黄金世代の白雪姫   作:サリエリキキ

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対決②

『東京競馬場、第11レース。ダート1600メートルで行われる、共同通信杯4歳ステークストキノミノル記念。出走馬は9頭。馬場コンディションは不良。15万人を越える多数の来場者が見守る中、かの幻の馬の名前がついた記念すべき重賞タイトルを手にするのはどの馬か? 芝のポケット部分からの発走、左回りコースを使用します……係員が離れました。さあ、9頭ゲートに収まって』

 

 曇り空の中ファンファーレに合わせて15万人の拍手が轟いてやむ。

 ホワイトグリントの武者震い。

 それを初めて目にした観客は、馬券師も競馬ファンもオグリキャップの娘のために戻った客も白馬に惹かれた新規の客も悟っていた。

 間違いなく凄いレースになる。

 間違いなく死闘になる。

 刮目して見なければ後悔する。

 

『各馬スタート。そろったスタート。出遅れた馬はいません。おぉぁっと、ホワイトグリント逃げない。逃げずに控えました』

【やはり、逃げ馬ではありませんか。逆に言えば、今からホワイトグリントは本来の走りをするということです】

 

 おおおおおおっ! 

 様々な感情が込められたどよめきが起こるが、その中で驚愕の感情は少ない。

 ホワイトグリントは逃げ馬ではないのではないか? 

 そんな疑問は、テレビやラジオや新聞で何時も話題になっていたのだから。

 だが、それでも驚愕の色が混ざっていた。

 何故ならホワイトグリントの位置は。

 

(やっぱり)

 

 15万人のどよめきを耳にしながら、的羽は予想通りに控えたホワイトグリントに諦観を噛み締めた。

 

 ホワイトグリントは──

 

 中団より少し前の位置に居た

 父オグリキャップの定位置に居た。

 エルコンドルパサーのすぐ後方に居た。

 エルコンドルパサーを見据える位置に居た。

 

 ──エルコンドルパサーをマークしていた。

 

『ホワイトグリント、マークしている。エルコンドルパサーを見据えた位置でマークしている』

【的羽騎手をマーク。いえ、ベテランの的羽騎手と駆引きを挑みますか。若手とはいえ沙藤騎手は腹を括っていますね】

 

(可愛くないなあ)

 

 鞍上と素直に従う馬両方が可愛くない。

 先輩への忖度とかそういうものが欠片も無い後輩は兎も角、馬の方は可愛らしい白馬なので敵でなければ可愛い。

 だが、ここでは敵な上、ここまで露骨に、人馬一体でお前を倒すとなられると可愛くなかった。

 戦術的には見事だからこそ可愛くない。

 自分も同じことをするからこそ、可愛くない。

 末脚勝負になればエルコンドルパサーではホワイトグリントには勝てないと、自分と同じく理解しているから可愛くない。

 互いの騎手の力量と馬の脚をある程度見透かさなければ、こちらをその出方を加味した射程圏内に置ける居る位置に控えられないから可愛くない。

 

 レース中でなければ、ベテランの自分と若手の沙藤が駆引きを成立させているから称賛したくなる。

 

(良い馬と巡り会えた騎手は成長するのが早いな。本当に)

 

『600mを越え先頭は5番ミツルリュウホウ、1馬身ほど開いて8番トウカンビリーフ、そのさらに2馬身後ろにショウナンワールド、そのすぐ後ろにエルコンドルパサー、ホワイトグリント、そして──』

 

 自身がどういう騎乗するのかをある程度沙藤に見透かされた的羽だが気にしない。迷いなく己のレースをする。

 それこそが勝ちにつながると理解しているから、迷わない。そのまま、脚を速めてホワイトグリントとの差を広めつつ先頭へ進んでいく。

 

『1000m越えてエルコンドルパサー。エルコンドルパサーがミツルリュウホウを抜かして、先頭に立った! 3馬身ほど離れてホワイトグリントが続く! タイムは57秒9のハイペース! このまま押し切るか』

 

 4角先頭。

 王道にして本当に強い馬しか許されない道をエルコンドルパサーは進む。

 

 

 

 

 

『直線前にっ! エルコンドルパサーに鞭が入ったぁ! ロングスパートだ! 速い速い凄い加速! まさに飛翔だ!』

【不良馬場のダートでこの加速。本当に強いです。4角先頭からの押し切りなんて本当に馬が強くなければ騎手はやりません。的羽騎手にさせるほどの馬なのでしょうエルコンドルパサーは】

 

 予想していた通りの流れとはいえ、ぐんぐん遠ざかっていくエルコンドルパサーの背中に沙藤は歯噛みした。

 

(化け物め)

 

 エルコンドルパサーの素の能力が想定以上だった。今の差は6馬身強。まだ射程圏内だが、このままでは直ぐに射程圏内を出てしまう。

 あの的羽騎手がスタミナを読み違えるはずがない。

 エルコンドルパサーはこのままのスピードでゴール板へ辿り着く。

 こちらは、直線には入った。残り470いや、460か。

 長い。

 幾らホワイトグリントと言えど長い。

 しかし──

 

 グイッ。

 

 此方の迷いを透かしたホワイトグリントがハミを噛み手綱に伝える。

 やれると。

 いこうと。

 

「よしっ! いくぞグリント!」

 

 愛馬の意思に応える。

 450m強。

 苦しいがやってみせる! 

 

『ホワイトグリントにも鞭が入るっ! 真っ向勝負だ! ──これは』

【まさか】

 

 馬蹄の響きが一際強まる。

 異次元の加速が沙藤徹三を襲う。

 

 抜群の体幹を駆使した走り。

 不良馬場のダートを物ともしないパワー。

 騎手を仰け反らせかねないほどの加速するスピード。

 瞬時にトップスピードに行く切れ。

 成長途上の今でさえ300mを超える距離を最高速で持たせる持続。

 それらを併せ持つホワイトグリント本来の末脚。

 

 今まで使うまでもなかった疾走を解放する。

 

『頭を低くして重心を下げて沈み込むような走り! 間違い無い! 父オグリキャップと同じ走りだ! 父オグリキャップ譲りの脚で白雪姫は疾走する!』

【また見ることができるなんて思いませんでした……受け継いでたんですね。あの脚を。オグリキャップの脚を】

 

 ──ああ、オグリキャップの走りだ。

 ──また、みれるなんて

 ──その子供がみせてくれるなんて

 ──ホワイトグリントが夢をまた続けてくれたんだ

 

 わあああああっ!? 

 

 オグリキャップ()の走りに爆発する大歓声。

 泥のような砂を白馬がものともせずに突き抜けていく。

 かつてその父がそうだったように、一歩一歩確実にかつ迅速に詰めていく様は疾走の名が相応しい。

 

 

 

 

『残り400m! 飛翔するコンドル! 疾走する白雪姫! 後続は来ない! この2頭で決まる!』

【清々しいくらいです。どちらの騎手も潔い。四角先頭からの押し切りと駆け引きの末の末脚勝負。どちらも自分達の競馬をしている。そうであれば愛馬は負けないと確信して競馬をしている】

 

 ドドド

 

 一頭の馬の馬蹄とは思えない腹に響く、地響きさえ起こしているようかの音が耳に届く。

 オグリキャップそのものが帰ってきたとしか思えない音が4馬身は離れている此処まで響く。

 

(オグリキャップと同じ走法。いや、戦術とはな)

 

 速い

 力強い

 切れる

 あの体幹の良さにオグリキャップの走法が加わることで、敵で無ければ末脚の見本として教科書に乗せたいほどの脚だ。

 予想よりもホワイトグリントの末脚が良いことに的羽は歯噛みした。

 オグリキャップと同じくらいに良い。だからこそオグリキャップの戦術が取れる。

 

(沙藤のやつ、狡いじゃないか)

 

 オグリキャップの戦術とは、他馬と駆引きして射程圏内の位置を取り維持して秀でた末脚で真っ先にゴールするに尽きる。

 競馬として極めて見栄えがする上に、戦術としても強い。

 全盛期の頃は無論、あの伝説のラストランもこの戦術に忠実だったからこその勝利だと的羽は見ている。

 この戦術は一見ありきたりに見えるが、実は極めて稀だ。

 他馬と駆け引きして射程圏内の位置を取り維持するには、動じぬ精神力と類稀な勝負根性が。

 そこから抜けるには、優れたパワーと瞬発力が。

 真っ先にゴールする末脚には優れたスピードとタフさが。

 それら全てを行うには、騎手の手綱に素直かつ直ぐに従う操縦性が高い乗りやすさが必要だ。

 特に、最初の動じぬ精神力と類稀な勝負根性と最後の操縦性が高い乗りやすさを併せ持つ馬──調教せずそのまま乗馬用の馬になれるほどの馬は極めて少ない。

 上記全て併せ持つ馬はオグリキャップ一頭だけだった。

 

 そして、的羽のようなレース全体を見て射程圏内を把握しながら馬を走らせられるほどに優れた騎手にとって重要な事は、全て併せ持つオグリキャップほど乗りやすく楽しい馬は居ないということだった。

 竹優が乗りやすい馬の代表として出すほどの馬だった。

 

 過去形だった。

 今までは。

 その娘が出てくるまでは。

 逃げ馬を怪しまれつつも、実際はどうなのか疑われていた娘が──

 

 ──その、本来の走りを見せるまでは。

 

(その馬よこせよ!! 凄く乗りやすくて楽しいだろ、そいつ!!!)

 

 テレビや競馬場のモニターでレースを見る腕利きの騎手達が口に出すか内心で叫んだ言葉を、的羽はエルコンドルパサーを完璧に追いながら内心で思わず叫んでしまった。

 

 

 

 

 

 

『東京の坂をものともしない! ホワイトグリント伸びる! 伸びていく!』

 

 一歩一歩ごとに2馬身まで詰めたエルコンドルパサーに追い付いていく愛馬の末脚。

 沙藤は思わず笑みが浮かんでしまう。

 ホワイトグリントに乗るのは楽しい。

 体幹が良く揺れがほとんどない上にコースを決めると真っ直ぐ走ってくれるのも楽しい。

 極めて高い身体能力と優れた脚を持っているのも楽しい。

 風圧のあまり仰け反りそうになるほど加速してくれるのも楽しい。

 仕掛けどころまで我慢して耐えてくれる意思の強さも楽しい。

 頭を低くして重心を下げて沈み込む走法をすると抜群の体幹により走り心地が柔らかくなるのも楽しい。

 何よりも、こちらの意思に素直に従ってくれる抜群の操縦性と、頭が良いため催促しつつも仕掛けどころの判断を全て預けてくれる全幅の信頼が嬉しい。

 本来ならゴーサインに鞭はいらないのだ。

 鞭無しでもホワイトグリントは全力で走ってくれる。

 でも、打たないと寂しがり悲しみ嘆き絶望して裏切られたような目でこちらを見てきながら拗ねるので打っている。

 そんな、かなり、いや、完全無欠なドマゾなホワイトグリントは乗りやすくて楽しくて嬉しい。

 追いつける。

 残り150mで追いつき抜かせる。

 そこで末脚は尽きるが、抜かしたまま先にゴール出来る

 

『残り200! 坂が終わる! 外ホワイトグリント内エルコンドルパサーに追い付くっ!』

 

 沙藤の読みは正しかった。

 それを読んでいた的羽がエルコンドルパサーに余力を持たせてなければ正しかった。

 視界の中で並びかけたエルコンドルパサーに追いムチが入った。

 

 

 

 

 

『追い付いたところでエルコンドルパサーの二の脚! 差し返したぁ!』

 

(あんな乗り方があるのか) 

 

 それを見た沙藤は思わず感心してしまった。

 的羽騎手は、ホワイトグリントの末脚がエルコンドルパサーに勝ると見込んだ上で東京の坂を上り終えた所でエルコンドルパサーが少しの間加速出来るようにレースを展開した。

 そうすれば後の平坦なダートは凌げると見込んだ。

 その見込み通り、ホワイトグリントには末脚と呼べるほどの加速はもうほとんど出来ない。

 今のホワイトグリントとエルコンドルパサーの速度はほぼ同じスピード。

 的羽騎手がそうなるように導いたエルコンドルパサーは、間違いなくこの速度でゴール板を通過する。

 だから、ホワイトグリントには半馬身前に出たエルコンドルパサーを抜かすことは到底出来ない。

 ベテランの優れた騎乗に沙藤は敬意を抱いた。

 その余裕が有るからだ。

 確かにホワイトグリントの末脚はほとんどない。だが、問題ない。

 的羽にホワイトグリントの末脚がもう残り僅かになるようにさせられたが、こちらには切り札がある。

 

(ウチのグリントはドマゾやぞ)  

 

 エルコンドルパサーと駆け引きしてからの身体を酷使する末脚の苦しみ痛みでホワイトグリントは一杯一杯だ。

 そこに鞭を入れる。

 ばんえい馬のような重種馬に使うのかと尋ねられた特注の鞭を入れる。

 ホワイトグリントが一番痛みを感じる打ち方で鞭を入れる。

 他の馬ならば、痛みのあまり暴れ出し騎手を振り落とすだろうが、ホワイトグリントは違う。

 

 一際強い加速が沙藤の全身を包む。

 

 全身をこれ以上なく苛む苦痛の中、一際強い激痛に満面の笑顔になったホワイトグリントは《その先》に入った。

 

 

 

 

 

『ホワイトグリント、笑顔になったっ! ホワイトグリント差し返す』

 

(なんだと!?)

 

 有り得ない姿に的羽は驚愕する。

 道中思い通りに走った。

 最後の直線も思い通りだった。

 ハイペースの先行押し切りロングスパートで叩き潰すレースを構築した。

 確かに、ホワイトグリントの末脚は的羽の予想を超える凄まじさだった。

 だが、それが誤差になるように、こちらと駆け引きしたホワイトグリントが息を入れにくいレースを最初から展開した。

 だから、ホワイトグリントの末脚はもう残っていなかったはずだ。

 なのに、なぜあんな末脚が残っていた!? 

 スタミナの残量は勿論、疲労と苦痛のあまり末脚が残りようがない状態に持ち込んだのに! 

 だが、今、現実に、ホワイトグリントは一時的に加速してエルコンドルパサーの前に出ている。

 流石にすぐにエルコンドルパサーと同じ速さにまで落ちたが、そんなことは何の慰めにもならない。

 エルコンドルパサーもこれ以上は末脚が無い。

 これ以上速く走れない! 

 

(駄目だ。クビ差で先にゴールされる)

 

 的羽はそれが分かってしまう己の熟練を初めて呪った。

 だが、それで良いかもしれない。

 エルコンドルパサーにこれ以上は無理をさせなくて済む。

 このレースはG1ではない。

 

 ──勝ちたい

 

 そこまで獲るのに必死にならなくていい。

 2着で賞金を上積みすれば、エルコンドルパサーはオープン馬になり次が拓ける。

 

 ──隣の雌に勝ちたい

 

 まだ成長出来るエルコンドルパサーにこれ以上無理をさせる必要なんてない

 

 ──だから、鞭を

 

 だから、2着で

 

 ──鞭をくれ

 

「──────っっっ!!??」

 

 手綱越しにその意思が伝わる。

 エルコンドルパサーは諦めてない。

 ホワイトグリントに勝とうとしている。

 自分の力だけではこれ以上加速できない。

 だから、加速させてほしいと求めている

 ならば騎手として、これほど意思疎通出来る愛馬に対して出来ることは只一つ

 

「いけっ! エルコンドルパサー!」

 

 的羽の左鞭で、エルコンドルパサーは再度飛翔する。

 

『ホワイトグリント前に出てっっっ!!?? え、エルコンドルパサー!!??』

 

 意地によって飛翔する。

 そう、意地だ。

 一目惚れした。

 初めて雌に惚れた。

 そんな雌と走るのだから意地がある。

 惚れた雌よりも速く走りたい雄の意地。

 惚れた雌にはカッコいいところを見せたい雄の意地

 惚れた雌に自分の脚が素晴らしいと示したい雄の意地。

 馬の本能に根差した意地がある。

 

 その意地をもって鞍上の鞭に応える。

 

『エルコンドルパサー差し返す。再度! 再度っ! クビ差! クビ差前にでたっ!』

【これは、決まったっ!?】

 

 

 

 

 意地の力で前に出たエルコンドルパサー。

 加速できたのはほんの一瞬、その脚は直ぐに速さを戻す。

 ホワイトグリントと同じ速さに! 

 そして、《その先》すらも使いきったホワイトグリントにはもう加速する余力がない

 エルコンドルパサーが一瞬加速して抜かれた差を、クビ差を詰めることが出来ない。

 

(負けた──クビ差届かん。先にゴールされる)

 

 沙藤はホワイトグリントに乗って初めて敗北感を抱いた。

 それは、絶望感の混じった悲しみでもあった

 ホワイトグリントの鞍上を奪われるかもしれない。絶望感の混じった悲しみだった。

 瀬戸内は断っているが、栗東の中堅より上と美浦の上位騎手ほぼ全員がホワイトグリントの鞍上へ熱烈な営業をかけていることを知っている。

 エージェントや騎手本人の売り込みを何度も見聞きしたのだから。

「一戦。沙藤が一戦でも負けたら僕を考えてみてください」騎手は依頼が来るまで待つスタイルであるあの竹優でさえ、そんな売り込みをしていた。

 オグリキャップのラストランを共にした竹優に愛娘ホワイトグリントの鞍上を。

 そんな声は、報道だけではないJRAからすらも漏れている。

 若手の沙藤に味方してくれているのは、引退を控えた騎手と師匠と良く依頼してくれる調教師数人と瀬戸内や北野オーナーたちホワイトグリント陣営だけと言っていい。

 逃げ馬がどうか疑われ乗りにくそうに見られていた時ですらこれだ。

 ホワイトグリントの本来の走りを見せた今、オグリキャップと同じく乗りやすい馬と見なされた今では更に鞍上交代を皆熱心に推すだろう。

 クラシック前のこの敗北は致命傷になりうる。

 本番前に鞍上強化を、と。

 

(ごめんな。グリント)

 

 全力で追いながら沙藤は悲しみを込めて手綱越しにホワイトグリントに謝った。

 その悲しみは愛馬に伝わった。

 

 

 

 

 

 

 まける。

 ごしゅじんが悲しんでる

 ごしゅじんだけじゃないみんなが悲しむんだ

 オーナーさんも

 ごすずんも

 じょーちょーさんも

 いーさんも

 まこさんも

 みっさんも

 優しい周りのみんな

 みんなが悲しむっ

 

 まけたくっないっ

 

 悲しむみんなを見ちゃう

 

 それは心が苦しい

 

 でも

 

 それは心が痛い

 

 でも

 

 

 

 でもっっっ──

 

 

 

 ──ぜったいにっっっっ、きもちよくないっっっっっ!!?? 

 

 

 

 不屈の血脈が躍動した

 

 

 

 

 

 

 

 勝った。

 白馬の満面の笑顔が視界から消えた的羽は確信と共に渾身で追う。

 差し返されるとは思いもしなかった。

 再度、差し返せたのは自分の手柄ではないエルコンドルパサーの手柄だ。

 エルコンドルパサーの意思がもたらした勝利だ。

 文字通り力を振り絞ってくれた。

 

ドドド

 

 その献身に応える。絶対に。

 死力を尽くしたエルコンドルパサーに可能な限り負担を与えずにされど渾身で追う。

 このまま、進めば勝つ。

 クビ差で勝てる。

 

ドドドドド

 

 絶対に。献身に応える。絶対に。

 勝つんだ。

 

ドドドドドドドド

 

(──ああ、クソッ)

 

ドドドドドドドドドド

 

『ホ、ホワイトグリントっ! また──』

【信じられないっ! 本当に何て──】

 

(脚だけでなく、不屈なところまでオグリキャップそっくりかよ)

 

 あきらめない。

 限界を越えてもあきらめない。

 ただ、それだけがこんなにも恐ろしい。

 

 ドドドドドドドドドドドド

 

 耳に届く一際力強い馬蹄音がこれまで以上に強くなり。

 白馬の満面の笑顔が視界に再度映った。

 

 

 

 

『また、差し返っ! ──いや、並んだ所がゴール板! 2頭並んでゴールした! これは分からない! かなり遅れて、ハイパーナカヤマ、ミツルリュウホウがゴールしたが、1着2着は全く分からない。残したのかエルコンドルパサー! 差したのかホワイトグリント!』

 

「ま、的羽さん、的羽さん」

「おお、お疲れ、池之っっぷ、悪いまだ戻らんわ」

「そんな……」

「しんどいわあ」

 

 あまりの決着に、ゴールと同時に大観衆が絶句した競馬場は静寂に包まれた。

 言葉を戻した観客の声が起こすざわめきの中、トウカンビリーフに乗った同じ美浦の後輩騎手が身体を休めるのに精一杯なエルコンドルパサーを優しく撫でる的羽に近づき話しかけた。

 

『掲示板に映し出されたタイムは1分34秒1! 紛れもなくダート1600mの日本レコード! 不良馬場とは信じられないレコードタイム決着! 2着と3着との差は何と大差以上! しかし、1着と2着の差はおそらくセンチ単位でしょう!』

 

「残した残したんですよね」

「…………ああ、そうだ。残したよ」

「や、やっぱり、勝ったんですね。流石は、的羽さん。さすが──」

 

 馬主席で、愛馬の死闘にテーブルに乗り上げてガラス窓に貼り付きながら絶叫して応援していた北野・渡辺オーナーが、その姿勢だけを通常の物に戻し乱れきった格好のまま結果を見守る中、話は進む。

 

『残り200mから差し返し差し返しのレース! とてつもないレースをしましたホワイトグリントとエルコンドルパサー! まさに死闘でした!』

 

「──って、言えたら良かったんだけどな」

「──え?」

 

 両方の調教師が念の為に馬運車を要請する中、話は進んだ。

 

『い、今判定が出ました』

 

「ホワイトグリントの奴、最後の最後で前に出やがった」

「そ、それじゃ」

「「…………」」

 

 騎手二人が沈黙するとともに、ざわめきが大歓声と拍手に変わった。

 

『ホワイトグリントです。ハナ差でホワイトグリントです! エルコンドルパサーとの死闘を制し共同通信杯を獲りましたホワイトグリント!!』

 

「お疲れさんエルコンドルパサー。本当にお疲れさん。あぁ」

 

 オグリキャップの奴、とんでも無い娘を出しやがったな

 

 同じく休むのに精一杯のホワイトグリントに美浦の後輩騎手が戦慄の視線をむける前で、エルコンドルパサーを優しく撫でながら的羽は苦笑した。

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