インビジブル〜神を貫いた音速の末脚〜   作:スタイニー

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ダービーの前哨戦で相見えることが決まったフサイチコンコルドとダンスインザダーク。そのような状況でもシンジの覇気は衰えることを知らず、ますますダービー制覇に向けてのやる気が漲る。
しかし、そんなシンジに対し、ウマ娘の神様はまさかの奥の手を用意していた…。


仲間と共に

「チッ、前哨戦で『四天王』の一角と戦うことになるとはな…。しかも、その中の一番手か…。ダービーを"獲れるかどうか"の前に"出れるかどうか"の試練てか…」

 

ダービーまでのプランを決めたシンジのもとに皐月賞を回避していたダンスインザダークがダービー前にプリンシパルステークスを出場するとの情報が入る。

 

「コンコルド。次のレースでお前はダンスインザダークと当たる。お前はアイツを知ってるか?」

 

ダンスインザダークの出走表明後、シンジは彼女のことをフサイチコンコルドに聞いた。

 

「少し話をしたことはありますけど、ほとんど知らないですね。一応、クラスでは落ち着きのある、まとめ役タイプな感じです」

 

「ふーん。そんな感じか。噂通り、良いとこのエリートちゃんてとこか…。ちなみに走りの特徴とか聞いたことあるか?」

 

「みんなが言うには、スタミナ・瞬発力共にバランス良く持ち合わせた、好位抜け出しが基本スタイルらしいです。あと、レースIQも高いと聞きます」

 

フサイチコンコルドはダンスインザダークの知り得る情報を語る。

 

「なるほどな。それも典型的なエリートタイプのレース運びだな。で、お前はそいつに勝てそうか?」

 

そんなフサイチコンコルドに対して、シンジが単刀直入な質問をする。

 

「トレーナー、それは質問が難しいですよ…。僕と彼女では経験値が違う。レースになれば負ける気はありませんが、勝てるかどうかまでは…」

 

余りにもストレート過ぎる質問にフサイチコンコルドは苦笑いしながら意見を言う。

 

「まあ、そうだろうな。でも、とりあえず"勝てるかどうか"がわからないだけなんだな?」

 

「…まあ、絶対に勝てないとは思いませんよ…」

 

「よし、わかった!ダンスインザダークを倒しに行くぞ!プランは変えない!プリンシパルステークスからのダービーで行くぞ!」

 

「強気に攻めますね、トレーナー」

 

「あったりめぇよ!こちとらヨーロッパのエリートちゃんだぞ!日本のエリートちゃんがナンボのもんじゃい!っていうのは冗談にしても、ライバルの実力を見極めることは大切なことだ。あくまで俺らはダービーを勝つために全力を尽くす。前哨戦で負けることにビビってたらダービーなんて勝てねーからな!」

 

シンジは堂々とダービーに向けての抱負を語る。

 

「本当にいつも強気ですね…。でも、一理あります。トレーナーの信頼に応えられるように、ダービーに向けての勝算が得られるように前哨戦、頑張りますね」

 

「おう!やってやろうぜ!」

 

強気なシンジに呆れるフサイチコンコルドだが、シンジが自分を本気で信頼してくれていることを少し嬉しそうにしていた。

 

 

俺からすれば、前哨戦だろうが本番だろうが、ダンスインザダークと当たること自体にビビリはなかった。

俺の相棒の才能やセンスはたとえ日本のトップエリート一族だろうと見劣りなんてしないと思っているし、前哨戦で負けたぐらいでへこたれるほど、ダービー制覇への執念は弱くない。だから、この決断も即断できた。

 

それに俺はこの頃からなんとなくだが、『ネガティブになったらその時点でゲームオーバー』って感覚を持っていた。だから、攻めの姿勢は絶対に崩さねぇって、俺は腹を括ってたんだ。

 

今思えば、その感覚は間違いじゃなかった。

たぶん、この頃の神様は俺らの勢いにかなり押され始めていて、だいぶ焦ってたんだと思う。どんなに試練を与えても"俺"の心が全く折れないから。

 

だから、神様は次の手であんな『反則技』を使ってきたんだ。俺じゃなく"相棒"の心を折るための奥の手を…

 

 

 

 

「大丈夫か、コンコルド?」

 

寮のベッドで顔を赤くし、寝込んでいるフサイチコンコルドにシンジが問いかける。

 

「大丈夫…と言いたいところなんですが、流石に無理だと思います…」

 

フサイチコンコルドが苦笑いを浮かべながらシンジの問いに答えるが、息遣いは荒い。

 

「38.7℃か…。さすがに当日の朝にこれじゃあな…」

 

体温計に示された数字を読み上げながら、シンジは残念そうな顔をする。

 

「仕方がないな。今日は回避だ」

 

「…」

 

アクシデントはプリンシパルステークスの当日の朝に起きたんだ。

フサイチコンコルドがまた熱を出した。

アイツが朝方に発熱すること自体はよくあることだったが、よりにもよってその日はいつもより酷い39℃近い熱が出ていて、とてもレースを走らせられる状況じゃなかった。

 

正直、俺は『神様やりやがったな!』と思ったよ。

どんなに試練を与えても俺の心が折れないなら、そもそもレースに出させないようにして、相棒の心を折ってやるってか?卑怯すぎんだろ!神様のくせに姑息なんだよ!って愚痴りたくなるが、こうなっちまったら後の祭りだ。レースの出場は当日取り消しをした。

 

「コンコルド。ゆっくり休め。これが長引いたらいよいよダービーが厳しくなる。なんとか、早めに回復出来るようにベストを尽くすぞ」

 

「…すみません。こんな大事な日に体調を崩してしまって…」

 

シンジの苦渋の決断にフサイチコンコルドが謝る。

 

「仕方ねぇよ。ってか、俺の判断ミスだ。やっぱ余裕をもって青葉賞に出ときゃよかったんだ。そうすりゃあ、青葉賞で何かが起きても、まだリカバリーが聞いた。俺の判断ミスだ」

 

「…」

 

悔しそうにするシンジをフサイチコンコルドはとても悲しそうな顔で見つめていた。

 

「そんな悲しそうな顔するなよ。ダービーに100%出れないわけじゃない。まだ、なんとかなる」

 

悲しそうな顔のフサイチコンコルドを見て、シンジは悔しそうな顔をやめ、笑みを浮かべながら、フサイチコンコルドを励ます。

 

「本当にごめんなさい…。やっぱり、僕はウマ娘の神様に嫌われているんですよ…。母さんと父さん、トレーナーにチームのみんな。僕は僕に関わる人全員に迷惑や不幸を振り撒いてしまう…。何をどうしても、アクシデントが起きる。これじゃあ、本当にお婆様たちが言った通りだ…」

 

そう言うフサイチコンコルドは大粒の涙を流しながらシンジから背を向け、布団で頭を隠す。

 

「『ウマ娘の神様が罰を下した』ってやつか?あんな言い掛かり気にすんじゃねぇよ!大丈夫だ!お前の親父さんもお袋さんも俺もチームのみんなも誰もお前を責めねぇし、恨まねぇ、見捨てねぇ!だから泣くな!」

 

涙を流すフサイチコンコルドにシンジは励ましの言葉をかける。

 

「でも…」

 

「お前はさ、一人で抱え込みすぎなんだよ。親父さんにも言われたろ?一人で抱え込むな、周りを頼れって!」

 

「僕は弱いから、みんなの助けを借りないといけないことも多い。だから、そうならないようにって自分が頑張らないと…」

 

「コンコルド。ちょっとこっち向け。お前な、逆の立場の気持ちを考えたことあるか?」

 

「…えっ?ちょっ…。えっ?顔近い…」

 

そう言ってシンジはフサイチコンコルドが被る布団を剥ぎ取り、無理矢理反対側を向かせ、顔を近づけながら問いかける。突然のシンジの行動にフサイチコンコルドはとても恥ずかしそうにしている。

 

「お前を助ける側の気持ちがわかるか?お前の両親が、俺が、チームのみんながなんでお前を助けるかわかるか?」

 

シンジが真剣な顔つきで切実に訴える。

 

「僕が心配だから、僕が未熟だから…」

 

「ちげーよ。お前がいいヤツで、普段から頑張ってるからだよ。だから、みんなお前に手を差し伸べるんだ。その優しさや頑張りが無駄になって欲しくないと思うからお前に手を差し伸べるんだ」

 

「…」

 

「それにな、俺やチームのみんなはお前の脚に夢を見てるんだ。お前の才能なら今までにないスゲーことをやってくれるんじゃねぇかって本気で思ってんだよ!だから、余計に助けてあげてぇんだ。お前の脚にはみんなの夢が乗っかってんだ」

 

「みんなの夢が僕の脚に…」

 

「そうだよ。最近、お前の朝の練習時間に何人かチームのヤツらが来ないか?」

 

「あっ、はい。トレーナーが用意してくれてるんですよね?ダービーが近いから…」

 

「ちげーよ。アイツらが自分たちで勝手にやってんだ。しかも、俺に黙ってな。なんでも、いつもお前が一人で練習してるから、寂しいんじゃないかって心配して様子を見に来てんのと、練習効率をよくするためにだとよ」

 

「そうだったんですか…。知らなかった…」

 

事の真実を知ったフサイチコンコルドは驚きを隠せない。

 

「最初は同期のヤツらが代わりばんこで練習を見に来てたんだ。そんな感じでやってたらいつの間にかチームのヤツら全員が参加してやがんの。おかげで、当番のヤツらはその日は寝不足で練習に身がはいらねぇ。でも、やめねぇんだ。お前がダービーウマ娘になってくれることが今のみんなの夢だから…」

 

「なんで僕なんかのために…」

 

フサイチコンコルドはチームメイトたちの心意気に感動するが、どこか申し訳なさそうな気持ちもあるようだ。

 

「それがお前の魅力なんだ。確かにお前には欠陥があるかもしれない。でも、そのおかげでお前は優しい人になれて、そのおかげでお前の周りには人がいる。不幸や不運ばっかりじゃねぇ。お前が一生懸命頑張ってる姿が周りのみんなに"希望"を与えてるんだよ。いい加減それをわかれ!そうじゃなきゃみんなが可哀想だ…」

 

そんなフサイチコンコルドの面持ちに気付いたシンジが諭すようにみんなの想いを代弁する。

 

「…僕は一人で闘わなくてもいいんでしょうか…」

 

「ああ、闘わなくていい。俺らみんなで闘うんだ。ダービーをみんなで獲りに行く。いや、お前を悲しませるウマ娘の神様ってヤツをみんなでぶっ倒しに行くぞ!俺らは神様なんかに負けねぇって見せつけてやんだ!きっとそれがお前の両親への恩返しにもなるさ…」

 

「…わかりました。僕もみんなと一緒に闘いたい…。もう、1人で塞ぎ込むのはやめにします…」

 

「ああ、それでいいんだ。みんなで闘おうぜ…」

 

「…はい」

 

フサイチコンコルドはシンジの言葉を聞き、落ち着きを取り戻す。

ここに来て、ようやくフサイチコンコルドは仲間を頼ることの大切さを理解したようだった。

 

 

 

コンコルドと過ごした中での、一番の"精神的な"ピンチはなんとか乗り切った。

あとは"物理的な"ピンチをどう乗り切るかだったが、そこらへんも俺らの絆の強さが光ったぜ!

 




フサイチコンコルドのダービー制覇の重要なターニングポイントとなったプリンシパルステークスを巡る騒動。
このレースに出れないことが原因でダービー出場はいよいよ黄色信号となります。この時、陣営は相当焦ったでしょうね。レースに負けるならいざ知らず、レースに出ることすら叶わないんですから、神様に見放されたと思うのも当然です。

ただ、この騒動が本当に"不運"だったかどうかはこの1ヶ月後にわかります。
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