やはり俺がトガヒミコとラヴコメするのは間違っている。 作:もるすぁ
「雄英体育祭が迫っている」
「「「「クソ学校っぽいのキタァアアアアアアアアアア!!!!」」」」
「せんせい、そういうのいいので授業をすすめてください」
「「「「「「えええええええええええ!!!!!?????」」」」」」
うるせぇ。単位掛かってんだよこっちは。
高校主催の一大イベントに沸きに沸いたA組であるが、あんまり興味もない俺としては心持ち冷ややかだ。
べっ、べつに喧騒と絶叫の揃った輪唱に俺だけ乗り切れなかったから拗ねてるわけでもないんだからねっ。
「いや、比企谷先輩の言い分に載る気でもないっすけど、いいんすか? ヴィランに侵入されたばっかりだっつぅのに?」
「先輩はやめてもろて」
赤髪ツンツンの少年の言い分に、飯田くんから借りてる眼鏡(多分予備)をキランと光らせて窘める。
目も悪くないからコスプレの範疇なのだが、授業態度で卍・解!して先生方へ護摩磨りの日々である。
へ、っへっへ、ぼくわるいせいとじゃないよ(震え声。
なお装着した姿をいのいちばんに目撃したのはトガなのだが、「「トゥンク…!」カッコいいよ! でも眼鏡ないほうがもっとイケメン!」と朝の教室で大絶賛だった。
でもお前感性違うからなぁ…。
あとトキメキを声に出す奴がもうひとり重複して聴こえた気がするけど誰?
「
「死体蹴りはおやめください」
あんまりココロオドラナイ行事参加になりそうである。
ああ、小学校時代のトラウマが…、中学? うん、まあそこそこね。黒歴史はね。
「正直、お前に関してはもっと別の段階で気になる点もあったわけだが…」
学校行事に軒並み悦ばしくない思い出ばかりドキドキDON☆DON☆湧いてくる内心とは裏腹に、相澤先生の目線が下がって言葉の濁った気配を感じる。
視線の先は、ああ、『
「先日の機動力見ても、まあ大丈夫だろ、と俺が判断した。参加を見送る声もあったが、こういう行事は今のうちに体験しておいた方がいい。後顧の憂い、というやつだ」
色々と言葉を選んで説得されている気配も感じる。
実体験だろうか。
「まあ、わかりましたよ。辞退とかはしないんで、よろしくおねがいします」
「トガも出ますよ! 見に来る人はいないですけど楽しみます!」
「そうか。――そうか」
■
「ああは言ったけど、正直どうなんだろうな、体育祭」
「ひ、否定的過ぎる」
トガの発言でさらりと闇を嗅ぐいたA組であったが、ひとまずは穏やかに、先の戦いへ向けて英気を養う空気が蔓延し始めていた。
しかしね、言いたいことはあるわけです。
「ぶっちゃけた話、他人を殴って誇らしげに出来るモンが職業として成立している社会が色々とどうしようもないとは思うんよな。殴られろとは言う気も無いが、矢面に立つヒーローが自分らを守る為なら暴力に訴えても構わない空気はどうなんだ?」
「否定的過ぎる…!」
ボサモジャの少年、緑谷くんとやらが蒼い顔で絶句した。
今は微分積分を教えてもらっている立場である。
「そればかりじゃないと思いたいが、基本としてヒーローってのは戦う職業だ。しかし戦いに特化する奴ってのは潰しが利かない。元ヒーローのラーメン屋とか、聴いたことあるか?」
「あ、ああー…、そういう意味か…、確かに、あんまり流行っている声も聞かないよね…。ヒーロー飽和社会とか云うけど、あふれたヒーローが暇になったことも耳にしないや…」
「例外と言えば、オールマイトの通勤で被害を被られた地域ヒーロー、だろうか。暇になったと云うよりは手柄を獲られた声が出ていた気もする」
同じく勉強を見てもらっていた眼鏡くん改め飯田くんが追従する。
そこは例外中の例外という感じもする。
「そもそもヨロイムシャみたいな最高齢現役ヒーローがまだいる時点でなぁ。普通実力と実績積んだら後進の育成に踏み切る年代だろうに、爺さんヒーローらは跡を継がせた声も聞かん。上手く出来ているのは、インゲニウムくらいか? 事務所が世代交代しているもんな」
「む。うむ。そうだ、な。な!」
「ん、うん、うん。そうだね!」
「どうしたお前ら」
急に同意の威が強い。
なんなの?
「逆にエンデヴァーなんかは大手ではあるけど、将来性がちょっと弱いな。なんやかんやワンマンって感じで、枠組みを任せられる後進の育成が、」
「――悪い、ちょっといいか」
と、声を掛けてくるのは、轟くんというイケメンだった。
火傷の跡は痛々しいが、赤髪に白髪のコントラストはデザインとして目に毒だ。良い意味で。
「エンデヴァーの話に聴こえたんだが…」
「ああ。実力はさておいて、って話をな。詳細知らんオールマイトとは違って結婚しているらしいけど、『会社』って枠組みでヒーロー事務所を捉えると子供とかの後継ぎ的な役割が看板に収まってねぇし。大手なら今居ても可笑しくないだろ? 本人が牽引する能力はあるんだろうが、育成には不向きかねぇ、って思ってな。自分の努力を押し付けるタイプかもしれん」
「明け透けすぎだよ比企谷くん!?」
薄氷の上を渡る相手を見る顔で緑谷が叫んだ。
何らかの危機を感知している…?
「そうか。――そうか」
「おう、どうした」
心を知ったウルキオラみたいな顔してるぞ、轟くん。
いや自分でもどんな顔だかわからんが。
「いや、大丈夫だ。そうか。エンデヴァーは育成能力がない、か」
「あくまで世間一般の声と思ってくれていいぞ」
「責任転嫁じゃないか…!?」
いいや、俺も一般人でモブだから。
世間の声で合ってるのさ。
「悪い。アンタがどういう話をしてるのか、気になってな」
「そこまで気にしいにすることねぇだろ。目的は違うんじゃないか?」
「いや、合ってる。いっしょに競技に出る以上、最大の壁はアンタだろ」
ごくり、と緑谷くんや飯田くんが息を呑む。
遠目にはボンバーヘッドの爆豪くんとやらが睨むように見ている。
モテモテだな、俺。
「出るとは言ったが、そこそこのところで退場するだろ。俺は名を売る気もねぇし」
「うそでしょ、この空気でそういうこと言えるのこのひと…!」
■
「はァー、なんか色々と凄まじい先輩やねぇ」
「あんまり先輩と呼んであげることも不憫だわ、お茶子ちゃん」
「そうですねぇ。トガもキョリカン感じてやーですねぇ」
同じく、勉強を見てもらっていたトガグループでは、小休止のように麗日が息を吐いた。
絶句した緑谷のツッコミで、空気が緩んだ気配が滲んでいた様子もある。
小さく窘めケロケロ鳴く蛙吹と、同意するトガで会話が弾む。
「ああ、そんな気はしとらんのよ。やけど、出会いが出会いやからね」
先日、ドアを蹴破るようにして封鎖されていた出口を突っ込んで来た八幡のお陰で、ワープ個性という圧倒的に不利な相手に被害を大きくされないうちに制圧して貰えた。
そんな現役のヒーローに助けてもらった様な高揚感が、その場に居合わせた麗日や芦戸や瀬呂なんかには通じていたのだ。
先に呑まれた爆豪・切島に2年の男子を皮切りに、前へと出た緑谷や身構えた蛙吹、攪乱されて上鳴・八百万・常闇・太めの先輩などが次々と呑まれ、麗日や青山なんかが13号先生に守って貰えていた。
お蔭で攻撃に転ずることが出来なかったらしいのだが、その不利を一瞬で覆した機動力と攻撃力は『ヒーローの卵』と呼ぶには大分頭抜けていた。
先の実践訓練で頭角を顕わとした轟が気に掛けるには、充分すぎる実力者だ。
「先輩いうんが駄目やとしてもなぁ、あんまり馴れ馴れしくするのも気も引けるというか…」
「緑谷ちゃんの様子を見てると随分と打ち解けるのも速い気もするけれどね」
たはー、と照れる麗日。
ぱっちりとした眼で男子グループを見遣る蛙吹。
そんなふたりをにんまりと、トガは静かに眺めていた。
「――コイバナしましょう!」
「「急にナニ!?」」
静かとは???
「知っての通りトガはハチくんが大好きです!」
「聞いてはいたけど知ってはおらんよ!?」
「伺ってはいたけど直接は初めてよね?」
「なのでお茶子ちゃんや梅雨ちゃんの恋の話も聞きたいです!」
「ぉん!?」
「そういうのは、まだないわねぇ…」
「透ちゃんなんかも気配しますから聞きたいのですよねぇ! 呼んできていいですか!?」
「いいけれど許可は取りましょうね」
「梅雨ちゃん冷静やね!?」
声高に宣言した遠くで「急に雑に巻き込まれた!?」「マジか葉隠! 恋なの!? 誰!?」と芦戸と葉隠の遣り取りが響く。
コイバナウエテルモンスター2号、誕生の瞬間である。
■
さて、放課後。
A組の入り口に雑踏が出来ていた。
「ナニゴト!」
「敵情視察だろ、雑魚が」
爆豪くん、その科白は何処へ向けてるの。
舌打ちした彼に案の定、ヘイトが向いて、それはA組全体へと向けられていた。やめてよね。
「おぅおぅおぅ! 偉く気合入ってんなぁ! 俺ぁB組のモンだけどよォ!」
硬そうな男子が前へと出る。
「ヴィランと先に戦ったからってチョーシのってんじゃねーぞォ! 負ける気はねえからよぉ! こっちはァ!」
「いや、それはどうなんだ、言い方がよ」
思わず、声が張る。
ああもう注目集まってる。
でもなぁ、トガも居るからなぁ、意識改革は要るだろ、最低限。
「社会のヴィラン判定が緩すぎる感も有るけどな、多すぎるっつうか。でもなぁ、遭遇戦、エンカウントと云うほど敵対するもんでもねぇだろヴィランは」
「お、おぅ?」
「お前の言い方だと、戦えたことが幸いみたいに聴こえるだろ。戦うだけがヒーローの能じゃないんだから、調子づいてるのはどっちだ、ってことにならんか?」
「む。ぐぐ、一理ある…!」
出鼻を挫く感で悪いが、マイルドにしておかんと空気ってのはすぐ淀むからな。
「説教したいわけじゃないんだ。ただ、襲撃ってのは良いもんじゃねぇ。もうちょっとさ、センシティヴな話題だからソフトタッチでグルーミィに「煙に巻こうとしてる感がありありと観て取れるわね、比企谷くん」
群衆の外側から声を掛けられる。
雪ノ下がすっと現れた。
いや、今現れたみたいに言ったけど多分既に混じってた。
要件は別っぽいが。
「煙には巻かねぇよ。でも誰だって触れてほしくないことって、あるだろ?」
「甘いわね。ヒーローを目指す生徒たちに向けるには、貴方の方針は鈍重だわ」
「2年生だ…」「なんで此処に」みたいな声がちらほら。
制服のどっかで区別してるんかな。
「体育祭、貴方も出るって聞いたのだけど」
「ああうん、成り行きで」
「そう。それなら、最終選考まで勝ち抜きなさい」
「あん?」
なんでそんなこと指示されなきゃならんのさ。
「ひ、比企谷くん、例年種目は違うけど、最終戦だけは毎年1vs1のトーナメントなんだ。去年はスポーツチャンバラだったけど…」
「今年は1年の最終トーナメントに、私たち2年のヒーロー科選抜が混じることになったの」
「「「え!!!」」」
え、なんで。
「ん? 雄英は普通の体育祭と違って学年別なんじゃなかったか?」
「その通りよ。けど、恥ずかしい話、去年の私たちはヒーロー科としては出場していなかったのよね」
「…除籍、されたから?」
こくり、と雪ノ下は小さく頷く。
「良くも悪くも、去年の1年生は普通の体育祭という形でしか終われなかったわ。ヒーローとしての名を上げる前提が無かった。そして実力を積み上げた経験も無い。いうなれば、今年の1年生とスタートラインは似通っているわね」
「そうでしょうか…?」
「挫折を嚙んだ分、むしろ出遅れているわね」
「そうでしょうか…!?」
緑谷くんのツッコミが静かに響く。
廊下に居る紫髪の隈目が、ちょっと息を呑んだ気配を感じた。
「出場するのは2年の部を勝ち抜いた4人。こちらもトーナメントで、貴方たちの執り行う前日に済ませると謂う話だわ」
「そうか。頑張れよ」
「他人事みたいな顔しないでちょうだい。貴方も出るのでしょうが」
いや、だからね、俺が出てなんのメリットがあるの、っていうね、
「ッハ、偉そうだが良いこと言うなぁセンパイ!」
ずい、と爆豪くんが前へと出る。
「俺が、上だ。負けねぇ…!」
めっちゃメンチ切られとるんよ。俺が。
ええ、なんでぇ…?
周りからも「アイツ強いのか…?」「そうは見えねぇ…」みたいな困惑が。
えぇ…、帰りたい…。
「えー…、勉強したい…」
「…そういえば、なんなの、その眼鏡は。貴方、目が悪かったの?」
「いや、コスプレだが。似合ってないか?」
キラン、と光らせて見せる。
「トゥンク…!」呟いて赤面した雪ノ下が其処に居た。ノリ良いな、意外と。
ほんわかヒーロー科A組日常絵巻
轟くんやトガちゃんの原作との相違や心情の差異を描いた幕間みたいな話になってたらいいなぁ