マイページを参照していただければ幸いですが、新作を上げることにしました。ただし、不定期です。シリアス系は疲れたので、しばらくはのんびりしようかと……。
おそらく短編扱いになると思いますが、どうなるか分からないので連載として扱っていきます。
よろしくお願いします。
我は蛇である
我は蛇である。名前はまだない。
というよりも名は与えられず、種族は我のみであるため、種族名が名のような物だ。
そんな我の事を知るには過去の話をせねばならない。
我は僅かに太陽の光が届く海底で、多くの兄弟姉妹と共に生まれた。
生まれた直後に耳にした母の声は「最後まで残った者を我が後継とする」だった。我等は生まれた時から自我を持ち、母の言うことを理解すると直ぐに殺し合いを始めた。
同じ血を引く蛇であろうと関係なく、その血に刻まれている記憶だけが我等を動かすのだ。
我は周りの兄弟に比べて体が小さく、弱いと思われていたため後回しにされ続けた。それ故に、賢く立ち回らなければならなかったのだ。周りの兄弟姉妹は何も考えずに、ただ目の前に立ちふさがる同胞を殺し続け、我は彼らが疲れ果てた隙をつき、誰にも気づかれないように殺して回った。
食べる物さえまともに用意できず、殺した同胞の死体を食べて飢えを凌いだ。そして、ある時自分が持つ能力に気づくことができた。
脳を喰らえばより賢くなることができると。その者が持つ知識や記憶は、脳を喰らうことで我の物にでき、気づけば誰よりも賢くなっていた。
賢い我は一目置かれ、兄弟姉妹は我の知恵を借りて、別の兄弟姉妹を殺していった。
それさえも、我の計画の一部であると知らずに。
最後まで我の言葉を信じて決闘に臨んだ兄と姉は、両者が力を使い果たしたところで我の手にかかり死んだ。当然、その体も脳も我の血肉の一部となり、無駄な死になることは無かった。
全ての同胞が死に絶え、我がその全てを取り込み、最後に残った者となった。
「娘よ。お前こそが我の力を引き継ぐに値する者だ。さぁ、我を喰らうがいい」
母はそのまま息絶えた。巨大な母の体を喰らうにはそれなりの時間を要したが、喰らい終えると、自分が何者か、ここはどこなのか、何をするべきか、祖先の記憶を垣間見た我は全てを理解した。
我の種族は
ある時、母はこの世界へと迷い込んでしまい、身を隠して静かに暮らしていたが『八欲王』なる者達に見つかってしまったのだ。奴らが母を狩ろうと攻め込んできたため、母は戦いに挑まなければならなかった。
激戦の末、どうにか勝利を収めたものの、傷ついた体は朽ちる寸前であった。
満身創痍の体に鞭を打ち、残る力を振り絞って我等を生むことで、種の存続を図ったのだ。
(我は生き延びなければならぬ。死ぬことがあれば祖先兄妹に顔向けができぬ)
生き延びるためには強くならねばならない。
既にこの海域に巣くう海獣に負けぬほどの力を持っていたが、母と比べればまだ貧弱だった我は、目に入った海獣を手当たり次第に殺しては喰らった。
我の種族は相手を喰らうことで力を得る。
なれば、喰らい続けるしかないと。
ただひたすらに、何も考えずに―――
どれほどの日々が過ぎたかは分からない。だが、その海域からは海獣がいなくなり、喰らえる者はいなくなった。
体は当然大きくなったが、それでも母や兄弟に比べれば未だ小さい。だが、体が大きければ強いという訳でもない。
その体がどれだけの能力を持っているかの方が重要だ。例え大きくても、貧弱な鱗では相手の攻撃を防ぐことさえできない。逆に言えば、体が小さくても強靭な鱗を持てば相手の攻撃を恐れる必要はないのだ。
(急激な成長のせいか眠くなってきたな……。しばし、休むとしよう……)
海底に横たわるとそのまま目を閉じた。
我がそれからどれだけ眠っていたかは分からない。だが、体に覆いかぶさっている砂の量からして、おそらく100年程は眠っていたのだと思う。
目覚めても周囲に海獣の気配はなく、眠っている間に海獣もある程度は数を回復させるだろうと考えていたが、想定以上に喰らいすぎてしまっていたのだ。
だが、これがきっかけとなり陸地へ上がる判断をできたのだから、反省するばかりでなく、過去の我を褒めてやるべきだろう。
更なる獲物を求めて、海底から浮上し海面へと顔を出す。
その時まで、記憶でしか理解していなかった太陽の光の眩しさに驚き、おもわず目をつぶってしまった。しばらくするとその明るさにも慣れたが、初めて見る空や太陽には終始興奮していたのを覚えている。
母の記憶を頼りに、大陸があるはずの方向に向かって泳ぎ出すと、少しもしないうちに砂浜が目に入った。
そこから上陸すると、全身に感じる潮風や奥に見える草木など初めての体験に再び興奮を覚え、更なる発見を求めて体をくねらせながら奥地へと進んでいった。とはいえ、その日は探検の疲れと心地よい暖かさが重なったことで眠り呆けてしまい、標的を探すこともなく一日を終えてしまったのだが……。
陸地へと進出した日からしばらく経ったある日、空から
手を出してきたからには逃がすわけもなく、
その後も、
そんな時だった。あの
「少しいいかな、君のことだよね。この辺りで同胞を殺しているという
片目を開けて話しかけてきた
「この姿のどこが
「
「何も言わずに襲い掛かって来たのだ。寝ている私に手を出したのであれば、殺されても仕方あるまい。その証拠に話しかけてきた貴様とはちゃんと話をしているではないか」
ため息をついて、重々しく体を起こして
「
「これは失礼した。私の名はツァインドルクス=ヴァイシオン。竜族を率いる竜王の一角を務めている」
「名前が長い。我は長話が嫌いだ。お前の事は白の
白の
「では私は君をヨルと呼ばせてもらおう。それで、ヨルは何故こんなところにいるんだい」
「ここにいてはならぬのか?この辺りには何もいないのを確認したうえで我はここを寝床としたのだ」
「この辺りはもうすぐ人間達が住み着いてくるはずだ。できれば別の場所に行ってほしいんだが……」
「先にいたのは我だ。我が出ていく理由にはならん。ここ以上に良い寝床があるならば別だが」
すると、白の
「この辺りは平坦な土地が続いていてここと似たような立地だ。それにここの人間の国とは森を隔てているから衝突することもないだろう」
白の
「なれば貴様が案内しろ。我の納得する土地でなければ、話はそれまでだ」
「僕も暇じゃないんだが……。君の事を放置していくわけにもいかないか……」
白の
これは最近知ったことだが、この時我が通った後は草木がめくれ地面が剝き出しになっていたらしく、白の
今であればそのような失態はしないが、今度会うことがあれば素直に礼を言っておこうと思う。
そうして案内された土地こそ、我がこれまでで最も気に入った場であった。
平地の中にポツンとそびえる丘には草原が広がり、我にとって極上ともいえる寝台だった。ただ地面に横たわるよりも、こうした地形で横になる方が気分的にも良いというものだ。
もうこの頃には、獲物を求めて探し回るという当初の目的よりも、穏やかな土地で静かに暮らすという目的の方が上回っていた。今でさえ、その目的が揺らぐことは無い。
予想以上の住みやすさにこの地への移動を認めた我は、白の
それからどれだけ年月が経ったかは分からないが、気持ちよく寝ていた我の下に聞き覚えのある白の
「はて、懐かしい声が聞こえたと思ったのだが……。お前たちは何者だ」
言葉を発した我の姿に驚いたのか、先頭に立つ青年は目を丸くした。
「ツ、ツアー!本当にしゃべったぞ!
「君の世界ではそうじゃなかったのかい?僕はこれが普通だと思っていたんだが」
白い鎧を着た者から発せられているのは間違いなく白の
「小僧、我はお主等が何者か尋ねたのだが。無視をするとはいい度胸だな」
「ご、ごめんなさい!僕は彼らと共に旅をして魔神と戦っている■■■■■と言います。後ろの彼が――」
「我は名前を覚えるのは嫌いだ。一度見た姿は忘れぬから名前を言わずともよい」
白の
では何故、名前を尋ねるのかと聞かれれば、それは名前を聞かないのは失礼に当たると記憶の中で示されていたからだ。分かっている以上、最低限の礼儀は示すべきだろうと。
「そ、そうですか」
「ところでこのような所に何用だ。この辺りには何もないぞ?まあ我がいるくらいだが」
「貴方に会いに来たんです!最初期のワールドエネミーは見たことがなかったので記念に!」
「ワールド……エネミー?ともかく、本当にただ会いに来ただけだというのか」
記憶の中の人間達は、
興味を持った我は彼らと話をしている内に、次第に打ち解け仲良くなった。人間からすれば異形ともいえる我を恐れることなく、様々な旅の話を聞かせてくれたことで、久しぶりに楽しいと思える時間を過ごせた。
だからこそ、それまで持っていた人間に対する偏見を捨てることにつながったのだが。
あの者達こそ、歴史上で十三英雄と呼ばれている者達であり、伝説的な存在だったと知った時には思わず笑い声を上げたものだ。
そんな我に会いにきた青年や彼らはもうほとんど生きていない。
懐かしい友に出会ったことで、思い出話に花を咲かせている内に事の次第を聞いたのだ。それに加えて、思いもよらぬ報告も聞くことになったのだが……。
我の事実上の支配下にある亜人達が法国の者に襲われた時、彼らを救った冒険者チームの中にあの時のメンバーの一人である仮面の少女がいた。その少女は亜人達から話を聞き、我であることに気づくと、仲間達と共にこうして訪れてくれたのだ
「それにしても、お主は人間だと思っていたが……。あの時から全く姿が変わっておらぬな。人間ではなかったのか?」
「しっ!あまり他の者達に聞こえるような声で話すな!私の身分は隠しているんだ!」
「それはすまなかった。それにしても、そうか……。あの者達はもう生きてはいないのか」
「人間の寿命などそんなものだ。もう何百年たったと思っている。お前こそ、あれからこんな土地に引っ越したのか?」
「人間達に騒がれては穏やかに眠ることもできない。あの土地から動きたくはなかったが、迷惑をかけるわけにはいかないからな。それにこんな土地とは言うな。太陽の光を遮る物もなく、亜人達が藁でベッドを作ってくれたのだぞ。あそこほどの良い場所とは言えないが、贅沢ではないか」
かつてのお気に入りの寝床は、今はローブル聖王国と言う国家の領土になった。
今から200年前ほどに現在の住処へと移動し、ここで以前と変わらぬ穏やかな生活を送っている。
引っ越してきたばかりの時は、寝ている最中にちょっかいを出す亜人達ばかりだった。亜人達を軽くあしらい続けている内に、我の事を尊敬……、いや、尊敬と言うよりも崇拝に近い形だが、ともかく丁重に扱ってくれている。
かといって彼らに何かをするということもなく、我はただここに横になっているだけなのだが……。
「ヨルの話を聞いていると少し妙に思うことがあるんだが」
仮面の少女は不思議に思い首をかしげながら我の方を見上げた。
「何がだ?我が何か変な話をしたか?」
「つまり、お前は亜人達を支配しているんだろう?」
「支配はしておらぬ。それに我は何かを求めることもしておらぬぞ?平和に暮らせるよう知恵を授け、争いを止めさせただけだ。うるさくてかなわんかったからな。まさか、あ奴らは何か悪いことをしておるのか」
「まさか知らないのか。亜人達がローブル聖王国と戦争をし続けているのは有名な話だぞ?」
「はて、何を言っておる。我が争いを止めるように言えば、直ぐに止めるような素直な奴らだ。そんな事をする訳が―――」
「確かに『亜人同士の争い』は止めたな。その矛先が聖王国に向かっているだけだ」
我と仮面の少女の間に沈黙が流れる。
固まった我の姿に仮面の少女は肩を竦めて、あきれた様子で顔を横に振った。
「あ、あ、あ……。あの馬鹿共があぁぁぁあ!」
アベリオン丘陵の中央に座する白蛇の雷のような怒鳴り声が、丘陵一帯に木霊した。