インビジブル〜神を貫いた音速の末脚〜   作:スタイニー

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フサイチコンコルドが背負うものを知ったシンジだが、全く怯むことはなく、むしろさらに意気込みを増してクラシック戦線に乗り込んでいく。
フサイチコンコルドもその才能に見合うだけの活躍をしていくが、今年のクラシック戦線は役者が揃う『戦国クラシック』だった。


四天王

 

親父さんとの話し合いが終わって、コンコルドを呼んだ。コンコルドは半泣きでかなり落ち込んでいたが、親父さん的にはルールを破ったことよりも初勝利したことの方が嬉しくて、一瞬でなかったことになっていた。

 

とはいえ、コンコルドに事情を話したことはしっかりと伝えていて、改めて『彼を信じなさい。彼はお前を導いてくれる。お前はトレーナーさんと仲間たちと一緒に栄冠を掴むんだ』と言って信頼の大切さを切実に説いていた。

 

コンコルドは少しだけ肩の力を抜いてくれたように見えたが、まだこれから次第ってとこかな。

 

まあ、何にしても、とりあえず、年明けに初勝利を飾ったコンコルドはこれからの目標を決める必要があった。

 

ぶっちゃけ、才能だけなら迷いなく三冠狙いなんだが、あの体質で間隔が詰まっている春シーズンを乗り切れるかって言ったら不安しかない。

 

とりあえず、皐月賞に問題なく出場するためだけでも、条件戦1勝と重賞1勝または優先出走権が最低でも必要なんだが、コンコルドの体質を考えるとレースはひと月に1回が限界だ。

 

だから、2月と3月に1回ずつレースに出て勝って、4月の皐月賞に乗り込むプランを考えたんだが、やっぱり体調不良を繰り返してトレーニングも調整も予定通りにいかなかい。

 

結局、2月はレースに出せず、2戦目が3月のOPクラスのレース『すみれステークス』にずれ込んだ。ちなみに年明けのデビューで、2戦目にOPクラスに挑戦するのは、かなり強気な決断で、普通ならまずやらない。ただ、これ以上スケジュールがズレると春シーズンのGⅠレース全てに出れなくなる可能性があるから、無理矢理にでもポイントを稼ぎにいくしかない。つまりは帳尻合わせのための見切り発車な格上挑戦だったわけで、もちろん結果は…

 

 

 

さあ!

フサイチ!フサイチ!

フサイチコンコルド!

 

フサイチコンコルド!外からセイントリファール!外2名!内の方からメイデンだ!

 

しかし、勝ったのは、フサイチ!!

 

フサイチコンコルドです!

 

 

 

 

余裕だった(笑)

 

普通だったら初めてのコースとか距離とか不安要素しかない挑戦なんだが、コンコルドクラスの天才なら関係ないわな。お陰で、レースを観ていた他のトレーナーから『楽しみな子やね!』って声をかけられたが、アイツのバックボーンを知ってる俺からすればアイツがレースに出たら『チート』もいいところで、逆に申し訳なく感じた。

 

とりあえず、デビュー2連勝。

しかも2戦とも先行して上がり34秒台の切れ味を発揮しての勝ちだ。アイツやっぱスゲーな。

 

ちなみに、このレースもわざわざ阪神レース場に遠征してまで出場したレースだった。理由はもちろん、お袋さんにも観てほしいから。

ただ、親父さんはいつも通りに観に来てくれたが、お袋さんは今回も来てくれなかった。

だからかもしれないが、完勝だったのにコンコルドの笑顔はぎこちなくて、むしろ悲しそうだった。

 

あと、やっぱりだが、体調の問題は今回も出た。レースを走った反動の体調不良がレースの強度が上がると予想以上に大きいことがわかった。実はデビュー戦の後も反動は出ていて心配はあったんだが、今回は見て見ぬ振りが出来ないくらいの反動が出た。

 

体調がそれなりに良く、重賞レースですらないのにこの反動具合だ。こればっかりは流石の俺も心配になった。だから、ここで俺は決断した。

 

 

 

ダービーだけに狙いを絞る!

 

 

 

 

三冠を諦めて、ダービー制覇に目標を切り替えた俺。とはいえ、そもそもの話、ダービーへの出場は確定出来ていない。

だから、ダービーの前にもう一つレースに勝つ必要があった。

 

俺が考えていたダービーへのローテは2つあった。

 

一つは5月1週目開催のGⅢ青葉賞。

レース条件がダービーと同じで、ダービーの予行演習には最も適したレース。そして、3着まではダービーへの優先出走権を得られる。

 

二つ目は青葉賞の翌週に行われるOPレースのプリンシパルステークス。

レース条件は2200mだが、相手関係的には少し余裕が持てるレース。ただし、優先出走権は2着まで。

 

この選択に俺は少し悩んだ。

どちらにもメリットデメリットがあって、コンコルドのためにも"良い選択"がしたいと考えたんだ。そして、しばらくして決断をするんだが、後々考えると、これがまあ"悪い選択"になる。

 

そんで、その"悪い選択"によって気付かされるんだ。

 

脚本家(神様)は『ライバル』の配置にも抜かりはないってな…。

 

 

 

 

「ダーク、あんた本当に皐月賞出ないの?」

 

「うん…出ない。トレーナーにダメって言われたわ…。ホント、やらかした…。ゲホゲホ…あー、頭クラクラする…」

 

「マジで!?バブルもダークもダメじゃあ、あたしの勝ち確じゃん!」

 

「はっ?何言ってんの?勝つのはボクだし」

 

「はっ?アンタこそ、何言ってんのタッチ?勝つのはあ・た・し。このイシノサンデーが皐月賞を獲るよ!」

 

「いや、ボクが勝つから。ってか、これじゃあ、一冠目はボクとイシノとの一騎討ちだね」

 

「確かにそうなっちゃったね。あたしたち『四天王』の誰が三冠を獲るかの勝負だったけど、これはこれで寂しいかも…。あれ?そういえばバブルちゃんは?」

 

「さっき、フジに教えてもらった駅前のスイーツを買いに行くって出て行ったわ。『私はやるよ!たとえ、松葉杖であってもね!』って宣言して」

 

「アイツ、今日退院したばっかだよね!?どんだけ甘いもの好きなの?」

 

 

 

 

 

63回目のダービーが行われる今年のクラシック戦線を賑わしているのは『四天王』と呼ばれる同じレースクラブ出身の同期カルテットだった。

 

1人目は四天王の斬り込み隊長・バブルガムフェロー。デビュー前から新入生離れしたパフォーマンスを披露していた逸材で、昨年の朝日杯を完勝。世代の最優秀ジュニアに輝いた。

しかし、不運にも皐月賞の直前に骨折が判明。残りの春のシーズンは全休が確定していた。

 

2人目は姉にナリタブライアンの同期でダービー2着、重賞3勝の実績を持つダンスリムリックと昨年のオークスウマ娘ダンスパートナーを持つ、名家出身のダンスインザダーク。

安定感のある成績で皐月賞でもかなり人気を集めると予想されていたが、こちらも発熱の不運があり、皐月賞の回避が決定していた。

 

3人目はイシノサンデー。重賞勝ちはないが、ここまで7戦すべてで3着以内。ラジオたんぱ杯ジュニアステークスでは2着であったが、ダンスインザダークに3バ身差を付けていて、『四天王』の名に恥じない実力を示していた。

 

4人目のロイヤルタッチは、3年前のダービーウマ娘ウイニングチケットの妹。

ここまで重賞2勝。昨年のラジオたんぱ杯ジュニアステークスではダンスインザダークとイシノサンデーに勝っていて、本命離脱の皐月賞では1番人気を背負うのではないかと目されている。

 

ここまでクラシックトライアルの主要レースは常に彼女らのいずれかが勝っていて、今年のクラシックはまさに『四天王旋風』が巻き起こっていた。

 

そして迎えたクラシック一戦目の皐月賞の勝者は…

 

 

 

外からすごい脚でロイヤルタッチが来た!

しかし、先頭はイシノサンデー!イシノサンデー!ロイヤルタッチ!

 

やっぱり今年は四天王!

 

勝ったのはイシノサンデー!!!

 

 

 

この年の皐月賞を制したのはイシノサンデーだった。

 

本命の離脱はあったが、結局『四天王』の一角が皐月賞を制したことで、今年のクラシック戦線が改めて『四天王』を中心に動いていることが実証された。

 

そんな中、シンジはダービーまでのローテーションを決断する。

 

「コンコルド。今の獲得ポイントだとダービーに出れるかは微妙だ。5月にあるプリンシパルステークスっていう優先出走権を獲れるレースがある。それに勝ってダービーに行く。いいな?」

 

「わかりました。大丈夫です」

 

じっくりと体調管理に気をつけながらダービーに向けての調整を続ける中、シンジはダービーを狙う新しいプランをフサイチコンコルドに伝える。

 

シンジとしては、このレースを選んだのには理由がある。

 

まず、レース強度が前回と同じだから。

青葉賞となるとレース強度が一段階以上確実に上がる。重賞未経験のコンコルドの反動がどれくらい出るかを測りかねているシンジにとっては1週間だけの日程的な余裕などあってないようなものだ。

 

次にレースの相手も懸念材料だった。

能力だけでいうならコンコルドはダントツだが、実際はどんなレースになるかわからない。相手によっては徹底マークもあり得るので、無駄な消耗を避けたいし、逆にレースに完勝すれば、ダービーでのマークは避けられないので、それも嫌だ。なので、プリンシパルステークスという"地味"なレースから出場を狙っていた。

 

 

一応さ、俺なりにはかなり考えた上での決断なわけよ。

全てが上手くいくとは限らなくても、トラブルは起きにくいんじゃないかってさ。

 

ただよ〜、神様はそこら辺も見越して罠を張ってんの。うぜー。

 

所謂"神様はなんでもお見通し"ってやつね…

 

 

 

 

「ダーク。次のレースだが、体調がかなり回復しているから、ダービー前にトライアルに出ようと思うが、いいかい?」

 

トレーナーの奈瀬がダンスインザダークに次の出走レースのプランを提案する。

 

「ええ、構いませんよ。青葉賞ですか?」

 

「いや、プリンシパルステークスだ」

 

「えっ?確かにあのレースはダービートライアルですけど、グレードはOPですよね?私に格を落としたレースに出ろと?」

 

意外なレース選択にダンスインザダークが一瞬戸惑う。

 

「まあ、そう悪く捉えないで欲しい。回復が早いといっても病み上がりに変わりはない。少しでもレース後の疲労を無くしたいんだ。あと、君を見出した橋本先生からある情報をもらったのが一番の決め手だ」

 

奈瀬がダンスインザダークを諌めるように理由を説明する。

 

「橋本先生から?ある情報?」

 

『橋本先生』とは中央のベテラントレーナーの1人だ。実はダンスインザダークをトレセン学園の入学前に見出したのは橋本だった。

そして、その橋本が担当として白羽の矢を立てたトレーナーの1人が奈瀬で、奈瀬本人もダンスインザダークの才能を目の当たりにして、担当に名乗りを上げたという経緯があった。

 

「ああ。『四天王』以外で君のライバルになりうる子を見つけたと言われてね。そして、その子がプリンシパルステークスに出るという。だから、前哨戦で力を測っておいた方がいいと橋本先生が僕に言ってきてね」

 

「ふーん。まあ、橋本先生が言うならそれなりの実力をお持ちなのでしょうけど、本当にそこまでの警戒が必要でしょうか?」

 

恩ある橋本のアドバイスということでダンスインザダークは先程よりは理解を示しているが、それでも相手の実力には疑念を抱いているようだ。

 

「どうだろうね?バブルガムフェローが離脱した今、ダービー制覇に一番近いのは間違いなく君だ。申し訳ないが今はもう『四天王』は横一線の実力ではない。ただ、橋本先生は経験豊富な方だ。警戒しておいて損はないだろう?」

 

奈瀬としても、実力だけを考えれば必要のない前哨戦とわかっているが、大先輩の助言にしっかりと耳を傾けておいた方がいいと考えているようだ。

 

「わかりました。出ましょう。その方には実力差をしっかりと見せつけて勝ちますわ」

 

信頼する奈瀬の一言にダンスインザダークは私情を捨て従うことを決めた。

 

 

 

ダンスインザダーク、プリンシパルステークスに参戦表明!

 




原作では違う名前で登場している四天王ですが、やっぱり真名で登場させたかったので、ルールを破りました(笑)

ウマ娘では層が薄い96世代ですが、フサイチコンコルド・サンデー四天王を含めなかなかにいいキャラクターがいる世代だったと思います。
特にこの世代はそれまでにある『競馬界の常識』を破壊した世代だと思います。
『牝馬は牡馬に勝てない』という常識を破壊したエアグルーヴ
『3歳では天皇賞秋には勝てない』という常識を破壊したバブルガムフェロー
そして『たった3戦でダービーを制覇』したフサイチコンコルド。
果敢な挑戦で栄冠を掴み取った勇気ある世代だなと思います。
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