や け く そ
「クックックッ……」
「…………………」
気不味い。
「クックックッ……茶でも用意しましょうか?」
「………………ん」
気不味い。
「クックックッ………………」
「………………」
自分は目の前に砂狼シロコがいるのだという緊張と、罪悪感から。
砂狼シロコは自分に対する警戒心から。
えぇ…何を話題として提供すればいいんだ?
年頃の女の子との会話自体難易度が高いというのに、自分に警戒心を抱かれている状態でなど会話の難易度はバク上がりである。
少しずつ、自分も砂狼シロコも緊張を解いていかなければならない。
「クックックッ……………いい天気ですねぇ」
「……………天気見えない」
「クックックッ……………」
ん、選択間違えた。
「クックック……………その状態のままというのも辛いでしょう。いったん湯浴みをしては?」
「……………ん、そうする」
「クックック……………では案内致しましょう」
ん、ジト目やめて。
取り敢えず休息のために風呂まで砂狼シロコを案内する。
…何と言うか、自分の行動全てが誘拐犯のように見えて仕方がない。仕方がないとはいえ、女子を連れ去った上で風呂を勧めるというのは如何なものなのだろうか。
もしかして:変t…
考えるのをやめた。
「クックックッ………」
「…………うるさい」
「「……………………」」
メンタルがゴリゴリと削られているような感覚がする。
歩いている最中も会話はなく、気不味いまま。
砂狼シロコが周囲を気にしているため、対面で会話が無かった時よりはマシではある。
そのまま何か質問とかして来てくれないか?
此処はアジトの一つである。
アビドス自治区の中でも、特に人が寄り付かないような場所にあるため、気付かれることはない。アジトの中でも使用頻度が高い場所の一つだと言える。
砂狼シロコに記憶されるのだったら使わないアジトにしたほうが良かったのかもしれないが、そんな余裕は無かった。うん、仕方がないよね。
普段使うことが多いだけあって、アジト内は整えられている。
使用した機材や薬品などが散乱しているわけではないため、歩く場所にも困らない。
一般的な生活に必要なものも揃えられている。
選択肢の一つとして、砂狼シロコをここに幽閉するというのは”あり”だ。
結果としてアビドスからのヘイトが更に高まることは容易に想像できるものの、そうなった所で計画に支障は出ない。元から高いものが更に高くなるだけのことである。
…誘拐して風呂を勧めて幽閉。完全に変態だな。
いや、うん。まあ仕方がないだろう。
そんな思考を巡らせている間に風呂場へと到着した。
「「………………」」
依然、気不味いままである。
「……何で──」
そんな時、砂狼シロコが口を開く。
その瞳には此方に対する警戒は残っていたものの、疑問という感情が大きく表れていた。
いいよ! 質問してください。でないと気不味い。
何で、ということから推測出来る事柄は幾つかある。
何で此処に連れてきたのか、何でこんな場所にアジトがあるのか、何で風呂を勧めたのか。
答えたくない事柄はあるものの、答えなければならない。
そうしてようやく、”交流”のスタートラインに立てるのだ。
「──何でこんなにお風呂広いの?」
そうきたかー。
眼前に広がるのは温泉といわれても納得が出来るような大浴場。当然と言えば当然の疑問ではあるものの、自分にとってはこれが当たり前であったため頭から抜けていた。
「クックックッ……そうですねぇ」
「………………」
そう警戒はしなくてもいいと言うのに。
しいて言うならば……
「……大和魂、ですかね」
「……………え、」
自分の中のやむにやまれぬ大和魂が溢れ出た、と言えばいいのだろうか。
風呂、というものはやはり自分にとって手放すことが出来ないものであったらしく、風呂は全てのアジトで拘っていた。それこそ、デザインと水質まで。
実際風呂というものは健康面では勿論、精神衛生的にも役立ったので意味はあった。
やはり入浴は欠かせないのである。
「と、まあそんなことはいいでしょう。どうぞごゆっくり」
「……………ん、わかった」
「私もやらなければならないことがあるので失礼します」
クックックッ…アイディアが思い浮かんでくる。
とはいえ、真っ先に考えなければならないことは、砂狼シロコの処遇である。
第一案としては幽閉がいいのだろうが、原作とは明らかに乖離する。
幽閉による変化として考えられるのは、砂狼シロコからの黒服に対する見方。アビドスに流れる黒服の情報。砂狼シロコと対策委員会メンバーとの友情である。
最悪見方が変わるのは良いとしても、友情が変化した場合は面倒になりかねない。
アビドスに入学させることは決定事項ではあるものの、絆を深めるようなイベントを発生させたほうがいいのかもしれない。
結果として黒服に対する憎悪が強まるかもしれないが、大差はない。
他の案は、アビドスに放り投げるや記憶をもう一度喪失させるなどが考えられるが駄目だ。
やはり幽閉、ということになるのだろう。
「──っと、そろそろですかね」
現在作っているのは『コック・オ・ヴァン』。
鶏肉と炒めた材料を赤ワインで煮込むフランス料理である。
黒コショウの風味が漂ってくる。
自分で一人で食べようと思って材料を取っておいたのだが、結果的には無くなってしまった。
まあ、食料生産自体は簡単なため、悲観するほどではない。
「クックックッ、腕がなりますね」
「……………ん、なにそれ」
ん、キェェェェアァァァァァァシャベッタァァァァァァァ!! 。
突然砂狼シロコが現れる。心臓が止まったかと思った。
危うく黒服キャラ崩壊必須の絶叫をあげる所だった。危ない危ない。
「これはコック・オ・ヴァン。どうぞお食べください」
「………いいの?」
「クックックッ、勿論ですよ。お客さんに『行動食4号』を振る舞うわけにはいきませんから」
コック・オ・ヴァンを皿に盛り付けると、皿に砂狼シロコの目線が固定される。
右に移せば右に、左に移せば左に。なんだこれ。
実際、こうして運んでいる最中でも鼻腔を美味しそうな匂いが満たすのだ。
匂い、といえば砂狼シロコは風呂上がりなのである。
この展開、きっと先生ならば匂いを嗅いでいたのではないだろうか‥?
いや、やめておこう。
しかし、未だ警戒されているのは少し傷つく。
仕方がないとは言え、こうして疑われ続けるというのは中々メンタルに来る。
「クックックッ、そう警戒しないでください」
「…………連れ去っておいて?」
「…………それを言われると弱りますね」
なんだろうか、一発『ぼく、悪い大人じゃないよ』なんて言えばいいのだろうか。
いや、まあ考えた所でどうしようもない。
とりあえず、だ。
「どうぞ召し上がりください」
「…………ん、いただきます」
コック・オ・ヴァンを砂狼シロコは口へと運び…
一口。
「──では、契約について話しましょうか」
「…………え、」
ん、万事順調。
「クックックッ、何を驚くことがありますか?」
「…………警戒続けておけば良かった」
やめてください。
だが此処で折れるわけにはいかないのである。
此処で契約を結ぶことが出来なければ、砂狼シロコは自由の身となり全てが無に帰す可能性が生まれてしまう。そうなれば自分はきっとアリウス生徒になってしまうだろう。
だからこそ、どんな汚い手を使ってでも契約しなければならない。
「コック・オ・ヴァン、食べましたよね?」
「…………食べたけど」
「それは私が夕食に食べようと思っていたものです」
あー、お腹減ったなとアピールをする。
砂狼シロコの目線が細まる。やめて、チラチラと自分が持つ銃に目線を向けないで。
「お陰様で私の夕食は行動食4号ですよ」
「…………なにそれ」
「壁の味がする完全栄養食ですね」
「……………」
演技をしているわけでもないのに、遠くを見ているような目になってしまう。
生産が完了して初めて食べた時の感触は忘れることが出来ない。
最近のマイブームはこれを嫌がらせで食べさせることである。
「と、冗談はこれくらいにして」
「…………冗談だった?」
「此方が契約書となります」
用意した契約書を砂狼シロコに差し出す。砂狼シロコは食べながら読んでいく。
クックックッ、計画通り。
契約内容を大まかに説明するとこうなる。
自分 → 少しだけ研究に手伝ってもらう。そのため、砂狼シロコは一時的にアジトにいて貰う。
砂狼シロコ → 衣食住完備のアジト生活。
うーん素晴らしい。
この時期の砂狼シロコは自分よりも弱い者の言う事を聞かないが、これは“契約”である。
契約であるからには両者ともに対等でなければならない。
それがわからないほど、非常識的なアウトローでないと願いたい。
もし、そうでなかった場合は戦闘だが。
「………ん、わかった」
「クックックッ、では契約成立ということで?」
「うん」
っっっっっっっっっしゃあああ!
これが通らなかったらまた考えなければならなかった。
最高にハイッってやつ。
「………そういえば、研究ってなにするの」
ああ、その説明をしてなかった。
いや、研究内容すら聞かずに契約するのはどうなんだ?と思わなくない。
…ここで人体実験とかいったら殺されるのでは?
「そうですね、簡単に言えばアンケートです」
「アンケート?」
「少しだけ問いに答えてもらったりすれば大丈夫ですよ」
「……嘘?」
「どれだけ警戒されてるんですか、私」
少し傷ついた。
実際これは嘘ではない。というか、そもそも人体実験など他人にはしていない。
質問も少しだけ自分が気になったことを答えてもらうだけであるため問題はない。
こうして見ると、砂狼シロコに有利すぎる契約にも思えるが、自分からするとそうでもない。
アジトにいてもらう、即ち幽閉さえ出来れば何でもいいのである。
期間も1、2ヶ月ほどであるため大きな問題にもならないだろう。
「………ん、わかった」
「クックックッ、それならば良かったです」
「ただ――」
ただ、何だというのだろうか。
さっさと終わらせてくれないと、自分の胃がひっくり返ってしまう。
「――さっきみたいな契約強行はやめて」
「……それは食べさせてから契約を持ち出すことですか?」
「…そう」
これは……なんと返答するのが正しいのだろうか。
いや、答えはわかっているか。
「クックックッ、保証はしかねますね」
「…………………」
「何と言っても私は”悪い大人”ですから」
決 ま っ た。
実際こういった手段はこれからも続けていくだろう。
どんな手段を使おうと、どんな過程であろうと、目指すのは”ハッピーエンド”である。
そのためならば手は幾らでも汚すつもりだ。
だが、まあ…………
「きっと、この手法が癖になっているのでしょうね」
◇
降り積もる雪の中、2人分の足音が響く。
アビドス高校1年生の小鳥遊ホシノと、ネフティス社長令嬢の十六夜ノノミである。
アビドスとネフティスの関係性を知っているものからすれば首を傾げるような組み合わせではあるものの、両者の仲は良好である。
こうして、2人で歩いていることからもわかるだろう。
「「………………」」
――だが、現在の空気は重い。
その空気の原因は小鳥遊ホシノであり、十六夜ノノミはその空気に圧倒されている。
何が原因で小鳥遊ホシノがこのような空気を纏い始めたのか、十六夜ノノミは知らない。
ただ2人で歩きながら会話をしている途中、突然のことである。
『…………っ!!』
『ホシノ先輩!?』
突然小鳥遊ホシノは顔を別の方向に向け、走り出してしまった。
自分との会話が原因なのかと考えるが、そんな地雷を踏むような発言をした記憶はない。
であるならば、何か別の原因があると考えるのは当然だろう。
「……何があったんですか?」
「……………」
十六夜ノノミが勇気を出して問うものの、小鳥遊ホシノは黙ったままである。
流石に駄目かと諦めようとした時、小鳥遊ホシノがポツポツと語り始めた。
「……ノノミちゃん。“黒服”って知ってる?」
「……“黒服“ですか?」
「うん、自分を“悪い大人”って呼称してる正真正銘の悪い大人だよ」
ようやく語ってくれたものの、十六夜ノノミに“黒服”に関する記憶はない。
「………すみません、わかりません」
「いや、大丈夫だよ」
「そっか」と小鳥遊ホシノは前を向く。
だがその顔は諦めたような顔ではなく、何処か安心したような顔であった。
話の流れから考えるに、“黒服”が突然小鳥遊ホシノが走り出したことの原因だと推測をする。
十六夜ノノミは知覚出来なかったが、近くにいたことを認識した小鳥遊ホシノが走り出したのだとすると違和感はない。
だが、そこまでさせる“黒服”とは何者なのだろうか。
「――黒服っていうのはね、」
小鳥遊ホシノが喋り始め、十六夜ノノミは口を出すことが出来なくなってしまった。
余りにも、その瞳が濁っているように見えたから。
余りにも、その瞳に憎悪が宿っているように見えたから。
余りにも、後悔をしているように見えたから。
「私の先輩の仇だよ」
クロスオーバーが物語と余り関係ない感じに……
ガワと能力だけクロスオーバーということですね
戦闘描写
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省け(サクサク)
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書け(それっぽい)