アベリオンの大蛇 ※更新停止   作:お稲荷猫

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めでたしめでたし?

「そ、それでその御姿は?」

 

「我が開発している人化の魔法だ。まぁ、失敗続きでこれも長くはもたないのだが……。人間がする最上級の謝罪はこの土下座だと聞いておった故、わざわざ半人化してまでこうして頭を下げたのだ」

 

 どこか呆けた様子で「はぁ」とカルカが気の抜けた返事を返す。

 

「まぁ、地面にひれ伏してまでする謝罪となれば最上級とも言えなくはないですが……」

 

「そんなことより、お前達の願いはもう決まったのか?」

 

 人化の状態が終わる前には話を終えたい。

 そんな一心から、急いて返答を求めるもカルカ達の様子を見れば未だ答えが出し切れていないのは明らかだった。

 

「一度、王都に戻ってから再度答えを―――」

 

「それでは時間がかかりすぎる。その間に再び争いが起きたらどうするのだ?今ここで答えを出すのだ」

 

「では、結論を出すためにも話し合いをするための時間をもらえますか?」

 

 長時間の話し合いは認めないという前提を立てたうえで了承すると、カルカ達は直ぐに話し合いを始めようとする。しかし、そこに白蛇が待ったをかけた。

 

「我は耳がいい故、お前達の話が自然と耳に入ってしまう。筆談で議論するがよい」

 

 再び魔法によって紙と羽ペンを作り出すと、それをカルカに手渡す。

 

「あの、インクがないのですが……」

 

「その羽ペンはインクなど必要ない。魔力を籠めれば無限に描き続けられる代物だ。簡単に作れる故、記念にもっていくがよい」

 

 あくびをしながらその場を離れると、ロケシュと共に会議が終わるのを待つ。

 遠目から暇そうに見つめていると、レメディオスも会議に参加しているのが見えた。しかし、会議に参加しているとは名ばかりで、どう見てもその場の雰囲気に合わせて頷いているようにしか見えない。その証拠に紙に何かを書いている様子は全くない。

 

「ロケシュよ。我はこの地を評議国や都市国家連合のように亜人と人間が共存できるようにしたいのだが……。そうなれば何が必要だ?」

 

「亜人と人間の共存ですか……。白蛇様には申し訳ないのですが、あれらの国々は長い年月をかけて、互いの社会や文化を取り入れた独自の体制を整えております。私が今思いつく物は何も……」

 

「すまぬすまぬ、無理を言ったな。だが、我の考えはあらかじめ伝えておくぞ。これを機に我等も彼の国々と同じようになるべきなのだ。人間達との交流を持ち、多様な知識や文化を取り入れ、人間達が持つ亜人に対する偏見を変えさせるのだ。まぁ、悪いのは中央や南方から来る野蛮な者共のせいなのだが……」

 

「白蛇様のお考えはよくわかりました。であれば、このロケシュ、命尽きるその時まで尽力させていただきます」

 

 膝をついて頭を下げたロケシュに「よろしく頼む」と声をかけると、感激のあまり尾が嬉しそうに動いているのが見えた。こうした点を見れば、亜人も人間も共通点の方が多いように思えてしまう。違う点は生まれた時の姿の一点くらいではないだろうか。

 

「お待たせしてしまい、申し訳ございません」

 

「構わんぞ。それでは答えを聞かせてもらおう」

 

 会議を終え戻って来たカルカから答えを聞こうと、テーブルに着こうとするもここで致命的な問題を発見する。

 生成された椅子は大人を基準に作っていたため、半人化した姿では微妙に身長が足りないのだ。蛇の様な下半身であることも重なり、上半身のみで椅子に昇ろうとするもこれは中々厄介だ。

 

「ロ、ロケシュ。すまぬが手を貸してくれ」

 

「かしこまりました」

 

 ロケシュは直ぐに手を貸す……のではなく、両脇を抱え子供に対する物と同様の手つきで椅子に座らせた。

 

「ロケシュ、我は……。いや、感謝するぞ」

 

「これしきのことで感謝など……。ありがとうございます、白蛇様」

 

 褒めてほしそうなロケシュを見ると叱る気も起きず、とりあえず礼を言って本題へと移る。

 

「それでは聞かせてくれぬか。お前達が望むものを」

 

「は、はい。私達が望むものは今後、聖王国に一切の攻撃を行わないという約束を確実に履行してもらうことです。それ以上の物を欲するつもりはありません」

 

 思っていた答えが返ってこなかったこと。そして、望むものと言うにはあまりにも訳が分からず拍子抜けしてしまう。

 

「どういうことだ?我が約束を違えるかもしれないと思うのか?」

 

「そうではございません!今の約束は白蛇様、そして私が生きている限りは守られるでしょう。問題はその後です」

 

「なるほど、言いたいことは分かったぞ。次の世代やそのまた次の世代にも同様の約束を守ってほしいということだな?」

 

 「はい」と言いながらカルカは頷く。

 だがそのような事は願う以前に当然だと思っていただけに、どことなくムズムズして居心地が悪い。

 

「それ以外にないのか?宝石を差し出しても良いのだぞ?」

 

「私が願うのは民の平穏、そして聖王国の安寧です。白蛇様が願いをかなえてくださるというのであれば、これ以上の望みはありません」

 

「本当に欲がない人間だのう……。ううむ……」

 

 これでは気持ちが落ち着かないと体をソワソワさせていると、それを見たケラルトが挙手し発言を求めた。拒否する理由もなく、何か言いたいことがあるのならと発言を許す。

 

「白蛇様がご納得されないようであれば、それらの品々は我が国との交易と言う形で取引されてはいかがでしょうか」

 

「交易……?交易か……」

 

 確かに悪い提案ではない。賠償と言う点から見れば、真意が相手に伝わっていないという残念な所ではあるが、今後のアベリオンの行く末を考えれば人間との交流を進める第一歩にできるはずだ。

 

「白蛇様がお望みになる物は何かありませんか?我が国から出せる物であればそれらも取引のリストに加えることも可能です」

 

 そうは言っても、これまでの生活で特に不便に感じたりしたことは無かった。亜人達が良く尽くしてくれているのもあるが、ほとんど寝たきりの生活であるため、何かを求めるということもない。

 

(全てをロケシュに任せきりにするのも良くはない……。これからはこの地を支配する者として起きている時間の方が増えるだろう……。となれば、我は一体何をしていれば良いというのだ?)

 

 こんな時にあの牛頭人(ミノタウロス)がいてくれれば、暇を潰す話の一つや二つをしてくれたのだろうが、あの者ももはや生きてはいない。居ないものにすがっても何かを得られるわけではないのだ。

 過去の記憶を振り返り、起きているときに嬉しかったことや楽しかったことを選び分け、これからの自分に何が必要なのかを考える。

 

「我は甘い物が欲しいぞ。それに本も欲しい」

 

「あ、甘い物……。?それに本……ですか?」

 

 思いもよらぬ返答だったためか、ケラルトは首をかしげていた。カルカやレメディオスも白蛇が望んでいる物に意外そうな顔をしている。

 

「甘い物と言っても果実や蜂蜜などではない。甘味……、つまり、デザートの事だ。それに本も歴史書ではなく、童話やおとぎ話の様な物が良いぞ!なるべく長編の物だ!」

 

「デザート……、長編の物語……」

 

 ケラルトは白蛇の発言を忘れないよう、一言一句逃さず紙へと記録する。

 

「甘い物と言っても、様々ありますが……」

 

「我も昔食べたあの『ぷりん』というデザートが忘れられないのだ……」

 

「『ぷりん』という物は聞いたことがありませんが……。姉様は?」

 

「私は甘いものに興味はない。カルカ様はご存じではなのですか?」

 

「私も知らないわ。初めて聞く名だもの」

 

「なんだ知らないのか。なれば我が作り方を教える故、礼として『ぷりん』を持ってくるのだ。作り方はだな―――」

 

「ま、待ってください!今用意を……、できました。どうぞ」

 

 コホンと咳払いをして改めて作り方を説明する。

 必要な材料は卵、牛乳、砂糖。

 はじめに、ボウルに卵黄4個を入れ、そこに全卵1個を割り入れる。砂糖を加えて泡立て器でしっかり混ぜ合わせるのだ。この際、牛乳は鍋肌に細かい泡が出てくるくらいまで温めておき―――。

 

「以上が作り方だ。簡単だろう?」

 

「『蒸す』という調理法ができるかどうか分かりませんが……。それに氷が用意できるかも一度戻って見なければ何とも―――」

 

「ロケシュ、確か牛頭人(ミノタウロス)と我で作った『蒸し器』があったな。あれを帰り際にそこのケラルトに渡すのだ。この地であれを使う者もおらんからな」

 

「かしこまりました。すぐに運ばせます」

 

「後の問題は氷だが……。ふむ、我の下で腐らせておいても仕方ないか……」

 

 かつて牛頭人(ミノタウロス)と共に作ろうとした『冷蔵庫』。しかし、冷気を逃さず、一定の温度を保つということはできなかった。だが、研究の結果として『製氷機』という氷を生み出す魔道具は完成までこぎつけていた。

 牛頭人(ミノタウロス)は完成にこぎつけるまで持っておいてほしいと託して旅に出たが、その前に寿命で死んでしまうとは情けないというか、あの者らしいというか……。

 その約束も果たせなくなった今、目に届く範囲で使わせていた方がこの魔道具も喜ぶというものだ。

 大事なものをしまう場所から取り出すと、それを机の上に置く。

 

「これは氷を生み出す魔道具だ。場所や時期に捉われず、魔力を籠めれば好きなだけ氷を作れるぞ」

 

「このような魔道具をいただくわけには―――」

 

「貸し出すということにしよう。聖王国から外へ出すことは許さん。これでどうだ?」

 

 ケラルトは頷き、「それであれば」と魔道具を受け取った。

 これで懐かしいあの『ぷりん』が食べられるようになるのであれば安い物だ。なぜ亜人達に作らせないのかという疑問は一言で解決する。

 この地にいる亜人達はデザートの様な手の凝った料理を作ることができないからだ。

 人間達が先人たちの知恵や新しい技術の下に創意工夫して完成させてきた食文化は、亜人達が一日や二日程度の時間で習得できるものではない。ならば、人間達に作らせた方が早いという物だ。

 

「さて、我が望むものはそれだが……。加えて、専門的な書物が欲しいな。欲を言えば、それらに携わる人間を送ってほしい所だが、それはまだ難しいだろう。建築や裁縫、我らが文化的な生活を送るために必要な知識を用意してほしい。以上だ」

 

「承知しました。それではこちらが望むものを申し上げます。我々は鉱石資源、そして、マジックアイテムの武器防具の取引に参加させていただければと思っています」

 

「マジックアイテムの……。あぁ、闇小人(ダークドワーフ)達が作っている物だな。うむ、我々が手に入れた物をそちらに流す方向で検討しよう」

 

「よ、よろしいのでしょうか?」

 

 変な答え方をしたつもりはないが、ケラルトは回答に対し何か疑問を感じたようだ。

 

「なんだ?欲しいと言ったのはお主ではないか」

 

「いえ、マジックアイテムの武器防具となれば簡単に決めることは―――」

 

「あの程度の武器防具で何が変わるというのだ。我からすればあのような物を装備していたとしても脅威にはならん」

 

 この答えにケラルトは「な、なるほど」と顔を引きつらせて笑みを浮かべる。

 カルカもこの答えに納得を示したものの、どこか不安そうな様子を見せる。

 

「当分の間、お前達が送って来た物資は我々の宝石を渡して代価としよう。その代わり、お前達が我等から物資を買う際には金貨で取引してもらいたい。行く行くは貨幣を用いて交易をするとしよう」

 

「宝石は他国へ売却したとしても問題ないものでしょうか?」

 

「問題はない。特別な力が宿っているわけでもないからな。ただし、どこから手に入れたかは知らせるでないぞ?余計な侵入者を蛇の巣に招く必要はあるまい?」

 

「そうですね。注意を払うようにします」

 

 ひとまず、これで必要な要件は全て話し終えることができた。

 両手でパンッと音を鳴らし、「万事解決だ!」というとロケシュに用意させていた文書を持ってこさせる。

 

「それではこの誓約書に互いの血を込めたインクで署名すれば、我らの約束、そして取引は成立だ」

 

「これはなんでしょうか?」

 

 机の上に置かれた羊皮紙でできた文書にカルカは首をかしげる。

 見たことのない魔法陣の上に人間も分かる文字でこれまでに話された内容を破らないことを誓うという宣誓文がかかれ、下には国名と署名人の名を記す場所が用意されていた。

 

「見るのは初めてか?これは誓約の魔法がかけられた文書だ。仕組みは極めてシンプルだぞ?約束を破れば、破った側の署名者が死ぬ」

 

「なっ!そのような危険なものにカルカ様の名を書けと言うのか!」

 

「何の問題があろう?我も書くのだから対等な行為だぞ?それにこれほど強固な誓いであればお前達も信用できよう。もちろん、代理の者が名を記しても良いが……」

 

「レメディオス下がりなさい。聖王国を統治する者として、署名するのは私でなければ失礼に当たるでしょう」

 

 ケラルトはこの文書に署名をしなければならないのはカルカであることを理解しているため、横から口を挟むことは無い。レメディオスもケラルトに袖を引っ張られると、仕方なくケラルトの後ろへと下がる。

 

「お主の忠誠心はやはりいつみてもいいのう。今度からは予告なく我に下に来てもよいからな?」

 

「お、お前の所になど二度といくか!」

 

「何だ連れないのう。あの夜は楽しそうにしていたでは―――」

 

「そんなことはない!」

 

 白蛇の言うことを真に受けたレメディオスは顔を赤くしながら否定する。

 反応を面白がり更にちょっかいをかけようとしたところ、ケラルトから発せられる殺意にも近い威圧感を感じると、思わず口を閉ざしてしまう。

 

「白蛇様、お戯れもほどほどにお願い致しますね」

 

「あ、あぁ。じ、冗談だ!もちろん冗談だぞ!カルカよ、早く誓約書に署名するとしようぞ!」

 

 ケラルトの真っ黒な笑みに目をそらしながら答えると、ロケシュが小さなナイフを用意した。

 指の先に小さく傷をつけると赤い血が流れ出し、その一滴をインクへと垂らす。カルカもレメディオスの手伝いによって傷をつけると、血をインクへと垂らした。

 事が終わると、傷口を自身の再生力で塞ぎ、カルカはケラルトの治癒魔法によって傷口を癒す。

 両者の血が混じったインクが出来上がると、そのインクを使って用意された誓約書に必要な事柄を書き込んでいく。

 

「ロケシュ、国名の事なのだが……。我らはまだ国と言うには何もかも足りていない。今はアベリオンを名乗り、時が来たら正式に国という文字をつけようと思う」

 

「白蛇様の成すことに反対するつもりはありません。ご随意に」

 

 二人が署名を終えると、誓約書が青く光り出し空中に浮かんでいくと青い炎を出して燃え尽きた。

 

「これで儀式は終わりだ。これ以降、約束を破るような行為に及べば即座に魔法が行使されることになるから気を付けるのだぞ?」

 

「分かりました。それでは私達は引き上げようと思います」

 

「うむ。では『ぷりん』を楽しみに待つとしよう。……カルカよ、少し耳を貸すのだ」

 

「は、はい。なんでしょうか?」

 

(実は誓約の魔法など存在はしない。お主には伝えておくが、お主が伝えても良いと思う者にだけ伝えるのだぞ?これは内緒の話だ)

 

 カルカは驚きのあまり目を丸くするも、分かりましたと言う意思を示すために黙って頷く。

 この後、特に大きな混乱もなく丘陵へとやって来た聖王国軍もカルカの命によって即時撤退し、アベリオンと聖王国との間には新たな関係が築かれることになった。これによって、聖王国国内では新たな問題が発生することになるのだが、それはカルカ達のお話である。

 

 アベリオンでもロケシュによって、会談の結果決まったことが各部族の長へと伝えられ、取り決められた事項を厳守するように定められた。白蛇様の命が関わっているとなれば亜人達もこれを無視するわけにはいかず、部族長達も支配下にある全ての亜人を呼び集め、一人残らずこのことを伝えた。

 

 

 人化の魔法は会談が終わり、聖王国軍が帰還するのを見送ると同時に即座に解除した。正確には効果時間が切れたことにより解除されたというべきだろう。今後の課題は効果時間の延長とより完璧な人化を目指すということだが……、これは叶いそうにない。というのも、この魔法自体が独自開発した者であること、そして無理矢理行使しているというデメリットがあまりにも大きいからだ。

 

(ともかく、これで我の安寧が戻って来た……。今日は疲れたな…早く寝るとしよう……)

 

 レメディオス達が去ったことでまた静かさを取り戻した寝床で瞼を閉じようとしたその時、見張りに当たっている亜人が声をかけてきた。

 

「白蛇様、門の前にレイモンと名乗る人間が白蛇様にお会いしたいと……。護衛も何人かついているようですが、如何なさいますか?」

 

 訂正する。我の安寧が戻るのはしばらく延期になりそうだ。




投薬続きで食欲も湧かず、執筆活動も低迷中……。
感想返信できてないですが、いつも元気貰ってます!
でもプリンってすごいんですよ、なぜか食べれちゃうんですから。
もちろん皆さんもプリン好きですよね?答えなくて結構ですよ!
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