セリカ救出から数日後、先生とホシノ、シロコ、ノノミ、アヤネの5人はテーブルを囲んで座っていた。
ちなみに位置に関しては今回も先生が端っこに座っており、シロコとホシノがそれぞれ彼の隣と反対側を確保している。
「さて……ヘルメット団の脅威が去った今、ようやく借金返済に注力することが可能となったのですが……何か良い意見のある人は居ますか?」
「はーい♪」
真剣な表情で話を切り出したアヤネに対し、最初に手を挙げたのはノノミだった。
「私はー……スクールアイドルが良いと思います!」
「アイドル?」
「そうです!学校の復興の為にアイドルとしてデビューするというアニメから……。」
「却下です。現実性がありません。」
「えぇ〜……。」
「じゃあ、はーい。」
ノノミに続いて手を挙げたのはホシノ。
テーブルに顎を乗せながら彼女は間伸びした声で自身の案を出してくる。
「ウチの学校はさ〜、生徒5人しか居ないじゃん?影響力のあるトリニティとかゲヘナとの一番の違いはそこにあると思うんだよねー。」
「ふむふむ。」
「だからさ、手っ取り早く生徒を確保する為に他校のスクールバスごと拉致して……。」
「却下です。」
「えー……。」
溶けたアイスのようにべちゃりとテーブルに突っ伏すホシノだったが、今度は向かいのシロコが自信有り気に挙手をした。
彼女は一瞬だけ先生に視線を送ると、口を開く。
「ん、私の案は現実性がある。既に準備も済ませた。」
シロコはバッグに手を突っ込み、何かをテーブルの上に置いた。
それは赤や青、緑など色とりどりのバラクラバ、いわゆる目出し帽というやつだった。
額の部分にはそれぞれ0から5までの数字が縫い付けられており、先生の分も含まれていることが分かる。
「何だ?どこか攻め込む気か?」
「ん、市内の中央銀行を襲う。または現金輸送車を襲撃する。それだけのお金があれば余裕で借金を返せるし、なんならお釣りが来る。我ながら完璧な作戦。」
「あぁ……なるほど……。」
「シロコちゃんらしいねぇ……。」
「却下!却下です!」
「ん……徹夜で考えたのに……。」
しょぼんと項垂れながら犬耳を垂らすシロコ。
その悲壮さから思わず先生が手を伸ばせば、すかさず彼女の頭が突き上げてきた。
周囲のギャラリーが先生に気付かれない程度に怨嗟の視線を向け始め、遂にはホシノが手持ちの
「ねえ、ウチで作戦会議するのはナシじゃない?」
「おっ、セリカちゃーん。おはよー。」
そこに立っていたのはバイト着を身に纏ったセリカだった。
実は今居るここは学校ではなく『柴関ラーメン』の店内。
今日はバイト中のセリカを全員で覗きに来たという感じだ。
そして早速目的の人物が現れると、一行は彼女へ好奇の視線を向ける。
「ちょっ……そんなジロジロ見ないで!写真も無し!」
「なんでなんでー?いいじゃーん。」
「中々にお似合いですよ〜。先生もそう思いますよね?」
「ああ、よく似合ってる。可愛いぞ。」
「かわっ……へ、へえぇ……!」
先生の言葉に頬を朱色に染め上げるセリカ。
ここで補足だが、各生徒は先生よりもひと回りかそれ以上歳下の未成年であることから、彼にとっては魅力的な異性というより、もはや親戚の子供といった印象が非常に強い。
よって今の発言は邪な気持ちなど皆無ではあった。
しかしセリカには効果抜群だった。
男にそう言われるのは、ただの賛辞では済まない。
一瞬で耳の先まで熱が走る。
彼女は顔を真っ赤にしながらそっぽを向いて視線を逸らし、全力で口元のニヤケを押さえ込んだ。
「も、もう!早く頼むものを言いなさいよ!」
「あれー?セリカちゃん、注文を取る時はお客さんに向き合わないと。」
「こ、こっち見ないでください!つまみ出しますよ!」
「まあまあ、この辺りにしとこう。」
揶揄うのも程々にして、大人しく食べたいものを注文する。
頼んでから少しして、全員の前にはそれぞれ美味しそうなラーメンが並んでいた。
「おぉ……美味そうだな……!」
「だね、いただきまーす。」
「ん、いただきます。」
早速スープを飲んでみると、豚骨の出汁と独自のタレによる濃い塩味が舌を通して伝わってきた。
東欧の戦場ではとても口にすることの出来なかった、もう帰ることの出来ない遥か遠い故郷を思い出させるような、懐かしい味を前に先生は思わず目頭が熱くなってしまう。
「先生?どうかした?」
「何?何かあった?」
「ああ、いや、すまない。久々に食べたからかな……。」
瞬時に異変を察知したホシノ達が何事かと心配そうに詰め寄ってくるが、先生は大丈夫だと手で制す。
「それよりも、だ。例の借金の話を続けよう。」
「考えがあるんですか?」
「ああ、食べながら聞いてくれ。」
そう言うと先生は椅子の隣に立てかけていたガンケースを開き、中からSG552を取り出した。
「これ、覚えているか?」
「んん?んぐ……ヘルメット団のライフル?」
「そう、学校に攻めてきた連中のものだ。少ししか使っていないのか状態が良くてな、転売出来ないものかと思って色々調べたんだが……。」
「ん、もしかしてブラックマーケット?」
「そういうことだ。話が早くて助かる。」
先生は銃を回転させ、一部を指差しながら皆んなに見せた。
「シリアルナンバーが無い。ゴーストガンだ。」
「密造されたってこと?」
「いや、AKならまだしもコイツは簡単には作れない。多分、正規で買ってからレシーバーを丸ごと交換したんだろう。せっかくの良いライフルだが、普通には売れんわな。」
「なるほど……だからブラックマーケットを……。」
「うへ、先生詳しいねぇ。」
「前の職場で色々とな。あと、これ。」
先生はスーツの懐からひとつの膨れた茶封筒を取り出し、目の前のホシノに向かって差し出した。
彼女は一度封筒と先生に視線を行き来させてからそれを受け取る。
隣のノノミと一緒に中を覗き込めば、そこに入っていたのは全て1万クレジットの紙幣だった。
「え"っ……!?」
「先生、これは……?」
「破壊したBMPの引き取り費用だ。流石にアレをブラックマーケットに流すのは難しいし、壊れてるからスクラップ扱いで安く買い叩かれる。だからウチの戦力に組み込むことにした。」
現在、シャーレの地下駐車場にあるのは非武装の装甲車とトラックだけである為、壊れた装甲戦闘車を直して使おうと先生は考えていた。
このお金は
横領とは言ってはいけない。
ヴァルキューレにバレなければ犯罪ではないのだ。
特にアウトローな光景が日常であるキヴォトスでは。
ちなみにリンは意外にも資金をポンと出してくれたが、敵と交戦したことについてはめちゃくちゃ詰め寄られた。
「せ、先生、こんなの受け取れないよぉ。」
「いいから、今は黙ってポケットに入れとけ。ただ、計画的に使うんだぞ?あと内密にな?」
「ほんっ……とうにありがとうございます……!」
「ん、先生、この借りはいつか返す。」
「いつか牛丼でも奢ってくれ。まあ、話は終わりだ。それより早く食べよう。麺が伸びる。」
感極まった雰囲気のホシノ達を抑えると、先生は再び箸を持ち、とんこつラーメンを啜り始める。
その味に舌鼓を打っていると、ある時、店の引き戸が向こう側から開かれた。
ふと音に引かれてそちらを向くと、身体の半分以上の銃身長を持つフルサイズの散弾銃を背負った1人の少女が立っていた。
紺色を基調とした服を見に纏い、軍の略帽のような
セリカが声をかけると、オドオドとした様子で口を開く。
「あ、あの……ここで一番安いラーメンは、お、おいくらですか?」
「えっと……柴関ラーメンの小が400円ですね!看板メニューなのでおすすめですよ!」
「あ、ありがとうございます!」
アビドスと同じように金欠なのだろうかと、少し不憫に思っていると、その少女は席に着くかと思えば、くるりと踵を返し、もう一度外へ出てしまう。
そして今度は他に3人の少女を引き連れて入店してきた。
「やっと見つかったね。500円以内で食べられるところ。」
「ね?私の言った通りだったでしょ?」
「もうお腹ペコペコだよ〜。」
彼女達の格好はハッキリ言って、ホシノやシロコらのように整ったものではなかった。(ちなみにホシノ達は先生の到来から身だしなみにかなり気を使うようになっている)
おそらくは洗濯や入浴を十分に行なえていないのだろうか。
服にはシワが目立っており、身体の方はボディペーパーやデオドラントでどうにかなるとしても、髪は誤魔化せておらず、表面に張った皮脂によってテカテカと光っていた。
そのまま横目で観察を続けていると、4人は席に座る。
そしてすぐにセリカを呼びつけた。
「ご注文をどうぞ。」
「柴関ラーメンの小1つ。」
「はい。」
「以上!」
「………………はい?」
店内にセリカの素っ頓狂な声が響いた。
⬛︎
『便利屋68』、金さえ積めばペット探しから銀行強盗まで何でも行う裏社会のアウトロー集団。
そんな触れ込みで活動を行っている彼女達だったが、現状は良くないのひと言だった。
便利屋を率いる社長こと『陸八魔アル』は一昨日からゴロゴロと唸り続けている腹をさすりながら、コップの水を空っぽの胃に流し込んだ。
しかしそれでも腹の虫はおさまらない。
自己主張の激しいその生理現象を前に隣の室長こと『浅黄ムツキ』はクスクスと笑う。
「アルちゃん、お腹鳴り過ぎだよ〜。」
「だ、だってしょうがないじゃない……ここ10日はもやしとチーズしか食べてないんだから……あとアルちゃんじゃなくて社長って呼びなさいよ……。」
「今は勤務時間外だしいいじゃん。というか社長なら全員分のラーメンは奢ってほしいよねー。」
「傭兵を雇うのにお金は使っちゃったんだからしょうがないじゃない……相手は前任者のヘルメット団を何度も撃退したどころかアジトを壊滅させたアビドスなのよ……?」
べちゃあと、ホシノの時とは違って故意ではなく、本気で脱力しながらテーブルに突っ伏すアル。
すると彼女の向かい側に座った少女、便利屋の課長こと『鬼方カヨコ』は溜め息を吐く。
「万全を期す為に質の高い傭兵を雇うのは良いんだけどさ、せめて最低限の食費と光熱費は残しておこうよ……水道無しガス無しで、公園の水だけで生活するのはキツいって……。」
「電気はあるから良いじゃない。入金は明日なのだし、数日くらいお風呂に入らなくても大丈夫でしょ?男じゃあるまいに。」
「それとも何?カヨコちゃん、気になる人でも出来た?」
ムツキの揶揄うような発言にカヨコは冷めた視線を返す。
「男?人間の男女比が3:7で、男の99%以上が防護壁で囲まれた特区とそこの薔薇系学園で生活しているキヴォトスで?」
「もう、カヨコちゃんは夢が無いな〜。」
「現実を見てるだけ。毎年産まれる子供の9割は精子バンク由来なんだから、恋愛なんてもってのほかだよ。まず男を見ることすら碌に無いんだ……し……?」
カヨコはふとそっぽを向いたが、その時、目に映った情景へ見知らぬものが入り込んでいることに気付いた。
奥のテーブル席に座る女子学生の集団。
それは心底どうでもいいとして、彼女達の奥に明らかに女以外の人間が座っていたのだ。
もちろん知能機械人や動物種などの人外ではない。
「カヨコちゃん?どうかした?」
「あっ……い、いや、何でもない……。」
「んー?何かあやし……い……?」
慌てて平静を装うカヨコだったが、ムツキはカヨコが動揺した理由を目ざとく発見する。
そして瞬時にフリーズした。
「ムツキ?どうかした?」
「あ、アル様……あれ……。」
「えっ……?」
ムツキに続いてハルカとアルも同じ方向を見る。
目に入って来たのはまさかの男、それも年上の男性だった。
身体付きは細身ながらも筋肉が服を押し上げており、まさしく漫画やアニメに出てくるような異性の人間が居た。
全員が瞬時に視線を戻す。
「う、うわ……大丈夫かしら……今の、失礼じゃなかったわよね?」
「目を合わせない方がいいよ……特区の外に男が出てきてる時点で怪しいって。きっと店の周りに護衛がうじゃうじゃ居る筈。絶対に関わらない方がいい。」
「でも人生は何あるか分かんないじゃん。アルちゃん、もしかするとお近づきになれるかもよ?」
「冗談じゃないわよ……ここで変にヴァルキューレに目をつけられたら依頼に影響が……!」
その時、チラチラと視線を向けていたアルは、件の男性と目が合った。
彼女は突然のことに思わずピシリと固まってしまう。
相手が軽く手を振ってくれたことで我に返り、たどたどしい挙動ながらも振り返す。
「え、えへへ……。」
「あっ、アルちゃんズルい……!」
「さ、流石アル様……!」
「馬鹿っ……あーもう……。」
デレデレの上司を前に、肝を冷やすカヨコだったが、そこへラーメンの良い香りが漂ってくる。
先程の店員がお盆を持って近付いてきていた。
「お待たせしました!柴関チャーシューメンの大です!」
「はい……えっ?」
テーブルに置かれた盆の上に乗っていたのは通常サイズよりもひと回り小さいどんぶり……ではなく、ひと回り大きなどんぶりにぎっしりと詰まった麺とスープ、その他具材。
更にはそれが人数分あった。
アルとムツキ、ハルカは美味しそうなラーメンを前に目を輝かせるどころか、涎を垂らしながらバキバキに血走らせるが、独りカヨコは困惑した表情を店員へと向ける。
「いやあの……私達はラーメンの小と……。」
「そうでしたか?」
「まず私達、今は払えるようなお金が碌に無いですし……。」
「ああ、お代でしたらもう貰ったので大丈夫です!それではごゆっくり!」
「あっ……。」
すたこらとその場を離れてしまう店員。
彼女は厨房に戻るのかと思えば、例の男性が座っているテーブルに向かうと、男へ伝票を手渡す。
カヨコは彼が代わりに支払ってくれたのだと瞬時に理解した。
「ねえ社長、あの男の人が……ってもう食べてるし……。」
「ずるるっ……んぐっ……は、早くカヨコも食べなさい!麺が伸びてしまうわ!」
「美味し〜。一度にこんな食べたの久々だよ〜。」
「すずっ……ずるっ……手が止まりません……。」
久々も久々の食事に夢中になる仲間達。
カヨコも目の前のラーメンに誘惑されるが、どうにかそれを抑えると、男が居た席の方を向く。
しかし既にそこには誰も居なかった。
「え、えっと……あっ……!」
店内を見渡し、目的の男性がレジに立っていることに気付く。
慌ててカヨコは席を立つと、彼の元へ駆け寄った。
「あ、あのっ!」
「ん?」
振り返ってきた男はカヨコよりも背が高かった。
彼女は言葉を詰まらせながらも頭を下げる。
「あ、ありがとうございました!」
「いいのいいの、顔を上げてくれ。」
恐る恐る前を向くと、温和そうな笑みを浮かべながら手を振る男の姿があった。
「それより早く食べな。じゃないとお仲間さんに取られちまうぞ?」
男はそう言うと、外で待っていた女子生徒と共にどこかへ行ってしまった。
「あ……。」
男に借りを作った、それもあんな人に。
背後から店員に声をかけられる。
「ねえ、間違っても勘違いしないでよね。選ばれたわけじゃないわよ。あれはただの
「……知り合いなの?」
「ええ、私達の『先生』よ!シャーレってところから来てるの!」
「へぇ……シャーレねぇ……。」
えっへんと自慢げに語る店員だったが、ここでカヨコは目の前の人物に既視感を覚えた。
ただ空腹感には今度こそ抗えず、席に戻ると、ラーメンを掻き込むことに集中する。
彼女が既視感の理由に気付いたのはどんぶりの中身を全て胃袋に収めてからだった。
「社長、あの男の人なんだけどさ……。」
「あっ、お礼を言うのを忘れていたわ!どうしましょう!?」
「いや、あの人と一緒に居た女子生徒がアビドスの連中なんだよね……ついでにあの猫耳の店員も。」
「えっ……な、なっ、何ですってーーーーーーー!?」
))補足
・薔薇系学園
作者が即行で考えたオリジナルの学園群。生徒が男子のみで構成された学園の集まりで、アルバ学園、ハマナス学園、ガリガ学園と様々な学校が存在している。
男が外を歩いていると治安が少しでも悪い場所(ゲヘナとか郊外とかゲヘナとか)では平然と襲われる為、行政は男子生徒の薔薇系学園への入学を義務付けている。学校区域は隣接する区と鋼鉄の壁で隔てられており、敷地内には教職員と家族、現地住民、警備員を除いて女は存在していない。
珍しい男が沢山居ることから、周囲からは『楽園』と呼ばれており、一部のチンピラが下半身目的に幾度も侵入を試みたが、その度に警備員とは名ばかりの特殊部隊出身のエリート(♀)達にシメられている。
ちなみに結婚の割合はこの区域がキヴォトス内で最も高いことから、薔薇系学園の警備員を目指す者は非常に多く、軍学校や警察学校では日々うら若き乙女達が訓練に励んでいる。
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