ファンタジア・レコード外伝 新たな神と傭兵の青年   作:明日田錬武

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第三話 神の毒

 かつて、幻想郷と呼ばれた地があった。今はその名を失い、エルドラと呼ばれている。詳細はあえて語らない。

 そのエルドラに一社の神社がある。

 神社の名は月光神社。遠い昔には博麗神社と呼ばれていた場所だった。

 月光神社の祭神は宵守レン。元は化けヤモリと呼ばれる妖怪である。それが紆余曲折あり、信仰を得て神に祭り上げられた。

 レンに仕えるのは神職いさな家。昔、彼女が気まぐれに助けた一家が恩返しのために仕え始め、それが代々続いている。

 いさな家の中心となっているのはいさな静乃。彼女は齢十七にして巫女を務め、不慣れながらも日々神事を執り行っていた。

 月光神社、宵守レン、いさな静乃。どれもこの神社を構成する重要なもの。

 しかし、今はここに新たな人物が加わっている。

 その者の名はルアン・ローランド。異世界線より現れた傭兵の青年だ。

 ルアンは戦いの中で偶然にエルドラへと転移し、偶然に月光神社の近くで倒れていた。そしてレンに助けられる。

 レンは彼をひどく気に入っている。会った当日に求婚するほどに。しかし、その返答はまだない。

 その後、ルアンは行く宛も無いためこの月光神社で手伝いをしながら居候をしていた。

 そんな日々が続いていたある日、彼らはルアンのもたらしたある問題に対峙することとなる。

 それは、彼と共に転移してきた機械の巨人。彼の乗機、F・ブレイブの処理だった。

 

***

 

「うぅん……」

 拝殿の壁に背を預け、レンは腕を組んで唸りながら考え事をしている。時折、参拝客が不思議そうに彼女を見るが、彼女は反応することはなく、そのまま参拝客は帰っていった。

「どうしたんですか?」

 そこへ静乃が現れレンへと話しかける。レンは彼女を一瞬見た後、再び唸り始めた。

「何か考え事ですか? でしたら人目につかないところでするのが良いんじゃないですか。あんまり神様が唸っていると、参拝客の人たちも何事かと思いますよ」

「それもそうだな……」

 レンは壁から離れ、拝殿の外へと向かって歩きだした。その後ろ姿を静乃は黙って見送る。

 外に出ると空を見上げる。今日は曇りだ。

「どうしたものかねぇ」

 レンは一人ブツブツと言いながら拝殿の隣にある離れへと向かって行く。

 離れが近づくと何やら美味しそうな匂いが漂ってきた。レンは鼻をスンスンと鳴らす。

「そうか、もう昼の時間か」

 離れの戸を開けて中に入ると台所で静乃の母とルアンが昼食を作っていた。

「あ、お帰りなさいませレン様。今お昼を作っていますのでもう少しお待ちくださいね」

 静乃の母が鍋をかき混ぜながら言った。その隣ではルアンが手際よく包丁で具材を切り分けている。集中しているのかレンが来たことに気づいていないようだ。

「ほう、料理も出来るのか」

 レンがルアンの横へと顔を出す。そこで初めてレンのことを認識した彼は「ヒャッ」と小さく悲鳴を上げた。

「れ、レンさん? いるならいるって言ってくださいよ。驚きましたよ」

「肝が小さいなぁ。戦士だったらもっとどっしりとしてないと」

「僕は戦士じゃなくて傭兵ですよ。まあ、気が弱いっていうのは昔っから言われてますけど……」

 ルアンが切り分けた具材を静乃の母が鍋へと投入していく。何を作っているのだろうか。

「ところで、何を作っているんだ?」

「今日はカレーを作ってます。ルアンさんに何が食べたいかって聞いたらそう言ってたので」

「なるほど。カレー、好きなのか」

 レンの問いにルアンは嬉しそうに答える。

「はい。幼少の頃、母がよく作ってくれてたので。オルフェンズに入ってからも、週に二、三回は出てましたね。食べ過ぎて飽きたって仲間もいましたけど」

 レンはほんの少しだけ顔色を暗くした。ルアンは幼い頃に戦争で両親を失い、そしてオルフェンズという傭兵団へと拾われたという。カレーも彼にとってはただの料理ではなく、家族との間に僅かに残された思い出なのだろう。

「そうなのか。彼女の作る料理はどれも旨いからな。楽しみにしている」

 レンはそう言って台所を出て別の部屋へと向かう。

 そこはルアンが借りている部屋だった。戸を開けて中に入ると綺麗に片付けられた室内が見える。

「綺麗好きなのだな」

 レンは軽く部屋の中を探索した。

 身一つでここへと転移したルアンには私物と呼べるものがなかった。唯一部屋に持ち込まれたものは、ルアンが人里の貸本屋から借りてきた技術系の妖魔本だけだ。

 レンはその本を手に取る。著者は河童のようで、タイトルは「人型と信仰。有人式人型ロボット兵器の可能性について」だ。厚みはそこそこある。

「よくもまあ、こんなものを読む」

 レンはパラパラとページをめくる。しかし、そこに書かれている内容はほとんど理解出来なかった。

 それでも理解を進めようと指を進める。こうすれば、何かルアンのことを分かるかもしれないと思ったから。

「レンさん?」

 レンは声をかけられハッとする。振り向くとルアンが部屋の入り口に立っていた。

「何をしてるんですか?」

「ああ、いやその…… 部屋の具合はどうかと思ってな」

「その本は?」

「あ、すまん。つい目についてしまって」

 レンは慌てて本を元あった場所へと戻す。

「部屋を無償で貸してもらってる手前、あまり強くは言えませんが。僕も年頃の男のつもりなので、あまり女性に勝手に入られると気持ちが良いものじゃないです……」

「すまなかった。許してくれ」

 レンはルアンに対し深々と頭を下げた。それにルアンはギョッとする。

「えぇとその、そこまでしなくても。こんなところを誰かに見られたら……」

 するとその時。

「レンさまー。ルアンさーん。お昼が出来ました…… よ……」

 離れに戻ってきた静乃が昼食へと呼びに来たのだ。そして今の光景を見て固まる。

「あー、静乃さん?」

「何を、されてるんですか……? レン様?」

 静乃の目は頭を下げたまま一向に動かないレンへと向けられている。

「あの、もう頭を上げてもらっても……」

「貴方がさせたんですか!?」

 静乃がルアンに詰め寄ると彼は二、三歩たたらを踏む。

「貴方、何を考えているの! レン様は神様なのよ! それに頭を下げさせるなんて…… 貴方は何様!?」

「ヒィ、ごめんなさいっ!」

 静乃の気迫に圧されて悲鳴を上げるルアン。

「止めるんだ静乃」

 そこへレンが制止に入った。

「え、でもレン様!?」

「私が彼の部屋に勝手に入ったんだ。悪いのは私だ」

 静乃は納得がいかないという顔をしながらも一歩下がり、そして黙って昼食のある部屋へと行った。

「すまないな、あいつは真面目なんだ」

「でしょうね」

 ルアンはホッと胸を撫で下ろす。

「私に厳格な神としての姿を求めているのだろう。自分の思いとは関係なく巫女にさせられてしまった反動かな」

 レンはばつが悪そうに言う。

「人生の何もかもが自分の思う通りになんていきませんよ。僕だってそうだったんですから……」

 ルアンは自分の過去を思い出しながらそう言った。

 二人の間に重みのある空気が漂う。それを破ったのは静乃の母が呼ぶ声だった。

「なんにせよ今は昼だ。食べに行こう」

「ええ、そうですね」

 そう言って二人は廊下を歩いていった。

 

***

 

 昼食を終えたレンは離れの縁側に座って外を見ていた。ルアンは静乃の母に頼まれ草むしりをしている。

「手作業でやる草むしりっていうのも、なかなか新鮮なものですね」

 ルアンはしゃがんで雑草を引っこ抜きながら言った。

「そうなのか?」

「僕の故郷では機械でやるか、除草剤をまくのが主流でしたから」

「除草剤か…… 塩でもまくか? お清めにもなって一石二鳥だ」

 レンはいたずらっぽい笑みを浮かべて言う。

「塩害じゃないですか。辺り一帯が不毛の地になりますよ?」

「冗談冗談」

 そう言ってレンはハハハッと笑った。ルアンは困惑と呆れの混じった表情を浮かべる。

「それにしても、そうか。お前の故郷は技術が発展しているのか」

「その割にはいまだに戦争なんてものをしてますけどね……」

「仕方がないさ。戦いは人の本能だ、止められんよ」

 レンは空を見上げた。雲は去って青空が見える。

「このエルドラだって戦いとは無縁ではない。定期的に『異変』と称した戦闘訓練が起きるんだ」

「異変、ですか」

「元を辿れば、この地がエルドラになる前から続いているものらしい。もはや伝統だな」

 そう言ってレンはニヒルに笑う。

「どこまで行っても僕には戦いの気配が付きまとうんだな……」

「あ、いや。そういう意味では……」

「良いんです。何だかんだ言っても、僕自身だって戦いを楽しんでいた節がありますから」

 ルアンは立ち上がり引き抜いた雑草を箒で集めながら続ける。

「僕、ロボットが好きなんですよ。だからF・ブレイブに乗って戦うのも、正直な話楽しかったんです。もちろん負ければ死にかねない、怖いです。でもそれを勝るほどの面白さがあった」

 レンは悲しげな顔でルアンを見つめる。人と元妖怪という前提の違いがあるとはいえ、自分よりはるかに若い者が戦いという場に駆り出され、そして本来知るべきではない楽しみを知る。その事実がどうしようもなく悲しかった。

「ロボットにだって戦い以外の使い方があるはずだ。お前にだって、戦いの他に楽しみは見つけられるだろう」

「ですかね。僕は長いこと戦うことしか知りませんでしたから」

 そう言って口元で小さく笑う彼の姿を見て、レンは耐え難い世の残酷さを味わう。彼の故郷の世界線には同じような者たちが多くいるのだろうから。

 レンがそうやって感傷に浸っていると、ルアンはいつの間にか集めた雑草を捨てて草むしりを終えていた。

「さて、次は何をすればいいですか?」

「そうだな……」

 そこでレンはあることを思い出した。

「そうだ。お前に話があるんだ」

「何ですか?」

「お前と一緒に転移してきたあのロボット。あれの処理について聞いておきたかったんだ」

「F・ブレイブですか。処理というと?」

 レンは腕を組んで難しい顔になる。

「あれから放射線が発せられているようでな。辺りは臨時で禁足地にして注連縄を張って封印してあるが、あのままにしておくわけにもいくまい」

「放射線? あの放射線ですか? あれがそんなに危険ですか」

 ルアンはまるで常識を疑われた時かのような反応を見せる。レンはやや目付きを鋭くした。

「放射線は神の毒だ。目に見えぬところから蝕まれ、気づいた時にはもう手遅れ。だが、その反応を見るにお前は放射線の毒に何らかの抵抗があるようだな」

「僕の故郷の人はみんなそうだと思いますよ。でなければヴァイスなんて乗ってられませんから」

「お前の世界線ではそうなのかもしれないが、ここは違う。放射線は生き物に致命的だ。何とかしなければ……」

 するとルアンは平然としてこう言った。

「じゃあ止めましょうか」

「……は?」

 レンはしばし思考が止まった。止める? 放射線を?

「放射線が出ているってことは、動力炉のTRリアクタがまだ稼働しているってことです。ということは維持のためのシステムも生きてるってことなので、コックピットからアクセスすればニュートロンスタンピーダーも停止させることが出来ます」

 聞き慣れない単語がいくつも出てきてレンの思考は更に停止する。

 しかし、なんにせよ放射線を止めることが出来る方法があるということは分かった。

「でも既に辺りに拡散した放射線と、それによる物質の放射化は僕にはどうにも出来ません」

「それは私がなんとかしよう」

「え? そんなことが出来るんですか?」

「ああ、神の力を応用すれば出来るはずだ」

 神の持つ穢れを払う力。これの「穢れ」の定義を放射線の毒にも当てはめれば消し去ることが出来るというのだ。

「凄い、流石は神様だ」

「まあな」

 レンは褒められ得意気になった。それは単純に褒められたからというより、ルアンに褒められたからというのが大きい。

「では早速出発したいんだが、動けるか」

「はい。いつでも行けます」

「そうか」

 レンは縁側から立ち上がって背伸びをする。

「じゃあ行くか」

 

***

 

 軽く荷支度を終えた二人は神社近くの森を進んでいた。

 鳥の鳴き声。二人とは別の何かが草木を踏み分ける音。森の中は先日訪れた時と比べ音が多くあった。ルアンとF・ブレイブが転移してきた際に逃げ出していた生き物たちが戻ってきているのだろう。

 ルアンはそんな森の中を興味深そうに辺りを見回しながら歩いていた。

「これが地球の森…… エデンの森とは全然違う」

 些細な何かを見つける度に立ち止まりそれを見るルアン。そしてその様子を不思議そうに見ているレン。

「こんな森がそんなに気になるのか?」

 ルアンはしゃがんで小さな花を見ながら答える。

「僕の故郷の森は、ほとんどがプラントという人工環境の中にあるんです。だからここみたいな自然の森というのが面白いんですよ」

「人工環境の中の森。自然だか自然じゃないんだか、よく分からんものだな」

 ルアンは花の観察を終えると立ち上がって再び歩き始めた。

「自然を作るって重要なことですけど、それって同時にとても大変なことなんです。結局は人間も自然の生き物なんで自然がないと生きていけない。でもエデンの自然環境は人間に適していない。だから人工環境の中に森を作るなんて矛盾じみたことをしているんです」

 先程から出ている「エデン」という単語。レンはそれが何か分からなかった。場所の名前ということと、過酷な環境だということは分かった。しかし、「楽園」の意味を持つその場所がそんなに酷いものなのだろうか。

「そのエデンっていうのは何処なんだ?」

「エデンは星の名前です。地球からは…… どれくらい離れているんでしょうか? 僕もちゃんと勉強したことが無いので詳しいことはよく分かりません。遠い昔に長いこと宇宙を漂っていた僕らの祖先がかろうじて辿り着いた安住の地。ゆえに楽園、つまりエデンの名がついたそうです」

「そうなのか……」

 ルアンの世界線の地球で何があったのかは分からない。だが、あの広大な宇宙というものを流れ、やっと辿り着いた約束の地。そこですら戦争をしているものがいる。戦いは人間の本能だ、そう言ったのはレン自身であったが、なぜそこまでしても戦いたがるのか、彼女はそう虚しく感じざるをえなかった。

「その楽園の地でも戦いは起きた。しかも人の姿を模した兵器、ヴァイスを使って。どこまでいっても人は戦いから逃れられんのか……」

「僕らも所詮は生き物ですから。いつだって自分が優位になるように活動するのは仕方のないことかもしれません。でも人間って戦いだけの生き物じゃないはずです。ヴァイスだって元々は戦いのための機械じゃなかったんですよ」

 そう話しながら進んでいると、二人の周りの空気が変わった。

 生き物の音が無くなった。虫も鳥も獣も、動ける生き物全てがその場から逃げ出したかのような異様な静寂が辺りに張り詰めている。

 二人はその空気に息をのみ、それでもなお進む。

 そして見えてきたのは一筋の注連縄。レンがF・ブレイブの周囲に張らせたものだ。

「見えたな」

 レンは注連縄のすぐ外側に立ち、内側の中央に鎮座する巨人をにらむ。

 鋼鉄の巨人は発見された時の状態からほぼ変わっていなかった。あえて挙げるなら四肢から発していた火花が止まっており、火災になる心配は無くなったことくらいだ。

 しかし、その代わりというべきかF・ブレイブの周囲は異質な状態と化している。

 機体を中心とし、そこから注連縄に区切られた境界線までの範囲内全ての草木がことごとく枯れている。それは目に見えぬ神の毒がもたらしたものだ。

「酷いものだな。放射線というのは……」

「ええ、僕もここまで影響があるなんて思ってもいませんでした」

 二人は惨状を目の当たりにし、身震いする。レンが注連縄を張らせなければ一体どうなってしまっていたのか。

「とにかく、放射線を何とかせねばだ。大元を止めるのはあそこから出来るのだろう?」

 レンはそう言ってF・ブレイブの胴体を指差す。そこには四角く穴が開いており、人ひとりほどが入れるようになっていた。

「私が行く」

 レンがそう言って注連縄を跨ごうとするとルアンが手を掴んで止めた。

「僕が行きます」

「しかし……」

「僕は放射線に耐性があります。それにヴァイスのインターフェースは高度に簡素化されてますが、それでも全くの素人がいじれるようなものではありません」

 レンは唇を噛み、そして「頼む」と小さく言った。

「はい」

 ルアンは注連縄を潜り内側へと入って小走りでF・ブレイブの元へと向かった。

 そして機体のコックピットに入ったルアンは手慣れた動作でコンソールを叩いてシステムの確認を始める。

「やっぱりTRリアクタが生きている。でも発電システムは動いていない。自爆した時にサーマルエナジーを排出したせいか…… 今は補助バッテリーで動いているんだな」

 状況を把握したルアンは続いて放射線の放出を止める作業に入る。

「メインシステムからニュートロンスタンピーダー稼働状況を確認…… 核種刺激率が通常の三○○パーセント!? 衝撃でバグったのか? どうりでこんな状態になってるわけだ……」

 作業を進めるルアンを注連縄の外から不安げにレンが見守っている。

「大丈夫だろうか」

 ルアンが機体に入ってから約十分。何か起きたのではないかと思いレンが注連縄の内側に入ろうとしたその時。

 レンにははっきりと感じとることができた。機体から発せられていた放射線が収まったことを。

「出来ましたよレンさん! 動力炉が止まりました!」

 ルアンがコックピットから顔を覗かせ、それを見てレンは安堵に胸を撫で下ろす。

「そうか! ではここからは私がやろう」

 レンは注連縄の内側へと入る。すると途端におぞましい悪寒が彼女の身体に走った。神である彼女にしかわからない放射線の体感だ。

「クッ、大元が止まっても既に周りに散った放射線は強いままか。だが」

 レンは悪寒に耐えながらF・ブレイブのそばにたどり着く。そして目を閉じ、両手を胸の前で組んで言葉を紡ぎ始める。

「幻想の地を蝕む異界よりの神の穢れよ。我が力によってこれを払わん」

 ルアンがコックピットから出てきたその時。レンの体からまばゆい光が放たれルアンは思わず腕で顔を隠す。

 光は数秒間放たれ続け、やがて消える。

「レンさん?」

 レンはルアンの方を見てにこりと笑う。

「終わった、ぞ……」

 レンはそのまま力が抜けたかのように倒れ、ルアンが慌ててそれを受け止める。

「レンさん? どうしました!?」

「ははは、少し疲れた。ちょっと横にさせてくれないか……?」

 ルアンは周りを見回して手頃な木を見つける。そしてその株元に座り、レンを自らの膝に寝かせた。いわゆる膝枕というやつだ。

「すまんな」

「いいんです。それよりも、放射線は?」

「なんとか収まった。だが、ここの有り様はまだしばらく直らんだろう」

 ルアンはややためらった後、レンの頭に手を当て優しく撫でた。

「お疲れ様です」

 レンは少し驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうな表情を浮かべ目を閉じる。

「ふふ、初めてだな」

「あ、嫌でしたか?」

 ルアンがパッと手を離すとレンは悲しげな顔をした。

「いや、出来れば…… 続けてくれ」

「わ、わかりました」

 ルアンが再び撫で始める。

「良いものだな、誰かに頭を撫でられるというのは。初めての心地だ……」

 レンは妖怪として生きていた時も、神となった後も、一人だった。もちろん、いさな家のようにそばに居てくれる者たちもいる。だが、それでもやはりある程度の距離が開いていることは明確だった。ゆえに今のように密接に誰かと関わることは初めてだった。

「こうして撫でられていると…… なんだか…… 眠くなって……」

 レンの意識は次第に溶けていき、やがて静かに寝息をたて始めた。

「おやすみなさい、レンさん」

 ルアンはレンが完全に寝たのを見届けると、自らも目を閉じて闇の中に入っていった。

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