その死徒は神様や宗教が好きだった。
前前世の人間時代から信心深い性格だったが、輪廻転生を体験したことでより信心深くなっていた。
「いつも教会にお布施をありがとうございます。アラさん」
「ボランティア活動をするのは、高貴たる者の御役目ですわよ」
人の世に仇なす吸血鬼が宗教施設を巡ってボランティア活動するのは何の冗談だ。と言いたくなる光景だったが、彼女は
善性に溢れた人間として偽装しながら、ボランティア活動する深い理由なんて特にない。
「アラお姉ちゃんは、どんな神様を信仰しているの?」
「信仰を捧げて崇める対象は明確にいますが、秘密ですわよ」
「減るもんじゃあないし、教えてくれてもいいのに。お姉ちゃんのケチ!!」
強いて言うなら、善行を重ねることで実践魔女の術式。超抜能力になった『三倍率の装填』の効果で自身が持つ星の輝きという主人公補正を三倍にすることのついでに宗教観、色々な人の神様や宗教に対する考え方を観察するための行動だろう。まあ、平たく言えば人間観察だ。
ちなみに彼女個人の考えでは、神や神のような存在。上位存在を信仰してこそ社会を築き上げるに足りる生命体であるという考えだ。
人類史。いや、知的生命体全体の歴史は宗教や信仰とともにあり。それは死徒も例外ではない。朱い月や自分を吸血種にした親のような崇める対象がいるのが良い証拠だろう。
現に死徒化して価値観や精神性が変性した今でも、自分を転生させたきっかけや張本人である月の女神ヘカテや暗黒悪意マーラーを信仰しているから。
勿論、前世の怪獣としての自分を容易く屠って引導を渡したウルトラマンも信仰している。ただし、仏様がモチーフに入っている光の巨人に信仰を向ける時の彼女は、愛憎も含めた複雑な感情に満たされるわけだが。
彼女の胸中で渦巻いている感情を無理矢理言語化したら、恋になるのか?ヤプールが擬人化して怪獣娘になった時はウルトラマン
彼女自身も含めて、その感情の正体は誰にも分からない。
唯一自覚しているのは、ウルトラマンのような
怪獣や死徒でもない、ただの人間時代。ハロウィンイベントで吸血鬼のコスプレをしていたウルトラマンを見た時は似合ってないなと思ったけど、現実に試してみれば吸血鬼に堕とす良さが分かるかもしれないという彼女の気持ち。
「人間から絞り出された糞に等しい貴様ら、呪霊に足りないものが何か分かるか?」
「黙れ・・・・・呪術師でもないナニカよ・・・・」
不敵な笑みを浮かべながら、生首だけになった呪霊に彼女という死徒はゆっくりと問いかける。
「尊さが足りん。私には分かるぞ、貴様ら呪霊は神どころか、
自論を聞かせる話し相手が欲しいからという理由で、人間よりも遥かに優れた感覚器官をフルに活用したことで捕まえたコウモリ型の呪霊の生首をニヤニヤと笑いながら、エーテルでできた自身の血を利用することで、じわりじわりといたぶる死徒がそこにいた。
哀れなコウモリ型の呪霊。本来なら話し相手は人間でも呪霊なら誰でも良かったが、吸血鬼のような性質を有している知能が高い呪霊が相応しいな。とふと思ってしまった彼女の気まぐれによって、消滅することが決定づけられた存在。
吸血鬼伝承の元ネタの一つ。ポルフィリン症や狂犬病。それに似た独自の
「私には尊さを完全に教える事はできない。だが、貴様ら呪霊の儚さは教えてやれる」
「待て!やめ・・・・・」
女性は、呪いたっぷりのエーテルで出来た血で塗れた左手で掴んでいた呪霊の首を軽く握りしめる。
すると、その呪霊が瞬間的にミイラのように萎んだかと思うと━━━砂のように崩れ落ち、跡形も無く消え去ってしまった。
通常の呪霊とは違う消滅の仕方である。
死徒が保有する呪いの影響は高次元。根源の渦の一部の機能であるアカシック・レコードにも及ぶ。それは、かの魔法使いキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグも
つまりは、だ。彼女という死徒の魔手によって汚染されて、捕食されて死んだ魂は呪霊も人間も関係なくこの世界に存在する輪廻転生の輪から外れることになるのだ。死徒の肉体を構成する材料。彼女という
本人視点では、輪廻転生の輪から解脱させてやる善行と捉えているから、余計にたちが悪い。これなら存在の変容。魂のラベルが替わるただの死徒化の方がまだマシだ。
この世界の全ての存在に対する魂レベルの天敵。唯一人の頂点捕食者。異なる世界の
それが彼女、メツ=ストリガ=モルモー=ラミア=アラ=ガアシエンディエタ=オロチという名前の死徒が持つ肩書きであった。
「・・・・・よく考えたら、皮肉なモノだな。輪廻転生の輪から外れることを望みながら、限りなく永遠という概念を体現した死徒。不老不死の身体を得てしまうとは」
不老不死。
その言葉が真実であるのなら永遠を定義するものの一つとなるだろう。
そして彼女は歳を取らず、殺しても蘇るとされる吸血鬼でもあるが、他者から血液を補充しなければ自身を保てない欠陥品と違って、その特殊性のおかげで一人で生きていくことができる。永遠を体現できる死徒であった。
強靭な生命力を持つ怪獣としての自分と人間としての自分から血液を分けて貰うのと同時に、見返りとして『三倍率の装填』という超抜能力を二人の自分に適用することで、三倍の生命力を
自身が内包している三位一体。三つの身体を完成された一つのシステムとして運用できる彼女は、正に究極生命体。
ここまで来れば話は分かるだろう。彼女が人間や呪霊を捕食する理由は趣味と実益を兼ねた極めて身勝手な行動である。
「・・・・・幾ら不老不死と言っても特大の火力。聖剣砲と略されている
自身の不老不死について考えていた彼女が自嘲した通り、原理血戒が駆動していない状態での死徒としての彼女の不死性を突破する方法は簡単だった。美貌や防御や回避なりで対処されないことを前提にすれば、塵一欠片も残さない程の高火力を、復元呪詛による再生が追いつかないスピードで、連続で叩き込まれたら死ぬ程度の不死だから。
だから、あらゆるエネルギーを吸収し、自身の糧に出来るメツオロチ。強靭な生命力を有する怪獣としての自分が、原理血戒や数多の超抜能力と一緒に死徒としての彼女を支える訳だが。
人間としての自分?あの私の使用用途は、死徒としての気配を偽装して生きるためのものだ。基本的に日常生活の一部。人間としての人生を謳歌する時しか使っていない。
「出番だ。とりあえず一時的に暴れてこい、
先程から、彼女の左手からずっと流れ出ている血。人間の許容量を遥かに超えたことで形成された赤いプールが一つのカタチを取ろうと動き出す。
「分かりましたわ。それにしても変な気分ですね、全く異なる自分が三人もいるなど」
血液を肉体の構成材料として物質化して生まれたのは、メツオロチの怪獣娘としての彼女だった。どことなく呪術廻戦の世界で一人の人間として生きていたかつての女性の気質の影響を少し受けていることが、喋り方から感じ取られる娘だった。
「私もそう思うぞ。それはそれとして今の貴様の肉体は、ウルトラマンに察知されないように造った対策の一つ。私の
「凄い高慢さですね。同じ自分でもナチュラルに見下してくるとは、我ながら思い知りました」
「何か文句あるのか?自害せよ、ランサーの真似事をして躾てやろうか?」
なんでこんな性格の私が死徒として生まれてきたのだ?
メツオロチの力を持つ彼女としての側面は今更疑問を抱き始めてきた。死徒としての自分の異質さに。
どうも死徒としての私は毛色が違いすぎます。前世の前世のただの人間の自分。前世のメツオーガとして生きてきた自分。今世の怪獣としての自分。この世界で生きていた人間としての自分。と比べたら、明らかに何か違う。
それぞれが他人に等しい独立した思考と異なる性格と肉体を持っていることは、自身の特性上理解している。だが、どうしても、同じ自分である私の視点でも別人のように感じてしまうのだ。
価値観や精神性、魂の変容では説明がつかないような感じ。
まさか・・・・・。
「そのまさかだ。死徒としての貴様はもういない。この
怪獣としての彼女の考えを見透かすように、くるりと一回転した死徒の女性が自身の正体を明かす。
何処からもなく呼び出した雹も降らす雷雲。スラヴ神話の伝承に伝わる
不自然なまでに赤い朱い紅い、月の光に照らされている闇夜の王の正体が朱い月・・・・・?
「冗談だ。笑って許せ。この器に宿る私の魂は間違いなく
怪獣としての彼女は、突然明かされた衝撃の情報という名の嘘によって美貌による魅了や無量空処の直撃を喰らった存在のように静止していた。
「ふむ、丁度いい機会だ。殴るとしよう」
壊れた電化製品は叩けば直る。
それと似たような理屈で、死徒としての彼女は、原理血戒と超抜能力をフルに稼働させて、迷うことなくもう一人の自分を遠慮なく殴った。型月名物自分同士の戦いが発展することも期待して。
和歌山県にある都市から飛んで、飛んでいく。
雷雲を突き破り、吉野に向けて。
6万6千トンのスペックを保ったまま、怪獣娘として『小さくて重いもの』になった存在が。
『大きく重いもの』にならずに、硬く、柔らかく、冷たく、温かな光を放つ身体を。一時的に構成することに成功した彼女の拳で殴られたことで。
「
数多ある浄界のある場所の一つである。吉野山にて。
「本当に朱い月ではないんですよね!?」
「そうだとも」
落下した衝撃で形成された巨大な陥没地帯の中心には殴られた衝撃で静止状態から復帰した自分の問いかけに答える、死徒としての彼女がいた。
「ただし、もともと死徒という生物そのものが、真祖同様に朱い月の後継体を生み出すために作られたもの故。私達の偉業を成し遂げた暁には、それが呼び水となって朱い月がこの世界に顕現するかもしれんな」
「それは面白そうですね。ですが、その場合は朱い月の器となった影響で自我が消滅するかもしれませんが大丈夫ですか?」
「構わんとも。私達が掲げる不死は元より終わりを前提とした矛盾した永遠だ。死は
元より最終目的が輪廻転生の輪からの解脱。目標が達成した時点でいずれは滅び去る運命になるだろうと彼女達は何故か確信していたのであった。
ただし、未だに未来は曖昧なままだ。死ぬかどうかの運命は決まっていないし、もしかしたら新生した世界でそのまま生きる羽目になるかもしれない。
自己流の独自解釈や独自設定マシマシです。
主に原理血戒やアーキタイプ等の設定に対して。