闇に咲く火種   作:五時葵

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19話 神野の悪夢

緑谷出久は病院に運ばれていた。

2日間、気絶と悶絶を繰り返し、高熱にうなされていた。

その間にリカバリーガールの治癒が施され、ようやく目を覚ます。

 

ぼんやりとした視界の中、病室の天井を見つめる。

全身に鈍い痛みが走るが、意識ははっきりしていた。

 

「洸汰くん…大丈夫かな…」

 

小さく呟いた瞬間――

 

ガラガラ…

病室の扉が開く。

 

「あー緑谷!!目ぇ覚めてるじゃん!」

 

ゾロゾロとA組のメンバーが入ってくる。

集まっていたのは15人。

意識不明の耳郎、葉隠、入院中の八百万、そして誘拐された爆豪を除いた面々だった。

 

緑谷は少し驚きながらも、皆の顔を順に見渡す。

不安そうな表情、安堵の色、言葉にできない感情が入り混じった視線がそこにあった。

 

「オールマイトがさ…言ってたんだ」

 

ぽつりぽつりと語り出す。

 

「手の届かない場所には救けにはいけない…って! だから手の届く範囲は必ず救け出すんだ…」

 

指先がかすかに震える。

声も、気持ちも揺れていた。

 

「僕は手の届く場所にいた。必ず救けなきゃいけなかった…! 僕の“個性”は…そのための“個性”なんだ」

 

ボロボロと涙が零れ落ちる。

 

「相澤先生の言うとおりになった…体…動かなかった…」

 

静まり返る病室。

誰もが緑谷の言葉を噛みしめていた。

 

――だが、沈黙を破るように切島が声を上げる。

 

「じゃあ今度は救けよう」

「へ!?」

 

唐突な提案に、飯田が思わず声を漏らす。

 

どうやら、切島と焦凍は昨日も病院に来ており、そこで警察とオールマイトが八百万と話しているのを聞いていたらしい。

八百万は、敵に発信機をつけていた。そして、その受信デバイスを作れるということだった。

 

「つまり、八百万さんに受信デバイスを作ってもらうということかな?」

 

灯里が冷静に確認する。

その言葉を聞いた瞬間、飯田は声を荒げた。

 

「プロに任せるべき案件だ! 生徒の出ていい幕じゃないだ、馬鹿者!!」

「んなもんわかってるよ!! でもさァ! 何も出来なかったんだ!! ダチが狙われるって聞かされてさァ! 何も出来なかったんだ!! しなかった!!」

 

「ここで動かなきゃ俺ァ! ヒーローでも男でもなくなっちまうんだよ!」

 

上鳴や蛙吹が宥めようとするが、切島の気持ちは揺るがなかった。

 

「飯田が皆が正しいよ、でも!! なァ緑谷!! まだ手は届くんだよ!」

 

切島と焦凍は、救出へ向かうつもりだった。

皆が必死に止めるが、それでも二人の決意は変わらなかった。

 

沈黙が流れる。

やがて、緑谷の診察時間が来たため、A組の面々は解散することになった。

皆が静かに部屋を出る中、灯里は焦凍を呼び止めた。他のメンバーとは離れ、2人は病院の廊下で向き合う。

 

「焦凍、貴方は自分で何を言ってるかわかってるの?」

 

灯里の声には、冷たい鋭さがあった。

 

「あぁ、わかっている」

 

焦凍もまた、真っ直ぐに答える。

 

「保須で何を学んだの? 資格を持たず突っ込んで多くの人に迷惑をかけ、もしかしたら死んでいたかもしれない…お前は保須で何を学んだ」

 

灯里の声が怒りを帯びる。

 

「俺たちは、何も正面きってカチ込む気はねぇ。戦闘せず、救ける気だ」

 

焦凍は真っ直ぐな目で伝えるが、灯里は納得していなかった。

これ以上話しても無駄だと悟ったのか、灯里は「そぅ…」とだけ呟き、背を向ける。

 

「  ㇵ     ョ」

「何か言ったか?」

「何も」

 

灯里は一言残し、その場を去った。

 

───────────────

 

夜の闇が病院を包み込む頃、病院の前には5人の生徒が集まっていた。

緑谷、切島、轟、飯田、八百万

 

しかし、その場の誰もが同じ考えではなかった。

飯田は怒っていた。

保須で自分の暴走を止めてくれた緑谷と轟が、今度は自分と同じ過ちを犯そうとしていることに。緑谷が説明するよりも先に、飯田の拳が飛び出した。それは、彼なりの訴えだった。

 

自分も、みんなと同じくらい心配している。

だが、もし彼らが暴走し、取り返しのつかない事態になったら――。

 

飯田の気持ちがぶつけられたその後、切島と焦凍が冷静に説明する。

戦闘はしない。あくまで隠密行動。ルールの範囲内での救出。

 

飯田は、止めることを諦めた。

そして、八百万と共にストッパーとして同行することを決意する。

 

5人は、八百万のデバイスを頼りに神奈川県横浜市神野区に到着していた。

敵に素顔がバレているため、それぞれ変装をして夜の街を歩く。

ネオンの光がぼんやりと灯る繁華街。

そんな中、とある映像が目に留まった。

 

『――では先ほど行われた雄英高校謝罪会見の一部始終をご覧ください』

 

画面には、スーツを着たイレイザーヘッド、ブラドキング、根津校長の3人が映し出されていた。

 

『この度―――我々の不備から、ヒーロー科1年生27名に被害が及んでしまったこと、ヒーロー育成の場でありながら敵意への防衛を怠り、社会に不安を与えたこと、謹んでお詫び申し上げます。まことに申し訳ございませんでした』

 

重い空気が流れる。

 

「守れていない」「何言ってんだ」

 

街の人々が、雄英を悪者扱いする声を漏らす。

先生たちは悪くない。

なぜ、彼らが責められるのか――。

 

5人は思い悩みながらも、足を止めることはなかった。

 

───────────────

緑谷たちが動く中、ヒーローも着実に動いていた。

ヒーロー社会の命運をかけた作戦が、静かに、しかし確実に進行していた。

今回の事件は、日本のヒーロー社会そのものを崩壊へと導く可能性があった。

それを防ぐべく、オールマイト、エンデヴァー、ベストジーニストといったトップヒーローたちは、総力を挙げて敵連合の殲滅に動いていた。

 

オールマイトとエンデヴァーが率いるチームは、爆豪の救出を目的に敵連合のアジトであるバーを襲撃。

ベストジーニスト率いるチームは、脳無の格納庫を制圧する役割を担っていた。

 

ドゴォン!!

 

軽トラックを履き、Mt.レディが巨大な足で格納庫の壁を破壊した。

轟音とともに粉塵が舞い、瓦礫が飛び散る。

 

「突入!」

 

ベストジーニストの号令と同時に、ギャングオルカ、虎、その他のヒーローたちが一気に格納庫内部へと雪崩れ込む。

 

内部は異様な光景だった。

無機質な金属の箱が整然と並び、その中には液体が満ちている。そして、その中には脳無が無数に沈んでいた。

規則正しく並べられた箱の列が、まるで兵器工場のように広がっている。

 

「うええ〜、これ本当に生きてんのォ…?」

 

箱の中の脳無を覗き込んだMt.レディが、顔をしかめながらつぶやく。

脳無は動く気配がなく、まるで人形のようだった。

 

「こんな楽な仕事でいいんですかね、ベストジーニストさん。オールマイトの方、行くべきだったんじゃないですかね?」

 

思いのほか敵の気配がなく、あっさりと制圧できたことにMt.レディは気が緩んでいた。

だが、ベストジーニストは一切警戒を解かない

 

「難易度と重要性は切り離して考えろ、新人」

 

彼は素早く倉庫内の状況を確認し、次の指示を出すのだった。

 

そして路地裏から、緑谷たちは格納庫の様子を見ていた。

ヒーローたちは迅速に動き、すでに倉庫の制圧を進めている。

敵の反撃もなく、作戦は順調に進んでいるようだった。

 

「さぁすぐに去ろう、俺たちにもうすべき事はない!!」

 

飯田がそう言って、皆に促す。

緑谷もそれに従い、静かに踵を返す。ここにいる意味はもうない。自分たちがこれ以上関与する必要はないのだ。

だが、その時だった。

 

虎がラグドールの体を抱え上げる。

 

「おい、ラグドール!! しっかりしろ!!」

 

ラグドールはどこか虚な瞳をし、様子はどこかおかしい。

 

「何をされた?」

 

その問いかけに、ラグドールは呆然としたまま答えられない。

そして――

 

コツ……コツ……コツ……

 

静かな足音が、格納庫の奥から響いた。倉庫内のヒーローたちが一斉に戦闘態勢に入る。

ギャングオルカが低く警告を発した。

 

「……止まれ。動くな」

 

「連合の者か?」

「誰かライトを!」

 

暗闇の奥から、ゆっくりと二つの人影が現れる。

 

「すまないね、虎……前々から良い“個性”だと思っていたんだ。ちょうどいい、もらうことにするよ」

 

静かな声だった。だが、底知れぬ威圧感があった。

 

「……っ!!」

 

ベストジーニストが反射的に動く。

彼の個性“ファイバーマスター”で、倉庫の奥にいる二人の人物を捕縛した。

 

「……ちょっとジーニストさん!? もし民間人だったら……」

 

「状況を考えろ。その一瞬の迷いが、現場を左右する」

 

冷静に言い放つベストジーニスト。

その瞬間――

 

ギチッ――

 

突然、ベストジーニストの繊維がすべて断ち切られた。

 

「!?」

 

そして、凄まじい衝撃波がヒーローたちを襲った。

爆風と砂煙が辺りを包み込み、倉庫の外壁が吹き飛ぶ。

瓦礫が舞い、ヒーローたちの姿が見えなくなる。

 

やがて砂煙が晴れると――

 

格納庫、周囲の建物が吹き飛び平地ができていた。

 

「さすがNo.4ヒーロー、ベストジーニスト……!!」

 

声の主――それは、オールフォーワン。

 

「僕は、全員消し飛ばしたつもりだったんだけどね……」

 

瓦礫の上に立つオールフォーワンが、静かに笑った。

倒れたヒーローたちは、ほぼ無傷だった。

ベストジーニストはその冷静な判断でその場のヒーローの衣服を操り、全員を端に移動させたのだ。

 

「相当な練習量と実務経験故の“強さ”だ。君のは…いらないな、弔とは性に合わない“個性”だ。冥、君はどうだい?」

 

「私もいらないですね」

 

次の瞬間、オールフォーワンの指先がわずかに動いた。空気を裂く轟音とともに、再び衝撃波が解き放たれる。

 

「……ッ!!」

 

ベストジーニストの身体がぐらついたかと思うと、そのまま腹部に衝撃波をまともに受ける。鋼の意志を持つNo.4ヒーローですら、その威力を前に抗うことはできなかった。衝撃を受けた瞬間、口から血が吹き出し、そのまま、後方へ倒れ込んだ。

 

「せっかく弔が自分で考え、自身で導き始めたんだ。出来れば邪魔はよして欲しかったよ」

 

オールフォーワンは視線を冥に向ける。

 

「冥、すまないが手伝ってもらえるかな?」

 

冥は表情一つ変えずに、静かに頷く。

 

「仰せのままに」

 

そして、冥はわずかに口元を緩めると、軽やかにステップを踏んだ。

 

「お父様、私はオールマイトとの再戦に邪魔が入らないよう、他のヒーローを相手します」

 

「頼んだよ」

 

オールフォーワンは穏やかに応える。

 

「はい! いくよ、脳無」

 

冥の声と同時に、脳無倉庫の床から上位脳無が出てくる。その姿は、かつてUSJ襲撃の際に見たものと同じ。体表は黒く異常なまでに発達した筋肉が異様な存在感を放っていた。冥は軽く背伸びをすると、脳無の肩にひらりと飛び乗る。

 

「よいしょっ、と。脳無、バーの方までよろしく」

 

指示を受けた脳無は、反応するや否や猛然と駆け出した。

巨体とは思えない速さで、脳無は格納庫を飛び出す。その勢いのまま、建物を飛び越え、一直線にバーの方向へと向かっていく。

冥は脳無の上で風を切りながら、ゆっくりと視線を巡らせた。

 

――オールマイトが、オールフォーワンのもとへ向かっている。

 

冥は微笑みながら、静かに呟いた。

 

「お父様……どうぞ、お楽しみください」

 

───────────────

 

バー襲撃。

壁が粉々に砕け散り、オールマイトが勢いよく突入する。

衝撃で室内の空気が震え、敵連合の面々が一斉に振り向いた。

 

一瞬の静寂。

 

しかし、それを破るように、シンリンカムイの木の束縛が音もなく伸びる。

枝がしなるように絡みつき、敵たちを次々と締め上げていく。

 

「木ィ!?んなもん…」

 

拘束された荼毘が舌すぐさま炎を放とうとした――

その瞬間、音もなくグラントリノが背後に現れ、強烈な蹴りが荼毘のこめかみを打ち抜く。

短い息を吐く間もなく、荼毘の体がぐにゃりと崩れ、床に沈んだ。

 

同時に、ヒーローと警察が室内へとなだれ込む。

敵連合の逃げ道を塞ぐように包囲が完成していく。

 

「黒霧、持ってこれるだけ持って来い!!!」

 

弔の鋭い声が響く。黒霧が即座に転送のための闇を展開する。

しかし――

何も現れない。

 

黒霧の動きがわずかに止まる。

視線を巡らせるが、所定の位置に脳無は一体もいない。

そして、黒霧の背筋に、じわりと冷たいものが走る。

 

――その刹那。

 

風が流れたかのように、黒霧の首元がわずかに沈む。

 

「……!!?」

 

次の瞬間、黒霧の体が弛緩し、その場に崩れ落ちた。

エッジショット。

彼の体は極限まで薄く引き伸ばし、黒霧の首筋に鋭く潜り込む、黒霧は意識を刈り取られた。

 

さらに、石引健磁、迫圧紘、伊口秀一、渡我被身子、分倍河原仁――

本名が割れていることをグラントリノが告げ、「ボスはどこにいる?」と言う言葉を聞き、弔の脳裏にあの男の声が響く。

 

『誰も助けてくれなかったね……辛かったね……』

 

迫るヒーローと警察。

 

『「ヒーローが」「そのうちヒーローが」――皆そうやって君を見ないフリしたんだね。一体誰がこんな世の中にしてしまったんだろうか? 君は悪くない。もう大丈夫、僕がいる』

 

「ふざけるな」「失せろ」「消えろ」怒りが頭の中で渦を巻く。

 

「奴は今どこにいる、死柄木」

 

「お前が!! 嫌いだ!!」

 

次の瞬間、何もない空間に黒い液体が現れ、戦場は混沌と化す。

液体の中から次々と脳無が飛び出し、敵連合と共に爆豪が飲み込まれ、姿を消した。

 

 

「エンデヴァー!! 大丈夫か!?」

 

「どこを見たらそんな疑問が出る!? 流石のトップも老眼か!? 行くならとっとと行くがいい!!」

 

エンデヴァーの全身が赤熱し、瞬く間に脳無を焼き尽くしていく。

オールマイトが頷き、先へ進む。

 

約30秒後――

エンデヴァー達は着実に脳無を殲滅していた。

 

「こっちは片付きそうか……」

 

その時――

 

空から何者かが落ちる。激しい着地音と砂煙。

エンデヴァーは躊躇なく攻撃を仕掛ける。炎の奔流が砂煙を吹き飛ばし、その中に現れた敵と対峙する。

 

「お前は……報告にあった、雄英襲撃者か!!」

 

「脳無、周囲のヒーローたちを処理」

 

冥の指示と共に、脳無が唸りを上げながら地面を蹴り、一瞬でエンデヴァーに拳を叩き込む。

 

「ぐっ……!」

 

咄嗟にガードするが、衝撃が全身を駆け巡り、背後の建物に吹き飛ばされる。

しかしNo.2ヒーロー、すぐさま体勢を立て直し、灼熱の反撃を放つ。

 

「おっと」

 

冥の腕が白い靄を纏いながら四肢変形し、エンデヴァーの炎を掴んで防ぐ。

 

「――こっちもね」

 

エッジショットが音速で斬り込む。

だが冥は左手を変形させて受け止める……が、紙肢は鋭く、肉を裂いて貫通してきた。

 

「脳無、叩け」

 

脳無が瞬時に動き、エッジショットを叩きつける。

エッジショットは反動で元の体に戻り、シンリンカムイがフォローに入る。

 

「脳無、そっち二人の相手をお願い。エンデヴァー、あなたの相手は私がするよ」

 

冥が地面を蹴り、一気に距離を詰める。

 

「わざわざ空中とはな!!」

 

エンデヴァーの炎が巨大な矢となり、冥を貫かんと突き刺さる。

 

「イグナイテッドアロー!!」

 

だが冥は空を蹴り、矢を回避する。

 

「なに!? 宙を蹴った!!」

 

四肢変形+幻惑

エンデヴァーの視界が歪み、次の瞬間には冥の巨大化した拳が迫る。

 

「バニシングフィスト!!」

 

エンデヴァーも負けじと拳を燃やし、迎え撃つ。灼熱と衝撃波が交錯し、戦場全体を揺るがす。

エンデヴァーの全身が猛火を噴き上げる。冥も四肢変形と白い靄を纏い、殴り合う。

 

だが――

 

エンデヴァーの足が掴まれる。

 

「……!?」

 

四肢変形で伸ばした足が絡みつき、そのままエンデヴァーを地面に叩きつける。

 

「ガッ……!」

 

冥は冷静に状況を分析する。

エンデヴァーは問題なし。向こうは良い戦いをしているが、脳無はエッジショットに脳を破壊され、戦闘不能寸前。脳無がいくら強力でも、脳をやられれば終わる…

 

その時、脳内に声が響く。

 

『冥、そっちはどうだい? すまないが弔達を逃すのを手伝ってもらえないかい? 僕はオールマイトの相手で忙しくてね』

『わか…rまし、タ。います、ぐそちラ、にムカi…す』

 

“電波”の個性で返答しようとするが、まだ慣れていないせいでノイズが混じる。

 

「エンデヴァー、すまないがあなたの相手はここまでみたい」

「逃すとでも?」

「なら、追いかけられるといいね……」

 

四肢変形+幻惑+炸裂+針+超再生――

 

針雨(しぐれ)

 

肉片と無数の針が爆発しながら降り注ぐ。

 

「っ!?」

 

エンデヴァーは咄嗟にヒーローや警察を庇うため、防御に回る。

その隙に、冥は四肢変形と異常な身体能力を活かして、オールフォーワンの元へと駆け抜けた。

 

───────────────

 

オールマイトとオールフォーワンの戦いは、まるで嵐のようだった。

オールフォーワンの指から放たれる鋭利な黒い触手――“鋲突”が空を裂き、オールマイトはそれを躱しながら肉弾戦を仕掛ける。だが、爆豪が背後にいるため、全力を出すことはできない。

対するオールフォーワンは容赦なく攻め続ける。

 

しかし、形勢は一変する。緑谷たちが爆豪の救出に成功したのだ。

それと同時に、グラントリノが戦線に合流。敵連合のメンバーは、弔とトガを除き、すでに全員が気絶していた。

 

「連合もあと二人!終わらせる!」

 

グラントリノが一気に間合いを詰める。

 

「弔くん終わりたくないのです」

 

トガは焦りの表情を浮かべ、弔は歯を食いしばり、グラントリノを睨みつける。

 

逃げ場のない死柄木とトガの前に、その小さな影が跳ね上がる。

だが、グラントリノが二人に迫るよりも早く――

 

別の足音が響いた。

 

「まだ、終わらないよ」

 

静かに、しかし確かな響きを持つ声だった。

その声が響いた瞬間、グラントリノの足が突然掴まれた

 

ドンッ!!!!

 

鋭い蹴りがグラントリノの顔面を襲う。

強烈な一撃に、彼の小さな身体が弾け飛び、地面に叩きつけられる。

 

「先生……!? 新手か……!!」

 

オールマイトが鋭く視線を向ける。

 

「冥、すまないね。何度も唐突な要求をしてしまい」

「構いませんお父様」

 

――父。

その言葉に、オールマイトの目が見開かれる。

 

「父…だと!?」

 

驚愕の声を上げるオールマイトに、オールフォーワンは静かに頷いた。

 

「……ああ、そうさ。僕の大事な娘だ。とても、とても優秀な娘でね」

 

オールマイトの拳が、無意識に握りしめられる。

 

「貴様……!!」

 

オールマイトの怒気を帯びた声に、オールフォーワンは肩をすくめる。

 

「どうしたんだい? まさか、今さら僕が誰かを育てることに驚いたわけじゃないだろう?」

「貴様は……!! 子供まで、巻き込み…」

 

オールマイトは怒りに震えながら叫ぶ。

 

「自分の欲のために子供を巻き込み、利用するなど……それでも親か!!」

 

その言葉に、オールフォーワンは静かに笑う。

 

「何を言っているんだい、オールマイト」

 

オールフォーワンはゆっくりと冥の方へ視線を移す。

 

「この子は、僕のことを“お父様”と呼び、自らの意志で僕に仕えている」

 

オールマイトは冥を見る。しかし、少女には一切の迷いがないようだった。

オールフォーワンは続ける。

 

「僕は彼女に教えた。世界の真理を、力の使い方を……自由に生きる方法を」

「違う!!」

 

オールマイトは叫ぶ。

 

「それは“自由”じゃない!! 可能性を閉ざし、お前の意志に縛りつけているだけだ!!」

「……オールマイト。君は、本当に親というものを理解しているのか?」

「何……?」

「親というのは、ただ守るだけの存在ではない」

 

オールフォーワンは静かに続ける。

 

「僕は彼女を育て、導いた。彼女は僕の意志を受け継ぎ、共に歩んでいる」

 

オールマイトは歯を食いしばる。本当に、彼女自身の意思なのか……? それとも、作り上げられたものなのか……?

だが、それでも――

 

「子の未来を奪うことは、導きではない……!」

 

オールマイトは力強く言い放つ。

 

「“親”とは、どんな時も子の可能性を守り、支えるものだ!! それをお前は……!!」

 

オールフォーワンは微笑を浮かべる。

 

「それは、僕たちが戦いの決着をつけた後に話そうか。さぁ、続きをしようかオールマイト」

 

その声は、戦場の喧騒の中でも不気味に響く。

そして、彼は視線を横に向けると、淡々とした口調で告げた。

 

「冥、弔たちを頼んだよ」

 

冥は無言で頷くと、気絶している連合のメンバーを次々と掴み、ワープゲートへと放り投げていく。

 

「お、おい……?」

 

そして、冥は弔の腕を無造作に掴む。

 

「お父様、私はこれにて撤退します」

「待て……! ダメだ、先生が……!」

 

弔は必死にオールフォーワンへ手を伸ばした。だが、その願いが届くことはなかった。

冥はトガの腕も掴み、二人を引きずるようにしてワープゲートへと入っていく。そして次の瞬間、彼らの姿は戦場から消え去るのだった。




冥の戦闘スタイルは近接戦闘を基本とし、個性を織り交ぜながら戦ういます。本来は炎華と四肢変形を主軸に戦いますが、現在は雄英に潜入しているため、炎華の使用を控えています。
針雨(しぐれ)
四肢変形で腕を伸ばし巨大化させた状態で、炸裂と針を同時に発動させる。
無数の針が周囲へと降り注ぎ、広範囲にわたる攻撃を展開する。幻惑はエフェクトとして視覚撹乱の役割を果たし、超再生は自身の肉体を爆破する際のダメージ対処として機能する。

個性:電波
ご存知の通り電波を出す個性。周囲の機械類の機能の破壊や同じ電波持ちなら電波の送受信によって会話もできる。
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