インビジブル〜神を貫いた音速の末脚〜   作:スタイニー

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次々と明かされるフサイチコンコルドの秘密とヨーロッパのウマ娘事情。しかし、それはまだ序の口に過ぎず、フサイチコンコルドの父親からはさらなる真実が語られていく。
そして、真実を全て聞き終えたシンジは…。


神の罰②

「えっ?あなたもトレーナーなんですか?失礼かもしれませんが、あなたを学園内で見たことはないですが…」

 

フサイチコンコルドの父親の発言にシンジは今までとは違う驚きを持つ。

 

「まあ、トレーナーと言っても私は本格化前の年代を指導するトレーナーです。あなたと面識がないのは当然でしょう。それに日本には15年以上住んでいますが、8年ほど前まではアイルランドが活動拠点の中心で、一年の半分はアイルランドにいましたから、日本で私の顔を知る人はかなり限られていますよ。だから、内密なんですがね」

 

そんなシンジに対して、フサイチコンコルドの父親は淡々と自身の身の上話を進めていく。

 

「そうなんですか…。本格化前の年代ということはレースクラブのトレーナーや設立者ということですか?」

 

「そうです。私の設立したレースクラブの名は『カーリアンレースクラブ』。ヨーロッパではそこそこ有名ですが、日本ではまだ馴染みがないですかね?」

 

「いや、どこかで聞いたような…。最近の活躍選手にそこの出身の子がいた気がしますが、名前が…。確か、留学生で…」

 

朧げながらフサイチコンコルドの父親が出したレースクラブの名前に心当たりがあったシンジが頭の中から選手の名前を引っ張り出そうとする。

 

「トゥインクルシリーズで活躍した留学生で既に引退しているならシンコウラブリイ。まだ現役ならエルウェーウィンですか?」

 

フサイチコンコルドの父親が該当しそうな選手の名前を出す。

 

「あっ、それッス!あっ…その子達です…。あの子達は強かった。留学生なので出れるレースには制限がありましたが、特にマイル戦は強かった。エルウェーウィンはケガさえなければもっと活躍できたはずですが、もう一度頑張って欲しいですね」

 

出された名前に反応するシンジ。どうやらその選手たちはトゥインクルシリーズでもそれなりの実力と知名度を誇る選手のようだ。

 

「あの子は大丈夫でしょう。エルにはこの間、お忍びで会いまして激励してきましたよ。今年は一つでもグレードレースをとってほしいですね」

 

フサイチコンコルドの父親は教え子に会っていたことをシンジに話すが、その表情はとても優しい。

 

「すみませんね。話が逸れてしまった。私はアイルランドを拠点にレースクラブを創設した。そして、ある程度の成績を上げましたが、ヨーロッパでの活動はもうほとんどしておらず、現地の教室の運営は後任に任せています」

 

「何故です?」

 

「理由の一つは、先程も話したようにイギリスにおけるレースのあり方に疑問を持っているからです。今はかなり薄れてきたとはいえ、やはり私は、大人のエゴが渦巻く母国のレース界が好きではない。日本のように健全であるべきだと思うのです。だから、ここ最近は私の教え子が日本に留学することも多くなった。一応、非公式ですが、今年のジュニアクラスにも私の教え子が何名かいます」

 

「そうなんですか?ちなみに誰ですか?」

 

「今一番成績を出しているのはビワハイジですね」

 

「えっ!?今年のジュニアクイーンじゃないッスか!マジッスか?」

 

まさかの大物の名前にシンジがさらに驚く。

 

「ビワハイジたちは私が完全に日本に住むようになってからの教え子です。もう知っているかと思いますが、コンコルドには出身クラブがないでしょう?その理由は私が個人的に指導をしていたからです」

 

「なるほど、だからなんですね。いくらなんでもレース初心者で親にレース経験者がいない子がいきなり中央の試験を突破出来るなんてまず聞かないですからね。どうしてかなとは思っていました」

 

フサイチコンコルドと面談した際の疑問の答えがようやくわかったシンジはとても納得している。

 

「私も軽々しく行動できる身ではないですから、娘も含め、その時の教え子には私の名前を口外しないことを条件に教えていました。その時に指導していた子の一人がビワハイジです。他にもクロカミ、ダイワカーリアン、イブキパーシヴなども一緒に指導していて、今在学中でしょう」

 

「あのー、なんか自分みたいな、はみ出しモンが娘さんを教えてるのが、申し訳なくなってきたんですが…」

 

次々と出される選手の名前にシンジは次第に萎縮していく。

 

「いえいえ、そんなことはない。むしろ、私の"理想的な"トレーナーですよ。私はあなたに担当してもらって良かったと思ってますよ」

 

そんなシンジを励ますようにフサイチコンコルドの父親はシンジが適した人物であると褒める。

 

「えっ?自分が理想的なトレーナーなんスか?」

 

「ええ。娘から聞く限り、あなたは教え子に対して"心"を大切にするように説いているように思える。それは私が娘に一番理解してほしい部分でした。だから、あなたの指導方法は私にとっての理想的な指導方法なのです。あの子は何でも抱え込むでしょう?私はそれが良くないと思っている。ただ、私がそれを説いても余計に抱え込むだけで、悪循環になってしまうんです」

 

フサイチコンコルドの父親は具体的なシンジの指導の良さを説明する。

 

「確かに、コンコルドは周りを頼らなすぎる性質があります。チームのみんなもそれは心配していて、手を差し伸べるんですが、コンコルドは"迷惑をかけたくないから"と余計に頑張ってしまうんですよね…」

 

「そうでしょう。これは私たち夫婦の問題でもありましたが、あの子は先天的に体が弱い。だから、誰かに頼らざるを得ない。小さい頃から周りを頼るしかない自分だからこそ、周りにもいつも優しくするようにと言っていました。あの子は優しい性格なので、周りには優しく、気を配りながらいられるんですが、自分に向けられる優しさを『迷惑をかけている』と思うようになってしまって、どうにも後ろ向きな部分が直らない。だから、別の誰かにそれを気づかせて欲しかったんです」

 

フサイチコンコルドの父親は切実な表情で娘の問題点をシンジに訴える。

 

「そうですか…。自分としてはまだコンコルドの心を開かせてはいないと思ってますから、もっと頑張ろうと思います」

 

フサイチコンコルドが抱える精神的な弱さの理由を理解したシンジはより、彼女との信頼関係を築くことを約束する。

 

「ありがとうございます。どうかあの子を助けてやってください。ただ、あの子がそうなってしまっているのには私の出生も絡んでいる。押し付けがましい話になってしまうが、これはあの子のトレーナーであるあなたにも知っていてほしい。あの子が何を背負ってしまい、何と闘っているかを。そして、あなたも共に闘って欲しいのです。それが、あの子と妻を闇から救う手立てになると思うのです…」

 

シンジの決意表明にフサイチコンコルドの父親は一瞬喜ぶが、自身のさらなる深い話をしようとすると顔が強張る。

 

「確かにヨーロッパのレース界の事情にお父さんは詳しすぎる。しかも、お父さんが話すのはレース界の"トップレベル"の話ばかりだ。お父さんは一体何者なんですか?」

 

そんなフサイチコンコルドの父親の顔に何かを察したシンジが、率直な質問を再び投げかける。

 

「実は私もサラブレッドの一族の生まれです。日本ではそれほどでもないようですが、ヨーロッパではサラブレッドの一族に生まれた男子は本格化前の年代のトレーナーをすることがポピュラーです。私も同じで、自分の意志とは無関係に母からそうなるような英才教育をされていました」

 

「えっ?そうなんですか?あなたの母親は一体誰なんですか?」

 

「私の母の名はニジンスキー。トレーナーなら流石に誰でも知っていますよね?イギリス最後の三冠ウマ娘」

 

「ニジンスキー!?ヨーロッパいや、世界クラスのレジェンドウマ娘じゃないッスか!本当ッスか!?」

 

フサイチコンコルドの父親から告げられる超大物の名前にシンジは今まで以上に驚愕する。

 

 

ニジンスキー。

イギリス最後の三冠ウマ娘。

イギリスの三冠レースを無敗で制した歴史に名を残す伝説のウマ娘。

特にジュニアからクラシック期までの強さは圧倒的で、ヨーロッパの歴代最強選手候補に必ず名前が上がるレジェンド中のレジェンドだ。

しかも、彼女は競走成績だけでなく、指導者としても一流で、彼女の教え子は世界各地で様々なタイトルを獲得している。

 

 

「私は母の威光もあり、トレーナーとしてある程度の成功をしました。私の教え子たちはエプソムダービー、アイリッシュダービー、キングジョージ、凱旋門賞などヨーロッパの主要タイトルの大体を獲得してくれましたよ。本当にありがたい」

 

フサイチコンコルドの父親はとても謙虚な口調で自身の実績を話す。

 

「マジっすか…[えー、お父さんに比べたら俺とかゴミ以下じゃん。この場にいるの辛くなってきた…]」

 

それを聞くシンジはかなり焦る。フサイチコンコルドの父親から発せられる数々の大レースの名前は否が応でも自分の小ささを知らしめるほどに圧倒的だからだ。

 

「ただ、それでも母は満足しなかった。ヨーロッパにはレーサーになったウマ娘の出身クラブの成績をランキングする風習がある。母はそのランキングにこだわった。一応、私もそのランキングトップを過去に2回ほど獲得できましたが、ここ最近はトップがダントツの成績を挙げているので、私では太刀打ち出来ない…。母はそれを根に持っています」

 

「ランキングトップ…。もしかして、それはサドラーズウェルズですか?」

 

「そうです。一時的には私も対抗できましたが、今では毎年のように彼女が獲得しています。だから、あの言葉が生まれてしまっているんですよ…」

 

フサイチコンコルドの父親は先程の格言を持ち出し、ライバルの凄さを表す。

 

「エリートの一族に生まれるというのも、大変ですね…。でも、お母さんももう少しあなたを評価してもいいのでは?」

 

寂しそうな表情をするフサイチコンコルドの父親に対して、シンジが庇う言葉をかける。

 

「それが難しいのです。そもそも母は良くも悪くも気難しい性格でして、それがレーサーとして、指導者としてはまだいいんですが、身内には当たりがキツい…。そして何よりも癇に障ったのは『私がサドラーズウェルズに負けた』ということです」

 

「それはどういうことですか?」

 

フサイチコンコルドの父親は自身の母親の話をするが、その表情はとても渋く、若干恥ずかしいという感情も入っていそうだ。

 

「私と彼女が同世代というのも癇に障っている理由なんですが、それ以上に癇に障っていることがありまして…」

 

「と、いうと?」

 

「実はかなり歳は離れていますが、母もサドラーズウェルズも同じクラブ出身なのです。だから、『自分の息子が後輩に負けた』というのが、悔しくて仕方がない。しかも、母自身をも退けてヨーロッパの覇権まで握ってしまっているので、なおさら面白くないのですよ」

 

「えー、理不尽ッスね…」

 

あんまりな理由で勘当されているフサイチコンコルドの父親にシンジがいたたまれないといったリアクションをする。

 

「まあ、そういった私の生まれがあるとわかった上で、もう一度私たちの家族構成を思い出していただきたいのです」

 

「えーと、あなたがニジンスキーの息子で名トレーナー。奥さんがアイルランドの名選手の娘かつサドラーズウェルズの弟子…。いやいや、血縁関係だけで言えば、コンコルドはヨーロッパでデビューすべき逸材ですね…」

 

関係図を今一度整理すればするほどにシンジはフサイチコンコルドの生まれの凄さに気付く。

 

「わかりますか?私たちの家族はヨーロッパのレース界のしがらみに縛られすぎている。ヨーロッパでは父親の血筋にも価値を問われるとなれば、あの子はヨーロッパレース界の正真正銘の『サラブレッド』になるんです」

 

フサイチコンコルドの父親はさらに申し訳なさそうな表情をする。

 

「…待ってください。もしかして、あなたたちが日本に来た理由のもう一つは、コンコルドがこのしがらみに縛られないようにするためでは?」

 

「正解です。実は交際中、私と妻は自身の家系の話をお互いに伏せていました。それを打ち明けたのは結婚を決める少し前。だから、それがわかった瞬間にお互いに気付きました。『子供のためにもヨーロッパから逃げなくてはいけない』と。幸い、私も妻も母親を含めた親族との折り合いが悪く、関係性は冷え切っていましたから、日本へ移住すること、国籍を捨てることには抵抗がなかった。だから、日本に移住し、すぐに帰化もしたのです。母親たちに"内緒"でね」

 

フサイチコンコルドの父親は苦笑いしながら、日本へ来た深い理由をシンジに伝える。

 

「そうなんですか…。でも、いくら内緒にしても、あなたたちの母親の人脈や名声のネットワークがあれば、そんな秘密もすぐにバレてしまうのでは?」

 

「ハハハ…。やはり、普通にそう思いますよね…。おっしゃる通り、これを秘密に出来たのは10年ほどが限界でした。サンプリンスもニジンスキーも一度は私たちのところに来て娘に会っています。『私の孫はどれくらいの逸材か』と期待してね。ただ、それが娘を悩ませるきっかけになってしまった…」

 

シンジの気付きにフサイチコンコルドの父親は再び苦笑いをする。

 

「もしかして、失望されたんですか?特異体質のせいで…」

 

なんとなく理由を察したシンジが哀愁漂う表情で問いかける。

 

「はい。こんな体質ではレーサーなんかになれないとすぐに見切られました。そして、どちらの母からも言われましたよ『親に逆らうからウマ娘の神様が罰を下したんだ』とね。さすがに私はどちらにも怒りましたよ『あなたのようなウマ娘の神様に縛られた人に私たち家族はならない。この子には何にも縛られない人生を送らせる!』とも宣言して追い返しました」

 

そう話すフサイチコンコルドの父親の表情は少しだけ、怒気をはらんでいるようだった。

 

「…まさか、コンコルドはこのことを抱え込んでいるんですか…」

 

「まあ、目の前で親同士の修羅場を見てますからね。トラウマになっても仕方がないでしょう…。自分のことが原因でいざこざが起きていると理解出来る年齢でしたしね。それからあの子はトゥインクルシリーズを目指すと言って聞きませんでした。それまでは走ることやトゥインクルシリーズのレースを見ることが好きなだけの普通の女の子だったのに、このことを機にあの子にとってトゥインクルシリーズで成果を挙げることが"責務"になってしまった。私たち夫婦が一番望まない未来へと歩み始めてしまったんです…」

 

そう話すフサイチコンコルドの父親の顔には悔しさが滲んでいる。

 

「なんか、やるせないッスね…。ご夫婦それぞれで説得は出来なかったんですか?」

 

「無理でしたね。ダメだと言えば言うほどにあの子は私たちの目の届かないところで無理をするようになって、説得は悪手でした。だから、私はつきっきりであの子を見守ることを選んだ。ちなみに先程のビワハイジたちに私が口止めしている理由は日本で開いたレース教室が"娘のためだけ"に作った私塾だからです。さすがにずっと一人は寂しいでしょうし、友達も作って欲しかったので、私財を投じて作りました。まあ、その教室を娘は卒業しましたからレース教室はまもなく畳み、私もトレーナーを辞めますがね」

 

「娘さんのためにそこまでやっているとは…。ちなみに奥さんはどう見守っているんですか?」

 

「それがまた大変で…。妻はもともと繊細な性格をしていますから、妻にとってもその出来事がトラウマになってしまって、その時から妻は娘と真っ直ぐ向き合うことが出来なくなっているんです…。体質のことも『あの子に私の"落ちこぼれ"の血を継がせてしまった』とずっと嘆いていますし、ヨーロッパほどでないにしろ、体にも精神にも負荷がかかるレースの世界に娘が行くことで、万が一が起きないか気が気でないのです。実は今日のデビュー戦は妻にも見に来てくれるように娘が頼んでいました。私はどこでも見に行くつもりでしたが、妻を気遣って娘は関西のレースを選んでいます。でも、妻は行かないと言って聞きませんでした」

 

「アイツ…。本当に不器用な優しさばかりの子だ…」

 

フサイチコンコルドがレース場の選択をした本当の意味がわかったシンジはどこか嬉しそうだ。

 

「これが私の娘、フサイチコンコルドの背負うものの正体です。私はあの子を見守り、手助けは出来ますが、あの子を変えることまでは出来そうにない…。無関係なあなたにお願いすることではないとわかっていますが、どうかあの子をお願いします。そして、あの子をウマ娘の神様の不興から護ってやってください…」

 

「わかりました!任せてください!自分はやっぱりはみ出しモン出身っスから、逆境ほど燃えます!ヨーロッパのレジェンドだろうが神様だろうがかかってこいですよ!」

 

「本当にありがとう。娘をよろしくお願いします…」

 

 

 

深々と頭を下げるコンコルドの親父さんを見て、俺がいかにデカいもんを託されたかが改めてわかった。ただ、不思議とプレッシャーは感じなくて、ワクワク感の方が強かった。もしかしたら、俺が求めてるのは教え子の人生を一変させるようなデケェ仕事だったのかもしれない。

 

まあ、そんな感じで、ここからクラシック戦線に乗り込んで行くんだが、親父さんの言ってたことをあの時の俺は甘くは見てたな。

 

ウマ娘の神様ってヤツは思った以上に手強かったぜ…

 




まず初めに私の世界観でのウマ娘の血統、親子、兄弟関係についての補足です。

種牡馬→母親(ウマ娘)またはレースクラブの指導者(ウマ娘、人間男性)または父親(人間男性)
繁殖牝馬→母親またはレースクラブの指導者(ウマ娘)
兄弟(種牡馬が一緒)→同じレースクラブ出身者
兄弟(繁殖牝馬が一緒)→実姉妹
トレーナー→騎手、調教師、その他実馬関係者

以上のような感じで設定しています。

基本的に原作同様にウマ娘が師弟や実母になりますが、今回は種牡馬にあたるポジションに人間男性に置いたため、このような設定になっています。
実際の種牡馬のポジションをレースクラブ(ヴィクトリー倶楽部的なやつ)の指導者、または設立者という扱いにして、『産駒がたくさんいる=教え子がたくさんいる』としました。

まあ、いろいろと史実関係を絡めすぎると破綻する設定(特に年齢差)なので、ほどほどに面白がってください。
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