ブルアカ始めました。ストーリーはいきなり先生の性癖が出てきて驚きました。
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砂狼シロコはわからない。
──自分が何者なのか、わからない。
名前こそ知っている。それは間違いがない。
だが、それ以上のことを知らないのである。
何処で産まれたのか、何故記憶喪失になったのか。
──どうやって生きてきたのか、わからない。
気がつけばアビドス内に倒れるような形で横たわっていた。
それ以前のことを何も知らないのである。
身につけていた制服は中学らしきものではあるが、何処の中学のものなのかはわからない。
持っていたものは小型の拳銃だけ。ヘイロー持ちにとっては豆鉄砲と変わりはない。
砂狼シロコはわからない。
──突然現れた男が何者なのか、わからない。
突然目の前に現れた“大人”。
全身が黒く染まっており、身につけているスーツも黒色。顔はひび割れていることから、まともな人間ではないことだけがわかる。
そして酷く動揺しており、こちらを凝視し続けている。
砂狼シロコの名前を聞き出し、同行の許可を得た途端走り出し、自らのアジトへと誘う。
誘拐犯? であるならば、もっと純粋な悪意があるはずだ。あったのは困惑だけ。
記憶喪失前の知人? であるならば、自分の情報について話すはずである。
変態? であるならば……いや、案外間違っていないかもしれない。
砂狼シロコはわからない。
──明らかな怪しさを持ちながら、風呂が好きな男がわからない。
「そのままの状態というのも辛いでしょう」と案内された先の風呂は温泉と言われても納得出来るほどの大きさであった。
間違いなく、アジトにあるものではないと記憶喪失ながら断言が出来る。
『大和魂』なんていう巫山戯た理由もわからない。
……風呂から出ると、肌がもちもちになったのもわからない。
──明らかな怪しさを持ちながら、料理が上手な男がわからない。
風呂から出ると、待ち受けていたのは豪勢な料理だった。
『コック・オ・ヴァン』と言われていた鶏肉の料理である。ワインと合わせたその料理だったが、口にいれるとほどけるように溶けていき、その味が舌に残る。
まさしく絶品とも称されるものだろう。
男も「美食研究会に認められるものですから」と言っていた。……よくわからない。
──食べさせておきながら、契約をしようとする男がわからない。
一口食べると、男から契約を持ちかけられた。
男は研究をするというが、その内容はアンケートのようなものであるらしい。
それに対して砂狼シロコはアジトで衣食住を保証して貰えるというものであり、余り釣り合っているようには思えない。
『行動食4号』について語った後は、哀愁を漂わせていた。……よくわからない。
──明らかな譲歩を見せておきながら、自分を“悪い大人”だと言った男がわからない。
自分を”悪い大人”だと言った男だが、その感情は愉しげであり、歪であった。
自分の今の状況を愉しみながらも、ずっと何かに悶えているかのような、そんな歪さ。
砂狼シロコからすると、目の前の男が“悪い大人”であるとは余り思えなかった。
確かに自分を突然攫ったり、突然契約を持ちかけてきたものの、何れも良心的な内容であり、悪い大人から考えられるような契約ではなかったのである。
だが男は”悪い大人“だと言い切ったのである。……わからない。
◇
「今日はライディングをしましょう」
「……え?」
砂狼シロコは目の前の男を見る。
今日はいつものスーツではなく、動きやすいようにジャージを着ている。
本格的に運動をするのだということが嫌でもわかる。
「なんで……?」
疑問はただ一つに集約される。
なぜ、急にライディングという運動をすることを言い出したのか
なぜ、男もしようとしているのか
どこで、ライディングをするというのか
そもそも、そのファッションセンスはなんなのか。
聞きたいことを全て聞くわけにはいかないが、「なんで?」で大抵のことはわかる。
男も普段から砂狼シロコの話す内容を読み取ることが異常に上手いので、問題はない。
「クックックッ、これも一つの研究だと思っていただければ」
「……ライディングで?」
「それはあれですよ、ほら、神秘による運動能力についてです」
怪しい。
黒い額から冷や汗が流れているようにすら見える。
いや、この男は契約などで嘘をつくことは上手だとわかっているのだが。
「ん、わかった」
「クックックッ、ありがとうございます」
だが、砂狼シロコはその提案を受けることにした。
男のことを信用している、といわけではないが無闇矢鱈に危害を加えてくることはないとわかっているからである。
それに、最近運動もしていないし、料理が美味しく食べてばかりのことも気にしている。
そのことを以前男に話してみたのだが……
『クックックッ、体重が気になりますか?』
なんてほざくため、砂狼シロコは手を出してしまった。
後悔はしていない。悪いのはこの男である。
その後、『成長期ならば食べておくべきです』なんていう甘言まで送ってくるではないか。
餌付けの一環のように思えてしまう。
「おやおや、以前のことを気にしていますか?」
「………いいや」
「クックックッ、そうですか」
なんというか、生暖かい目で見られているような気がするのだ。
実験対象に対しての冷たい目でもなく、無関心の対象に対しての無機質な目でもない。
──それが、どういった目線なのか、砂狼シロコにはわからない。
ただ、胸の中に感じた僅かな暖かさは、決して不快なものではなかった。
◇
現在、砂狼シロコは料理をしている。
普段は男がその場で作るか、作り置きしているためそれを食べているのだが、そればかりでは駄目だと思い、こうして自炊することにしたのである。
それどころか、料理だけでなく家事全般に挑戦している。
実際、自炊はしなければならない。
男との契約によって今は衣食住が保証されているが、数ヶ月の保証期間が終わった後は一人暮らしをすることとなっているのである。
その際に、料理は出来ず、掃除は出来ず、洗濯は出来ずだった場合、まともな生活を送ることが出来ない。家事は出来ておいて損はないと男も言っていた。
本来ならば、誰かに見られながら料理を作ることが正しいのだろうが、今は一人である。
というのも、男は現在外に出ているらしい。
らしい、というのは男が外でどのような行動を取っているのか知らないためである。
風貌だけでいえば誘拐や人体実験をしていそうだが、実際はそういった行動は取ることがない。
何故か生活能力が高く、変な趣味を持っている怪しい男。それが砂狼シロコの認識である。
「……ん」
調味料を一口舐めてみると、酸っぱさを感じる。
砂狼シロコは男の多くのことを知らない。
なぜ、自分を拾ったのか。
なぜ、自分が有利になるような契約を持ちかけたのか。
外でどのような活動をしているのか。
名前すら知らないのである。
男は何があっても「クックックッ、研究のためですよ」といって誤魔化す。
目標も、理由も教えてくれない。
男は自分の知らない自分のことを知っていっている。
以前行ったライディングでは、ぽかぽかとした気持ちを「好きなこと」と定義した。
自分は男のことを知らないのに、男は自分のことを知っていっている。
それが、何処か不公平で、寂しく思った。
「ただいま戻りました」
料理をしていると、男がアジトへと戻ってきた。
男はアジトの外に居る時は『暁に至る天蓋』というパワードスーツを装着しているらしく、そのお陰で少しだけ不信感なども和らぐという。
……その格好でも怪しいが。
「おやおや、料理ですか?」
「……ん」
「そうですか、それは良いですね」
男に黙って料理をしているというのに、叱ることすらせずに肯定してくれる。
砂狼シロコからすると、面白くないと思ってしまった。
男はパワードスーツを脱いでおり、普段通りの全身黒のスーツを身にまとっている。
ひび割れた肉体、歪な笑み。何一つ変わりはない。
その目線が生暖かいものであることも変わりはなかった。
「──しかし、料理とはどういった理由で?」
ああ、まただ。
男は自分の目的や理由は語らないのに、砂狼シロコの目的や理由だけは聞こうとしてくる。
勿論、その疑問を突っぱねることも可能ではあるが、砂狼シロコはしなかった。
「一人暮らしする時に必要だから」
「確かにそうですね。毎日コンビニ弁当など笑えませんから」
「……ん」
「クックックッ」と、初対面の時のような怪しさや胡散臭さを含んだものではなく、綺麗で何処か安心したような笑みを浮かべる。
表情はわかりにくいが、所謂“穏やか“に該当するものである。
それが何処か砂狼シロコにはむず痒かった。
だからこそ、気を紛らわすかのように反撃に転じる。
「……どうして料理が上手なの?」
口に出した疑問。
小さな疑問ではあるものの、男のことを知る大きな一歩である。
「クックックッ、私のような風貌の者がコンビニにいたら怪しいでしょう」
「……確かに」
撃沈。確かにその通りである。
「しかし、珍しいですね。貴女の方から質問を投げかけてくるなど」
逆に男のほうが砂狼シロコに反撃をしてくる。
いや、男にそのような意志はなかったものの、砂狼シロコにとっては反撃となるのである。
確かに、砂狼シロコは男に疑問をぶつけることは少ない。
それこそ、記憶に残っているものが初対面の時のものだけである。
ここで「貴方のことが知りたいから」なんていうのは少し恥ずかしい。
「知られてばっかりも嫌だった」
「おやおや、それでは公平ではないと?」
「………ん、不公平」
男は契約至上主義であるのかはわからないが、“公平”であることを重視する。
砂狼シロコはそこに目をつけ、話を持ちかけたということである。
「といっても、何を聞きたいのですか?」
「………名前とか?」
「おや、名前ですか」
名前、という質問を投げかけると男は微小ながら反応を示す。
まるで未来を見透かしているかのような、独特で焦っているような雰囲気。
何かに囚われているようで、砂狼シロコはそれが余り好きではなかった。
「名乗っていませんでしたね。私の名前はボンドルド、神秘の研究家です」
「ボンドルド……」
なんとなく、合っていないような感覚がする。
パワードスーツを着用している際ならば合っていると思う。
だが、名前を知ることが出来たという達成感と喜びが砂狼シロコにはある。
ならば、今の状況で沢山のことを聞いておいたほうが良いだろうと思った。
「……ん、出来た」
「………おや?」
「どうしたの?」
「いえ、2人分の料理があったようなので」
砂狼シロコは2人分の料理を作っていた。
それは勿論、男──ボンドルドに食べさせるためである。
「これは私も食べていいということで?」
「……ん」
「クックックッ、では私も食べさせていただくとしましょう」
ボンドルドは今一度席に座り直し、料理の前で手を合わせる。
「「いただきます」」
まずは一口。
自分が初めて作った料理はどの程度のものなのだろうかという期待と、料理が上手であるボンドルドからはどのように思われるのかという不安があった。
「……酸っぱい」
初めての料理は少しだけ酸っぱかった。調味料が原因だろう。
せっかく作った料理が上手く出来なかったことが少しだけ悔しく感じた。
ボンドルドはどうなのだろうか、と気になり顔を見てみると…
「──美味しいですよ」
穏やかな雰囲気でそう言い切った。
「…嘘?」
「いいえ、嘘ではありません」
「…どうして?」
「最初から上手に出来る人間なんていませんよ。だからこそ、その最初に費やした手間暇というものはわかりやすくなる。この料理は美味しいと言い切ることが出来ますよ」
「………そっか」
少しだけ、楽になったような気がする。
自分でもボンドルドにどう思われるかを気にしていたことを自覚し、少しだけ恥ずかしくなるが、悪くはない感覚ではある。
とはいえ、だ。
「──食べたよね?」
「……え?」
味の感想を言ったのだから、間違いない。
「……私が作った料理、食べた」
「……ええ、そうですね」
「本当はどっちも食べようと思ってたのに」
「スゥ――」
ボンドルドが冷や汗をかいている様を幻視する。
だが、悪いのはボンドルドなのだ。
言ってしまえば『仕返し』ということになる。
「……クックックッ、してやられましたね」
「そっちが先にしたことだから」
「ええ、それでどんなことをお望みですか?」
どんなこと、そんなことは決まっている。
今まで聞くことが出来なかったボンドルドのことについて聞くのである。
「外で何してるの?」
「仕事ですよ。研究成果の発表や仲間との会合などです」
「仲間…?」
研究、というと間違いなく神秘についてのものだと推測をつける。
だがしかし、仲間とは何なのだろうか。
一般的に考えれば研究仲間であるとは思うが、それならば一度はアジトに顔を見せるだろう。
「一定の目的を持った者の集まり、と考えていただければ」
「目的って?」
「崇高、いえ、簡単に言えば自分の理想へと向かうことです」
崇高というのはよくわからないが、目的がわかったのは収穫である。
恐らくその崇高に神秘が必要なのだろう。
それが研究をする理由であると砂狼シロコは理解した。
「――ごちそうさまでした」
「ん、」
そんな質問について考えている内にボンドルドは食べ終えてしまった。
ボンドルドは基本的に作業をしているため、多くの質問を投げかけることは出来ないだろう。
だからこそ、一つの質問に濃縮していく。
何故、拾ったのか。
時折、遠い目をするのは何故なのか
何が目的なのか。
聞きたいことは山ほどあるが、一つだけ質問することを決心する。
「――なんで、助けてくれるの?」
拾ったことにしてもそう。
好きなことを見つけようとしてくれることもそう。
料理や風呂もそう。
きっと、一人暮らしの際の物件も見つけてくれるのだろう。
だが、そこまでしてくれる理由がわからない。
砂狼シロコは記憶喪失だったところを拾われただけであり、そこまで助ける理由がない。
研究対象というのも殆ど名目だけのものであり、形骸化している。
まだ粗雑に扱われたほうが納得は出来たというのに。
「…クックックッ」
「? 何がおかしいの」
突然笑い始めたボンドルドに困惑の声が漏れる。
いつもは困った時に笑うか、怪しい笑み。もしくは最近の穏やかな笑みだというのに。
その笑みは面白くてたまらないという様子だった。
「いえいえ、少しだけ自分のことが面白く思っただけですよ」
「……?」
「そもそも、私の行動は打算有りきのものが大半です」
当たり前のことを言うかのように、ボンドルドは告げ始める。
打算有りきのもの、と言われても砂狼シロコはある程度の理解を示す。
実際、これまでの言い訳は「研究のため」で一貫されていたからだ。
「時には人を殺す選択もしますし、助ける選択もします」
「………ん」
「それが先程言った“崇高“のためならば何でもしますよ」
崇高、がどれほど大事なものなのかは砂狼シロコにはわからない。
だが、それがボンドルドを、男を構成する重要な要素であることだけは理解が出来た。
「
「最初こそ良心は痛みましたが、大義のための行動だと納得もさせてきました」
一息。同時に砂狼シロコの方向を向く。
「ですが、貴女と出会った」
「……私?」
砂狼シロコは少しだけ驚いた。
自分と出会ったことが男に変化を及ぼしたのだろうか、何か変なことがあったのだろうか。
疑問が次々と浮かんでは消えていく。砂狼シロコはわからないことが多いのだ。
「貴女は私にとって
「読んでいた絵本の内容が突然変化した、といえば分かりやすいのでしょうか」
……わからない。
そもそも砂狼シロコは男がどのような存在なのかも知らないし、何を見ているのかも知らない。
ただ、自分との出会いが男に衝撃を与えたことだけは理解した。
「
恐らく、初めて会った時のことを言っているのだろう。
あの時の男は怪しげな笑みを浮かべていながらも、少し挙動不審のように思えた。
その後に突然誘拐紛いのことをするのはヘマといって差し支えないだろう。
「ですが、貴女と会えたことで、少しだけ視野が広がったのです」
「今までは劇場を監督として見ている気持ちでしたが、自分も紛れもない演者の一人なのだと。演者となることで初めて”理解”をすることが出来るのだと分かったのです」
「その変化は、紛れもなくシロコ、貴女のお陰なのですよ」
砂狼シロコはわからない。
男がどのような視点を持っているのか、どのような存在なのかはわからない。
だが、今自分が男に良い影響を与えたことはわかった。
そして、そのことを嬉しいと思っていることもわかった。
「…今の生活はその恩返しってこと?」
「そうでもあるし、そうではないとも言えますね」
「……どういうこと?」
砂狼シロコはわからない。
「クックックッ、愛です、愛ですよ! シロコ!」
”愛”とは何なのか。
嬉しいと思う気持ちは何のか。
寂しさを感じなくなったのは何故なのか。
砂狼シロコはわからない。
◇
「黒服さんはいますか〜?」
「………何で此処に来たんですか」
「ひぃん」
突然やってきた、アホ毛の胸の大きい女性が誰なのか。
砂狼シロコはわからない。
タイトル回収は後何回かあります。
恋愛は無くとも家族愛はある。
(|)素晴らしい
なお、本物ボンドルドルート
戦闘描写
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省け(サクサク)
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書け(それっぽい)