元傭兵先生、貞操逆転世界を行く   作:ゆうぐれ

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今回はちょっと長めです。



第14話 カイザーの野望

便利屋からの情報を受けた次の日。

 

対策委員会の一行は深刻な面持ちをしていた。

 

そこへ先生が手を挙げる。

 

「なあ、カイザーがアビドスの土地を全部買い漁っていたこと、おかしくないか?自治区の土地所有権は学園にあって、個人に貸与はしても所有は不可能と聞いたんだが。」

 

先生の疑問にアヤネが答える。

 

「ええ。その通りです。ですが2年前、当時のアビドス生徒会は土地の制度を改め、一部で個人所有を認めたようです。」

 

アヤネの手元には古い資料があった。

 

目を通せば、確かにアビドス生徒会が土地の所有権を一部手放したことが書かれていた。

 

また借金のカタとして、アビドスの一角をそのまま譲渡する内容も。

 

相手はもちろん『カイザーローン』。

 

見覚えのあり過ぎる単語がまたもや現れたことに、シロコ達は苛立ちと動揺を抑えられなかった。

 

セリカは歯噛みすると、机を叩いて立ち上がる。

 

「なんで昔の生徒会は土地を売るなんてマネしたのよ!?」

 

セリカの怒声が部屋に響き、沈黙が続く。

 

するとホシノが静かに口を開いた。

 

「……その時もね、お金がなかったんだ。なのに当時の学校は持ち物が多過ぎた。運営も維持も出来ないってのに。」

 

彼女の発言に皆は顔を上げる。

 

「ん、そういえばホシノ先輩ってその時……。」

 

「1年生……の、筈よね?当時の生徒会を知っているの?」

 

セリカの質問に対し、ホシノはあっけらかんと答えた。

 

「うん、副会長だったよ。まあ、生徒会と言ってもメンバーは会長を含めた2人だけどね。」

 

「じゃあ、その時の会長が土地を?」

 

「ううん、もうアビドスは土地の所有権を手放してた。いや、土地はまだあったんだけど……。」

 

言い淀むホシノの手伝うようにアヤネが補足をしてくれる。

 

「従来は土地の所有権は生徒会にあり、個人は使用権のみを取引していました。しかし当時の生徒会が、その制度を廃止し、個人による直接所有を認めています。」

 

「そうそう、ありがとね、アヤネちゃん。要するにさ、学校が一括で管理してた土地を、個人に切り分けて持たせたんだよ。」

 

「そっか……。」

 

セリカは勢いを失ったように、椅子へ腰を下ろす。

 

これ以上の文句はホシノへの嫌味と同義だからだ。

 

「それ以降もカイザーローンからの融資を受ける代わりに、担保として僅かに残った土地を差し出した。けど……返済できなかった。」

 

アヤネがページを捲る音だけが、静かな空間に響く。

 

「あからさまです。どう見ても返せる額ではありません。利子だって高過ぎます。」

 

「……最悪じゃない、これ。」

 

セリカが吐き捨てる。

 

ノノミは黙ったまま、ジッと資料に目を落としていた。

 

「つまり……最初から土地が狙われてたということですか?」

 

「はい、結果的にはそうなっています。」

 

アヤネは苦い表情で、首を縦に振った。

 

そこへ先生が付け加える。

 

「卑怯とはいえ、あくまでも合法的に、か。」

 

「……法律上は、完全に正当な取引です。」

 

その言葉が、逆に重くのしかかる。

 

無理やり力で奪われたわけではない。

 

だから今までのように、戦えばどうにかなるわけではない。

 

沈黙が続く中、その静寂をシロコが破る。

 

「……でも、まだ何か出来るはず。」

 

彼女は先生の方を向いた。

 

「先生、確かにゲヘナの風紀委員長は言ってたんだよね?アビドス砂漠の奥地でカイザーに動きがあったって。」

 

「ああ、陸上巡洋艦とか何とか……そんなものがあるのか?」

 

「ん、巨大な輸送艇みたいなもの。もし情報が本当なら、カイザーはアビドス砂漠の奥に何かを運んでいることになる。それも大量に。敵の狙いが分かれば、もしかしたら……。」

 

シロコの目は、まっすぐ前を見据えていた。

 

だが不意に、ホシノが言葉を遮る。

 

「ちょっと甘いと思うなー。」

 

いつもと同じ気だるげな声。

 

しかし今回はその中に僅かな硬さが混じっていた。

 

「カイザーがそんな隙を見せてくれるかねぇ?」

 

ホシノの問いに誰も答えない。

 

彼女は軽く息を吐く。

 

「相手はあのカイザーだよ?完全に合法な手段でアビドスから土地を巻き上げたやり手……きっと何があっても、全てグレーとして回避するに決まってる。」

 

「じゃあ……どうするって言うのよ!このまま黙って見ていろっての!?」

 

堪らずセリカが食ってかかる。

 

その時、ホシノの視線が、わずかに先生へ向いた。

 

しかしすぐに正面へ戻る。

 

「……方法がないわけじゃないよ。ただちょっと……面倒なだけ。」

 

「どういう意味だ?」

 

先生が問い直すが、ホシノは答えない。

 

彼女は誤魔化すように肩をすくめた。

 

「今は考えても仕方ないじゃん?今出来ることは、せいぜい情報集め。でしょ、先生?」

 

「アビドス砂漠の奥地……か。そうだな。」

 

「なら、早速準備をしないとね。簡単に行けるようなトコじゃないし。」

 

ホシノは話を切り上げると、足早に席を離れる。

 

他の面々もその場を後にする中、先生は席を立つと、シロコの傍を通りざまに彼女の耳元へ囁いた。

 

「……ホシノを見張ってくれ。何かある。」

 

「ん……分かった。」

 

2人は何事もなかったかのように、すぐに動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

ローターの爆音が響きわたる中、窓から眼下を覗き込む。

 

そこには赤茶けた地面が広がっていた。

 

線路に沿って人の住むオアシスや荒廃した街が交互に続き、奥へ進む度に砂の割合がどんどん増えていった。

 

線路も最初は何本もあったが、徐々に1本、また1本と横に逸れるか、砂に埋もれるかで消えていく。

 

遂には1本だけになり、それさえ終点で潰えてしまう。

 

アビドスの中でも住人が居る最後の区域。

 

その先は文字通り砂だけの世界だった。

 

砂に埋もれたビルも、背の低い草木も、ゴツゴツとした岩場すら見当たらない。

 

操縦席に座っていた先生は、眼前で勝手に動いている計器類と操縦桿に向かって話しかける。

 

「アロナ、ここから先は飛べるか?」

 

[可能ですが、気温と砂塵の問題がありますね。]

 

「分かった。今後は車で行く。適当な場所に降りてくれ。」

 

[分かりました!]

 

先生は隣に座るアヤネにその場を任せると、自身は格納庫へと足を運ぶ。

 

そこには砂漠用の装備に身を包んだホシノ達の姿があった。

 

首周りにスカーフを巻き、目元にはサングラスが光っている。

 

「着陸する。準備しろ。日焼け止めを忘れるなよ?」

 

「やばっ!そうだった!」

 

「ん、先生、ゲートルを巻いてほしい。」

 

「はいはい。」

 

シロコの足元に跪く先生。

 

ちなみに、セリカやノノミのゲートルはシロコが巻いている。

 

よってその光景に一瞬だけ空気が凍るが、今はそれどころではないと、全員が手持ちの装備を確認していく。

 

彼らの乗った輸送ヘリ、シャーレのロゴが施された白いMi-26は空き地に着陸すると、機体後部のハッチを開いた。

 

「全員、乗ったな!」

 

「ん!準備完了!」

 

「目指すは砂漠の奥ですね〜。」

 

「カイザーの野望を必ず暴いてやるんだから!」

 

先生はハンドルを握ると、アクセルを強く踏み込んだ。

 

ハッチから飛び出したのは砂漠仕様の軍用バギー。

 

キャビンには最低限の椅子と骨組みだけが付いており、ドアも屋根も無い。

 

車体上部にはM2重機関銃が据えられている。

 

「アヤネ、可能な限りでいい!誘導を頼んだ!」

 

[はい!]

 

先生達の乗ったバギーは砂漠をひた走る。

 

町が背後の地平線に消えると、景色全てが砂に変わった。

 

「シロコ、何か見えるか?」

 

「今のところは砂丘だけ。」

 

「分かった。引き続き警戒を頼む。」

 

「ん。」

 

それからもしばらくの間、景色は変わらなかった。

 

だがある時、開けた場所に出る。

 

適当な岩場に停まり、休憩をとっていると、ホシノがポツリと呟く。

 

「懐かしいな……またここに来るとはね。」

 

「こんな場所にか?」

 

「うん、生徒会の関連でね。昔は船を浮かべられるくらいに大きいオアシスがあったらしいよ。大きなお祭りもあったんだって。」

 

そう話すホシノの目は遠くを見ていた。

 

過去を懐かしむような彼女だったが、すぐにサングラスをかけ直す。

 

「まあ、私も見たことはないんだけど。それより、もう出発でいいんじゃない?日が落ちる前に、なるべく進んでおきたいし。」

 

「ああ、そうだな。」

 

先生たちは再び出発した。

 

砂だけの空間は続き、まるで動くものはこの世で自分達だけなのではないかと、そう錯覚させるほどに砂漠は広大で、虚無だった。

 

しかしある時、情景に変化が起こる。

 

夕焼けに照らされた赤い地平線に、何か黒いモヤが見えたのだ。

 

先生はバギーを停めると、双眼鏡を手に取る。

 

陽炎によってボヤけてはいるものの、それは横一列に連なっていた。

 

「アレは何だ……?」

 

「建造物に見えますね……ホシノ先輩、見たことがありますか?」

 

ノノミは双眼鏡を手渡しながらそう聞くが、ホシノは受け取るまでもなく断言する。

 

「……ない。あんなもの、絶対に無かった。この辺りは昔から砂漠で、建物なんて1棟も建てられていなかったはず。」

 

「つまり……んっ?」

 

次の瞬間、先生はまた別のものを視界に捉えた。

 

すると血相を変え、バギーを後退させて稜線に隠した。

 

「っ……せ、先生?」

 

「クロだ。ヒナが言っていたことは本当だったようだな。」

 

先生はバギーから降りると、砂丘の天辺からそっと顔を出す。

 

「居たぞ……正面10時の方向だ。」

 

「……あっ。」

 

先生が指をさした方向に双眼鏡を向けたシロコは、視界に入ってきたものを前に言葉を失う。

 

景色の一部が動いていた。

 

それが岩場を抜けると、はっきりとしたシルエットが浮かび上がる。

 

巨大な船体、その下を幾つもの履帯が支えている。

 

艦尾には荷物の積み下ろしを行うウェルドックを備えており、船体各所には大小の砲やミサイルコンテナが並んでいる。

 

「陸上巡洋艦……!」

 

「アヤネ、聞こえるか?今から写真を送る。そっちで解析してほしい。」

 

[何かあったんですか?]

 

「ああ、あった。それと、今後は無線を封鎖する。ここからは敵地のようだからな。」

 

[分かりました。どうかお気をつけて。]

 

「ああ、そっちもな。」

 

通信を切ると、先生達は陸上巡洋艦の後を追い始める。

 

見えてきたのは横一列に並んだ巨大な防壁だった。

 

壁面の一部には『カイザーPMC』の文字が。

 

陸上巡洋艦は開閉式の防壁から中に入っていく。

 

「おいおい……こりゃとんでもない施設だな。もはや基地というより都市じゃねえか。」

 

「カイザーはこんなものまで……。」

 

あまりにも立派な拠点を前に唖然とする先生たちだったが、ここでノノミはふと疑問を呟く。

 

「でもこんな僻地に拠点を作って、何と戦う気なのでしょう?アビドスはまず脅威にもなりませんし、戦力のあるゲヘナとトリニティは地区が隣り合っていません。」

 

「それをこれから暴くんだ。日没になったら侵入しよう。」

 

一行は防壁から少し離れた位置にバギーを停めると、侵入の準備を始めた。

 

バギーにIR迷彩ネットを被せ、自分達もサーマルポンチョを着る。

 

隠密行動に備えて暗視ゴーグルと銃のサイレンサーも忘れない。

 

太陽が地平線に沈むと、光源の無い砂漠は一気に暗くなり、反対に基地の光が煌々と照っていた。

 

「よし、準備はいいな。行くぞ。」

 

「ん。」

 

「いつでも。」

 

先生を先頭にゆっくりと防壁に近付いていく。

 

「あそこだ。上に監視カメラが無い。」

 

「ん、ワイヤーを出す。ちょっと待って。」

 

意外にも侵入は容易かった。

 

フック付きのワイヤーを引っ掛けて壁を登り、防壁の上に立つ。

 

「これはスゴいな……。」

 

「うへ……まさに都市だねぇ……。」

 

視界に映ったのは殺風景な外とは裏腹に、綺麗に整備された街並み。

 

官舎や司令センター、訓練所など、基地としての機能が揃っていた。

 

特に中央には巨大なドーム状の建物が鎮座しており、先程の陸上巡洋艦がそこに横付けしている。

 

建物や道路など、あちこちから光が発せられており、どれだけの人間が居るかは想像もつかない。

 

カメラで写真を撮っていると、シロコが口を開く。

 

「ん……聞いたことがある。誰かが退学者や不良を集めて訓練してるって。」

 

「バレないように兵士をこんな場所で育ててるってわけか……。」

 

防壁の内側に降りると、シロコの言う通り、道路で訓練生らしき兵士の一団が掛け声と共にランニングを行っていた。

 

人間だけではなく、ロボット兵もそこらを闊歩しており、いち企業が持つ戦力とは思えないほどに巨大で規律化されている。

 

「先生、ここからどうするのさ?」

 

「あのドームに行ってみよう。これだけじゃ、カイザーの狙いを裏付けるには弱い。」

 

それからも先生達は基地の中を進み続け、遂に中心のドームへと辿り着いた。

 

誰も居ないのを確認すると、裏口から中に入ろうとする。

 

その時、背後の建物から数機のドローンが音を立てて飛び上がった。

 

同時にけたたましい警報が鳴り始める。

 

赤色灯が光り、パトロール用のドローンも集まってくる。

 

「っ……何だ!?」

 

「やばっ……バレたのかも……!」

 

「ん、先生、早く隠れよう。」

 

一旦、ドームから離れて、建物の隙間に身を潜める。

 

だが敵のドローンは最初から場所が分かっていたかのように、あっさりと先生達を見つけると、サーチライトで照らしてきた。

 

「マズい……逃げろ!」

 

先生はVSSを構えると、ドローンに向かって指切りで発砲した。

 

抑えられた銃声が響き、ドローンが火を吹く。

 

「早く!防壁まで走れ!」

 

追手を迎撃しながら、どうにか防壁に辿り着く。

 

見張りの敵兵に見つかったが、シロコが瞬時に無力化した。

 

「よし、あとは降りて逃げるだけだな。」

 

「あっ、あれを見て!」

 

セリカが指をさす先では、道路を走る装甲車の列があった。

 

倉庫群から出たそれは、真っ直ぐに門へ向かっていく。

 

「マズい……早く行くぞ!」

 

砂漠に降りると、急いでバギーのところまで戻る。

 

しかしその時には敵の部隊も壁の外に出てきていた。

 

もちろん一目散にこちらへ奔走してくる。

 

「敵が来るぞ!ノノミは銃座に!」

 

「はい!」

 

先生は暗視ゴーグルを被り、車のライトを消す。

 

バギーが動き出すと、ちょうど隣の稜線を越えて敵車両が現れた。

 

相手も暗所が見えているのか、途端に発砲してくる。

 

跳弾の火花と砂の飛沫が発生する中、ノノミは負けじとリングマウントに載せられたM2重機関銃を敵車両へ向け、両手の親指を押し込んだ。

 

ドガガガ!!!と、耳をつんざく轟音と共に12.7mm大口径弾が撃ち出される。

 

たちまちSUVの1台がハチの巣になって炎上し、別の1台もキャビンを集中的に射抜かれて失速していく。

 

「やりました!」

 

「ノノミちゃん!後ろからも来てる!」

 

今度は装甲を備えた軍用車両が背後から現れた。

 

すかさずノノミは弾幕を浴びせるも、単なる防弾車とは違って、そう簡単にはやられてくれない。

 

お返しとばかりに、何倍もの弾丸が先生達へ迫ってくる。

 

「掴まってろ!」

 

先生はハンドルを切り、バギーを左右へ揺らしてどうにか弾を避けようとする。

 

バギーは非装甲であるため、場合によっては小銃弾1発のダメージが致命傷になるのだ。

 

「ん、また新手!」

 

「反対からも来たわよ!」

 

シロコ達もタイヤやドアなどを狙って発砲する。

 

僅かな月明かりを除いて真っ暗な空間に、エンジンの唸り声と銃の発砲音、眩いマズルフラッシュだけが発生し続けた。

 

「先生、包囲されそうだよ!」

 

「まだだ!アロナの地図だと、この丘の先は走りやすい平坦な地形が広がってる!」

 

先生はアクセルを踏み込み、勢いよく丘を飛び越えた。

 

タイヤが4つとも浮き上がり、尻に浮遊感を覚える。

 

だが直後、衝撃を感じると共に、カッッッ!!!っと、視界が白一色で埋め尽くされた。

 

「ぐあっっ!!?」

 

「わっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

僅かな光を増幅する暗視ゴーグルは強烈な光を浴びると白飛びを起こす。

 

先生は何も見えないながらも、ハンドルをしっかりと握り、全力でブレーキを踏み込む。

 

バギーはどうにか転倒することなく停車した。

 

「くそっ、何が……!」

 

暗視ゴーグルを外した先生はそのまま絶句した。

 

目の前にあったのはいくつもの投光器を備えた巨大な建物。

 

もちろんこんな大きな建造物があれば昼の間に気付かない筈がない。

 

目が眩しさに慣れてくると、その正体が分かった。

 

「陸上巡洋艦……いつの間に!?いや、もう1隻居たのか……!」

 

周囲は既に敵で固められていた。

 

それも単なる車ではなく、より戦闘に特化した戦車や歩兵戦闘車ばかりだ。

 

「ありゃりゃ……完全に包囲されてるね……。」

 

「ん……最初から誘導されていたのかも。」

 

「全員、抵抗の意思は見せるな。もう戦える相手じゃない。」

 

シロコ達が武器から手を離すのを見ると、先生もVSSとグロック19をバギーに置いて外に出る。

 

「すまないな。迷惑をかけるつもりじゃなかったんだが。」

 

その時、陸上巡洋艦の舷側に、兵士とはまた違う人影が現れる。

 

可動式のタラップが伸びると、相手は地面へと降りて来た。

 

屈強なロボット兵を背後に従えた、大柄な人物。

 

顔も含めて機械化された体躯を、仕立ての良いスーツが覆っている。

 

そしてその風貌を目にすると、先生は意外さを覚えた。

 

何故なら相手は明らかに『男』だったからだ。

 

それは目の前の人物も同じだったようで、少し驚いたような仕草をする。

 

「これは驚いた。特区の外で、私と同じ男性に会うとは思わなかったよ。どうやら噂は本当だったようだね。」

 

「俺を知っているのか?アンタと会った覚えは無いんだが。」

 

「知っているとも。特区の外に居る数少ない男……獰猛な肉食獣共と隣り合わせの生活を送っている命知らず、とな。」

 

「ほう……ならお互い様だ。ここは特区じゃない。」

 

「何を言っている?まさか私がそちらのように、無謀にもその身ひとつで外に出ていると?」

 

相手は手を背後へ掲げる。

 

そちらに鎮座するのは火砲を大量に積んだ動く要塞。

 

意図を理解すると、先生は呆れたように呟く。

 

「……まさかそれがアンタ専用なのか?」

 

「そうだ。私はこれでも『カイザーの理事』を務めているからな、男という点を除いても、狙われる立場にある。」

 

「っ……!?」

 

相手の言葉に先生やシロコ達は目を見開く。

 

「……そういうことか。」

 

先生は合点がいった。

 

敵基地への侵入の容易さ。

 

突然の警報。

 

鮮やかな包囲。

 

そして逃走先に都合良く現れた陸上巡洋艦と、敵の総大将。

 

最初から自分達は舞台の上だったのだ。

 

「で?いつから俺達をマークしていた?」

 

「君があの大きなヘリでアビドスに来た辺りだ。ブラックマーケットでのドンパチに銀行強盗……少し癪だが、先生、貴方は強い。だから警戒させてもらった。」

 

「そうかい……そりゃ光栄だよ。」

 

負けたと言わんばかりに両手を上げる先生。

 

それを見て、理事は満足げに頷いた。

 

「さ、話の続きは中でしよう。砂漠の夜は機械に応えるからな。車は格納庫に入れるといい。」

 

理事は踵を返し、再びタラップを登っていく。

 

すると周りの敵兵が動き出し、指示に従うよう銃口や砲口を向けてくる。

 

「行こうか。」

 

「ん……逃げる?」

 

「いいや、やめておこう。流石にミサイルと戦車砲は避けれん。」

 

大人しく敵兵に従って、艦の後部、開け放たれたウェルドックにバギーを進める。

 

背後でハッチが閉まると、振動と共に陸上巡洋艦が動き出す。

 

その巨大な艦影は砂漠の闇へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

通された場所は軍艦の中とは思えないくらいに整えられた部屋だった。

 

茶色を多用したモダンな内装に先生は思わず感嘆の息を吐く。

 

「ふーん……趣味が良い部屋だな。意外だった。」

 

「よく言われる。だが飾り付けるのは、自分だけでいい。」

 

どかりと理事は一人がけのソファーに腰掛け、隣の長いソファーへ手を伸ばす。

 

先生達もそれぞれ座ると、理事は話を切り出した。

 

「ここからは真面目な話と行こう……君たちアビドスが借金の貸主である我々に何の用かね?私有地への不法侵入、職員への攻撃、装備の破壊……単に数えただけでも3つの罪があるな。」

 

「生徒との楽しい校外学習だ。単なるドライブだよ。」

 

「重機関銃を載せたコンバット・ヴィークルでかね?荷台からはプラスチック爆弾や小型ドローンも見つかったのだが。」

 

「ここはキヴォトスだ。常に危険が伴う……ヘルメット団とか、便利屋とかな?」

 

「ふむ……。」

 

先生の言葉に理事は黙り込む。

 

「やはり、私には理解できない。どうして男であることを生かさず、わざわざ自らの身体を張るのか。せっかく優秀な人材が居るというのに、何故それらを利用しない?」

 

理事の視線が一瞬、ホシノに向く。

 

対して先生は眉をひそめた。

 

「俺自身、利用された散々な経験があるんでね。そういうのは好かん。それに駆け引きは上手くないし、現場が俺には合ってるのさ。」

 

「人は十人十色と言うが……まあいい、少し話が逸れたな。」

 

理事は後ろへ手を伸ばす。

 

すると背後で控えていた秘書のロボットがタブレット端末を手渡してきた。

 

「……ここはロボットだらけだな。アンタも含めて。」

 

「ロボットに性的興奮は無いからだ。あと、私はロボットじゃないぞ。サイボーグだ。」

 

理事は身を乗り出すと、目の前の机に端末を滑らせる。

 

そこに映っていたのは請求書だった。

 

SUVが3台と軽装甲車が1台、ライフルが8丁にアーマー類が10組など、先の戦闘で先生達が破壊したであろう物品が並んでいる。

 

総額は優に億を超えていた。

 

「損失を補填してくれるなら君達を解放しよう。なに、心配せんでもヴァルキューレに通報しない。これの運賃だってタダだ。」

 

「……太っ腹なこって。」

 

先生は苦笑いを浮かべる。

 

ここで今まで黙っていたセリカが声を上げた。

 

「ふ、ふざけないで!最初に攻撃してきたのはアンタ達でしょ!私たちは身を守っただけよ!」

 

「ほう?正当防衛と?勝手に私有地へ侵入し、我が善良なる職員を攻撃した上でかね?」

 

「っ……こ、こんな場所に軍事基地なんか作ってるアンタらに言われたくない!」

 

「はて?自分の土地に何を建てようが問題は無いと思うが?それにアビドスでの土地取引は全て合法だ。証拠だってある。君たちがよく行っていたラーメン屋、あそこだって正当な価格で買い付けた。手なんか出しちゃいない。札束で殴りはしたがね。」

 

理事の言い分にはぐうの音も出なかった。

 

セリカはただ悔しそうにグッと歯を食いしばる。

 

「それと、あそこは軍事基地じゃない。そんなものを作ったら他の勢力に警戒される。あくまでもあれは発掘現場と、それを防衛する拠点だ。あのドームを見ただろう?」

 

「中までは無理だったけどな。」

 

「そこからは企業秘密だ。まあ、特別に少しだけ教えるが、我々は宝を掘っているのだよ。」

 

得意げにそう語る理事だったが、そこへホシノとシロコが水をさす。

 

「良い歳した大人が穴掘り?暇だねぇ……。」

 

「でまかせにしても雑すぎる。これだけの戦力を揃える理由にはならない。」

 

2人の挑発するような言葉に理事はムッと押し黙る。

 

そして再び手を後ろに出すと、今度は秘書から衛星通信端末を受け取った。

 

「どうやら君たちはまだ自分の立場が分かっていないらしい。先生、飴を与えるのは否定しないが、たまには躾もすべきだな。でないと……飼い犬に手を噛まれることになるぞ?」

 

理事はそのまま回線を繋げると、軽く二、三言だけ話し、すぐに切った。

 

「さ、無線封鎖を解除して、もう1人のお仲間に状況を聞くといい。この辺りなら通常の電話も通じる筈だ。」

 

先生は自身の端末を取り出すと、アヤネへ電話をかける。

 

すると焦った様子の彼女が出た。

 

[せ、先生!大変です!]

 

「どうした?」

 

[今、カイザーローンから電話がかかってきて、信用が下がったからと利子を上げるって……!]

 

「それで支払い額は?」

 

「9130万です……毎月。」

 

「……分かった。今は切るぞ。」

 

先生が電話を切ると、理事は話を続ける。

 

「これで手打ちとするかね?」

 

「まだ何かあるのか。」

 

「あるとも。この提案を飲んでくれれば請求額も取り下げるし、利子だって元に戻す。」

 

「言ってみろ。」

 

理事はゆっくりと腕を動かし、指先を先生へ向ける。

 

どういうことだと困惑する先生やシロコ達だったが、唯一ホシノだけが顔を青くした。

 

「君だよ、先生。我々カイザーは君が欲しい。」

 





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