インビジブル〜神を貫いた音速の末脚〜   作:スタイニー

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ようやく、デビューへと漕ぎつけたシンジとフサイチコンコルド。
そのデビュー戦は予想通りの快勝。
これで、クラシック戦線に乗り込むための第一歩を踏み出せる。
と思った直後にシンジはまさかの出会いをする…。


初勝利

先頭はフサイチコンコルド!

どうやら、2番手ヒシビート。

突っ込んだところでゴールイン!

 

フサイチコンコルド、デビュー戦を勝ちました!

 

 

 

「よし!」

 

フサイチコンコルドの1着を見届けたシンジが軽くガッツポーズをする。

 

時は流れて、翌年の1月初頭。

フサイチコンコルドは京都レース場でのデビュー戦を快勝した。

内容にもかなり余裕があり、フサイチコンコルドの才能の底はまだまだ深いと知らしめるには十分過ぎる勝ち方だった。

 

ただ、その一方で、この勝利に至るまでの代償として、シンジはフサイチコンコルドの体調の波にかなり翻弄された。

 

そもそも、当初の予定では11月のデビューだった。しかし、9月に起こした肺炎の影響が長引き、予定していたトレーニングプランがいきなり頓挫する。

 

ならばと、新しいプランで11月デビューを目指すが、夏から秋にかけての季節の変わり目もあり、頻繁に軽度の体調不良を起こしてしまう。

 

苦肉の策として、1週間だけでも万全な日が続いたら、無理矢理デビューさせようともシンジは考えたが、そんなささやかな望みも叶わぬほどに、フサイチコンコルドの体調の波は安定しなかった。

 

そんな状態でデビューの時期を慎重に伺っていると、あっという間に日が経ってしまい、"ようやく"年明けにデビューが出来たというのが実情だった。なので、この勝利を『デビュー戦に勝っただけ』とありきたりに評してしまうと関わった者たちに憚られるような部分もあった。

 

ただ、そんな状況でもフサイチコンコルドは日々進化を重ねていて、体調が安定した日ならシニアクラスの一線級と遜色ないタイムが出るレベルまで来ていた。

 

それは体調さえ大丈夫ならクラシックの一つはもちろん、三冠も決して不可能ではないとチームの誰もが期待するような圧倒的な才能であり

、ここまで苦労が絶えないシンジの唯一の希望だった。

 

 

 

「ったく、コンコルドのヤツ、どこ行ったんだ?」

 

チームメンバー全員のレースが終わり、シンジは京都レース場から引き上げ、宿舎に戻る準備をしていたが、フサイチコンコルドだけが見つからない。そのため、シンジは場内を探し回っていた。

 

「あのヤロー初勝利なのにあんまり喜びもしないで、覇気がねぇのも大概にしろってんだ!チームのヤツらも喜んでんだからもうちょい笑えよ…」

 

この日の第7レースでフサイチコンコルドは初勝利を挙げた。チームのみんなはフサイチコンコルドの初勝利に喜んでいたが、当の本人は少し笑顔を見せるくらいで、淡々としていた。

それを見ていたシンジは口を出さなかったものの、フサイチコンコルドの"悪い意味"で達観した性格に危うさを感じていた。

 

GⅠや重賞で成果を出しているとはいえ、まだ23歳の若手であるシンジのもとに、世代の注目株と言えるほどの逸材が来ることは少なく、どちらかといえば、"落ちこぼれ"寄りの選手が来ることの方が多い。

 

 

 

『長所』『メンタル』『展開』

この3つが揃えば"落ちこぼれ"だって"エリート"に勝てる!

そのために『長所』と『メンタル』は日頃から鍛える!『展開』は向くことを辛抱強く待つ!

 

10回に1回あるかないかの"勝てるレース"を100%勝つのが落ちこぼれの生きる道だ!

 

逃げるな!戦え!あとは俺が何とかしてやる!

 

お前らにとってのマイナスなことは俺がなんとかしてやる。だから、お前らは前だけ向いて、戦う気持ちだけは絶対になくすんじゃねぇ!!

 

 

 

そんな選手たちの成績を上げるためにシンジがたどり着いた『勝利の方程式』。

 

何でも出来る天才なんてほとんどいない。

だからこそ、頼るべきところを頼り、頼ってはいけないところは自分を奮い立たせる。

 

日々のトレーニングで長所を極限まで磨き、その長所を活かせる展開でなら他の誰にも負けないという局地戦での絶対的な自信を身に付けさせ、0か100かという極端な割り切りをもって勝利を狙う。

 

1勝することですら大変な中央で『落ちこぼれの生きる道』を見出しているシンジのチームは中堅以下の実力の選手たちからの人気がなかなかに高い。

 

そんなシンジが選手育成において最も重要視するのが『メンタル』。

シンジは経験や知識がまだ浅い10代の子たちだからこそ、『メンタル』が理屈では測れない爆発的な力を生み出す源だと信じている。

 

そして、そういった『メンタル』を育める場がチームであり、仲間との助け合いや遊び心、トレーナーとの親しみや信頼関係によって『メンタル』の力が蓄えられてくれば、圧倒的な実力差をひっくり返す力になるはずとシンジは考える。

 

しかし、達観しすぎているフサイチコンコルドにはそういった10代の若者だからこそ持てる非理屈的な力の源がない。

もちろん、フサイチコンコルドには圧倒的な才能があるため、大体のレースはそれさえあれば高い勝率で勝てるが、もしフサイチコンコルドと同等かそれ以上の才能を持つ選手とGⅠという極限の闘いにおいて競り合いになったら果たして才能だけで勝ち切れるのだろうか?

 

大きなタイトルを獲れるという確信があるからこそ、その才能に抜け目があって欲しくないとシンジがそう思ってしまうのも無理はなかった。

 

「しかし、デケェ場内を探すって無理あるな…。これじゃ…おっ、いるじゃね〜か!おい!コンコ…あれは誰だ?」

 

シンジがフサイチコンコルドを探すためにメインスタンドを探し回りながら、曲がり角を曲がろうとした瞬間にフサイチコンコルドを見つける。が、フサイチコンコルドは誰かと話していて、シンジは咄嗟に曲がり角に身を隠す。

 

「見慣れないヤツだな…。ありゃあ、ガイジンか?背が高けぇし、髪も金髪だ…。つーか、コンコルドのヤツ、あんな顔するんだな…」

 

フサイチコンコルドは見知らぬ男性と話していた。相手は背が180cm以上の大柄で、髪の毛は金髪がかったブロンドと明らかに日本人離れしていた。ただ、何よりシンジが気になったのはフサイチコンコルドの自然で年相応の笑顔だった。

 

普段のフサイチコンコルドは表情が乏しく、シンジやチームメイトと話していても、微笑む程度しかしない。だが、目の前にいるフサイチコンコルドは誰も見たことがないような満面の笑みを浮かべている。シンジはその笑顔に目を奪われていた。

 

「何を話してるかはよく聞き取れねぇ…ってか、あれ、日本語じゃねぇな。英語か?まあ、何でもいいけど、ウチのヤツに声かけるとかアイツいい度胸してんな!」

 

フサイチコンコルドと男性の会話をシンジの位置からでは聞き取れない。ただ、節々で聞こえる単語は日本語ではないことはかろうじてわかる程度だ。

 

シンジは相手が誰かを推測しながら2人を観察していたが、次第に親しげに話す2人を見て何故か嫉妬じみた感情が芽生え始める。それは、毎日を過ごす間柄にも関わらず、シンジには見せたことのない明るい笑顔をその男性にだけ見せていることが悔しかったからかもしれない。

 

「おい!アンタ!ウチの選手に話しかけるとかいい度胸してんな!アンタ何者だ?答えによっちゃあ、タダじゃおかねぇ!」

 

じれたシンジが声を張り上げながら2人に近寄る。

 

「あっ…」

 

「yeah? What is it?」

 

「あん?ガイジンの言葉はわかんねぇよ!ここは日本なんだから日本語で話せ!」

 

「His words are quite disturbing, but who is he?」

 

「Dad, I'm sorry. That person is …」

 

「オメーも日本語で喋れよ!俺は高校レベルまでしか英語はわかんねぇ!」

 

「ご、ごめんなさい…。この人は…」

 

「君こそ何者なんだい?ウチの娘に気安く話しかけるなんて?」

 

「あん?俺はウチの娘のトレーナーだよ……娘?ってか、日本語!?」

 

「すみません…。この人は僕の父さんです…」

 

「!!!」

 

まさかの出来事にシンジは驚愕していた。

 




フサイチコンコルドが父親にだけ見せる笑顔の描写はエヴァンゲリオンで綾波レイが碇ゲンドウにだけ、笑顔を見せていたシーンを思っていただけるといい感じになります。
あんまり、笑顔を見せない女性がたまに見せる笑顔って素敵ですよね!
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