元傭兵先生、貞操逆転世界を行く   作:ゆうぐれ

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第8話 浮かび上がる陰謀

画面には街の動画が映されていた。

 

画角からして斜め上方から撮られているようで、住宅の屋上や走っている車のルーフ、一般人の頭頂部がよく見える。

 

そんな中、画面の中心にはとある1つの車列が据えられていた。

 

軽機関銃を備えた数台の装甲車に挟まれる形で、黒塗りのゴツゴツとした、車列の中でも一際大柄な車が交差点で停まっている。

 

信号機が青になると、車列は動き出し、同時にカメラもそれを追っていく。

 

しばらく追跡を続けていけば、車列はとある区画に入った。

 

ごちゃごちゃとした雰囲気の、洗練されたシャーレ近辺とはまるで反対な汚い街並みが映像越しでもよく伝わってくる。

 

そう、記憶に新しいブラックマーケットだった。

 

車列はあろうことかブラックマーケット内でも有数の悪徳金融グループ、いわゆる闇金会社の建物の前で停まる。

 

しかし周りに立っていたUZI持ちの番兵は何も反応せず、むしろ車から降りてきたスーツ姿の人物に会釈までしていた。

 

すると建物から数人の護衛を連れてカートが運ばれてくる。

 

スーツ姿の人物、横に伸びた楕円形の頭を持つロボットは荷台から何かの袋を取り出し、それをカートに乗せる。

 

そして闇金側から渡された帳簿らしきものを書き、ロボットは車に乗ってその場を後にした。

 

車列はそれからもブラックマーケット内の様々な場所、闇銀行や違法カジノ、無登録証券取引所などを回っていき、同じように袋を渡していく。

 

再びブラックマーケットを出た時にはすっかり日が傾いていた。

 

最終的に車列が辿り着いたのはキヴォトスの中央区に位置する摩天楼の一角、カイザーローンの本社が入っている高層ビルだった。

 

少しすると、映像はそこで途切れ、再び最初からに戻る。

 

その車がアビドス東第三高等学校、つまりホシノ達の通う学校の目の前に停まったところから。

 

「………なるほどな。」

 

「嘘……あれって確かに私達が利息を払ったカイザーローンの現金輸送車よね?」

 

「ん、間違いない。ナンバープレートも同じ。」

 

ここはシャーレの一室。

 

長机が並んだ、薄暗いその部屋の正面にはスクリーンが吊り下げられており、プロジェクターから例の映像が投影されていた。

 

それぞれ椅子に腰掛けていた先生とホシノらアビドス組は渋い顔を浮かべる。

 

すると電気がパチリと点き、スクリーンの隣に立っていた人物が口を開く。

 

「以上が我々ティーパーティーが取得した情報です。お役に立てましたでしょうか?」

 

「ああ、ありがとう。非常に助かったよ。」

 

先生は腰を上げると、握手の為に手を差し出す。

 

対してその人物、ホシノ達とはまた違う学校の制服を、お嬢様学校として名高いトリニティの真っ白なセーラー服を身に纏った彼女は一度戸惑うも、恐る恐る手を握る。

 

そしてぷしゅーと湯気を出しながら顔全体を真っ赤にした。

 

「こ、こちらこしょ……あ、ありがとうごじゃいましゅ……。」

 

亜麻仁色の髪をツインテールにした、琥珀色の瞳を持つその少女、阿慈谷(あじたに)ヒフミ。

 

彼女がショートを起こしているのを他所に、ホシノ達は深刻そうな表情をしていた。

 

例の便利屋襲撃から1週間。

 

アルの雇い主がカイザーだと判明したことによって、先生とホシノ達はカイザーに関する情報を集めていた。

 

まずはカイザー系列の中でもアビドスにとって最も身近なカイザーローンを当たろうとしたのだが、動向を調べても流石は天下のカイザーコーポレーションといったところだろうか。

 

怪しさを感じるグレーなものはあっても、完全にクロと断定出来る事案は見つからず、現金輸送車なども全てオフラインで動いていた為、場所の特定と追跡は難しかった。

 

『A.R.O.N.A』によるシステムへの強行的なハッキングも不可能ではなかったが、疑いと憶測だけで下手に動けばヴァルキューレの世話になることは確実だった。

 

まさに打つ手無しという状況下。

 

そこで援助を申し出てくれたのはブラックマーケットで知り合ったヒフミだった。

 

彼女は改めて自己紹介をした際、先生がシャーレの人間だと知ると、次の日から頻繁にシャーレへ顔を出してきていたのだが、次第にカイザーに関する話へ混ざるようになり、先日、とある作戦を提案してきたのだ。

 

それが集金に来た現金輸送車を追跡してみるというもの。

 

しかもただ目視で追跡すれば護衛にバレるため、トリニティが保有しているステルス無人偵察機と情報収集衛星を使って遠距離から監視するという大盤振る舞いである。

 

ちなみに何故ヒフミがトリニティの戦力を動かせたのかというと、どうやら彼女はトリニティにおいて最高権力を持つ機関、生徒会こと『ティーパーティー』の関係者とのこと。

 

人は見た目によらないとはまさにこのことだろう。

 

話を戻すと、追跡の結果は大当たり。

 

アビドスが払った借金の利息がそのまま他の違法業者に流れていることは明白だった。

 

あとはその証拠を、非公式なこの映像を除いた何かを掴むことが出来れば良いのだが……。

 

「なあヒフミ、この映像は使えないんだよな?」

 

「ええ、これらの情報は本来は身内だけで使うものなんです。トリニティが自治区以外の区域を撮っていたことが公になると、色々と難癖をつけられる可能性が出てきちゃうんです。」

 

「特にゲヘナから?」

 

「はい、なのでUAVに関しても申し訳ありませんが……。」

 

「大丈夫だ。お宅のボスには借りが出来たな。」

 

「いえいえ、ティーパーティーはシャーレと良い関係を結びたいだけですので。」

 

えへへと、照れ隠しのように笑うヒフミだったが、そんな彼女へ向けられる厳しい視線が5つほど。

 

言わずもがな、アビドス組である。

 

「はぁ……。」

 

ホシノは小さく息を吐く。

 

嫌な予感は、やはり当たっていた。

 

ヒフミ個人がどうこうという話ではない。

 

彼女の所属するトリニティに、正確にはティーパーティーに善意以外の思惑が無いと言えば嘘になるだろう。

 

存在全てが機密の塊であるステルス機と軍事衛星を、たかが個人の為に動かす馬鹿は居ない。

 

シャーレとの接点、先生個人との関係、アビドスへの貸し。

 

どれも後々、交渉材料になり得る。

 

けれど、今は学校のことが先だ。

 

アビドスが無くなれば、先生に会う機会そのものが消えるかもしれない。

 

ホシノは気持ちを切り替えると、先生の隣へ座り直した。

 

牽制するように少しだけ肩を寄せて、目の前のヒフミへ笑いかける。

 

「先生、欲しいのはカイザーが私達に嫌がらせしてる証拠だよね? 便利屋とかヘルメット団との繋がりとか。」

 

「ああ、どうにかしてそれを手に入れれば動きやすくなる。シャーレとアビドスだけじゃ力不足と分かれば、連邦生徒会の力も借りれるかもしれないからな。」

 

「じゃあさ、これはどう?」

 

ホシノはヒフミから端末を受け取ると、映像を早送りし、ある場面で止める。

 

そして大きくズームした。

 

「何かにサインしていますね。」

 

「これ、他の場所でもしてませんでしたか?」

 

「もしかしてあの書類を手に入れるってこと?でもあんな危なそうな連中がハイ分かりましたって渡してくれるわけ……。」

 

話を聞いていたノノミとアヤネ、セリカはホシノの言わんとすることを理解すると、次に全員が同じ方向を向いた。

 

「ん!襲って奪う!」

 

そちらでは既に青いバラクラバを被り、目を輝かせながらやる気満々といった様子のシロコの姿が。

 

彼女はウズウズとした様子で、飼い主の許可を待つ犬のように、先生へジッと視線を向ける。

 

「あー……よくわからんが、どうぞ?」

 

「ん!」

 

許可を得たシロコは必要な資料をプリンターで印刷し始めると、片っ端からペタペタとホワイトボードへ貼り付け、マーカーで何かを書き足していく。

 

「ホシノ、シロコはどうしたんだ?」

 

「うへ、シロコちゃんの趣味は強盗だからねー。」

 

「え"っ。」

 

「だいじょぶ、実際にはやらせてないから。シミュレーションくらいは問題無いでしょ?」

 

「まあ……そうだな。」

 

少しの間、シロコの行動を見ていると、ある時、彼女はペンを置いて振り返ってくる。

 

「どうだ?結論は出たのか?」

 

「ん、賭博場と闇金関係はやめておいた方がいい。やっぱり現実的なのはこの銀行。」

 

「理由は?」

 

「前者の2つは自警団とPMCのどちらかの施設が近い位置にある。個人的に契約しているか、パトロールの範囲に入ってる可能性が高いし、まず構成員は有事に備えてライフルで武装してる。対して銀行はブラックマーケットの外縁部に位置してる上に、脅威は警備員程度しかいない。」

 

「ほう、逃走経路はあるのか?」

 

「ん、理想はそのままブラックマーケットの外に逃げること。自警団もそれ以上は追って来られないし、銀行からヴァルキューレにも通報は行かない。」

 

「もし追ってきた場合、または逃げ道を塞がれた場合は?」

 

「ブラックマーケットは行政の手から離れているおかげで、区画整理がされないまま軽く迷路みたいになってる。だから敢えて内側に入って、そこからまた別の自治区に出る。」

 

「必要なものは?」

 

「書類を奪うだけなら武器と車だけで十分だと思う。金庫を破る必要は無さそうだし。」

 

「なるほどな……。」

 

先生は席を立つと、ホワイトボードの写真を眺める。

 

次に後ろを振り返れば、彼の決定を待つホシノ達の姿が。

 

既にシロコが配っていたのか、それぞれのバラクラバを手に持っている。

 

しかし先生はすぐに指示を出さなかった。

 

「んん”っ、ひとつ確認だ。そうだな……アヤネ、今回の襲撃の目的は?」

 

「書類の回収です。」

 

「そう、流石だな、正解だ。これはあくまでもアビドスの問題を解決する為の行動だ。私利私欲を満たす為の、金の強奪じゃない。そこは履き違えるなよ。」

 

「ん、先生がそう言うなら従う。」

 

「俺が言わなくてもそうしてくれ。じゃあ、やりますかね。」

 

先生がそう言うと、ホシノ達も席を立ち、それぞれの得物を準備し始める。

 

しかしすぐに彼から待ったの声がかかった。

 

「ちょいまち、今回は自分の銃は置いてけ。足がつく。」

 

「旋条痕を気にしているのなら大丈夫だと思う。キヴォトスには10億丁の銃があるし、簡単にはバレない。」

 

「簡単にはバレないだけで可能性はゼロじゃない。俺としても裏社会で生きていくことはもう御免なんだ。お前さんらのキャリアに傷をつけない為にもリスクは極力減らしていくぞ。」

 

「分かった。」

 

「でも代わりの銃はどこで手に入れる気なの?」

 

「普通に買ったらそこそこするわよ?特にノノミ先輩のなんか皆んなのを足したよりも高いんだし……。」

 

「ブラックマーケットという手段もありますが、先日の一件からまだ日が浅いですよね……。」

 

ホシノ達の疑問に対して先生は何も言わず、ただ部屋の端っこ、長机の隅に腰掛けていたヒフミへ視線を向けた。

 

「うえっ!?わ、私ですか?」

 

「ああ、悪いんだが、もう1個だけ頼み事を受けちゃくれないか?」

 

先生からの言葉にヒフミは一度黙り込む。

 

しかしすぐに、むしろ喜んでと言わんばかりに首を縦に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

ヴァルキューレ警察学校の一角を占めている公安局、表では『公安』と呼ばれている組織は今日も沢山の仕事を抱えていた。

 

本庁のビルでは職員たちがせわしなく動き、事件の捜査や重要人物の監視、犯罪者の摘発など、それぞれに関する事務仕事を行なっていく。

 

ちなみにセキリュティという観点からか、未だにアナログチックな紙の書類が多く使われているおかげでオフィス各所には紙束が積み上がり、ハッキリ言って洗練さは皆無だった。

 

中でも室内の最奥に位置する小部屋、局長の個室には尋常じゃない量の書類が積んであった。

 

そんな紙のタワーに囲まれながら彼女、鋭い目付きとキザ歯が特徴の、通称"公安の狂犬"こと『尾刃カンナ』は溜め息を吐く。

 

現在絶賛3徹目の彼女の顔には疲労感が強く出ており、吐息からはコーヒーとエナジードリンクを混ぜたような匂いが漂ってきていた。

 

机とその周りには缶と小瓶がいくつも転がっており、今までどれだけ彼女が仕事と戦ってきていたのかが如実に現れていた。

 

「あぁ……仕事が終わらない……。」

 

カンナは机に突っ伏し、長い金髪の上から覗く2つの犬耳をへたりと垂れさせる。

 

底の見えない仕事量に逃げ出したくなっていると、その時、バン!と部屋の扉が勢いよく開かれた。

 

もちろんこんなことをする奴は2人くらいしか思い当たらない。

 

「姉御……うえっ、くさっ!」

 

「ちょっと、換気くらいしてくださいよー!」

 

「だからノックをしろと言ってるだろうが……。」

 

「シャワーくらい浴びてほしいっす!流石にキツいっすよ!」

 

顔を上げたカンナの視界に入ってきたのは慌てた様子の人物が2人ほど。

 

片方が長い銀髪とラフなアロハシャツが特徴の、公安の副局長こと『志真コノカ』。

 

もう片方が白髪を2つのおさげにした、生活安全局所属の『中務キリノ』。

 

彼女達は部屋に充満していた臭いに顔を顰めていたが、ハッとしたように何かを思い出すと、アワアワと両腕を振りながらそれぞれ再び口を開く。

 

「そ、そうだ!姉御、大変っすよ!」

 

「一大事です!」

 

「何だ?そこまでデカい事件なら起こってないと思うが?というかキリノは何故ここに居る?」

 

「違うっすよ!そう、シャーレ!」

 

「シャーレの先生が来るって、トリニティ経由で通達があったんです!」

 

「シャーレ?あぁ……お悩み相談室のことか?カウンセラーなら要らんぞ。」

 

「だぁかぁら!男っすよ!男!男が来るって言ってるんす!」

 

痺れを切らしたようにコノカはそう叫んだ。

 

部屋の外で話を聞いていた職員達が、ぴたりと動きを止めた。

 

男性の来訪自体は違法でも何でもない。

 

だが、女子職員が大半を占める庁舎に、しかも噂の相手となれば話は別だった。

 

規律と好奇心は、往々にして相性が悪い。

 

次の瞬間、ざわめきが大きくなる。

 

流石のカンナも目を丸くした。

 

「………男ってあの男か?」

 

「そうっす!正真正銘本物の男で、なんか良い匂いがするらしいっす!」

 

「もしかして先生のことを言っているのか?噂の。」

 

「最初からそう言ってるじゃないっすか!」

 

「仕事なんて今はいいから早く身だしなみを整えてください!」

 

「あ、ああ……。」

 

直後、オフィス内はてんてこ舞いとなった。

 

少しでも見栄えが良くなるように書類は引き出しや棚に押し込まれ、床のゴミを掃除機で綺麗にしていく。

 

カンナを初めとして風呂に入っていない面子はシャワー室に押し込められ、あぶれた連中はデオドラントを振り掛けられると、シャツだけを着替えさせられる。

 

そうして1時間後、応急処置を済ませたカンナは独り建物の屋上のヘリポートで待っていた。

 

少しすると遠目に小さく機影が見えてくる。

 

真っ白な機体に水色のロゴが施されたヘリコプター、UH-1はゆっくりとカンナの目の前に降りてくると、横のスライドドアが開けられた。

 

本当に男が来るのかと半信半疑だったカンナは降りてきた人物を前に硬直してしまう。

 

「はじめまして、君が尾刃局長で合っているかな?」

 

「あ……は、はい、尾刃カンナと申します。シャーレの先生ですね?」

 

「ああ、急に押しかけてしまって申し訳ない。今日はよろしく頼むよ。」

 

差し出された手を握る。

 

カンナは何とも言い難い不思議な感覚に襲われていた。

 

目の前に立っているのは人間の男だと分かった途端、今までのお堅い人生の中で感じられなかった気持ちが、本能と呼ぶべきであろう何かが沸々と湧き上がっていく。

 

しかし今は公務が優先だと、頭を振って先生を案内し始める。

 

「えっと……それで本日は銃器の押収品がほしいとかで……。」

 

「そうだね。証拠品としては効力の無い、またはその役目を終えた、返却予定の無い銃器があると思うんだけど……少しくらい残ってない?」

 

「はい、廃棄予定のものが掃いて捨てるほどには。しかし何に使うので?」

 

「安全用の教材兼訓練用さ。トリニティの授業で使う予定でね。」

 

「はぁ……?まあ、確かにトリニティから許可は来ていますが……。」

 

何故資金が潤沢なトリニティと連邦生徒会直轄のシャーレがわざわざ訳アリな銃を欲するのか、カンナには理解出来なかった。

 

しかし正式な手続きが通っている以上、問題は無いのだろうと、彼女は大人しく押収品の保管室に向かう。

 

道中、各部署のオフィスから覗いてくる職員達から興味津々といった視線を向けられること数分ほど。

 

厳重な警備を抜けて到着した部屋にはガンショップかのように、大量の銃器がズラリと並んでいた。

 

「ここが銃器類の保管室です。」

 

「うお……スゴいな。M733にガリル……おっ、FNCもあるのか。」

 

先生は慣れた手付きでパッキングされた銃器を触っていく。

 

「先生、その……先生が銃器について教えるのですか?」

 

「そうだね。トリニティのお嬢様方はスポーツ用の高級銃しか扱ったことの無い子も多いんだとさ。事故を起こさない為にも、オファーが来たって感じ。」

 

「そ、そうですか……。」

 

緊張でガチガチになっていたカンナはそれ以上何を話せば良いのか分からず、そのまま会話が途切れてしまう。

 

スーパーで商品を選ぶように先生が銃を手に取っていくのを眺めていると、懐の携帯端末が短く着信音を鳴らす。

 

後ろを向いて画面を見ようとすると、部屋のドアの隙間から幾多もの顔が覗いていることに気付く。

 

そこにはコノカをはじめとした公安の職員だけではなく、キリノなどの他部署の人間まで混じっていた。

 

目が合うと、彼女達は身振り手振りで何かを伝えようとしてくる。

 

しかし解読出来ないまま固まっていると、今度は端末を使って文を送ってきた。

 

「……連絡先?」

 

再度ドアの方を向けば、コクコクとインコのように首を縦に振るコノカとキリノの姿が。

 

カンナはそんなことは不可能だと、まず別に要らないだろうと、首を横に振るが、対してコノカ達は血走った目付きでいいから早く行けとアイコンタクトをしながら先生を指さす。

 

メールには続いてシャーレとのパイプを作るべきだの、チャンスを逃すなだの、いくじなしだの、臆病者だの、途中からはもはや単なる悪口が送られてくる。

 

カンナは端末に流れ込むメッセージを睨みつけ、こめかみを押さえた。

 

騒がしい部下達に乗せられるのは業腹だ。

 

しかし、完全に間違っているとも言い切れない。

 

シャーレの先生は、お悩み相談という立場の割に行動範囲が広い。

 

しかもブラックマーケット絡みで既に名前が上がっている。

 

公的な窓口とは別に、直接連絡の取れる線は1本持っておきたかった。

 

建前は、それで通るだろう。

 

「せ、先生。」

 

カンナは勇気を振り絞り、先生へと近付いていく。

 

「何だ?」

 

「その……シャーレは生徒の悩みを聞く組織なんですよね?」

 

「そうだな。」

 

「ではシャーレが普段の活動において武力介入するような事態は起き得るのでしょうか?」

 

カンナの質問を聞いていたコノカ達は、その場に居た全員が、一斉に額へ手を当てる。

 

そもそも碌に異性(動物やロボットは除く)と話したことすら無いゴチゴチの堅物に口説きスキルなどあるわけがなかったのだ。

 

そう思っていたのだが、会話は意外な形で進んでいく。

 

「まあ、場合によってはそうかもしれん。」

 

「ではアビドスのブラックマーケットにおいての戦闘も、やはり先生が関わっていたのですね?」

 

「え"っ……。」

 

ここで先生の様子が明らかに変わる。

 

「先生がそこで何をしていたのかを我々は知りませんし、調べるつもりもありません……これからその銃をどう使うのかも。」

 

「あ、ああ……。」

 

「ですが、私個人としては……。」

 

ここで補足だが、カンナの声はホシノやノノミのように高音帯の可愛らしいものではない。

 

ハッキリ言って男のような、下手をすれば一部の男よりも音の低い、威圧感のある特徴的な声を持っている。

 

おかげで心臓をバクつかせている内面とは裏腹に、カンナの声色は言い回しも相まって容疑者に対する尋問や詰問のそれだった。

 

きっとこれがヒフミの声だったら先生の反応も大きく変わっていただろう。

 

「……わ、私としては非常に気になります。」

 

「そうかぁ……。」

 

「だから連絡先を教えてくれませんか?何かあればすぐに電話することが出来るので。」

 

「……是非とも。」

 

おそらくここで『危ないから心配なんです』とでも付け足しておくべきだったかもしれない。

 

そうすれば少なくとも『お前のことをマークしてるぞ』なんて受け取られることは無かった筈だ。

 

だが結果としてカンナは先生の連絡先を手に入れることに成功した。

 

先生がしこたま武器を抱えてヘリで帰ると、署内は妙な熱気に包まれた。

 

「やりましたね! 連絡先ゲットです!」

 

「絶対なんか勘違いされてたっすけど……まあ、ナイスプレーっす、姉御!」

 

口々に騒ぐ部下達を押しのけるように、カンナは足早に自室へ戻る。

 

「うるさい。これはあくまでも公務のためだ。」

 

そう言い捨てた声はいつも通り低く鋭かったが、閉まりかけた扉の向こうで、口元だけは少し緩んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

[先生、おかえりなさい……って、大丈夫ですか?]

 

「アロナ、ヴァルキューレの動向を見張ってくれ。特に公安を。」

 

[分かりました。何かあったんですか?]

 

「いや、まだ疑われてるだけだ。けど、意外と近い距離に居る。今後は慎重に動くべきだな。」

 

[よく分かりませんが、先生がブタ箱に入らないことを祈っていますね!]

 

「ああ……って、どこでそんな汚い言葉を覚えた。」

 

[先生です!]

 

「……反省するよ。」

 




後半はぶっちゃけカンナを書きたかっただけです。カンナ良いよね。


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