元傭兵先生、貞操逆転世界を行く   作:ゆうぐれ

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この世界の男女関係で逆転しているものは貞操だけではなく、膂力と身体つきもそれに該当します。

よって生徒達も原作より身体機能はもちろん、身長もアップグレードされており、今は先生が高くても将来は抜かれる確率が非常に高いです。

ちなみに力の面においては既にボロ負けです。真っ向からの力比べでは万一にも勝ち目はありません。




第4話 強襲・囚われのセリカを救出せよ!

次の日の朝、セリカはモヤモヤとした気分を抱えながら住宅街の中を歩いていた。

 

何を考えているかは言わずもがな。

 

前触れも無く現れた先生という1人の男性についてだ。

 

昨日、セリカはあろうことか、彼に対して反発してしまった。

 

大人の協力をようやく得られるというのに、今まで助け無しに自分達だけでやりくりしてきたという小さなプライドから。

 

先生は全くの無関係で彼への非難は完全な八つ当たりだというのに、今まで助けてくれなかった大人達と同じだという理由から。

 

彼女自身の素直じゃない性格も相まって。

 

「はぁ……。」

 

セリカは思わず重い溜め息を吐いてしまう。

 

嫌われていないだろうか、次会った時はどうすべきだろうか、協力をやめてしまったのではないか。

 

そんなネガティブな妄想ばかりが頭の中を占めていく。

 

だから背後から近付いてくる車両に気付かなかった。

 

直後、けたたましいクラクションの音が響き、彼女はビクリと肩を跳ねさせる。

 

後ろを向けば白い車体に幌が付けられたトラックが目に入ってきた。

 

そのフロントガラス越しに見える、昨日ぶりの先生の顔も。

 

「ちょ、ちょっと!びっくりしたじゃない!」

 

「すまんすまん、そっちも学校か?」

 

「アンタには……か、関係ない!気安く話しかけないで!」

 

そう言うとセリカはバツが悪そうにそっぽを向き、スタスタと先へ歩いて行こうとする。

 

対して先生はトラックを道路の傍に停車させ、運転席から降りてきた。

 

「学校に行くなら送るが?」

 

「うっさい。今日は自由登校日だから行かないわよ。」

 

「じゃあどこに行くんだ?」

 

「だからアンタにはっ……!?」

 

再び先生の方を見上げようとするセリカだったが、そこへ何かの束が挟まれたファイルがポイと投げ込まれる。

 

怪訝な表情を浮かべる彼女に対し、先生は短く告げた。

 

「えっとな……3人だ。」

 

「は?」

 

「昨日のうちにバイト中のお前さんをつけていた連中の数だ。完全にマークされてる。」

 

「な、何を……。」

 

セリカがファイルを開くと、そこにあったのは大通りでティッシュ配りをする彼女とその周りを空から撮った写真だった。

 

どうやら暗視装置越しに撮影されたもののようで、周辺を往来する沢山の人影を収めている。

 

問題は赤ペンで丸印が付けられた一部の人間が、時間ごとに分けられたどの写真においても不自然に動いていなかったことだ。

 

まるで何かを監視しているように。

 

「これって、航空写真?どうして?」

 

怪訝な顔のセリカに対し、先生は申し訳なさそうに頭を掻く。

 

「その……別に疑っていたわけじゃないんだ。だがコイツは俺を守ることが義務だと言ってな。」

 

先生は手首の端末(A.R.O.N.A)を指さす。

 

「俺と接触した人物……特に女性は最低72時間の監視対象に入る。女の接触者が男を直におそうってこともあるが、大半が誘拐の足がかりに利用される。だから保護の観点もあって……。」

 

「私を監視していたと?」

 

「そういうわけだ。で、偶然おまえさんをマークする敵を見つけた。すまない、気色悪いことをして。」

 

先生は深々と頭を下げた。

 

「なっ……やめてよそんなこと!」

 

「俺もやめさせようとしたんだが、責任がどうたらと押し切られてしまって……分かっている。俺がその監視データを個人的に見ることは無いし、一定期間で処分される。だから……。」

 

「ちーがーう!顔を上げろっつってんの!」

 

セリカは先生の顔を掴もうとして、直前にその手を肩に添え直すと、彼の背を伸ばさせる。

 

一方、先生はきょとんとしていた。

 

「……怒っていないのか?」

 

「怒ってはいないわよ。キモいとは思ったけど、男が外に出る以上、こうでもしなきゃ速攻で攫われるでしょ。むしろ安心したくらいだわ。」

 

先生はホッとしたように安堵の息を吐く。

 

「そうか……。」

 

「男が保護特区の外を歩いてるなんてどんな命知らずかと思ってたけど、セキュリティがしっかりしてるなら大丈夫ね。」

 

「俺は訳あって根無し草でな……連邦生徒会に拾われて、先生をやる代わりに保護を受けてる。言わば特例中の特例らしい。」

 

「ふーん……そっちも事情があるのね。」

 

「ああ、それで何度も言うようにデータの保全と処分は約束する。」

 

「監視のことなら別に問題ないわよ。理由ありきなんだし。」

 

「すまない。ありがとう……じゃあ、話を戻そうか。」

 

「そっちも心配ないわ。今までも連中は何度も撃退してきたし……ってぇ!?」

 

くるりと踵を返すセリカだったが、行手を塞ぐようにずいと先生が目の前に割り込んでくる。

 

その距離感と、漂ってくる匂いに彼女は顔を真っ赤にした。

 

「セリカ、俺はお前さんの安全の為に言っている。だからどこに行くか詳しく教えてほしい。」

 

「……こんな生徒でも気にかけてくれるのね。」

 

「先生というのはそういうものだろう?」

 

異性からの真剣な眼差しを受けて、セリカは恥ずかしさから思わず視線を逸らした。

 

「ホント、男としてもレアね……ま、いいわ。それなら教えてあげる。皆んなに迷惑かけるのも嫌だし。」

 

「助かる。」

 

セリカは端末の地図アプリで今日のバイト先であるラーメン店、『柴関ラーメン』を選択すると、それを先生に見せた。

 

「夜までか?」

 

「ううん、今日は昼過ぎまで。終わったら別のバイト。」

 

「大変だな……なあ、やっぱり今日くらいは休まないか?その補填なら俺が出す。」

 

「余計なお世話よ。借金返済のために1日だって休んじゃいられないわ。」

 

「そうかい。頑張れよ。」

 

「っ……ええ。」

 

セリカは口元の緩みを抑えつつ、先生に背中を向ける。

 

その足取りはいつもより遥かに軽そうに見えた。

 

「……アロナ、いいか?」

 

[はい!]

 

「セリカに目をかけておいてくれ。」

 

[分かりました。対象、接触者番号AS122『黒見セリカ』の監視レベルを上げます……UAVの離陸を確認、到着まであと18分です。]

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

あれから1時間ほど。

 

学校についた先生はホシノ達と一緒にトラックから物資の積み下ろしを行っていた。

 

最後のダンボールを備蓄用の教室に運び込むと先生は額の汗を拭う。

 

「ふぅ……これで終わりかな?」

 

「うへ、先生ありがと〜。これでしばらくは出費ゼロで回して行けるよ。」

 

「お安い御用だ。それより例の借金の話に……。」

 

その時、室内にアラート音が響いた。

 

「何の音だ?」

 

「ん、先生のが鳴ってる。」

 

シロコが指差す先、先生の手首に付けられた端末がバイブレーションと共に赤い光を発していた。

 

こんな風になったのは初めてのことだったが、取り敢えず先生は呼びかけてみることに。

 

「アロナ、アロナか?何があった。」

 

[先生!大変です!]

 

画面に映ったのは切羽詰まった様子のアロナ。

 

次に彼女が発した言葉に先生達は驚愕の表情を浮かべた。

 

「……それは本当か?」

 

「セリカちゃんが!?」

 

[はい!ラーメン店に向かう途中の路地でいきなりバンに誘拐されちゃいました!]

 

先生が携帯端末を取り出すと、アロナがUAVからの動画を表示してくれる。

 

そこには道を歩くセリカをヘルメット団らしき集団が、彼女を無理矢理車に連れ込む様子が映し出されていた。

 

映像を見てホシノ達の雰囲気がぴりりと張り詰めたものになる。

 

「……先生、セリカちゃんの位置は分かる?」

 

「街からは反対の方向に向かってる。おそらく敵のアジトだな。」

 

「ふふ、これはおしおきの時間ですね〜♪」

 

「ん、潰す。」

 

「私、ドローンを取ってきます。」

 

目の色を変えた彼女達はいつもの教室に入るとそれぞれの銃器を手に取り、チェストリグを始めとした装備も身につけ始める。

 

しかしここで先生が待ったをかけた。

 

「先生、どうかした?早く行きたいんだけど。」

 

ホシノの言葉には棘が多分に含まれていた。

 

だが先生は臆さず口を開く。

 

「分かっている。その前にこれを着るんだ。」

 

ドンと机に置いたのは物資の中にあったプレートキャリア。

 

対してホシノ達は嫌そうな顔を浮かべた。

 

「えー、重いじゃん。まず私たちは弾に当たっても平気だし……。」

 

「当たらなければどうということはないと?」

 

「ダメ?」

 

「ダメだ。怪我はしなくともバイタルパートに当たれば気絶するだろう?これから敵の本拠地にカチコミに行くんだ。一々ぶっ倒れた奴を担いでいけるほど余裕は無い。あと……。」

 

ここで先生の双眸がいつにもなく真剣なものになった。

 

「戦場では万が一のことが平然と頻発してくる。怪我をしない為にも装備は万全にしていけ。」

 

「……分かった。先生が言うなら着るよ。」

 

「良い子だ。皆んなの分も持ってきてあるから必ず着るんだぞ。」

 

数分後、そこにはいつもより4割増しほどタクティカル仕様のアビドスメンバーの姿があった。

 

そこへ同じくアーマーリグを装備した先生が入ってくる。

 

手にはサイドマウントのスコープが装着されたVSSが。

 

その姿を前に、ホシノ達は目を見開く。

 

「ちょっと待って。先生も行く気なの?」

 

「当たり前だ。待ってるわけにもいかんだろ。大丈夫、戦闘の経験は豊富にある。足は引っ張らない。」

 

「そういうことじゃないよ。」

 

ホシノは困惑した様子ながらも、先生の行く手を阻む。

 

「救出は私達に任せてってば。」

 

「俺が男だからか?」

 

「それもあるけど……まず先生は私達と違って、ただの人間じゃん。ヘイローが無いと弾丸1発でも致命傷になりうるんでしょ?もしものことがあったらマズいよ。」

 

「大人が子供だけを戦わせるのは性に合わんのさ。それに俺が行くことで『上の目』がこっちを見てくれる。もしもの時の為だ。分かってくれ。」

 

「……上は見てくれても、間に合わなかったら意味ないよ。」

 

「少なくともセリカは助けられる。」

 

先生は心配そうな視線を向けてくるホシノの肩を軽く叩く。

 

「それより早く行くぞ。セリカが心配だ。」

 

「……うん。」

 

一行は必要な装備をトラックに積み込むと学校を後にした。

 

セリカの囚われている場所は非常に分かりやすかった。

 

学校からしばらく離れた位置にある巨大な廃墟群。

 

他の自治区に隣接した居住地域より数十キロ離れており、主に倉庫や工場が立ち並んだエリアだ。

 

ヘルメット団はその広いスペースと、放棄された工作機械を利用してアジトを作ったらしい。

 

「ほう……あれが敵のアジトか……。」

 

「元は倉庫だったみたいですね。セリカちゃんが入っていったのは奥のグレーの建物です。」

 

「ん、敵の見張りが沢山見える。中にはもっと居るかも。」

 

見晴らしの良い雑居ビルの屋上、先生は双眼鏡を覗きながら唸る。

 

どう攻め込んだものかと考えていると、そこへシロコが自信有り気に提案してきた。

 

「先生、良いものを持ってきた。これを使えば敵を攪乱出来る。」

 

「良いもの?」

 

「ん、あれ。」

 

「うへ〜、重いよ〜。」

 

「よいしょ……っと!」

 

ちょうどホシノとノノミが階下から何か大きなものを持ってくると、目の前にドカリと置いた。

 

片方が下から太いパイプが突き出したプロパンタンクらしきもの。

 

もう片方がフリスビーサイズの円盤が沢山入った袋と頑丈そうなロープの束だった。

 

「これは……対戦車地雷か?」

 

「ええ、以前ヘルメット団と交戦した時に鹵獲したものです。」

 

「で、こっちのタンクとワイヤーは……。」

 

「ん!私が頑張って工作した!」

 

フンス!とシロコは胸を張るが、あいにくとそれが何か分からない為、どう対応すべきなのか分からない。

 

こちらの反応がイマイチなことに肩を落とすシロコだったが、すぐに立ち直ると同じ袋に入っていた廃材と工具を掴み、ホシノ達と一緒に何かを組み立て始めた。

 

取り敢えず作業の様子を眺めてみる。

 

数分後、今度こそどうだ!と言わんばかりにアピールしてくるシロコの隣には斜めに固定されたレールとその上に乗せられたプロパンタンクがあった。

 

更にはワイヤーがタンクに繋がれており、それにアヤネとノノミがせっせと地雷をくくり付けている。

 

その形から先生は前世において似たようなものがあったことを思い出した。

 

まだはぐれPMCになる前の、企業(USEC)から見捨てられる前の正規の作戦において友軍の機甲部隊が市街地に潜伏する現地勢力(SCAV)を掃討する為に用いていたそれ。

 

「……もしかして爆導索を作ったのか?タンクはロケットの代わり?」

 

「ん!正解!」

 

「対ヘルメット団用の切り札でね、シロコちゃんが一から作ったんだよ。」

 

「そうなのか。スゴいじゃないか。」

 

「ん!」

 

目の前ではシロコが何かを求めるような、キラキラとした期待の眼差しでこちらを見上げてきていた。

 

頭上では今まで立っていた犬耳がへたりと寝ている。

 

それを前に、以前に部隊で飼っていた捨て犬のことを思い出した。

 

試しに手を伸ばしてみると、腕を上げた途端に手の平へ銀色の髪が押し付けられる。

 

「兵器を自作出来るなんてシロコは偉いな。」

 

「ん……。」

 

そのまま軽く撫でればシロコは気持ちよさそうに目を細めた。

 

すると周囲の空気が先程とは違った風に張り詰めていく。

 

「んっ……んん”っ!!先生、いいかな?」

 

「ああ、どうした?」

 

「準備出来たし早く行こ?セリカちゃんも待ってるしさ。」

 

「そうだった。アヤネ、これは任せた!」

 

「は、はいっ!」

 

現場に残ったアヤネを除いて先生達はビルを後にすると、セリカの居る建物から最も近い道路へと走った。

 

全員が定位置に着くと、上空でホバリングしているアヤネのドローンに向かってゴーサインを出す。

 

直後、バシュッッ!!と何かが爆発するような音が響き、青い空に円筒形の物体と、等間隔に円盤がぶら下がった紐が飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

同時刻、セリカの姿は独房の中にあった。

 

「出せ!出せって言ってんのよ!だーせー!」

 

彼女はガンガンと鉄扉を何度も蹴り付ける。

 

すると塞がれていた小窓が開き、敵の1人が覗き込んできた。

 

ニンジンのシガレットを咥えており、懐には赤いヘルメットが。

 

おそらくは幹部クラスだろうか。

 

「うっせーな!いい加減大人しくしろ!」

 

「アンタ達、何のつもり!?私を誘拐しても身代金なんてビタ一文も出ないわよ!攫う相手を間違えたわね!」

 

セリカはそう煽り散らかすが、相手はただ面倒そうな様子で返してくる。

 

「ハッ、そんなこと分かってんだよ。おめぇんとこが貧乏ってことくらい、バカでも理解出来るわ。」

 

「じゃあ何だってのよ。」

 

「そりゃあ……まあ、なぁ……。」

 

敵は何も言わなかったが、ニタリと下卑た笑みを浮かべた。

 

欲望にまみれたその表情を前にセリカは悪寒を覚える。

 

思い起こされたのは朝に聞いた言葉。

 

接触者は誘拐の『足がかり』にされるというもの。

 

「まさかとは思うけど私を人質に先生を……?」

 

「そうだよ。あんな良いカモ、見逃すわけにゃあ行かねえよな。」

 

「人身売買は一発で更正局行きよ!リスクが高すぎてブラックマーケットでさえも、それには手を出してないわ!分かってんの!?」

 

「ああ、だから売らない。ただIDと認証番号だけを売る。それならまだ需要も市場もあるからな。何たって男ってだけで出来ることが大きく変わる。それに特区への抜け道も作れる……それでまた他の男を攫えるだろう?」

 

「なら情報を取ったら解放してくれるの?」

 

「認証番号には更新期限があるからな。それが過ぎたら解放するよ。意図的な拷問もしない。生体チップに異変を知らされたら困るんでね。」

 

敵の言葉にセリカは意図せず安堵の表情を漏らす。

 

しかしそれを嘲笑うかのように、相手は挑発を続けてきた。

 

「まあ……あたしらの()()()()はしてもらうかもな。なあ、お前ら!」

 

ドッと、敵の構成員の笑い声が沸き起こる。

 

「ふっ、ふざけんなっ!」

 

セリカは、怒りに任せて鉄扉を蹴り飛ばした。

 

「いやぁ、お前らにぶちのめされた時はどうなるかと思ったけど、人生良いことあるもんだぜ。」

 

「あっ!待ちなさいよ!待て!」

 

ガシャンと小窓が閉められ、足音が離れていく。

 

反応がすっかり無くなると、セリカは力なくベッドに倒れ込んだ。

 

そしてマットレスに拳を叩き付ける。

 

「どうしてこんなことに……!」

 

セリカは後悔と自責の念に駆られていた。

 

おそらく、仲間は自分を見捨てる選択はしない。

 

もしかすると先生も。

 

つまり危ない橋を渡ることになるのは確かだ。

 

人質交換に先生が応じれば、彼は尊厳も何もかも奪われる。

 

誇張抜きでだ。

 

「ああもう……私の馬鹿……!」

 

手を差し伸べてくれるかもしれなかった大人を危険に晒し、同時に借金返済のチャンスまで逃してしまう。

 

そんなことがセリカの脳内をグルグルと回り続けた。

 

何も出来ない悔しさが涙を込み上げさせてくる。

 

「泣いて……どうするのよ……。」

 

だがその時、組んだ腕の隙間から頭上の鉄格子が、棒の隙間の向こう側がふと目に入ってきた。

 

真っ青な空と白い雲。

 

それらを背景に何かが右から左へと飛んでいったのだ。

 

「何……?きゃっ!?」

 

その何かが視界から消えて数秒後、ドッッガッッ!!っと、激しい爆音がセリカを襲った。

 

同時に地震のような揺れが発生し、腐食した天井からコンクリート片が降り注いでくる。

 

反射的にセリカはベッドの下へと潜り込んだ。

 

「な、何なの……!?」

 

訳が分からず、頭を抱え込んでいると、今度は敵の怒声と沢山の銃声が響いてきた。

 

パスッ、ドンッ!と、ピストルやライフルとは違うそれが。

 

銃声は敵の悲鳴と共にどんどん近付いてくる。

 

「も、もしかして……!」

 

セリカが淡い希望を持った時、ドアのすぐ向こう側でいくつかの銃声が響く。

 

足音が部屋の前で止まり、ガチャリと扉が開けられた。

 

次に現れた人物を前にセリカは再び、今回は我慢することなく目元いっぱいに涙を溜めながらベッドの下より這い出た。

 

「先生っ!!」

 

「おうふっ……!」

 

そのまま眼前の胸へ飛び付き、顔を擦り付ける。

 

感じられるのはトラウマプレートの硬さのみだったが、今の状況もあって非常に安心感を覚えた。

 

後から後頭部に温かい手と腕が回される。

 

「せんせぇ……ごめんなさい……私のせいで……!」

 

「大丈夫だ。それより早く出よう。」

 

その時、先生の背後からホシノが顔を出してくる。

 

「先生!敵が集まってきてる……って、セリカちゃーん?」

 

「げっ……。」

 

「男との合意無い接触は即時ヴァルキューレ案件だよ〜?」

 

ホシノの笑ってない目と視線が交錯し、セリカはまさしく猫のように後ろへ飛びずさった。

 

遅まきながら異性に抱き付くという偉業を達成したことに気付き、名残惜しさを感じたが、今はそれどころではない。

 

彼女はぐしぐしと涙を拭うと近くで倒れていた敵のライフル、SG552を手に取った。

 

「準備は良いか?」

 

「もちろん!」

 

「ならばよろしい。援護してくれ。」

 

先行するホシノに続いて先生とセリカも建物の外を目指す。

 

出口では敵と撃ち合っている他の仲間達の姿があった。

 

「あら、無事みたいですね。」

 

「ん、良かった。」

 

1日ぶりとはいえ彼女達の顔を見て、セリカは込み上がってくるものがあったが、どうにかそれを抑える。

 

「あの……先輩!ありがとう……ございます!」

 

「うへ、それは脱出してからね。あとそれを言う相手は私達じゃなくてあっちだと思うな。」

 

ホシノは先生へ視線を向けたが、彼は首を横に振る。

 

「いや、元々は俺が原因だからな。それに突入の美味しいところも皆んなに持ってかれた。」

 

「ん、先生、アヤネが準備出来たって。」

 

「私も大丈夫です。」

 

「よし、やってくれ!」

 

シロコが端末を操作すると彼女のドローンが上空に飛来し、ハードポイントに装備したハイドラロケット弾を一斉に発射した。

 

爆導索の時よりかは小規模ではあるものの、発生した爆発は敵が隠れていた遮蔽を丸ごと吹き飛ばし、粉塵を撒き散らした。

 

「行くぞ!」

 

先生達は爆煙に紛れて走り出し、敷地外の道路を目指す。

 

だが本拠点をぐちゃぐちゃにされたヘルメット団は怒り心頭なようで、簡単に逃がしてくれる筈もない。

 

敷地のあちこちからワラワラと出てくると、こちらを追いかけてきた。

 

流石に撃ち合えないほどの数の差が開いており、これはたまらんと先生達は近くの建物の影に滑り込んだ。

 

「ノノミ、頼めるか?」

 

「はい!」

 

ノノミは両手で持ったM134、通称ミニガンを構える。

 

今までは弾薬の欠乏によって使えなかったそれだが、先生からの潤沢な補給を受けた今は長々とした給弾ベルトが機関部から伸びており、彼女が背負った大きなケースに繋がっていた。

 

総重量は優に100kgを超えるため、本来なら個人携帯火器ではなく、拠点や乗り物など定点に置いて利用する銃ではあるが、ノノミは重さを感じさせないような足取りで遮蔽から出ていく。

 

「あっ!」

 

「な、何だぁ?」

 

ヘルメット団の構成員たちはいきなりノコノコと姿を見せたノノミに困惑の表情を浮かべた。

 

取り敢えずライフルの銃口を彼女へと向けようとするが、同時に自分達へ向けられている武器が何なのかを理解すると凍りついたように固まる。

 

「や、やばっ……!」

 

「退避!全員たい……!」

 

ノノミは引き金にかけた指を絞った。

 

設定した発射レートは最大の毎分6000発。

 

射線に入る物体全ての穴あきチーズへの加工が始まった。

 

「おしおきの時間ですよ〜♪」

 

ブアァァァ!!!ともはや銃声とは思えないような破裂音が続き、発射レートが速すぎて火を吹いているように見える銃口から大量の弾丸が撃ち出されていく。

 

同時に廃莢口から同じ分だけ空薬莢と弾帯が吐き出され、ノノミの足元に溜まっていく。

 

コンテナや車がまるで魔法のように瞬時に弾け飛び、敵に当たろうものなら最初にヘイローが消え、次に銃とヘルメットが粉々になり、服もズタズタになって地面へ倒れ伏す。

 

あれが通常の人間なら穴あきチーズどころか、血煙と化していただろう。

 

「ターミネーターかよ……。」

 

「ん、それは私も思った。」

 

「ノノミちゃんは私たちの中で一番力持ちだからねぇ。」

 

「……バリスティックシールドとショットガンを両手持ちしてるホシノも大概だけどな。」

 

「そお?」

 

援護の為に物陰で待機していた先生達だったが、ノノミの頼もし過ぎる姿と、ミニガンによる圧倒的な制圧力を前にただ唖然としていた。

 

30秒ほど扇状に弾幕を展開したところで、ようやく弾を撃ち切ったのか、またはあれだけの弾をもう撃ち切ってしまったのか、バレルが回転を止める。

 

3000発を一度に撃ったおかげで、6本の銃身は熱で赤くなっていた。

 

「ふぅ〜、これで終わりですね!」

 

「うわぁ……ストレス解消になったか?」

 

「はい!セリカちゃんを誘拐したツケは払えたと思います!」

 

先生が外に出ると、硝煙の匂いと焦げ臭さが鼻をつく。

 

そこに動く者は満足そうな笑みを浮かべているノノミを除いて存在しなかった。

 

末恐ろしさを感じながらも歩いてその場を後にする。

 

それからは碌な妨害も受けず、アヤネの待機するトラックに無事到着した。

 

「全員乗ったな?」

 

「はーい。」

 

「いいよー。」

 

先生がハンドルを握り、助手席にはセリカが収まる。

 

そうして学校への帰路についてからしばらくして。

 

一連の戦闘の疲れからか、荷台ではホシノを筆頭に各々が瞼を閉じ始めていた。

 

すっかり静かになった車内でセリカはポツリと呟く。

 

「その……今日はありがと……先生。」

 

「良いってことよ。敵には何もされてないよな?」

 

「ううん。本当にすぐ先生が来てびっくりした。」

 

「皆んなの協力あってさ。俺1人じゃ流石にしんどかった。」

 

「うん……。」

 

セリカは申し訳なさそうに黙り込むと、間を置いて再び口を開く。

 

「今さらだけど……あんなこと言ってごめんなさい。身勝手が過ぎたわ。先生は私達を助けようとしてくれただけなのに。」

 

「気にしちゃいない。それより俺が委員会の顧問になっても大丈夫か?」

 

「それはもちろんというかむしろ歓迎だけど……ね、ねえ、私が何か先生に出来ることは無いかしら?やってもらってばかりは良くないと思うんだけ……ど?」

 

あまり手をかけさせ過ぎると離れていってしまうのではないか。

 

そんな思いから少し切羽詰まった様子で先生に詰め寄るセリカだったが、次に返ってきたのは彼の硬くて大きな手だった。

 

頭に乗せられると軽く撫でくり回してくる。

 

「生徒が遠慮するもんじゃないよ。」

 

「でも……!」

 

「いいから、子供ってのは大人を食い物にして成長するものなんだ。俺にとっても頼られた方が嬉しい。」

 

「……分かった。」

 

先生は手を動かしていると、隣からゴロゴロと聞き慣れない音が耳に入ってきた。

 

何かと思えばセリカの方から発生していることに気付く。

 

彼女もそれを自覚すると顔を真っ赤にした。

 

「こ、これは……別に何も……!」

 

「そうか?」

 

「あっ……。」

 

先生は手を離そうとするが、すぐに手首を掴まれる。

 

「やめてほしいなんて思ってないから……!」

 

「はいはい。」

 

「……ん。」

 

それからしばらく車内にはゴロゴロ音が響き続けた。

 

ちなみにキャビンと荷台を隔てるビニールの窓にホシノとノノミ、シロコ、アヤネが張り付いていたのだが、2人が気付くのはもう少し後の話だ。

 




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