【リメイク版】不遇な朝田詩乃に寄り添いたい。 作:ヤン詩乃ちゃん( _´ω`)_
2024年12月25日
「ねぇ、出雲。今日この後って予定はある?」
ALOで和人くんや明日奈ちゃんとの狩りの終わり、アミュスフィアを外した俺に向かって詩乃ちゃんが聞いてくる。
「ん?んー……特に無いけど……何処か行くのかい?」
何かしらの誘いはあるかなと考えていたが、結局クリスマス当日まで誘いがなかったもんで大人しくする気かと思ったんだが……そうじゃなさそうだな。
「実はね。前々から行きたかった遊園地があるの。一緒に行きましょう?」
「ん、良いよ。いつ行くんだい?」
「今」
デジャブを感じる。
苦笑いをしながら頷き、着替えを始める。俺はさっさと着替え終わったが、詩乃ちゃんは下着姿のまま「あの服がいいかな」「この服がいいかな」と悩みに悩んでいる。
口出しをしても「貴方の横に立つ相応しい格好をしなきゃいけないの」と*1言ってやめないので、もう諦めた。ギリギリな事もあるが、ちゃんと時間は守ってくれるので別にいいし、詩乃ちゃんの下着姿も眼福なのでこのままでいい。やっぱり止めなくていいや。
服が決まり、電車に乗って詩乃ちゃんが気になっていたという遊園地へと向かう。原作の和人くんみたいに、バイクでカッコよく参上したり……したかったんだけど、一緒に暮らしてるしこんな寒い日にバイクとか考えられないね。
右隣にいる詩乃ちゃんを横目で見てみると、何やら窓の方を向いている。
「……?」
気になって首を右隣の方に向けると、手袋を外した詩乃ちゃんが、窓の結露に細指を這わせ何かを描いていく。
「…………」
寒さか別の理由か。少し頬を赤く染め、空いている方の手で俺の手を握りながらスラスラと書いていく。窓の方に目を向けると……鈴、いや、ベルだろうか?チャペル等にありそうなベルを描いており、書き終わったと思ったらボーっとそのベルを見つめていた。
「ベルかい?上手いね。」
「そ、そう?なんでもないわ。」
チラッとこちらを見て、焦ったように暖かい吐息を窓に当てて描いたベルを薄くする。何だろうと思ったが、それを聞く前に詩乃ちゃんが結露に指を這わせた事によって濡れた右手の指先を、そのまま手袋の中に入れようとしているのを見て、慌てて手を掴む。
「そのまま手を入れたら手袋の中が濡れてしまう。」
そう言って、俺の空いている方の手で詩乃ちゃんの右手を包み込む。
「今日は寒いからね。一緒に温まろうか。」
普通なら小っ恥ずかしい事も、ここ数年で口からスラスラと出るようになってきた。別に俺が女ったらしな訳じゃないからね。言えるのは詩乃ちゃんと2人きりの時ぐらいだ。
「あり……がとう……」
顔を赤く染め、そっぽを向いてしまう。しかし握られた左手は固く閉じられ、じんわりと2人の手の温度が混ざり合い心地よくなって行く。
詩乃ちゃんは性愛や独占愛なんてものは難なくこなすが、ただ一つ、【純愛】という物に弱い。
AVや映画の濡れシーンなんかを見ても顔を赤らめる事は無いが、普通のラブストーリーや王道の恋愛ドラマなんかの、特にキスシーンとかとなると顔を赤く染めチラチラとしか見なくなる。
今まで【純愛】という物を体験せず、【独占愛】なんて物しか知らずに育った弊害とも言えるか。歪んだ心を持っている者に、真っ直ぐな物は合わないのだ。
『次は〜○○〜○○〜』
「ここよ。」
詩乃ちゃんに手を引かれるまま電車を降り、改札を出てバスに乗る。
中々大きい遊園地らしく、直通のバスまであった。
「ね、詩乃ちゃん。着くまで暇だし、何かゲームでもしないかい?」
「ゲーム?……そうねぇ……そう言うには、何かあるんでしょうね」
「えーっと……ねー………………」
「分かったわ。もういい」
思い付きで発言するような男でごめんね。
でも暇なんだもん。アミュスフィア持ってきてもネットないし*2、だからって各々スマホで好きなの見て、なんてやだし。
「あ、そうだ!ならさ。詩乃ちゃんの昔の事聞かせてよ。」
「昔の事……って言っても、私の一番古い記憶にも貴方がいるのだけど?」
「でも、その時の詩乃ちゃんが俺の事どう思ってたかとか、わかんないでしょ?だから教えて欲しいな〜って。いつ好きになったとかも教えて貰えると嬉しいな。」
う〜ん。恥ずかしいなこれは。キザな台詞を吐く方がまだ気が楽だ。「俺の事いつ好きになったの?」なんて簡単に聞けるわけ……
「……そんなに聞きたいの?」
その言葉に俺は「聞きたい!」と念押しする。少し赤くなり、顔をポリポリと人差し指でかき「仕方ないわね」と過去の事を振り返り教えてくれた。
【事件】の話に入った時に「辛いなら無理して話さなくていいんだよ」と言ったが、「私にとっては大事な事なの」と言い、話してくれた。少し所ではなく猛烈に恥ずかしくなり、繋いでいない方の手で顔を隠しながら反対方向を向く。今絶対顔真っ赤だと思う。クスクス笑う声が聞こえるけど、逆の方が多いって事忘れるなよ!仕返しするからな!
「ジェットコースター楽しかったわね!……大丈夫?」
「だっ、大丈夫……大丈夫……」
何を隠そう俺はジェットコースターが苦手なのだ……とでも言い出しそうな場面だが、全くそんな事は無い。得意ではないが苦手でもない部類だ。ちなみに苦手なのはメリーゴーランド。俺が幼少期に行った所だけなのかは知らないが、とても股が痛くなる。上下運動が激しいんだよ!
話が脱線したが、まぁ、俺がこうなってるのは簡単に説明すれば詩乃ちゃんのせいなのである。全部。紛うことなき、全てが、だ。
「普通7回も乗るかい……」
「この遊園地の目玉よジェットコースターは。」
「に、してもだよ。」
途中昼ご飯を挟んだから余計に辛い。吐きそう。「流石に何回も乗ったら慣れるだろ〜」とか思うじゃん。慣れない。3回目ぐらいから見事に辛かった。
「そろそろ暗くなってきたわね。」
「えっ、嘘。ジェットコースターしか乗ってないよ?」
本当だった。夜の遊園地は明るいので上を見なければ分かり辛いが、空は真っ暗だった。星見えないなぁ。
ジェットコースターに乗ってる時は酔うので3回目から目を瞑って横に座る詩乃ちゃんの嬉しそうな叫び声に集中していたから、よく分からなかった。
「さっ、観覧車乗りましょ!吐き気覚ましにもなるわよきっと。」
「い……いやいや。外で新鮮な空気吸ってた方が、よっぽど吐き気覚ましになると思う……」
「カップル1組で。」
「話を聞くんだお願いだから。」
係員のお姉さんに「すみませんこの観覧車の営業は1時間後になります。」と申し訳無さそうに言われた。夜限定の観覧車か……ナイト遊園地って奴か?夜からが本番なのか、この観覧車は。嘘だろ。
「あ〜……じゃあ、その辺のベンチで休みましょうか」
「ぉぅ……」
ベンチに腰掛け、詩乃ちゃんの肩に頭を預ける。冬らしい寒い空気が肺の中を循環し、熱くなった体を冷ましていく。その心地よい感覚と、7回にも渡る怒涛のジェットコースターによる疲れが押し寄せ、少し眠くなってしまう。
「……ごめ」
一言断りを入れようとしたが、入れる前に俺は眠ってしまった。
「はぁ……なんでこんなにカッコイイのかしら……」
私の膝の上で眠る出雲の頬や髪を弄りながら、ポツンと呟く。それ程までに私の夫*3はカッコイイし、可愛い。その世の褒め言葉全てを同時に言っても表現出来ない程に。
「喉が乾いたわね……でも出雲を起こしたくはないし、退かしたくもない……」
そうは言っても喉が乾いた。先に飲み物を買っておくべきだったかと後悔しながら、そっと出雲の頭を持ち上げて、下にカバンを敷いて置く。
私の太腿より硬いカバンに枕が切り替わった事に気付いたのか、少し身動ぎをしたがそれだけだった。
起きなくて良かったと安堵すると共に、私の膝でなくてもいいのかと、誰に向けるわけでもない嫉妬心が浮かぶ。
「……お茶、買ってこよう」
財布を手に持ちながら、時々出雲の方を振り返り、寝ている出雲に良からぬ事をする輩がいないか警戒しながら、近くの自動販売機に付く。
「眼鏡の姉ちゃん。クリスマスの夜に1人かい?俺達が一緒に居てやろうか?」
お茶を買って、それを取り出し口から取り出そうとした時に、背後から知らない男の声がする。またかと思いながら振り返ると、3人程のピアスやタトゥーを入れた【いかにも】な奴らが立っていた。GGOなら珍しくないが、ここは現実世界だ。よくもまぁかっこよくもないのにそのような物を付けられるものだ。【恥】という言葉を辞書で引いたらどうなの?
「1人じゃないし、先約がいるから結構よ」
ナンパには大まかに2つに分けられる。
良心的なナンパと面倒なナンパだ。
……いや、ナンパな時点で良心的とは言えないし、ナンパは全部面倒だけど、大まかに分けて、ね。
良心的なナンパというのは、大体一言断りを入れたら去っていく。ダメで元々、という輩に多い。
後者はイベント物に多い。ハロウィンやクリスマス等の都会、こういう遊園地とか。こっちは、まぁ、しつこい。何度言おうと何を言おうと食い下がらない。最後は結局私か相手の暴力行使である。人のいる所に出て自己防衛はするようにしているけれど……囲まれてるわね。
「そんな事言わずに、ね?」
「今日はクリスマスだぜ?今日くらいソイツも許してくれるさ。」
「そうだよ。」
「……本当に結構よ。どいてくれないかしら。」
決して人目が多いとは言えないが、少なくもない。しかし他のカップルは素通りするし、アトラクションの係員でさえ目を合わせない。慣れっこなので一々文句を言ったりしないが、そういう奴らをみる度に「やはり出雲以外は取るに足らぬ」と再認識する。
「だーかーらー。大人しく付いて来いって。」
「痛い事とかしないから、大丈夫だよー。」
「ね、一緒に遊ぼうよ?」
嗚呼面倒臭い!さっさと退けばいい物を!私の態度を見てまだ「行ける」とでも思っているの?余程その醜い姿に自信があるか全盲のようね。鏡を見た後その鏡に頭から突っ込むといい。今よりマシな姿と頭になるんじゃないか?
全身で【不機嫌】オーラを出しながら、どうすればここから出られるか思案していた時……
「つーかさ、その先約、ぜってぇ俺らよりブサイクだべ?」
「つまんねー男より俺らみたいなのと過ごした方が幸せだと思うんだけどなぁ?」
「…………」
「……は?」
今こいつらはなんと言った?
ブサイク?つまらない?お前らといた方が幸せ……?
こいつらは自分達と出雲を比べ、あまつさえ「自分たちが上」だと判断したのか……?
嘘だろう?月とスッポンどころか、糞を下水で煮込んだ物と神を比べるようなもの……いやそれ以上の差があるというのに……?
「冗談もいい加減にしなさいよ……」
「あ?」
目の前に陣取っていた男の口を掴み、そのまま力を込める。
「まだ私を誘うなら許すわ。絶対に乗らないし、断りを入れるだけだもの。強引に手を出すなら許さないけど、それ以上に許されないのは……彼を侮辱する事よ。貴方は何を思って彼を自分より下と判断したのか知らないけど、貴方みたいな、姿も心も醜い人間とは比べ物にならないような人よ。私が愛し愛されるのは彼以外にいないともう決めているの。さぁ……わかったらその汚い口を閉じなさい?」
「あ……あがが……」
私の力で顎が外れ、閉じようにも閉じられないご様子。あっそう。そんなに開けられたら拳をブチ込んでくれと欲してるようにしか見えない。
「その汚い口を閉じなさい。」
こういう時、自分でも驚く程冷ややかな声が出る。
顎が外れている事なんてお構い無しに、強烈なアッパーをいれ無理やり口を閉じさせる。そのまま2人目の足をローキックで潰し、足をかけ転ばせる。
「私はね。彼を守る為に色々勉強したの。
そう言い、2人の男性器を思い切り踏み潰す。先程まで呻き声をあげていた2人が声のない叫び声を上げ、気絶する。
この世には睾丸を潰されショック死した人間もいるらしいが、どうでもいい。むしろ死ねばいい。社会の為だ。愚か過ぎる死でダーウィン賞*4すら勿体ない。
「……」
「……ひっ。す、すみませんでしたぁ!」
「…………まぁ、貴方は彼を侮辱しなかったわね。手は出さないであげる。立ち去りなさい。」
そう言うと、一目散に逃げていった。倒れた仲間を助けようともしないとは……やはりクズはクズという事か。仲間意識の欠片もないとは。
自動販売機の中のお茶を取り出し、倒れる2人の男を放って出雲の元へと戻る。
「ん……ぅ……」
「ふふっ。」
先程の一件で若干不機嫌であったが、出雲の可愛い寝顔を見ると全て吹き飛んだ。カバンを持ち上げ、再度私の膝へ乗せる。
「惜しいけれど……さ、30分。そう、30分程で起こさなきゃ……」
出雲の寝顔は、また今日の夜見よう。
私の生きる活力、意味、理由……それら全ては、彼ただ一つ。
それで十分だし、私は今、とても幸せだ。
「……はっ。」
目を覚ますと、まず頬を膨らませた詩乃ちゃんの顔が目に入った。あざとい。あざと可愛い。
「あれからどんくらい経った?」
「1時間と20分*5よ。20分オーバーね。まったく、声掛けても起きないんだもの。*6」
「私、ご立腹です!」と言った表情で腕を組むが、まっっったくそういう雰囲気が出ていない。さては声掛けすらしていないな*7。
「自意識過剰じゃなければ、俺の寝顔見てて時間忘れたでしょ」
「そっ、そんなわけないでしょぉ!?」
「声裏返ってるよ……」
立ち上がって伸びをして、詩乃ちゃんに向かって手を差し出し、その手に温もりを感じてから引っ張る。既に開いた観覧車の列の方へ歩いて行くと、詩乃ちゃんも段々普通の表情に戻っていく。ご立腹詩乃ちゃんも良かったなぁ。帰ったらまたやってもらおうかな。待ち受けにしたい。今の待受は去年の隠し撮りした寝顔。全然バレてる*8。
「……実はね。今日は、この為に来たの。」
「ジェットコースター7回も乗ったくせに!?」
「うっ……それは……その……ごめんね?」
「可愛い。許す。」
詩乃ちゃんが俺を掌で転がしている……!転がし方をマスターしたな!?クソ!もっと転がしてくれ!
やがて俺達の番になり、観覧車に乗る。外から見た感じは、他の有名所の遊園地の観覧車より、人が乗る籠のようなものも、全体の大きさも、ひと回り大きいように見える。観覧車とジェットコースターに力入れ過ぎじゃないかこの遊園地?偏り過ぎだぞ?こんなんでよく客来るよな……俺らもだけど……
「で、この為に来た、ってなんなの?」
「もうちょっと……」
疑問に思いながらもその言葉を信じ、遠くに見える山々や、高い所から見る煌びやかな街中に目を巡らせ、やがて頂点につく。
「…………下、見て」
「下?」
高い所は苦手なんだが、詩乃ちゃんの言葉のまま真下を見ると、そこには遊園地全体のライトアップによって映し出された大きなベルが見えた。
それは、詩乃ちゃんが電車の中で描いていたベルに似ており、なんと言っていい物か分からず、ただただ驚く。
「この遊園地ね。結婚式なんかでも、結構使われるんだって。下で式をして、最後に新郎新婦が2人でこの観覧車に乗って、頂点に至った時に永遠の愛を誓う……そんな結婚式。ねぇ、出雲。貴方は私に、永遠の愛を誓える?」
下からのイルミネーションの光と、それに負けない。いや、それ以上に輝いている詩乃ちゃんの笑顔を見て、俺も笑顔を浮かべ、答えを言う。
「勿論……勿論だとも。永遠の愛を誓うさ。例え俺達が死んでも、来世できっとまた君を見つけ出す。その来世も、その来世も……きっと、俺は君と一緒にいる。」
観覧車の中で膝立ちをし、詩乃ちゃんの左手の薬指にそっとキスをする。指輪はまた今度。
「……ありがとう。出雲」
「こちらこそ。詩乃ちゃん」
12月25日
俺、柊出雲と彼女、朝田詩乃は、死でさえ裂けない永遠の愛を誓った。