元傭兵先生、貞操逆転世界を行く   作:ゆうぐれ

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えっ!今日は全員カレーライス食っていいのか!!



第12話 イオリ強襲

褐色の肌に銀髪のツインテール。

 

ゲヘナ風紀委員警備部現地行動隊隊長、『銀鏡イオリ』は気だるげに目を細めていた。

 

何故なら自分が行なっていることはどう見たって外道だから。

 

アビドスの生徒が働いているラーメン屋を見張り、便利屋がそこを訪れたところで『協力者』がプラスチック爆弾入りのケースを店に置いて離脱。

 

便利屋による爆破と見せかけ、同時にアビドス生を助けるために現場へ必ず来るであろう先生を拘束する。

 

やっていることは、爆破テロと濡れ衣と拉致だ。

 

しかもここはアビドス自治区。

 

管轄外でこんな真似が表に出れば、言い逃れなど出来るはずもない。

 

「……はぁ。」

 

しかし命令は命令だと、イオリは自らを律する。

 

そして幾度目かの指示を部下へ出した。

 

「おい、発砲は絶対に控えさせろ。目標はヘイロー持ちのキヴォトス人じゃない。22口径で死ねるただの人間だからな。」

 

通信機に向かってそう言った時、骨伝導のインカムを介して同僚の、『火宮チナツ』の声が入ってくる。

 

[相手は大人しく言う通りにしてくれるでしょうか?]

 

「先生は場慣れしているらしい。だからこの戦力差じゃ下手は打たないよ。」

 

[だといいのですが……。]

 

「すぐにでも……あ、噂をすれば。」

 

その時、ラーメン屋の前に停まった白い装甲車——シャーレの車両の影から先生が顔を出す。

 

両手を見せており、武器は確認できない。

 

イオリは小さく安堵の息を吐いた。

 

しかし、彼はすぐに車の影へ姿を消してしまう。

 

何かを止めるように手を伸ばしながら。

 

すると不意に部下の切羽詰まった声が響く。

 

「車両後方!RPG!」

 

その言葉を聞いて、イオリは状況の確認よりも先に身体を動かした。

 

と言うよりも勝手に身体が動いた。

 

地面に倒れ込みながら頭を抱える。

 

直後、ドゴッッッ!!!っと、轟音と共に装甲車の1台が爆炎に包まれた。

 

まるで電子レンジで温めた生卵のように、内側から炎の黄身が四方へ吹き出す。

 

「ぐっ……くそっ……何がすぐに降伏するだ……。」

 

キーンと、耳鳴りがする中、数分前の自分の発言を鼻で笑う。

 

だがその後に連続した破裂音がいくつも発生し始めると、慌てて飛び起きた。

 

確保すべき目標は、単に撃って黙らせていい相手ではない。

 

1発でも当たりどころが悪ければ、それで終わりなのだ。

 

もし殺してしまえばゲヘナ風紀委員が絶対的な悪となり、敵味方中立を問わず、様々な勢力から糾弾と弾劾の嵐を食らうことになるだろう。

 

「待て!撃ち方やめ!撃つな……うわっ!?」

 

ボゴッ!っと、すぐ背後の装甲車に大きな凹みが発生する。

 

それを見るとイオリは地面に這いつくばった。

 

途端に彼女の前に居た盾兵が、バリスティックシールドごと撃ち抜かれて倒れ伏す。

 

小口径の連続した銃声に紛れ、単発の重い発砲音が続く。

 

ドゴッ!ドンッ!っと、轟音が響くたびに盾兵が倒れていった。

 

「全員、遮蔽に退避しろ!敵は徹甲弾を使っているぞ!」

 

イオリは装甲車に隠れると、自身の得物、Kar98kを手に取る。

 

遮蔽から顔を出すと、もうそこは銃撃戦の真っ只中だった。

 

止めようにも、下手に隙を見せるわけにはいかない。

 

殺せばアウト、逃げられてもアウト。

 

板挟みの状況にイオリは頭を抱えた。

 

[イオリさん!状況は!?]

 

「チナツ!上からモニターしてくれ!目標の位置を知りたい!このままじゃロクな反撃も出来ないぞ!」

 

[わ、分かりました!]

 

イオリは身を乗り出し、ライフルを構える。

 

しかし照星に男らしき顔が入り込んだ。

 

すんでのところで理性が勝り、ひゅっと息が詰まる。

 

慌てて引き金から指を離すと、顔を引っ込めた。

 

「……くそっ、やりづらい!」

 

舌打ちを堪えながら、腰のポーチに手を伸ばす。

 

「こうなったら……!」

 

取り出したのは細長いナイフのようなもの——ライフルの先端に装着する銃剣。

 

キヴォトス人は刃物で傷は付かないが、胸や頭を強く突けば自閉状態へと追い込むことは可能だ。

 

「チナツ!目標は見えたか!?」

 

[はい!装甲車のボンネット裏に隠れていて……あら?]

 

「どうした?」

 

[いえ、何かが近付いてきていて……。]

 

その時、イオリは空に小さな物体を捉えた。

 

それはどんどん大きくなっていく。

 

「嘘だろ……こんな街中で航空支援をやる気なのか!?」

 

[制約の無いシャーレならではですね。正直羨ましいです。]

 

「感心してる場合か!こっちにも早く要撃機を送ってくれ!」

 

[無理ですよ。トリニティとの協定で武装した航空機は自領以外は許可無しに飛ばせないんですから。破れば本格的な外交問題になります。]

 

「あーもう!全員、退避だ!散開しろ!建物の影に隠れるんだ!」

 

風紀委員の面々は蜘蛛の子を散らすように、隊列を乱して建物に逃げていく。

 

すると、頭上を大きな影が、機首が丸く膨らんだ無人攻撃機が高速で飛び去っていった。

 

その影が過ぎ去ると、イオリは空中に浮かぶ円筒形の物体を見つける。

 

細長い躯体と、尾部から四方へ広がる安定翼。

 

それは彼女達の目の前へ無造作に投げ込まれた。

 

「っ……伏せろ!」

 

直後、イオリの怒声は爆音に掻き消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

ドバッッ!!っと、白い噴煙が建物の間から立ち昇る。

 

しかし衝撃波や爆炎の類いは見受けられず、ただモクモクと白煙だけが広がっていく。

 

視界が遮られ、数メートル先でさえ何も見えなくなる。

 

すると、数秒もしないうちに、あちこちから咳き込みと悲鳴が上がり始めた。

 

そんな中、先生とホシノ、シロコの姿は装甲車の傍にあった。

 

ゴテゴテとした、フィルター付きの軍用ガスマスクを装備した彼らは、そっと道路を覗き込む。

 

何も見えないが、先で何が起こっているかは想像がついた。

 

「うえっ……ゲホッ!ゴホゴホッ!?」

 

「ああっ……目がっ……!目がぁぁぁぁあっ!!」

 

「たいちょー。どごにいまずかー?なみだでまえが曇って……おえっ……!」

 

その酷い有り様にホシノは苦笑を浮かべる。

 

「うへぇ……先生、これただの催涙弾じゃないよね?」

 

「ああ、嘔吐剤を31%ほど混ぜている。計算上は、軽い吐き気と平衡感覚の喪失で済む。」

 

「先生が調合したの?」

 

「いや、ユウカ……ミレニアムがやってくれた。大丈夫、安全性はお墨付きだ。」

 

「ん、あの女……やる。」

 

「けどコレ、気絶させるよりもエグいよ……。」

 

反撃が無くなったのを確認すると、3人は装甲車に乗り込む。

 

中ではガスマスクが足りなかった便利屋一行が鼻と目のそれぞれから液体を垂らしていた。

 

どうやら戦闘によって、車内の気密が破れたらしい。

 

「ぶえくしっ!?はえっ!?な、何よこれ!?」

 

「あははっ!ゲホッ!?あ、アルちゃん変な顔……エホッ!ゴホッ!?」

 

「なみだがとまりましぇん……ズビッ。」

 

何かの化け物みたいになっているアル達にティッシュ箱を渡しつつ、先生はハンドルを握る。

 

助手席には意外にも澄ました顔のカヨコが座っていた。

 

「……大丈夫なのか?」

 

「ヘイロー持ちにとって、催涙ガスは手榴弾より効くからね。耐性くらいつけとかないと。」

 

「ほう、なかなかやるじゃな……。」

 

「くちゅん!」

 

車内に響き渡る、可愛らしいくしゃみの音。

 

後ろから聞こえて来る濁点付きとは明らかに違う。

 

思わず先生はそちらを向くと、顔を赤くしたカヨコが両手で顔を押さえていた。

 

「……何?」

 

「いや……初々しいなぁと。」

 

「それってどういう……うわっ。」

 

ガクンと車体が揺れ、装甲車が動き出す。

 

次の瞬間、車は白煙を突っ切った。

 

目の前に現れた風紀委員の車両へそのまま体当たりし、鈍い衝撃と共に弾き飛ばす。

 

崩れた包囲の裂け目へ、先生はアクセルを踏み込んだ。

 

「ん、包囲を抜けた。」

 

「アヤネ、話した通りに誘導を頼む!公館まで保てばこっちの勝ちだ!」

 

[はい!]

 

装甲車は開けた道路をひた走る。

 

ガスマスクを外した先生は、ふと呟いた。

 

「しかし連中は暇なのか?わざわざ俺を攫うなんて。」

 

「だってシャーレの先生じゃん。それだけで影響力があるよ。しかも先生自身がレアな……。」

 

カヨコはそこで言葉を切った。

 

「……とにかく、先生が手元にあるだけで政治的に有利なの。」

 

「にしたって、ただのお悩み相談室の職員だぞ?」

 

「全学園に顔パスで行けて、あらゆる乗り物を自由に使えるけど?普通、航空機をどこでも飛ばせるわけじゃないからね?」

 

「そうなのか?」

 

先生の抜けた発言にカヨコは軽く溜め息を吐く。

 

すると肩に手を置かれた。

 

そちらを向くと、同情の視線を向けて来るホシノと、やれやれと首を振るセリカの姿が。

 

「アンタらも大変だね。お守りは。」

 

「うん、まあ、それ以外はちゃんとしてるから。」

 

「……かもね。」

 

カヨコは何故ホシノ達が先生を慕うか——正確には気にかけるのかが、男という点を除いて、理由が分かった気がした。

 

横目で、その真剣な顔を眺めていると、ふとサイドミラーに黒い影を見つける。

 

それは徐々に大きくなっていた。

 

「げっ……奴ら、まだ諦めてないみたいだよ。」

 

「風紀委員か?」

 

「うん、近付いてきてる。さっきの航空支援は使えないの?またはドローン。」

 

「ウチのはさっきのお下がり1機だけだ。ドローンは足が遅いし、移動目標には当たらない。」

 

サイドミラーには数台の軽装甲車が映っていた。

 

銃撃にシロコ達は身構える。

 

しかしいつまで経っても発砲はない。

 

「あら?撃ってこないわよ?」

 

「いや、スピードを上げた!きっとぶつける気だよ!」

 

後部のムツキからの報告を受けて、先生はアクセルを踏み込む。

 

だが彼らの装甲車は大型で加速が遅い。

 

一方の風紀委員の軽装甲車は俊敏な動きで、あっという間に追い付いてきた。

 

1台が強引に割り込んでくると、進路を塞がれてしまう。

 

「あら、左右にも来ましたね。」

 

「ん、先生を捕まえる気なんだ。白兵戦をしてくるかも。」

 

シロコはSG556のストックを折り畳んだ。

 

ノノミもサイドアームのグロック18に持ち替えた時、強い衝撃が車内に発生する。

 

前方から敵車両がぶつかってきていた。

 

「早く!横に逃げて!このままだと囲まれる!」

 

「分かってる!」

 

先生はハンドルを切って、前方の敵車両を振り落とそうとする。

 

だが左右の車両がぴたりと食らいつき、前の1台も急制動をかけてきた。

 

アクセルをベタ踏みにするも、包囲は中々に崩れない。

 

凄まじい白煙がタイヤから発生し、道路に黒い跡が伸びる。

 

前方と左右を塞がれ、逃げ道が無くなった。

 

「ぐっ……!」

 

「また後ろから来たわ……って、なんか上に乗ってない?」

 

アルが覗き込む先、背後から迫る敵車両から1人の生徒が顔を出してきた。

 

「げっ……アイツ知ってるわ!」

 

「何?ヤバいやつなの?」

 

セリカの呑気な返しとは対照的に、アルは焦った様子で答える。

 

「ええ!風紀委員の銀鏡イオリよ!かなりのやり手だわ!」

 

アルが言い切った時、背後から敵車両が突っ込んできた。

 

衝撃が走り、後ろまでをガードされてしまう。

 

そして装甲車の天井に何かが飛び移ってきた。

 

「取りつかれたか!?」

 

先生の頭上に、ふと影がさす。

 

見上げれば逆さになったツインテールと赤い瞳が視界に映った。

 

その手に握られていたのは薄っぺらいシートのようなもの。

 

それをベチリとフロントガラスに貼り付けて来る。

 

「っ……爆破薬!?」

 

「先生伏せて!」

 

カヨコに頭を押さえられる。

 

次の瞬間、ボン!と、小さな破裂音と共にフロントガラスへ放射状にヒビが入り込んだ。

 

そのヒビがたちまち視界を塗り潰してしまう。

 

かと思えば、バキッ!っと、外側からガラスが突き破られ、木製の銃床が顔を出す。

 

打撃が繰り返され、小さかった穴が徐々に拡張されていく。

 

「先生は後ろに!」

 

「ん、先生、ホシノの盾に……。」

 

直後だった。

 

穴からコロンと、何かが放り込まれてくる。

 

表面にポツポツと穴の空いた、細長い物体。

 

閃光手榴弾と呼ばれるそれは、空中でレバーが外れた。

 

「どいて!」

 

ホシノがすぐさま動き、閃光手榴弾へ盾ごと倒れ込む。

 

直後、巨大な破裂音が車内に響き渡った。

 

閃光は抑えられても、発生した爆音はシロコ達の鼓膜を叩き、聴覚を一時的に奪う。

 

その隙を突き、相手はガラスを蹴破って侵入してきた。

 

「うわっ!?」

 

「先生!」

 

銃剣片手に現れたイオリは先生の首根っこを掴み、易々と持ち上げる。

 

カヨコが拳銃を抜くと、イオリは先生から手を離し、銃剣で拳銃を弾き飛ばす。

 

だがあろうことか、彼女は先生の首に腕を回すと、運転席から引き倒して盾に取った。

 

「降伏しろ。これ以上の抵抗は無駄だ。」

 

「ん、降伏するのはそっち。」

 

「この距離なら絶対に外さないわ!」

 

イオリに対していくつもの銃口が向けられる。

 

しかし彼女に焦る様子はない。

 

「確かに、この距離なら確実に当てられるが……弾丸は私の顔にめり込むわけじゃあない。弾かれて跳弾するだけだ。この狭い車内でな。」

 

シロコ達の、人さし指の力が弱まる。

 

「いいのか?先生に傷を負わせたくはないだろう?」

 

先生に怪我を負わせる、そのリスクを理解すると、途端にシロコ達は引き金が重くなった。

 

逡巡していると、割れたフロントガラスから風紀委員の構成員が顔を出してくる。

 

「……分かったよ。」

 

ホシノが最初に銃を下ろし、他の面々にもそうするよう手で促す。

 

誰もが抵抗をやめようとしたが、先生だけはその闘志を失っていなかった。

 

首に回されたイオリの腕から力が抜けていくと、彼は思いっきり足を伸ばした。

 

運転席の足元、アクセルペダルへと。

 

「わっ!?」

 

「ちょっと!?」

 

ガクン!と、再び装甲車が動き出す。

 

大出力のエンジンが唸り、周囲の敵車両を力任せに押していく。

 

だがそのスピードは非常に遅い。

 

「おい!無駄な足掻きはやめろ!みっともないぞ!」

 

「諦めが悪いのが……取り柄なんでね……!」

 

「お前たち!早く先生を押さえろ!」

 

ワラワラと風紀委員の構成員が入ってきて、先生を取り押さえる。

 

装甲車は道路を外れて道端の建物に突っ込もうとしたが、すんでのところで停止し、塀が崩れただけで済んだ。

 

イオリは先生達を車外へ連れ出すと、通信機を点ける。

 

「アコちゃん、聞こえてる?」

 

[はい、よく聞こえていますよ。]

 

「目標を確保した。便利屋はどうする?」

 

[連行してください。建前として必要ですので。他は要りません。]

 

「了解、撤収する。」

 

イオリは通信を切ると、ホッと安堵の息を吐く。

 

そして満足気に戦利品を、地面に座らされた先生を見下ろした。

 

「まったく……手こずらせやがって……。」

 

「ああ、やられたよ。」

 

イオリは余裕の笑みを浮かべる。

 

だがその時、かすかにヘリの音が聞こえてきた。

 

すると先生はニタリと、意味ありげに口角を吊り上げた。

 

「何がおかしい?」

 

「いや……やっぱり銃を持っていても、所詮お前さんは子供だな。」

 

「何を……!」

 

バラバラと爆音が大きくなっていく。

 

それもひとつやふたつではない。

 

イオリは首を傾げた。

 

「チナツ、迎えのヘリなんてあったか?」

 

[あっ、イオリさん!早くその場から離れてください!そっちに……!]

 

「チナツ?おーい。」

 

爆音が会話を掻き消すほどに大きくなると、遂には頭上にその姿を現した。

 

機体上部に大きなローターを備え、左右のウェポンベイにミサイルを搭載した戦闘ヘリ。

 

しかしそれはゲヘナでは運用されていないAH-64(アパッチ)だった。

 

機体に描かれた校章を前にイオリは目を見開く。

 

「トリニティ!?どうしてここに……!」

 

数機の戦闘ヘリに続いて、輸送ヘリのNH-90(カイマン)が現れ、イオリ達の周りを旋回する。

 

「連中、ゲヘナとの関係より先生を取ったのか!」

 

「いや?あくまでもトリニティは真っ当なことしかやっていないと思うぞ?」

 

「っ……!」

 

イオリが後ろを向くと、そこでは先生が得意げに笑みを浮かべていた。

 

彼はただ指をさす。

 

崩れた塀、そこに紛れた『トリニティ渉外事務所アビドス支部』という看板を。

 

「トリニティの支部にゲヘナの部隊が突っ込んできたんだからな。そりゃあトリニティもスクランブルをするでしょうに。」

 

「それにしても早すぎる!」

 

「大方、トリニティも俺を見張ってたんだろ。一か八かの賭けだったが、今回はツキが回ってきたようだな。」

 

「ぬぐ……!」

 

歯噛みするイオリの背後で、ヘリから隊員がラペリング降下を行ってくる。

 

同時に拡声器を使った勧告もしてきた。

 

[えー、こちらはトリニティ正義実現委員会、ゲヘナ風紀委員に告ぐっす。直ちに武装解除し、先生から離れるっす。抵抗するなら施設の防衛行動と見なすっすよー。こっちとしては実弾演習はしたくはないんすけどねぇ。]

 

「ふ、ふざけるな!全員、直ちに迎撃準備だ!」

 

イオリの指示に従って風紀委員の面々は手持ちの武器を空へ向ける。

 

ただ対空火器の無い彼女達が不利なのは言うまでもない。

 

先生は腰を上げると、イオリの肩に手を置く。

 

「そこまでだ。これ以上やっても意味はない。」

 

「ま、まだだ……トリニティもアビドスの中までは追ってはこないはず……!」

 

「やめとけ。ほら、あっちを見ろ。」

 

先生はヘリ部隊とは反対の方向を指さす。

 

そちらに見えたのは道路の先を埋め尽くす赤と青のサイレン。

 

パトカーや装甲車、遊撃車など、ヴァルキューレ警察学校の車両が揃い踏みだった。

 

それらは少し離れた位置に停まると、今度はヴァルキューレの生徒がワラワラと外に出てくる。

 

その中には局長のカンナの姿もあった。

 

「全員、大人しく武器を納めろー!これ以上暴れるなら逮捕するぞー!」

 

普段は寂れていたアビドスの街はいつにもなく人で溢れかえっていた。

 

もはや身動きが取れなくなったイオリは悔しそうに歯を食い縛る。

 

するとヴァルキューレの車列の中から、ひとつの影が近付いてきた。

 

それは重機関銃を載せたサイドカー付きの大型バイク。

 

車体にはゲヘナ風紀委員のロゴが。

 

イオリを始めとした風紀委員の面々は、そのサイドカーに乗った生徒を前にギョッと目を見開く。

 

そして慌てて全員が背筋を整えた。

 

先生も何事かと後ろを向くと、ちょうど件の人物が降りてくるところだった。

 

「おや……どこかで見た顔だな。」

 

「貴方がシャーレの先生ね。お初にお目にかかるわ。『空崎ヒナ』よ。」

 

中等生かと思うほどに小さな体躯と幼い顔付き。

 

しかしそのオーラは歴戦のプロそのものだった。

 

流石の先生もゴクリと唾を飲み込む。

 

「ああ……ニュースで見たことがある。アンタが委員長か?」

 

「ええ、そうね。」

 

ヒナはスタスタと近付いてくると、周囲を見渡す。

 

トリニティの敷地に突っ込んだシャーレの装甲車と、周りに停まった風紀委員の車両。

 

そして手錠を付けられた便利屋やアビドスの面々。

 

一通り見終わると、ヒナは軽く溜め息を吐く。

 

「……大体分かったわ。おおかた、アコの指示で何かしでかしたのね。先生を拉致しようとでも考えたのかしら。」

 

「あの……委員長……。」

 

怒られる寸前の子供のように、イオリは俯きながら口を開こうとする。

 

だがヒナはそれを手で制した。

 

「貴方に責任は無いわ。それより……アコ?」

 

[ひゃいっ!]

 

ヒナはイオリのインカムを手に取り、マイクに話しかける。

 

「徹頭徹尾、きっちり説明してもらうから。それと始末書もお願いするわ。いい?」

 

[はい……何なりと……!]

 

通信を終えると、ヒナはイオリを含めた周囲の隊員に撤退命令を出す。

 

大量のゲヘナ生徒が素早い動きで車両へ分乗していき、あっという間に先生達とヒナだけが残される。

 

「ごめんなさい。私の部下が迷惑をかけたわ。」

 

「おたくも大変だな。これだけ組織がデカいと。」

 

「ええ、本当に骨が折れるわ……。」

 

一瞬だけではあったが、ヒナの長く白い髪がシナシナになった気がした。

 

その苦労人の雰囲気を受けて、先生は出かかっていた文句と嫌味を飲み込んだ。

 

「……まあ、頑張ってくれ。シャーレに来れば、愚痴のひとつくらいは聞くぞ?」

 

「そう……ね。覚えていたらいつかお邪魔させてもらうわ。」

 

ヒナは踵を返し、再びバイクに乗ると、風紀委員の車両を引き連れていった。

 

彼女達がその場を離れると、トリニティの正義実現委員会も現場を離脱していく。

 

ヴァルキューレも混乱が収まったのを確認すると……。

 

「出ていきませんからね?何があったのか、全て教えてもらうまでは。」

 

「な、なあ、カンナ……今日は疲れたし、後日出頭ってのは……。」

 

「ダメです。署に同行してもらいます。お前達もだ!早く立て!また手錠をかけられたいか!」

 

「うへぇ……今日は散々な日だよぉ……。」

 

「ん、けど先生は守れた。だからヨシ。」

 

それから先生とアビドス組、便利屋の一行は夜までヴァルキューレの世話になった。

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

 ——アビドス自治区某所——

 

 

[——ゲヘナ風紀委員の検挙に犯罪組織が抵抗、激しい追跡の末に誤ってトリニティの渉外事務所へ侵入してしまったとのことです。今回の事故について空崎風紀委員長は……。]

 

「はい、ミサキちゃんのコーヒー。」

 

「ありがと……それにしても今日のこと、意外と丸く収まったね。」

 

「ね、もっとギスギスするかと思ってたのに。」

 

「先に戦端を開いたのは便利屋の方だ。そこから上手く言い訳を考えたんだろう。爆破の件も、実行役の我々と風紀委員は繋がらないからな。」

 

「あ、さっちゃん、おかえり。」

 

「はぁ……せっかくこんな僻地まで出張ってきた割に、骨折り損だったね。今後の任務がやり易くなるって話だったのに。あの先生って男も、現場に居たことは隠蔽されてたし。そこは男性保護なんちゃらで、ゲヘナを罰しないの?」

 

「個人の男と学園の面子、どっちを優先すべきかは言うまでもない。条約締結だって迫ってる。きっと波風を立てたくないんだろう。」

 

「ダメじゃん、それ。」

 

「国家が犯罪を犯せば、それは犯罪ではなくなるからな……我々がされたように。」

 

「……リーダー、お金は?」

 

「受け取った。行こう。車と服を処分する。」

 

「うぅ……お腹空きました……またあのラーメン食べたいですぅ……。」

 

「吹っ飛ばしたから無理でしょ。」

 

「心配するな。まだ固形食が残ってる。」

 




「先生、来たわ。」

「……いつか行くって言った次の日に来るとは思わなかったよ。」



国家ぐるみの場合は犯罪にならんZOY⭐️

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