お久しぶりです。ぎりぎり一年ぶりにはなってない、と思います。
X(旧Twitter)の方を見ている方はご存じの通り、普段は「小説家になろう」様の方で投稿しているのですが、続きが欠けそうになったので書きました。
向こうの方もこちらの方も、のびのびと続けて行こうと思います。
目を覚ますと、そこは僕がしばらく寝起きしていた牢屋ではなく、きちんとしたどこかの一室のようだった。
手首の圧迫感がなく、背中にちくちくとした感触も感じない。こんなに柔らかい寝床は生まれて初めてだ。
何よりもまず回路に魔力を走らせる。どうやら決闘での損傷はほとんど修復されているらしい。意識のない状態での自己修復は僕にはできないから、修復魔術の扱いが上手い人がいるのだろう。
ただ、身体の内側――回路や血管のずれは自分で調整し直す必要がある。
僕は接続魔術で継ぎ接ぎした
魔力が静かに、ゆっくりと回路の中を通り抜ける。魔力が回路のずれや隙間に引っ掛かり、流れが滞った箇所に接続と修復を施し、それを各部に繰り返していく。魔力が心臓に還り、身体全体の
(ところで、ここはどこだろう)
周囲を見回してみても、やはりここは牢屋ではなかった。家具は少ないが、椅子や机はあるし、衣類を仕舞っておく
共和国では枕はおろか寝床すらもなく、
そんな風に共和国でのことを思い出していると、がちゃり、と扉の開く音がした。部屋の奥の方から足音が二つ。程なくして顔を出したのは、この国の工程であるレティシア・ライズベルトその人だった。傍には直属のメイドであるセロさんもいる。
「起きていたのか。おはよう、グリム。気分はどうだ?」
言葉とは裏腹に、その鋼のように微動だにしない表情は僕に問題があるとは思っていないという表れなのだろう。レティシアさんは心配の言葉を投げ掛けつつも僕の返事も聞かずに椅子に腰を下ろしているし、そんな彼女にセロさんはお茶を淹れている。
「気分は……ふつう、ですかね。身体も不調はありませんし」
「そうか。流石は"
「自分ではそれ、あんまりしっくり来てないですけど」
ふ、と微かに表情を綻ばせるレティシアさんにつられて、僕も苦笑をこぼす。そんな僕に独特の間延びした口調で「いやーすごかったーですね」と言いながら、セロさんは水を一杯手渡してくれた。
「どどどん!ばん!どかーん!みたいな感じで、気が付いたらグリムさん、ロランスさんに勝ーっちゃったんですもーん。その癖に、自分はボロボロでー。びーっくりしまーした」
「……あ、そういえば勝ったんでしたっけ、僕」
信じられないものを見るような目でセロさんがこっちを見た。
冷たい水で喉を潤してから続ける。
「すみません。戦っている時はあまり余計なことは考えないので……」
「自分の負傷のこともか?」
「そうでーすよー。あんな、身体をぐちゃぐちゃにして戦う人、見たことありませーん。セロにゃんグロいの苦手なんですけどー?」
「えっと、すみ、ません……?」
「……もっと自分のことを大事にしろ」
視線が心なしか冷たかった。口調もどこか僕を責めているような感じ。だけど、それはきっと僕を気遣ってのことなのだと分かる。
そんな当たり前のことが、この国では当たり前になっていることが、とても嬉しかった。
「む。なーに笑ってんですかー!?」
「笑い事ではないのだがな」
「まったくでーす!」
「はは。……あ、いや、あの、違うんです」
「まーた笑いましたねー!?」
思わず口角が緩んでしまった僕を、二人はさんざんな言い草で責め続けた。
セロさんは分かっていたけど、レティシアさんも意外とお茶目なのだと実感した。
◇
「それで、決闘の結果なのだが」
セロさんと一緒にひとしきり僕を
「決闘はロランスが場外に出たことで、お前の勝利となった。これで晴れて、処刑はなしだ」
「よーかったですね、グリムさん!」
「……はい」
正直なことを言うと、こうして拘束具もなしに上等な部屋で寝かされている時点で、僕が勝ったんだということは分かっていた。意識を失う直前レティシアさんから「お前の勝ちだ」と言われたこともきちんと記憶にある。
ただ、それでも改めて聞かされると、安堵が込み上げてくる。
その理由は死なずに済んだから、ではない。
レティシアさんの期待を裏切らずに済んだからだ。
彼女は最初から最後まで、僕に期待してくれていた。
あの戦場では、僕の死に際のプロポーズを信用し。
決闘では、僕が勝つことを確信していた。
その思いを、期待を、叶えてあげることができた。今はそのことに何よりも安心していた。
「ただ、やはりまだお前を私の夫とすることは、簡単にはいかないらしい。すまないな」
「えっと、レティシアさんとの結婚がそもそも難しいことは、分かってますから。謝らなくても大丈夫です」
前に聞いた話では、僕の正体を知っている大臣や兵士たちが反対する、とのことだった。それは当然のことだし、今更のことでもあった。だからこそ、僕たちの結婚を納得させるための第一歩があの決闘だった。
「僕が勝ったことで、レティシアさんが僕を夫に選ぶ説得力が増す、でしたっけ?」
「ああ。ロランスとの決闘でお前は我が帝国兵を相手に改めて自分の実力を示した。それに加え、"場外"という比較的安全な手段で
それだけで儲け物だ、とのことらしい。
正直、決闘が僕の評価にどんな影響を与えたのかは分からない。ただ、レティシアさんはとても満足気だ。だから、きっと大丈夫なのだろう。
「まー、ちょーっと楽観的過ぎるかもですけどねー。とりあえず、グリムさんの身分が囚人じゃなくなったのは喜ぶべきかもですね」
「僕の身分?」
思わず首を傾げる。確かに、まだレティシアさんの夫ではないのだとしたら、今の僕はどういう立場なのだろうか。
処刑を待つ囚人、ではなくなったはず。
じゃあ共和国の捕虜?だとしたらこんなちゃんとした部屋で寝ていた訳が分からない。
色々考えても、こういったことに詳しい訳じゃない僕には、何もピンと来ない。
「レティシア様ー?そーろそろ教えてあげてもいいんじゃないですー?」
「別に言い渋っているつもりはないのだがな。こうも分かりやすく悩んでくれるなら、暫く見ているのも面白いと思ってな」
レティシアさんの口の端が微かに上がっているような気がした。笑っているのかもしれない。僕に気を許しているのか、それとも僕が彼女に慣れたのか、まだ会って間もないのに、レティシアさんのことが、何となくわかってきた気がする。
彼女は、お茶目で、真っ直ぐで、破天荒で。
つまり、とてもかわいげのある人なんだ。
「……すみません。教えてください」
「流石のお前でも分からんか。なら、教えてやろう」
セロさんが笑っている。いたずらっぽい、にやにやした笑みじゃなくて、どちらかというとにこにこした笑み。微笑ましいものを眺めるような、これからのことを喜んでくれるかのような、そんな笑顔。
「グリム。本日を以て、お前を私の護衛官とする」
その言葉に、僕は――。
「……ゴエイカンって、何ですか?」
ずる、とセロさんが何もないところでこけた。
レティシアさんは珍しくぽかんとした表情を浮かべた後、これまた珍しく大笑いした。
僕は訳が分からず、首を傾げていた。
次の更新は未定です。
以下設定。
・魔術師
魔術を使う者。
現在では、呪文を詠唱して魔術を使う者はほとんどおらず、大抵は自分の身体に外科手術によって術式を刻み、魔術を使う者を指して"魔術師"と呼ぶことが多い。刻まれた術式同士が反発を起こし、体内で暴発することを避けるため、後天的な魔術師は身体に一つ二つしか術式を刻むことができない。ロランス・ケリーはこちらに属する。
・魔術師生まれ
魔術師は肉体に術式を刻んでいるため、持っている遺伝子に術式から漏れた僅かな魔力が影響する。そのため、魔術師の子は自分の身体に親の術式の一部が引き継がれる場合がある。そうした子どもは魔力や体質もその術式の影響を受け、外科手術で術式を刻む際に複数の魔術を身体に刻んでも暴走を引き起こすことがない。こうした者のことを魔術師の生まれや、先天的な魔術師と呼んだりする。歴史のある家にはこうした生まれの者が多く、レティシア・ライズベルトはこちらに属する。
・魔術兵
魔術師と区別される場合でこの語が用いられる場合、大抵は「身体に術式を刻んでいないが、魔道具を使用して戦う兵士」という意味である。
ライズベルト帝国では兵士に対して術式刻印の手術を強制していない。そのため、術式を身体に刻んでいない兵士も大勢いる。彼らは
他の設定はまた気が向いたら。