ナザリック地下大墳墓の玉座の間には、アインズの指示によって各階層守護者達が集められていた。階層守護者達を集めた理由は一つ、先日のアベリオン丘陵において起きた一件について連絡するためだ。
「さて、デミウルゴスから話が通っていると思うが……。どうしたものか……」
「アインズ様?何を恐れられているのですか?あの地を支配しているという蛇を殺してしまえば全て解決するのでは?」
アインズの普段は見せることのない深刻そうな様子に、アルベドは困惑しながら意見する。
アルベドの意見にアインズは静かに首を横に振った。
あの蛇がどのような存在であるかが分かっているだけに、殺すのにどれだけの準備や訓練が必要か。そして、現状のナザリックでは対処できないことを知っているからだ。
「お前達はあの蛇がどのようなモンスターか知っているか?」
守護者達が視線をアウラへと集める。
ほとんどの守護者達はあの蛇の事を良く知らない。この中で魔獣の事であれば一番詳しいのはアウラであり、アインズの望む答えを知っているのではないかと思ったのだ。
アウラが「わ、私!?」と慌てると、守護者達はその通りだと頷く。
「え、えぇと……。
「
かつての仲間達とパーティーを組み、
(でもあの蛇は思ったよりも小さいような……。ユグドラシルだから大きく見えていただけなのか……?)
「アインズ様、どうかなさいましたか?」
「あぁ、少し昔を思い出していただけだ……。あの蛇は
「あれが
「デミウルゴス、何か知っているようだな?」
「情報を知っているという訳ではありませんが……、以前アインズ様がウルベルト様やペロロンチーノ様とお話になられていた際にその名を聞いた覚えがありまして」
ギルドが『アインズ・ウール・ゴウン』に変わった後、『ワールドエネミーに慣れよう!』という企画を立ち上げ、ウルベルトやペロロンチーノとその準備を行ったことがあった。
デミウルゴスもその時、ウルベルトの背後で控えており話の一部始終を聞いていたのだ。
「そうか、あの時だな!初めて挑む人も多かったから、どう精神的なケアを行うのかも話し合ったな……」
「アインズ様、つまり
「そういう訳では……。いや、そうではないとも言い切れないのだが……」
そういった点で言えば、
「ゴホン、つまりだ。あの
「至高ノ41人ノ方々デモ困難ダッタノデショウカ?」
「あぁ、慣れてくれば倒せるようにはなったが、そこまで行くのに何度もやり直し続けた……」
「ナント……」
あの蛇がそこまでの存在だと理解していなかった守護者達は騒めき始める。
至高の41人と言えども苦戦するような相手であれば、自分達が相手できるわけがない。このことを知っていれば少なくとも、最初のように殺してしまえば解決などと軽い口は叩けるはずがなかった。
「ではアインズ様、どのように対処すべきでしょうか。あの反応からして、こちらの存在はすでに知られていると理解していますが」
「その通りだ。どのような手段で
ワールドエネミーである
会話ができるような存在ではないはずだが、先日の様子から判断すれば少なくとも知性があり、相手とコミュニケーションを図る手段を持っていることは明らかだ。
(
この世界に存在する
もし手に入れることができれば、不足し始めているユグドラシルの素材をこの世界の魔獣からとれる素材で代用する事が可能になるかもしれないと、淡い期待を寄せていた。
(とはいえ、あの
「デミウルゴス。あの蛇を見つけた時、他に何か気づいたことは無かったか?」
「気づいたことですか?そうですね……。強いて上げるならば、随分と人間に対し下手に出ているようでした。あれほどの力を持ちながら、下等な人間に頭を垂れていましたから」
「それは報告の時にもあった聖王国との一件の事だな。ならば、あの蛇はプレイヤーの可能性もあるということだな」
それを聞いたシャルティアが何か言いたげに手を挙げ、「何だ、シャルティア」と発言の許可を出す。
「どうしてあの蛇がプレイヤーの可能性があるといえるでありんしょうかえ?私にはよくわからなかったでありんす」
「そうだな……。お前達は人間をどう見ている」
質問に対し守護者達は各々の考えを述べるが、大体は「人間は下等な存在」ということでまとめることができる。やや過激な意見を上げた者もいたが……。
「――まぁ、それが通常の反応と言えなくもないが……。ゴホン、だがあの蛇は私が知る
シャルティアは「なるほど……」と納得した様子で頷く。他の守護者達も同じような反応を見せた。
だが、そうなれば次に問題となるのはあの蛇の『招待』に応じるか否かということだ。
もしプレイヤーであったとすれば、こちらをおびき寄せるための罠である可能性も高い。加えて、あのプレイヤーが一人であるという確証もない。もし同様の存在が他にもいるとなれば分がかなり悪くなる。相手もこちらの詳細を知らない以上、1対1であればまだ勝機はあるが、1対2となれば絶望的だ。
(相手の情報を得るためには接触を図らなければならないか……。だが、生きて帰れる保証はない。しかし、変に時間をかければ相手に別の対策を講じる時間を与えてしまうか)
「まだ相手にはナザリックの場所までは特定されていないだろう。であれば、相手の位置が分かっているこちらが有利なのは変わりない。あの蛇との話し合いに臨み、万が一の場合は偽のナザリックへ転移すれば、こちらに更に有利な状況へと持ち込めるか……」
「ではアインズ様。守護者達にも準備をさせます」
「あぁ……。いや、待て。相手がナザリックの位置を把握していた際に最低限対処できる者を残して行かなければならない。敵が攻めてきたと連絡できる者がな」
守護者達に目をやり、誰が適任かと少し考える。
相手に対しある程度の戦力を見せておくことで、話し合いも効率的に進めることができるだろう。となれば、シャルティアとコキュートスは確定で連れて行くことになる。相手と何かしらの交渉をするとなれば、アルベドやデミウルゴスの存在も抜くことはできない。相手が魔獣である以上、アウラとマーレの知識も必要となるだろう。
「アルベドは共に来てもらわなければならないな……。その間の代理としてパンドラズアクターを残す。セバス及びプレアデスはその指示に従え。それからガルガンチュアやヴィクティムも残して行く。敵が攻めてきた際には時間稼ぎを行うだけでよい。相手の情報を集めるのだ」
プレイヤーの大規模な襲撃でない限りは、ナザリックが奥地まで攻め込まれるのは考えにくい。それに、それほど大量のプレイヤーが転移してきていたならば、もっと話題にあがっているはずだ。
もし、そのような規模で攻めてきたならば、アインズ一人ではどうしようもないことなのだが。
「それ以外の守護者達は完全装備の上、私についてくるのだ!」
手を振りかざして指示を下すと、守護者達は「はっ!」と声を揃えて返事をした。
(できれば穏便に済ませたいんだけど……。もしシャルティアに攻撃を仕掛けてきた奴だったら容赦はしない)
今日もアベリオン丘陵は平和だ。
穏やかな日差しに体が温められ、昼寝をするには最高のコンディションだ。
(今日の様な日が一年を通して続けばよいのにのう……)
大きな欠伸をしながらだらけていると、それまで体に感じていた暖かさが徐々に失われていく事に気づく。
目を開けると空が厚い雲に覆われ、太陽の光が失われたことで一帯は暗く、そして少し肌寒くなる。
(我の睡眠を妨げるとは……、昨晩呼び出した者か?)
そこへ慌てた様子で見張りの亜人が走ってくる。その慌てようからただ事ではない何かが起きたのは間違いなかった。
「は、白蛇様!門に突如現れたスケルトンが面会を求めております!白蛇様の招待を受けたと!」
「スケルトンか……、まぁ招待はしたのだが……。それで人数はいかほどか?」
「護衛と思われる者が6名と金の鎧を装備したスケルトンがおよそ300体前後かと!」
「7人も……!と、とにかくここまで案内するのだ。くれぐれも粗相のないようにな?」
亜人は直ぐに駆けて行ったが、それ以上にスケルトンを含め合計で7人と報告されたことが何よりも驚きだ。
(全員が
だがこのような会い方をしに来た以上、穏便に済ませる気などないのではないだろうか。
今まで会いに来た
(や、やはりツアーの言う通りであったか……?流石に調子に乗りすぎていたとでもいうのか……!)
体をくねらせながらどうしたものかと考えている所にロケシュがやって来た。
「白蛇様、この雲は一体何事ですか!」
「おそらく我が招待した者が魔法で展開しているのだろう。今この場へ招待したところだ」
「それは、あの
「左様、それも一人ではないかもしれぬ。面倒なことにならないとよいのだが……。万が一の時はお主達の逃げる時間だけでも稼いで見せようぞ」
「それほどですか……!」
ロケシュの驚いた顔に黙って頷く。
相手の装備の状況などにもよるが、考えうる最悪を引いた場合は勝てる見込みはない。あと千年待ってくれると言うならば話は別だが。
「は、白蛇様。客人……、の方々が参られました」
「分かった。通すがよい」
亜人は震えていた。何を見せられたのかは分からないが、少なくとも良い物を見せられたわけではないだろう。
天幕が開かれると、スケルトンを先頭に左右を男女の悪魔が固め、それに続いてダークエルフの双子と例の
放たれる威圧感にロケシュでさえもたじろいでいたが、鑑定を終えた我はほっと一息つくことができた。
(
「よくぞ参られた、空から監視していた者よ。まずは名乗らせてもらうとしよう。我は
「やはり、
「アインズ・ウール・ゴウン……。名前が長いのう。お主の事は何と呼べばよい」
「蛇風情がアインズ様に対しなんと無礼な―――」
「アルベド!余計な口を挟むなと注意しておいたはずだぞ!」
黒い翼の生えた悪魔は「申し訳ございません」と萎縮して後ろへと下がる。
「
「そうか、我の名も好きに呼ぶがよいぞ。この辺りの亜人は我の事を『白蛇』と呼ぶが、他の者は『ヨル』などと呼んだりもする」
「では、ヨルと呼ばせてもらおう」
「分かった。立たせたままでは失礼に当たるからな、そこの椅子へ座るがよい。後ろの者達にも直ぐに用意しよう」
魔法で必要な数の椅子を生成すると、アインズや護衛の者達は少し驚いた様子だったが、動じることは無く主人に続いて座る。
「さて、まずは聞きたいことや話したいことが多くあるが……。まずはそちらの疑問に答えていくとしよう。お主が
「
「あぁ、分かりにくかったか。その理解で良いぞ。お主の護衛達NPCの事を我は
「先祖達……?他にもプレイヤーがいたのか?」
「あぁ、ここで言う先祖は我の母や祖母に当たる
アインズは少し考えると、ゆっくりと口を開く。
「ヨルはプレイヤーではないのか?私の知る
「我はプレイヤーではない。我の親友でもある
「その変化によって言葉が話せるようになったのか?」
「それは違うな。言葉自体は以前より話せていた。人間達やお主達プレイヤーと会話をする必要がなかった故、していなかっただけだ」
「なるほど……。それは興味深いな……」
質問に答え続けている内にいつになったら本題に入るのかと疑問に思い、こちらから逆に尋ねることにした。
「お主がここに来たのは何が目的だ?監視していたということは何か理由があったのだろう?」
「私の部下からこの地に強者がいると聞いたのだ。どのような者かと思ったのだが……。どうやって監視に気づいた?」
「この地一帯は我の
「そこはユグドラシルから変わっていないのか……。そうするとお前はこの地から動けないのか?」
「動くことはできるぞ。というよりも我を基準に
「なんだそのチーt―――。失礼、少し取り乱した」
アインズの体からオーラが出たかと思うと、すぐに前の様な冷静さを取り戻した。
少し顔を近づけ、二人の間でしか聞こえない程度の小さな声でアインズに囁く。
「アンデッドの特性だな。お主が望むのであれば、その特性を一時的に解除しても良いが?」
「そのような事もできるのだな……。遠慮しておこう。部下たちがいる手前、このような醜態はさらしたくない」
後ろに座るアルベドと吸血鬼から怒りのオーラが出ているのに気づき、すぐに顔を離して「そうか」と話を続ける。
「我はこの地に来てから約500年になる故、大体の知識はある。気になることがあれば応じて答えようぞ」
「500年!それは何とも長いな……。では色々教えてくれないか」
「良いぞ、ただし話が終わった後はお主の話も聞かせてくれぬか?」
「答えられる範囲であればな」
分かったと頷くと、アインズは質問を始めた。これまでに転移してきたプレイヤーはどれほどいたのか。周辺の地理情報や国家の詳細。この世界はどのような所なのか。答えられる範囲で答えるも、いくつかの質問はアインズが望む答えを提供することはできなかった。
「すまぬが、お主の言う仲間達に関する情報はないな。今のところ我に会いに来た者の中にもそのような者達はいない」
「そうか……。分かった」
大体の質問を終えたアインズは「これが最後の質問だ」と言う。だが、その声には若干の怒気が含まれていた。
「お前はシャルティアを襲うように指示したか?それか襲うように指示した人物に心当たりはあるか?」
「襲うように指示したこともないし、襲うように指示した人物は知らぬ。ただし、事の経緯は理解しておる。正直に言うが、そこの
「そんなことは関係ない!誰がシャルティアを襲った!知っているなら教えろ!」
アインズは机をたたきながら椅子から立ち上がる。
絶望のオーラがあふれ出し、後ろの護衛達でさえも恐怖のあまり冷や汗を浮かべていた。
ロケシュはオーラに当てられその場で気絶している。加護がなければ死んでいただろう。
そのような状況を黙って見ているわけにもいかず、大きく息を吸い込んで声を張り上げる。
『馬鹿者が!そのような状態で教えるわけがなかろう!我の家で暴れることは許さぬぞ!』
空気が震え、アインズの放っていたオーラも見えない波によって瞬時に四散させられる。
この行動に
ようやくアインズにもアンデッドの特性が発動し、落ち着きを取り戻すとゆっくりと椅子に座る。
「まずは話を聞くがよい。それから事を判断しても良いのではないか?」
「……すまなかった。まずは守護者達の拘束を解いてくれ。何もさせないと約束する」
我がふっと息を吐くのと同時に、体の自由が利くようになった
場が落ち着きを取り戻したところで、我はゆっくりと口を開く。
「それでは話すとしよう。あの