死神と皇帝   作:渋音符

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今回は比較的短め。
どれくらいの分量が丁度いいとか、教えてくれるとありがたいです。


5話

 

 

「決闘のルールについてですけどー」

 

 僕の両手を繋いでいた手錠が外される。

 試しに眼球に刻まれた術式を励起すると、問題なく魔術が展開された。ここ数日魔術なしで暮らしていたから、久しぶりに味わう感覚が妙にこそばゆかった。というか、どこか違和感があった。

 たぶん気のせいなんだろうけど、以前と比べると何か変だ。魔力の通り方とか、術式の励起とか、魔術の展開とか。具体的に何がとは言えないが、不思議な感じがした。ただ、不調であるという感じではないので、取り敢えずは気にしないでおこう。

 

「あのー、聞いてますかー?」

 

 意識を目の前に戻すと、セロさんがこちらを不機嫌そうに見ている。唇を尖らして、見るからに「私機嫌悪いです」と訴えかけていた。

 

「すみません。聞いてませんでした」

「……まー、いいですけどねー。セロにゃん話す気失せちゃいましたーよ?もしかしてレティシア様じゃないからテンション下がってたりしますー?」

「そんなことないですよ。むしろセロさんがいてくれてありがたいです」

 

 処刑場でのあれこれがあった後。

 早速決闘の準備するということで、僕はセロさんに連れられて控室にやってきていた。レティシアさんは皇帝という立場もあり、どちらかに肩入れする訳にもいかず、僕に対しての説明を彼女に任せたらしい。

 

 確かに、レティシアさんがいなくなって少し心細かった。けれど、セロさんがいてくれてよかったというのも本心だった。帝国で過ごした数日間で一番長く話したのはセロさんだった。彼女がいると空気が柔らかくなる。落ち着いて物事を考えられる。……その代わり、度々揶揄(からか)われるのだけれど。

 

「ふーん?まー仕方ないですねー。そこまで言うならもう一回説明しますよー」

 

 ふん、と鼻を鳴らし彼女は改めて話し始めた。

 

「まず、基本的にはルール無用。自身の持ち得るものすべて使ってよーし!魔術、魔剣、姑息な手、何でもありがこの国の決闘でーす」

「かなり、むちゃくちゃですね」

「まあその代わり基本的には殺しはご法度(はっと)ですねー。相手を気絶させるか、場外に出すかで決着。勿論降参も受け付けてまーす」

「なるほど」

 

 何でもあり。けれど殺しだけは駄目。安全装置を兵士に配備する帝国らしいと言えばらしいのだろう。そして、どんな手を使ってもいいというのは、ある意味では実力主義とも捉えることができる。レティシアさんのような皇帝が生まれる訳だ。

 今度は話を聞き逃さないようにしつつ、身体の調子を確かめていく。接合部に異常は見られないけど、接続と修復の魔術を併用して万が一に備えないと。

 

「それとー、軍に支給されているものならグリムさんにも貸せますよー?」

「えっと、銃とかってことですか?」

「ですねー。後は軍用魔剣(サーベル)とかもありまーす。流石にレティシア様のものに比べたらしょぼしょぼですけどー」

「あれと比べたらどんなものでも見劣りしますって」

 

 流石にあんな術式の塊みたいな魔剣がそう何本もあるとは思えない。レティシアさんが二本も持っているのが異常なだけだろう。

 セロさんはおそらく前もって用意していたのであろう魔剣や数々の銃器を並べていく。

 

「それで、どうしますー」

「ありがたいですけど、たぶんあっても邪魔になると思います。僕、剣とか銃とか使ったことありませんし。それに、ほら」

 

 両手を伸ばす。左肩から先は少女の綺麗な腕が、右肩から先は継ぎ接ぎだらけの(いびつ)な腕が生えている。

 僕の身体は戦場で死んだ同族の死体をかき集めて無理やり作ったものだ。筋肉量も手足の長短もばらばらで、辛うじて血管と魔力の回路が繋がっているに過ぎない。剣や銃といったものを持てば、バランスを崩してしまうことは想像に難くない。

 その様子を見てセロさんもすぐに気付いたのか、「なるほどー」と言葉にして用意していた魔剣などを仕舞った。

 

「でも、大丈夫ですー?相手、ロランスさんでしょー?」

「彼のこと知ってるんですか?」

「まあ目にしたことくらいならー。相当強いですよー。なんせあの戦争で戦果を認められて、今は大隊を任せられてますからー」

「えっと、大きな軍隊のリーダーさんってことですか」

「まあだいたーいそんな感じーですね。純粋に腕が立って、たくさんのホム――ああいや、なんでもないでーす」

 

 言いかけた内容に気付かないほど僕は馬鹿じゃない。戦争で戦果を挙げたということは多くの同族を殺したということでもある。けれど、それはこちらも同じだ。文句を言える立場ではない。

 彼はホムンクルスを人間扱いしていない。それは確かだ。しかし、彼のあの真っ直ぐな物言いは彼の性格をそのままあらわしていた。ロランスさんは悪い人ではない。それは理解できている。

 だから、少し思うところはあっても、それは怒りになるまでは至らなかった。

 

「で、どうなんですー?勝てそうですかー?」

「……うーん。どうなんでしょうね」

 

 正直なところ、よく分からないというのが本音だった。僕は結局、あの手この手で戦場を生き延びただけに過ぎない。真っ向から立ち向かって勝てる気はしない。

 けれど。

 

「でも、勝たないといけないので」

 

 僕のことを欲しいという人がいる。

 なら、僕はそのために頑張るだけだ。

 

「気を付けてくださいね。レティシア様と応援してます」

 

 セロさんは静かに微笑んだ。

 その微笑みの中には僅かながら心配の色が見えた。けれどそれを彼女は隠して笑った。僕に出来ることはその心配が不要のものであったと証明することだけだった。

 

 

  ◇

 

 

 僅かな気配を感じ、視線だけをそちらに向ける。見覚えのあるロングスカートが視界に入り、私の信頼する侍従が戻ってきたことを把握する。

 

「セロ」

「ただいまでーす」

 

 今度は顔を彼女に向ける。青い瞳は伏し目がちで、いつも微笑みを浮かべている褐色のかんばせは心なしか不安で彩られていた。

 彼女はこちらを見て、ふぅ、と深く息を吐いた。

 

「レティシア様、本当に大丈夫なんですかー?」

「何がだ?」

「決闘ですよー決闘ー。よりにもよってロランス・ケリー。ウチじゃあ指折りの魔術師じゃないですかー」

 

 ロランス・ケリー。齢は二十と一つ。先の戦争でも一番の手柄を挙げた人物であり、軍内部で行われる決闘においても、ほとんど無敗。実直で融通が利かないが、誰よりも誠実で信頼のおける人物。

 魔術師の生まれではなく、軍に配属されてから外科手術によって術式を身体に刻んでおり、その点で言えば多くの魔術師に劣る。しかし、彼は数少ない術式と軍用魔剣、魔弾(マジックバレット)のみで今まで生き抜いてきている。相当の実力者だ。

 

「グリムさんはついさっき手錠を外して、久しぶりに魔術を使うって言うのに……いきなり決闘はやっぱり酷じゃないですー?」

「グリムがここに運ばれて、何日経った?」

「え?んーと、だいたい十日くらいじゃないですかー?」

「そうか。なら、心配いらんな」

「???」

 

 どういうことか、とセロは首をひねる。多少わざとらしいが、ただ素直に分からないと訴え掛けているようだ。彼女は「むむむ」といくらか唸っていた。

 それを見て、私もようやく気がついた。セロはいつも私の側にいるものだから、勘違いしていた。

 

「すまん。お前は知らなかったな」

「何をですー?」

「戦場でのグリムの姿だ」

 

 彼女は戦場には出ない。あくまで私の側仕えだ。だからこそグリムの世話を頼んだのだ。彼女は彼の姿を伝聞でしか知らない。

 

「まあ、べらぼうに強いって話は聞きましたけどー……本当にそんな強いんですー?正直私とお話しているグリムさんは虫も殺せなさそうな子ですけどー?」

「そうだな。……であれば、まずは彼が戦場で何をしたかについて話そう」

 

 思い出す。死神(グリムリーパー)。その名がついた所以。

 彼はあの戦場を、身体を継ぎ接ぎしてどうにか生き延びたというように言っていたが、私に言わせれば、それは謙遜が過ぎる。

 

「彼は、身体を継ぎ接ぎしながら帝国軍を退けた」

「流石にそれも知ってまーす。レティシア様が私に何度も仰っていたじゃないですかー」

「そうだな。だがこのことは言ってなかっただろう。彼は()()()()()()()()()()()()()()()

 

 共和国との戦争は、何も一つの戦場でだけ行われたわけではない。当然いくつもの戦地で、同時多発的に進んでいた。そのどの戦場においても、私たちが勝ちの目を見出だした途端、彼は現れた。そして、その身体を千切れさせながら、我が軍を壊滅させて退却させたのだ。

 それも、ほぼ毎回。

 

「彼に勝つには、彼に魔力を回復させる隙を与えないように連戦を迫る他なかった。……そのような方法を取っても、彼はほぼすべての戦場で我々を退けた」

 

 彼を一騎打ちで打ち倒したあの日は、そうした作戦を結構すると決めて、十数日を越していた。

 十数日間、彼は戦場に出て、最後の一人になるまで戦っていたのである。

 

「十数日の連戦を経ても、彼の魔力は枯渇しなかった。おそらくあの日、私が彼を倒せたのは、彼の魔力が底を突いたからではない」

「魔力の過剰生成による、臓器不全?」

「ああ、その通りだ」

 

 魔力は人間の体内で生成される。そして、その生成には体内の様々な器官が関わっている。魔力を使い果たすと当然回復のための期間が必要になるが、魔術師は自身の身体を操り、魔力をその場で生成させる。それを過剰に行うと、臓器不全を引き起こす。

 

 グリムは、元々他のホムンクルスの補助を行う用途で製造されたと話していた。回路を繋げ、外部から魔力を供給するために。そのような用途のホムンクルスに、他にどのような性能を与えるか。

 私ならば、より多くの魔力をより早い期間で生み出し、貯蔵できるようにする。そして、過剰生成による臓器不全を考慮しないほどに共和国の研究者たちが馬鹿だとは思えない。

 十日もあれば、臓器不全も、魔力も、十分回復しているはずだ。

 

「そして、少なくとも彼は、あの戦場で私以外には負けていない」

 

 本人がどう思おうが、彼は戦場を生き延びた。

 身体を継ぎ接ぎした程度で生き残れるほど、我が軍は甘くはない。

 そのことを理解したのか、セロが「あれ」と口を開く。

 

「もしかして、グリムさんって、結構ヤバめな人なんですー……?」

「何を今更。そうでなければ私の夫になぞせん」

「……それもそうですねー」

 

 そう話している内に眼下の状況に変化が訪れた。

 決闘のための舞台。軍の演習場に、貫頭衣に身を包んだ少年が現れる。髪はその大部分が擦れた茶色で、右の側頭部だけ雪のような白髪だった。全身の肌は白色、褐色、黄色などの様々なものが入り雑じっており、身体各部の長短やシルエットは凸凹(でこぼこ)。左の焦げ茶の瞳と、右の透き通った、彼なりに言えば水溜まりのような瞳は、揺れることなく真っ直ぐ正面を見据えていた。

 





次回は未定。年明けてからはごたごたするので落ち着いてから。


以下、設定。

・魔力生成
 人間が魔力を生成する際、その中心となるのは心臓である。心臓で生成された魔力は回路を通り、膵臓や肝臓、腎臓などで濾過(ろか)されて全身を駆け巡る。魔力を過剰に生成すると臓器に不具合が生じ、また反対に臓器に不具合があると魔力の生成が滞る。

死神(グリムリーパー)の戦績
 グリムが戦場に配備されてから数週間は、戦場には何も変化がなかった。しかし、一か月ほど経つ頃には安全装置を解除する方法を見つけ、それから約三年の間に千を超える死者を作り出した。
 帝国軍ももちろん対抗し、安全装置の改良などを行ったが、結局一番の対策は「危険を感じたら逃げること」だった。しかし、安全装置任せでいた兵士たちは自らの力を過信してグリムに殺害された。


他は気が向いた時に。
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