【リメイク版】不遇な朝田詩乃に寄り添いたい。 作:ヤン詩乃ちゃん( _´ω`)_
「果てさて2回戦はいつ始まるかなぁ〜」
なんて呑気に待っていると、動悸が収まってきたキリトくんがまず転送されて行った。
B.o.B予選は勝てば即2回戦に駒を進め、2回戦目の相手が決まり次第いきなり飛ばされるシステムだ。キリトくんや俺、シノンちゃんは比較的早く終わったから待ち時間が発生したが、長期戦闘になった奴は勝ったら即2回戦なんてことになる。心労的にも早めに勝っておいた方がいいのだ。
「ふぅ。邪魔者は消えたみたいね」
「うわっ。邪魔者は酷いんじゃない?」
そんな軽口を叩きながら、シノンちゃんと二人でカウンターに腰かける。シュピーゲルくんは未だに離れたところでモニターを見ているようだ。ぼっちかな?
「ねぇ貴方。あのキリトってやつ。決勝まで来ると思う?」
そんなシノンちゃんの問いに、俺は即答する。
「来るだろうね。間違いなく」
迷いない即答に、結構驚いた顔をするシノンちゃん。
「随分とまぁ……【買ってる】のね。男とは言え妬けるわ」
「ハハッ。実は1回戦を見てね。彼、弾丸を切って相手を倒してたぜ?」
「ハァ!?弾丸を切って!?……そりゃ規格外ね……相手が可哀想だわ」
そんな風にイチャイチャしていると、次はシノンちゃんが転送され始めた。
「あら。じゃあね。んっ」
最後にほっぺにキスをされ、シノンの姿が消えた。
あ〜……俺の嫁可愛すぎ……
なんてことを思ってると、俺も転送が開始される。次は骨のある奴がいいな。なんて思いながら。
パチリ
「おぉ〜……?」
そこは、暗闇だった。
室内のようだ。あかりも窓もなく、うっすらとしか確認出来ないが、正方形の独房のような場所だった。これならポンチョも必要ないだろう。
さて……困ったな。
基本、AGI極振り構成は室内戦に弱い。その俊敏さを上手く活用出来ないからだ。加えて俺が使っているのはP-90……ではなく、P-90(P)。取り回しやすさがP-90よりも劣り、その松葉杖のような姿、長さはアサルトライフルにも引けを取らない。
「くわばらくわばら……」
どうか相手がサブマシンガン使いじゃありませんように。出来ればスナイパーだといいな。なんて楽観視しながら、部屋を出て廊下に出る。
先程「独房のような」と言ったが、どうやら本当に独房らしい。
扉に【007】と掘ってあり、小さな開閉式の窓が備え付けられている。今度のフィールドは刑務所だ。
GGOはアメリカ発祥のゲームだ。それ故、細かいディティールはもちろん、基本構成がアメリカ式だ。
日本の刑務所にもアメリカの刑務所にも入ったことはもちろんないので分からないが、どうやらこの刑務所は1×1km正方形のフィールドに加え階数があるらしい。
これは長期戦になるか?接敵までに時間がかかりそうだ。
散策しながら見つけた階段の踊り場で、ある程度の地図が壁に貼っつけてあった。大体を頭に即叩き込む。地理把握は戦術の基本の「キ」だ。
スタ……スタ……という、自身のソックススニーカーの足音だけが木霊する。これだけ静かだとソックススニーカーでも足音が響くんだなぁ。相手がブーツだったりしたら即わかるなぁ。なんて思って歩きながら、1階まで降りる。
同じような牢屋を隈無く見て回り、敵を探す。
敵が見つからないまま、1分、3分、5分、10分、20分……
「(いや全然敵見つかんねぇな!?)」
驚く程無音。静寂。全くもって敵の気配を感じない。
1×1×0.3kmはある複雑怪奇な刑務所とはいえ、ここまですれ違うとは。既に場所は1階から3階に移っている。
3階のとあるドアを開けると、外廊下のようなところに出た。そこは中庭*1を見下ろせる場所で、どうやら監視塔に繋がっているようだ。
監視塔からなら見渡せるかもしれない。なんて歩を進めようとすると、ザッ……ザッ……と言った足音が耳に聞こえてくる。
急いで歩くのやめ、その場に伏せる。中庭を見下ろすと、全身プロテクターの男*2が中庭の土を踏んでいた。
「(見つけた……が)」
見つけたはいいが、この場所からだと攻撃しても弾丸は金網に吸われ、尚且つプロテクターを貫通することは出来ないだろう。7.62mmならまだしも、こちらは5.7×28mm弾。相手までの距離300m程だ。例え命中してもプロテクターに弾かれノーダメか良くて1割2割だろう。
「(相手はどう動く……?)」
中庭を突きぬけ、角まで来て、ぐるりと見回し始めた。窓の1個1個を確認し、俺のいる廊下をなぞり、監視塔を見て、再度銃を構え直し歩き出す。どうやらバレていないようだ。
フルプロテクターに
相手は1階の北側扉にゆっくりと姿を消す。
頭の中の地図を開きながら、相手の居る場所まで出来る限りバレないスピードで走る。階段はゆっくりと降り……
足音が階段下から聞こえてきた。
フルプロテクター特有のガシャガシャした音が響き渡る。
5階建てのこの刑務所の階段をゆっくり上がって来る相手は、もちろん、敵しかいない。
ソックススニーカーのお陰か、まだバレていないようだ。歩調に乱れがない。一定の速度でガシャガシャと階段を昇ってくる。それを、4階にあがる階段の所で待ち伏せる。
このまま上がってくるなら、奇襲ができる。
「(来い……来い…………来たっ!)」
フルプロテクターの鈍色の光沢が現れる。どうやら3階に用があるようで、4階へ続く階段へは目もくれていない。これは予想だが、先程見回した時に俺がいた通路を見て、監視塔から相手を探そうと考えたのだろう。相手のメインアームは見た所64式7.62mm小銃 H&K(ヘッケラー&コッホ) HK33……アサルトライフルだ。まともにやりあってたらやばかったな。
「♪」
口笛を吹くと同時に、背中に全力射撃。反動を何とか抑え、肩甲骨から首、頭にかけて弾丸をお見舞していく。
「ガッ!? アッ……」
気が緩んでいた所のあまりの衝撃に、相手は俺の声に反応するより前に倒れ込む。流石フルプロテクター。STR-
「クッソ!この野郎!」
相手が起き上がり、こちらに銃口を向けると同時に4階へ続く階段をショートカットして上がる。ガガガッ!という銃弾を背に聞きながら、手早く2秒とかからずリロードし、4階の扉を蹴り開け走る。音からして、着いてきているようだ。
お互い膠着状態が長く続いたこともあり、痺れを切らしここで仕留めたがっているな。すぐに顔を出すようなら今度こそ。
しかし予想に反して、相手は冷静なようで、扉から飛び出すようなことはなく、ゆっくりと俺を視認し、撃つ。
弾道予測線をなんとか避け、雑居房に飛び込む。
「やべぇな……ベテランだ」
B.o.Bに出場を決めている時点でまぁベテランだろうが、2回戦であそこまでの相手と当たるとは色々と運が悪い。フルマガジンを撃ち込んでやったので、いくらSTR-VIT型のフルプロテクターとはいえヒットポイントも7割か8割は削っているだろう。それなら、正面切っての戦いならこちらに分がある。と、信じたい。
ガガガッ!ガガガッ!という子気味いい
このまま雑居房に入れば、やがてたどり着いた相手が牢屋の外から俺の体を余す事無く撃ち抜くだろう。
打開策は……いくつかある。その中でも最も勝ち筋に近いものを選ぶべきだろう。
左胸に付けた細長い筒を手に取り、壁に擦り付け点火。
そう。発煙筒だ。
BURST射撃が止んだ一瞬の隙間をダメージ覚悟で飛び出て、相手の顔面向けて発煙筒を投げつける。
フルプロテクターの弱点に、視野の問題があるとは先程語った。
それは何も、狭まるだけではない。サングラスのように、夜目が効かない、そしてその逆……急激な明るさに弱い、という点がある。
「うだっ!」
赤く発色し煙を炊く発煙筒は見事に相手の顔面に当たり、射撃が止む。BURST射撃の何発かを腕と胸に喰らい、ヒットポイントが3割程減る。どうやら肺へのダメージ判定が生まれたった2発でこれだけ削られたようだ。
しかし、こうなったらもうこちらの勝ちだ。
油断も隙もなく、P-90(P)を構え、撃つ。こちらも煙でシルエットしか見えないので、全弾発射。狙いは付けず、バレットサークルも気にしない。心臓はバクバクしていないので、バレットサークルも凪いでいる。体のどこかしらには当たるだろう。そして、相手のヒットポイントはもう多くて3割……如何な相手とは言え、計100発の弾丸を体中に受け無事ではすまなかろう。
最後にガガガッと指に引っかかったままの64式7.62mm小銃 H&K HK33が吠えたが、それは俺ではない空間に吸い込まれ、バタンと相手は倒れた。
「…………あぶねーーー!!!」
そう叫び、勝利の余韻に浸る間もなく次のステージに転送される。
今度は待機エリアではなく、即座に第3回戦が行われることだろう。時間をかけすぎた。25分はかかっただろうか。充分長期戦と言える。
眩い光が体を包む────
━━━━B.o.B予選第3回戦開始━━━━
パチリ
「……ここは……墓地、か」
降り立った地は、まず硬質な石畳。そして英語で名前らしきものが書かれた十字の石が点在している場所。
考えるまでもなく、墓地であった。
所々にはこれから棺を入れます。というような穴ぼこと、何も入っていない棺などが転がっていた。もしかしたら墓荒らしなのかもしれない。
巨大な協会が中央らしき場所にそびえ立ち、その周りをぐるりと囲うように墓石が並べられている。
「こりゃまたどーしたもんかね」
ステージ的には悪くない。所狭しと並んでいる訳ではなく、等間隔に、走って通れるくらいの間はある。優れたAGIを生かし走り回りながら弾道予測線をかわすことも出来そうだ。
しかし、これではもしも相手が中距離のアサルトライフルか遠距離のスナイパーだった場合、接近することが困難になる。
赤く濁った空の下で不気味に照らされる墓石のひとつに腰掛けながら、作戦を立てる。
「……中央の教会に陣取るだろうなぁ。相手が俺みたいなサブマシンガン使いじゃない限り……」
とりあえず中央の教会を取られたら厄介だと判断を下し、教会目掛けて走る。
約100mを3秒で走り切り、教会の前まで来る。
シュウこと柊出雲は、GGOの中でも2つ名を得る程のトッププレイヤーである。そのやり込み度・戦闘経験値は凄まじい物がある。一重にシノンと一緒に何かを積極的にやる事が楽しかったのと、殆ど覚えていない前世でのガンマニア癖が加重して、所謂【プロプレイヤー】になっていた。
その中でも【超AGI特化型】のスキル構成をしているシュウは、振れるステータスは殆どAGIに振り、最早その速度はGGOトップと言える。比較的軽いサブマシンガンと、予備マガジン、グレネード、小型ナイフ、後は殆ど重量を持たないポンチョ等の布製品ぐらいしかストレージに入れておらず、大事なものは《結婚》で得た容量無制限の共有ストレージに入れている。1度
防御力という点ではプレートアーマーぐらいしか付けておらず、その他はもう殆どか布。まるで
「銃弾より早く走れば当たらないんじゃね?」なんてバカげた思想を現実にするレベルの速さだ。
「さてと敵は……居ないな」
巨大な教会の中は実にアメリカ式で、巨大な一部屋になっていた。ガワは立派だが中身は椅子と十字架、神父台くらいしかない。
素早く神父台まで上り、その後ろに隠れる。
すると、外よりカッカッカッという石畳を蹴る音が聞こえてくる。どうやら同じ考えに至ったようだ。GGO随一のAGIを持つシュウには適わなかったようで、1歩出遅れて教会へ到着。
豪快に扉を開ける。そこにシュウが居るとも知らずに。
「(このまま来るか……?)」
絨毯が足音を吸収し、相手のブーツの音は殆ど聞こえない。今どこまで近づいているのか。獲物はなんなのか。敵は誰なのか……
そんなことを考えていたら、神父台が破壊され、襟首を拳で捕まれ引きずり出された。
「ヴェっ!なんだァ!?」
兎に角敵を倒そうと銃を構えるも、蹴り上げられスリングごと吹き飛ばされる。そこで初めて相手の顔を見る。
「お前……パストか!」
GGOにして異質の徒手格闘使い。シュウとシノンの戦闘における師匠で、噂では第1回B.o.B本大会にて準優勝を飾ったらしい男。
その中でもやはり異質なのが徒手格闘による超近接戦闘スタイル。第1回B.o.Bをナイフとデザートイーグルだけで準優勝した功績から見ても、油断も隙もない相手。
そんなパストは筋力中心のバランス型。AGIにも多少振っているが、それよりも筋力や体力に多く振っている。
「シュウか……予選で相見えるとはな。」
「こちらこそだ。戦いたくない相手NO.1だぜお前は」
先程「弾丸より早ければ〜」と語ったが、弾丸を(基本)使用しない相手となれば話は別だ。もちろんシュウにも徒手格闘スキルはプレイヤースキルとして持っているが、パストのそれはまさに規格外。正面切っての戦いは殆ど勝てないと思った方がいい。
「お前とは本戦で戦いたかったが……残念だ。ここで散れ。シュウ」
「やなこった。俺には勝たなきゃ行けない理由があるもんでね」
「理由?」
「あぁ」
精一杯の作り笑いで、相手を挑発するように、
「俺が勝たなきゃ、俺の女神に怒られる」
「フッ……シノンか。懐かしいな」
先程から知り合いのように話しているが、実の所……結構ズブズブの友達である。めっちゃ仲良しである。パストのフレンド枠は寂しいが、シュウとシノンだけは入っている。
先も言ったが、シュウとシノンに徒手格闘術を教えたのはパストなのである。プレイヤースキルと言えるまで教え込み、パストの全てを叩き込んだ。
そんな相手とこれから拳を交えなければ行けない。サブアームに拳銃なんて付けてないし、メインアームのP-90(P)は吹き飛ばされ椅子と椅子の間に落ちている。拾いに行こうものなら腹を蹴り挙げられそこからの連撃であっという間にヒットポイント全損だろう。体力にステ振りをしていないシュウなら尚更早く倒される。
GGOにおいて体術はあまり期待できるものでは無い、という前提を真正面から文字通り力と実績でねじ伏せたのがこのパストである。彼を慕い、GGOで徒手格闘に目覚める輩も少なくない。
「さぁ来い。お前の実力を見せてみろ」
黒のスーツに緑のギリージャケットという……はっきり言って異質な格好をしたパストが言う。
「俺の実力ね……確かにあれから結構経つもんなぁ……見たけりゃ……お前から来い!」
バッ!と身を翻し、扉に向けて残像が見えるほどの速さで走り抜けるシュウ。
「っ……!逃げるのか!卑怯者ォ!」
「なんとでも言いやがれ!お前と正面切って戦うなんざごめんなんだよォー!」
1秒足らずで教会をとび出たシュウを追うように、ギリージャケットをはぎ取ったパストが追う。
パストが外に出た時、そこにはびゅうびゅうという強めの風が頬を撫でるだけで、シュウの姿は見当たらない。
「クソッ。何処へ行きやがったあの速度バカは……」
大きめのサバイバルナイフだけ足から引き抜き、構え、墓地を見渡しながら教会回りを歩く。シュウがサブアームを持っていない事は知っている。するなら近距離攻撃だろう。と当たりをつけ、デザートイーグルは温存した。パストのコツコツという足音だけが墓地に響く。このステージは教会を中心に円を書くように墓石が設置されており、隠れる場所も多くない。見つけるまでそう時間はかからないだろう……そう思っていると、唐突に感じる右頬へのダメージ。しかもそのまま教会の樹壁にぶつかり、双方でダメージを食らう。が、1割も削れていない。
「がっ……なんっ」
一瞬視界が途切れ、殴られた右の方向に振り向いた時には、もう居ない。
「奴め……日本の諺にあったな。塵も積もれば山となる、か。」
今回シュウが取った作戦は簡単。神速で近付き、殴り、神速で逃げる。至極単純なヒットエンドラン戦法である。速度にものを言わせ、パストの射程内に入ってから出るまでを0.5秒以内にこなす。
ナイフで切り付けた方がダメージは期待出来るが、ナイフだとノックバックが発生せず、カウンターを食らう可能性がある。なので、シュウはあえて体術で向かった。
「待たせてくれたなと思ったらこれか……随分と舐め腐った真似をしてくれる……!」
パストはその端正な顔を歪ませ、ナイフと銃を握りしめる。相手がヒットエンドランをするならこちらもするまで。視認したら即ナイフを振るい、ダメージを与える。追撃出来るならデザートイーグルで撃てる。筋力もろくに鍛えていない男のパンチとバランス型のナイフではダメージに明確な差が出る。10発に一刺しでもお釣りが来るくらいだ。
「ぐっ」
墓地の方に歩き始めたパストを再度パンチが襲う。いくら弱いとはいえ拳1つ分の質量をぶつけられるのだから、それなりにノックバックは発生する。この隙に視界の外へと走って逃げる。
「がっ」
再度、今度は右の腹へ蹴りが叩き込まれる。少しくの字になったパストは今度こそと思ったが、もう居ない。まさに神速。目には目を。歯には歯を。規格外には規格外をと言わんばかりにその神速っぷりを遺憾無く発揮するシュウ。
しかし、未だヒットポイントは1割も削れていない。精々が4%程度だ。
「いつまで遊ぶッッッッッッッッッッつもりだ!」
そんなやり取りを何度か繰り返し、10分以上総勢60発以上*4食らったところで、パストの眼がシュウを捉える。
「ぬおっ!?」
とうとうパストのナイフがシュウの脇腹を抉り、シュウのヒットポイントを2割削る。パストの残りヒットポイントは7割ほど。いくら軟弱な拳や蹴りとは言え、60発以上も喰らえばそれだけ削れる。いや、それしか削れていないと言える。
腹にナイフを食らったシュウは少しよろめき、体制を崩した。そこを見逃すパストではない。即座に得意な徒手格闘に持ち込む為、腕を掴む。
「クソッ!離せや!」
「いい加減うんざりだ!予選でここまで時間を使っている暇はない!」
心底イラついているという様子のパスト。もちろんだ。前も言ったが与えるダメージ量に関係なく痛みは等しく訪れる。じーんとした強めの指圧程度の痛みだが、それを60回以上も繰り返されればイラつかない方がおかしい。
「捕まえたぞシュウ!もう離さん!」
グイッと掴んだ手首を引き寄せ、体に密着するんじゃないかという程の距離で渾身の膝蹴りを腹に叩き込む。
「ぐぇっ」
シュウのヒットポイントが8%ほど削れる。
「もうっ!逃がさんぞ!この手離してなるものか!」
左手に握ったナイフで心臓を突刺す。しかしそれは寸でのところで躱され、左肩に突き刺さる。シュウのヒットポイントが1割削れる。しかし、肩の力を抜かないようにグッとこらえる。
「いってぇなぁもう!」
悪態をつきながらも、身動き出来ないシュウは精々がナイフで急所を刺されないようにするのが精一杯だ。
反撃とばかりに握り拳で腹を殴るが、1mmたりとも動じない。さすがの体幹である。
「もう逃がさないと言っているだろう!」
まだ反抗するか!と激高するパスト。
「いーや!逃げるね!じゃなきゃ死ぬから!心中はシノンちゃんとじゃなきゃやーだ!」
は?と思ったパストだが、もう遅い。シュウはマガジンポーチの後ろに隠すように付けられていたカランビットナイフですかさず自分の肘から先を切り落とし、「虫か!?」と思う程のカサカサ後ろ走りでその場を去る。
「貴様ナイフを持っていたのか!?なんのつも(ry」
瞬間、パストを中心に半径4mの爆発の奔流が襲う。見えない程バラバラのポリゴン片になったパストは、状況を呑み込めぬまま、B.o.B予選から弾き出された。
トリックは簡単だ。右手首を捕まえられた瞬間に、シュウは既に行動に出ていた。見えない左手で背中にあるウェストポーチからプラズマ・グレネードを取り出し、握り続けていたのだ。左肩を刺された時に痛みで落としそうになったがグッと堪え、反撃と見せかけた腹へのパンチでスーツの中にスイッチを作動させたプラズマ・グレネードを入れた。
そして、今まで殴る蹴るしかせず、「コイツは近接戦闘の手段が生身しかない」と相手に無意識下のうちに思わせ、隠し持っていたカランビットナイフで手ごと脱出。
見事プラズマ・グレネードを忍ばせながら戦線離脱に成功したシュウは、そこで勝ちを確信していた。
パストは油断ならない男だ。だからこそ、10分もの時間をかけ無意識下に体術しかないと刷り込ませる必要があったし、とっておきのグレネードも最後まで隠し持っていた。P-90(P)を弾き飛ばされた段階でここまで考え、あえて【腰抜け】を演じ切ったシュウの勝ちと言える。
「はぁ……短いけど……疲れる戦いだったな……」
10分間走り続けた精神的疲労がドッと押し寄せ、その場に座り込む。ヒットポイントは残り5割を指していた。
転送の光がシュウを飲み込む。
「遅かったわね。連戦お疲れ様……んっ」
帰るなり女神のキスで精神的疲労がぶっ飛んだシュウであった。
「んっ……ただいま。」
スルりとシュウの腕に絡み付き、恋人繋ぎをしてから話し始める。
「にしても、あのパスト相手に近接戦で勝つとはね。Fブロックに入ってたのは知ってたけど、まさかP-90(P)なしで勝つとは思わなかったわ」
「まっ、俺の器用さ*5がなし得た技だな」
「ふふ。そうね」
大人な対応でシュウをあしらい、アイスコーヒーを飲む。
「そういうシノンちゃんはどうなのさ」
「ん〜?なんか……ごっつい、両足に拳銃付けて、ショットガン背負って、ドラムマガジンのアサルトライフル?を持ったポニーテールの女の人が相手だったけど、狙撃で1発。おわり」
「うひー。本戦が怖いな」
「楽しみにしてなさい」
そんな他愛ない会話とイチャイチャをし、周りの本戦出場候補が血涙を流しながらその光景を見つめる。
この時、待機エリアにいる全ての本戦出場候補(キリトと死銃は居ない)はこう思った。
━━━━━━━リア充、滅べ━━━━━━━
【小説情報】
リメイク前はパストはサトライザーでしたが、今作では(出来たら)アリシゼーションまで行きたいので、サトライザーは温存しました。
パストは一応サトライザーと同じくアメリカンプレイヤーです。