神から与えられし祝福/呪い それは死徒化   作:一般通過龍

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2025年もよろしくお願いします。


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何も無い地下空洞。

死徒(怪獣)の女が漏瑚という特級呪霊の領域(テクスチャ)原理血戒(イデアブラッド)で悪用したことで生まれた場所。

 

旧メルティブラッドのラスボスの一人のオシリスの砂が魔術理論・世界卵で現実と空想を入れ替える世界改変をしようとしたように、わざわざ漏瑚の領域(現実)を己の血を利用して創った異界(空想)に材料として封じ込めることで生まれた彼女だけの世界。

 

大宇宙(マクロコスモス)と照応している小宇宙(ミクロコスモス)を通して天体を掌握するように彼女が持つ異界常識(アストラリティ)で創造された、その異界は死徒ノエルや旧作月姫のルヴァレのように過去や未来といった時間の概念も曖昧な妖精郷じみた空間に近い性質を持つ。

 

「旧月姫の死徒二十七祖は殆どの存在が固有結界の使い手と言われていたが、設定アップデートされた月姫では死徒ノエルのようなある程度の実力を持つ存在なら異界は簡単に作成できると語られていたのは本当だったな。私でも見事に作れたから」

 

そんな世界で女は、自らが創った異界の中に未だに引き籠もって独り言を呟いていた。

 

「死徒の悲願である第六法の一端にも全然及ばないだろうが、地動説から天動説主体の世界になるように内側と外側を入れ替えて私が中心に廻る都合の良い世界を造る実験も漏瑚の領域を利用することで小規模ながら成功した。これならばアーキタイプの作成と同時に既存の世界の秩序を完全に殺す宙の理に手を伸ばせるか?」

 

彼女が企てている人類滅亡プランは二つあった。新しい天体の卵と次代の霊長を兼ね備えたアーキタイプの製造と、それを利用した宇宙規模の大事業、第六法と呼べるかもしれない世界改変であった。

 

さながら、真祖と死徒を利用した地球という惑星のアーキタイプの作成と乗っ取り、アルズベリ天動説での宇宙運営の二段構えの計画を組み立てた朱い月のように。

 

抑止力代わりとして秩序の飼い犬である魔法使いもウルトラマンと同じようにこの世界にやって来てしまう懸念があるが、そんな事態が発生しない無い限り私の計画は絶対に成功するだろう。

 

無限にして最小の、最奥に至るソラの空洞。恒星級や惑星クラスの出力を持つモノを遥かに超える、宇宙を内包する存在規模(スケール)光体化(天体の卵)を産み出すことに成功したから。

 

 

「この世界特有の異能(呪術)という神秘を扱えぬことを少し残念と思うが、一匹だけで一つの種族と言える死徒や怪獣としての生態の延長線上の能力だけでもやりようはあるのが楽しいところよ」

 

 

素のスペックが高い女は縛りプレイを楽しんでいるようだったが、せっかく呪術廻戦世界に転生したのだから、呪術という能力を扱ってみたかったなという心中を占めていた。

 

・・・・・仮に彼女が呪術を扱えても己の超抜能力や驚異的な身体能力に身を任せて戦った方が強いとされるだろう。死徒の神秘への在り方は魔術師と同様だが、扱う神秘の次元は魔術師を上回るから死徒としての神秘を活かした方が強いとされるように、怪物は下手な武技を覚えるよりも怪物らしく戦った方が強いとされるように。

 

 

そうだ。別に呪術が使えなくてもいいではないか。私という生物が持つ美貌や魅了の魔眼や吸血行為を利用すれば、すぐに術師や呪霊という存在を配下にできるではないか。そうすることで間接的に呪術を扱えるではないか!!

 

そう考えたら、漏瑚という呪霊は殺さないで生かした方が良かったか・・・・・。善は急げ。時は金なり。考えを切り替えて、間接的に操ることで面白くなりそうな術式を持つ存在の所に向かうとしよう。

 

ついでに不条理な『無』属性的な無でなく、数学的な『無』を、直死の魔眼抜きでも作れるかどうかをこの空間で確かめてみよう。

 

 

「━━━ではな。この空間(貴様)はもう用済みだ」

 

 

自らが創造した空間に語りかけた女は愉快そうな表情を上げ、ふわっ、と宙に浮かんだと見るや、纏う衣服ごと大気に溶けて行き、遂には完全な透明な姿となり、この異界から消え失せた途端。広大なスペースの空間全体が、鶏卵の殻を剥くように、ボロボロと剥がれ落ちて行った。

 

 

その様はまるで、黒雲母の表面がポロポロと地面に落ちて行くようなそれに似ている。空間が剥がれた先には━━━地獄があった。

 

灰色の地下の風景をそのまま収めた、巨大な破片が地に落ちる。それは、空間の剥離のスケールを極大にした物だった。灰色の破片の大きさは、優に数十~数百㎞にまで達している。それが地面に衝突すると、大地には深い亀裂が生じて行き、地割れが巻き起こって行く。

 

 

地面にぶつかった灰色の破片は、腹に響く様な轟音と、空にまで達する程の朦々とした砂煙を立てさせる。

 

剥がれた灰色の先には、其処に身体を投げ入れれば二度と元の所には戻って来れないと言う、絶対的な確証を抱かせる、光すら逃さぬ黒色の空間が広がっていた。本当に、其処には何もない。此等を見る者がいたら、眼球や人間の口、鼻が浮かび上がり、それらが笑いの声を上げ相を浮かべる、と言う不気味の風景を演出してくれた方が、まだ安心感があるという感想を抱くだろう。

 

其れ程迄に不安感しか、その黒の空には抱けない。

 

そして、その黒が、創造主がいなくなった閉じた世界を侵食する。黒い空が、女が生んだ世界の果てまで伸びて行き、それ以上広がりようがないと思ったのか、墨が壁を流れるが如く、黒が何もない世界の果てを伝って行き、遂に大地にまで到達。そしてその状態から物凄い速度で、嘗て彼女と漏瑚という呪霊がいた中心に目掛けて収束する。大地と言う平面と一体化した黒が覆うようになにもかもを呑み込む。凄まじいとしか言いようがない速度で、異空間の全てを黒が侵食して行き、そして最後に、彼女がいた中心の場所を呑み込んだ時。世界の全てが黒に染まった。

 

彼女の『美』は無機物や空間も美意識に目覚めて惚れる至高のモノ。では、これをもって何故、空間が崩壊を始めたのか?

 

それは、極めて簡単かつ合理的、そして━━━誰に言っても馬鹿げているとしか返答のしようがないもの。

生まれて初めて自意識を持った空間が、最初に見た存在が呪霊でなく彼女であったから。それが、全ての始まりでもあり、終わりでもあった。

 

月の光を吸って生きる、夜にのみ咲く花。その花びらに浮かぶ雫を丹念に集めて作り上げた様な、美の結晶たる女を初めて空間が見た時、空間が『惚れた』のだ。

 

もっとこの彼女の姿を見ていたい。空間の抱いた純粋な思いに、誰が「馬鹿め」と口に出来ようか。彼女の姿をこの目で一生眺め続けたいと思うのは、

 

彼女の美貌をその隅々まで魂に焼きつけた者であったのならば誰もが心に抱く、普遍的な感情であったからである。たかが空間の戯言、と誰も馬鹿に出来ない。

 

・・・・・だが、吸血鬼の女は去り際にこう言ったのだ。

 

━━━ではな。この空間(貴様)はもう用済みだ━━━

 

 そう、この一言は、何の考えもなく彼女という存在は口にした訳ではない。

 

もう、自分と言う空間には何があっても足を運ばない。そうと理解した瞬間、空間は、酷い絶望とショックを憶えた。

 

あの地下空洞を模した空間にとって、彼女という存在は産みの親であり、初めて見た美しいもの。彼女に産み出されたとなるや、その誇りたるや並ならぬ物だったろう。

 

そんな創造主に、捨てられた。そうと理解した瞬間━━空間は、『自殺』を選んだ。二度と、あの女に会えぬのなら、自分が形を留め続ける意味など何もない。そう逸った空間は、空に亀裂を生じさせ、空間の先に存在する、数学的に完全な『無』である事が証明されている虚無に、自身の存在を塗り潰させ、嘗て存在した証を完全に消滅させようとしたのだ。

 

この空間に入ったが最後。誰であろうとも、その魂ごと先程のように分解され、消滅してしまうだろう。

 

 

そして、異界そのものが虚無に呑まれて世界からその存在を完全に消滅する際に、光輝を放つモノが颯爽と現れた。

この異界を創造した女である。

 

自殺行為とも言える所業。虚無の中に入る命知らずな行為をした彼女だったが、光体化してるとはいえ吸血鬼の女は死ななかった。何故ならば、虚無に満たされた空間がこの世全ての『美』の化身たる彼女を生かそうとしたから。

 

『無』が食い破られる。数学的に完全な虚無が彼女の美貌に否定される。宇宙を創生したビッグバンのように光り輝く女が現れた場所を中心として、無から有が生まれる。何も無い世界から新しい世界が生まれる。それは魔法のように。

 

 

誕生したモノは、若草と華花の香りが、濃いスープのように大気と溶け合った草原を中心とした世界だった。

 

空気を構成する、窒素や酸素、その他の雑多な要素と、草木の匂いが深く結びつきあっている、と思う程、青の香りが心地良い。

踏みしめる青い草は、土の状態がとても良いのか、生命力の強さが靴の上からでも伝わってくる程、生き生きとしている。

 

 

花の蜜を吸う為に薔薇や杏子の花に群れ集い、黄色や黒、薄青色などと言った色彩を乱舞させる無数の蝶。

 

遥か彼方に広がり、自然の雄大さと億万年とかけて築き上げた地球の芸術性の高さを見る者に伝えさせる、山々の稜線。

 

仲睦まじく湖の水を口にする馬のつがい、象のつがい、鹿のつがい。湖底まで見える程の透明さの湖には、数十どころか数百に至る程の雑多な種類の魚が、海の広さを知る事もなく泳いでいる。

 

 

嘗てアダムとイヴが知恵の果実を齧った事で追放された楽園(エデン)。審判者ラダマンティスが管理しているとされる、世界の西端に存在すると言う死後の楽土(エリュシオン)。不老不死の果実や尽きない肉で満ち満ちた、女神西王母が管理する神聖なる山崑崙。

 

其処とは宛ら、此処の事だったのではないかと、この世の誰もが思うだろう。彼女の()によって生まれて、一度虚無に還って『美』によって再臨して新生した此処(異界)は正しく、人にとっての理想郷であった。人の世の社会が軋み合い、衝突しあう事で生まれる様々な諍い、欲望、恐怖と、罪。それらとはこの世界は、全く無縁の場所であった。

 

 

 

「私という生物の特性上、自殺は不可能と薄々と分かっていたことだが、実際に体験することになると自身でもあり得ないと感じるな。正に不死の呪い。いっそのこと、このまま不死を追求して極めるのもいいのではないか?」

 

 

古今東西の数多の伝承や物語に登場する『美』によって狂って破滅した存在が多いことを知れば、森羅万象を極限まで煮詰めたような『美』は、あらゆる存在、既存の世界の法則そのものを味方につけて根源から在り方を歪めさせる呪いになるのは当然の帰結。

 

彼女の『美』は人知では説明ができない永遠不変のモノである故に、奇跡(魔法)の領域に手をかけたその美貌だけで、死徒や怪獣や人間としての特性も一切関係ない別種の不死性を獲得していたのであった。

 

 

「私の元に還るがよい」

 

再び女が自らが創造した世界に語りかけた瞬間、彼女がいる空間内に存在するあらゆるモノが一つの血液に溶けて吸収されていく。

 

さぞ、泡沫のように消えつつある空間も幸福に相違なかろう。己という存在だけで、宇宙の意思が現世に遣わせた、美のヘラルドとしか思えないこの女の糧になると同時に現し世に帰還させることで喜ばせることができるんだと思っているんだから。

 

 




更新が遅くなった理由はリアルの活動が忙しくなったのもありますが、インフルエンザにかかって病床に伏していたのもありました。

皆さんも体調にはお気をつけてください・・・・・。
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