とある剣士のVRMMO物語   作:ほがみ(Hogami)⛩

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3話 次

月夜に響く足音。誰もいない夜の路地に1人、シンは死んだような目をして歩いていた

気力もなく力もない。ただ街の中央にある休める広場を目指して歩いていたのだった

それを運良く見かけたアルゴは、この間話したダンジョンについて聞きたいと話しかけようとした瞬間―アルゴはシンの異変に気づいた

 

シン「…アルゴか。」

アルゴ「おい、シン…大丈夫なのカ?」

シン「……あのダンジョンは崩壊したよ。ボス討伐と同時にな。だから永遠にあのダンジョンが盛ることはない」

 

そう言ってアルゴの呼び止めも聞かずシンは歩んでいく

次第にシンは広場にたどり着き、近くのベンチに深く腰掛け天を見上げた

はぁ…と体の奥から息が漏れる。何時間も戦った後だ。しかも格上相手に。おかげでレベルは上がったものの、大事な仲間を失った

疲れか、それとも哀傷か。わからぬままシンは数字前のことを思い出した

 

―絶対絶命の時。マイが目の前に出てくれなかったら、シンが死んでいた

あの一撃でマイは敗れてガラスの破片となり、俺はマイが落として行ったアニールブレードを片手にボスと格闘を広げた

そして気づいた時にはボスは既に死しており、手に残ったのは、ドロップアイテムの片手直剣《フェイトブレイカー》と未知のソードスキル《刃鋭》。

だけど…

 

シン「なにが君のことは俺が守る…だよ…何も守れてないじゃないか」

 

未熟な自分への悔しさ

未だゲームだて言う感覚が抜けていないせいでこの結末だ

この世界の死は現実の死。それをどこかで否定したかったのかもしれない。だが―その心のせいで彼女は死んだ

共に過ごして1ヶ月弱。初めこそ戦えるようになるまで―と思っていたものの、いつしかパートナー的な存在になっていた

空っぽになった心を埋めるものは何も無い

シンが自暴自棄になりかけていた時―シンに向かってねぇ。と声をかけられた

天を見ながら目だけでその声の方を見ると、そこに居たのは黒髪ロングの女性であった

 

シン「…なんか用か」

「そこ、私が予約してたところなんだけど」

シン「…予約?なんの話だ」

 

女性はピッピッと指でベンチを指差す

ベンチの話か。だが今更動く気力もない

予約制のベンチだと知らなかったということで話を通そう

 

シン「…悪かった。このベンチは予約されてたなんて知らなかったんだ」

「そんなわけないでしょう!ほらそこ!足元に立て札があるじゃない!見えなかったとでも言いたいわけ?!」

シン「…あぁ。上を向いているからな。それにこのベンチ―いや、自分で金を出して取ったもの以外は全て公共のものだ。それを独り占めするなんて…余程の独占欲があるんだな」

 

そういうと女性はぐぬぬぬ…と言わんばかりの顔でシンを睨みつけてきた

さっさと退けば良かったか―と選択を悔やむシンだったが、女性はコホンと一息ついてシンの隣に座り直したのだった

何をしているのかと思うシンの隣で女性は構わずパンを食べ始めていた

 

シン「…なぜ俺の隣に座る」

「あら、全て公共のものと言ったのは貴方ではありませんか。それなら私がどこに座ろうと勝手ですわよね。それとも?あなたはこのベンチにお金を払った―とでもおっしゃるんですか?」

シン「……好きにしろ」

 

わざとらしいお嬢様口調で女性はニコニコと笑う

まさか自分が言ったことを理由にそのまま返されるとは思っていなかった。普通の人であれば、デスゲームとなった今の現状少し気がたって、感情的に言い返して怒ると想定できた

がこの人は怒らず冷静に言い返し、それでいて相手の言葉を逆手にとった…なかなか出来ている人間だ。今の現状に臆することなく立ち向かっているようにも見えてくる

―既に1000人近くが世界からログアウトしているというのに、臆することない…か。シンは再び天を見上げぼーっとする

すると、女性はシンに向かってあなたも食べる?と口にパンをくわえながら差し出してきた。

当然のごとく食べる気もないから断ると、女性はパンをしまってくわえたパンを噛みちぎって咀嚼し始めた

何度か噛んだ後飲み込むと、女性はキョロキョロし始めてシンに対して問いを投げた

 

「…あなた何かしたの?周りの人みんなあなたを避けてるんだけど」

シン「知らん。NPCじゃないならプレイヤーを避けたくなるのも必然だろう」

 

そういうと女性はそういうことじゃないんだけど…と呟く

ゲームの世界で閉じ込められていると言うのに、パンを食べるほど気楽な人は今まで見たことがない

シンは女性に対して一つ聞いてみた

 

シン「…なぁ、君はなんのためにこの世界に生きる?」

「ん?ゴクン―…それって哲学的な話?」

シン「いや、ただの感情的な話だ。俺はある人を守るために戦ってきたが、でもさっき目の前で失った。生きる理由が消えた今――何もする気が起きないんだ」

 

女性はその言葉の意味をすぐに理解し、シンにかける言葉を少し悩んだ

そして時間にして数十秒―女性は口を開いた

 

「そう…ならしっかりと休みなさい!しっかりと休んで次の道に進むのよ!」

シン「しっかりと休むって…人が目の前で死んだんだぞ!休めるもん―」

「あら、人はいつかは死ぬわよ。貴方も私も。それは刹那でありこの世の理。でもね、こんな惨憺たる運命の中私たちは生きてる。この物語は私だけの―貴方だけの物語なんだから、それを途中で白紙にするなんて勿体ないわ」

シン「…―」

 

女性はシンの手を優しく掴み、言い直した

なぜだか女性の言葉はとても説得力あるし、聞いていられる。それは凍りついた心が太陽によって融けていくように

 

「今は休んで、これから新しい物語を始めればいいのよ。貴方が失ったその子もそれを望んでいるはずだわ」

 

その言葉にシンはマイの最期を思い出した

―強く生きて、この世界を見届けて。彼女はそれを最期に言い残しこの世界から去ったのだ

剣という希望を託して

それならばやることは一つ。彼女が言ったようにこの世界を見届けることただ1つのみ

少し希望が見えたシンは女性に向かってありがとうと言う。すると女性は顔を真っ赤に染めて、そそそれはどうもとつぶやく

 

「と、とにかく!貴方からの問いを答えるのだとしたら、私は自分の物語を終わらせないために生きてる。この世界だろうと現実だろうとね」

シン「…そうか。色々と助かった」

 

するとその時、少し離れたところから誰かの名前を呼ぶ声が聞こえてきた

その声に反応するように隣に座っていた女性は立ち上がりここだよーと手を振って存在をアピールし始める。遠くに名前を呼ぶ声の主が見える

女性はあ!と駆け出して行ったのも束の間、再び振り返ってシンに向かって自分の名前を言った

 

ヒカリ「私の名前はヒカリ。また会う時はお店でも予約してあげる!」

シン「そうか…楽しみにしておくよ」

 

そういうと女性――ヒカリはにこっと笑って立ち去る

―自分の物語を終わらせないために生きてる。彼女はそう言っていた。その決して揺らぐことはなさそうなその決意にシンは尊敬する

そうして再び天を見上げる。第一層の天井にはきらめく星がたくさん散らばっており、現実の物とは全く異なるが、どこか懐かしいような感覚を覚え手を伸ばした

死した人は天に上り、星になると言われているが、それはこの世界でも同じなのだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

その後…

あれから数日間、シンは何も考えずにひたすら第1層から第2層へと繋がる迷宮区で療養という名のレベリングに励んでいた

なにも考えることなくただ来る敵を倒す。気づけばレベルは20を超えそうになるほど上がっていた

シンはマイの命と引き換えに手に入れた武器、《フェイトブレイカー》とスキル《刃鋭》にを試しながらレベリングしていた結果、その二つについてわかったことがあった

武器《フェイトブレイカー》は既存の武器とはかなり違っている。

その一つに既存武器は武器屋による武器の強化ができる。既存武器は初期攻撃力に加えてクリティカル+1や攻撃力+2のように追加で強化することができるのだが、この武器は一切の強化は受け付けなかった。

―これから先、武器によるアドバンテージが存在しなくなる。武器を買えればいい話なのだが、形見のようなこの剣を手放す気は現状ない。

 

シン「それと気になるのはこの『運命は貴方と共にある』って言う記述だよな…武器種も不明だし」

 

シンは迷宮区の安全地帯にて剣を膝にのせて腰を掛けながら剣を触る。

見た目はアニールブレードよりも細く黒い刀身に刃が赤く染っている日本刀のような片手剣なのだが、アイテム詳細には武器種は書いていない

もしかしたら別のスキルも…とは思ったものの、片手剣スキルしかあげていないため、試しようがなかった

 

スキル《刃鋭》についてだが、これはソードスキル(SS)ではなく、アシストスキルに分類されるそうだ

詳細は『片手剣類攻撃力アップ。スキル発動時、低確率で攻撃が2倍になる』などなど…

ついでだが片手剣スキルに《刃鋭》取得によって新たなスキルが追加された。片手剣SS《辻》。腰元に剣を構え、水平に一振り。そのダメージは振る速度によって変動するようだ

またしても興味深いのは、刃鋭スキル詳細の最後に『運命は貴方を選んだ。それはただ一つの運命』と記述されている。ただ一つの運命――それが何を指すのだろうか…

 

シン「―まぁ進めて行けばわかるか…ん?」

 

何かの気配を察知し、シンは剣を手にしてその気配に警戒する

安全圏にいるためモンスターは侵入できない。だが、危機はモンスターだけではない。プレイヤーは場合によって敵になる

今はまだデスゲームとなってから動きは無いようだが、これから先、プレイヤーキルが横行するだろう

数多いゲームでそれを見てきたから分かる。確実にキルプレイヤーは現れる

 

つーっと汗が頬を伝う

敵か味方か。それを判断するのはほんの数秒

安全圏とは言えど、あくまでモンスターが侵入、出現しないと言うだけのもの。プレイヤーは例外だ

入口に手がかけられる。手の形からして男性、位置からみて青年程の身長だ

 

シン(…警戒を怠るな。怠れば即ち死…)

 

そう考えている間に現れたその男の正体は、この間付近の森で石を誤投した男であった

 

「…先客がいたのか。俺が1番全線だと思ってたんだけど…」

シン「悪いな。1度攻略済みなんだ」

 

その言葉を聞くと男…いや、青年はやっぱあんたは…と呟いた

シンは先程の言葉とこの間の言葉から、青年とベータ時のプレイヤーの姿を重ねた

そいつはかつてシンがベータの7層迷宮区にて、ボス部屋を初攻略かと思いきや扉を開けたら、その先にすました顔で「悪いな」と言い放った男だ

全く違う顔立ちや姿であるが、それから溢れ出るモノは変わらなかった

 

シン「今回は俺が先だったな。ベータは7層で負けた訳だが…第1層は俺が行く」

「…初めて見た時から知ってる雰囲気だなと思っていたよ。剣を下げてくれ。俺に敵意は無い」

 

それを聞いてシンは剣を下げる

この男に敵意は無い。ベータ時に戦ったことがあるからそれは明白。

ベータ時も意味もなくプレイヤーキルは行わず、ただ我先にという雰囲気であった

そして青年は協力しないかとシンに問いかける

デスゲームとなった今、ベータの時の因縁など無意味に等しい。だからゲームをクリアするために協力しよう。との事だった

実際、2人はベータ時トッププレイヤーだった。他の誰にも辿り着けなかった10層まで辿り着き、数多のモンスターと戦ってきている。協力すればその倍は越せるかもしれない

 

シン「…死ねば永久にログアウト…か。いいだろう。君に協力しよう」

キリト「良かった。俺はキリト。今はソロだ」

 

ベータの時から顔を合わせているというのに、初めて名を聞いたとシンは思い、自分の名前を青年―キリトに告げた

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