「…なるほど、要するに全く分からんって事だな?」
それにコクリと頷く少女。
色々と聞いたものの、結局記憶を回復させない事にはどうにもならないという結論が出た。
何しろ生まれも歳も、採掘場に来る前の事も何も覚えておらず、本当に覚者なのか、何故覚者とやらになったのかも分からないらしいからである。
「とりあえずよく分からんままにあんたのポーンとやらになった訳だが…
何故そうなったのか、何か特殊な要因があるのか、その辺りどうなんだ?」
「…」
「聞いてる?」
「…助けてくれた」
ややあって出てきたのはその言葉。
「助けたって…、崖の時の事か?ありゃ俺がいなくても何とかなっただろ」
少女の言葉に少し考え込む。
"知識"によれば、元々俺が転生したのは"ポーン"と呼ばれるこの世界の大多数の人間と違った特殊な種族であり、強靭な肉体や素早い回復力などを持っているらしい。
ただ代わりに一般の人間と比べても意思がとても薄いという特徴を待っており、更には"リムストーン"と呼ばれる特殊な石碑を通してあちこち世界を渡るだのなんだのとの事だがそこら辺はよく分からないので割愛する。
そしてポーンは"覚者"…龍に選ばれし者に忠実であり中でも直属のポーンはメインポーンとも呼ばれ"覚者"の片割れとでも呼ぶべき存在になるそうだ。
その辺りは全部ポーンを率いていた女、"ルクサ"から聞いた。
「本来であれば嬢ちゃん専属になるポーンがあの"リムストーン"を通じて呼び出される筈が、何故かその場にいた俺が嬢ちゃんのメインポーンになった…そしてそれは嬢ちゃんがそう考えたから、って事でいいか?」
「…わからない」
「まぁいいや、なっちまったもんは仕方ない…
となると決めなきゃならねぇのはこの先だ、とりあえず嬢ちゃんの記憶を取り戻す事からだな。
ドラゴンだの覚者の使命だの城都にいる覚者だのは後回しだ、先ずはドラゴンに襲われたっていう"メルヴェ"とやらに向かうぞ、それでいいか?」
乗りかかった船だし、メインポーンとやらに選ばれたのなら腹を括ってや類するしかない。
どの道行く当ても無いし、覚者とやらがそこまで語られる存在であれば側にいた方が色々と都合は良いだろう。
こちらの言葉にこくりと頷いたのを確認して
「となると腹ごしらえだ、主人!なんか食えるものを適当に用意してくれないか?」
「それは構わんが…お前さんら金はあるのか?
事情は聞いてるが、無いなら後でこっちの作業を手伝ってくれりゃタダで出してやる」
「おぉそりゃありがてぇ、ちょっと手持ちは心許ないんでな」
あの兵士から拝借した財布にはあまり入ってなかったので、渡りに船と承諾、食事を用意してもらい二人して腹を満たすと
「後は服だな、いつまでもこのままって訳にもいくめぇ」
いつまでも見窄らしく汗が染み付いた上下と言うわけにはいかないので売店でなんとか交渉を重ねて装備を整えると、武器は安物に買い替える羽目になったが、それなりにしっかりとした冒険者風の装備になったので
「さてと、じゃあ先ずは頼まれてる物資の調達を済ませるとするか。
世界が世界なら初クエストってやつだな、メジャーなゴブリン討伐は先に済ませてしまったが」
こちらの言葉に首を傾げる少女に"気にするな"とばかりに肩を叩くと北方に面した門に向かうのだった。
坑夫の上着:発掘現場で支給される上着、汗と埃が染み付いている。
労働者のズボン:粗末な素材のズボン、泥に塗れる前から見窄らしい。