インビジブル〜神を貫いた音速の末脚〜   作:スタイニー

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見事にダービー出場が確定したシンジとフサイチコンコルド。
先輩からの助言ももらい、いざダービーへ…の前にまたしても体調不良のアクシデント。しかし、今回のアクシデントは固い絆で結ばれた今のシンジとフサイチコンコルドには屁でもない。
そんな2人は思いつきである行動に出る…。



最後の賭け

「コンコルド。大丈夫か?」

 

「はい…。前よりは大丈夫です。この感じなら長引かないとは思うんですけど…」

 

「そうか…。なら、ダービーの出場は取り消さないから、最後まで粘ろうぜ!」

 

「…はい」

 

フサイチコンコルドに呼び出されたシンジはすぐさま寮へと向かい、入室許可を取り、部屋でフサイチコンコルドを見舞っていた。

 

「あとさ、お前、よく俺に連絡したな。えらいぞ」

 

そう言ってシンジはフサイチコンコルドの手を取り、握りしめ、頭を撫でる。

 

「えっ…。はい…。約束ですから…。トレーナーをみんなを頼るって…決めましたから…」

 

突然のことにフサイチコンコルドは少し照れたが、時間が経つにつれシンジが握ってくれる手に安心感を覚えて、穏やかな表情になっていた。

 

「ああ。それで良いんだ。ようやく、俺とお前は『相棒』になれたな」

 

シンジが満面の笑みでフサイチコンコルドを見つめる。

 

「相棒ですか?」

 

「そうだ。俺はな、チームのヤツらはみんな大切だし、好きだ。つーか、そうじゃなかったらチームに入れねぇ。でもよ、そんなヤツらの中でも、『コイツの夢を見てみてぇ』って俺が思ったヤツのことを俺は『相棒』って呼ぶって決めてんだ。一緒に夢を叶える相棒。相棒の夢は俺の夢で、俺の夢は相棒の夢でもある。そんぐらい分かり合えてるようなヤツを見つけてみてぇなって、トレーナーを始めてからずっと思ったんだ。そして、お前は俺の"最初の"相棒だ」

 

シンジはフサイチコンコルドへの本心を語る。

その表情はとても優しく、シンジが如何にフサイチコンコルドを大切にしているかがわかるものだった。

 

「僕みたいなのが、最初の相棒でいいんですか?」

 

とても大きな信頼を寄せるシンジに対して、フサイチコンコルドは少しだけ申し訳なさそうにする。

 

「いいも悪いもないだろ。そもそも選べるもんじゃねぇんだから。でも、だから確信できるよ。お前は間違いなく俺の相棒だ。まあ、お前がどう思ってるかは知らないがな」

 

そう言ってシンジは照れくさそうに笑う。

 

「僕もトレーナーが相棒だと思ってます。今だったら父さんが言ってたことがわかります。『いつか、きっと私たちではない、お前を見守ってくれる人が現れる。その人に出会えたら、お前の願いは必ず叶うはずだ』って」

 

「そうか。叶えようぜ。お前と俺の夢を」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

シンジの言葉に応えるフサイチコンコルドの笑顔はいつぞやに父親だけに見せていた自然な笑顔とまったく一緒だった。

 

「ところでさ。ダービーに出れるって親に連絡したか?」

 

「はい。昨日すぐに」

 

「観に来るって言ってたか?」

 

「…。父さんは絶対に観に行くって喜んでたんですけど、母さんは何も話してくれませんでした…」

 

「そっか…。なあ、お前のお袋さんて、普段どんな人なんだ?悪い人じゃないんだろうけど、親父さんの話だけじゃあ、まったくわからねぇ」

 

「…母さんはとっても優しい人ですよ。ただ、争い事とか揉め事が凄く嫌いで、何かあると自分のせいかなって思い込んじゃうタイプで…」

 

「なんだ、ただのお前じゃん。薄々わかってたが、お前のめんどくさい性格はお袋さん譲りなのな」

 

「…うるさい」

 

「あん?今なんて?」

 

「うるさい、うるさい!もー、絶対に言うと思った。だから、今まで誰にも言わなかったのに…」

 

「殴るんじゃねぇよ!いてっ、いてて。わかった!やめろ!降参だ。謝るよ。お前はめんどくさくない」

 

突然フサイチコンコルドがシンジをポカポカと叩きながら、顔を真っ赤にして恥ずかしがる。それは今までフサイチコンコルドが誰にも見せたことのない表情だった。

 

「あー、それもバカにしてますよね?そんなこと言うなら相棒やめます」

 

シンジの謝罪に納得しないフサイチコンコルド。雰囲気は完全に痴話喧嘩のそれである。

 

「それは困る。わかったよ。俺が悪かった。まあ、それはそれとして、お袋さんもダービーを見に来て欲しいな。なんとか呼びたいな…」

 

「はい…。絶対に観に来て欲しいです…」

 

「うーん。ダービーまであと2日半。お前の両親は大阪にいる。大阪までは新幹線なら3時間くらい。よし、お前の実家行くか?そんで、直談判だ!」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし!着いたぜ!大阪!コンコルド!熱はねぇか?」

 

「とりあえず、今は大丈夫です。あのー、ダービー2日前に練習そっちのけでこんなところに来ていいんですか?」

 

「あん?どっちにしたって、熱出した次の日は練習しないだろ?で、ダービーの前日は軽い調整しかしないだろ?だったらサボるもくそもないだろ?」

 

「それはそうですけど…」

 

翌日、ダービー2日前の日中、2人は大阪に居た。

 

あれからシンジの突然の思いつきで、フサイチコンコルドの実家にダービー出場の挨拶と現地観戦の直談判をしに行くことになった。

 

その突然の思いつきにフサイチコンコルドは全力で拒否をしたが、シンジは抜群の手際で父親にアポイントをとり、学校にも休暇届を提出したため、フサイチコンコルドはなくなく実家へ帰ることになる。

 

「大丈夫だよ!チームのヤツらには言ってあるから!『コンコルドが実家帰るから俺も行く。お前ら今日は自主練な』って。そしたら、何人かはガッツポーズしてたし、何人かはヒソヒソ話してたぜ。とりあえず、怒ってるヤツいないから問題ないんだよ!」

 

大阪には来ているが、ものすごく乗り気ではないフサイチコンコルドの渋い表情に対して、シンジは問題ないと豪快に笑い飛ばす。

 

「いや、それ別の意味で盛り上がってますよ…」

 

「別意味ってなんだ?」

 

「もー、なんでこういうことは鈍感なんですか…」

 

シンジの発言に対して、フサイチコンコルドは顔を赤くしながら呆れ返る。

 

「まあ、いいや。よし、お前ん家行くぞ!」

 

「…はい。こっちです」

 

そんなフサイチコンコルドの気持ちに気付かないシンジは意気揚々と実家を目指して歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ。遠くからわざわざ来ていただいてありがとうございます。どうぞ」

 

「ご無沙汰してます。突然の連絡すみませんでした。お邪魔します」

 

コンコルドの実家に着くとフサイチコンコルドの父親が出迎えてくれた。突然の訪問ではあったが、とても嬉しそうだ。

 

「しかし、ダービー2日前ですが、調整は大丈夫ですか?私個人としては来ていただけることは嬉しいですが、トレーナーの観点からすると少々リスキーかと思いますが…」

 

広い家の廊下を歩きながらフサイチコンコルドの父親がシンジに今回のことを尋ねる。

 

「お父さんのおっしゃることはもっともです。ただ、自分は1日のトレーニングのメリットよりも移動のリスクがあっても『お母さんがレースを観にきてくれること』がコンコルドのここ一番の励みになると思いました。だから、来たんです」

 

凛々しい表情でシンジはこの選択をした理由を話す。

 

「…。やはりあなたは優れたトレーナーだ。タイトルやランキングの問題ではない。私では到底及ばないほどにあなたは優れたトレーナーですよ」

 

シンジの心意気にフサイチコンコルドの父親はとても感心した表情でシンジを褒める。

 

「ありがとうございます。でも、自分の仕事はここからですから…」

 

フサイチコンコルドの父親の言葉に対して、シンジは謙虚に応える。ただ、その顔には堂々とした雰囲気が漂っていてとても24歳とは言えない風格があった。

 

「さあ、こちらです。この部屋に妻がいます。一応、今日は機嫌がいいので、話は出来そうですから」

 

「わかりました。失礼します」

 

そう言ってシンジが扉を開けると部屋の真ん中には1人の大人のウマ娘が座っていた。

 

[うおっ!?やべー、コンコルドのお袋さん、スーパー美人だ…。なんか『神々しい』ってこんな感じか?なんか、この場に居るのが恐れ多い感じがするぜ…]

 

部屋の真ん中に座っているブロンド髪のウマ娘はとても美しい容姿をしていて、それこそ"女神様"と言って差し支えないほどのオーラを放っていた。

 

「こんにちは。遠くから来ていただき、ありがとうございます。娘がいつもお世話になっています。私は母のバレークイーンと言います。はじめまして」

 

夫同様に日本人以上に丁寧で流暢な日本語でフサイチコンコルドの母親が挨拶をする。

 

「あっ、こちらこそはじめまして。娘さんの担当トレーナーの藤間シンジと言います。今日は突然お邪魔してすみません。明後日、この子がダービーに出ますからその報告と挨拶に来ました」

 

「そうですか…。ダービーに出場することは主人からも聞いています。そのためにわざわざこちらまで来ていただいたのは申し訳ありません」

 

「まあ、挨拶は挨拶なんですが、要件の本題は別にあります。それはこの子から直接話をします。コンコルド、話しな」

 

「は、はい。あの、母さん…。僕は明後日、日本ダービーに出ます…」

 

シンジに背中を押されたフサイチコンコルドが緊張した面持ちでダービーに出場することを伝える。

 

「うん。それはみなさんから聞いてるわ。よく、ここまで頑張りました。明後日のダービーも勝てるように頑張ってね」

 

フサイチコンコルドの母親はコンコルドに励ましの言葉を掛けるが、どこか他人事のような感じがある。

 

「あ、ありがとうございます…。それで、出来れば、母さんにも日本ダービーを見に来て欲しいんだ…」

 

「…」

 

フサイチコンコルドのお願いに母親は無言で思案する。

 

「ダメですか…」

 

母親の前向きではない表情を見たフサイチコンコルドが、悲しそうな顔で再度尋ねる。

 

「…。ごめんね。少し、考えさせて」

 

「…」

 

フサイチコンコルドの悲しそうな顔に、母親も少しだけ表情が崩れるが、やはり回答は変わらない。

 

「クイーン…。もういいじゃないか?君にいろいろあるのはわかる。娘の体が心配な気持ちもレースに関わることにストレスを感じるのもわかる。でも、もうお母様たちは関係ない。せっかく娘が自分で勝ち取った晴れ舞台なんだ。観に行ってあげよう…」

 

見かねた父親が母親を説得しようと話しかける。

 

「…それでも私はレースを見届けられない。私たちのためにと無理をして、自分の体の難しさをわかっていながら、命を晒して走る姿を素直に応援なんて私は出来ない…」

 

「それは…」

 

悩ましい表情はすれど、フサイチコンコルドの母親の心はそう簡単に開かないようだ。

 

「私は自由に生きて欲しいの。あなたが私たちを想って走っていることは嬉しいわ。でも、身体の弱いあなたがこんな窮屈な世界で命を賭ける理由なんてない。私はこんな窮屈な世界から抜け出して、もっといろいろな世界を見て欲しいの。だから、私はレースに関わるあなたを応援出来ないの」

 

続けてフサイチコンコルドの母親が本心を訴える。その表情には不安が溢れていて、母親なりに娘を気遣っていることは窺える。

 

「心配をかけてごめんなさい。母さんがレースの世界を嫌っているのはわかってます。でも、それでも明後日は観に来て欲しい。僕は『チームの仲間たちのため』に走るんだ。その姿を観に来て欲しいんだ」

 

「えっ?」

 

不安そうなフサイチコンコルドの母親に対して、フサイチコンコルドが明日の抱負を語る。

その顔はとても爽やかな笑顔だ。

 

「僕はチームのみんなのために走る。ダービーに出るために、チームのみんなが、トレーナーが僕を応援してくれた。みんなが僕の練習に付き合ってくれて、みんなが僕を支えてくれた。僕がダービーに出れるならって、ダービーに出るのを辞めようとまでしてくれた仲間もいたんだ。僕は明後日、その仲間たちの想いも背負って走る。レースに勝つことは大切だけど、僕が父さんと母さんには見て欲しいのはそこじゃない。僕が1年間で"どれだけ変われたのか"を観に来て欲しいんだ…」

 

「…」

 

爽やかな笑顔で本心を伝えるフサイチコンコルド。その笑顔を見た母親は驚いた表情をする。

 

「変わったね。コンコルド。父さんは嬉しい。ずっと1人で抱え込んでいたお前からこんな話が聞けるようになるなんてね…。トレーナーさん、本当にありがとう。今日はすぐに回答が出来ないかもしれないが、ダービーの日までに私が妻を説得する。どうか、レースに備えて、早めに東京に帰ってください。東京レース場でまた必ず会いましょう」

 

娘の決意にフサイチコンコルドの父親は目を潤ませながら、シンジに対して深々とお辞儀し、感謝の意を表す。

 

「わかりました。行こう、コンコルド。後は大丈夫だ。俺らは俺らに必要なことをやるぞ」

 

フサイチコンコルドの父親の姿に何かを感じとったシンジは席を立ち、フサイチコンコルドに帰る旨を伝える。

 

「はい。わかりました。父さん、母さん、またね」

 

「ああ。いってらっしゃい…」

「…」

 

 

 

 

 

コンコルドの実家にいたのは1時間にも満たなかったと思う。

たったそれだけのために労力やらお金やらを費やしたことに後悔なんか微塵もない。

何故なら、コンコルドの気持ちは親父さんに確実に届いたからだ。

 

ただ、お袋さんの心は最後までわからなかった。むしろ、手ごたえがなさすぎて不安だった…。

 

でも、伝えるべきことを伝えて、俺らの準備は全て整った。

 

 

 

 

そして、運命のダービーの日を迎える…。

 




フサイチコンコルドの母であるバレークイーンが登場しますが、容姿は金髪のマルゼンスキー、性格はお上品なシュヴァルグランといった感じでイメージしました。

実家の場所を大阪にしていますが、実際のフサイチコンコルドの所属トレセンである栗東トレセンのオマージュです。
本当は現実にあった輸送トラブルをエピソードに盛り込みたかったんですが、トレセン学園および寮が東京にある以上、それが無理だったのは、ちょっと無念です…。
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