またブルアカ復帰のモチベーションの目的もあったので。
「うぅ……!」
焼けるような痛みが走り、グラグラと頭が揺れる。
視界がボヤけて周りがよく見えない。
だが下腹部に添えていた右腕が、この前新調したばかりのグローブと上着の袖全体がベットリと赤黒い何かで染められていることは分かった。
これが何かは言わずもがな。
今までの仕事で敵味方が流していた、流させていたものと同一であり、彼らがその後どうなったかは幾度もこの目で見てきている。
特に味方が全滅した重症者の末路は悲惨だ。
即死することなく、意識がハッキリとしたまま、失血死するまでの長くも短くもない時間をひたすら傷の痛みに耐えなければならない。
そして今の自分はとても応急処置で治る状態ではなく、近くには物言わぬ隊長と同僚だったものが横たわっている。
だから諦めがついた。
幸いにも襲ってきた敵の連中はここから20m前方にある黄色いユンボの影と、その隣に位置する窪みの中でひと足先に70kgの肉塊と化している。
もう警戒しなくていいからと、何本か指の欠けた左手で懐を弄った。
取り出したのは
どうにか腕に刺して安静にしていると、効能が効いてきて、痛みが徐々に引いていく。
「またみそ汁……飲みたかったなぁ……あと可愛い女の子と……デートしたかった……。」
激痛が収まり、独り言を呟けるくらいの余裕が生まれた。
しかしその時間も長くは続かない。
目を閉じていないというのに、急速に暗くなっていく視界。
ここに来て死の恐怖を感じ取ると、最後の力を振り絞って傍らに立てかけてあった
敢えて先に瞼を下ろせば、視界が真っ暗になる。
これでおそらくは目をかっ開いた残酷な見た目の骸にはなってないだろうと、なっていてほしいと。
そう願ったのが『前世』においての最期の思考だった。
⬛︎
「はっ……!?」
ビクリと身体が跳ねる。
すぐさま腹をまさぐり、頭と頬を触る。
手についたのは額の脂汗のみで、鉄臭くて赤黒いものはどこにも見当たらない。
周囲を見渡せば、白を基調とした清潔感あふれるシンプルな天井と壁、真新しいパジャマを身に纏った自分の身体が目に入ってきた。
ベッドから起き上がると、今までの記憶が蘇ってくる。
「ああくそ……またこの夢か……。」
頭を掻きながら身体を起こし、ベッドから降りる。
すると手首のウェアラブル端末が勝手に起動し、画面に1人の少女を映し出した。
[先生!またうなされていたようですが、大丈夫ですか!?]
「いや、気にしないでくれ。」
[PTSDの症状が見られるのでしたら、カウンセリングの予約を……。]
「『
枕の下から
冷水を浴びながら鏡を介して身体を眺めれば、下腹部と太ももに数ヶ所の射創があった。
それに指を這わせる。
「夢……じゃないか。」
戦死していたことを改めて自覚し、気分を重くする。
しかしいつまでも落ち込んではいられないとシャワーを出て、服を着替えた。
下着の上から軽量プレートアーマーを被り、特殊素材のシャツとスラックスを着る。
ベルトにホルスターを挿すのも忘れない。
G19のスライドを少し引き、薬室の中に煌めく金色の輝きを見ると、ホルスターに入れる。
「さて……朝飯でも買いに行きますか。」
[先生!気をつけてくださいね!外は危ないですから!]
「はいはい、分かってるって。」
部屋の出入り口である防弾ガラスの自動ドアを通ると、タレットが仕込まれた長い通路と複合材の防爆シャッターを抜け、エレベーターに乗って下に降りる。
そんな要塞並みの厳重な警備を抜けた先にあったのは、当初の自分にとって意外な景色——1ヶ月経った今となっては見慣れた日常が広がっていた。
澄んだ空気と洗練されたビル街、綺麗に整地された道路、そして……。
「ヒャッハァァ!!てめえら待ちやがれ!」
「オラオラ!逃げてんじゃねえぞコラ!」
「撃て撃て!連中なんか返り討ちにしてやれ!」
改造した車とバイクに乗りながら銃をブッ放すのは、頭の上に天使の輪っかのようなものを浮かべた、
しかし気にすることなく、同じビルの1階に位置しているコンビニ『エンジェル24』へ入る。
雑誌を立ち読みしていると、ボン!と小さな爆発音が響き、思わず顔を上げる。
どうやら決着がついたようで、外の道路には炎上する複数台のバイクと、そこから投げ出された少女たちが転がっていた。
本来なら救急車を呼ぶべきところだろうが、再び雑誌へ視線を落とす。
何度も言うようにこの世界では、『キヴォトス』では日常的な出来事なのだ。
直後、前世では考えられないことが起きる。
「うぅ……いてえ……。」
「ちくしょ……せっかくカスタムしたってのにおジャンだぜ……。」
派手に落車した、または銃に撃たれた少女が、何事もなく無傷で立ち上がってきたのだ。
そしてトボトボと、普通に歩いてどこかへ行ってしまう。
「今日は
雑誌を閉じ、籠に放ると、適当に店内の食品を漁っていく。
すると今度はジロリと、複数の強い視線を感じ取った。
足音も鑑みて、おそらく3、4人くらい。
「おっと……。」
棚に忘れ物があるフリをして後ろを振り返れば、それらは途端に無くなる。
視界の端に映ったのは同じく頭上に輪っかを浮かべ、白や黒、紺など、様々な色の制服を身に纏った10代半ばの少女達の姿。
棚のお菓子やパンを眺めているが、明らかに挙動が自然ではない。
しかしその立ち姿に明確な敵意は感じられず、ただ必死に誤魔化そうとして、逆に挙動不審になっているように思えた。
よって気にすることなく会計に向かう。
もちろん目を離した直後、視線は再度降り注いできた。
純粋な好奇心や興味を含んだものから、少し熱を帯びたものまで。
「おはよう、ソラ。」
「おっ、おはようございますっ!先生!」
レジに立っていたのはソラという、こちらもまた10代半ばの少女。
彼女は顔を真っ赤にしながら商品をスキャンしていく。
「せっ、先生!あの……!」
「ん?」
「こ、ここの生活には、慣れましたか?」
「ああ、おかげでね。まあまだソラくらいしか話し相手が居ないんだがな。」
そう言うと、向けられる視線が強まった気がした。
「しょっ……そうですか……。」
シュー、と頭から湯気を出す彼女はそれ以上口を開かなかった。
帰り際に手を振れば、ぎこちなく応えてくれた。
コンビニを出ると、手首の端末が震える。
「なんだ?」
画面にはメールの通知があった。
上階に戻ると自室の、厳密にはオフィスでもあるその空間に置かれたデスクに座る。
デスクトップを起動し、そのメールとやらを開く。
「……アビドス?」
聞いたことのない土地の名前に首を傾げる。
軽く読んでみると差出人は『奥空アヤネ』という生徒で、内容を要約すると学校が廃校の危機に陥っており、助けてほしいというものだった。
「アロナ、アビドスってのはどこだ?」
[はい、地図でご説明しますね。]
アロナから具体的な場所を見せてもらう。
「街というより、ほぼ砂じゃないか。」
[昔は大都市だったのですが、最近は砂漠化が進んでいるようでして……。]
「そうか……これは現地へ行けばいいのか?」
[はい!生徒さんの悩みを聞いて、解決してあげてください!]
「ああ。」
短い返信のメールを送ると、寝室のクローゼットを開く。
中にあったのはVSSを始めとした前世からの装備一式。
だがそれを手に取ろうとした時、グッと息が詰まった。
身体が動きを躊躇い、手を引っ込めさせる。
ピカピカに磨き上げた筈の銃身に、赤い血が見えた気がしたのだ。
「……給料分は働くべきだよな。」
ポツリと、そう呟く。
伸ばした指先がライフルの冷たい銃床へと当たる。
震えたまま、掴み取った。
先生は元はぐれUSECです。BEARのおっちゃんと腐れ縁の二枚目とカスタムを漁ってたら襲撃を受けて……みたいな?ちなみにこのネタはもう出さないので、分からない人は無視して結構です。
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