

「切島君、こちらこそよろしく。」

 

───────────────

 

数日前、雄英高校の会議室。

教師陣は各自、手元の資料に目を通していた。

 

「まずは轟。一通り申し分ないが、全体的に力押しのきらいがあります。そして八百万は万能だが、咄嗟の判断力や応用に欠ける……」

 

教師たちは黙って聞きながら、それぞれの生徒のデータを確認する。

 

「よって俺が個性を消し、接近戦闘で弱みを突きます。」

 

轟と八百万の戦闘スタイルを考えれば、妥当な組み合わせだった。

彼らは基本的に個性を軸に戦う。だからこそ、個性を封じた戦闘を経験させることで、より実戦的な対応力を身につけさせるのが狙いだ。

 

次に、イレイザーヘッドの視線が別の名前へと移る。

 

「緑谷と爆豪ですが……オールマイトさん、頼みます。」

 

その言葉に、オールマイトが資料から顔を上げた。

 

「この二人に関しては、能力や成績で組んだわけではありません……」

 

「ひとえに仲の悪さ」

 

言葉の裏に込められた意味を理解し、オールマイトは静かに頷いた。

この試験では、個の強さだけでなく、協調性も試される。

特に爆豪と緑谷、この二人の関係性を考えれば、共闘が必要な戦闘こそ最適だろう。

 

 

「そして問題なのが橘。」

 

イレイザーヘッドの声色が僅かに変わる。

 

灯里は良くも悪くもイレイザーヘッドを悩ませていた。

 

近距離・中距離ともに問題なく、スナイプが遠距離で戦っても、即座に接近し有利な戦いに持っていくと考えられる。

オールマイトとの戦闘も視野に入れたが、緑谷・爆豪が問題になる…

 

「セメントス、お願いします。」

 

セメントスが静かに頷く。

 

「おそらく、この中で彼女と相性がいいのはあなたです。近距離になれば、炎は味方に被害をもたらす可能性がある。彼女でも、永続的にコンクリートで防がれては突破に時間がかかるでしょう。」

 

───────────────

 

学内バスでステージへ移動し、セメントスから試験の説明を受ける。

 

クリア条件は2つ。

1つ目は、ハンドカフスをセメントスに掛ける。

2つ目は、どちらか一人がステージから脱出する。

 

制限時間以内にどちらかを達成すればクリアらしい。

 

教師側はハンデとして、自身の体重の約半分の重量を装着する。

おそらく戦闘を考慮した、実力差を埋めるための措置だった。

 

「話した通り、二手に分かれてゴールを目指そう!」

 

開始前に2人は作戦を立てていた。

 

セメントスと真正面から戦えば、必然的に消耗戦になる。

相手は地形を自在に操れるため、攻撃の弾切れが起こらず、体力が続く限り延々と足止めが可能だ。

灯里は個性なしでもコンクリートを破壊することはできるが、USJで戦った際に感じた通り、あの速度で永続的に防がれ続けると、多少本気を出さないと突破は難しかった。

 

今でも充分目立ち、実力を示している灯里はこれ以上力を出すのが嫌だった。

そのため逃げる選択を選んだのであった。

 

『橘・切島チーム、演習試験レディゴォ!!!』

 

試験開始の合図が鳴る。

 

瞬間、灯里と切島は一斉に走り出した。

足音が響き渡る中、二人は予定通りの動きを開始する。

 

数分後――

 

灯里は遮蔽物を利用しながら、慎重に前進していた。

セメントスは切島の方へ集中しているのか、こちらには気配がない。

 

このままいけば……

 

そう思った矢先、視界の先に見えたもの――

 

コンクリートの壁。

 

ゴールを囲むように、高く、厚く積み上げられた巨大な障壁。

 

そしてそのすぐ近く――

 

完全に囲われたコンクリートのドームがあった。

 

姿は見えないが、内部から鈍い衝撃音が響いてくる。

何度も壁を殴る音、くぐもった叫び声――切島が閉じ込められているのは間違いないだろう。

 

コンクリートで捕えることができたのか、セメントスは地面から手を離す。

 

「いいかい、戦闘ってのはいかに自分の得意を押し付けるかだよ。」

 

分厚いコンクリートの壁を背に、セメントスは淡々と語る。

 

そんな中、セメントスの耳に冷静な声が届いた。

 

「切島君は正面から戦いに行きましたか?」

 

セメントスが目を向けると、そこにはすでに灯里が接近していた。

 

「いつのまに!?」

 

気づいた時には、すでに目の前。

 

灯里は小さく息を吐きながら言葉を続ける。

 

「見つかったら、逃げ重視と言ったのですが、周囲のコンクリートの破片から戦闘の様子が伺えます。」

 

セメントスが一瞬驚きを見せたその隙を逃さず、灯里はセメントスの横を抜け、ゴールへ向かって一気に踏み込む。

 

「声をかけなければこのまま突破できたのでは!?」

 

セメントスは即座に反応し、目の前にコンクリートの壁を出現させる。

 

ドンッ!!

 

灯里の進路を塞ぐように分厚い壁が立ちはだかる。

 

「くっ!?」

 

灯里は瞬時に蝶を発生させる。

 

「極蝶」

 

炎の蝶がコンクリートを焼きながら飛翔するが、セメントスはそれよりも早く、周囲にさらなる壁を生み出し相殺する。

 

バチバチッ……!!

 

熱とコンクリートがぶつかり合い、煙が辺りを包む。

 

「……っ!」

 

灯里は気づけばコンクリートに飲み込まれていた。

 

 

セメントスは、切島の時よりもさらに厚くコンクリートを積み上げると、そのままうねらせ、完全に灯里の動きを封じ込めたのだ。

 

切島は気絶し、通常ならば、このまま身動きを封じられ、試合終了となるはずだった。

 

しかし――

 

「いかに自分の得意を押し付けるかですよね?」

 

「……!?」

 

不意に響いた声と同時に、目の前には蝶がふわりいた。

そして蝶は光を放ち爆ぜた。

 

視界が灼ける――

 

「くっ……!!」

 

セメントスは反射的に腕で目元を庇う。しかし、一瞬手を離した、その一瞬の隙が命取りになる。

 

トン――!!

 

重量を感じさせない軽やかな着地音。

 

「切島君をいただいていきます」

 

爆ぜる炎の中から飛び出したのは、灯里――そして、その腕には気絶した切島が抱えられていた。

 

「!?」

 

セメントスが驚愕する間もなく、灯里はそのまま足場を蹴る。

 

閉じ込められていたコンクリートのドーム――

それ自体を足場に利用し、一気に跳躍する。

 

まるで弾かれた矢のように、灯里は空中を駆け抜け――

 

「橘・切島チーム条件達成!!」

 

着地と同時に、クリアの合図が鳴り響いた。

 

───────────────

 

 

 

そして期末実技試験が終了する中、裏では新たな動きがあった。

 

深夜。街は静まり返り、ビルの隙間を縫うように夜風が吹き抜ける。

街灯の光はぼんやりとした輪郭を浮かべ、辺りには人影ひとつない。

 

バーの扉を押し開ける。

 

「やぁ、お兄様」

 

軽い口調とは裏腹に、冥の声には微かな棘が含まれていた。

 

「ステインの件、どうでした?」

 

弔はゆっくりと冥を見る。

 

「こっちの目的を察してくれて助かった」

 

素っ気なく答える弔。

 

冥はカウンターに肘をつき、仮面越しに弔を見つめた。

 

「な〜ん〜で〜連絡くれないの?結果オーライだけど、連絡くれたら東京から離れてたし、もう少し上手く立ち回れたよ」

 

小さな溜め息交じりに、静かに詰め寄るような声。

 

「わかった、わかった。気をつける」

 

弔は煩わしそうに手を振ったが、その態度が冥の怒りを収めるはずもなかった。

 

「まぁまぁ、お二人とも」

 

割って入ったのは黒霧だった。

 

「死柄木冥、私が連絡をすべきでした。どうか、死柄木弔をお許しください」

 

黒霧の冷静な言葉に、冥はわずかに肩をすくめた。

 

その時――

 

再びバーの扉が開く。

 

「死柄木さん、こっちじゃ連日であんたらの話で持ちきりだぜ」

 

低い声とともに入ってきたのは、義爛。

裏社会で名の知れた大物ブローカー。その顔にはいつもと変わらぬ笑みが浮かんでいる。

 

だが、後に続く二人の人物は、場の空気をわずかに歪ませた。

 

火傷がひどい男と、セーラー服の少女。

 

バーの薄暗い照明の下、その二人は異様な雰囲気を漂わせていた。

 

「生で見ると…気色悪ィなァ」

 

火傷の男が目の前の死柄木弔を睨みつけるようにして言う。

静かに燃える炎のような視線。その言葉には挑発的な響きがあった。

 

「うわあ、ステ様の仲間だよねえ!?私も入れてよ!敵連合!」

 

セーラー服の少女――渡我被身子。

彼女は無邪気な笑みを浮かべながら、軽い足取りで室内へと踏み込んでくる。

 

「お兄様、お客さんを呼んでたの?まぁ、ちょうどいいか」

 

弔は冥の言葉を無視し、彼らを見るなり下を向いた。

 

「…黒霧、こいつらをトバせ。」

 

その声はいつになく苛立っている。

 

「俺の大嫌いなもんがセットで来やがった。餓鬼と礼儀知らず。」

 

静かなバーの空気が、ピリつく。

次の瞬間――

 

「ねェ、お兄様、私も含んでる?餓鬼って?」

 

冥の声が、場に響いた。

 

明るく、軽やかで、それでいて冷徹な響きを持つ声。

仮面越しに見えないはずの表情が、そこにわずかな怒りを孕んでいることを、誰もが感じ取った。

 

微かに空気が緊張する。

 

「せっかくご足労いただいたのですから、話だけでも伺いましょう死柄木弔」

 

間に入るのは黒霧だった。

いつもの穏やかな口調で、静かに弔をなだめる。

 

「あの大物ブローカーの紹介、戦力は間違いないハズです」

 

「はっ、どいつもこいつも好き勝手言いやがる…」

 

弔は苛立たしげに息を吐く。

 

「紹介だけでも聞いときなよ」

 

義爛が愉快そうに言いながら、セーラー服の少女を手招きする。

 

「まずこちらの可愛い女子高生。名も顔もメディアが守ってくれてるが、連続失血死事件の容疑者として追われている」

 

少女は嬉しそうに笑いながら、ぴょんと一歩前へ出た。

 

「トガです。トガヒミコ」

 

トガヒミコ

彼女は少し知っている。裏社会でも少し話題になっていた。

未成年でありながら、隠密・逃走スキルが高く、捕まったことがないという。

 

「生きにくいです!生きやすい世の中にしたいです!あと、ステ様になりたい!ステ様を殺したい!だから入れてよ、弔くん!」

 

「意味がわからん、破綻者かよ」

 

弔が冷めた目で呟く。

 

「会話は一応成り立つ、きっと役に立つよ」

 

義爛が肩をすくめながら言う。

 

「次はこちらの彼、目立った罪は犯していないが、ヒーロー殺しの思想にえらく固執している」

 

「不安だな…この組織本当に大義はあるのか?」

「まさかこのイカレ女、入れるんじゃねえよな?」

 

荼毘が本音をこぼす。

 

「おいおい、破綻JKにできてる、名乗ることすらできないのか」

 

「今は荼毘で通してる。」

 

「通すな、本名だ」

 

「出すべき時になったら出すさ、それよりそこの仮面女はなんだ?声も変声機で変え、顔すら出さない。そっちこそ顔ぐらい出したらどうだ」

 

荼毘の唐突に問われるが冥は冷静に返答する。

 

「名前は死柄木冥、弔の妹だよ。私も君と同じように、顔や声は出すべき時になったら出すさ。よろしく」

 

「そうか、なら俺も本名を出すつもりはない。」

 

冥と荼毘が会話する中、弔はより一層怒りが沸き、頭を抱える。

 

「お前ら、聞いてないことをベラベラと……気分が良くない…」

 

ゾア…

 

微かな音とともに、張り詰めた緊張が弾ける。

 

弔が2人に手を伸ばす。

そして荼毘とトガが同時に動き、荼毘の手からは煙が揺らぎ、トガのナイフが閃く。

 

「いけません」

「やめようか」

 

黒霧と冥の静かな声とともに、ワープが荼毘とトガの攻撃を僅かにずらす。そして霧の腕が弔の手を掴んだ。

 

「言い争いはいいけど、手を出すのはやめよ」

 

仮面越しの冥の視線が弔を射抜く。彼女の手は力強くも、優雅に弔の動きを止めていた。

 

「組織の拡大は必須。ここで敵対するのはやめるべきです」

 

黒霧が低く囁く。彼の言葉には、怒りでも焦りでもなく、ただ冷静な判断がある。

 

弔は舌打ちしながら冥の手を振り払うと、バーの奥へと歩いていった。

 

「黒霧、お兄様の方をお願い」

 

「わかりました」

 

黒霧は静かに弔の後を追う。その背中が消えると、バーの空気は少しだけ和らいだ。

 

「取引先にとやかく言いたくはないが…若いね、若すぎるよ」

 

義爛がタバコを口に咥え、紫煙をくゆらせながら呟く。

 

「義爛さん、お兄様がすみません。彼自身、わかっているはずなんですが…」

 

「妹の冥ちゃんの方がしっかりしているね」

 

「いえいえ、私もまだまだですよ。手数料はしっかりとお支払いさせていただくので、今後ともよろしくお願いします」

 

軽く笑って返す冥に、義爛は煙を吐きながら微かに口角を上げた。

 

「お二人もわざわざ足を運んでもらったのにすみません。お返事は後日でもいいかな?」

 

「俺は構わない」

「私も大丈夫なのです」

 

荼毘とトガヒミコがそれぞれ頷く。

 

「黒霧が戻るまでお飲み物でもいかがですか?」

 

冥の穏やかな声が響く。バーの雰囲気は、さっきまでの緊張が嘘のように、ゆるやかに沈んでいった。

 

こうして、敵連合の新たな動きが始まるのだった。




灯里と八百万の中間テスト結果は誤差です。現代文の落としたところで少し差ができました。

セメントスで戦での脱出は、コンクリートに飲み込まれた瞬間フィジカルと炎華で見えないように脱出。切島の時よりもコンクリートのドームが大きいため死角ができ、そこから奇襲を仕掛けました。

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