【リメイク版】不遇な朝田詩乃に寄り添いたい。   作:ヤン詩乃ちゃん( _´ω`)_

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今日だけで3話目です。


朝田詩乃とDAO。

『シノンちゃん!クライン!戦闘準備!!』

 

 反射的にバックステップするシノンちゃんと、自動小銃を構えるクライン。

同時に、太いエネルギー弾が近くの地面を抉った。恐らくは、俺を狙ったエネルギー弾である。

 

『戻った!シノンちゃんはまず隠れて発射地点(ショットポイント)の確認!クラインは牽制射撃しながら俺の援護!他は伏兵が居ないか周囲を索敵(サーチ)してくれ!』

 

『『『『了解!!』』』』

 

 オープン回線からプライベート回線に戻った俺の司令を聞き、一行は行動を開始する。

 狩りや、PKに会う時は大体俺かクラインのどちらかが指揮をとっている。クラインはギルド長として人を纏める能力に優れているし、俺は昔から頭の回転が早い。

 エンフォーサーと名乗ったプレイヤーは、初撃を撃ってから姿を消した。

 

『シノンちゃん!エンフォーサーはどこに行った!?』

 

『見えない!』

 

『俺も見失った!』

 

 いいチャンスだと俺は思った。エンフォーサーはこちらのPKを目的としているが、シュウ達は中立エリアまで逃げればいい。応戦する必要性は必ずしもある訳では無い。

 

『逃がさない!法からは誰も逃げられない!!』

 

 相も変わらずオープン回線でまくし立てるエンフォーサー。しかし、これは逆にまだオープン回線の範囲内約500mに居ることを指している。

 

『お前ら!索敵が終わったら報告して中立エリアに逃げろ!ここは俺とシュウ、シノンで受け持つ!』

 

『で、でも!クラインさん!』

 

『いいから行けってんだよ!!エンフォーサー1人なら俺達でなんとかしてみせる!』

 

 クラインがクランメンバーを逃がす為に言葉をかける。

 このゲームはデスペナルティが重い。プレイヤーレベルもスキルレベルも存在しないこのゲームだが、死んだ場合持っているクレジットの15%と武装のランダムドロップがある。特に武装のランダムドロップの確率が高く、メインアームを無くす可能性が高い。それだけPKが推奨されている、とも言える。

 

『見付けた!10時の方向!』

 

 シノンの報告により、エンフォーサーの位置が割り出される。

 エンフォーサーはこちらが敵の方向を察知したのを察知したのか、こちらに向かってくる。

 

『速いッ!が、私からは逃げられませんよ!』

 

 オープン回線で捲し立てるエンフォーサーを尻目に、シノンちゃんの報告を聞いた俺が4時の方向に牽制射撃をしながら走る。

シュウは超AGI(敏捷性)特化型構成であり、その速さは目を見張るものがある。

 

『リロード!クライン、スイッチ!』

 

『応!』

 

 俺がPー90の弾倉を交換している間に、クラインが自動小銃で推定エンフォーサーの位置に弾をばら撒く。

 

『ッ!目標、消失(ロスト)!……きゃぁ!』

 

『シノン!?』

 

 左上に表示されたパーティーメンバーである《sinon》のHP(ヒットポイント)バーが少し減る。

 

『ハッハァ!!』

 

 シノンの居る位置はここから7時の方向。

 

『ごめんシクった!私は大丈夫!目視はしてないけど9時の方向から撃たれた!』

 

『了解!クラインはシノンちゃんの回復までの援護!俺が行く!』

 

『『了解!』』

 

 シノンの位置から9時の方向、つまり左から撃たれた。俺程ではないが、速い。恐らくはAGIーSTR(筋力)型。ジャンプパッドアイテムを設置して、素早く移動と同時に索敵を行う。そして、遠くにこちらを狙うエネルギー弾の光が見える。位置を確認し、グレネードボタンを押して閃光音響手榴弾(フラッシュバン・グレネード)を投げる。

 オープン回線に繋いでいる筈のエンフォーサーは何も言わず、エネルギー弾の光は未だ光っている。

 

「(フラッシュバンは効いたのか?VCを切った?)」

 

 投擲スキルを使い、ダガーをエネルギー弾の光に投げる。見事命中するが、声は聞こえない。全速力でその元に走ると、ダガーに刺された発光しているエネルギー武器だけが置いてあった。

 

『シュウ!無事か!?』

 

『こっちは!そっちは!?』

 

『大丈夫だ!エンフォーサーは!?』

 

『……どうやら逃げたらしい。』

 

『そ、そうか。』

 

 エンフォーサーのエネルギー武器とダガーを回収し、ストレージにしまう。DAOでは他者の武器でも、武器と所持者が500m以上離れたら所有権が強制的に無くなる。

 

『さて、さっさとアイツらと合流す』

 

『……クライン?クライン!?』

 

 言葉が途切れ、不思議に思いモニター左上のパーティメンバーのHPバーを見ると、《Klein》のHPバーが全損している。

 

ESR(エネルギー・スナイパーライフル)!シュウ、反撃する!』

 

『ダメだ逃げろ!』

 

 俺の居る位置からシノンちゃんの位置まで約200m。そしてあのお喋りなエンフォーサーの声が聞こえないという事は、俺やシノンちゃんから500m以上離れた場所からの狙撃。500〜700m離れている事になる。

 

「(何処だ!?何処に……!)」

 

『━━━━━━━最後は貴方ですよ。』

 

『(このタイミングでオープン回線!?)シノン逃げろ!』

 

『っ……シュウ!敵は(きん)

 

 俺の言葉虚しく、視界の《Sinon》のHPバーが一気に減り、全損した。プライベート回線を切って、オープン回線に切り替える。

 

『エンフォーサー!』

 

『彼らは正しき罰を受けたのですよ!』

 

『クラインとシノンのアイテムは返してもらうぞ!』

 

 シノンの死亡マークに向かって進む。

 

「(恐らく最期にシノンが伝えたかったのは「敵は近距離武器を使ってる。」という事。どうやってクラインを500m以上の距離で狙撃し、数分でシノンちゃんと俺の目を掻い潜ってシノンちゃんを斬殺したんだ?)」

 

 道路に飛び出すと、隠れる必要など無いと言わんばかりに、道路の真ん中に立つエンフォーサーを見付ける。Pー90をばら撒きながら走る。約300m、この距離なら20秒程度で到達出来る。

 エネルギー武器特有の光とチャージ音が響き、3秒でエネルギー弾がばら撒かれる。

 加速度的に弾は増えていき、避けられない弾も出てくる。

 

『チィッ!』

 

 エンフォーサーの舌打ちが聞こえた。

 左手に握られたエネルギー武器はそのまま、右手に見知った近代銃が現れた。

 

『FRーF2!?(シノンのドロップ品か!)実弾は使わないんじゃなかったのか!』

 

『えぇ使いませんよ!』

 

 そう言いながら、俺と同じくエンフォーサーも走り出す。邂逅する瞬間、エンフォーサーはFRーF2を投げ、シュウは反射的にダガーで弾いた(パリィした)

 

『セアァッ!!』

 

 P-90の弾倉がガチッていう音と共に空になるのと、エンフォーサーが拳を繰り出すのは同時だった。エンフォーサーの拳が俺を穿つ。

 俺のHPは残り2割。

 DAOは基本的に中〜遠距離戦のゲームであり、近距離は銃以外ならダガーやナイフ以外だと拳ぐらいしかないが、拳は厳密に言えば武器を持っていない手の攻撃キーを押した場合に発生する行動であり、本来攻撃手段としてはあまり推奨されていない。

 拳によりノックバック・視界のブレを受けるが、それを意に返さずダガーで反撃する。

 無手の拳よりも武器判定のあるダガーに分があり、拳とダガーの殴り合いは俺に勝敗が上がろうとしていた。

 バックステップでダガーをかわしたエンフォーサーは、エネルギー武器を構えた。エネルギー武器の良さはいくつかあるが、その利点の1つにリロードが基本必要ないというものがある。エネルギーパックのリロードは必要だが、1回の戦闘で無くなる程エネルギーパックは少なくない。

 

 撃つのが速いか、俺のダガーの方が速いか。

 

 軍杯が上がったのは、俺だった。

 ステータスポイントの殆どをAGIに振った超AGI極振り構成の俺のバックステップ1つ分を埋める速さと、エネルギー武器のチャージの時間だと、俺の足の方が速かった。

 

 ダガーで胴体を貫き、エンフォーサーの体が倒れる。

 

『くっ……次は、負けませんよ……!』

 

 エンフォーサーの体が爆散する。

 

「……勝った。」

 

 誰も聞いていない回線で、誰も居ない部屋で、俺はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エンフォーサー戦のドロップ品の確認。シノンちゃんのFRーF2は最後の最後にエンフォーサー自らが捨てた。それを回収。

 

「アイツ金溜め込み過ぎだろ。富豪かよ……」

 

 今更だが、DAOはRMT(リアルマネー・トレーディング)システムを導入している。ゲーム内通貨をリアルマネーに、リアルマネーをゲーム内通貨にする事が出来る。

 厳密に言えば、ゲーム内通貨をリアルマネーにする事は出来るが、リアルマネーをゲーム内通貨にするには、1度リアルマネーでアイテムを買い、それを取引所に流す必要がある。とは言え、リアルマネーで買えるアイテムは人気で、購入待機が多くすぐ売れる。恐らくエンフォーサーはそれを利用して、ゲーム内通貨を貯めていた。何故かは分からない。倒されるとは夢にも思っていなかったのか、本当に富豪でこの程度小銭だと思っているのか……

 

「RMTなんてグレーな物を……そういえば、DAOの運営会社と本サーバーは日本じゃなくてアメリカだったな。確か名前は……

 

【ザスカー】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうっ!」

 

「まぁまぁ落ち着いて。」

 

 日が落ちて、外が暗くなった頃、ぷんぷんと怒った様子の詩乃ちゃんが部屋に突撃してきた。

 あの後、リスポーンしたクラインにエンフォーサーからドロップした元クラインの自動小銃を渡し、ドロップした通貨の15%の内8%を渡した。シノンちゃんには相談の末3%を渡し、俺は4%を受け取った。シノンちゃん曰く、「私は活躍できなかったから要らない」との事だったが、戦ったのは事実なので、分配は発生する。それが義務であり権利である、との俺の力説にシノンちゃんは折れ、折衷案でクラインに1%多く渡す形で幕を引いた。

 

「なんなのよ、アイツ。」

 

「俺も知らないよ。クラインに聞いてくれ。」

 

 長くDAOをプレイして来たが、エンフォーサーなんて名前は聞いた事がない。これはマジの富豪の可能性が出てきた。

 

「クラインさんは?」

 

「さぁ。報酬とドロップ品返した後は、別れたからな。【風林火山】のみんなとは無事に合流出来たらしいけど。」

 

「そう……」

 

 ベットに横になる俺の横に、添い寝をするように詩乃ちゃんが横になる。

 

「疲れたわ。今日はこのまま寝たい……」

 

「……あぁ、いいよ。」

 

 このような事を言い出すのは、今回で何回目だったか……

 チラリと横を見ると、少し顔を赤らめた詩乃ちゃんの顔が瞳に入る。

 この恥じらいも、段々と無くなっていくと思うと悲しいが、今は楽しもう。

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