まあVS以津真天で死霊による民間人殺戮ショーを肴に酒飲んでたのを見るに愉悦部の素養はあるっぽいし、いいか…。
銀座某所
日が傾きはじめ、空が茜色に差し始める夏空の夕暮れ。コンクリートによって打ち水がその場しのぎの納涼になって間もない華の銀座にキャリアウーマンが足を進める。
流行りのアイスコーヒーでも楽しむようには見えぬ神妙な顔持ちで喫茶店の扉を開ける。暖色系で揃えられた家具に壁紙、橙の明かりとは裏腹に、冷気が肌をすべる。
エアコンディショナー付きで話題の筈の喫茶店には客が一人。カウンターに店員の一人も居ない異様さに鳥肌が立つ。やはり電話をしたのは間違いだったろうか、いやしかし……
「おや、お待ちしていましたよ。ささ、こちらですこちら。」
テーブル席に座っていた長髪の巻き毛が声を掛ける。電話口と同じ声。依頼主はどきりとした。
「私の
テーブルの上を見る。湯気の立っているコーヒーの向かいには、青色の液体が残った氷の入ったグラスに、メープルシロップが残った皿が置かれていた。
「…ああ、東京の方に兄夫婦が居ましてね。偶然そこのお子さんの相手をしていたところなのです。」
その言を聞いてホッとした。座り姿勢でもわかる不気味な長駆でも、子どもをあやす心得はあったようだ。
「して、人探しということですが人相や最後に見かけた日時、わかることは全てお話していただけますでしょうか?」
話し方は古風だが、懐から出した革張りの手帳とボールペンを広げ、相手が現代人であることを確信した依頼人は話す。
探し人の名前は「田中岩子」であること。
赤毛の混じった黒髪でツリ目だが、人当たりが良く、茶目っ気のある声であること。
一週間程休むという達示があったが、いくらなんでも何も言わずに数ヶ月もいなくなるのはおかしいということ。
夫がいるらしいが、見たことは無いということ。
ふむふむふぅむと、唸りながら蘆屋は手帳に情報を書き込む。特に何も言っていないはずだが、パンケーキとソーダの残りが下げられ、ハイカラ志向のカフェにしては珍しい信楽焼のカップに入ったコーヒーが運ばれていた。
「分かりました、私の方でも調べてみましょう。して、人探しのお値段ですが…平均で1万から2万円の程となります。」
仰天した。依頼人や岩子はタイピストで、他の職業婦人よりは高給取りであることは自覚しているが、そのひと月分の給料が丸々かそれ以上消えるのは驚いた。興信所の相場というのはこれほどのものか、何分気になる程度でそんなお金は払えない。断ろうとしたその時
「ですが!相場もよくわからないままでの相談でしょうし、初回サービスも総じて1000円程でいかがでしょうか?」
また別の意味で驚く。相場の十分の一、情報を買うという点で見れば新聞3部程度の値段にまで落ちてしまった。これ以上無い破格の値下げだが………コーヒーを啜り長考した末、依頼人は首を縦に振った。
「かしこまりました、では今日のところはお開きとしましょう。お電話出来る場所と時間、番号も控えさせて戴きまする。まずは岩子さんのここ最近の動向、身辺調査からと行きましょう…ああ!追加のお代は頂きませんのでご安心をば、あなた様のお支払する御料金の計算も兼ねた職業柄必須な事柄故……ああ、こちらもお渡ししておきましょう。」
封筒を渡される。中をちらりと除くと、そこには百円札が3枚。受け取れないと返そうとするが
「良いんです、どうもふらふらと根無し草の生活が続いているためか金子を使う機会が無くてですね、お夕飯代にでも充てていただければ。では、これにて。進展と料金のお渡しが確定致しましたら再度連絡させて頂きます。」
興信所の女は席を立つ。引き止めようにも、立ち上がったその体躯を見て絶句してしまった。窓際で偉そうにしている男上司のそれよりもデカい。言葉を詰まらせているうちに喫茶店から出ていってしまった。追いかけようとするも、時間は経っていないはずがあの巨体の姿は、路から消えていた。
依頼人は、残ったコーヒーをぐいと飲み干し、不思議な現象に目を背けた。
◇
銀座駅ホーム
「さて、岩子…岩子。どこかで聞いたことがありますが…まあ、おいおい思い出せるでしょう。普通の失踪であれば容易いが……」
どうも、臭いますねぇ。
ゲ謎では「鬼太郎の母」名義ですが、従来シリーズに則って名前は岩子、名字は学生鬼太郎の偽名である「田中ゲタ吉」から。