闇に咲く火種   作:五時葵

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ついに林間合宿
狂気的な面が多いので、たまにはほんわか回を〜


17話 林間合宿①

 

夜の闇に沈む使われなくなった倉庫。そこには、敵連合のメンバーが集まり、薄暗い明かりの下でそれぞれ準備を整えていた。

 

ガチャリ――。

 

重い鉄扉が開く音が響き、誰かが倉庫の中へと足を踏み入れる。

 

「やァ、敵連合開闢隊の皆さん」

 

響く声は、どこか軽やかで余裕すら感じさせるものだった。

 

「あっ!! 冥ちゃん!」

 

真っ先に反応したのはトガヒミコ。少女らしい弾む声で振り向き、嬉しそうに手を振る。

 

しかし、他のメンバーは一様に視線を向けるものの、誰もが「誰だ?」という表情を浮かべていた。実際に顔を合わせたことがあるのは、トガと荼毘だけだったのだから無理もない。

 

「初めて話す人もいるね」

 

冥はそう言いながら、軽く手を上げる。

 

「私は死柄木冥。今日は出来上がったサポートアイテムを持ってきたよ」

 

彼女の言葉を聞くや否や、一歩ずつ歩み寄る。

 

冥が肩に担いでいたバッグを地面に置き、中から次々とアイテムを取り出した。

 

「トガちゃんにはマスクと血を吸う装置を」

 

差し出されたマスクを受け取ると、トガは少し不満げにそれを見つめる。

 

「これ〜、可愛くないのです」

 

鼻を鳴らして呟くトガに、冥は肩をすくめた。

 

「ごめんね。血の回収とかは格段に良くなるから、一旦これで我慢してくれないかな」

 

「トゥワイスにはスーツね。メジャーがついてたり、できる限り要望通りに作ってるよ」

 

トゥワイスはスーツを受け取ると、すぐに手触りを確かめるように撫でた。

 

「当然だ! 感謝する、ありがとう!」

 

「コンプレスには仮面とコスチューム。エンターテイナー的にどうかな?」

 

「バッチリだね。おじさん感動しちゃうよ」

 

コンプレスは仮面を手に取り、ゆっくりと顔の前にかざす。その姿は、まるで新しい自分を試す舞台俳優のようだった。

 

「あと冥ちゃん、仮面仲間だね」

 

冥はふふっと小さく笑った。

そうして、それぞれがアイテムを確認している間、冥は軽く手を叩き、視線を集める。

 

「さて、一応目的の確認をしておくね」

 

倉庫の薄暗い灯りの下、冥の影が壁に映し出される。

 

「まず目的は爆豪確保、第一優先ね。そして宿泊先はおそらくプッシーキャッツが管理している施設。他にもいくつか想定場所があるけど、ここが固いと思う」

 

冥は地図を何枚か取り出し、床に広げる。

 

「誰がどのように動くかは好きにしていいけど、目的だけは忘れずに」

 

――襲撃先の宿泊施設は、40名以上を受け入れられる場所である必要がある。そして、警備が可能で敵にバレにくい場所。訓練目的の合宿だから、周囲の環境も重視される。おそらく森林が訓練には最適だろう。なおかつ警備とサポートを兼ね備えた施設……。

 

消去法で考えると、プッシーキャッツが管理している場所が最有力候補になる。

 

冥は地図上の一点を指で軽く叩いた。すでに細かい可能性まで想定し、対策を練っていることに、場の空気が少し変わる。

 

「あと、荼毘には脳無を渡しておく。荼毘の声に反応するように設定してあるから、上手く活用して。場所が確定次第、待機させておくね」

 

冥は再びバッグを開き、小型の端末を取り出しながら荼毘の方を向く。

 

「わかった」

 

荼毘は短く頷く。そして、ふと冥を見据えながら、口を開いた。

 

「ところでお前は参加しないのか?」

 

冥は特に間を置くことなく、淡々と答えた。

 

「私も色々あってね、こっちにまで手を回せないんだ。だから君たちに任せるね」

 

それだけを告げると、冥はくるりと身を翻し、倉庫の出口へと歩き出した。

 

「じゃぁ、私は帰るね〜」

 

手を軽く振り、振り返ることなくその場を後にする。

 

 

───────────────

 

林間合宿当日

青空が広がる朝、A組の面々を乗せたバスは活気に満ちていた。

 

期末テストでは上鳴、芦戸、瀬呂、切島の4人が実技試験で赤点だったが、どんでん返しで全員林間合宿に行くことができた。そして誰もが合宿への期待に胸を躍らせていた。

 

しかし、その雰囲気が一変するのに時間はかからなかった。

 

「休憩だ」

 

イレイザーの声とともにバスの扉が開く

 

だが、降り立った先はパーキングエリアではなかった。

目の前に広がるのは、切り立った崖の上にある見晴らしの良い場所。周囲に施設らしき建物はなく、ただ山々が連なっているだけだった。

 

クラスメイトたちが首を傾げる中、近くの車から二人のヒーロー、そして小さな男の子が降り立った。

 

「ようイレイザー!!」

「ご無沙汰してます」

 

「煌く眼でロックオン!」

「キュートにキャットにスティンガー!」

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ」」

 

ポーズを決めながら登場したのは、マンダレイとピクシーボブ。

派手な自己紹介に、A組の面々は一斉に「おお~」とどよめいた。

 

マンダレイは指を奥の山へ向けると、明るく言い放った。

 

「あんたらの宿泊施設は、あの山のふもとね」

 

「「遠っ!!」」

 

目を凝らせば、はるか遠くにぽつんと見える建物があった。

明らかに長距離の移動を要する距離に、クラスメイトたちは騒然とする。

 

「何でこんな中途半端なとこに…」

「いやいや…」

「バスに戻ろうかな?早く…」

 

不安げな声が次々と上がるが、マンダレイは笑顔を崩さない。

 

「今はAM9:30、早ければ12時前後かしら」

 

その瞬間、バスへ駆け戻ろうとする生徒たち。

 

「ダメだ…」

「バスに戻れ!早く」

 

しかし、そんな彼らに向かってマンダレイが宣告する。

 

「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」

 

「悪いね諸君、合宿はもう始まっている」

 

突然、土がなだれ込み、A組の生徒たちは、悲鳴を上げながら次々と崖下へと落下していった。

……ただ、一人を除いて。

 

「私有地につき個性の使用は自由だよ!今から三時間、自分の足で施設までおいでませ!この“魔獣の森”を抜けて!!」

 

 

「しかし無茶なスケジュールだねイレイザー」

「通常二年前期から習得予定の仮免を取らせるつもりなので、どうしても無茶は出ます。」

 

「そして橘、どうしてお前がここにいる…」

 

静かになった崖の上、イレイザーは眉間にしわを寄せながら、隣に立つ灯里を睨んだ。

 

「どうしたんですか、相澤先生?早くバスで施設に行きませんか?」

 

何事もなかったかのように、灯里は涼しい顔で問いかける。

 

「嗚呼、ここにいる理由ですか。嫌な予感がしてたので最初からバスの裏にいました」

 

「お前も、下に行け…」

 

イレイザーは鋭い眼光を向け、束縛布を勢いよく伸ばす。

しかし――

 

「おっとっと…相澤先生、やめてくださいよ」

 

灯里は身を軽く捻るだけで束縛布を避け、さらりとかわす。

 

「安心してください。私だけ楽するつもりはないんで」

 

言葉を残すと、灯里は自らの意志で崖下へと飛び降りた。

 

「イレイザー、あの子結構強いんじゃない?」

「はい…個性も体術もでき、しっかりしてる…あの年齢ですでに出来すぎている所があり、ある意味心配な生徒です…」

 

 

「灯里ちゃん!どこいってたん?」

 

「ごめんごめん、上に取り残されちゃってて、バスに乗ることは許されなかった…」

 

崖下へ降りると、すでに戦闘の跡があった。

大地には巨大な土の魔獣たちが蠢き、A組の生徒たちは一丸となって応戦していた。

 

「……ふむ、ピクシーボブの個性によるものか」

 

灯里は状況を素早く把握する。

 

全員が魔獣に対し、次々と攻撃を仕掛けていたが――

 

「皆はなんで魔獣を倒しているの?」

 

灯里の何気ない一言に、上鳴が思わずツッコミを入れる。

 

「なんでって、そりゃ倒さないと進めないだろ?」

 

灯里はわずかに首を傾げた。

 

「いや、ご丁寧に全部倒さなくても最低限倒して進めば良くない?倒すことが目的ではなく、施設へ行くことが目的なんだし」

 

「「確かに!!!」」

 

その場の全員は納得したように頷いた。

 

「全員固まって行くなら、私が指示出してもいい?」

 

すると、一人が眉をひそめた。

 

「おい!なんでてめェが指示出すんだよ」

 

唯一反発したのは爆豪だった。

だが灯里は、まるでそれすら想定していたかのように、彼へ向けて言葉を放つ。

 

「爆豪君、君は先頭に出て魔獣を撃破してくれないかな?」

 

「うるせェ、俺に指図するなァ!!」

 

「そうかそうか、爆豪君には荷が重いか〜難しいなら他の人にお願いするよ、私が前に行ってもいいし」

 

「誰ができないだァ!一人で撃破なんて余裕だわ」

 

「爆豪君ありがとう!なら君に任せるね」

 

灯里の巧みな言葉に、周囲の生徒たちは「爆豪の扱い方が上手い!」と感心していた。

 

「緑谷君、飯田君、切島君、尾白君はサイドの近接をお願い。障子君は少し前に出て先の魔獣の位置を、耳郎さんは真ん中あたりで全体を確認して、補助で葉隠さんと八百万お願いできる? 峰田君は後方でもぎもぎを投げて魔獣の足止めを、後ろから来る魔獣は私が全部撃ち抜くよ。残りの人たちはサイドのサポートを、足止めだったり、可能なら撃破してもよし、ただ無茶はしないでね」

 

灯里の指示が次々と飛び、それに従いながらA組の生徒たちは連携を深めていく。

 

そうしてA組は順調に前へ前へ進んでいくのだった。

 

 

「おっ来たにゃんね!」

 

 

PM 2:00 ――

 

長い道のりを越え、A組はついに宿泊施設へ到着した。

 

全員、泥だらけで疲労困憊。肩で息をしながら、ようやく目の前に現れた建物を見上げた。

 

「何が“三時間”だよ……」

 

誰かがポツリと呟く。

 

実際には約4時間半が経過していた。

“魔獣の森”の難関と過酷な道のりを経て、ようやく辿り着いたのだ。

 

実際にはプッシーキャッツならという実力差自慢だったが、それでも想像以上に到着が早く、ピクシーボブは感心していた。

そして挨拶がてらに緑谷がマンダレイの従甥―洸汰君に急所を攻撃されていた。

 

ともかく、ようやく宿泊施設に辿り着いたA組。

部屋に荷物を置き、遅めの昼食を取った後、全員が銭湯へと向かった。

 

広々とした湯船には湯気が立ち込め、硫黄の香りがほんのりと鼻をくすぐる。

 

「うわぁ~~、気持ちいい~~!」

 

「あったまる~……」

 

「温泉あるなんて最高……」

 

疲れた体を癒やすように、A組の女子たちはゆっくりと湯に浸かる。

灯里もまた、肩までお湯に沈み、珍しく気を緩めていた。

普段は警戒心を解くことが少ないが、最近忙しかったこともあり、灯里は気を緩めていた。温かい湯が筋肉の奥深くまで染み渡るのを感じながら、思わず目を閉じる。

 

しばし無言で湯に浸かっていたが、不意に隣から声をかけられた。

 

「灯里ちゃんって、やっぱりガッチリしてるよね」

 

声の主は葉隠だった。

 

「鍛えてるからね~。でも、筋肉しかないよ~……」

 

灯里は、ぼそりと答えながら自分の胸に手を置く。

 

そして――

 

八百万のほうをじっと見つめた。

 

……はっ。

 

その場の空気が、一瞬ピリッと凍る。

 

「……」

 

誰もが察した。

 

灯里がショボーンとした表情で、自分と周りを見比べる。

 

「……耳郎さんは仲間だね~」

 

「う、うるさい!」

 

「ヤオモモ、そんなふうになる秘訣でも教えてあげなよ~」

 

「ひ、秘訣なんてそんなものは……!!」

 

「だよね~……」

 

灯里は深いため息をつき、ゆっくりと湯船に沈んでいく。

 

ぶくぶくぶく……

 

「ちょ、灯里ちゃん沈まないで!!」

 

慌てた葉隠と麗日が灯里を引き上げ、みんなでわちゃわちゃと騒ぐ。

 

女子たちの温泉は、ほんわかとした空気に包まれていた。

 

――だが、その空気が一瞬で凍りつく。

 

「峰田君、やめたまえ!!」

 

男湯のほうから叫び声が響く。

 

「……ッ!」

 

先ほどまでとは一変し、灯里は瞬時に臨戦態勢に入った。

 

その切り替えの速さに、葉隠が驚いた声を上げる。

 

「灯里ちゃん、切り替え早ッ!!」

 

湯気の向こう、灯里の目が静かに光る。

 

「燃やすね……」

 

冷たく呟き、すっと構える。

 

「……ヒーロー以前に、ヒトのあれこれから学び直せ」

 

低く、冷静な声が響く。

 

次の瞬間――

 

洸汰が壁の上から姿を現し、峰田を突き落とす。

 

「クソガキィイイ!!?」

 

峰田は女湯の景色を見ることなく、男湯へと落ちていった。

 

「ありがとう、洸汰くーん!!」

 

女子たちが声をそろえて感謝を伝える。

 

だが、その瞬間――

 

洸汰の動きが止まった。

 

「……?」

 

そして彼の体がぐらりと揺れる。

 

「洸汰くん!?」

 

誰かが声を上げるよりも早く、そのまま男湯へと真っ逆さまに落ちていった。

 

「危なっ……!?」

 

――だが、緑谷が素早く反応し、とっさに洸汰をキャッチする。

 

「っ……!! よかった、間に合った!」

 

しかし、洸汰はぴくりとも動かない。

 

「……気絶してる?」

 

女湯の光景を目にしたことで耐えられなくなったのか、落下の恐怖によるのもか

いずれにせよ、洸汰は完全に意識を失っていた。

 

「おーい、大丈夫かー?」

 

男湯のほうでもわちゃわちゃと騒ぎ始める。

 

夕食時にわかったことだったが、洸汰君は落下の恐怖で失神していただけで、怪我はなく無事だった。

一方、峰田は女子たちに顔の形が変わるほどボコボコにされていた。

 

こうして、林間合宿初日の夜は更けていった。

 

───────────────

 

〈おまけ〉

 

〜恋バナ〜

 

夜も更け、荷物整理を終えた女子たちは、それぞれの部屋でくつろいでいた。

 

A組の女子部屋の一室では、布団を敷いた後、自然と会話が弾んでいた。

そこにいたのは、灯里、麗日、芦戸、葉隠の4人。

 

「ねぇ、恋バナって定番なの?」

 

布団の端に座りながら、灯里がふと呟く。

 

「うんうん、こういう時の恒例行事!」

「せっかくだし、みんなで話そうよ!」

 

芦戸と葉隠が勢いよく頷き、すっかりその流れが決まってしまった。

 

「そうなんだ、私、家の都合でこういう行事に参加したことがなくてね。知らなかった」

 

灯里が肩をすくめながら言うと、葉隠が明るい声で笑った。

 

「じゃあ、初めての林間合宿だし、良い思い出にしようね!」

 

その言葉に、部屋の雰囲気がさらに和やかになる。

 

女子4人の小さな輪の中、自然と話題は広がっていった。

 

「そういえば、橘って気になる人いないの?」

 

唐突に芦戸が問いかける。

 

「最近、轟と二人で昼食食べてる時あるじゃん」

 

「……」

 

灯里はわずかに顔を(しか)め、指先で軽く布団の端をつまむ。

 

「別に仲なんて良くないけどね。体育祭以降、なんか誘われて、たまに食べるくらいだよ」

 

「ってことは、轟が橘に好意を寄せてるってことか…」

 

芦戸が興味津々といった様子で頷く。

 

「いや、多分それはないと思うよ」

 

灯里はその可能性をバッサリと切り捨てる。

 

「えぇ〜? でもさぁ……」

 

「それより、麗日さんの方がわかりやすくない? 明らかに緑谷君を意識してる」

 

灯里が何気なくそう言うと、静かだった麗日がピクッと肩を跳ねさせた。

 

「そ、そそそそんなこと、ないよ!」

 

勢いよく否定するものの、その動揺っぷりはあまりにもわかりやすい。

 

「おお〜、これは怪しいねぇ!」

「お茶子ちゃん、顔真っ赤じゃん!」

 

芦戸と葉隠が楽しそうにからかう中、麗日は必死に手を振るが――

 

明らかに説得力はなかった。

 

こうして、女子部屋の夜は笑い声に包まれていくのだった。

 




今回はほんわか回になりました。

いつもクールでしっかりしてるとはいえ、まだ16歳。
気を緩めてると子供っぽくなる冥でした。
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