神から与えられし祝福/呪い それは死徒化   作:一般通過龍

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宗谷岬。

 

そこは日本で唯一根源に繋がっている霊地の三咲町や月姫リメイクの舞台になった総耶区の元ネタの一つである場所。それは総耶と三咲で宗谷岬という掛詞が使われている土地。人間として生きている彼女が生活する家が近くにあり、彼女の家系が所有する龍脈と繋がっている所。

 

「真人に会いに行くぞ」

 

「貴方様が話してくれた話の内容に登場する、例の特級呪霊にですか?」

 

「違います。私が指す真人という言葉は、道教や老荘思想において人間の理想像と呼べる存在。仙人の別称として使われることもある、本来の意味での真人をその精神だけで体現できる、呪霊ではない正真正銘の純粋な人間ですわ」

 

そんな観光地に、澄み渡る海のような青みがかかった色が時折浮かんでくる銀の髪を太陽の光で光り輝かせながら、朧絶と話しながら何らかの作業をしている女性がいた。

 

端から見るとその光景は、口調が安定してないのも相まって、イマジナリーフレンドに向けて独り言を呟く、気がふれている人間のように見えるだろう。

 

だが、口調だけでなく思考や自慢の長髪の色も含めて今の彼女が安定してない現実にはちゃんとした理由があった。常人には見えない朧絶をちゃんと認識して話せるように死徒や怪獣としての因子を少しだけとはいえ、上手く露出させていたのだ。

 

それはさながら、一つのボールを手元に握ったまま片手でジャグリングをするのに等しい芸当。

 

髪の色に死徒や怪獣としての彼女の側面(姿)を表わす色が混ざっているのもそれが理由だ。長い髪。特に女の髪には魔が宿る。古き魔女達の伝承をなぞるように彼女の概念核は髪そのものであった。それ故に、そこだけが残りの二つの側面を露出させるように変化した。いや、あえてそうしていると表現するのが正しいか?

 

 

死徒の身では、呪霊は使い魔にするには向きませんわね。本当に。

 

自身の魂の真理である「原理」に血を通して、己の世界観を具象化して現実に侵食しているおかげで、生半可な呪霊は近づいただけで存在を『否定』されて消滅するのは分かっていたけどな。

 

 

「グゥ!!何度喰らってみてもキツイですねぇ・・・これは!」

 

 

瞬間的に人間としての姿を引っ込めて、一時的に、獣化を使用した死徒としての姿に完全に切り替わった女が、生えてきた尻尾を軽く地面に叩きつけただけで、土地が汚染されて、呪術という概念が土台から否定されて成立が難しくなっていく、呪霊も発生どころか存在が許されなくなっていく。

 

やはり人間が一番だな。こういう時は朧絶が人間だったら、良かったのに思ってしまいますわね。

 

朧絶が死徒としての力を発揮している時の彼女の側におれる理由は簡単に説明ができた。いつでもどこにでも食べれる携行食を兼ねた特級呪霊で、女なりに道具(玩具)として丁寧に扱われていたこともあるが、血や呪力を介して彼女と繋がりを持った奸骨奪胎という術式が、彼女という世界を侵すウィルス()に対するワクチン代わりの働きを朧絶にしているのだ。

 

それでも彼女の原理血戒による汚染の影響は受けているが。分かる者が彼を見たら、即座に汚染物質認定する程に。

 

 

「儀式に必要になる、星に繋がる穴、この世界の最果ての槍ポジションと例えることもできる宗谷岬と我が家の龍脈の定期的な調整作業はひとまず終わった。目的の人間に今すぐ会いに行くぞ」

 

「ええ、貴方様の命令ならどこまでも着いていきますとも」

 

人間の社会というのは本当に不自由なモノだな。北海道で怪しい動きをしているモノがいると、薄ら分かってかっていても、同じ人間に邪魔されて動くことができないとは。

 

自らの美貌と魅了の魔眼、朧絶の縛りで完全に掌握したアイヌ呪術連の政治的駆け引きで、呪術師を住処がある北海道に派遣することを封じる企みがあっさり成功した事実に呆れ果てながら、死徒としての姿をまた露にした女は朧絶と一緒に霧散したのであった。

 

 

 


 

 

 

「気になったのですが、本当に呪術を扱えないのですか?貴方様も呪力を介して、自身の異能を扱っていますから、やろうとすれば呪術も扱えるのでは?と私は思っていますが・・・・・」

 

 

「私という生物には呪術と言った技能は扱えぬよ。仮に後天的に取得できてもな。人間には人間に合った神秘、死徒には死徒に合った神秘があるのでは?という考察があるように、強大な死徒になる程、人間やそれに関連するモノに相性が良くなると同時に死徒当人にも扱いづらくなるという法則(ルール)らしきものがある。つまりは、だ。感情も糧にできる暴食な怪獣の特性もあって、呪術師や呪霊に対して全体的に相性有利を取れるが。その法則が私自身にも悪い方向に適応されているという訳だ」

 

「なるほど、それが貴方様が説明してくれた神秘はより強い神秘に負ける。という特有の法則(ルール)ですか」

 

「そうだ。貴様が見た私の術技は、私自身の原理や生態や超抜能力が発生させることができる現象の延長線上に過ぎないという訳だ。これは世界卵の世界法則を魔術基盤や呪術の代用として使っているとも受け取れるな。ただし、これはあらゆる意味でイレギュラーな独自性を持つ死徒である私だけの特性かもしれないけどな」

 

川を横断する橋の下にある穴。ぽっかりと、伽藍のように空いたトンネルの中を、彼女は自身が呪術を扱えない理由を彼に説明しながら歩く。目的の人物を探すために。

 

「いたな」

 

「いましたね」

 

彼女と彼が発見した目的の人物は、一見したらボロ布を固めた塊のようにしか見えなかったかもしれない。しかしながら“それ“は、ちゃんと生きている人間だった。

 

「仙人というより、世捨て人のような風貌をしていますねぇ」

 

「伝承や伝説に登場する仙人には色々な輩が存在する。植物や鉱物から仙人に変生したモノと比べたら、こういう外見の仙人は普通にいてもおかしくはないだろう」

 

伸ばし放題の髪と髭、いかにも世捨て人な外見をしている人間、不法投棄されたズタ袋のようなシルエットした老人の目の前で仙人という存在に関する談義をする二人組。

 

「・・・・・仙人のような人物を探しているというなら、申し訳ない。あいにく、私のような老いぼれは仙人という高尚な存在ではないからな」

 

老人から声が出た。二人組に向けて語りかけるように。

 

「見えるのですか!」

 

「やはり見えるのか、私の側にいる呪霊だけでなく、今の私の状態まで。しかも問題なく!」

 

「感じているだけだよ。目を失ったことで世界は見えなくなったが、私には君達がそこにいることがはっきりと分かる」

 

朧絶だけでなく、非存在化を適用中の女は驚愕していた。老人が自分達がそこに『いる』と捉えられて認識されるのは予想できていたが、美貌の影響を一切受けていなかったからだ。老人が。

 

「これは凄い。で、貴方様はこの人間をどうするんですか?」

 

「どうもしない。私はこの人間と語り合おうとここに訪れただけだからな」

 

祖に遭った者は、幽閉されるか狩る側に回るしかないほどの汚染物質扱いされると月姫リメイクで語られた。

 

実際にフランス事変で複数の祖と遭遇したノエルというキャラが代行者やってたときからハルバードに“薔薇”のアクセサリーが付いてることから、そう思わされる。

 

 

つまり、死徒ノエルが発現させたレプリカの薔薇の魔眼は、リタ・ロズィーアンの原理に汚染されたノエル本人に残された残滓がイデアモザイクをきっかけに活性化して浮かび上がったと解説が出来るというわけだ。

 

故にこの老人を吸血せずに放って置いても別に問題はないのだが・・・。独特な魂をしていることからなるべく、汚染はしたくないな。

 

「朧絶、貴様は魂を認識することができるか?」

 

「未だにできませんよ」

 

「そうか」

 

死徒は対象の魂を捉えることができる個体が当然のようにいる。

 

アルクェイドが「血とはなんや?」の問いをヴローヴに投げかけた時の返答が「俺にとって血液は薪である」と答えたように、相手の眼を通して魂の鑑定ができるという技能がロアにあるように。

 

そもそも死徒の吸血は実質的な魂喰いとも言える行為だから、対象の魂を捉えることができるようになるのは当たり前だろう。

 

彼女という死徒は血液という名の世界、霊子を通して、老人の特異な魂を見ていた。

 

「私は人間としての姿でこの老人と会話してみる。貴様はこの場所から離れるのと同時にトンネル内に誰かこないか、見張っておけ」

 

「分かりましたとも」

 

朧絶が意識を有したまま、肉体を呪力に分解して去ったことを確認した女は、相手を汚染させない人間としての姿を老人の目の前で堂々と露にした。

 

「私達が人ならざる者と感知できても、驚かないのですのね」

 

「私にとっては全てがどうでもいいからな。過去の自分自身のことも曖昧で思い出せないことが多いのだよ」

 

眼球を失くしている老人は、知覚した呪霊の男の方が霧散しても驚かなかった。女の身体つきや顔つきが脈動して、口調も全く異なる女性が現れても驚かなかった。ありのままにそういうモノだと受け取っていただけだった。

 

 

変な気分になりますけど、落ち着きますわね。原作知識や死徒や怪獣としての認識能力を活かして、この老人の魂がどんなモノをしているかが分かっていたはずなのに。呪術廻戦という作品で、呪霊とマトモにコミュニケーションを取って、共存できるという可能性を示した人間の影響力なのでしょうか?これが

 

 

 

あの真人がこの人間の精神性に脳を焼かれて、穏やかな交流生活を心の底から楽しむのも納得の魂。一種の理想像と呼べる奇妙な生き方をしている人間。悪く言えば、人間から一歩離れた化物みたいな境地に到達した異常者。

 

 

良くも悪くも執着の塊な与幸吉を「下衆以下」と、感情に囚われない老人を比較対象にした真人がそう吐き捨てたのも一理あったのかも。と考えてしまいますね。足るを知るという言葉を限界まで突き詰めた在り方で生きている、悟りを開いた仙人みたいな老人の存在は。

 

 

 

真なる意味で天然自然な存在。神が作り出した無垢なる魂に近いようで全く異なる研磨された魂。特定のモノには、生命というより、そういう行動を取れとプログラムが組まれたような現象に見えるモノ。

 

真人からも真に自由な人間と神聖視されたホームレスの老人の穏やかな魂は、ただそこに在るだけで、本人は無自覚であるが、周囲に多大な影響を与える女に逆に何らかの影響を与えるという偉業を達成していたかもしれない。少なくとも万人の疲れを癒す休息の夜闇に似たような不思議な感覚を。

 

 

「色々聞きたいことがあります。この世界が物語の一つで、今まで歩んできた人生が誰かに作られてきたモノだとしたらどう考えるのでしょうか?」

 

女の口調は柔らかいモノだ。ただ、老人との対面で、憑依転生によって死徒や怪獣という属性が生えてくる前の、人一倍善性に溢れていた、ただの人間の時の女性が纏っていた雰囲気に近しいモノを纏っているように見える。

 

「受け入れるよ。そういうモノだと。ただ・・・」

 

「ただ・・・?」

 

「他者から見たら、絶望に塗れているかもしれない私の人生は不幸なモノだと断言できるかもしれないが、『失望』のおかげで世界は広い。私の魂は自由だと楽になったから、この『生』に満足している。だから何度繰り返そうが平気だ。こんな世界を恵んでくださった神様に感謝したいくらいにね」

 

穏やかな感謝な声だった。けれども老人の魂の動きは神への感謝の気持ちを出しているのに、そう感じさせなかった。

 

「ツァラトゥストラはかく語りきですか・・・・・」

 

「フリードリヒ・ニーチェの著作か。私は神を信じている方だから、超人思想に当てはまらないぞ」

 

「いえ、貴方のような人間は立派な超人ですよ。永劫回帰を充分に引き受けることができると私がお墨付きを与えます。では、ここで去ります。短い時間でしたが、貴方のような人間と語り合うことだけで、今日は何故かとても満足しました。ありがとうございますわ」

 

「そうか。良かったな」

 

目的のホームレスの老人と語り合うことが出来た女の姿が、感謝の言葉を発した途端、空気中に溶け込むように霊子と化して消えていった。

 

残ったのは、一人寂しくトンネルの壁に寄りかかる、ボロ布を纏った老人のみ。

 

だが、しばらく時間が経ってから、老人の元に訪れた存在がいた。

 

「爺さん。誰と話していたの?」

 

 

 

 


 

 

 

「偉くご機嫌な顔ですね」

 

「有意義な1日になったからな。ただ残念なのは、貴様が他者や自分の魂を捉えることができないとはっきり分かったことだ。核を無くした状態からを核を構成することで死亡確定な状況から免れるという器用な芸当ができるくせにな」

 

 

自分以外の存在は基本的に見下す姿勢を取る癖に、他者との交流を戯れと称して求める、相反する性質を秘めた女性が世捨て人の老人との会話を経ても、息を吸うように日常的に人や呪霊を殺すのは変わらない。

 

そう簡単には心境は大きく変化しない。精神性や在り方も。

 

だが、今日という日に彼女という吸血鬼に吸血(捕食)される運命に選ばれた哀れな人間は、スキンヘッドの大男と髭の長い男という、原作小説でホームレスの老人を死に追いやった若い二人組の人間だけだった。

 

 

 

 

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