インビジブル〜神を貫いた音速の末脚〜   作:スタイニー

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後に生涯の相棒とお互いに呼び合う2人の運命の出会い。
しかし、それは決してロマンチックなものではなかった!?


出会い

「シンジさん。どうですか、今年のスカウトの具合は?」

 

トレセン学園内のカフェテリアでシンジとユタカが今年のスカウト状況について話していた。

 

「まあまあ、じゃねぇの。ってかさ、俺思うんだが、書類選考っている?」

 

「はい?どういうことですか?」

 

唐突なシンジの問いにユタカが驚く。

 

「なんかさ、どいつもこいつも、どこのレース教室出身だとか、どのレース大会に優勝したとか、親族に有名選手がいるとか書いてあるけど、結局実力が物言う中央(ここ)じゃあ、関係なくねぇか?」

 

シンジが渋い顔をしながら、テーブルに積み上がった選考書類を指差し、ユタカに問いかける。

 

「いや、それはまあ、そうですけど、スカウトの選考基準としては必要な要素じゃないですか?」

 

シンジの質問にユタカは戸惑いながら、返答する。

 

「紙の上でエリートを謳ったって、ここじゃあ、意味ねぇって!あと、ここ最近、留学生(ガイジン)も多くなってきたじゃねぇか。それも気にくわねぇ。どいつもこいつもエリート気取って、お高くまとまりやがって、実際に走ってみたら、それがメッキかどうかなんて直ぐにわかんだろ!だから、書類選考なんていらねぇよ!」

 

「いや、だから選抜レースとか種目別競技会とかあるんじゃないですか?結局、その不満て、シンジさんが"エリート嫌い"を拗らせるだけじゃないですか…」

 

シンジの発言にユタカは眉間に皺を寄せながら、遠回しに"屁理屈だ"と言う。

 

「あん?ユタカ!テメェ、いつから先輩にそんな口聞けるようになったんだ!生意気なんだよ!この"エリート"が!」

 

「ちょ!やめてくださいよ〜。別に自分はエリートじゃないですよ〜」

 

シンジがキレてヘッドロックをかけて戯れる。

 

 

 

バザッ

 

 

 

2人が組み合ってテーブルにぶつかった拍子に選考書類が入った一つのクリアファイルが床に落ちる。

 

「見てみろ!コイツとか、いかにもヨーロッパのエリートですって澄まし顔してるだろうが!パツキンで色白、目の色も青くていけすかねぇ!」

 

落ちた書類から見えた顔写真を指差し、シンジがますますヒートアップする。

 

「ゲホゲホ…。それ、もはや僻み嫉みの類いですって…。あれ?この子、顔立ちは欧米人ですけど、国籍は日本ですよ」

 

ユタカはシンジに絞められた首を手でさすりながら、クリアファイルを拾い、シンジの指摘に誤解があると告げる。

 

「あん?そんなわけ…確かに日本国籍だな。血筋は…書いてねぇ。ガイジンたちの履歴書は大体血筋のことを細かく書いてるもんだが、こんなツラでこの書類の書き方は珍しいな…」

 

ユタカから渡された書類をシンジは詳しく見るが、よくある留学生たちの書類とは違うことを認める。それどころか、経歴や実績、血縁関係の欄に一切何も書かれていない、普通基準で見ても淡白と言わざるを得ないほどの履歴書だった。

 

トゥインクルシリーズが国際化してから、10年余り。国際化に伴ってトレセン学園に来る留学生は年々増えていた。

 

レースの本場、ヨーロッパやアメリカに比べれば歴史がまだまだ浅い日本のレース文化ではあるが、そうでありながらも部分的には本場をも凌ぐ盛り上がりをみせる日本のトゥインクルシリーズに憧れを持っている海外選手は多く、トレセン学園への留学を希望する選手も毎年一定数いる。

 

そういった背景もあり、学園内でも留学生に対する受け入れ体制は急激に整い始めていて、学園自体も留学生に対し、非常に友好的な雰囲気になっている。

 

ただ、そうは言っても、日本人の生徒と留学生にはレースに対する価値観の違いはある。

一番の違いは『血筋』『家系』に対する価値観の違いだ。

 

日本人は履歴書に出身クラブや大会での成績などを自身の実績として細かく書くが、留学生はそれに加えて、自身の家系や血筋、近親者の活躍選手を日本人以上に細かく書く。

それは長い歴史を誇る本場にルーツを持つ者たちにとっての『先駆者達を敬う精神』の現れでもあり、伝統的な価値観である。

 

ただ、日本人にとってはそういった価値観はないため、人によっては『無駄なエリート意識』『自慢話』という相容れない"悪い価値観"の類いとして感じてしまう者も少なからずいた。

 

「あー、なんかコイツの顔見てきたらムカついてきた!ちょっとコイツ呼んでガツンと言ってやる!ガイジンのクセに日本人ぶってんじゃねぇってな!」

 

「いや、そんなことしたら諮問委員会で会議にかけられますよ。やめてくださいって!」

 

「うっせぇ!ここでやらなきゃ日本人が舐められるんだ!諮問委員会だろうが、理事会だろうが、かかってこいや!」

 

指導者としてあるまじき発言をするシンジに対して、ユタカはなんとか止めようとするが、シンジは聴く耳を持たなかった。

 

 

 

 

 

 

 

コンコン

 

 

 

「失礼します」

 

「おう。入れ。そこ座れ」

 

扉がノックされ、1人のウマ娘が部屋に入り、席に着く。

 

「はい」

 

「名前は?」

 

「フサイチコンコルドです。今日は面談の時間をいただきありがとうございます。よろしくお願いします」

 

ユタカとのやり取りから数日後、シンジは履歴書のウマ娘、フサイチコンコルドとの面接を取り付けていた。

 

 

「お前、高等部?」

 

「はい。そうです」

 

「あっそ」

 

フサイチコンコルドは少し緊張しながらも丁寧な会話をするが、シンジはあからさまに横柄な態度で会話を進めていく。

 

「ってか、お前、ガイジンだろ?」

 

「…。いえ、僕は日本人です。国籍も日本国籍です」

 

シンジのストレート過ぎる質問に対して、フサイチコンコルドは一瞬だけ戸惑った後に答える。

 

「いやいや、そのツラでそんなウソは無理があるだろ?まあ、お前の国籍が日本だとしても、親はガイジンだろ?」

 

シンジは横柄な態度でフサイチコンコルドの出生について問い詰める。

 

「確かに僕の両親は外国にルーツを持っています。でも、僕も両親も日本人ですから…」

 

シンジの横柄な態度と問いに対して、フサイチコンコルドは申し訳なさそうに答える。

 

「国籍なんか関係ねぇ!両親の遺伝子がガイジンならお前もガイジンなんだよ。どうせお前も母親がヨーロッパとかで活躍してたエリートとかなんだろ?勿体ぶらないでさっさと言え」

 

気圧されているフサイチコンコルドを尻目にシンジの強い追求は続く。

 

「…いえ、僕の母親はレースの世界とは無縁の人です…」

 

フサイチコンコルドはシンジの剣幕に気圧されているのか会話をするごとに元気をなくしていく。

 

「チッ、なんかナヨナヨしすぎててイライラすんな。まあ、いいや。で、お前はどこのクラブの出身でどんな実績があんだよ」

 

シンジは元気のないフサイチコンコルドに苛立っていたが、それはそれとして、面接を続けていく。

 

「僕はどこのクラブにも通ってなくて、大会にも出たことはないんです…」

 

そんなシンジの様子を察するフサイチコンコルドはとても気まずそうに自身の実績がないことを告げる。

 

「はっ?そんなことあるか!中央の試験をレース初心者が突破出来るわけねぇだろ!あっ、あれか、たまたまその日だけいいタイムが出ちゃった系か?だったら、すぐに荷物纏めて帰んな!お前の感じじゃあ、中央は居心地悪いだけだぞ!」

 

実績がないことを告げるフサイチコンコルドに対して、シンジは厳しい口調でフサイチコンコルドに退学を勧める。

 

「すみません…学園を辞めるのだけは出来ません…。タイムのことは何も言えませんが、しっかりと測ってはもらえていたので、嘘でもたまたまでもないと思います…」

 

シンジのストレートな物言いにフサイチコンコルドは完全に元気をなくしているが、退学するということに関しては、頑なに拒みたいようだ。

 

「あー、はいはい。じゃあ、いいや。表出てタイム測ろうぜ。それでいいな?」

 

「あっ、はい…。お願いします…」

 

そんなフサイチコンコルドを見てシンジは手っ取り早いからとグラウンドでの能力測定を提案するが…

 

 

 

 

 

 

「あの…。タイムどうですか?今日は調子が良かったので試験の時よりいい感じで走れたような気がするんですが…」

 

「そ、そうなのか…。とりあえず、査定するからちょっとあっちいってろ」

 

「あっ、はい…」

 

[なんだ、コイツ…。初心者ってのは絶対にウソだな…。いや、問題はそこじゃねぇな。コイツの出したタイムは試験基準で言ったら『Sランク』だ。これは流石に"たまたま"じゃねぇな…。ってか、このタイム、新入生のトップクラスでも中々お目に掛かれるタイムじゃねぇよ…]

 

幾らかの測定メニューの中で、フサイチコンコルドはシンジを唖然とさせるタイムを叩き出す。

しかも、それは『優秀』というレベルではなく『異常』といえるレベルのタイムだった。

 

[まさか、この陰キャのガイジン、相当やべえヤツじゃねぇか?コイツなら重賞?いや、GⅠ?いや、もしかしたらダービー獲れんじゃねぇーか?とりあえず、オファーしといて損はねぇ!]

 

まさかの結果に次第にシンジは興奮を抑えきれなくなっていく。

 

「おい、フサイチコンコルドだっけ?お前、まだスカウト受けてねぇーの?」

 

「はい。まだです」

 

「おう、そうか…。[マジでか!ちょーラッキーじゃん!これはチャンスだ!]

 

シンジは興奮を悟られないように冷静に会話する。

 

「あのー、やっぱりダメですか?」

 

テンションが上がり切っているシンジに対して、フサイチコンコルドは神妙な面持ちでシンジの審査を尋ねる。

 

「いや、良かったよ。お前中々見どころあるな。さっきはオラついて悪かった。お前、ウチのチームに来いよ」

 

シンジは先程までの態度に謝罪を入れつつ、テンションの高さを悟られない様にフサイチコンコルドをチームに誘う。

 

「え?あっ、はい。ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

シンジからの合格宣言にフサイチコンコルドはようやく少しだけ笑顔を見せる。

 

「おう!俺は藤間シンジな。よろしく」

 

 

 

 

 

ダービートレーナーになったヤツらが自慢げに話す『ダービーを獲れる逸材との出会いの秘話』。

 

そんな漫画みたいな話は迷信だと思っていたが、フサイチコンコルドと出会ってそれが迷信の話じゃないんだなってマジで思った。

 

トレーナーになって6年目。

これはもしかするともしかするかもといろんな期待を抱いちまうほどの光輝く才能に俺は一瞬で一目惚れしたんだ。

 

俺とアイツの運命の出会いはそんな感じだった。

 

ただ、その時の俺はわかってなかった。

アイツがいかにデケェものを背負ってるかを。

そして、俺らが闘いを挑む相手がいかにデケェかを…。

 




今回の作品には海外のウマ娘事情が密に絡んできます。
ただ、原作ではあまり描かれている部分ではないので、独自設定が強くなると思いますが、適度に受け流していただけるとありがたいです。

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