【リメイク版】不遇な朝田詩乃に寄り添いたい。   作:ヤン詩乃ちゃん( _´ω`)_

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今回長いです。


朝田詩乃と第3回B.o.B予選 その3

━━━━B.o.B予選第4戦目開始━━━━━

 

 パチリ

 

 砂!砂!砂!見渡す限りの砂の海!

砂漠。或いは規模的に言えば砂丘だろうか。兎に角、見晴らしのいいステージだった。

《遠視》スキルを持っていないシュウでは……いや、あるいは持っていたとしても、地平線の彼方まで見えなかった。暑い熱帯夜のような薄茶の明かりが照らす砂漠は、それだけで幻想的に見えた。

B.o.B予選では500m離れてお互いスポーンする。ということを先程シノンに教えて貰った。今までB.o.Bに興味はあれど出場経験のなかったシュウはルールブックを流し読みするタイプだったので、そこを見逃していた。

ぐるりと見回すが、砂しか見えない。所々丘になってたり岩があったりして、平坦とは言えないステージである。

目の前の丘を昇り、周囲を見渡せる位置に行く。

 

「…………ん?」

 

 第2回戦の刑務所とは打って変わり、今度はすぐに敵を発見した。500m間隔とはいえ、見晴らしのいい砂漠だ。ちらりとだが、砂漠によく似合う茶色のポンチョを被った人影が岩陰に隠れる所を発見した。本当に差異ないカモフラージュだったが、運悪く素早く動いているのを見られてしまったらしい。

その岩陰から、ちらりと銃の銃口と頭らしき物が除く。最も、ポンチョのせいで頭は殆どカモフラージュされ見えないも同然だったが。

 

「お互い見つけたな」

 

 相手の銃口からマズルフラッシュが光る。ほぼ反射的に身体を全傾にし、敵に向かって走り出す。いくら100m3秒で走るシュウでも、砂漠に足を取られては全速力を出せない。砂漠に足を取られながらも、頭の上を()()()()()()()に掠める弾丸のチュインとした音を聞き、悟る。

 

「(シノンちゃんと同じスナイパー……しかも、弾道予測線なし射撃が出来る凄腕)」

 

 GGOは、良くも悪くもシステムアシストが強い。こと発砲においてはそれが顕著に現れる。

 先ず基本的なスナイパーは、敵を見つけ、引き金に指をかけ弾道予測円(バレット・サークル)を発生させ、その心臓の鼓動に合わせた収縮が1番小さくなった時に放つ。そうすれば、弾丸は弾道予測円の中に着弾する。例えどれだけ銃がぶれる撃ち方をしていようが、だ。そのバレット・サークルをどう上手く使いこなすかがGGOスナイパーの強さに繋がると言える。

 しかし、何事にも例外は居る。

 例えば、現実でもスナイパーを生業にしている者。猟師、軍隊、自衛隊などのスナイパーは、システムアシストなしに、つまり、敵に弾道予測線を見せずに射撃する事が可能だ。

 仕組みは簡単。ただ狙い、撃てばいい。引き金に指をかけてからバレット・サークルが発生するまで0.5秒程猶予がある。その0.5秒の間に……つまり、撃つ直前まで引き金に指をかけず、撃つ直前で0.5秒以内に引き金を引けば、こちらのシステムアシストが発生しないというデメリットの代わりに、相手に弾道予測線を見せないというメリットを生ませる事が出来る。

 もちろんコリオリ力や風力も計算しなくては行けないし、並大抵の努力ではこの技は使えない。日本ならば一流の猟師、自衛隊の空挺部隊。海外ではスナイパーを本業とし戦争に身を投じている真の「兵士」のみしか出来ない技だ。

 だが、この相手スナイパーはそれをやってのけた。シュウが先に発見できておらず、AGI超特化型ではなく、発砲音が届くより前に目視でマズルフラッシュを見て身体が動き出すプロプレイヤーでなくては、今頃先程の丘の上で頭を撃ち抜かれ、運が悪ければ脳漿ダメージ判定で1発即死も有り得た。全ての要素が上手く絡み合ったからこそ出来た芸当であり、流石B.o.B第4回戦に進んでくるスナイパーなだけはある。とシュウは感じた。

 

 しかし、このスナイパー。運が悪い。先に発見されたのはまだいい。スナイパー最大の利点、発見されていない初弾は弾道予測線が発生しないというメリットを常に持っているような腕前だからだ。運が悪いというのは、この広大な砂漠と、そのプレイスタイルである狙撃手、そして相手がシュウという、環境が敵にとって劣悪極まりないからだ。

 

 シュウは砂の上をかける。普通の地面なら100m3秒の所を5秒程で駆け抜ける。右に、左に、また左に、次は真っ直ぐ、そして右にと、規則性のないジグザグ走行で、相手スナイパーに的を絞らせない。現に、何発か弾道予測線なしの射撃が襲ってきているが、未だに1発も当たっていない。

 

 5秒経過

 500m間隔でスポーンする関係上、スナイパーまでは約500mあると考えていい。ジグザグ走行に加え、足場の悪い砂場で、まだ100mも詰めれていないだろう。後430mと言った所か。砂粒のようなマズルフラッシュを見ながら、走る。

 

 10秒経過

 敵もシュウの意図を察したのか、もう体を隠そうともせず、岩場にバイポッドを立て正確に狙おうとしている。

 シュウの意図は簡単だ。近付いて、殺す。P-90(P)の射程は凡そ500m程。しかしこれは、【システム上ダメージ判定が生まれる距離】であり、500mの地点から撃った弾は当たったとしても相手のヒットポイントの1%も削れないだろう。

 

 ところで、P-90とP-90(P)の性能には大分違いがある。リフレッシュレートや弾薬などは改造しない限り同じだが、長さや射程距離、耐久力が違う。本来ならプロトタイプであるP-90(P)の方が劣っている筈だが、ことGGOに関しては違う。

 P-90は主街区裏路地のプレイヤーショップや穴場NPCショップなどを何件かハシゴすれば見つけられる少々レア位な銃程度だが、P-90(P)は凶悪なモンスタートラップ*1からのドロップ品であり、日本サーバーはおろか海外本家のサーバーでも発見例のない、まさに【GGO唯一のサブマシンガン】、つまり【ユニーク武器】と言える。

 そんなP-90(P)とP-90の違いは、【弾倉の違い】【重さ】【制御のしやすさ】【射程距離】【カスタム性】そして、【耐久力】の6つがある。特に耐久力については、運営の「ユニーク武器なんだから耐久力めっちゃ高く設定してあげようかな」という思惑があるんじゃないかってくらい高い。例えるなら、7.62mm弾を当てられようがその全てを跳ね返す、ぐらい強い。もちろんシステム上壊れはするが、プラズマ・グレネードの中心にあっても壊れないし、7.62mm弾100発ぶち込まれようが【全損】はしない。精々少しひしゃげる程度で、修理屋に持ち込めばすぐ直る。

 

 普通の銃の銃口は、細く、長くなっていて、銃身はプラスチックになっていたりするが、このP-90(P)は違う。全身鋼鉄・そして、実際のP-90(P)よりも大きめに作られた銃身により、盾にもなる。普通のP-90は弾倉に透けるスケアリング加工されたプラスチック弾倉を用いるが、P-90(P)の弾倉は透けない鋼鉄仕様。P-90(P)所有者のみが買える専用の鋼鉄弾倉を使用しているのだ。もちろん、スケアリング加工された普通のP-90用弾倉を使おうとすれば使えなくはない。逆も然り。

 ので、いざと言う時盾に使える。まぁ、いくら実銃よりシステム的な面で━━後、ザスカーの意向で━━大きめに作られたとはいえ、サブマシンガンの域を出ない程に小さいので、胴体全体を守れたりはしないが。

 

 20秒経過

 段々とスナイパーの焦りが見えてくるようで、射撃のスピードが早くなる。もう残すところ200m程。敵の使ってる銃が見えるくらいには近付いた。

 

「(R93タクティカル2……しっぶい銃使ってんなぁ。リアル猟師か?)」

 

 R93タクティカル2。ボルトアクション式単発銃。ドイツ製の高性能狙撃ライフルだ。

 そんなことを考えていると、意識が逸れたのか頬にダメージエフェクトと鈍痛が発生する。ラッキーショットか、狙ったか。恐らく両方が要因だろうが、ヒットポイントが4割削れる。流石に残り200mの距離で掠めたとはいえ頭部への.308Win弾の発生ダメージは並では無い。これ以上近付いて所謂「凸砂」のような事をされれば、ヒットポイント全損も有りうる。いよいよ油断ならなくなってきた。

 

 30秒経過

 もう残すところ50m程であり、こちらも牽制射撃を始める。相手の隠れる岩場を5.56×28mm弾が抉り、敵の体にも数発当たるが、気にせず射撃を続けている。

 R93タクティカル2の弾倉は5発。そろそろリロードかと思い、こちらも20発近く残っていた弾倉を惜しまず交換し、一直線に駆け抜ける。とうとう岩場まで達し、岩場を足蹴にして大ジャンプ。

 AGI極振り特化型の走りジャンプの飛距離は凄まじく、優に8mは飛んだ。そのまま真下に眼と銃口を向けて、発砲。

 敵もR93タクティカル2を真上に構え必殺を狙っているが、あえなく外れ。コッキングなぞ許さず、全身を真上からの銃弾が襲い、ダメージエフェクトが散る。

 思わずぼとりとR93タクティカル2を落とす敵プレイヤー。ここで初めて気付いたが、どうやら緑髪の女性のようだ。GGOのトッププレイヤーにしては珍しい。

 

「(運が悪かったな。こちとら世界一のスナイパーが身近に居るもんでね)」

 

 敵の体が倒れ、勝利のファンファーレが鳴る。

 着地と同時に、転送が始まる。

 今回は1分とかからずバトルを終わらせることが出来た。ゆっくり出来そうだなー……なんて考えながら、待機エリアへと戻る。

 

 

 

 

 

「やあシュウ。凄かったね。UNCHAIN(アンチェイン)の名はダテじゃない」

 

「やめてくれシュピーゲルくん……その名前は好きじゃないんだ」

 

 どうせならAGI極振り特化型なのだから、【神速】とか、もっと速さに注目した2つ名にして欲しかった。等と零しながら、アイスティーを注文する。

 

「シノンちゃんは?」

 

「あそこ」

 

 シュピーゲルが指を指したモニターには、水色の髪の毛をしたスナイパーがアサルトライフル(見た所フェドロフM1916)に押されている場面が見える。

 

「どー勝つんだろーなー」

 

「アハハ。勝つこと前提?」

 

「そりゃ彼女だし。応援するっしょ」

 

「……そうだね」

 

 少し間を置いて答えたのが気になるが、それより試合だ。いよいよ隠れていたバスの上に取り掛かられるか。といった所で、シノンちゃんがへカートⅡはそのまま身を翻す。

 

「おっ?」

 

 未だへカートⅡの銃身が見えるからそこにいると勘違いしている敵プレイヤーはバスの正面からバッと登り、先程までシノンが居た場所を蜂の巣にする。しかし、へカートⅡに弾薬がバチバチと当たるだけで、ダメージエフェクトは発生しない。

そこで、バス後部にスナイパーの時と同じように腹ばいになって【MP7】を構えるシノンちゃんを見つける。が、遅い。シノンちゃんのMP7が火を吹き、敵プレイヤーの顔面を躊躇なく抉る。

 

「彼、シノンを見つけたまでは良かったんだけど、詰めが甘かったみたいだね」

 

「まーーシノンちゃんを見つけられた時点で及第点は上げたいな。」

 

「そうだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「危なかったわ……」

 

「おっかえり〜見てたよ〜バス上の攻防だけね。」

 

 そう言うと、少し口をへの字にしながら、シノンちゃんが答える。

 

「見られてたのね……早く終わった方だと思ったのに。スナイパーとして見つかるなんて失態だわ。恥ずかしい」

 

「まぁまぁ。相手が強かったってことで」

 

 シノンが戦っていたのは大きな、とても大きな十字路である。ほとんど直線1kmの十字路で、シノンはその南側にスポーンした。

 即目の前のバスの上に登り、バイポッドを立て敵を待つ。

十字路ならば必ず前を通り過ぎなければいけないし、第1回戦でも同じようなステージだった。有利とも不利とも言えない地形である。

 そうして待っていると、十字路の奥に人影を見つける。どうやら直線上にスポーンしたようだ。これは楽勝だなと思い初弾弾道予測線なしの利点を生かし、ゆっくり狙って射撃。しかし、弾丸は躱された。

 どうやら《遠視》スキル持ちらしい。スコープや双眼鏡、単眼鏡なしでもシノンの姿を先にとらえ、走ってきていた。

 

 シノンは即座に弾道予測線なしの射撃に切り替え、狙い、撃つ。しかし、土嚢や転がった車、鉄板などに身を隠しながら進んでくる。シュウ程早くない所を見るに、どうやらAGI(敏捷力)-STR(筋力)型のようで、俊敏に動き狙いを絞らせない作戦のようだ。

 無駄弾にならないようゆっくり狙うが、どうにも掴めない。流石はB.o.B第4回戦と言った所か。

 そうしてやがて1kmもの距離を詰められたシノンは、最後へカートⅡを身代わりにするようにMP7で仕留めたのである。無駄弾を使わないよう最低限の射撃しかしなかったことで、最後詰められた時射撃しなくても不思議に思われなかったのだろう。強いが、どうにも最後の詰めの甘さが招いた敗北だった。

 

「ん〜課題点は多いわね……こんなんじゃ、本戦でシュウを捉えきれないわ。あの程度の速さには慣れなきゃ……」

 

「闇風くんを凌ぐGGONo.1の俺のランガン*2に補足されちゃーおしまいよ。さっきの僕の勇士を見せてあげたかったなぁ」

 

「スナイパーだったの?……どうせ、AGI任せの突撃でやったんでしょ」

 

「いやそれがさぁ。弾道予測線なしで撃ってくるの。キリトくんの出場と言い、死銃?とやらといい、今回のB.o.B、中々レベル高くない?何故かアメリカのパストまで来たんだよ?」

 

「それはまぁ、確かにそうね……というか、貴方の運が悪いのね」

 

「2人とも強いよ。僕なんか足元にも及ばないくらいね」

 

「まぁねー」

 

「謙遜するとこよ、貴方。」

 

 そんなこんなしていると、キリトも第4回戦を終えて現れる。どうやら動悸は納まったらしい。

 

「よっキリトくん。どうだった?」

 

「普通かな……今までと同じ、切って、切って、斬った。」

 

「うひょーこわー……」

 

 そんな軽口を叩き合う。

 

「ところでキリトくん、動悸は治まった?」

 

「あ?あ、あぁ。大丈夫だ……心配かけたな。悪い。」

 

「気にすんな。キリトくんにも抱える物はあるんだろ。」

 

 俺は原作を知っているので、キリトくんがSAO生還者(サバイバー)な事は知っている。しかし、この場にいるシノンちゃんやシュピーゲルくんは知る由もない。

 少しくらいは気にかけてあげよう。

 

「まだ次まで時間あるかな。雑談でもしようか。キリトくんはさ、なんでGGO来たの?確かALOに居たんだよね?コンバートまでして。」

 

「ん〜……」

 

 キリトくんは死銃事件の調査の為、ALOからGGOにコンバートしてきた、だった気がする。

 

「キリトさんはALOに居たんですね。こんな灰と油まみれの世界に、ハイファンタジー世界の住人は似合わないと思いますけど……」

 

 珍しくシュピーゲルくんがキリトくんに話しかける。

 

「まぁ理由は色々あるんだけど、たまにはこういう世界もいいと思って。」

 

「ふーん。態々コンバートして?ALOのフレとかどうしたの?」

 

「俺もシュウみたいに彼女が居てな。コンバートする時にアイテムは全部そっちに渡してるから大丈夫。GGOでやる事やったらまたALOに再コンバートするさ。」

 

「やること?」

 

「あっ」

 

 キリトくんが口を滑らせた。シノンちゃんが目ざとくそれに反応する。

 望んでいた展開だ。キリトくんにはもっと口を滑らせて欲しい。死銃は今の俺に脅威足り得ないが、それでも念には念を。彼から出来るだけ死銃の情報を抜き取りたい。

 

「やる事って何?コンバートしてすぐB.o.B参加といい、色々貴方は不思議ね」

 

「ま、まぁね……」

 

「もしかして、1回戦目の時に話してた灰色マントの男に関係ある?」

 

 ここはもっと深く詮索しよう。

 キリトくんが死銃に言い寄られていた事は俺とシュピーゲルくんが見ていたし、不思議では無い展開だろう。

 

「……見てたのか?」

 

「うん。俺とシュピーゲルくんがね。シノンちゃんはまだ戦ってたけど。」

 

「そうか……(ならシノンとシュウ、後シュピーゲルとやらは死銃ではない?ここは彼らにある程度事情を話して情報提供を促した方がいいのか……?しかし、関係の無い人間を巻き込むのは……まだ死銃がどうやってゲーム内の銃撃で人を殺しているのかの方法は分かっていない。それに死銃本人では無いとしても、情報提供者や協力者の可能性もある……よし。)シュウ、シノン、シュピーゲルはGGOに詳しいのか?」

 

 よしよし、上手い事考えてくれているな。このまま思惑に乗ってくれ。

 俺達はそれぞれの飲み物を飲みながら、キリトくんの質問に答える。

 ……シュピーゲルくんは相変わらずポーカーフェイスだが、彼、死銃の関係者なんだよなぁ。なんなら本戦出場しないだけで死銃本人でもある。かといってシュピーゲルくんだけこの場で弾くのは難しい。それに、彼に今情報を与えても、本戦に出場している死銃に情報をここにいる誰にもバレず、すぐに伝えるのは難しいだろう。

 

「僕は実力はそんなでもないんですけど、シノンとシュウは2つ名も付いてるくらいトッププレイヤーですよ。それに、ここだけの話、僕達はリアルでもフレンドなんです。」

 

「え、そうなのか?」

 

「はい、そうですよ。ね、シノン、シュウ。」

 

「そうよ」

 

「そうだな」

 

「……なら、1つ聞きたい事がある。」

 

「おう、なんでも聞け。」

 

 メニュー欄を開き、今回の第3回B.o.B予選第4戦目現在の通過者一覧を表示し、そのメニュー欄を俺達の前に表示させる。

 

「この中に、会った事ない、又は知らないプレイヤーはいるか?」

 

 素直に教えてあげてもいいが、それでは不自然になってしまうので、一応一言入れておくか。

 

「何でそんな事を?」

 

「理由は後で説明する。3人の知恵を借りたい。大切な事なんだ。」

 

 真剣な顔のキリトくん。

 

「まぁいいけどさ。んじゃまぁ俺から……うーん。そうだなぁ。結構居るな。 」

 

「そ、そんなに居るのか?」

 

「そんな顔すんなよ……俺はあまり事前情報を入れるタイプじゃないし、顔も広くはない。一般に比べたら広いだろうけど……まだ2回戦残ってるし候補も多いなぁ。シュピーゲルくんは?」

 

「うーん。僕もシュウと同じタイプだし、そもそも僕はB.o.Bに参加してないわけで……シノンはそういうのよく調べるタイプだったよね。」

 

 シノンちゃんは第1回及び第2回B.o.Bの上位20名までのプレイヤーの顔と名前、武器を熟知しているし、俺やシュピーゲルくんとは違い、情報戦が得意なタイプだ。

 

「そうね……私が現状知らないのは、【rurundo(ルルンド)】【Sterben(スティーブン)】【銃士X(じゅうしエックス)】【Purger(パージャー)】【Death13(デス・サーティーン)】 【Pale Rider(ペイルライダー)】【サビ残社畜】【AAAAAA(ああああああ)】……くらいね。」

 

「あ、【銃士X(じゅうしエックス)】と【サビ残社畜】は俺の知り合いだ。ちなみに読み方は【銃士X(マスケティアイクス)】な。」

 

「あらそう。なら残りの6人ね。」

 

「うーん……ルルンドとパージャー、デス・サーティーン、ペイルライダー、AAAAAAはいいとして、【Sterben】はスティーブンのスペルミスか?」

 

「いや、恐らく【Sterben】は【スティーブン】じゃなくて【ステルベン】だ。」

 

「シュウ、なぜそう思うんだ?」

 

「単純なスペルミスの可能性もあるが、【Sterben(ステルベン)】はドイツ語の医学用語でな。意味は患者が亡くなる事だ。だよな、シュピーゲルくん。」

 

「そうだね。」

 

 シュピーゲルくんに鎌をかけたが、反応は芳しくない。記憶が確かなら、ステルベンの名前を付けたのはシュピーゲルくん……というより、新川恭二くんだ。彼の家は病院の家系なので、知ってて当然だろう。

 これでキリトくんの中で名前的に怪しいのが医学的に死を意味する【Sterben(ステルベン)】か、IT用語で【完全なる消去】を意味する【purge(パージ)】をもじった【Purger(パージャー)】━━━恐らくだが【消去する者】の意━━━か、単純に死を意味する【death13(デス・サーティーン)】の3人に絞られるだろう。

 だがキリトくんなら、そもそも死銃が名前に興味がなく、【AAAAAA(ああああああ)】なんて1世代昔のような適当な名前にしてる可能性を考慮するだろう。

 

「それで?理由は?」

 

「あぁ、それは......」

 

 そしてキリトくんは、渋々ながら自分が【死銃】という存在についてとある人に調査依頼を出された事、今回のB.o.Bもその一環である事、俺達にはその【死銃】についての調査を手伝って欲しい事を話された。

 

「死銃の名前なら俺も知ってる。噂程度にはな。あの薄塩たらことゼクシードが撃たれて、それ以降ログインしてないとか......」

 

「僕も噂程度かな。」

 

「ここだけの話だが、その2人なら既にリアルで死亡が確認されている。」

 

「何ですって?」

 

 ゼクシードは嘘の提唱をした筈の俺のプレイスタイル(AGI超特化型)を嫌って、俺とのコンタクトを尽く避けられていたが、以前【MMOストリーム】で共演する機会があり、その共演中に恐らくゼクシードは殺された。

 薄塩たらこは探したが、薄塩たらこのフレンドを名乗る人物と会った時には既に「とあるフィールドでの混戦中、死銃とやらに撃たれて回線落ちしてからログインしていない」と言われた。

 彼らの死を避ける事は出来なかった。

 

「なら噂は本当なの?あの……撃たれたら「死ぬ」……っていうのは。」

 

「………本当だ、シノン。方法は分からないが、両者ともリアルで不審死を遂げてる」

 

「キリトさんはなんでそんな事を知ってるんですか?」

 

「さっきとある人に依頼されて調べてるって言っただろ。その人の情報だ。信じていい……と、思う」

 

「おいおい……当のお前が「と、思う」なんて程度の信用度で俺達に信じろってか?」

 

「バーチャルな関係だけじゃなくリアルでの関係もある人だ。少なくとも、俺は信じてる。だから来た(昔の因縁もあるしな……)」

 

「そうか……」

 

 キリトくんが話してくれた事は、概ね原作と同じ内容だった。

 まさかここまで話してくれてるとは思わなかったが……

 死銃はSAO編で悪事を大盤振る舞いした笑う棺桶(ラフィン・コフィン)とやらの残党だ。それは覚えてる。SAO編でのプレイヤーネームは覚えてないが……確か《Poh(プー)》とかいう奴が頭領だった気がする。その部下だろう。そこら辺はキリトくんは誤魔化したが……

 

「キリトくんは死銃を止めにGGOに来たのか?」

 

「そうなるな。」

 

「今更だけど、私達にそんな事話してよかったの?」

 

「3人共リア友なんだろ?それに、俺が死銃と接触してる時、シュウとシュピーゲルは俺達を見てた。この時点で2人は白確だ。シノンも2人からの信用で白確でいいだろう。」

 

「なるほどな……」

 

 残念ながら、その推理は間違ってる。

確かに俺達3人はリア友で信用し合ってるが、シュピーゲルくんは死銃だ。

 死銃は最低でも3人居る。

 ゲーム内で銃撃する死銃、リアルで薬を注射する実行犯の死銃が2人以上。俺の原作知識が確かなら、ゼクシードを撃った死銃はシュピーゲルくんだ。シュピーゲルくんはその後実行犯の方に回ったはずなので、今は実行犯の内の1人という事になる。

 シュピーゲルくんが黒な事を知っているのは俺だけ。しかもこれは原作知識だ。出典がしっかりしていない知識でキリトくんとシノンちゃんを説得は出来ない。そんな死銃の内の1人がここにいる中でキリトくんに死銃の、そしてキリトくんのリアルの情報を吐かせるような真似をさせたのはリスキーだが、逆にここで話さないとキリトくんと死銃の関係を知れるのは本戦までお預けされる。俺はともかくシノンちゃんにしっかりしたソースで死銃の脅威を知ってもらう為には、この予選の段階で話して貰うしか無かった。

 

「キリトくんが俺達にB.o.Bの参加を渋ったのもそれが理由か?」

 

「そうだ。死銃の殺害方法が不明な以上、被害者は出来るだけ減らしたい。」

 

「何故死銃がB.o.Bに来るとわかった?」

 

「死銃はターゲットする人間に拘りを持ってる。まずは名が売れてる事、そしてそれに見合う実力と影響力を持っている事だ。そんな人間が一同に集まるのが、この

第3回B.o.B(バレット・オブ・バレッツ)。死銃が獲物を狙うなら格好の機会だ。」

 

「なるほどねぇ……」

 

「協力して欲しいって、それを話して私達に何をして欲しいの?」

 

「【死銃(デスガン)】を止めたい。そして、殺害方法を明らかにしたい。可及的速やかに第3回B.o.Bを終わらせ、被害者を出したくない……もし2人とも本戦に進んだら、俺に協力して欲しいんだ。」

 

「つまり、談合。チーミングの誘いか?」

 

「まぁ……究極的にはそうなるな。ゲーマーとしては褒められた事じゃないが……こと第3回B.o.Bにおいては、ゲームであってゲームじゃないんだ。本物の命がかかってる。」

 

 本来なら、到底受け入れられない。横にいるシノンちゃんは、愛するGGOで殺人が行われている事実に、少し不安を感じているようで、俺に絡めた腕が少し震えている。

 

「シノンちゃん、大丈夫かい?」

 

「…………大丈夫、とは言えないわね。今のキリトの話を全部信じたくは無いわ。」

 

「だが事実だ。頼む。協力してくれ。」

 

 キリトくんの真に迫る顔が俺達を説得しようとしているのが伝わってくる。

 俺自身は協力するのは吝かではない。どころか協力したい。俺は死銃の殺害方法を知っているので、俺とシノンちゃんが安全圏にいる事は分かっている。少なくとも、原作のような殺し方は出来ない筈だ。

 

「キリトさん、繰り返しになりますが、今の話が全部本当だとして、彼らに何をさせたいんですか?」

 

「簡単だ。死銃を倒す。」

 

「そんな危険な話に彼らを巻き込むんですか?どうやって殺すのかも分からないのに?」

 

「……」

 

 意外な事にシュピーゲルくんは俺達を死銃に関わらせたく無いらしい。手が出せないからか?それとも俺達のリア友だから表面上キリトくんに怪しまれない為か?

 

「キリトくんは大丈夫なのか?」

 

「俺はリアルで近くに人もいるし、完全に安全な環境でダイブしてる。」

 

「俺とシノンちゃんも同棲しててな。同じベットからダイブしてる。」

 

「お、同じベット?……そ、そうか。なら大丈夫かな……個人的に、ゲーム内の弾丸で人を殺す事は不可能、と思っている。」

 

 GGO参加前の原作と同じ結論に達しているようだな。

 

「俺が思うに、死銃が人を殺すには、バーチャルだけじゃなくリアルの要因も必要だと思うんだ。その点、キリトくんは近くに見てくれてる人が居るし、俺とシノンちゃんは同じ場所からログインしてる。セキュリティも万全。リアルの心配はないだろう。なら協力するのも吝かじゃない。」

 

「本当か!?」

 

「まぁその為には……」

 

 中央のモニターが光り、勝利のファンファーレが鳴る。

 

「俺もシノンちゃんもキリトくんも、本戦に行かないとな。」

 

 シノンちゃんが転送されて行き、次いでキリトくんが転送されて行く。

 

「ふぅ。」

 

「なんか大変な話になってるね。」

 

「本当になシュピーゲルくん。本来のB.o.Bとは変わりそうだけど……頑張るさ。」

 

 そして、俺の転送が開始された。

*1
雑魚延々湧きという弾薬問題のあるGGOにしては中々鬼畜なトラップ

*2
ラン&ガンの略称。走りながら撃つプレイスタイルのこと。

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