【リメイク版】不遇な朝田詩乃に寄り添いたい。 作:ヤン詩乃ちゃん( _´ω`)_
12月11日夜に1話、
12月12日夜中〜朝に3話投稿してます。
これはその12月12日朝の3話目ですね。
━━━B.o.B予選第5戦目開始━━━
パチリ
辺りを見回す。瓦礫や、横転した車。湿っぽいアスファルト。そして正方形の上に、更に小さい正方形の塊が乗った建物が3つある。そのすべてが内部から爆発した跡が残っている。所々に煙突も見える。
兎に角、これだけじゃ何も分からない。
とりあえず近くの遮蔽物に隠れ、P-90(P)のセーフティが外れてるのを指で確認しながら、どういったステージなのかを考える。幸いと言うべきか、ステージの端っこにスポーンしたようで、金網の入口らしきものがすぐ近くに見える。それを背にしながら、敵に見つからないよう隠れる。
…………よ〜〜く耳を済ませてみると、チリチリ……チリチリ……という音が、どこからかする。どこからするのかは分からない。だがかすかに、電子レンジのような音がする。
どのようなステージなのか全く見当もつかない。ので、とりあえず移動する。建物の入口らしき扉(ひしゃげているが)をみつけ、強引にこじ開け中に入る。
中はまっくらで、仕方なく右手だけでP-90(P)を構えながら、左手でウェストポーチから小さなペンライトを取り出し、中を照らす。
左手でペンライトを持ち、前を照らしながら、左手の上にP-90(P)を乗せてできるだけ負担を軽減する。
中を進んでいくと、なにやら巨大な電池のような物や、重厚なハンドル操作*1の扉や、精密機器らしきもの等、様々な物が設置されていた。そのいずれも稼働しているようには見えない。
異変に気付いたのは、探索して5分程経った時だ。
「……ん?え?あぁ!?」
最初はバグだと思った。しかし、よ〜〜く凝らして見ると、なんと自身のヒットポイントがじわりじわりと削れているではないか。既にヒットポイントは残す所8割と言った所で、このまま悠長に探索なんて続けてたら、25分程でこの謎のダメージで死んでしまう。最も、どこかに居る敵さんも同じだろうが。
厄介なステージギミックを持ってきたなとザスカーに心の中で舌打ちをし、もしここが「刑務所」レベルに広かったら、運悪くこの謎ダメージで双方相打ち……なんてことも有り得るな。と少し焦る。
ぐねぐねとした廊下を走る。《
すると、遠くから同じような……いや、自身よりも重いガシャンガシャンという音が聞こえた。反響していて上手く分からないが、とりあえずペンライトを消して直し、P-90(P)を両手で構える。
やがてその音は近くなり、目の前に出る!という所まで来た!
……が、居ない。
「……?」
クエスチョンマークが浮かぶ。いくら反響するとはいえ、目の前に出るくらい近い足音だったと思うんだが……と、ふとひとつの可能性を思い浮かべ、バッ!と上を向く。瞬間、伸びる弾道予測線。
慌ててバックステップで躱す。そう、1つ階層違いの場所に居たのだ。
こんなにも早く接敵出来たと喜ぶべきか、先手を取られたと悔しがるべきか。そんなことを考える暇なく、撃ち返す。しかし角度の問題で、鉄柵のような足場に弾は吸われる。そのうちにまた敵は真上に移動しようとするが、急いで牽制射撃をしながら曲がり角まで逃げだし、走る。後ろでブーツが2階から1階に飛び降りた時のゴツンっという音が鳴るのを聞きながら。
「(銃声からしてサブマシンガン……MP5かな)」
そう冷静な分析をしながら、部屋をみつけ転がり込む。
同じような建物が3棟並び、10分以内に会えたのは
そこは制御室のような場所で、大小様々なスイッチやボタン、0を指し示すメーター等がある。その真ん中に鎮座する円卓上の机の中に隠れるように入り込み、扉に銃口を向け凝視する。所謂【ガン待ち】である。この男、とうとうガン待ちをし始めた。いや、ルール的には問題ない。問題ないのだが、ちょっと昔のゲームではやられたら台パン不可避の「シューティングゲームでやられたらめっちゃイラつくよね」ランキング堂々の3位には入るガン待ちである。
やがて敵プレイヤーが開けっぱの扉の前を通過する瞬間、合わせるように連射。黒のブーツにダメージジーンズ、そしてなんと上は上裸で、髪型はモヒカンという実にファンキーでパンクな格好した男の腕に、1.2発のダメージエフェクトが発生する。
「痛てぇ!」
着弾確認して、思わずグッ!とガッツポーズしたくなるシュウ。これでとりあえず双方謎ダメージでの相打ちの可能性はなくなった。
「ガン待ちかよ!卑怯なヤローだぜ!」
「なんとでも言いやがれ!」
「バッドマナーだぜ!?」
「何処のマナーだ!これはB.o.Bだぞパンク野郎!」
そんな軽口を叩きあいながら、お互い決定打がないまま少しづつダメージを食らっていく。
後はもうこの謎のダメージで相手がヒットポイント全損するのを待つのもよし、突貫してくるなら蜂の巣にすればよし。第4回戦で多大な精神的疲労を負ったシュウは、もう勝ち以外見てなかった。
「こちとら疲れとんじゃー!この後めちゃんこ強いプレイヤーと戦わなくちゃいけねーんだよ!」
「知るかボケー!俺が勝って決勝戦進んでやるぜ!戦わなくて済むなぁ良かったなぁ!?」
そんな声と共に、部屋の中に何かが投げ込まれる。
すわプラズマグレネードか!?と身を縮こませたら、強烈なフラッシュと耳鳴りが襲う。
どうやら
その隙に部屋に突入したパンク野郎は机を飛び越え、シュウに馬乗りになる。
方や上裸、方やアーマープレートの異質な組み合わせ。
シュウは視界が回復するよりも先に、馬乗りになられた感覚で右手を何とか抜き出し、前方にあるであろうMP5の銃身を掴み、思いっきり左肩の方に引く。
「うおっ!?」
スリングをかけていたもんで、思わず前に倒れ込むパンク野郎。それに合わせて、シュウは、思いっきり頭突きをかました。
「がっ……!」
お互いの額にダメージエフェクトがキラキラと光る。少しづつ視界が回復してきたシュウは、今度は左手でパンク野郎のモヒカンを掴み、再度頭突き。
「い゛て゛ぇ゛っ!」
ずーんとした強めの指圧程の痛みが、2度、3度と頭を襲う。ダメージはお互い均等。銃撃分パンク野郎のヒットポイントは削れているので、このまま行けばシュウの勝ちになるが……
「んの野郎!」
見た目はアレだが、流石はB.o.B予選第5回戦まで進むだけはある。頭突きに合わせて馬乗り状態を解除し、前転する。しかしシュウはMP5を握る手を離さない。敵が前転し、スリングが上手く外れたのを感じて、視界がぼや〜っとだが回復したシュウは、掴んだMP5の銃身から手を離さず、即座にごろりと反転し、仰向けからうつ伏せになる。バッチリお互いの目が合う。
パンク野郎のMP5を強奪し、やたらめったら撃ちまくろうとする。兎に角この距離ならば、謎ダメージとさっきのPー90(P)のダメージで数発当てればヒットポイント全損まで行けるだろうとの思惑だ。
だがパンク野郎も甘くない。お互いの目が合い、シュウがMP5のトリガーに手をかけるのと、パンク野郎が肩からベレッタ1915を抜き、シュウの額に合わせトリガーに手をかけるのは、ほぼ同時だった。
うつ伏せのシュウ。仰向けのパンク野郎。
「「くたばりし腐れこのやろォォォ!!!!」」
ほぼ同時に叫び、発射。
軍配が上がったのは……シュウだった。
単発式のハンドガン、ベレッタ1915に比べ、フルオートに設定されていたMP5は1秒で何発もの銃弾を吐きだす。パンク野郎は痛みに2発目を発射できず、あえなく撃沈。シュウも額に1発食らったが、残りヒットポイント2割残った。
これがG18等のフルオートハンドガンだったら、パンク野郎の勝ちもあったのかもしれない。
「はぁ……はぁ……」
あっけない終わりだった。
まだパストの方が手応えがあったというもの。しかしまぁ、それは運。仕方ない事だ。
「……あっ。このチリチリって音……どっかで聞いたと思ったら……昔テレビで聞いた放射線物質の音……か」
B.o.B予選第5回戦を制した男の初セリフがこれである。まぁ事実なのだが。今更というものである。やっとこさ記憶の掘り出しに成功したようだ。
ステージは【原子力発電所】。しかも、そのうち全ての原子炉が壊れ、放射能ダダ漏れの廃発電所であった。もちろん現実にこんな場所はない。もしも原子力発電所が完全に爆発し壊れるような事があったら、周囲数十kmはおろか、日本の国土の半分は放射能に汚染されるだろう。
そんなことをボーッと考えていたら、転送が始まる。
━━━B.o.B予選決勝開始━━━
「高架線……」
深い谷を見下ろしながら、そう呟く。
ステージは大陸間高速道のようだ。東から西にかけて大きな橋がかけられており、ほぼ一直線のマップ。1km四方のマップに違いないが、実質一本道。もし第4回戦がこのステージだったら、あの緑髪の女性スナイパーに脳漿を貫かれやられていたかもしれない。あるいは、第4回戦のシノンちゃんのように、転がる車両や壊れたヘリコプターを盾に一本道を突き進み、楽に勝てたかもしれない。500m離れた所にスポーンするのはルールだから、自身のいる東側より西側に500m以上離れた位置にキリトくんは居ると考えていいだろう。
もちろん、キリトくんが第5回戦で負け、キリトくん以外が勝ち上がってきた可能性も考えるべきなのだろうが、ことキリトくんに至ってはその心配はない。なぜなら彼は
優れたAGIを活かし、車等の障害物をアクロバティックに乗り越えながら西の夕日に向かって駆け出す。
キリトくんは完全近距離型だが、僕は近・中距離型だ。サブマシンガンだが、射程はアサルトライフルに引けを取らないP-90(P)が獲物なのだから。
10秒ほど全速力で走って、遠くにキリトくんらしき人影を見つける。まだはっきりとは見えないが、あの黒髪に華奢な女らしいアバターはキリトくんだ。しかし、その手には何も握られていないように見える。光剣の光が見えないのはまだわかる。光剣やフォトンソードにはエネルギー残量があり、長時間出し続けているとエネルギーパックの交換が必要になるからだ。極力節約する為に、見敵したら出すつもりなのだろう。と、僕は思っていた。
300mの地点から、片膝立ちになって射撃。P-90(P)なら完全に射程圏内だ。キリトくんの体を弾丸が襲う。それに伴う鈍痛も発生しているはずだが、僅かに身動ぎするだけで、光剣を出す素振りもない。というか、こちらを見ようともしていなかった。頭を伏せ、機械的に歩いていたのだ。
「あぁ。確かこれは……」
もう殆ど覚えていないシノンちゃん関係以外の原作を思い出し、悟る。
キリトくんに戦う意思がない事を。
その事を思い出すと同時に、立って全速力で駆ける。10秒も立たず直線距離を移動し終え、距離は5m。お互い動きだそうと思えば1秒で敵を屠れる距離だ。
「どうした。キリトくん」
問いかける。
原作を思い出した俺ならばどうした等と声はかけないが、生憎俺はまだキリトくんが【SAO
「さっき話しただろ、俺の目的は、明日の本戦に出ることだけだ。もうこれ以上戦う理由はない。」
予想通りの返答が帰ってくる。
「怖気付いたか?」
「好きに思ってくれて構わない。」
「なら何故自殺しなかった?ファイブセブンで頭を撃ち抜くなり、谷底に落ちるなり、試合放棄する方法はいくらでもあった。
「……」
黙り込むキリトくん。知っているからこそ、その葛藤も分かる。もう人を斬りたくない。そう思うのは勝手だし、キリトくんの事情を知っている柊出雲は同情すら感じていた。間違った感傷で、キリトくんは望んじゃいないだろうが。
原作を思い出しながら、ゆっくりと言葉を選び慎重に話しかける。
「たかがVRゲームの、たかが1マッチ。目的は達したから戦わないと思うのは勝手だけど、その事情に俺まで巻き込まないで欲しい 。俺は今まで5人の強者と戦い、勝ち、ここにいる。君もそれは同じ筈だよ。キリトくん。」
「……」
「良いかい?キリトくん。君が行っている事は、そんな強者達への侮辱だよ。どんな気持ちで今まで相対してきたプレイヤーがこの映像を見ているか想像出来るか?戦いたくない事情を俺は知らない。だけど……だけどね……!勝負から逃げるような臆病者だとは思わなかったよ!キリトくんは俺みたいな泥臭い【兵士】じゃなく、立派に戦う【戦士】だと思っていた!!誰の誇りも傷付けない立派な戦士だってね!!」
キリトくんの事情を知っている身からすると、少し心が痛くなるな。
今行っているのは、双方の価値観のぶつかり合いだ。今まで戦ってきた強者達への侮辱だと思う僕と、SAO
そう勝手に責め続けると、弱々しい、だがしかし先程とは違って仄かな感情の籠った声が流れる。
「………俺も……。俺もずっと昔、誰かをそうやって責めた気がする………」
「…………なら、俺の気持ちは分かるはずだよ」
「………すまない。俺が間違っていた。たかがゲーム、たかが1勝負、でもだからこそ全力を尽くさなきゃならない……そうでなければ、この世界に生きる意味も資格もない。俺は、それを知っていたはずなのにな……」
そういったキリトくんは、頭を上げ、しっかりと感情の篭った紫色の瞳で俺を射抜く。そして、歴戦の【戦士】であり【剣士】であるキリトくんは綴った。
「シュウ。俺に償う機会をくれないか。今から、俺と勝負してくれ」
「今から……ね」
ここで原作では、シノンちゃんと10mの距離を置き、弾を弾いて地面に落ちた音を合図に射撃、その弾を見事切り伏せ、シノンちゃんに勝つ……そういう展開だったが、果てさてどうしたものか。
そこで、妙案が浮かぶ。
「それじゃあ、キリトくん。今ヒットポイントはいくつ残ってる?」
「6割くらいだ」
適正距離からの銃弾を数十浴びて4割しか削れてないとは、中々
「これでイーブン。勝負は簡単だ。100m離れて、俺は全力で君が近付いて来るのを阻止する。キリトくんは、全速力で俺を斬りに弾を避けるなり切るなりして来る。どうだい?悪くないだろう?」
「あぁ、分かった。それでいい」
まぁ即席の案としては良い落とし所だな。そう考えながら、東側に歩いていく。
「合図は俺の投げるプラズマ・グレネードだ。丁度俺とキリトくんの間に落ちるように投げるから、爆発したら勝負開始。」
返答は聞かず、早足に翔る。目測だが100mは離れただろうという位置で、振り返る。夕日をバックにシルエットしか見えないキリトくんは、既に光剣を握り戦闘態勢に入っている。
「投げるよ〜!」
そう叫びながら、ウェストポーチからプラズマ・グレネードを取り出す。ピンを抜き、投げる。狙った通り中間地点に落ち、コロンと転がる。投げたすぐあとに俺は片膝立ちに切り替えP-90(P)を構える。同時に、キリトくんの持つ光剣から光が伸び、1m程の光る刃が登場する。
はっきり言って、勝てるか分からない。キリトくんの戦う姿は1度しか見てないし、相手はアサルトライフルだった。僕のP-90(P)とは初速も弾速も弾数も違う。全てを斬り捨てる事は不可能だろうが、それでも100mの距離を詰め切るまでに6割のヒットポイントを削りきれるだろうか。
冷や汗を背中にかくのを感じながら、銃身を握る左手に力が篭もる。そうして数秒後、ドカン!という音と共に、プラズマ・グレネードが爆発。ほぼ同時に射撃を開始する。
予想通り、猪突猛進するキリトくん。引き金に指をかけ50発もの弾丸をばら撒くが、頭や胴体等致命的なダメージになる弾丸は、光剣により切り伏せられてしまう。しかし、腕や足には命中弾があり、確実にヒットポイントを削っているはずだ。
クンッと横にズレるキリトくん。合わせて銃口もそちらに向ける。100mの間に遮蔽物は無いので隠れること出来ないが、少しは弾を回避することが出来るだろう。2年のSAOで培ったプレイスキルには圧巻される。しかし、8ヶ月とVR歴は圧倒的に負けている俺だが、【銃撃戦】における経験値はこちらに分がある。
感覚で弾が残り10発を下回っただろうと言うタイミングでリロード。もうキリトくんとの距離は10mもない。俺は外した鋼鉄使用のマガジンをキリトくんに向かって投擲する。
キリトくんはそれを切ろうとするが、伊達にP-90(P)のマガジンやってない。いかな光剣といえど真っ二つにすることは出来ず、光剣をすり抜けたマガジンがキリトくんの顔面に直撃する。目を瞑り、少し仰け反るキリトくん。その間に新しいマガジンを取り出し収め、初弾を薬室に送り込みリロードを完了させるが、その間にキリトくんの視界は回復し光剣を突きのように刺しこんできた。古い原作知識から、これが片手用直剣のソードスキル【ヴォーパル・ストライク】な事を悟る。もちろんGGOにソードスキルは無いので、その真似だろうが。
俺はそれをP-90(P)の腹で受けながら、回避する。流石はP-90(P)の耐久力だ。鉄さえ両断する光剣を受けながらもダメージエフェクトすら出ていない。
「セアァッ!」
そこから横薙ぎの一閃。それを前傾姿勢で大の字になりながらジャンプで回避する。地面に着くなり、P-90(P)をキリトくんの足に向かって発砲するが、バックステップでかわされる。
体制を建て直したキリトくんは、今度は右上からの斜め上段切りで攻撃するが、これを紙一重で右半身を後ろに下げることで回避。P-90(P)を繋ぐスリングのみ切られた。超近距離戦なら自由度が増して更にいいだろう。そして、左足でキリトくんの腹を横薙ぎに蹴る。
振り下ろした光剣からそのまま攻撃に転じようとしていたキリトくんはその衝撃で攻撃中止を余儀なくされ、ふらりと傾く。
ダメージレースではまだ勝っている。まだ一撃もキリトくんから攻撃を受けてない俺*2と、重要器官への弾はかわしたものの腕や足に数発弾を食らっているキリトくん。予想残りヒットポイントは2割と言った所か。
ここで俺は賭けに出た。
キリトくんが俺から見て右にふらつき、左足で何とか倒れるのは耐え、光剣で左下から右上へかけての切り付けをすると予想して、それに合わせるようにP-90(P)の銃身を這わせる。
そして……俺は、賭けに勝った。
予想通りP-90(P)は光剣の1mもの刃の斬撃を受け止め、俺自身へのダメージを代わりに受けてくれた。その間に右手で持っていたP-90(P)はもう左上に投げ捨て、そのまま右手でキリトくんの右手を光剣の筒ごと掴む。
「ぐっ!」
攻撃の手段を封じられたキリトくんは、俺の体重を前傾にかけた右手に負けるように体を反転させ、背中を晒す。そこを、俺の右膝がキリトくんの背中を穿つ。
「ぐはッ!」
そのまま押し倒し、俺の右手でキリトくんの右手を光剣ごと地面に縫いつける。体も右膝で抑える。うつ伏せのまま動けないキリトくん。
「捕まえたよ!」
勝ち誇ったように言い、次の一手を打つ。
「ぐ……おぉおぉお!!!」
しかしこのままやられてくれるキリトくんじゃない。覚悟ガンギマリな原作主人公は強いのだ。その優れた筋力値で左手を起点に起き上がろうとする。そんなことをされたら、貧弱な俺の体は徐々に浮いていく。
「……ッ!そうくるよな!キリトくんッ!」
ガッ!と自身の右手ごとキリトくんの右手を踏み付ける。それだけして、あえてキリトくんを解放し、キリトくんの正面に立つ。バネ仕掛けの機械のように起き上がったキリトくんは、今度こそと光剣を握ろうとするが、力が入らない様子。その筈だ。その為に、自身の右手を犠牲にキリトくんの右手を思いっきり踏み付けたのだから。今頃じーんとした痛みで光剣をとりこぼしそうな所だろうが、流石はキリトくん。強い意志で握り続ける。
しかし……
「ごめんな」
そう言って、俺はキリトくんの強い意志を宿す右目を、左手で握ったハンドガンで撃つ。眼孔を突き抜け脳漿にまで到達した弾丸は大ダメージを与え、ただでさえ少なかったキリトくんの残りヒットポイント2割を削りきり、バタンと倒れる。
ふぅ。とため息をこぼし、痺れる右手を擦りながら、なんとか勝てたことに安心する。近接戦に持ち込まれた時点で負けは濃厚だったが、あのパスト譲りの格闘術が役に立った。まぁ、最後は拳銃だったが。
B.o.B予選決勝戦を終え、第3回B.o.B予選の全行程が終了した。戻るのは待機エリアではなく、敗者の送られる予選待機エリアの下の酒場。相も変わらずザワザワザワザワと騒がしくモニターを眺める観客たちを見ながら、キリトくんを探す。と、少し離れたテーブル席にシノンちゃんとキリトくん、シュピーゲルくんの姿を見つける。
「やっほー。勝負はオレの勝ちだねキリトくん」
明るく努めて笑顔でキリトくんに話しかけ、シノンちゃんの隣に座る。へにゃりと破顔したキリトくんは、
「あぁ……まさか、近接戦で負けるとはな。自信あったんだがなぁ……サブアームにハンドガンを持ってるとは考えてなかった」
と零す。
「ん?持ってないわよね?」
キリトくんの話を聞き、疑問を口にするシノンちゃん。
持ってないよ。と肯定の言葉を伝えると、驚いたように目を丸くするキリトくん。
「じゃあ、最後のハンドガンはなんだ?」
「アレは、キリトくんのファイブセブンだよ」
そう。右膝でキリトくんを地面に縫い付け、俺が勝ち誇ったような言葉を吐いた時、俺はキリトくんの左腰からFN・ファイブセブンを抜き取っていた。【次の一手】とはこれである。
勝ち誇った【ような】言葉は吐いたが、だからといって油断してはいけない。相手が原作主人公ならば尚更だ。常に先手を打つ者が勝つのは、SAOでもALOでもGGOでも、はたまたリアルワールドでも同じなのだ。
「そういう事か……」
落ち込むように項垂れるキリトくんを笑いながら、注文したアイスティーを飲む。勝利のアイスティーは美味い美味い。
「ま、これで一件落着だね。俺もキリトくんもシノンちゃんも明日の本戦出場だ。負けないよ。2人とも」
「えぇ。もちろん」
「…………」
1人、暗い顔をするキリトくんに気付きながらも、気付いてないフリをする。
「さて、本番は明日だね、キリトくん。」
「あぁ。無事みんな勝ち残ってよかった。同盟相手は多い程良い。」
立ち回り次第によっては、俺とシノンちゃんは原作通りに行けばシュピーゲルくんこと新川恭二に殺されそうになる。
優勝すれば祝勝会として、負けたらお疲れ様会として、新川くんが毒を片手に俺達の家に入り込むかもしれない。そして、それを断る理由を俺達は持ち合わせていない。なぜなら新川くんは【友達】だから。
新川くんとは、まるで神の悪戯のようにあれからも何度か落し物だったりクラスメイトの行事だったりで、外向的になったシノンちゃん……この場合は詩乃ちゃんの方が正しいか。詩乃ちゃんと仲良くなっていたりして、もう俺は止められなかった。俺の影響で原作程ではないだろうが、学校では詩乃ちゃんのクラスと俺のクラスは違い、新川くんと詩乃ちゃんのクラスは同じだ。関わる機会は多い。
「新川恭二と仲良くするな」等と女々しい事をはっきり言えば、素直な詩乃ちゃんは俺の言葉を聞き入れ、仲良くしなかっただろう。しかし、それでも新川くんは接触を続けてくるはずだ。
逃げ場のない学校で。
既に学校には詩乃ちゃんと俺の起こした【事件】の事は周知されている。遠藤とやらが直接的ないじめはしないにしろ遠回しに詩乃ちゃんを孤立させたがっているようだ。何故かは知らないが*3
「明日が本番だ。頑張ろう!エイエイオー!」
そんな緊張を解すように、自分に喝を入れ直し、明るく振る舞う。
「オー」
一応ノってくれたシノンちゃん。
「…………オー」
相変わらず仏頂面なキリトくん。
「元気ないねぇ。明日が本番だよ?B.o.Bだよ!バレット・オブ・バレッツだよ!今から気が抜けててどうするんだい!」
「貴方が元気ありあまり過ぎなのよ。もう疲れたわ……先にログアウトしてるわね。」
「お疲れ様、シノン。」
「お疲れ様シュピーゲル。」
そう言って、さっさとログアウトしてしまうシノンちゃん。
「俺も……もう落ちるよ。お疲れ様、いい戦いだった。シュウ、また明日な。シノンにもよろしく伝えてくれ。」
そう言って、返事も聞かずログアウトするキリトくん。
「さて、俺も落ちるよ。シュピーゲルくんは?」
「僕も流石に今日は落ちるよ。」
死銃……デスガン。
その他強豪プレイヤー達……課題は山積みだ。そう思いながら、ログアウトボタンを押し、リアルワールドへ帰還する。
「さっ、ストレス発散しましょ」
そんなリアルワールドで待ち構えていたのは、全裸の詩乃ちゃん。
「えっ?」
思わず困惑の声が口から零れる。これから起こる事柄を想像する。
「本番前のストレス発散〜〜」
そう言って、猫のように俺の首筋を甘噛みする詩乃ちゃん。
いっそう守らなければ。と気を引き締め直……し、たい、が、詩乃ちゃんの俺の熱い下半身を弄る快楽が徐々に脳を支配する。
……むしろ守られるかもしれない。
そんな情けない事を考えながら、俺は諦めてアミュスフィアを外し枕元に置き、服を脱ぎ初める。
夜はまだこれからだ。