元傭兵先生、貞操逆転世界を行く   作:ゆうぐれ

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好きなヘリはMi-26です。ロシア系兵器って武骨でカッコいいよね。異論は認める。



第15話 選択の代価

理事の発言に先生たちは困惑していた。

 

そこへ理事は更に言葉を続ける。

 

「認めよう。貴方は強い。それも形だけの優等生ではなく、戦場という極限の環境で磨かれた刃だ。我々カイザーPMCはその経験が欲しい。新兵たちの教官になってはくれまいか。」

 

そう言い切ると、先生が反応する前にホシノが机を叩いた。

 

「待って。それは絶対ダメ。」

 

「確かホシノ君だったかな?あいにくと君には聞いてない。」

 

「飲めるわけないでしょ。そんな要求。」

 

ホシノの口調は落ち着いていても、その声色には威圧が多分に含まれていた。

 

彼女の主張に周りのシロコ達も同調する。

 

しかし理事は一瞥しただけで、すぐに視線を先生へ戻す。

 

「どうかね?待遇は保証する。給金も宿舎も装備品だって、全て一級品を取り揃えよう。部下も好みに合わせて選ぶといい。」

 

「……俺がシャーレを抜けて、そっちに入ればいいのか?」

 

「そうだ。お互いに利益があるだろう?そちらは請求書が白紙になって、我々は優秀な人材を手に入れる。なに、シャーレのことが気がかりなら、私が口利きを……。」

 

その時だった。

 

理事の言葉を遮るように、横合いから上下二連式の短い銃身が突き出される。

 

マットブラックの超小型拳銃、デリンジャーを構えたホシノの姿があった。

 

「おいおい……ちゃんとボディチェックが出来ていないじゃあないか……。」

 

「黙って。」

 

カチリとハンマーが起こされる。

 

だが銃口を向けられても理事は顔色ひとつ変えない。

 

「威勢は結構だが、その程度の拳銃では私の外殻は抜けんぞ?」

 

「アンタの目ん玉……センサーは非装甲でしょ。この距離なら1発で十分。」

 

「ふむ……。」

 

睨み合いが続き、緊迫した時が流れていく。

 

先生は諌めるように、ホシノの腕へ手を伸ばそうとしたが、彼女はそれを弾いた。

 

「先生、ごめんね。これだけは譲れないんだ。」

 

「しかしだな……。」

 

「借金くらいどうとでもなる。けど絶対に先生は渡さない。調整も保留も無し。分かった?」

 

ホシノの目はいつにもなく鋭いもので、あたかも他人が憑依したかのようだった。

 

記憶に新しい風紀委員長、ヒナを思わせるようなプロのそれ。

 

先生は大人しく腕を下ろす。

 

「……というわけだ。あいにくと提案は飲めそうにない。」

 

「そうか、実に残念だよ。」

 

理事は軽く手を上げる。

 

すると外からロボット兵の一団が入ってきた。

 

「お客様のお帰りだ。」

 

兵士の指示に従って先生たちは席を立つ。

 

「では先生、またの機会に。」

 

「ああ、いつかな。」

 

一言そう残し、先生はさっさと部屋を後にした。

 

広い部屋に理事だけが残されると、彼は微笑を浮かべながら小さく呟く。

 

「ふふ……心配せずとも、すぐに会えるさ……だが、今回は私の負けだったようだな。黒服。」

 

「ええ、こちらが予想した通りだったでしょう?」

 

個室の中から誰かが姿を現す。

 

糊のきいた黒いスーツに袖を通した、これまた『男』のような人物。

 

しかしその顔付きは人間でもサイボーグでも、あまつさえ動物でもない、完全に人ならざるものだった。

 

彼は理事の対面に腰を下ろす。

 

「しかしまあ……いやはや、こちらの提案をここまで手際良く実行するとは恐れ入りましたよ。」

 

「先生が潔い人物だったおかげでもある。まだまだウチの職員は練度が低い。だからこそ彼を雇うことは大きなメリットになる……だが、そっちの意図は理解できん。」

 

理事は顎を撫でながら首を傾げる。

 

「あのヘイロー(輪っか)持ち1人に何の価値があると言うんだ?確かに戦闘力は非常に高いようだが、それだけだ。彼らの借金を一部肩代わりする程に欲しい人材かね?」

 

「もちろんですとも。彼女は替えの効かない存在だ。」

 

「ふむ……まあ、我々としては学校の接収が早まるだけで、別に問題ではないのだが……君たち『ゲマトリア』の意図はつくづく理解出来ないな。」

 

「ええ、そうかもしれませんね。」

 

その時、ガコンと、少しの揺れが発生し、今までの振動が無くなる。

 

「停まったか。」

 

「では、私は失礼させてもらいます。きっとすぐに連絡が来るでしょうから。」

 

そう言って、黒服は颯爽と部屋を後にする。

 

理事は窓の傍に近付き、外を覗くと、離れていく1台のバギーが見えた。

 

そのヘッドライトが砂丘の向こう側に消えると、彼は通信端末を手に取る。

 

「二番艦に通達、揚陸隊の積み込みを開始させろ。各侵攻部隊も準備を終え次第、直ちに出立だ。作戦に変更は無い。」

 

理事は一度言葉を切り、深く息を吸った。

 

人工の胸郭がわずかに持ち上がる。

 

「目標はアビドス市街地一帯、ならびにアビドス東第三高等学校。繰り返す。目標はアビドス市街地一帯、ならびにアビドス東第三高等学校。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

学校に戻ってきた時、時計は既に0時を回っていた。

 

校庭に着陸したMi-26から降りるシロコ達。

 

彼女らの顔色は良いものではなかった。

 

あと半月もしないうちに、1億弱の利子を払わなければならない。

 

それができなければ、学校そのものが担保として差し押さえられてしまう。

 

そんな状況で、前向きな言葉を口にできる者はいなかった。

 

だが教室に戻ったとき、静寂を破って先生が口を開く。

 

「すまん……俺が迂闊な真似をしたばかりに。」

 

「……先生が謝ってどーすんのよ。」

 

「ん、これは想定外の事態だった。気に病む必要はない。」

 

「そーそー、仕方ないって。」

 

先生の発言に対して、誰もがそう擁護するが、依然として声色は落ち込んだままだった。

 

しかしホシノだけは、妙にいつも通りだった。

 

こんな状況でそれは、むしろ不自然ですらあった。

 

先生が懐疑の視線を向けると、彼女はふいと顔を逸らす。

 

「それよりさ、話の続きは後にして、今はもう帰ろ?夜更かしはお肌の天敵って言うし、まず眠くなってきちゃった。」

 

「……そうだな。」

 

ホシノの言う通り、一旦は帰宅することに。

 

「先生、今日はお疲れ様でした。」

 

「おう、ノノミもお疲れ。夜道は気を付けるんだぞ。」

 

「それは私の台詞ですよ。では、おやすみなさい。」

 

1人、また1人と教室から出ていき、最後には先生とホシノだけが残される。

 

「ホシノ、鍵を任せていいか?」

 

「うん、戸締まりはやっとくよ。」

 

「おやすみ、早く帰るんだぞ。」

 

「分かってる。あと少しだけだから……。」

 

先生の姿が廊下に消えると、ホシノは机に突っ伏した。

 

机の表面を指でなぞりながら、教室一帯を見渡す。

 

彼女の目は遠くを見ていた。

 

「色々あったなぁ……。」

 

ホシノの脳裏に蘇るのは、この教室での思い出。

 

新入生だった自分と先輩の彼女。

 

後から入ってきた可愛い後輩たち。

 

僅かだったとはいえ、先生との新鮮な日々。

 

目を瞑れば、暖かな思い出がすぐそこにあった。

 

しかし冷えた風が教室に吹き、現実に引き戻される。

 

月明かりだけの真っ暗な、誰もいない教室。

 

「もう……先生に任せてもいいよね。」

 

ホシノはギュッと胸を掴み、覚悟を決める。

 

そして席を立つと、自身の学生鞄を手に取り、蓋を開けた。

 

だが、彼女は困惑の表情を浮かべる。

 

「あれ?」

 

目的のものが見つからないことにホシノは焦る。

 

ガサガサと鞄を漁る彼女だったが、そこへひとつの影がさし込んだ。

 

「お探しのものはこれか?」

 

「……先生。」

 

顔を上げると、教室の入り口に立った先生の姿が。

 

彼の指は1枚の書類をつまんでいた。

 

大きく『退部届』と書かれたそれを。

 

ホシノは瞬時に表情を戻し、先生へ顔を向ける。

 

「ありゃ、もしかして落としちゃってた?拾ってくれてありがとね。」

 

「待て。」

 

ピタリとホシノは足を止める。

 

目の前の先生からは警戒の色が滲み出ていた。

 

「……流石に小細工は通用しないかぁ。」

 

「どういうことか説明してもらおう。」

 

「分かったよ。だからその銃はしまってほしいなぁ。」

 

ホシノが近くの机に座り、両手を見せると、先生も隣の机に腰掛けた。

 

暗闇から黒い銃身が浮かび上がり、それが卓上に置かれる。

 

「それ、私に使う気だったの?」

 

「変に逃げたらな。お前さんへの嫌疑は半分半分だからだ。」

 

「ふーん……じゃあ当ててみてよ。」

 

先生は苦虫を噛み潰したように、渋い顔を浮かべる。

 

こんなこと本意じゃないとばかりに。

 

「先に言っとくが、俺はお前さんのことを嫌ってるわけじゃない。そこだけは分かってくれ。」

 

「うへ、それは良かった。傷付かずに済みそうだよ。」

 

「ああ……。」

 

先生はゆっくりと話し始める。

 

「お前さん、カイザーに身売りを迫られたんだろ。で、問題はその目的が学校のためか、はたまた保身のためか……。」

 

「私ってそんな極悪非道に見える?」

 

「単なる推測だ。個人的にはそう思っちゃいない。まず後者ならご丁寧に退部届なんか書かないだろうに。」

 

「そっか……流石は先生だね。大正解だよ。」

 

「……やはり、連中は兵士としてスカウトしてきたのか?」

 

「うん、または先生をさし出せだってさ。その代わりに借金を半分にするって条件で。少し前から言われてた。」

 

ホシノはそう言い切ると、一旦黙り込んだ。

 

そして顔を上げ、先生の方を向く。

 

「ねえ、やっぱり方法はこれしかないよ。このままダラダラ借金を返したって……!」

 

「だから黙って身売りするのか?そんなことをしても、みんなが悲しむだけだ。それに方法が無いわけじゃない。俺のバックには連邦生徒会がいる。」

 

「でも、カイザーは法的には悪くないんでしょ?行政が味方についてくれないんじゃ……。」

 

ホシノの懸念に対して、先生はドンと胸を叩く。

 

「心配ない。そこで俺の出番だ。」

 

「何か策があるの?」

 

「ああ……少し癪だが、理事の言う通りだ。ここでは男というだけで役に立つ。だからそれを最大限活用する。」

 

先生の言葉にホシノは一瞬、理解が追いつかなかった。

 

だが一拍を置いて、彼女はガタリと席を蹴るように立ち上がる。

 

その表情には困惑と動揺が多分に含まれていた。

 

「な、何言ってんの?言ってる意味、分かってるよね?」

 

「ああ、分かってる。帰りに色々と調べた。幸いにも権力者は女が多いみたいだな。」

 

「分かってないよ!」

 

らしくもなくホシノは声を荒げる。

 

いつもの気だるげな調子は、もはやどこにもなかった。

 

「全然分かってない! 私が売られるのと、先生がそういう場所に出るのとでは話が違いすぎる!やることも、立場だって!」

 

「ホシノ……。」

 

「噂になっただけで終わりなんだよ? 先生個人の問題じゃ済まない! シャーレも、先生の立場も、全部汚される!」

 

興奮するホシノに対して、先生は落ち着いた声色で返す。

 

「俺は大人だ。心配は要らんよ。まあ、こんなおっさん、ウケが悪い可能性もあるんだが。」

 

「せ、先生は十分に魅力的……って、そういう問題じゃないでしょ?」

 

「使えるものを使うだけだ。それでホシノやみんなが助かるなら……。」

 

「嫌だよ!助かっても嬉しくない!」

 

教室に沈黙が落ちる。

 

先生はしばらく目を伏せ、それから静かに顔を上げた。

 

「なら、ホシノもやめてくれるか?」

 

「っ……。」

 

その一言は、ホシノの胸を深く抉った。

 

自分だけが勝手に消えるのはよくて、先生が危ない橋を渡るのは駄目なのか。

 

そう問われた気がした。

 

ホシノは少し黙り込んだあと、ゆっくり首を縦に振る。

 

「……ホントにしない?」

 

「ああ、しないよ。というか経験もないのに、そんな器用な真似ができるか。」

 

「うん……良かった。」

 

そう答えながらも、ホシノの目は少しも安堵していなかった。

 

彼女の視線が一瞬だけ机の下へ落ちる。

 

次の瞬間、彼女の指の間から小さな金属筒が滑り落ちた。

 

カチン、と安全レバーが跳ねる。

 

「……なっ!?」

 

先生は音だけで危機を察知すると、椅子ごと後ろへ倒れ込んだ。

 

両腕で頭を抱え込み、口を開ける。

 

直後、カッッッ!!っと、眩い光が教室を照らした。

 

キーンと耳鳴りがしながらも、先生は飛び起きる。

 

時間にして1秒と少し。

 

だがその時には背後に小さな影が迫っていた。

 

「ぐっ……!?」

 

「ごめんね、先生。嘘ついて。」

 

ホシノの細い腕が先生の両腕を背後から掴み、体重をかけて捻り上げる。

 

振り払おうとしても、その拘束は鉄枷のようにびくともしない。

 

「先生がそんな方法を考えたことさえあるなら、ますます巻き込むわけにはいかないかな。」

 

「ば、馬鹿なことを……!」

 

「先生は自分の価値を分かってない。女の私が差し出されるのと、男の先生が利用されるのとじゃ、値段も、その後に付く傷も、何もかも違う。」

 

ホシノの声が低く冷えたものに変わる。

 

いつもの飄々とした雰囲気は完全に霧散していた。

 

「今だって、私は本気すら出してないんだよ? そんな先生が、欲に塗れた連中の前で上手く立ち回れると思う?」

 

「さっきのはただの冗談だ……!」

 

「いや、先生だったらやるね。特にトリニティの……あの女とか。」

 

言葉に滲んだのは、嫉妬だけではない。

 

男である先生を囲い込み、値踏みし、利用しようとする者への嫌悪だった。

 

「早まるな……まずみんなにはどう説明する気だ。」

 

「傭兵稼業でも始めたって伝えといて。」

 

その時、窓の外から車のライトがさし込む。

 

エンジンの音が止まると、階下の方からひとつの足音が聞こえてきた。

 

ホシノは先生の手首に結束バンドを巻くと、後ろ手に拘束する。

 

「……迎えが来たみたい。」

 

「ま、待て!話は終わって……があっ!?」

 

次の瞬間、鋭い電撃が身体に駆け巡り、先生は床へ倒れ込んだ。

 

視界に映ったのは、スタンガンを持ったホシノ。

 

そして彼女とは別に、こちらへ近付いてくる人影。

 

黒いスーツを纏った『黒服』だった。

 

「だ、誰だ……お前!」

 

「はじめまして、先生。私は黒服とでも名乗っておきましょうか。」

 

「ホシノを……連れて行く気か……!」

 

「連れて行く、という表現は正しくありません。彼女は自ら選んだのですよ。」

 

「ふざけるな……!」

 

上手く動かない上半身をひねって、先生は黒服を睨みつける。

 

だがそこへホシノが間に入ってくると、ネクタイを外して目元に巻き付けてきた。

 

「おい、何を……!?」

 

「このままでも先生なら追ってきそうだからね。お別れって言った後に会って、気まずくなるのヤだし。じゃ、みんなのこと、よろしくね。短い間だったけど、楽しかったよ。」

 

「待て……行くな!」

 

視界が塞がれると、2つの足音が離れていく。

 

「ホシノ……くそっ……ホシノ!!」

 

痺れた身体で床を這い、どうにかネクタイをずり下げる。

 

そして廊下に出るも、既にホシノの姿は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

ホシノはハッと目を覚ます。

 

目の前には肩を揺さぶってくる黒服の姿が。

 

「……やっと着いたの?」

 

「ええ、先生が中々に諦めの悪い人でしてね。あの後も四方にヘリとドローンを飛ばして、我々を探していました。おかげでここまで時間がかかってしまいましたよ。」

 

「そう……。」

 

ホシノは車から降りる。

 

地平線には既に朝日が昇っていた。

 

その輝きの中から1機のヘリコプターが現れる。

 

「おや、迎えが来たようですね。」

 

「うん……。」

 

カイザーのロゴが施されたヘリに2人は乗り込む。

 

すぐに機体が上昇し、どこかへと向かい始めた。

 

何も無い砂漠を眺めながら、ホシノはヘッドセットのマイクに呟く。

 

「ねえ、言われた通り私の権利を委譲したけど、本当に借金の半分を負担してくれるんだよね?」

 

「もちろんです。我々は嘘をつきません。この場で小切手を切っても構いませんよ?」

 

黒服は傍らのバッグから小切手の束とペンを取り出す。

 

しかしホシノは一瞥すらしない。

 

「いいよ。カイザーに直接払っといて。」

 

「承知しました。では……。」

 

今度はタブレットを取って、黒服は手を動かし始める。

 

すると効き慣れた電子決済の音が鳴った。

 

「ご確認を。今しがた、そちらのカイザーローンに負債の半数を返済いたしました。」

 

黒服の差し出した端末の画面には、確かにアビドスの借金が半分無くなったことが示されていた。

 

ホシノはそれを横目で眺めると、興味を無くしたように窓の外へ視線を戻す。

 

「それで?私は何をすればいいの?どっかの企業にでも殴り込みをかける?」

 

「まさか。貴女にはまた別のことをやってもらいます。詳しくは到着してからお話ししますよ。」

 

「分かった……ん?」

 

その時、ふとホシノの視界に気になるものが映った。

 

地平線に見えたのはまだ人の住んでいるアビドスの街。

 

そこに黒い噴煙が立ち昇ったのだ。

 

直後、ドン!!と、鼓膜を叩くような轟音が響いてくる。

 

「な、何が……双眼鏡は!?」

 

「はい、どうぞ。」

 

ホシノは双眼鏡をひったくると、爆煙の周囲を覗く。

 

そして見えてきた光景に言葉を失った。

 

「え……えっ?」

 

目を擦り、もう一度双眼鏡を覗き込む。

 

街の中に見えたのは逃げ惑うアビドスの住人と、それを追い立てる兵士と戦車だった。

 

その更に後ろには巨大な陸上巡洋艦が次々と家屋を踏み潰している。

 

船体に描かれていたのは『カイザーPMC』のロゴ。

 

ホシノの目に動揺と焦りが浮かぶ。

 

「なんでっ……どうしてアビドスを攻撃してるの!?」

 

「何故と問われましても、我々には分かりかねます。」

 

「ふざけないで!」

 

ガチリと、ホシノは拳銃を黒服へ向けた。

 

だが黒服は諭すように言葉を続ける。

 

「ホシノさん、あくまでも我々はゲマトリア。カイザーとはなんら関係ありません。我々は貴女を引き入れ、代わりにカイザーの借金を肩代わりした、それだけの話です。」

 

黒服の主張にホシノは何も言い返せなかった。

 

行き場のない焦りと怒りに拳を震わせていると、黒服が付け加えてくる。

 

「そうですね……強いて言うなら、ホシノさん、貴女がアビドスを辞めたからカイザーは攻撃してきたのではないのでしょうか。」

 

「……どういうこと?」

 

「貴女はアビドス生徒会の最後のメンバーだ。そして、貴女が学校を辞めれば残ったのは『非正規』の委員会ひとつだけ……つまり法的に学校の正当性が無くなります。」

 

「……っ!?」

 

「学校が無くなれば、その地区の管理者は、土地の所有者に切り替わります。カイザーはそこを狙って侵攻してきたのでしょう。」

 

「そっ……か……。」

 

手から力が抜け、気付けば銃を取り落としていた。

 

アビドスを守るために選んだはずの道が、結果としてアビドスの息の根を止めた。

 

その事実が首を締め上げるように、心を絶望で埋め尽くしていく。

 

「う、うそ……でしょ……。」

 

ホシノは自らの顔を手で覆う。

 

その指の隙間からは雫が溢れてきていた。

 

「私は……私が……!」

 

自分が守るはずだったアビドスに、最後の一撃を与えた。

 

その事実だけが、鉛のようにホシノの胸へ沈んでいった。





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