アルア=ゾルディック 作:セイヘキ ✕ ト ✕ ソウサク
念の限界に挑む(情熱大陸)
「へへへぇ、だいぶ割に合わねえ仕事だったが、命を懸けた分の価値はあった.......!」
「ぁあぅぅう」
俺は今、例の誘拐犯もとい。糞野郎もとい、人でなしさんに身柄を確保されている。こいつは森の中を爆速で疾走しているから、追いつくにはそれなりに足が速い奴じゃないと敵わないだろう。あとなんかこいつ、さっきから妙な気配を体から漂わせている。こんな三下みたいなやつの癖に、それなりには強いようだ。そんな奴に目をつけられた俺は、これからどうなってしまうんだろうか。
「人数が減っちまったのも、今考えれば都合が良い!これで分け前は全部俺のもんだ!!!!
くっくっくっ....あぁ!ゾルディック家の子供なんて、どんな値がつくか想像も出来ねぇぜ!すげぇ!ワクワクしてきたなぁ!?」
なんかハイになっちゃってるようだが、どうやら人身売買系のそれらしい。いやもうそういうのは前世でお腹いっぱいなんですが。
ん?ていうかそれもやばいけどちょっと待って?
ゾルディック家???
(...................Why?)
ゾルディック家ぇぇぇぇえええ!?!?!?!?
えっ、ちょっ待って!?ホントに待って!?え、何ここHUNTER × HUNTERの世界なの!?ガチで言ってる!?
つーかあれキキョウかい!
俺の母親キキョウなんかい!!!
暖かい母の愛的サムシングどっかいったんだが!?
というかほぼほぼ原作軸の世代じゃねえかふざけんな!?
いやまてそもそも俺って何番目の子だ!?
キルアは!?もう生まれてんのか!?おれが連れ去られてもまだ異常な現象のアクションが無いのを見るにアルカはまだナニカになってないのか!?いや生まれた時から一緒かどうかは知らんけど!!
「よし、追っ手はまだ来てねえな.......
早いとこ離脱してぇんだが、あんまり飛ばしすぎると後が無くなるからな.......」
つーかこいつすげぇなおい!
よくゾルディック家に盗みに入ろうとか出来るなおい!
それも産まれた直後の子供を盗むとかマジでエグい。周囲に居た使用人もおそらく強いだろうし、それ全部倒して盗んだってことだろ?
いやまず本館でも奥の方である場所まで侵入できてる時点でHUNTER × HUNTER世界の上澄みだよ!!!
まあ単独犯じゃなく複数犯みたいだが、それでも何なのこいつ。
あ、ということはまさか念が使えるのかな。さっきからしてる妙な気配ももしかしてそれか?並の使い手じゃないんだろうけど.......
「ちっ、あの女どもとの戦闘でオーラを消耗しすぎた。不味いな.......」
あっ、やっぱそうみたいですね。まだ完全に耳が発達しきっていないから周囲の音全てを拾えるわけでは無いけど、こいつの声だけに集中すれば少なくともある程度の独り言はなんとか聞き取れる。
「グルルルルルッ!!!」
「ちっ....!退け犬ゥ!!!!」
「ギャゥンッ.......!」
え?は!?な、い、今のってミケだよね?え、何こいつやば。ミケを片手でぶん殴ってあしらったんだけど。化け物か?まあとりあえず、ミケに間違えて食われて死ぬっていうBADENDは回避しましたけれども。
こいつ強そうだからアジトに着くまではとりあえず死にそうにはないけど、かと言ってこのままだと..........
う、うーん。いや、どうすんのマジでコレ。
また商品として振り回される人生はお断りなんですがそれは。
せめてゾルディック家でもいいから、マトモな人生送りたいもんなんですが?
とはいえ、赤ん坊じゃ流石に何も出来ないし、どうしよう。
てかなんかさっきから苦しいんだけど。なんで?こいつのせい?そういう念能力だったりするの?
「..........ん?」
「....ぅぁあ。きゃっほっ、きゃっほっ.......」
「お、おい。なんだよ、大丈夫か?あれ?」
「..........」
あ、ちがうこれ。単純に赤ちゃんだから死にそうなんだわ。
そりゃそうだ。すぐに保育器に入れないといけないのにこいつが無理に盗んで行ったから、色々と不味いことになってるんだ。
「え?.......これ、大丈夫....だよな....?」
「.............」
あれ!?俺このまま普通に死なね?
こいつ、一応丁寧に運んではいるみたいだけど。
それでも念能力者レベルのスピードで森の中を爆走すれば、いくら揺れが少なくても赤ちゃんには大ダメージだ!
下手したら人身売買とかされる前に、そもそも着く前のここで死ぬぞう俺!?!?
「ぉ.......ぎゃぁ..........」
「おいおいマジかよ死ぬなって!?一応生きてないと大幅に報酬減額されちまうんだよ!?頼むからさぁ!?なぁおい!」
ちょっ、揺らすな揺らすなバカ!
あぁ.......やばい息が苦しくなってきた.......
ほら早くトントンして!トントン!お前赤ちゃんの面倒も見た事無いのかよ!カスゥ!?これだから倫理観の無ぇ犯罪者は!!!
あっ、マジでやばい死ぬ..........三途の川見えてきた.......
いかちぃ目のお母さん。今世は短かったけど貴女に少しだけ抱かれて幸せでした.......幸せだったかなぁ.......?
「おいおいマジで冗談じゃねえぞ.......!ほ、ほーらお菓子だぜ!よしよーし!」
アホかァ.......まだ赤ん坊だぞオイ....
頭湧いてんのかカスゥ..........
「く、くそっ。こうなったら一か八かだ.......!!!」
は.......!?おい待て待て待て。
何しようとしてる....?明らかに非念能力者な俺ですらハッキリ感じられる程のオーラが出てるんだが.......?
そんなんこの状態で赤ん坊がマトモに浴びたら攻撃系の念じゃなくても死ねるんだが.......?え?本当に何しようとしてるの.......???
「向こうに着くまで死ぬなよガキっ.......!」
いやそんな感動的に後を託すジャンプ漫画みたいな感じ出されても。
そういやHUNTER × HUNTERってジャンプだったわ。
なにやら奥義みたいな技を出そうとしているらしいが、それ大丈夫?
食らったら死なない?さっきの口ぶりからして殺しはしないと思うけど多分普通に死ねますよ俺。
てか、着くまでって。こいつの念ってもしかしなくても転移系の念なんだろうか。だとしたらゾルディック家の本館から抜け出せたのも頷けるが。
「時間の調整は..........まぁやってる場合じゃねえわな。
ともかく行くぞ──────」
「み゛づげだぁ゛ぞぉ!!!!!!!」
「!?」
あ。立ち止まってたからか、捜索中の使用人に見つかったみたいだ。
よ、良かった.......これで助かる.......!!!!
そう安堵していたのも束の間。
次の瞬間、俺の身体が宙を舞った。
(..........は?)
何故だか、先程よりは息苦しくないものの。自然の摂理に従って、段々と地面が近づいてくる。
え!?なに?投げ飛ばされた?
オイオイおいおい!死んだわ俺。
まだ据わってない首を動かして見ると、先程の男の首から上が無くなっているのに気づく。どうやらゾルディック家の使用人がやったようである。流石だ。その調子で俺の事も助けて欲しいんだが。
ん?なんだ。なんかを俺に向かって叫んでるな。悪いんだけどいま、今世一体調が優れなくてさ。何言ってるか全然聞こえないんだわ。
なんか投げてきているがもう間に合わない。直感がそう告げていた。
いつの間にか俺の後ろに出現していたドデカいワームホールのような何かに、徐々に吸い込まれていく俺の体と投げられた物体。やがてこの全身が通り過ぎたとき、それはすぐさま閉じた。
まるで何分もあったような気がするが。あとから思えば、この瞬間はたった1秒にも満たない、そんな一瞬の出来事だったんだ。
俺に向けられ差し伸べられた手が、ギリギリ間に合わなかったのも、仕方のないことだと言えよう。
結局その人がどんな表情をしていたのかは、今でも思い出せないが。
ただ、完全に吸い込まれて意識を失う直前に流れ込んで来た思念のような物が、何よりもその時の頭には鮮明に残っていた。
『どうせ奪い返されて殺されるなら!!!せめてこのガキだけでも何処か
その時に当時の俺が思ったのは
──────ああ、やっぱり誘拐犯ってカスだな。だった。
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「く、くそっ..........クソっぉお!!!!!!」
下手人は何とか捉えて首を落として殺したが、後一歩の所で手が届かずに御子を助けられなかった。なんたる失態。ゾルディック家の使用人にあるまじきザマである。この分では下手人を始末できたことを入れたとしても、十中八九処分となるだろう。
だが俺の事はいい。それよりもどうにかして御子を取り戻さなければ。俺の命を懸けてでも。悔やんでいる時間は無い。
謎のワームホール.......
おそらくこの下郎の念能力だろう。襲撃時にも同様の物がいくつか使用人によって観測されていたようだ。
どうやらこいつは連中の機動力担当のようらしい。まあ、そうでも無ければ、我がゾルディック家の敷地から後一歩といった所まで赤子を抱えて逃げるなど困難だろう。
幸いこいつはそこまで長距離の転移が出来ないようだし、実際俺の同僚である彼女の念で居場所を特定できた。
ただ、唯一。何故か俺だけが此奴を発見できたというのが気になるところだが.............
それにあれはきちんと御子息の元まで届いただろうか。ワームホールにはギリギリ入っていたとは思うが。
考えていても仕方が無い。
「こちらナンフ!下手人は仕留めたが御子息の姿が消えた!至急この周辺を洗いざらい探し出せ!御子息は産まれたばかりで危険な状態だ!絶対に早期に見つけ出せ!!!!少なくとも御子息は自力で動くことは出来ないはずだ。必ずこの辺りに居る!!!草木掻き分けて根の隙間まで隅なく注視しろォ!!!!」
──────しかし、数時間後。結局ゾルディック家の攫われた子が見つかることは無かった。死体でさえも。
両手にバラバラになった賊の死体をいくつも持ちながら、ゾルディック家当主であるシルバ=ゾルディックは、滅多に流さないであろう涙の筋をその頬に残していた。
──────さらに数年後。
長年の捜索に渡ってもその子供は見つからず。やがて現場責任を負って、ナンフ・メトベシェテはゾルディック家当主の手によって処分された。と、後のゾルディック家の記録には記されている。
まだ使用人の命が重かった頃。なお()