『生涯の相棒』と呼び合うフサイチコンコルドとシンジの今は…。
「やっぱ、今になっても信じられねぇな。あんな状況からダービーを勝てるなんて。あの時の俺らは持ってたな!」
「確かに持ってました。でも、ごめんなさい。それも本当にダービー"まで"でした。僕はあのダービーで持ってるもの全部を使い果たしたみたいです。菊花賞は逆にダークの末脚に負けました…。しかも、タッチにも勝てなかった…」
「ありゃあ、仕方がねぇ。お前も体調不良だったしな。まあ、そんなことより、俺は身を持って知ったぜ。奈瀬さんとエリートを本気にさせたらああなるんだなって…。あの鬼脚はヤバかった…」
ダービー後、フサイチコンコルドは二冠を目指して調整を重ねたが、やはり体調不良が酷く、無理矢理出場したOPレースを2着に敗れてしまい、連勝は呆気なく止まってしまう。
そして、本番の菊花賞…
お〜っと!これはフサイチコンコルド!
フサイチコンコルド!
そして、ロイヤルタッチ来た!
ロイヤルタッチ来た!ロイヤルタッチ来た!
サクラケイザンオー!サクラケイザンオー!
お〜っと!!ダンス来た!
物凄い脚だ!ダンスインザダーク!!
ロイヤルタッチ!ダンスインザダーク!
ダンス交わした〜!!!
ダービーの無念を晴らした!
ダービーの無念を一気に晴らしました!!
ダンスインザダーク!
奈瀬文乃、珍しくガッツポーズ!!
ダービーとは逆の展開でフサイチコンコルドがダンスインザダークからマークを受ける。
最終直線では、これまたダービーとは逆にダンスインザダークの進路が閉ざされる状況に。
しかし、そこからダンスインザダークはフサイチコンコルドと同じように自らの脚で道を切り拓く。
上がり3F 推定33秒8。
進路変更を2度余儀なくされる不利があった上に、既に2400m以上の長距離を走っているという極限の逆境の中で、ダンスインザダークはウマ娘が出せる限界速度を超えた"鬼脚"を発揮する。
そして、奇跡の剛脚によって、前を行くロイヤルタッチ共々フサイチコンコルドは差し切られ、二冠の夢は絶たれた。
「あの時のダークは凄かった。あの脚があればダークは絶対に世界でも戦えた"はず"でしたよ…」
「まあな。あの脚があれば海外のタイトルはまず間違いなく取ってたよ。あの後の故障がなければな…」
菊花賞史上でも稀に見る剛脚を発揮し、勝利したダンスインザダーク。しかし、その代償としてレース後しばらくして屈腱炎を発症し、そのまま引退してしまった。
「ダンスインザダークも悔しいだろうな。これからという時に怪我で引退なんてな…」
「いえ、ダークはあまり後悔していませんよ。僕に勝ったことが何より嬉しかったみたいです。『海外には行けなかったけど、私は私の全力をもって世界レベルのライバルに勝てたから、これで引退でも悔いはない』って、誇らしげでした」
「そっか、やり切ったんならいいんじゃねぇか。まあ、俺はお前とダンスインザダークのライバル対決をもっと見たかったけどな。で、お前はこれからどうする?」
「…。正直、この春には引退しようと思いました。でも、ジャスティスを見守っていて、このダービーを観て、また走りたくなった。やっぱり、僕は父さんと母さんの子でサラブレッドの家系に生まれたウマ娘なんだなって思います。僕は走るのが、レースがやっぱり好きみたいです。だから、もう少しだけ、リハビリを続けて体を治してみます」
「そっか…。じゃあ、もう少しだけ頑張るか。ところで、お前は指導者を目指さないのか?ダンスインザダークはすぐに指導者の道を選んでたぞ」
「僕も指導者になるつもりです。今度は僕が指導者になって父さんと母さんの想いを広げていきますよ。とりあえず、まずは"妹たち"を鍛えようと思います」
「へー、そうか。妹たちをね……えっ?お前、妹いんの?」
「はい。言ってませんでしたっけ?僕の1コ下と2コ下と5コ下と13コ下に妹がいます」
「いや、待て!絶対聞いてねぇ!ってか、妹いすぎだろ!?お袋さん頑張ったな…。それよりも、これまでの話の流れならお前、1人っ子じゃないとおかしくないか!?」
「なんで、そうなるんですか?僕のこと知らなすぎじゃないですか?よくそれで、『相棒』なんて名乗れますね。先入観で話すのはやめてください」
「はー!?だって、実家に行った時は妹たち居なかったろうよ。影も形も!」
「妹たちがいないのは当たり前です。だって、実家に行ったのは『金曜日の午前中』ですよ?普通はみんな学校です。1コ下のグレースアドマイヤは今年の1月に学園でデビューしたばっかりです。2コ下のミラクルアドマイヤは来年入学を目指して頑張ってる中学生です。3番目のボーンキングは小学生。4番目のアンライバルドはまだ幼稚園です。ちなみにボーンキングとアンライバルドは僕が鍛えるって父さんには言ってあります」
「いや、そんな大事なことはもっとしっかり言えよ!つーか、1コ下の妹!今学園にいるのかよ!俺んとこ、挨拶来いや!礼儀がなってねぇー!」
「いや、グレースは挨拶に行きたがってましたよ。でも、それは僕が止めました。"めんどくさくなる"からいいって」
「おい!ちょっと待て!お前こそ、よくその扱いで、俺の『相棒』を名乗れるな!俺の扱い酷くねぇか!?」
「えっ?そうですか?そんなもんでしょ?藤間シンジなんて」
「あー、言いやがったよ!コイツー!あんまり調子に乗んなよ!この陰キャ!逆体温!めんどくさい女!」
「あっ、言ったな!うるさい!このチンピラ!下品!バカ!ジャイアン!」
賑やかな"痴話喧嘩"の声が、日が暮れて静かになった東京レース場に響き渡っていた。
この後、フサイチコンコルドは秋まで復帰を目指してリハビリを続けたが、結局復帰は叶わず、そのまま引退することになった。
引退後、フサイチコンコルドは指導者となり、ファンから愛される名選手を複数名送り出し、引退後もトゥインクルシリーズの歴史に名を残すことになるが、それはまた別の話。
フサイチコンコルドは生涯僅かに5戦のキャリアしかなく、GⅠ勝利も一つしかないため、通常なら引退式などは行われないが、ファンからの嘆願と歴史的な偉業をURAから讃えられ、この年の11月に引退式が特別に開かれることになった。
引退式の会場は奇跡のダービー制覇を成し遂げたこの東京レース場。
鮮やかで強烈な刹那の輝きと未来永劫語り継がれる大偉業を残して、フサイチコンコルドはターフを後にした。
ここまで物語をお読みいただきありがとうございました。
この2人の物語はこれにて幕引きです。
最後に少しだけ小ネタの解説を。
フサイチコンコルドの妹たちは有名どころだけ抜き出しました。他の馬たちごめんね。
フサイチコンコルドの母、バレークイーンもまた日本の競馬における名牝の一頭で、子供たちは競走馬としても繁殖牝馬としても十分な活躍をしていますね。
フサイチコンコルド自身もまた種牡馬として引退後になかなかの活躍をします。チームみゆぴーのダート短距離担当ブルーコンコルド・自分の推しの一頭オオスミハルカ・GⅡ大将バランスオブゲーム。
ウマ娘化するかは微妙ですが、個性溢れるメンバーがいますね。
一瞬の輝きだけを残しターフを去ったフサイチコンコルドですが、決して一発屋ではない確かな才能を持つ名馬だったと私は思います。
サニーブライアンもそうですが、どうやら自分は活躍の長さや功績の大きさだけに寄らない色濃く確かな足跡を残した競走馬が琴線に触れるようです。
そんな名馬が見つかりましたら、また物語を描いてみたいと思います。