クックックッ…愛です、愛ですよ! シロコ!   作:ゲマ

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深き魂の黎明
プロローグ


 

 

 

 暗闇のなか、機械が怪しく光る密室。その様はまさしく”秘密の研究所“。

 

 

 その中央で、黒色のスーツを身に纏い、黒に染まったひび割れた顔で歪に笑っている男がいた。

 そしてその対面にはケモミミでショートカットの銀髪の少女がいた。

 完全に誘拐の類である。

 

 

 「クックックッ……」

 

 

 

 

 誰 か 助 け て

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 所謂転生物、中でも憑依転生に自分の場合は当てはまるのだろう。

 

 

 『ブルーアーカイブ』

 

 

 ブルアカと称されるソシャゲである。

 

 不条理な世界を友情、信頼、奇跡で乗り越える“強さ”。

 叶わない恋だと知りながら、気持ちを抱き続ける“青春”。

 

 時に喜び、時に曇らされ、だがハッピーエンドへと進もうとするその姿。

 

 自分はハピエン厨である。

 だからこそ、ブルアカの絶望とともに魅せられる奇跡(ハッピーエンド)に何よりも感動させられた。

 

 

 だが、死んだ。死んだ。死んだのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたらブルアカの世界に居たんですけどね。

 

 しかも、黒服として。

 

 

 「クックックッ………」

 

 

 クックックッ、なんていう笑いが出てくるくらいには驚いた。

 未だ高いビル群がそびえ立っていながらも、世界は青で満ちており、『透き通った世界』だった。

 あの時の感動は忘れることはないだろう。

 

 その直後に自分の姿を見て絶望するわけなのだが。

 

 

 「アイエエエ!? 黒服!? 黒服ナンデ!?」

 

 

 黒服。ブルアカにおいて、敵とされているゲマトリアに所属する”悪い大人”である。

 ただ只管に神秘の研究をする変態。先生に熱い視線を向けるストーカー。

 魅力的なキャラデザに、稀に見せる面白さで一定の人気を誇っていた敵キャラだ。

 

 それが、自分に……

 

 あれ、ヤバくね? ボブは訝しんだ。

 黒服はヘイローを持っているわけではない普通の肉体である。それでいてゲマトリアに所属しているため抗争に巻き込まれることは確実であり、死ぬ可能性も高い。

 

 嗚呼、ただ、

 

 

「…………死にたくない」

 

 

 気が付けば、声が出ていた。

 一度経験した”死の感覚”というものは抜け切ることがないようで、死に対して非常に強い恐怖を抱くようになっていた。

 死にたくない。ただ、その一心だけが心にあった。

 

 といっても、此処は弱肉強食の透き通った世界。銃社会である。

 普通に生活しているだけでは死ぬことは必至であり、かといって普通の精神性を持っている自分が“ゲマトリアの黒服”を徹底的に演じた所でボロが出て、いずれは消されてしまうかもしれない。

 

 幸い、原作開始までは相当な時間が存在する。

 

 現在は学園都市という基盤すら出来上がっているかどうかというほどである。

 体を鍛える、なんていうものはヘイロー持ちからすると何の価値もないものであるため、そもそもの案として存在しない。 

 他のゲマトリアに頼るか? いや、それも結局は意味がない。

 ゲマトリアは組織ではあるものの、あくまで集団であるというだけである。

 

 

 結局、『キヴォトスの神秘』を研究しなければ話にならない。

 

 

 それは単なる知的好奇心などではなく、自分が生き残るため。

 黒服は自らを”観察者であり、探求者であり、研究者“だとしていたが、それならば自分は”介入者であり、臆病者であり、研究者”だとしよう。

 キヴォトスの神秘の応用を自らに施すことが出来れば、それは生存へと繋がる。

 

 ゲマトリアの本懐とは大して違いはない。

 “崇高”が生存へと繋がるならばそれを目指そう。”色彩”が敵であるならば排除しよう。

 自分が生き残るために。

 

 

 だが、それでいて目指すのは『ハッピーエンド』だけである。

 

 原作では幾つもの奇跡が重なった結果がハッピーエンドだっただけであり、選択を間違えてしまえばバッドエンドに直行してしまう。そんなことは許せるはずがない。

 やはり、『ブルーアーカイブ』はハッピーエンドでなければならないのだ。

 

 自分の事ながら、矛盾していることは自覚している。

 

 もし、自分の命を投げ出さなければハッピーエンドを迎えられなければどうするのか。

 もし、ハッピーエンドのために危険を負うことになったらどうするのか。

 もし、もし、もし……

 

 回答としては、『その時にならなければわからない』というのが正しいだろう。

 事態に直面してみなければ精神状態などわかるはずもない。

 

 だが、『覚悟』と『責任』はある、とだけ言っておこう。

 

 

 

 そこからはただ只管に準備を重ねていった。

 自分が死なないため、物語をハッピーエンドにするために。

 

 何度も投げ出そうとは思ったが、結局変わることはなく。 

 自分の臆病さや曖昧さも変わることはなく。

 

 神秘についての実験は難航した。

 それは元々自分が研究職では無かったこともある。これは仕方がない。

 原作での黒服やゲマトリアはキヴォトスの生徒で実験したことにより神秘について理解を深めていったが、自分は生徒には手を出さないと決めている。

 だが時間はあったため、ゆっくりと研究は進められた。

 

 自分で実験をした際には、何故か尻尾が生えたりもした。

 

 原作には存在しなかった戦闘用のアーマーを作ったことが何よりも大きな成果だろう。

 お陰様で行動範囲を広げることができ、準備をしやすくなった。

 戦闘アーマーを着用している際には機械音声などによって、“黒服“と同一人物であることを悟られないように行動していたため、最悪の場合はその姿で手伝うこともあるだろう。

 

 

 準備とはいえ、必要以上に原作から乖離させる気はない。

 

 それは原作知識というチートが使えなくなることもそうだが、ブルーアーカイブの世界は一つ一つの出来事が絡み合って成り立っているのである。

 それを壊してしまうとどのように影響するかなど分かったものではない。

 原作知識を持つ自分すらも知らないルートというものが最もの脅威である。

 

 多少の動きは加えた。

 多少勢力図を書き換えた。

 多少人と関わりを持った。

 

 時には恨まれた。

 それが自分が仕向け、必要なものだったとしても中々精神的にはそうもいっていられなかった。

 だが、原作開始まで後数年なのだとして何とか抑えていた。

 

 よし、あと2年頑張ろう!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────なんていう現実逃避が出来たのならばどれだけ良かったでしょう。

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故、何故……

 

 

 いや、本当に何故?

 

 きっかけは簡単。外の情報収集である。

 雪が振ってはいたが、そちらのほうが好都合であったため、変装を施しながら散策をしていた。

 建造物の変化、土地の所有者、物品の流通、ブラックマーケット、裏社会の動き。

 それらを確認するために歩いていただけである。

 

 日時的にそろそろだとは思ってはいたが、場所が違うはずである。

 自分という異分子の影響…?こんな所で…?

 

 

 ――これは分岐点である。

 

 

 此処で彼女のなかに自分という存在の記憶が残ってしまう可能性、小鳥遊ホシノと出会うことのない可能性、今後の物語の展開に影響を及ぼす可能性……

 

 思わず歯噛みする。

 これまでも大なり小なり原作を歪めてきている。時には自らの感情に流されて、それがハッピーエンドに繋がると信じて行動し、何とか取り繕った記憶もある。

 

 だが、これは規模が違う。

 

 砂狼シロコがアビドスに入学しないことがあれば、まさしく原作が歪められる。

 砂狼シロコに自分という存在の記憶が刻まれた結果、原作が歪められる。

 そして、何よりも最悪の可能性が脳裏をよぎり……

 

 

 こつ、こつ、こつ…

 

 

 遠距離からありとあらゆる機能と機械を使用した結果、足音を感知する。

 動悸をしているような感覚すら陥るほどの緊張。

 

 

 ――間違いなく「暁のホルス」、小鳥遊ホシノである。

 

 

 

 最悪の可能性『小鳥遊ホシノとの対面』だけは避けなければならない…っ!!

 

 

 彼女とは現状で対面すると全てが変わってしまう可能性がある。

 いや、変わるという確信がある。

 ()()()()()()を顧みれば考えずとも辿り着く答えである。

 

 しかも現在は戦闘用の武器はほとんど存在しない、護身用のものしかない状態である。

 行方を眩ませるという行動は運に左右される可能性がある。

 

 最悪の可能性をなくすためには、微悪の可能性を取る方がいい。

 

 

 

「…………貴女のお名前は?」

 

 

 死んだようにすら思える瞳。ボロボロになった服装。

 だが、間違いなく彼女は砂狼シロコである。

 

 

 「………シロコ、砂狼シロコ」

 

 

 知ってるよ畜生!!

 原作再現を喜んでいる暇など存在しない。今は只管に会話を進めなければならない。

 

 

「ふむ。そんな服装で、そんな瞳で此処に居るということは訳ありのようですね」

「…………」

「取り敢えず場所を移しましょう。此処では寒いですからね」

 

 

 訳ありの理由は記憶喪失だ。だが、ここでは知らないように振る舞う必要がある。

 原作知識なんていうものはこの世界にとって劇薬になりかねない。

 知っている人間は限られている方がいい。

 

 こつ、こつ、こつ…

 

 地獄のようなカウントダウンが段々と大きくなってくる。

 足音の音量と比例するように、心臓の心拍数が加速していく。

 やばい、吐きそう。

 

 

「………………ん、わかった」

「いいですね。では――」

「…え?」

 

 

 

 よっっっっっっっっっっっっっっっし。

 即座に砂狼シロコの手をとり、猛ダッシュで駆け抜けていく。それでいて音は立てていない。

 小鳥遊ホシノにバレた瞬間にゲームオーバーなのだ。多少の不埒は許して欲しい。

 

 目指すは研究所。

 本来ならばブラフを巻いておいたほうがいいのだろうが、今はそんな余裕がない。

 とにかく走る、走る、走る。

 

 黒服の姿で爆走するというのは解釈違いかもしれないが、そんなことも気にしていられない。

 

 

 

 

 

 

「――ここで大丈夫でしょう」

 

 

 もう研究所の目の前である。追いかけられている気配もないため、一安心である。

 砂狼シロコには多少の防寒具を被せただけの状態だったのが申し訳ない。

 

 ああ、遂にか。

 原作からの“明確なズレ”。こんな行動を取ったのだからズレは発生する。

 だが、あの状態で何もせずに去るというのは違う。それでは駄目だったのだ。

 

 小鳥遊ホシノに自分の存在が捕捉されるだけで話が面倒になってしまう。

 実際それだけの行動をした、いや”しなければならなかった”ため後悔はしていないが、原作よりも黒服と小鳥遊ホシノの関係性は悪化している。

 

 最悪の場合、小鳥遊ホシノが砂狼シロコに常時警戒するようなことになりかねない。

 

 

「…………」

「……………シロコさん?」

 

 

 状態が気になったので、目線を向けてみると、

 

 完全に此方を警戒していた。

 

 まあ、それはそうか。

 突然現れた怪しげな男の大人が、自分の手を取って見ず知らずの場所に連れ去って…

 

 

 ん?

 

 これは端から見ると誘拐なのでは?

 

 

 

「……………………」

「……………………」

 

 

 

 

 ん、心安らかなり。

 

 

 こうして砂狼シロコとの最悪のファーストコンタクトを取ったのである。

 

 

 神は死んだ。

 

 






主人公は”矛盾“しています。

戦闘描写

  • 省け(サクサク)
  • 書け(それっぽい)
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