アベリオンの大蛇 ※更新停止   作:お稲荷猫

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また長くなってしまった……。
短くまとめる才能が欲しいです。


えっ、新たな来訪者が来たの

 一時は大きな混乱に見舞われていた聖王国だったが、白蛇の登場によって問題の多くは解決された。

 

「なにはともあれ、レメディオス。貴方が無事に帰ってきてくれて安心したわ」

 

「カルカ様にご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません……」

 

 亜人に捕まり亡くなったと思われていたレメディオスや聖騎士達も無事に帰って来たことは正に幸運だった。

 カルカは王都に帰還してからというもの、それまで感じていた重圧から一気に解放されたことで疲れが押し寄せ、ソファーに寄りかかり楽な姿勢をとる。

 

「本当ですよ姉様。今回生きて帰れたのは奇跡の様な物です。同じような事態になることは避けてください」

 

「あ、あぁ。ケラルトにも心配をかけてすまなかった」

 

「ケラルトも凄く心配していたのよ?貴方が捕まったと知った日には―――」

 

「カルカ様!余計な事を喋らないでください!」

 

 ケラルトは慌ててカルカの口を塞ぐ。

 レメディオスが捕まった日の夜、ケラルトは混乱のあまりカルカの前で取り乱し涙を流してしまった。

 一時と言えども、そのような姿を見せてしまったことをレメディオスには知られたくない。それでは自分のイメージが崩れてしまうと思ったからだ。

 

「おいケラルト!カルカ様に失礼だろう!」

 

「いいのよ、レメディオス。でもこれを機に分かってほしいわ。貴方の問題は貴方だけじゃなくて周りの者も心配させるっていうことを」

 

「……はい、肝に銘じます」

 

 普段の様などっしりと構える姿ではなく、しおらしくなっているレメディオスにカルカとケラルトはそれ以上叱る気も起きなかった。

 一旦、話題をそこで区切ると、三人は今後の動きについて話を始めた。

 

「ところでケラルト。どうしてあの蛇にあんな提案をしたんだ?奴はなんでも望むものをと言ったのに」

 

「それはですね、あの蛇との関係をあそこで終わらせてしまうのは逆に危険ではないかと考えたからです。カルカ様も同じことを考えられていたようですから」

 

「そうね。最初は疑っていたけれど、あれは演技をしているようには見えなかったわ。私達に理解がある御方があの地を治めているというのであれば、その縁をあの場で切ってしまうのは勿体ないでしょう?」

 

 話を聞いた上でレメディオスは再度首をかしげる。二人の話を考慮しても、どうして交易と言う提案に至ったのかがよくわからなかったからだ。

 その様子を見て、ケラルトは更に分かりやすく事の次第をまとめて話す。

 

「つまりですよ姉様。あの蛇が私達を無視できないようにすればよかったわけです。その最初の手段として、相手が欲しがるものを探り、私達が与えられる物であれば与えるという方法をとったわけです。しかし―――」

 

「その結果が交易をするという話になったんだな。なんとなくだがわかったぞ」

 

 話の内容を面倒くさく思ったのか、ケラルトの話を途中で遮りながらレメディオスは頷く。

 

「姉様、まだ話は終わっていませんよ?」

 

「いや、それ以上私に話しても理解できる気がしない。奴が欲しがるものを与えるということさえわかればいいだろう?」

 

「……そのように理解しておいてください。まさか本当に交易をすることになるなんて思いもしなかったですが……」

 

 話し合いの段階では、このような提案が通るとは思ってもいなかった。あの蛇が私達に望むものなどあるわけがないと。

 だが実際には、甘い物や書籍などの人間臭い物を欲しがり、その対価として鉱石や宝石の類のみならず、魔法の武具まで手に入れることができるようになったのだ。

 この話を過去の自分に話したとしても信じられるわけがない。

 

「二人とも、あの蛇などではなく白蛇様と言わなければ失礼でしょう?」

 

「いいえ、カルカ様。あいつは蛇で十分です。公的な場では気を付けますが、このような私的な場でも呼び方に気を付ける気にはなれません」

 

「姉様と理由は違いますが、私も正直に言えば好きにはなれません。理由は聞かないでくださるとありがたいです」

 

「……少なくとも公的な場では気を付けるようにね」

 

 実際に対面して長い間言葉を交わしたカルカは、白蛇に対し二人が持っているような悪い印象は持っていない。確かに、時頼変な行動を見せることはあったが、あれほどの力を持っているのに驕り高ぶった様子も見せず、相手への礼を失するようなこともない、そこだけを見れば南部の貴族よりも話がしやすいとさえ感じていた。

 

(それにあの子供の姿の白蛇様……。すごくもちもちしてそうだった……。触れられなかったのが残念……、あのもちもち肌も魔法の力なのかしら?)

 

「ところで姉様。あの蛇に何かされたと―――」

 

「ケラルト、悪いが聞かないでくれ。私の名誉のためにも聞かないでくれ」

 

「わ、分かりました」

 

 両肩を掴まれ頭を下げて懇願されたために、ケラルトは動揺してしまう。

 レメディオスをここまでさせるとはあの蛇は一体何をしでかしたというのだろうかと、脳内にあってはならない光景が浮かび、それを否定するように首を振る。

 

(あの蛇……姉様に何をしてくれやがったんでしょうか……。次会った時には弱点でも聞き出しておくか……)

 

 

「くしゅん!」

 

「白蛇様、お加減が悪いのですか!」

 

「いや、急に鼻が痒くなっただけだ。誰かが私の話でもしているのだろう」

 

 手で鼻をこすりながら、心配しているロケシュをなだめる。

 

 我の下を訪れてきたレイモンと言う者には心当たりがあり、すぐに連れてくるように指示を出していた。

 今から二十年ほど前、法国の者達が我に対し攻撃を仕掛けてきたことがあった。攻撃というにはあまりにも粗末なもので、軽くあしらう程度に終わらせておいたのだが。

 相手を無力化し、話し合いの場を設けたうえでこの地及び近辺の亜人を我が支配することで合意に至った。

 その時、話し合いの場に立ったのがレイモンだ。

 

 

「お久しぶりでございます。大神蛇様」

 

「大神蛇と言うのは止めよ。我は神があまり好きではないのでな。白蛇と呼ぶがいい」

 

「承知しました、白蛇様」

 

 あの時の青年とは違い、口にひげを蓄えた男性の姿があった。だが、その鋭い視線は今も失われていない。

 以前ここに来たときは戦闘用の装備を身に着けていたが、今は神官の服を身に着けている。

 

「お主も老けたのう。あれからもう二十年か?」

 

「左様でございます。白蛇様はお変わりないご様子で」

 

「相変わらず固い奴だのう。まぁ良い、わざわざ法国からここまで来たのだ、それなりの用があるのだろう?本題へ入る……前に、その者達を紹介してくれぬか?」

 

 レイモンの後ろには護衛と思われる男女二人が完全装備のまま待機している。

 もし我を殺しに来たのであれば今頃この者達は襲い掛かっているだろう。だが、その様子は見られない。

 とすれば、この者達も今回の話に関係があるのだろう。

 

「かしこまりました。ですが、この者達の存在は極秘であることをご理解いた―――」

 

「分かっておる。お主も出世したようだからな、面倒な隠し事も多いのだろう」

 

「流石でございます。では、こちらの者が私の護衛を務める『漆黒聖典』、そしてこちらの者が『絶死絶命』と申します。完全装備なのは私の身に万が一のことがないようにするためです。ご無礼をお許しください」

 

 この二人がこの世界の人間の中ではかなりの実力者なのは見て分かる。装備からしてもこの世界の物ではなく、おそらく法国が所有する六大神に関わる聖遺物の様な物なのだろう。そして、二人からは『挑戦者(チャレンジャー)』の匂いがしていた。

 

「この匂い……。お主達は挑戦者(チャレンジャー)の血を引いておるな?」

 

 護衛の二人は驚きのあまり一瞬動きを止めてしまうも、レイモンは全てを悟っている表情で静かに頷いた。

 

「……やはりお分かりになりますか。流石でございます」

 

「まぁ、そこをとやかく言うつもりはない。余計な話をしてしまったな。では本題に入るとしようぞ」

 

「はい。今から一週間ほど前、我々が派遣した者達がトブの大森林付近で吸血鬼(ヴァンパイア)と戦闘になりました。しかし、逆に……」

 

「返り討ちにあったか。お主等の様な者達が負けるとは相当な実力者のようだな。すると、後ろの二人はその時に戦った者の生き残りか?」

 

「こちらの漆黒聖典が実際に矛を交えた者です」

 

 レイモンの促されるまま、一歩前に出て黒髪の青年は頭を下げた。

 

「ふむ。それで我に何をしてほしい」

 

「この者の記憶から彼女があの吸血鬼(ヴァンパイア)に勝てるのか。白蛇様の御意見をいただきたいのです。可能であればそのお力もお借りしたいのですが……」

 

「力を貸すのはやぶさかではない。お主にも世話になったからな。とはいえ、まずは相手の正体を見てからだ。少年よ、我の下まで来るがよい」

 

 青年は動じる様子も見せず落ち着いて白蛇の前まで歩くと、レイモンから事前に話を受けていたのか、静かに膝をつき頭を下げた。

 

「直ぐに終わると思うが、何か異常があったらすぐに声を上げるのだぞ?」

 

「かしこまりました」

 

 腕を伸ばし青年の頭に置くと、彼が過ごしてきた吸血鬼(ヴァンパイア)との戦闘の後の記憶が再生される。そして、目的である吸血鬼(ヴァンパイア)との会遇までたどり着いた。

 

(ふむふむ。……なるほどな)

 

「少年よ、もういいぞ。レイモン、お主達は竜の尻尾を踏んだかもしれぬぞ?」

 

「それはどういうことでしょうか!?」

 

「率直に言うが、この吸血鬼(ヴァンパイア)はこの世界の者ではない。使っていた武器にあれだけの精神支配を受けながら抵抗できる実力。お主達が言う『従属神』だろうな」

 

「従属神ですか……。彼女の実力でも勝機は見いだせないでしょうか?」

 

「我も全てを悟れるわけではないが……。まぁ、隙をつけば殺せるやもしれぬな。ただし、その報復を受けてお主達の国は亡びるだろう。あのような吸血鬼(ヴァンパイア)を従えている者が弱いわけがあるまい?」

 

 白蛇の言葉にレイモンは頭を抱えた。

 もしこの話が事実であったとしたら、既に手を出してしまっている以上、なんとしてでも自分達が関与したという証拠を消しておかなければならない。だが、その一部始終を既に見られていたらどうすればよいと言うのだろうか―――

 とでも考えているのだろう。

 

「そう青ざめるなレイモンよ。我の方も興味がわいた故、何とか手を打ってみよう」

 

「それは本当ですか!」

 

「我が嘘をつくのは身に危険が迫った時のみだ。ひとまず、お主達はしばらく静かにしておれ。ことが片付けば、こちらからいつものように『鳥』を送ろう」

 

「かしこまりました」

 

 用を終え一安心した様子のレイモンに、我は話の間ずっと気になっていたことを尋ねる。話の最後に種明かしをしてくれると思っていたが、そんな様子は微塵もないことから、おそらく『この視線』にさえ気づいていないのだろう。

 

「レイモン。お主達と話を始めたあたりからずっと視線を感じているのだが、お主達以外に誰か連れてきたか?、

 

「まさか!?何者かが見ているのですか!?」

 

「怪しげな様子だったからな、障壁は張っておいたが……。そうか、お主にも関係ない者達だったか。ならば、レイモン。紙を用意する故、そこに我の言う通りに書くのだ。なるだけ大きな文字でかくのだぞ?」

 

 いつものように木の机を作ると、その上に紙と筆を生成する。

 なぜ紙に?という疑問を持ちつつも、レイモンは慣れた様子で筆を手に取り「なんとお書きしますか」と白蛇に尋ねる。

 

「『覗き見するくらいなら直接我を尋ねるがよい。懐かしき大樹の話をしよう』とな」

 

 言葉を発する白蛇に続くように、すらすらとレイモンは筆を走らせる。

 

「……お主、さては文字を書くのが苦手だな?」

 

「こ、このような大きな紙に文字を書くことは無いものですから……」

 

 レイモンの独特な文字に称賛を送りながら、視線を感じる方向の宙に向かって紙を浮かせる。

 しばらくすると、感じていた視線は途端に消え失せ、少なくとも紙に書いた要件は視線の向こう側に伝わったようだ。

 

「まぁ、よいか。これでお主達に視線の者の敵意が向くことは無かろう」

 

「まさか尾行されていたとは……」

 

「尾行ではないと思うがの?まぁ、お主達ははよ帰るがよい。正直に言えば、我の支配下にある亜人達に手を出そうとした件について問いただそうと思ったが、死人は出ていない故見逃してやる。次はないぞ?」

 

「か、かしこまりました!失礼致します!」

 

 我の話に驚いたのか、レイモンは慌てて頭を下げると二人を連れて早急に法国に帰っていった。あの少女とはもう少し話をしてみたかったと、惜しい気もしたが今は視線の者への対処を考えるのが先だ。

 

(あれは間違いなく挑戦者(チャレンジャー)が使用する魔法……。乱暴な者でなければ良いのだがのう……)

 

 今まで出会った者達は、我の姿に驚きはしたが誰もが友好的に接してくれていた。特に、牛頭人(ミノタウロス)の者とは趣味の話から、共に何かを作り上げるまで親友と言っても良い関係を築けていた。これはおそらく種族的な組み合わせの問題と言えなくもないのだが。

 

(あの馬鹿者め……。こんなに忘れ物を置いていって管理する側の身にもなれというのだ)

 

 牛頭人(ミノタウロス)を思い出し、懐かしさから思わず切ない気持ちになる。

 あの者が残していった物を見る度に感傷に浸ってしまうのは悪い癖なのかもしれない。

 

 そんな時、白蛇の下に新たな客がやって来た。

 

「なんだ。今日はやけに訪問客が多い日のようだな。ツアー」

 

「気づいていたのか。せっかく驚かそうと思っていたのに」

 

 背後から迫っていた白銀の鎧に目を合わせることなく話しかける。

 ツアーはやれやれと言った様子で首を横に振りながら、白蛇の前へと回った。

 

「最後に会ったのは100年前……いや150年前か?」

 

「そのくらいだと思うよ。僕もあまり覚えてはいないんだ」

 

「昔を懐かしんでいたのにお主が来るとなんだか冷めてしまうわ」

 

「僕と君も古い友だと思うんだが……」

 

 古い友人だが今を生きているのであれば、その関係は現在進行形。懐かしむというよりも今を楽しむ間柄だと突っ込みを入れる。

 

「最近はやけにあの頃の者と会うな。最近もあの仮面の少女に……。まぁ、そんな余計な話はさておき、何の用件だ?旧友に会いに来たということでもあるまい?」

 

「またこの世界に『来訪者』がやってきたかもしれない」

 

「あぁ、その話か。お主もあの吸血鬼(ヴァンパイア)を見たのか?」

 

「……どうやら長話をせずに済みそうだ。私も実際に戦ったが見ての通り、鎧に穴をあけられてしまったよ」

 

 ツアーはとんとんと穴の開いた場所を突く。

 小さな穴ではあるがこの者に傷をつけることができた者など過去に誰もいなかった。

 

「お主もなまったのではないか?我が稽古をつけても良いのだぞ?」

 

「冗談はよしてくれ。今の時代にそんなことをしたら世界が混乱してしまうよ。君は手加減が下手なんだから」

 

「あれから私も精進して力を制御できるようになったわ。甘く見ておると痛い目にあうぞ?」

 

「甘く見なくても痛い目にあわされた身としては何とも言えないんだが……。まぁ、それはさておき君の事だ。来訪者と会う準備は進めているんだろう?」

 

 ふっふっふっと不気味な笑い声を上げた我にツアーは引き気味に「どうしたんだ?」と尋ねた。

 

「驚くでないぞ。なんと向こうから接触してきたのだ。こちらを監視していた故、この紙を突きつけてやったわ!」

 

 尻尾で紙をツアーに渡すと、その内容に頭を抱える。

 

「独特な文字……はさておき、これは相手によっては喧嘩を売られたと感じるんじゃないかな?」

 

「そうか?我としては興味が引かれる一文だと思うのだが……。まぁ、来たところで10人もいなければ返り討ちにしてみせるぞ!」

 

「相手が10人以上だったらどうするんだい?」

 

 はっはっはっと笑い声を上げていた我は、ツアーの指摘に思わず身を固めてしまう。

 

「そ、そのような事はあるまい。お主も言っていたではないか、複数人の来訪者を招き入れるには大きな力を使うとな?あの牛頭人(ミノタウロス)が来てからかれこれ100年か200年そこらだぞ?」

 

「だが、絶対とは言い切れないだろう。転移してきた者が「わーるどあいてむ」を装備していたらどうするつもりなんだい」

 

「我としてはワールドアイテムよりも人数で来られた方が恐ろしいんだがのう……。ツアーどうしよう」

 

「急に素に戻らないでもらえるかな?対応に困る」

 

 最初のころは来訪者達に警戒をしていたが、ほとんどの場合は一人で、そして装備も大したものではなかったこともあり、警戒心は徐々に薄れていた。

 久々に強者と言える吸血鬼(ヴァンパイア)を見たことで、その者を支配する挑戦者(チャレンジャー)がどのような人物かという興味が先走ってしまったのだ。

 

「ツアー様、我と一緒に相手をしてもらえぬかのう?このような可愛げな蛇を一人にするのは心苦しかろう」

 

「自分で蒔いた種だ。もし君が死にそうだったら助けに入って上げるよ」

 

「そうなる前に入ってくれ……。痛いのは苦手なのだ……」

 

「痛いだけで済むならいい反省になるだろう。協力者の一人としてはもう少し慎重な立ち回りを要求したいんだ」

 

 ツアーはそう言いながら手を振ってその場から去ろうとする。

 ツアーの協力は得られそうにない。だが、この者の事であれば当日もこっそり見に来ているのだろうが……。

 その時、ツアーが足を止めこちらに振り返った。これはまさか考え直したのではないかと淡い期待を寄せる。

 

「あぁ、そうだ。君はもう少し文字を書く練習をした方がいいと思うよ。流石にあの文字は……」

 

「我が書いた文字ではないわ!」

 

 やはりこいつは卑怯で、小癪で、器の小さい竜で間違いない。

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