インビジブル〜神を貫いた音速の末脚〜   作:スタイニー

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圧倒的な才能を持つフサイチコンコルドをスカウト出来たシンジ。
チーム加入直後から、フサイチコンコルドは期待に胸を膨らませるシンジの予想通りの練習成果を挙げていく。
順風満帆な日々を過ごすシンジ。しかし、フサイチコンコルドには何やら秘密があるようで…。


秘密

コンコルドと出会い、契約したのはちょうど夏休みの前くらいだった。

 

それから俺はコンコルドを指導していくが、当のアイツは走りに関しては指導なんて必要ないくらいにセンスに溢れていた。

中央でトレーナーをして、まだ6年しか経っていなかった俺だったが、今まで出会った選手の中でも群を抜いて走りが洗練された、いわば"完成された選手"だった。

 

だから、ウチのチームの同期の奴らがこなすはずのメニューはコンコルドには必要がなくて、アイツだけの特別メニューを組んでいた。

まあ、特別メニューと言えば聞こえがいいが、実際はシニアクラスの奴らがこなすメニューをやらせているだけなんだがな。

まあ、アイツは何の問題もなく、こなしていたよ。

 

 

 

 

「コンコルド。お前、夏の合宿に行くか?」

 

「…。僕はやめておきます」

 

「え?マジで?なんで?」

 

「あの、ちょっとその期間は家族と旅行に行こうって約束してて…」

 

「マジかよ。せっかくの初合宿なのにな。旅行はどこ行くの?」

 

「宮城です」

 

「旅行先が宮城ってのもなかなか渋いチョイスだな…。まあ、普段は親元離れてるから家族との時間も大切だしな。合宿に行かないのは気にすんな。楽しんでこいよ」

 

フサイチコンコルドの意外な回答に思わず笑ってしまったシンジだが、せっかくの家族と過ごす時間ということで、フサイチコンコルドの不参加の意向を受け入れた。

 

「すみません。みんな行くのに…。あの、ところで僕のデビューはいつになりそうですか?」

 

「んー、今のところ11月くらいかな」

 

「そうですか…。デビュー、結構遅いですね…。まだ実力不足ですか?」

 

「…そういうわけじゃねぇよ。ただ、まあ足りないって言ったら体力かな。あとはレース勘だ。お前は確かに『初心者』だ。走りのフォームや時間感覚なんかは優れてるが、コース取りや駆け引きはまだまだ未熟だ。だから、併せや模擬レースでもいいからもっと慣れた方がいい」

 

「そうですか…。でも、それなら公式戦のレースに出て経験した方が早くないですか?」

 

「まあ、それも一理あるんだが…。今はまだその時じゃねぇってことよ。まあ、悪くは思うなよ。期待してるからあえてそうしてんだからな」

 

「そうですか…。わかりました。もう少し練習で慣れていきますね」

 

「おう!」

 

アイツには話さなかったが、デビューを遅らせているのは正直言って俺のエゴだった。

 

俺はアイツの才能にますます惚れ込んでいた。

アイツなら必ずGⅠを獲れると確信できるほどに。何ならダービーだって獲れるって。

だから、俺はデビューに慎重だった。詰めの甘さを残した状態でデビューさせて、戦績に"キズ"をつけたくなかったからだ。まあ、要は無敗の三冠まで意識してたんだ。

それくらいにアイツの才能は頭抜けてた。

 

ただ、世の中そんなに上手い話はないって直ぐに思い知らされたがな…。

 

 

 

 

 

「トレーナー!コンコルドの様子がおかしいよ!なんか、ヤバいかも!」

 

「なんだ?どうした?」

 

それは9月の中頃のことだった。

 

俺のチームではデビューが近くなるとレースがなくても他のチームメイトの遠征に帯同するのが恒例行事だ。

 

それは全国のレース場を股にかけるトゥインクルシリーズという舞台において、『遠征適性』も勝敗を分ける重要な要素になると思っているからだ。

 

そんな恒例行事の時に事件は起きた。

 

「おい!コンコルド!大丈夫か!?」

 

「すみません…。ちょっと体調を悪くしたみたいで…」

 

シンジの呼びかけに苦笑いしながらフサイチコンコルドは応えるが、顔は真っ赤で、汗をびっしょりとかいていた。

 

「車酔いか?いや、待て、そんなレベルじゃ…お前熱があるじゃねぇか!何で黙ってた!?」

 

シンジがフサイチコンコルドの額を触ると尋常ではない熱を帯びていることがわかった。

 

「いや、せっかくの初遠征で、迷惑をかけたくなかったので…」

 

「アホか!黙って痩せ我慢してた方が、迷惑になるだろうが…。とりあえず、バスから降りてタクシーで病院に行くぞ!お前ら悪いが、滞在先に着いたら部屋にいろ。あとで、リーダーに連絡するからそれまで待機!」

 

フサイチコンコルドは苦笑いしながら、体調不良を隠していた理由を話す。それを聞いたシンジは稚拙な理由を叱責する。

 

シンジはバスからフサイチコンコルドを下ろすと、急いでタクシーを呼び、1番近くの病院へと急行した。

 

 

 

 

「彼女、肺炎を起こしてますね、軽度の。幸い直ぐに病院に連れて来ていただいたので、大事にはならないということは断言出来ますよ」

 

「そうですか…ならいいんですが…」

 

診断結果に対して、シンジは少し安心した表情になる。

 

「まあ、軽度な肺炎ですから、治りはしますよ。ただ、彼女の体質ははっきり言ってかなり弱い。再発する可能性は極めて高いので、問題ないかと言われると問題はありますが、それよりも…」

 

「それよりも?なんですか?まだ何かあるんですか?」

 

「それよりももっと問題があります。彼女は『逆体温』という特殊な体質を持っています」

 

「逆体温?」

 

「朝方よりも日中の方が低体温という体質です。アスリート的な観点での問題点を挙げるなら、この体質の者は時間帯によっては体がオーバーヒート(急激な体温上昇)をおこしてしまうんです。今回の肺炎もそれが原因で、引き金になったのはバスでの長距離移動でしょうね」

 

「そんな体質が…あっ、だからアイツはそうしてたのか!」

 

医師から告げられた『逆体温』の説明にシンジはフサイチコンコルドの日頃の行動の意図を直ぐに察した。

 

フサイチコンコルドはシンジのチームに入った後も抜群の成果を上げていた。それは実力主義を謳うシンジのお眼鏡に叶うほどの非の打ち所のない成果だった。

 

ただ、その一方でフサイチコンコルドはシンジに対して"不思議な"提案を持ち掛けていた。

 

 

 

「トレーナー。9月以降も夏休み期間と同じ練習時間でやってもいいですか?」

 

「ん?どういうことだ?」

 

「夏休み期間中の練習時間でいつもやりたいんです。暑い日中を避けて、朝と夕方に分けて練習するやつです。あの時間帯で練習した方が僕は集中できて、とても効率がいい気がしたので」

 

「んー、俺はいいんだが、他のヤツらに示しがつかねぇからな…」

 

「わかりました。それだけでは信用出来ないなら、朝の練習中は常にビデオを回しておきます。これなら信用してもらえますか?」

 

「んー、まあ、その条件ならいいだろう…。午後の練習前に必ず提出な」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

それはフサイチコンコルドがチームに加入してしばらく経ってからの提案だった。

提案を受けてしばらくはシンジも懐疑的に見守っていたが、フサイチコンコルドは宣言通りに"一切サボることなく"練習をこなし、ビデオも撮影し、欠かさず提出していた。

 

しかも、タイムは実際に上がっていたので、シンジはフサイチコンコルドの真摯な姿勢に信頼を寄せ、ある程度の期間の後、ビデオの提出を義務付けず、完全に自主性に任せていた。

 

 

 

 

[そうか。この体質をわかっていたからあのトレーニングのやり方だったのか…。バカだな俺は。何でもっと問いたださなかったんだ…]

 

シンジはフサイチコンコルドの行動を追求しなかったことを悔いる。

 

「トレーナーさん。これは私の個人的な意見ですが、彼女の体質はトゥインクルシリーズという日本最高峰の舞台で走るには"強度不足“と言わざるを得ません。お気持ちは察しますが、彼女の健康を第一に考えるなら、直ぐにでも引退か退学をお勧めします。どうか、賢明なご判断を…」

 

「…」

 

医師から告げられた『選手失格』の烙印にシンジは言葉を失った。

 

 

 

 

コンコン

 

 

 

「コンコルド。体はどうだ?」

 

「ああ、トレーナー。さっきよりは良くなりました…」

 

「おい!無理すんな!いいから寝てろ!」

 

病室に入って来たシンジに気付いたフサイチコンコルドはなんとかして体を起こそうとするが、見かねたシンジがそれを静止する。

 

「すみません…。迷惑をかけて…」

 

シンジの気遣いに従い、フサイチコンコルドはベッドに横たわる。

 

「医者からいろいろ聞いた。なんで、体質のことを黙ってた?」

 

「…。すみません。体質の弱さがバレてしまったらチームを追い出されるかもって思ってしまって、言い出せませんでした…」

 

「お前なぁ…。バスの中でもそうだが、『迷惑』の概念がおかしいぞ。別に怒っちゃいないが、こういうことが起こる前に対策はとらねぇと俺も困るし、親にも示しがつかねぇから、こういうことはやめろ」

 

「はい…。すみませんでした…」

 

「とりあえず、これからはお前の体質に合ったトレーニングプランを作る。それでいいな?」

 

「ありがとうございます。それでお願いします…」

 

「よし。とりあえず、親に連絡入れるか…」

 

「それはやめてください!お願いします…」

 

「おっ!力強っ!」

 

電話をかけるために病室から離れようとしたシンジの袖をフサイチコンコルドが掴み、引き止める。その引き止める力はシンジが一瞬バランスを崩すほどにかなり強い。

 

「ど、どうした、急に…。流石に連絡しないのはまずいだろ…」

 

「お願いです…。それだけは…」

 

「おいおい…。そんなに泣くなよ…」

 

強烈な力に引っ張られたシンジは驚きながらフサイチコンコルドを見る。するとフサイチコンコルドは大粒の涙を流していた。

 

「お願いです。連絡はしないでください…。両親には心配をかけたくないんです…」

 

「はっ?なんだお前。まさか、親の反対を押し切ってここに来たのか?」

 

「あっ、いや、その…許可はしっかりもらっています…。でも、お願いです…。今回だけは…どうか…」

 

「わ、わかったよ。連絡はしねぇよ。日頃のお前の真面目さに免じて、一回貸しな!」

 

相変わらずの力強さで袖を掴むフサイチコンコルドの必死さにシンジは遂に折れる。

 

「すみません…。ありがとうございます…」

 

「とりあえず、ゆっくりしろ。軽いっていっても肺炎は肺炎だ。練習もしばらくナシな」

 

「はい…」

 

 

 

9月に起こったコンコルドの体質のトラブル。あの時の俺はアイツの必死な目に情が出ちまってそれ以上の詮索出来なかった。

 

ただ、そん時、俺はアイツとの『正確な距離感』に気付いた。

 

 

 

アイツの才能に惚れ込んでいても、結局俺はアイツの何を知っているんだろう…

 

 

 

それは俺がアイツの才能や誠実さに信頼を置いていたからこそ芽生えた感情だった。

どう考えてもアイツにはまだ隠してる『秘密』がある。だって、あんなに必死になって親に口止めするなんて、よっぽどのことだろ?

 

ただ、アイツの『秘密』を知るまでにはそんなに時間がかからなかった。

 

そして、その『秘密』を知った時に俺の覚悟は決まったんだ。

 

 

 

アイツの運命を覆してやれる最高の"相棒"になってやるって…

 




体質が弱い名馬というものは、たくさんいますが、このフサイチコンコルドほど体質の弱さに悩まされ、その体質の弱さを嘆かれた馬はなかなかいないでしょう。
そのレベルはケガがちというレベルではなく、些細なことが生命の危機に繋がるレベルです。
ですが、その危機的な体質の弱さと引き換えにフサイチコンコルドには圧倒的な天賦の才能が備わっていました。

まさに、漫画にたまに出てくる『病弱薄幸天才キャラ』の典型ですが、実際に自分がその立場になったらそれは不幸と思うでしょうか?幸運と思うでしょうか?皆さんはどう思いますか?

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