元傭兵先生、貞操逆転世界を行く   作:ゆうぐれ

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第6話 いざ、ブラックマーケットへ

次の日、バックアップのアヤネを除いた先生達一行はブラックマーケットへと向かった。

 

流石に装甲車や幌付きトラックで行くには目立ち過ぎる為、今回は通常の商用バンに乗ってきている。

 

アヤネの道案内を受けながら街中を進んでいると、徐々に目的地へと近付いていることが分かった。

 

街に一般人を見かけなくなっていき、道路はゴミだらけでボコボコになっているなど、明らかに行政の手が入っていない光景が目に入ってきたのだ。

 

人が居なくても不自然なまでにピカピカだったアビドスとは対照的だった。

 

「うわ……如何にも違法って雰囲気だな……アビドスと全然違うじゃないか……。」

 

先生がそう呟くと、今回も助手席のポジションをゲットしたシロコがサイドアーム(G26)を弄りながら返答してくる。

 

「ん、アビドスを含めて普通の街には建設者っていう無人重機群が居て、それがインフラと公共施設の維持管理をしてる。けどこの辺りは行政も把握し切れていないからシステム上では誰も居ない廃棄区画になってる。」

 

「うへ、大量のチンピラが街に薄く広く浸透するよりも、一箇所に集めて監視しといた方が楽ってのもあるんじゃないかなー。」

 

背後の席でシートベルトに顔を寄りかからせたホシノが間伸びした声でそう答える。

 

「先生も準備出来てるー?」

 

「大丈夫、軽量アーマーをシャツの下に着てる。あと防殻とやらもつけてきた。」

 

「ん、先生お金持ちだね。」

 

「いや、『当番』のミレニアムの生徒から貰ったものでな。抗磁圧シールドってやつらしい。手動はもちろん、アロナと同期させて自動でも出力出来るようになってる。」

 

「へぇ……ん?」

 

「当番?」

 

その時、車内の空気が少し張り詰めたものへと変わった。

 

赤信号で車が止まると、シロコがそれについて追求してくる。

 

彼女の声色には若干の動揺が含まれていた。

 

「ね、ねえ先生……その当番って何?私たち以外に誰か他の生徒が居るの?」

 

「言ってなかったっけ?シャーレの手伝いだよ。その子には仕事の補助をやってもらってる。」

 

そこで割り込むように手首の端末からアロナの声が聞こえてくる。

 

[当番は先生の補助を行うと同時に、護衛も一部兼任することとなります!簡単に言えば秘書とボディーガードを足して2で割った感じですね!]

 

「まあ、そんな感じだ。学校も公欠扱いになるし、給金も出る。ハッキリ言って割には合わんと思うがな。」

 

[前回の誘拐未遂事件から、先生の単独外出は極力避ける方針となりました!]

 

「過保護だよな。俺ってそんなに危なっかしいかねぇ……。」

 

フッと先生は笑う。

 

だが彼の視界の外では空気が凍りついていた。

 

俯いたシロコは、無意識にG26のグリップを強く握る。

 

「へ、へぇ……ちなみにその当番の人って……女?」

 

「ああ、ミレニアムの生徒だ。」

 

「外に行く時も、護衛として一緒に?」

 

「そうだな。とは言っても、今はまだ1階のコンビニに行く時くらいだが。」

 

ミレニアムサイエンススクールから送られてきた1人の女子生徒。

 

その彼女がこれまた優秀で、事務能力が足りない先生を見事なまでに補助している。

 

今日こうして先生が仕事をサボっていられるのもその生徒のおかげだ。

 

「そうなんだ……。」

 

[い、いつの間に……。]

 

「先を越された……。」

 

通信越しに話を聞いていたアヤネも含め、シロコ達の心境は焦りと嫉妬の感情で荒れていた。

 

しかしホシノだけは顔色ひとつ変えずに先生へ聞き返す。

 

「先生、その当番は志願制なの?」

 

「もちろん。やっても特に良いことは無いけどな。せいぜい内進点が上がって、シャーレに顔パスで入れることくらいか?」

 

[あと先生の外出に同行する優先権が付きますね!]

 

先生とアロナがそう言うと、少し落ち込んでいたシロコとノノミ、セリカの目に生気が戻った。

 

直後、がっつくように身を乗り出そうとする彼女達だったが、それをホシノが手と視線で抑える。

 

いいから任せておけと言わんばかりの余裕たっぷりの表情で。

 

シロコ達は先輩のことを信じると席に深く座り直す。

 

「ふーん……じゃあさ、私達が行っても問題無い?」

 

「えっ、もしかして来てくれる?」

 

「うん、先生が良ければだけど。」

 

「ダメなわけが無いだろうに。助かるよ。ありがとう。」

 

その時、先生を除いた全員が、心の中で拳を高々と掲げながらガッツポーズを決めた。

 

一方、そんな生徒達の心境も露知らず、先生はひたすら運転と警戒に集中していた。

 

区画整理が行われていないおかげで、次第に道が複雑怪奇なものへと変わり、周りを歩く人間の数も多くなっていく。

 

そしてようやく目的地であるブラックマーケット、その端っこのあたりに到着した。

 

「こっからは徒歩だな。よし、降りよう。」

 

「はーい。」

 

「ん、分かった。」

 

「アヤネちゃんのドローンは……よいしょっと……。」

 

路肩へバンを停め、先生は運転席から降りる。

 

やはり部外者と一目で分かるのだろうか。

 

直後、ぞわりと沢山の視線を感じ取った。

 

そして男と分かった途端、空気がまた変わる。

 

値踏みをする目と、獲物を見る目。

 

様々な視線が身体のあちこちに刺さる。

 

不思議に思っていると、スリングにライフルを下げたセリカが側に寄ってきた。

 

「先生、私と先輩達が周りを固めるから、絶対に!離れないようにね。」

 

「分かってる。今度は皆んなに迷惑をかけない。」

 

「アレも本命は先生を狙ってのことよ!本当に理解してるの?先生は男なの!それだけで誘拐も脅迫も起きるわ!」

 

「そんなにか?」

 

「ええ!そうよ!」

 

先生は緊張からゴクリと唾を飲み込む。

 

確かに視線は消えない。

 

それは出発した後も同じだった。

 

「一気に人が多くなって来たな。」

 

「ん、先生、離れないようにして。」

 

「うへ、はぐれたらマズいからねー。」

 

「先生を囲んでしまいましょう〜♪」

 

先生を中心にインペリアルクロスこと輪形陣を組んで人混みの中を進んでいく。

 

周りのチンピラや出店の店主は誰もが一度は先生へ目を向け、男だと気付くと接近を試みるものの、彼の周囲を完全武装の女子生徒達が固めていることを知ると即座に離れていった。

 

先生からは見えてはいなかったが、ホシノ達が鋭い眼光を光らせていた。

 

「やっぱり先生は人気者だね〜。」

 

「人気、ね……。」

 

ここでは人気ではなく、需要と言った方が正確だろう。

 

先生は思わず苦笑を浮かべていると、隣から袖を引っ張られる。

 

「ん、大丈夫、私達が虫除けになってるから。」

 

「すまん、頼んだ。」

 

緊張状態の中、一行は先へと進んでいく。

 

このまま何事も無いかと思われたが、実は脅威は迫っていた。

 

彼らの後方10mほど、一定の距離を保ちながらコソコソと後をつける数人のグループが居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

アルは頭がいっぱいになっていた。

 

脳内で発生している天使と悪魔の一騎討ちは終わりを見せず、後者が感情を排した利益追求を求め、前者が幾度となく良心の呵責を引き起こしてくる。

 

彼女の視線の先にあったのは例の集団。

 

そう、昨日自分達にラーメンを恵んでくれた『先生』なる1人の男性と、アビドスこと今回のターゲットだ。

 

前任者のカタカタヘルメット団は依頼主からの潤沢な装備提供を受けた上で、奴らの排除に乗り出したらしいが、幾度となく失敗した挙句、むしろ返り討ちに合った。

 

よって今回は学校を正面から堂々と攻めるのではなく、問題の連中が外を歩いているところを強襲して捕縛したのち、ゆっくりと校舎を制圧しようという考えだ。

 

まあそこまでは良かった。

 

わざわざ司法の目が届きにくい廃棄区画に向かってくれたこともアル達にとって有利に働いた。

 

が、問題は目標の他に例の男性を見つけたことだった。

 

あくまでも狙いはアビドスであり、男は関係ない。

 

また本心を言うと、恩を仇で返すようなことはしたくはない。

 

それも力に勝る女がヘイローの無い、か弱い男に手を上げるなど言語道断だ。

 

しかし大枚叩いて雇った傭兵団は既に配置に着かせてしまっている。

 

今更やり直しなんて効く筈もないだろう。

 

考え過ぎて思考がショートしそうになるが、ここで仲間から声をかけられたことで我に返った。

 

「アルちゃん、まだ仕掛けないの?」

 

「えっ。」

 

「だから、このままだとマーケットの奥に行っちゃうよ?」

 

「ま、まだ様子を見るわ。各チームは所定の位置を保持。」

 

「社長、あの男の人が気になるのは分かるけど、早くしないとここの自警団に追われる羽目になるよ?連中、一般人に対してはまだ優しくしてくれるけど、ヘイロー持ちは警告無しに問答無用で自閉状態にさせてくるからね?」

 

「うぅ……わ、分かってるって……!」

 

どうにかならないものかと唸っていると、前方の交差点で異変が起こった。

 

聞こえてくるのは複数の怒声と耳をつんざく発砲音。

 

アルは顔を青くした。

 

「なっ……ど、どこのチームよ!まだ指示は出していないじゃない!」

 

「え?ここら辺に居るのはC(チャーリー)だけだよ?それも私達の後ろだし。」

 

「あ、アル様……おそらくですが、ただの喧嘩かと。」

 

「なんだ……驚かせてくれるわね……。」

 

ホッと安堵の息を吐くアルの視界に映るのは格好からして中々に良いところの女子生徒と、彼女に絡む複数のチンピラ達。

 

可哀想だが、今は付き合っている暇は無い。

 

しかし彼は違ったようだ。

 

「あっ、アルちゃん……奴らが……!」

 

「……ホントお人好しだね。」

 

何と例の集団はその生徒を助ける為にわざわざ介入し始めた。

 

野次馬が集まり、ガヤガヤとうるさく騒ぎ出す。

 

建物の陰に隠れながら様子を伺っていると、遂には道路上の出店を盾に銃撃戦を始めてしまった。

 

状況が上手く行かないことに歯噛みするアルだったが、ここで妙案を思いつく。

 

「カヨコ、A(アルファ)B(ブラボー)チームに連絡、キルゾーンから前方の丁字路の付近に移動させて。Cはここで待機。」

 

「何するつもり?」

 

「どさくさに紛れて確保するわよ。あの先生って人を。」

 

アルの言わんとすることを理解したカヨコ達はそれぞれ己の特物を両手で構える。

 

そしてゆっくりとした足取りで銃声のする方向へと近付いていった。

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

時は遡って5分ほど。

 

先生達は場所を問わず沢山の出店が並ぶ道路を歩いていた。

 

テントやミニバンなど店の形は様々であったが、並べられている商品はどれも企業の正規品とは違う、怪しさを感じさせてくるものばかりだった。

 

拳銃やライフルはもちろんのこと、お菓子や果物、雑貨などの日用品、そして何かの本やディスクなど。

 

特に雑誌が最も数が多く、誰もが手に取っては現金と交換していた。

 

犯罪発生率の高さから電子決済の普及率が前世の某国以上に高いキヴォトスにおいて、現ナマしか使っていないというのは足がつくのを嫌がっているということだ。

 

逆にどんな内容なのだろうかと興味本位から本へ手を伸ばしてみるが、すかさず間にシロコとノノミが割り込んでくる。

 

「ん、先生、これは気にしなくていい。」

 

「えっと……先生が見るべきものではありませんかね〜?」

 

「どうして?何か変なものでも載ってるのか?」

 

「え、えっと……その……。」

 

「よ、世の中には知らなくても良いことがあるんですよ?」

 

何故か顔を赤らめながらそっぽを向くシロコと、身振り手振りをしながら焦りの表情をチラつかせるノノミ。

 

結局、彼女達に背中をぐいぐいと押されながら無理矢理その場を離れさせられる。

 

すると次の瞬間、銃声が聞こえてきたかと思えば前方から1人の少女が人の波を掻き分けながら走ってきた。

 

「ど、どいてくださ……きゃっ!?」

 

「うおっ……と。」

 

少女はいきなり眼前に現れた先生を避けきれず、そのまま彼の胸に突っ込んでしまう。

 

本来ならムフフな状況かもしれないが、あいにくと今の先生は防弾アーマーを装備していたため、シャツの匂いと布の感触を除き、感じられるのは特殊繊維からなる硬さだけだった。

 

鼻を押さえながらよろける少女を、先生は彼女の肩に手を添えて支える。

 

「すまん、大丈夫か?」

 

「だ、だいじょ……うぶ、です……。」

 

少女は自分が誰とぶつかったのかを、自身の肩をどんな人物が触っているのかを理解すると、ゼンマイが止まったブリキの玩具のようにピクリとも動かなくなってしまう。

 

「あ、あの……わ、わたし……。」

 

「怪我が無いようでよかった……が、君、怪我をさせられるような状況にあるのか?」

 

「あ……は、はい。」

 

「だろうね。」

 

先生の前に現れたのは少女を追って現れたチンピラ2人。

 

相手の手に銃を確認すると、すかさず右手はG19(グロック)を収めた腰のホルスターに添え、少女を背中に隠しながら前に出る。

 

シロコ達も異変に気付くと、トリガーガードにかけていた人さし指を引き金へと添えた。

 

「何だお前ら!どけ!あたしらはそこの『トリニティ』の野郎に用があんだよ!」

 

「わ、私は無いんですけど……。」

 

チンピラの言葉に先生は首を傾げる。

 

「なあアヤネ、トリニティって何だ?」

 

[学園群のひとつで、キヴォトス随一のお嬢様学校ですね。ゲヘナと双璧を成すマンモス校でもあります。]

 

『トリニティ総合学園』。

 

数ある学校の中でも最大の資金力を持っており、その潤沢さは自治区や生徒へ如実に現れている。

 

街並みは豪奢な装飾の施された古風な建物で統一されており、生徒達が持つ銃器も多くが木を使った、同じ価格でフルアタッチメント付きのAR系ライフルが買えるほどの高級なアンティークガンとなっている。

 

ちなみにゲヘナ学園とは滅茶苦茶仲が悪いとのことらしい。

 

「なーるほど、つまり君はお金持ちってわけか。」

 

「うぇっ?ま、まあ……はい……。」

 

背後の少女がどんな地位に居るのかを理解すると、チンピラ達の目的がおおよそ推測出来た。

 

「なあ、もしかしなくても身代金か?」

 

「そうだ!そいつを拉致って学園を強請ればたんまり金が手に入るってわけよ!」

 

「くひひっ、中々のアイデアだろ?どうだ?なんなら大人しくそいつを渡してくれれば分け前を考えてやっても良いぞ?」

 

「てか早くそうした方がいいぜ。じゃなきゃアンタ、私らにマワされても……。」

 

チンピラ2人の視線が先生の身体へ絡みつく。

 

しかしその時、彼女達の後頭部にゴンと硬い物体が押し当てられた。

 

「がっ……!?」

 

「いたっ……!」

 

「まあそうハァハァしなさんなや。みっともないぞー?」

 

「……なっ!?」

 

「げっ!?」

 

いつの間に移動していたのか、チンピラの背後にホシノの姿があった。

 

両手にはショットガン(ベレッタ1301)ハンドガン(92A1)が握られており、双方を敵に向けている。

 

「で?どーする?まだやる?」

 

「ふ、ふざけっ……!?」

 

「このっ……!?」

 

チンピラ2人は顔を真っ赤にすると、それぞれ手に持っていたトカレフとイサカをホシノへ向けようとするが、その動きは彼女にとってあまりに遅過ぎた。

 

直後、2つの発砲音が同時に響き、地面に9mm弾の空薬莢と12ゲージ弾の空のショットシェルが落ちる。

 

そして白目を剥いたチンピラ共がヘイローを消した状態で倒れ伏した。

 

「まったく……無謀なんだから……。」

 

「すまんホシノ、助かった。」

 

「うへ、先生、私頑張ったよ。だからその……。」

 

先生が声をかけた途端、いつものふやけたような表情に戻るホシノ。

 

彼女は先生に擦り寄ると何かを求めるような視線を送る。

 

周囲ではホシノの魂胆に気付いた後輩達が嫉妬から顔を怖くしていたが、彼女が気にする様子は無い。

 

「何だ?何か欲しいのか?」

 

「そ、そうかも。」

 

「なら後でどっかに寄ろうか。何か奢るよ。」

 

「いや、そっちじゃなくて……ほら、セリカちゃんとシロコちゃんにもやってたじゃん。」

 

「ん……ああ、いいのか?」

 

「もちろん。」

 

先生はホシノが言わんとすることを理解すると、彼女の頭へ手を伸ばそうとする。

 

だがそれは複数の銃声によって中断されてしまった。

 

「てめぇ!よくもウチらのダチを!」

 

「おい、見ろよ!男が居るぞ!」

 

「まとめてやっちまえ!」

 

どうやらチンピラの仲間が現れたようで、その数はこちらよりも多かった。

 

先生は急いでトリニティの少女とホシノを連れ、姿勢を低くしながら出店のトラックの影に滑り込む。

 

敵からの弾幕が降り注ぐ中、周りでは既にシロコ達が戦闘を開始していた。

 

「大丈夫か?怪我は?」

 

「す、すみません。私は大丈夫です。」

 

「なら良かった。アヤネ、敵の数は?」

 

[7人です!形からしておそらくライフルとサブマシンガンが2、ピストルが3です!]

 

「分かった。ホシノ、行けるか……ホシノ?」

 

ホシノからの返事が聞こえないこと怪訝に思った先生は後ろを振り向くと、そこではバリスティックシールドを準備する彼女の姿があった。

 

どこか怖いオーラを出しており、明らかに不機嫌だった。

 

先生からの視線にホシノは気付くと、瞬時に無表情の状態からニコリとした笑みを浮かべる。

 

「先生、ちょっと待っててくれない?邪魔なゴミを片付けてくるからさ。」

 

「あ、ああ、援護するよ。」

 

「うん、だから後で……よろしくね?」

 

そう言うとホシノは表情筋を素の位置に戻し、軽い身のこなしで遮蔽から飛び出していった。

 

「皆んな、ホシノを援護してくれ!」

 

「ん、了解。」

 

「分かったわ!」

 

「悪人は懲らしめないとですね♪」

 

それぞれ店の陰に隠れていたシロコ達も身を乗り出すと、敵集団に向かってライフルを発砲し始めた。

 

ちなみにノノミは街中で機関砲は運用に適さないからと、代わりにFALを担いで来ている。

 

まあ使っている弾はミニガンと同じ大口径高火力のフルロード弾である為、相変わらずの蹂躙劇を繰り広げていた。

 

敵も流石に堪らんと頭を引っ込める。

 

「ああくそ、アイツら強え!」

 

「どうする!もう2人やられたぞ!」

 

「馬鹿!まだ数はこっちが多い!せっかく良さそうな金持ちを見つけたんだぞ?ついでに良い男も!簡単に諦めてたまるかって……。」

 

その時、チンピラの1人が大きな銃声と共に地面へ倒れた。

 

予期せぬ方向からの攻撃を受け、他の連中は慌てて銃を握り直し、周囲を見渡すが、遠目に見えるシロコ達を除いて何も確認出来ない。

 

狼狽えている間にまた別の1人がやられてしまう。

 

だが今度は撃ってきた相手の姿を近くの軽自動車の陰に捉えた。

 

「撃て!あの車の後ろだ!」

 

チンピラ達はがむしゃらに銃を乱発し、車の車体を穴だらけにしていく。

 

映画と違って一般の乗用車はペラペラである為、エンジンルーム付近にいない限り相手は蜂の巣だ。

 

マガジン1個分を全て撃ち尽くすと、弾痕まみれになった車の周囲に動く影は無かった。

 

「はぁ……はぁ……や、やったか?」

 

「おいバカ、そういうこと言うとっ……!?」

 

チンピラの1人が放ったお決まりのフラグ発言は数秒後に見事回収されてしまった。

 

穴あきチーズにした車の隣にあったトラックの陰からヌッと銃口が突き出され、弾切れで無防備になったチンピラ共を正確に仕留めていく。

 

残っていた敵と同じ数の銃声が響いた時、戦闘は完全に終了した。

 

…………かに思えた。

 

「きゃあっ!?」

 

「なっ!?」

 

「せ、先生!!」

 

ホシノは先ほどの少女の悲鳴が聞こえてくると、そちらへ銃を向ける。

 

すると今まで交戦していたチンピラとはまた別の集団が、どこか見覚えのある少女達が目に入ってきた。

 

問題は彼女達が先生に背後から銃を突き付けていたことだ。

 

「お、大人しくしなさい!彼がどうなっても知らないわよ!」

 

狼狽えるシロコ達に対して1人のリーダーらしき少女が前に出てくる。

 

対して遮蔽からその様子を眺めていたセリカが彼女達の正体に気付いた。

 

「あっ!この前ラーメン屋に居た連中じゃない!先生に奢って貰ったのに仇を返す気!?」

 

「あはは、それについてはどうもありがと。けどそれはそれ、これはこれだからねー。」

 

「公私はきっちり分ける。仕事の為だから。」

 

一方、ショットガンを向けられた先生は両手を頭の後ろに当てながら横目で少女の1人を、ツノの生えた白髪の少女を眺める。

 

その年下とは思えない凄みのある目がこちらへと向けられるが、すぐに逸らされてしまう。

 

少なくともそこらのチンピラとは違う、場数を踏んだプロの類いであると、先生が前世で培った勘はそう判断していた。

 

「何が目的だ。お前さんらも彼女を狙って……いるわけではなさそうだな。」

 

「うん、ついでに言うと貴方も狙ってはいない。けど一緒に来てもらうよ。」

 

「へいへい……アロナ。」

 

「?何か言った。」

 

「いや、何でも。」

 

言われるがままに連れていかれる先生。

 

彼が離れていくところはアヤネのドローンからもよく見えていた。

 

観察を続けていると、離脱を図る少女達の背後から入れ違いに近付いてくる沢山の影に気付く。

 

[マズい……ホシノ先輩!後ろと左右の三方から新たな敵集団が現れました!]

 

「またチンピラ?」

 

[いえ、不良よりは遥かに装備が整っています!おそらくは傭兵団の類いかと!]

 

「それなら思い当たることはやっぱりアレしかないよねぇ。」

 

「ん、つまり先生を攫った連中と傭兵はヘルメット団の後釜?」

 

「学校を確保するのは後にして、先に私達を無力化してからってこと?まあ、前よりかは頭の回る連中ね……!」

 

「ど、どうしましょう?先生を人質に取られてしまいました。」

 

予想外のことに焦りを見せ始めるシロコ達だったが、ホシノだけは相変わらずのほほんとした表情を崩していなかった。

 

落ち着いた手付きで腰のショットシェルホルダーから弾を取り外し、一発一発マガジンチューブへと押し込んでいく。

 

「うへ、じゃあ皆んな、いつも通りやろっか。」

 

「でも先生がアイツらに……!」

 

「大丈夫、時間を稼いでくれってさ。」

 

ホシノは今しがた眺めていた端末の画面を見せる。

 

そこには先生からのメールが映っていた。

 

おそらくは隠れて腕の端末を使ったのか、送られてきたのは『じかん』『かせげ』という短い単語のみ。

 

シロコ達はこんな状況でも、まだ奥の手があることに先生への頼もしさを改めて感じると共に、彼女達の間でいつもの雰囲気が戻ってきた。

 

「ん、それでどうする?取り敢えず建物に籠城する?」

 

「それがいいね。というか早くそうしよう。」

 

ホシノを先頭にアビドス一行が動き出すと、敵の傭兵集団が道路へ展開していく。

 

弾薬の残りが気になり始めたこの状況下、本日二度目の銃撃戦が始まった。

 

「ま、待ってください〜。置いてかないで〜。」

 




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