元傭兵先生、貞操逆転世界を行く   作:ゆうぐれ

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第9話 覆面水着団、銀行に見参!

便利屋史上、最初にして最大の作戦が完膚なきまでに叩き潰されてから10日後、便利屋一行の姿は再びブラックマーケットの中にあった。

 

4人の視界に映るのは小綺麗な外見を持ち、外の自治区では見ない看板を掲げた銀行。

 

これは普通の銀行はもちろんのこと、消費者金融にすら金を借りることが出来なくなった連中の行き着く先のひとつ。

 

債務者に対して非常に緩い融資の条件と高い金利、限りなく黒に近いグレーな取り立てが有名な闇銀行だった。

 

アルはここ1週間のことを思い返す。

 

報酬をアテにしていた作戦が完全に失敗したことで便利屋の財布事情は急速に悪化。

 

もう傭兵を雇えないというのに依頼主はアビドスへの襲撃を再度命令してきた。

 

銀行に金を借りようにも担保すらない便利屋に融資してくれるお人好しは存在せず、こうして泣く泣くブラックマーケットに足を運んできたのだ。

 

「はぁ……もうこれしかないのかしら……。」

 

「だから博打はやめとけって言ったのに……。」

 

「しょうがないでしょう?あの作戦、良い線行ってたと思うんだけど……。」

 

「せ、先生が邪魔ですね……爆破します?」

 

「ハルカちゃん、それはやめといた方がいいかも。死んじゃうし。」

 

「まずウチが連邦生徒会に目をつけられるよ。」

 

アル達は銀行の中に入ると、整理券を取って席で待つ。

 

すると遅れて入り口のドアからひとつの集団が入ってきた。

 

6人からなるそのグループは、全員がそれぞれ黒やグレーのスーツを身に纏っており、手には大きなボストンバッグやジュラルミンケースを持っている。

 

真っ黒のサングラスをかけていることもあって雰囲気は非常に物々しい。

 

きっと、というか絶対にカタギの人間ではないだろう。

 

また中央の1人はなんと男だった。

 

レアな存在を前に、周りのスタッフや客がざわめき出す。

 

アウトローな男を、映画を除いて初めて目にしたアルは興味あり気に視線を向ける。

 

すると隣のカヨコから顎を掴まれて、無理やり視線を逸らされた。

 

「馬鹿っ……本職の男なんか絶対に関わるもんじゃないよ……!」

 

「本職って……私たちもそうでしょ……?」

 

「あっちはもっとヤバいことに手を染めてんの……!ウチは可愛いもんだよ……!」

 

しかしカヨコの焦りとは裏腹に、彼らはスタッフへ声をかけると、大人しく指示に従った。

 

整理券を取って、アル達の近くへ腰を下ろす。

 

銀行側も男というイレギュラーに慌ててはいたが、ギャングという点には驚いていなかったことから、きっとこのような客は珍しい存在ではないのだろうと、少しホッとする。

 

が、直後、彼らの一部が個別に動き出した。

 

1人がトイレへ、2人がチラシのホルダーへ、それぞれ向かう。

 

そしてふとアルの視界の端に、隣の人物が何か手を動かしている様子が映り込んできた。

 

特段気になったわけではないが、彼女はそちらを少しだけ注視する。

 

サングラスを外し、『0』のワッペンが貼られた黒いバラクラバを被っているところだった。

 

その2つの穴から覗く双眸と視線が重なる。

 

「………えっ。」

 

次の瞬間、ゴッッ!と周囲へ鈍い音が響いた。

 

驚きながらも音の方を見ると、トイレに向かった1人が近くのロボット警備員を殴り倒し、床へ組み伏せていた。

 

同じくチラシを眺めていた2人も即座に付近の警備員を背後から無力化し、後ろ手に結束バンドを巻き付ける。

 

「ぎ、銀行強盗!?」

 

「別にキヴォトスじゃ珍しくはないでしょ。ほら社長、早く地面に伏せるよ。」

 

「くふふ……この混乱に乗じてお金を奪っちゃう?」

 

「せ、セムテックスなら持っていますよ?」

 

「ちょっと、これ以上面倒事を増やすなっての。」

 

他の客が悲鳴を上げる中、便利屋の4人は手早く床に伏せる。

 

入り口付近に立っていたロボット警備員は急いで腰の拳銃を抜こうとしたが、その前に複数の銃口が彼へ向けられた。

 

「動くな!そのまま動かずに手を上げろ!」

 

低い怒声を上げながら、黒いバラクラバを被ったその人物は構えたM733の引き金に指をかける。

 

対して警備員は大人しく銃を捨て、両手を上げた。

 

「よし、そのまま床に伏せてろ。ブルー。」

 

「ん。」

 

黒いバラクラバの人物は青色のバラクラバを被った仲間へ目で合図し、警備員を拘束する。

 

気付けば他のメンバーもそれぞれ色と番号がついたバラクラバを被り、ガリルやFNC、モスバーグなどの銃器で武装していた。

 

そしておそらくはリーダーなのか、1人だけ明るいベージュのスーツ姿で頭にはファストフード店の紙袋を被り、手にはガバメント拳銃を握っている。

 

「え、えと、皆さん大人しくしてくださいねー。」

 

「PMCを呼べ!早く!」

 

「あー、助けは来ないと思いますよ?もうシステムは掌握しているので。」

 

警報ボタンを連打していた銀行員に紙袋の少女は躊躇いもなく銃口を向ける。

 

銀行員が両手を上げると、他の仲間達がバッグを持ってカウンターを飛び越える。

 

一方、黒いバラクラバの人物は独りアル達一般人の方へ近付いてきた。

 

「安心しろ!盗るのはアンタ達の金じゃない!そのまま床に伏せていればすぐ終わる!気分が悪いなら壁に寄りかかってもいい!だが、間違っても英雄になろうなんて思うんじゃないぞ!」

 

そう言いながらアルやカヨコ達のことをジッと観察してくる。

 

その人物の背後ではオフィスに入り込んだ他のメンバー達が何やら書類やパソコンを漁っていた。

 

そして片っ端からバッグとケースに詰め込んでいく。

 

結局、強盗団が居たのはそれから5分もなかった。

 

目的を達成したのか、全員がバッグやケースを持ってさっさと退散していく。

 

出入り口の扉が閉まり、緊張が解けると、アルは感極まったようにキラキラと目を輝かせながら立ち上がった。

 

「社長?」

 

「か、カッコいい……!」

 

「あらら、おメメ輝かせちゃって。」

 

「はぁ……これ気付いてないやつだね……。」

 

周囲の銀行員がPMCを呼べと慌ただしく動いている中、いつも通りのアルの姿を前にムツキは微笑み、カヨコは溜め息を吐く。

 

あの身体的特徴から、というよりも『男』という時点で黒いバラクラバの人物は1人しか覚えがない。

 

また他のメンバーも記憶に新しい人間ばかりだった。

 

唯一アルだけは分かっていなかったようだが。

 

「こ、これからどうしますか?待機ですか?」

 

「私達が何かする必要は無いよ。このまま待ってる。」

 

「アルちゃんもああだしねー。」

 

独り熱くなっているアルを微笑ましく思う他3人だった。

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

銀行を出た一同は道端に停めてあったバンに、数年前に廃業した水道業者のロゴが貼られたそれに乗り込んだ。

 

運転席では『5』のワッペン付きの黄色いバラクラバを被った、通称イエローことアヤネがハンドルを握っており、ブラックもとい先生が肩を叩くと、彼女は車を発進させる。

 

荷台ではバッグやケース類に囲まれた仲間達、ホシノやシロコらが安堵の息を吐いていた。

 

「ふぅ〜、何とか上手く行ったね〜。」

 

「大した怪我人も出なくて良かったです♪」

 

「最初にシロコ先輩が殴った警備員、大丈夫なのかな?」

 

「ん、問題ない。電気ショックで落としただけ。」

 

「うぅ……どうして私がこんなことまで……。」

 

バラクラバの中に混ざる紙袋、ファウストことヒフミは肩を落とす。

 

ちなみに本来はファストフードとなる筈だったが、ダサいからとファウストになっている。

 

落ち込む彼女の前に先生は腰を下ろした。

 

「お疲れさん、怪我は無かったか?」

 

「い、いえ……でも私のキャリアに傷はついたかもです……。」

 

「すまんな。もしボスへの弁明が必要ならいつでも呼んでくれ。これだけ借りを作ったんだし、何でもするよ。」

 

先生の言葉にヒフミはピクリと反応する。

 

ついでに周囲で聞き耳を立てていたシロコ達も。

 

直後にセリカが間へ割り込んできた。

 

「待って先生!その言い方は絶対に誤解される!せめて何か奢るくらいにしといて!いや、それもハッキリ言って微妙だけど……!」

 

「あっ……ああ、そうか。そうだな。それでいいか?」

 

「……ええ、もちろんです。」

 

どこかから舌打ちが聞こえた気がしたが、おそらく勘違いだろう。

 

それからは静かなドライブ……とはならない。

 

次の瞬間、轟音と共に車体が大きく揺れた。

 

「何だ!?」

 

「ま、マーケットガード……銀行お抱えのPMCです!」

 

「畜生……予想よりも早いな……!」

 

先生は助手席の窓から後ろを覗くと、後方から追ってくる装甲車の一団が目に入ってきた。

 

すぐに発砲炎が敵車両に発生し、連続した破裂音と共に鉛玉が飛来してくる。

 

それらは大半が空を切るか、地面のアスファルトに突き刺さったが、一部はバンの車体へ小さな穴を開けていく。

 

「ぐっ……アヤネ!ルート変更だ!予定の路地へ逃げ込め!」

 

「はい!」

 

「残りは応戦だ!顔を隠すのを忘れるなよ!」

 

「ん、分かった。」

 

「りょーかい。」

 

ホシノ達はバラクラバを被り直す。

 

バンの後部ハッチとスライドドアを開くと、そこから銃を突き出し、敵に向かって発砲を始めた。

 

先生もドアの窓を開け、ライフルを構えようとする。

 

しかし隣のアヤネに襟を掴まれると、車内へ引き戻された。

 

「ちょっ……!?」

 

「先生は顔を出さないでください!ホシノ先輩!先生を頼みます!」

 

「はいはーい。先生、私の裏に隠れてねー。」

 

「俺も戦えるって……!」

 

「いいから。先生が負傷すると取り返しがつかないんだし。」

 

ホシノは盾を展開すると、先生をバックに荷台の隅っこへ座り込んだ。

 

どさくさに紛れて身体をピッタリとくっつける。

 

「せ、先生、ちゃんと私の後ろに隠れてね?」

 

「はいはい……分かったよ……。」

 

「うへ……役得だなぁ……。」

 

皆んなが戦っている中、自分だけが先生の温もりを感じていることにホシノは背徳感を覚えた。

 

一方で、周りではシロコ達が激しい銃撃戦を繰り広げていた。

 

しかし相手は防弾仕様の装甲車であり、こちらの小銃程度では倒せる筈もない。

 

せめてもの救いが敵に重機関銃が見受けられないことだろうか。

 

ともかく下手に撃ち合えば、こちらの車重だけが軽くなっていくことに変わりはない。

 

すると案の定というか、後部ハッチが被弾によって剥離し、隠れる場所が無くなってしまった。

 

「ヤバッ!このままじゃジリ貧よ!」

 

「こちらの攻撃が通りませんね〜。」

 

「ん、ガンナーくらいなら仕留められる。」

 

そう言うとシロコはライフルの引き金を絞り、敵車両の固定機銃の銃手を撃ち抜く。

 

「シロコ先輩、やるぅ!」

 

「こっちも負けてられませんね。」

 

「うぅ……ハンドガンじゃ何も出来ませんよぉ……。」

 

すんでのところでバンは大通りから車1台分の路地へと滑り込んだ。

 

横列から縦一列になって追ってくるPMCを見ると、先生は助手席に座り直し、腕の端末で付近一帯の航空写真を眺める。

 

そしてアヤネに次の指示を出そうとしたが、ふと前方の道路にあるものが見えると、すぐにライフルを構えた。

 

「RPG!」

 

引き金を引いたのは先生の方が早かった。

 

M733のフラッシュハイダーから四方へ燃焼ガスの炎が伸び、撃ち出された弾丸がフロントガラスに穴を空けていく。

 

しかし致命的な命中弾は与えられず、敵の兵士は肩に担いだRPG-26を発射してしまう。

 

「やばいっ!」

 

「きゃあっ!?」

 

放たれたロケット弾はバンへと迫ってくると、弾痕だらけのフロントガラスを容易く突き破った。

 

驚くアヤネと先生の間を通り、その後ろで銃撃を行っていたシロコ達の頭上を過ぎると、最後にはハッチの無い荷台から飛び出していく。

 

そしてそのまま真後ろの敵装甲車に直撃した。

 

ドガッッ!!っと、爆煙と粉塵が路地を包み込む。

 

「うへっ!?」

 

「い、今何か通り過ぎていかなかった!?」

 

「ん、何にせよ結果オーライ。」

 

敵の追撃が一瞬途切れた隙をついて先生達はバンを降り、更に狭い路地へ徒歩で逃げ込んだ。

 

少しすると、バンに残したプラスチック爆弾がタイマーの終了と共に起爆する。

 

ガソリンに引火し、たちまち黒煙が立ち昇った。

 

「よし、車は処理出来たな。ここからは徒歩で回収ポイントへ向かうぞ。」

 

「あぁ……書類が重い……。」

 

「フル装備の背嚢よりは軽いわよ。ほら、早く歩いた。」

 

「セリカちゃんが鬼畜だよ〜。」

 

一行はバッグとケースを抱えながら複雑な路地を、アロナのリアルタイムの案内の元、敵を避けながら進んでいく。

 

追手は撒けたようで、ブラックマーケットと隣の自治区との境目までどうにか辿り着くことが出来た。

 

ヒフミは路地裏から顔を覗かせると、先程とは打って変わって綺麗になった道路と人相の良い通行人を前に安堵の息を吐く。

 

「ふぅ……これで少しは安心出来そうですね。」

 

「ん、あとはアビドスに帰るだけ。」

 

「その前に砂漠で証拠隠滅だ。車を回す。」

 

アロナがシャーレのバンを持って来てくれるまで先生達はその場で待機となった。

 

人の目を引くバラクラバは脱ぎ、念の為にサングラスだけは着けておく。

 

待っている間、ホシノ達は手に入れた戦利品を軽く眺めてみた。

 

「これは取引の経歴ですね。読むまでもなく真っ黒です♪」

 

「うわ……違法な組織ばっかり……ティーパーティーがマークしてる連中まで居ますよ……。」

 

「これは……銀行員の給料明細でしょうか?意外と標準的なんですね。」

 

「はぁ……こっちのはただの報告書ね。ハズレだわ。」

 

各々がバッグに詰まった書類を眺めていると、ホシノはまだ開いていないバッグを見つけた。

 

彼女は何気なくそれを開くと、目を見開き、驚きの声を漏らす。

 

「うへっ……!?」

 

「何かあったか……おぉ……。」

 

先生もホシノの手元を見ると、ただ驚くしかなかった。

 

そこに入っていたのは書類と一緒に詰め込まれた大量の札束。

 

ざっと1億は下らないだろう。

 

しかし先生はすぐに現状を思い出し、顔を顰めると、シロコ達の方を振り返る。

 

「誰だ。カネは無しと言っただろうに。」

 

「先生?どういうこと?」

 

「バッグにカネが詰まっていた。今回の任務は情報の収集だ。あくまでもアビドスの為で、私利私欲の為ではなかった筈だが。」

 

「……ん、私。」

 

誰もが困惑の表情を浮かべる中、おずおずといった様子でシロコが手を挙げた。

 

「盗ったのか?」

 

「違う。銀行員に他組織との取引に関する書類を要求したら何故かお金まで押し付けてきて……。」

 

「シロコが持って来させたわけじゃないんだな?」

 

「それはもちろん。」

 

口調を強めにしていた先生だったが、別にシロコを強く糾弾するつもりはなかった。

 

自ら先導して銀行を襲っておきながら、金を盗むとは何事だと怒るのも変な話だと思ったからだ。

 

ただ一方のシロコは状況を深刻に受け止めていた。

 

彼女にとって先生は社会的にも個人的にも絶対に嫌われたくない相手だった。

 

「せ、先生との約束は破っていない。絶対に。信じてほしい。」

 

シロコは必死な様子で先生へ詰め寄り、縋るように彼の腕を掴む。

 

らしくもなくオロオロとした彼女の姿にホシノ達も心配の視線を向けていると、先生の手が伸びて来る。

 

そしてわしわしとシロコの頭を撫でた。

 

「盗ったつもりがなかったのならいいんだ。気にするな。」

 

「でも、捨てればよかったのに持ってきちゃった……。」

 

「わざわざカネと書類を選別する時間は無かったさ。それよりコイツはどうするか……。」

 

先生は札束の入ったバッグを困ったように眺める。

 

以前の自分なら喜んで使っていたことだろう。

 

しかし今の立場は多少過激ながらも教育者という立場にある。

 

高潔な精神を持ち合わせているわけではないが、少なくとも生徒の前で堂々と不正を行えば色々と良くないことは間違いない。

 

「……コイツは捨てる。いいな?」

 

「せ、先生……本気?」

 

先生の言葉に対してセリカが名残惜しそうにバッグへ視線を向ける。

 

「1億よ?学校の借金を一気に返せるのよ?」

 

「ああ、だがやめておけ。一度でもカネの味を知ると、もう抜け出せなくなるぞ。特に違法に入手した、身の丈に合わない額のカネはな。」

 

「でも悪人のお金じゃない!私たちが使っても問題ないでしょ?」

 

セリカの言葉に先生はグッと言葉を詰まらせる。

 

少しの間を置いて、先生は視線を逸らしながら口を開く。

 

「ああ……そうだ。確かにそれは悪い連中の金だ。別に良心は痛まない。」

 

「でしょ?だったら……!」

 

「けど、奪った事実は変わりない。セリカ、お前さんらには『あっち』の世界に足を踏み入れてほしくないんだ。奪うことに慣れれば、同じことを何度も繰り返す。そういった連中の末路は何度も見てきたし、どれも悲惨だった……俺を含めて。」

 

先生は落ち着いた口調で淡々とセリカを諭す。

 

その妙に説得力のある言葉にセリカは渋々と引き下がった。

 

すぐに彼女の肩へホシノが手を添える。

 

「まあ、気持ちは分かるよ。アビドスのことを考えればごもっともだよね。」

 

「な、なら……!」

 

「でも私は先生の意見に賛成かな。可愛い後輩には道を外れるようなことはしてほしくないし。」

 

「……分かった。」

 

コクリと、セリカは首を縦に振る。

 

そこでちょうど1台のバンが交差点を曲がって近付いてきた。

 

[先生、お待たせしました!]

 

「すまんアロナ、アビドス砂漠まで頼むよ。」

 

[はい!乗車賃は1億円です!]

 

「やらんぞ。」

 

先生達は停まったバンに乗り込もうとする。

 

だがその時、彼らに駆け寄ってくる人物が居た。

 

「誰だ!」

 

「わっ!?ちょっ……ま、待って!」

 

先生がライフルを向けると、シロコ達も即座に銃を手にする。

 

沢山の銃口を向けられた件の人物、陸八魔アルは慌てて両手を上げた。

 

「わ、私は敵じゃないわ!」

 

「げっ……!?確かコイツこの前の……!」

 

「ん、先せ……ブラック、撃つ?」

 

「待て、奴は武装していない。今は様子見だ。」

 

先生はゆっくりと銃を下ろす。

 

「それで?ウチに何か用か?」

 

「えっ、えっと、その……な、何というか……。」

 

アルは指先を弄りながら少し興奮気味に話し始める。

 

その内容は意外なものだった。

 

「さ、さっきの銀行強盗、鮮やかな手腕だったわ。ものの5分もかからずに撤収してしまうなんて……貴方達、稀に見るアウトローっぷりね!」

 

「あー、あぁ……。」

 

「まさか目の前であんな光景を見られるなんてすごく感激したわ。だからその……何というか……わ、私も頑張るわ!同じアウトローとして!」

 

まるで戦隊ショーを見た子供のように鼻息荒く目を輝かせるアル。

 

対して先生達は何とも複雑な気持ちだった。

 

「それでなんだけど……あ、貴方達のチームの名前を教えてくれないかしら?今日のことを覚えておく為にも。」

 

「名前……名前か……。」

 

先生は顎に手を当てると、次に背後のホシノ達へ視線を向ける。

 

案はないかと目で伝えれば、何か思いついたのか、ノノミが笑顔で前に出てきた。

 

「はいっ、私達は『覆面水着団』です♪」

 

「……えっ。」

 

「……はっ?」

 

あまりにも予想外のチーム名に一行は目が点になる。

 

しかしアルだけは変わらず興奮冷めやらぬ様子だった。

 

「覆面水着団……すごくクールだわ……!」

 

「いつもはスクール水着と覆面姿で活動しているんですけど、今日はちょっと事情があってこんな格好なんです。あ、この男の人は私たちの専属マネージャーさんです。」

 

「へえぇ……!」

 

アルの純粋な反応を前に先生は苦笑いを浮かべていると、彼女の背後にカヨコやムツキ達が現れたことに気付く。

 

目が合うと、カヨコはふいと視線を逸らし、ムツキは軽く手を振ってくる。

 

ハルカに至っては後ろ手にショットガンを持っていたことから、おそらくこの場で互いの関係を理解していないのはアルだけなのだろう。

 

「んっ、んん”っ!ファンサはそこまでだ。早く撤収するぞ。」

 

「そういうわけなので、私達はこれで♪」

 

「ええ!さようなら!」

 

シロコ達がバンに乗り込むと、先生も運転席のドアを開けた。

 

しかし一度考え込むと、例のバッグを持って便利屋の方へ足を向ける。

 

そしてアルではなく、カヨコの前で止まった。

 

「よう、さっきぶりだな。」

 

「教育者が銀行強盗ね……随分とここに染まってきたじゃん。」

 

「似たようなことなら昔もやってた。それよりあの銀行に行ってたのは資金繰りのためか?」

 

「……そんな余裕そうに見える?」

 

「そうかい。じゃあ、これやるよ。」

 

先生はカヨコにバッグを押し付ける。

 

「重いね……何これ?」

 

「口止め料だ。個人的にお宅とは上手くやっていきたいと思ってるんでね。」

 

「ふ、ふーん……そう。」

 

「てなわけで、俺たちはここには居なかった。そっちも俺たちを見なかった、オーケー?」

 

「オーケー。」

 

「あと、それは特例の処置だからな。あくまでも生活の立て直しに使え。変に浪費したら承知しないぞ。」

 

そう言うと先生は踵を返してバンに乗り込み、すぐにどこかへ行ってしまった。

 

残されたカヨコ達はバッグを地面に置き、中を拝見する。

 

そして数秒ほど固まった後、ポツリとカヨコが呟く。

 

「取り敢えず、借金と家賃払って、銭湯とご飯に行こっか。」

 

彼女の言葉に他3人はただ無言で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎

 

「アコ行政官、情報局からの追加の報告書です。早急に確認してほしいとのことだそうで……。」

 

「また連中が動きましたか……ん?ふむ……なるほど……これは非常に興味深いですね。」

 

「というと?」

 

「奴ら、例の新顔に急接近しているようです。情報提供の為に虎の子の新鋭機まで引っ張り出してくるなんて、あからさまに恩を売りつけていますね。」

 

「ティーパーティにしては行動が大胆というか、考え無しというか……らしくないですね。条約の締結も迫ってきているというのに、一体何を企んでいるんでしょう?」

 

「お悩み相談室と評した連邦生徒会直属の即応組織、そこの職員はキヴォトスでも稀に見る大人の男……まあ、味方に引き入れたくもなりますね。様々な意味で。」

 

「彼の存在が条約に影響すると?」

 

「ええ、シャーレの裁量権は非常に大きいです。下手にそこを通じて我々の情報がトリニティに漏れようものなら、条約に限らず、平時においても悪い影響を受けかねません。」

 

「ではこちらからもコンタクトを取りますか?」

 

「ふむ……ですが連中に遅れをとった今、ノコノコと後から行くのは癪ですね……そうだ。」

 

「行政官?」

 

「ふふ……チナツさん、我々風紀委員会がすべきことは何か分かりますか?」

 

「先生との個人的な関係構築ですか?」

 

「いいえ、先生の『保護』です。先生が事件が巻き込まれてしまう前に、彼をいち早く我々の庇護下に置き、身の安全を確保するのです。」

 

「つまり後々影響力を持つであろう先生を先んじてゲヘナに引き入れると。男が居るという事実だけでも強いカードになりますしね。」

 

「そうです。しかし『保護』となれば相応の理由付けが必要となりますね……。」

 

「それなら彼女達を利用するのはどうでしょうか?経緯は不明瞭ですが、情報局によれば先生との接触が複数回確認されています。」

 

「カヨコさんのところですか……良いですね。では早速部隊の招集を。いつでも出せるようにローテーションで待機させてください。イオリにはこちらから伝えておきます。」

 

「承知しました。ちなみに委員長への報告は……?」

 

「必要ありません。素早く目標を回収し、委員長に献上すれば無問題です。そして私は慰労の言葉を……ぐへへ……。」

 

「行政官、涎が垂れていますよ。」

 




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