クックックッ…愛です、愛ですよ! シロコ!   作:ゲマ

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ちなみに先生がオリ主状態だった場合、原作が根本から崩壊します。
偽ボ卿は好き勝手に動きます。

黒服とボ卿がピアノ弾いている姿、書きたいですよね
deemoみたいな。

ボンドルドゼミ(箱詰め)
今回は話を詰め込みました。描写不足です。



.12 マッチでポンプな絆。

 

 

 ラーメンをススルぅ!! 

 

 喉を流れるように通っていきながらも、スープの味が口内に広がる。

 時折野菜と合わせながら、それでいて水で打ち消しなんども味わう。

 

 こしがある麺としゃきしゃきと存在を訴えてくるもやしが奏でる協奏曲が口内で奏でられ、存在するのかが微妙な胃が指揮棒を振るう。

 そこにスープを流し込み、味を深め、水で打ち消す。

 

 ──これが”味わい”の真骨頂っ…! 

 

 

「やはり、この店のラーメンは美味しいですね」

「そりゃありがたいこった!」

 

 

 柴関ラーメンには何年か通い続けている。

 値段は気にするものではないが、この店特有の味と大将の人柄が惹きつけるのだ。

 

 勿論、ストーリーに関わるということもある。

 黒見セリカのバイトや便利屋68による爆破事件など、本筋の絶対的なものではないが、変化を促すことのできる内容であることもまた事実だ。

 案外柴関ラーメンというものは重要なのである。

 

 

 先生と対面をしたが、印象を語るのならば”大人”ということだろう。

 

 生徒を導き、責任と義務を負うことができる大人。信頼されることも頷ける。

 これで頼りがいのない大人だった場合は計画を変更する可能性もあったので、こちらとしてはありがたい限りだ。

 小鳥遊ホシノとの関係性は勘付かれているかもしれないが、それもいいだろう。

 小鳥遊ホシノと先生の間で信頼関係が築かれるのならば、此方としても得である。

 

 先生自体の性質としては未知数というのが本音ではある。

 だが、異物であるのならばきっと見る機会は訪れるだろう。

 

 ──アビドス対策委員会編、花のパヴァーヌ編においては(黒服)がバッドエンドへ導くのである。

 

 それならばある程度の融通は効き、こちらで観測したいことを優先させることも出来る。 

 勿論不慮の事故からバッドエンドへと展開することは避けなければならないが、先生が此方の別ベクトルの想定外で会った場合は全てが狂いかねないのだ。

 

 

「常連さん、いつもありがとうございます!」

「いえいえ、セリカもバイトを頑張っていて偉いですね」

 

 

 多額の借金を背負い、それを返済するためにバイトを続けていくというのは無気力的になりそうだが、彼女はそれを跳ね返すほどの精神力を持っているということだろう。

 

 この後はバイト場所が同校の生徒にバレ、その上で誘拐されてもらうが。

 誘拐されて初めて黒見セリカと先生の信頼関係が築かれ始めるのだ。

 先生を受け入れてもらうためには必要経費だろう。

 

 その時、新たな来客が訪れる。

 

 

「いらっしゃいませ! 柴関ラーメンで────」

「──五名でお願いします〜☆」

 

 

 先生はストーカーをこなしてきたようだ。これで銀鏡イオリの足を舐めることも確定的だ。

 対策委員会と先生は揃った。後は誘拐させるだけでいいだろう。

 

 

「わ、わわっ……!!」

 

「あ、あはは……セリカちゃんお疲れ様……」

「お疲れ」

「うへ〜やっぱここだと思った」

「”どうも。”」

 

 

 正直、ここで顔を合わせたことを確認したならば帰っても問題はない。

 黒見セリカの誘拐は既に確定事項となり、先生を受け入れる展開になる。下手に手出しをして展開が変わるほうが此方からすると問題となるのだ。

 

 

「”──あれ、ボンドルド……? ”」

 

 

 バレないように席を立ったと思ったのだが、先生には気付かれてしまった。

 ここで逃げてもいいが、先生がどのような人間が把握しておいてもいいだろう。──先生が此方の想定と違った人間性だった場合は面倒なことになる。

 ついでに黒見セリカに説明をしなければならない。

 

 

「おやおや、先生方もいらっしゃったのですか」

「ん、セリカの冷やか……応援」

「仲が良いようで何よりです」

 

 

 黒見セリカが分からない、という表情を全面に浮かべる。

 店の常連が自分の先輩と親しげに話し、先生と面識があるのだ。そうなっても仕方はない。

 

 黒見セリカ──もとい対策委員会の大人に対する不信感はそこそこ大きなものがある。本来助けるべき大人が手を差し出すことなく、自分達だけで解決してきたからだ。

 十六夜ノノミもネフティス令嬢として大人同士のゴタゴタをその目で見てきたこともある。

 小鳥遊ホシノは言うまでもないだろう。

 

 私を信頼する必要はない。先生を信頼してください。お願いします。

 

 

「あー、セリカちゃん。この人が対策委員会に話を持ち掛けてくれた大人だよ」

「え、……常連さんが?」

「セリカちゃん、黎明卿のこと知らないんですね……」

 

 

 知られていても少し楽になる程度だったため問題はない。

 色眼鏡なしで”常連”という元々持っていた私に対する印象がいい影響を及ぼす可能性もある。

 対策委員会編においてはそこまで大きな動きをするつもりはないため、そこまで信頼は必要としていないがあるに越したことはない。行動範囲の問題になるだろう。

 

 黒見セリカがゆっくりと此方に顔を向ける。

 

 彼女の中にある私情報は、店の常連であり、アビドスへ支援の話を持ち掛けた大人であり、シロコを拾い保護した人である。

 情報が散らばっており、収拾が付いていないようにも見える。

 こういう時は落ち着かせるのが一番だろう。

 

 

「いつもシロコがお世話になっていますね」

「えっ、え………シロコ先輩、本当?」

「え、うん」

 

 

 黒見セリカが宇宙猫のようになっているが、細事だろう。

 

 

「私も少しとはいえ手伝わせてもらいますよ。勿論、先生が主体ですが」

「”うん、ボンドルドも協力してくれるらしい”」

「……………」

 

 

 自分のいない間に話が進んでいたからか、黒見セリカが驚きで顔が面白くなっている。

 先生との協力といっても不良生徒との戦闘行為は余りしないだろう。基本的にカイザーPMCに攻撃したり、黒服として内部から情報を持ち出して戦うといったくらいか。

 

 先生の行動を把握し、バッドエンドへ向かわないように調節することが出来ればいいのだ。

 また、存在するかは仮定段階である先生と生徒の所謂絆ランクを確認しておきたい。

 

 これで私がやらかしてバッドエンドへ向かったら笑えないが。胃が痛い。

 

 

「アビドスの生徒さんと黎明さんは知り合いだったのか! セリカちゃん、席の案内頼むよ!」

「は、はい……広い席へ案内します」

 

 

 私は一人で食べているため、自由に立ち去ることが出来る。

 一つだけ確認してから立ち去ることにしよう。

 

 

「先生はこちらへ! 私の隣、空いてます!」

「ん、私の隣…空いてる」

 

 

 シロコと十六夜ノノミが自分の隣が空いているとアピールをする。

 互いが少し驚いたように顔を見合わせたが、即座に再び先生の方向へ向き直り、何方を選ぶのかというように選択を迫る。

 先生は悩ましげにそれらを見ているだけ。

 

 いや、こちらを助けを求めるような瞳で見てきた。助けないが。

 個人的な感情ではシロコを取ってほしいと思う。これは親心であり、多少の贔屓となってしまうかもしれないが。ストーリー的には何方でも良い、強いて言うのならばシロコだろう。

 

 シロコに頑張るようにサインを出す。

 

「ん!」

 

 諦めろ先生。委ねてしまえば全てが解決するだろうに。

 意固地にならなくてもいい。先生、あなたならば委ねることは得意なはずだろう。

 

 先生は悶絶するように考え込んだ後、シロコの隣へと座る。

 シロコ、勝利のガッツポーズ。

 別に特段意味があるわけではないものの、シロコが楽しめているようで何よりである。願わくば、そのまま先生と仲を深めていってほしいものだ。

 

 

「ふむ………」

「ちょ、シロコ先輩そんなに先生に寄ってたら窮屈でしょ!」

「”あ、あはは……”」

「先生も特に何も言ってこない」

 

 

 先生、何故一々こちらを見てくるんだ。

 確かに私はシロコの親のような存在であるかもしれないが、だからといってシロコを諫めるわけがないだろう。──シロコと先生の仲が深まるのならばそれに越したことはない。

 結局、黒見セリカが助け舟を出したことでシロコは移動する。

 

 先生と生徒たちの信頼関係構築に水を差すわけにはいかない。勿論、私としては個人的に信頼関係が築けているに越したことはないが、それは別に今でなくても問題はない。

 多少コミュニケーションを円滑にするために口出しはするが。

 原作先生であるのならば、高いコミュニケーション能力を保有しているため必要ないかもしれないが、保険は掛けておくに越したことはない。

 

 

「セリカちゃんのバイトのユニフォーム姿、とっても可愛いです☆」

「確かにそうだねぇ、いやぁセリカちゃんって制服でバイト先決めちゃうタイプ?」

「ち、ちがっ、ここは行きつけの店だったし!」

「”セリカ、可愛いよ”」

「もうストーカーは黙ってて!!」

 

 

 何故か此方に確認するような瞳を送られるが、沈黙で返しておこう。

 一層笑みが深まった十六夜ノノミと小鳥遊ホシノ。仲が良さそうでなにより。

 

 

「バイトはいつから始めたの?」

「い、一週間くらい前から………」

「おやおや、私の勘違いだったのでしょうか………」

「ちょ、常連さん!?」

「なるほど、時々姿を消していたのはバイトだったということですか☆」

 

 

 ここまでは想定通り事が進んでいる。

 アビドス対策委員会の仲が印象づけられる会話であり、時々先生に話しがふられることで先生も話しに入っていっている。 コミュニケーション能力はやはり高い。

 問題はないとみてもいいだろう。変態なのは原作からだ。

 

 

「も、もういいでしょ! ご注文はっ!?」

「『ご注文はお決まりですか』でしょー? セリカちゃん、笑顔で親切に接客しなくちゃー?」

「あうう……ご、ご注文は、お決まりですか……。」

 

「私はチャーシュー麺をお願いします!」

「私は塩。」

「えっと……私は味噌で……。」

「私はねー、特製味噌ラーメン! 炙りチャーシュートッピングで!」

 

 

 豚骨無し了解。

 ラーメンの味でもそこそこ性格が表れるというのは中々面白い。それはキャラクターを印象付ける上でも必要なことなのだろうが、こうして目の前でみると面白さを感じる。

 

 

「ボンドルドは何を選んだの?」

「おや、私は豚骨でした」

「”……じゃあ、私も豚骨にしようかな”」

 

 

 先生は恐らく何でも食べるだろう。

 どんなゲテモノ料理が出されようと、意識を失いながらでも食べ続けるという精神力があるはずだ。先生を過大評価すると失敗へと繋がりかねないが、それくらいは出来てくれないとバッドエンドになるだろう。

 

 

「………皆、お金は大丈夫なの? またノノミ先輩に奢ってもらうつもり?」

「私は大丈夫ですよ☆まだ限度額まで余裕がありますし」

 

 

 十六夜ノノミの懐がキラリと光る。

 これを待っていた。一番重要な情報である。

 

 

「きっと先生が奢ってくれるはずだよ。──ね、先生?」

「”……………”」

 

「ん、ボンドルド、お金出して」

「おや、私は別に構いませんが」

「シロコ先輩、強盗みたいですよ………」

 

 

 別に金を払う事自体は構わない。幾らでもある。

 ──それ以上にここで見ておきたいものがあるのだ。

 

 

「うへ〜、大人のカードがあるじゃん。これは出番だねー!」

 

 

──大人のカード

 

 性質が不明であり、先生の切り札。その性質によって出来る行動も変化する可能性があるため、確認しておかなければならない。

 勿論切り札であるため、そうぽんぽんと使うものではないが先生ならば生徒のために使用することがあるだろう。それが結果的に絆となり、ハッピーエンドとなるのならば使ったほうがいい。

 

 代償に関しては先生が死ななければ良いのだろう。

 先生ならば生徒を助けることを最優先としており、助けられなかったほうが精神的なダメージとなってしまう。それならば代償を気にしないほうがいい。

 

 

「…………なるほど」

「?」

 

 

 見ただけで分かる──その()()

 原作において黒服が言及した通り、その中に込められている力というものが認識できる。

 そしてその代償も、だ。

 

 これは中々興味深い。

 大人のカードという先生の切り札の使用場面や、その後の効果から性質を推測するとある程度の答えにたどり着くことが出来そうでもある。

 勿論、私に使ってもらうことが最も分かりやすいのだろうが、それは無駄使いになってしまう。

 

 来る時まで待つのが最善だろう。

 

 

「私はそろそろ帰ります。どうぞ後はお楽しみください」

「ん、任せて」

「”シロコ、それは語弊を生みそうだよ………”」

 

 

 諸々の準備に取り掛かる必要がある。

 黒見セリカの誘拐、カイザーとの連携、梔子ユメ………

 ここから先は多少の運が絡んでくるだろう。アビドスにおいてはある程度はコントロールをすることが出来るが、取り返しがつく範囲であれば失敗も許容出来る。

 

 最大の懸念点であるエデン条約に向けて、備えておこう。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ──夕日は沈み、辺りに人工の光が差し始めたころ、柴関ラーメンから黒見セリカが出てきた。

 

 

「はぁ……やっと終わった。目まぐるしい一日だったわね」

 

 

 そう一人口から溢れてしまうのも仕方がないだろう。

 

 今まで隠れてしていたバイトに突然同校の生徒と、認めないと宣言したばかりの先生が訪れてきたのだ。気まずさと、恥ずかしさが混在してしまうのも仕方が無い話である。

 ──それに加え、常連がアビドスへ声を掛けてくれた大人だったのだ。

 バイトを始めてから知っているため、衝撃の事実ではある。

 

 

「はぁ……皆で来るなんて騒がしいったらありゃしない」

 

「人が働いてるのに先生、先生ってチヤホヤしちゃって……何あれ」

 

 

 嫉妬、と似たような感情が黒見セリカの内で渦巻く。

 今まで自分達だけで頑張ってきたのに突然先生という大人が現れたこと、常連が実は有名人であり手を差し伸べてくれていたこと、先輩達が先生に取られてしまったかのように思えたこと。

 

 そして、自分が気を使われていること。

 先生と対策委員会が黒見セリカのバイト先を尋ねてきたのは、仲違いのような形で飛び出してしまった自分に対する配慮のようなものなのだろうと思う。

 自分だけが先生を認めておらず、だがそれでいて先生が手伝ってくれることは確定なのだ。

 

 

「……私がそう簡単に折れると思ったら大間違いなんだから!」

 

 

 もはや意固地のようなものなのかもしれないが、それでも黒見セリカは折れないと決意した。

 

 ──そんな彼女を監視する者たちがいた。

 特徴的なヘルメットを身に着け、赤色のコートを靡かせる少女達。一般的にいう『ヘルメット団』に当てはまるものではあるが、彼女達の現在の様子は普段の不良じみたものからはかけ離れていた。

 それは、傭兵のようなプロのような姿である。

 

 

「あいつか──アビドス対策委員会のメンバー、黒見セリカ」

「……多分そう」

「準備しろ、次のブロックで捕獲する」

「……了解」

 

 

 

 

 

 

「ふー…………」

 

 

 バイト先である柴関ラーメンからアビドスへの帰路の途中で、黒見セリカは足を止める。

 時間帯としては既に夜になっており、周囲の環境が見えやすいとは言い難い。だが、建物から漏れ出た光や街灯などが辺りを照らし、見えないというわけでもない。

 空を見上げれば、いつも通り青いヘイローのような線が浮かんでいる。

 

 

「そういえばこの辺りも人が少なくなったなぁ……前はここまで静かじゃなかったのに」

 

 

 自らの歩く音と、虫の鳴き声だけが音として反響する。

 それは夜だからという理由もあるだろうが、人自体が少なくなった結果でもある。

 昔のアビドス自治区はキヴォトス内でも屈指の自治区であり、多くの人に溢れ夜でも様々な音があった。営業のために音楽をながしたり、生徒が帰り道で雑談をしたりと様々だった。

 

 ──だが、今は違う。

 人は少なくなり、アビドス高等学校ですら5人だけという始末。

 治安も明らかに悪化しており、不良生徒が我が物顔で闊歩していたり建物に落書きがされていたりと近寄りがたい雰囲気を出してしまっている。だからこそ復興が進まないのだと思った。

 

 

「やっぱり、このままじゃ駄目。私達がもっと頑張らないと……そして学校を立て直すんだ」

 

 

 学校は国家である、と称されることがあるように学校の影響は大きい。

 だからこそアビドス対策委員会に所属している自分が頑張らなければならない。

 ──それが、アビドス復興へ繋がると信じて。

 

 

「取り敢えずバイト代が入ったら、利息の返済に充てて──」

「おい」

 

 

 突然声を掛けられる。先程まで誰もいなかったはずなのに。

 驚きながら振り向いてみると、視界に入ってきたのは赤色のヘルメットを被った集団──不良であるヘルメット団がいた。

 

 

「っ……カタカタヘルメット団! まだここら辺を彷徨いてるの? 

「…………」

「ちょうど良かった。虫の居所が悪かったの。二度とこのあたりに足を踏み入れられないようにしてやるわっ……!」

 

 

 カタカタヘルメット団との争いは終わったと思ったものの、まだいたようだ。

 だからこそ、もう二度と現れないように倒すことを決心する。

 

 周囲にいるのは総勢でも5人に満たない。それならば勝てるはずだと計算する。

 実際黒見セリカ本人は実感していないが、黒見セリカの戦闘力はキヴォトス全体で見ても高く、ヘルメット団数人程度ならば一人で倒すことが出来る。それは間違いがない。

 だがそれは──正面から戦った場合である。

 

 突如として後方から発砲音がする。

 カタカタヘルメット団が動いている様子はなく、完全な意識外からの攻撃。

 

 

「うぅっ………!!」

 

 

 勿論この程度で倒れるわけではないが、状況が不利になったことは間違いがない。

 推定5人であったヘルメット団が、計画して待ち伏せしており増援もある可能性が出てきたのだ。──つまり、罠に嵌められたということでもある。

 

(まさか、最初から…!)

 

 黒見セリカが気がついた頃にはもう遅い。

 計画は既に始まっており、黒見セリカは罠に掛かっているのだから。

 

 轟音が響き、体に強い衝撃が訪れる。銃弾で撃たれた程度ではない、もっと強いもの。

 火力支援として撃たれたであろうことは容易に想像が出来る。

 だが、同時に脳裏に過ったことは”何故こうして手を出してくるのか”ということでもある。

 

(こいつら、普通じゃないっ…!)

 

 計画された犯行であり、火力支援まであるとなると、ヘルメット団ごときでは出来ないことだ。

 明らかにもっと別の所が動いているのだ。

 狙いは自身の誘拐である可能性が高いが、それをする理由。……アビドス対策委員会に所属しているから、ということが最も可能性としては高いだろう。

 だが、何故こうして直接狙ってくるのかが分からないのだ。

 

 何とかここれから逆転を──、と思ったその時。

 

 

「──『呪い針(シェイカー)』」

 

 

 場違いなほど冷静な声とともに、体に何かが刺さる感覚がする。

 ──自分の中の何かが掻き乱される感覚。

 意識が唐突に朦朧としてきて、立つこともままならない。体調不良などでは表現できない異常な気持ち悪さとともに、目を閉じていく。

 

 

「……クックックッ」

 

 

 ──最後に見たのは、頭の罅割れた異形の大人の姿だった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 黒見セリカは体に揺れを感じ、意識を取り戻す。

 

 

「う、うーん、へっ…!?」

 

 

 体に未だ倦怠感とも思えるようなものは残っているものの、体を動かせないというわけではない。──最も、今は状況的に動かすことはほぼ不可能だと言ってもいいが。

 手や足を伸ばしきることが出来ないほどの密閉空間に閉じ込められている。

 

 

「こ、ここは!? 私、攫われた!?」

 

 

 カタカタヘルメット団による計画的な行動と、最後に見えた異形の大人の姿。

 明らかに黒見セリカを目的とした誘拐の類であり、カタカタヘルメット団だけではなくより大きなものが動いているのは明白であった。

 勿論、誰が何の理由でかは現時点で断定することまでは出来ないが。

 

 揺れている車体の中、少しだけ空いている隙間から外を見てみると、そこに広がっていたのは何処まで続いているのかは分からない砂の景色。アビドス郊外に存在し広大な範囲を有しているそれ──アビドス砂漠である。

 

 

「……砂漠……線路!? ま、まさかここ、アビドス郊外の砂漠!?」

 

 

 時折目に入る砂に塗れた廃墟と、薄っすらと見える線路。

 アビドス郊外にある砂漠であることは確実であるとともに、恐怖といえる感情に襲われる。

 

 理解の出来ないカタカタヘルメット団と大人の目的。

 誘拐という行動の末にある自分の末路。

 突如現れた異形であり、人外である大人への未知。

 

 

「……このまま何処かに埋められちゃうのかな。誰にも気付かれない様に……。連絡も途絶えて……私も他の子達みたいに、街を去ったと思われるんだろうな……。裏切ったって思われるのかな……。誤解されたまま、皆に会えないまま死ぬなんて……」

 

 

 ──裏切ったと思われるのではないか、死んでしまうのではないか。

 漠然とした恐怖は自らが抱く最悪の想像へと結びついていく。

 

 

「うっ、うぅ……ヤダよぉ……」

 

 

 ”死”という理解出来ないものに対する恐怖と、”裏切られたと思われるのではないか”という心情の側面から見れば理解することが出来てしまうものにたいする恐怖。

 それらは未だ少女である黒見セリカにとっては耐え難い恐怖となる。

 

 ──誰か、助けて。なんていう淡い願いと期待と、絶望。

 

 恐怖と絶望が着実に黒見セリカを蝕んでいく。

 恐怖と後悔と絶望というものは、他者から見れば意図して操りやすいものであり、自分から見れば操りにくいものである。

 

 だからこそ、そのコントロールが必要なのだ。

 

 

 

「──『月に触れる(ファーカレス)』」

 

 

 

 突如、走行中の車体が何かに引き止められるように急停止する。

 

「いたた………」

 

 その反動のせいで黒見セリカは頭を打つことになったが、停止したことのほうが重要である。

 何らかの事故が発生したのか、──誰かが助けに来てくれたのか。

 希望的観測でしかないものの、その希望は現実となっていく。

 

 訪れたのは爆発、──死ぬことはないとはいえ強い衝撃が訪れる。

 

 

「かハッ、ケホッ……えっ、な、何!?」

 

『セリカちゃん発見! 生存確認しました!」

「え、ドローン──あっ、アヤネちゃん!?」

 

 

 不意に空から声が聞こえ、視界に入ってきたのは一台のドローン。

 そのスピーカーから聞こえてきた聞き慣れた声に、黒見セリカは驚きと安心感を覚える。──助けに来てくれたのだと。

 ドローンだけでなく、見慣れた先輩達の姿も目に入る。

 

 

「こちらも確認した、半泣きのセリカ発見!」

「〜〜〜!?」

 

 

 自身の目が少し赤くなっていることを認識し、今度は顔が赤くなる。

 砂狼シロコは大破したトラックの扉を蹴破り、中にいた黒見セリカの状態を確認した。──呆然としているが、何処か安心感を覚えているようでもあった。

 今は羞恥心から再び泣き出しそうになっているが。

 

 

「なにぃー!? うちの可愛いセリカちゃんが泣いてただと! そんなに寂しかったの? ママが悪かったわ、ごめんねーッ!!」

「う、うわああああ!! う、うるさいっ! 泣いてなんかッ!!」

「嘘! この目でしっかり見た!」

「泣かないでください、セリカちゃん! 私達がその涙を拭いて差し上げますから!」

 

 

 悪ノリからアビドス対策委員会のいつもの雰囲気が戻って来る。

 

 といっても、黒見セリカの羞恥心は限界近くまで達してしまっているが。

 だが雰囲気が戻ってきたということは、良いことではある。陰鬱とした空気であり、深刻な状況であることよりは調子も取り戻しやすいだろう。

 

 爆撃などの衝撃により体勢を立て直せていないのか、ヘルメット団が攻撃してくることはない。

 そのことを確認した先生は安全地帯である物陰から出ていく。

 

 

「”無事で良かった。安心したよ”」

「なっ、せ、先生!? どうしてここが分かったの!?」

 

 

 実際はシャーレの権限によって端末にアクセスし、場所を特定したのだ。

 これは権力の乱用とも捉えられるものであり、決していい手とはいえないが生徒のためならば何でもする、というのが先生の在り方なのだ。

 とはいえ、そんなことをされた、と思ってしまうと傷になるかもしれない。

 

 伊達にストーカーではない、──とその時、パワードスーツを身に着けた大人が歩いてくる。

 

 

「攫われたお姫様を助けるのは勇者の役目ですからね」

「ば、ばっ………!! って常連さん!?」

「おや、貶された上で殴ると言われると思っていたのですが……」

 

 

 手の裾から伸びた触手のようなものはトラックを固定しており、引き止めている。

 最初に突然動きが停止したのはボンドルドによるものだったらしい、とようやく理解が及ぶ。

 

 黒見セリカにとってボンドルドは店によく来てくれる常連だったのだ。

 確かに見ない服装をしており、少しだけ怪しげだ……なんて思っていたが、こんな装備を有しているなんて思ってもみなかったのである。

 それに、手を貸してくれるというのも嘘偽りではないことがここで明らかになった。

 

 

「”ありがとう、ボンドルド”」

「おやおや、本来は私がいなくても成功していたとは思いますが……」

「”でも、いてくれたおかげで危険性も下がったよ”」

 

 

 本来の計画としては爆破範囲を広げ確実に動きを止めさせるために、攻撃性を高める予定だったのだが、ボンドルドが手を貸すことでそれは変わった。

 ──月に触れる(ファーカレス)によって動きを止め、小規模の爆破で大破させる。

 これによって黒見セリカが怪我をする可能性が低まったのである。先生としても生徒が怪我をすることは許容出来るものでは無かったため、この提案はありがたいものだったのだ。

 

 ボンドルドとしては生徒を徹底的にボコボコにすることは避けたいのである。

 それはたった一つの戦力で色々と歪みかねないので、変化をできるだけ避けておきたいということもあるが、──それが”大人のやり方”ではない、というのもある。

 大人とは契約の解釈によって戦うものである、という持論がある。

 

 勿論、必要性があれば普通に戦うが。

 いくらなんでも大人げないと言われようとも、計画通りに進めば彼にとっては何でも良いのだ。

 

 

「じゃあ、ここから先はおじさんたちがやるよー」

「ん、任せて」

「ええ、では私は後方から見守っておくことにしましょう」

 

 

 授業参観にやってきた親のように、後ろに下がっていくボンドルド。

 アビドス対策委員会の一員である黒見セリカの救出は、アビドス対策委員会によってなされなければならない。その結果として生徒同士は勿論、先生との絆も築かれていくのだ。

 ここは生徒と先生の見せ場である。

 

「先生による指揮、中々興味深い」

 

 前方にカタカタヘルメット団の戦力が確認される。

 重火器は当たり前として改造した重戦車までも保有しているのだ。そして何よりも、その数はアビドス対策委員会よりも多い。

 ──だが、それは問題にはなり得ない。

 

 

「”指揮は私が取るから、全力でやっていいよ! ”」

「──じゃあ………、行こうか!!」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「皆さんお疲れ様でした。セリカちゃん、怪我はない?」

「私は大丈夫よ、ほらピンピンしてるわ」

 

 

 黒見セリカは大丈夫だというように腕を回す。

 本来ならば倒れるかもしれないが、戦いの疲労や怪我などは抑えられており、キヴォトス人ならば耐えられる程度のものであったのだ。

『呪い針』という名前で撃ち込まれた針状のものの効果も薄れている。

 

 対策委員会の面々と先生はその様子に一息吐く。

 それだけ黒見セリカが突然誘拐されたということは心配を与える出来事だったのだ。

 

 

「先生と黎明卿がいなければ大変なことになる所でした………」

「お二人のお陰で怪我なく保護することが出来ました! 大人の力って凄いです☆」

「おや、私はただ手を貸しただけです。それらの賛辞は先生が受けるべきものですよ」

「先生はただのストーカーじゃなかったってことだねー」

 

 

 シャーレの権限が無ければ位置を特定することすら叶わなかったのである。

 先生と、そして手を貸してくれたボンドルドは信頼出来るという認識が生まれる。

 そして、助けられた黒見セリカも顔を赤らめながら──

 

 

「あ、ありがとう………」

 

 

 感謝を伝えた。もし先生がいなければ自分はどうなっていたのか分からないのである。

 そして助けに来てくれた対策委員会やボンドルドにもそれは当てはまる。

 しかし、それを見た対策委員会の面々の表情はニヤケ顔に変化する。

 

 

「恥ずかしがっているセリカちゃん、とっても可愛いです☆」

「うーん、おじさんには眩しい青春だね」

「ちょ、違うくてっ……」

「ん、恥ずかしがることはない。感謝は大事」

 

 

 黒見セリカは勢いを取り戻すことなく、シナシナと縮こまっていく。

 先生や対策委員会に助けられたということは変わりのない事実であるからだ。

 

 それを見かねた奥空アヤネが口を開く。

 

 

「…………皆さん、これを見てください」

 

 

 机の上に広がられたのは様々な部品と、針状に加工されたもの。

 戦闘後に回収した備品であり、相手の戦力を確認するために調査をしなければならないものである。誘拐を計った相手がどのような存在かは知っておかなければならない。

 

 

「こちらの備品を確認した所、キヴォトスでは使用が禁止されている改造機種のものであることが確認されました。勿論、もう少し調査をする必要はありますが……──ヘルメット団は自分達だけでは入手出来ない武器を保有しているようです」

 

 

 改造という時点で相当きな臭いが、背後に何者かが存在することは確定である。

 何らかの大きな力が働いていなければ、改造機種をヘルメット団が入手出来るはずもないのだ。

 

 

「入手ルートを確認することが出来れば背後にいる存在に辿り着くこともできそうです☆」

「はい。ただのチンピラが何故私達の学校を執拗に狙っているのかも分かるかもしれません」

「うん、分かった。じっくり調べてみよっかー」

 

 

 そして、着目されたのは針状に加工されたもの。

 ──砂狼シロコにとってそれは酷く見覚えがあるものであり、ボンドルドを横目で見ている。

 だが、アビドス対策委員会の面々や先生にとってそれは全く見覚えがないものであり、銃火器などではない戦闘手段ということで注目を集めなければならないものでもあった。

 

 

「一方でこちらは見覚えが無いのですが……」

「──それは呪い針(シェイカー)ですよ」

 

 

 ボンドルドは静かに口を出す。

 まあ実際は作った本人であり、なんなら撃ち込んだ本人であるのだが、口に出すことはない。

 出したら戦闘に発展して収拾がつかなくなるのだ。

 

 

「針自体が触れた質量によって子供たちの一つの側面である神秘を外部から強制的に変化させ、吐き気や目眩などを引き起こす道具です」

「ん、ボンドルドも戦闘でよく使ってる」

「”……それは大丈夫なの? ”」

「安心してください、少々体調が悪くなるだけですよ」

 

 

 度合いを間違えた場合、その場で嘔吐するが。

 なんなら内臓がひっくり返るが、大丈夫だろう。

 

 

「うーん、とはいえそんな専門的な道具を活用出来る相手かー……誰か覚えはないの?」

「おや、私以外にこれを使っている者がいるとは思っていませんでしたよ」

「そもそも神秘について詳しい人は黎明卿くらいですからね……」

 

 

 神秘自体がキヴォトスにおいて謎なのである。

 自分が存在(顕現)している理由である、強さに差があるのは神秘故である、などと言われても余り実感がないのだ。勿論、風紀委員長などを見れば少しだけ理解することは出来るが。

 往来の技術とも違い、完全に独立した性質を持っていることもタチが悪い。

 

 そんな専門性を持っている神秘について理解があるもの、となると相当絞られる。

 小鳥遊ホシノの脳裏に一人の大人が思い浮かぶ。

 

 

「………セリカちゃん、当時のことで覚えていることはない?」

 

 

 呪い針を遠距離射撃、というのは狙撃銃の銃弾に加工した場合は不可能ではないかもしれないが、現在は針状のものであるため距離は近かったものだと思われる。

 もしかしたら姿を少しだけ見ているかもしれない、と思ってのことだ。

 

 ──その予想は当たっている。いや、当てさせたわけだが。

 

 

「あっ……確か…──頭に罅が入ったスーツを着た人が………」

 

「ッ……! まさか……!」

 

 

 小鳥遊ホシノの普段の飄々とした雰囲気はなくなり、切迫したような表情になる。

 十六夜ノノミはその表情を見たことがある。約2年前、冬の日のことである。

 急いで移動を開始した際の小鳥遊ホシノが同じような表情をしていたのだ。

 

 確か、その時に出てきた名前が──

 

 

 

「──黒服………!!」

 

 

 

 砂狼シロコはボンドルドをガン見した。

 ボンドルドは顔を逸らした。

 

 

 

 





他の短編のアイディアが浮かんで同時並行で書いてしまう。後単純に体調が不味い。
エタりたくないんだっ……!!

オリ主君さぁ……
マッチポンプがこの作品の主題ですね。それでいてハッピーエンドとか抜かしているオリ主、どうにかしたいと思いませんか?

その場その場で設定を考えているので矛盾が絶対起きます。怖い。
ちなみに本物ボ卿だったら大人のカード絶対に使わせます(固い意志)。本物ボ卿ならどうするかを考えると主人公の行動がつまらなく感じる。もっと刺激があってもいいと思います。

投票者数が総合評価に関わることを初めて知った男。
ちなみにここすきの仕方も知らない。

次回は番外編です

戦闘描写

  • 省け(サクサク)
  • 書け(それっぽい)
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